シェフ版のWeWorkで“飲食店経営のサービス化”へ――favyがマイナビから10億円を調達

“飲食店が簡単に潰れない世界”の実現に向けて、食領域で複数のサービスを展開するfavy。同社は9月25日、マイナビを引受先とした第三者割当増資により約10億円を調達したことを明らかにした。

favyと言えば6月に約5億円を調達したばかり。そこからわずか数ヶ月で新たに10億円もの資金を調達したことになる。

マイナビとは事業面で連携を深めて飲食店向けのサービスを一気に拡大していく狙いもあるが、どうやら調達した資金を基に新サービスを含むサービス群の拡充と、いわば“シェフ版のWeWork”とも言えるシェフ向けのコワーキングスペースの開発に力を入れていくようだ。

マイナビとのタッグで営業網を一気に拡大

以前から紹介しているように、favyの事業は幅が広い。

月間閲覧者数が6700万人を突破したグルメメディア「favy」を始め、簡単にホームページが作れる「favyページ」やサービスEC「ReDINE」といったWebサービスに加え、自ら飲食店も経営している。

現在もさらなるラインナップの拡充を進めていて、つい先日にはキッチンも客席もシェアするレストラン「シェフのためのコワーキングスペース」を今秋銀座にオープンすると発表したばかり。また本日より前回取り上げた飲食店向けのMAツール「顧客管理ツール」と、favyの導入店舗へ食材や調理器具、サービスを紹介できるプラットフォーム「favy store」の提供も始めた。

冒頭でも触れた通り、favyにとって今回の資金調達のポイントのひとつはマイナビとタッグを組んだことだろう。今年に入ってぐるなび×楽天食べログ(カカクコム)×KDDIRetty×ヤフーといったように、グルメサービスを提供する各社と他業界の大手企業が連携を深めている。

favyのパートナーはマイナビということになったが、特に営業面でプラスの影響が大きいようだ。同社代表取締役社長の髙梨巧氏によると、すでに「マイナビバイト」を運営するマイナビのアルバイト情報事業本部とfavyのサービスの販売協力トライアルを都内で始めているそう。

これまでfavyでは東京と大阪の2拠点で営業を進めていて、顧客となる飲食店もその2地域が中心だった。そこに営業体制1000名以上、60を超える拠点をもつ同事業部のリソースが加えることで全国の飲食店へfavyのプロダクトを一気に広げる計画だ。

高梨氏いわく「B2BのSMB(中小企業)向けのプロダクトは泥臭い営業活動が重要」であり、「現在約50人体制の社内営業チームを大幅に強化し営業の面を作ることで、プロダクトの拡充だけでなく飲食店とのマッチングを進めていく」という。

また採用面に強みを持つマイナビと飲食店向けの採用ブランディングサービスを共同開発し、飲食店の人手不足に関する課題の解決も目指す。

ソフト領域のサービス拡充とハード領域への進出

並行して、調達した10億円を使ってfavyはこれからどんなことに取り組むのか。鍵となるのは「ソフト」と「ハード」という2つの軸だ。

favyではこれまでSaaSのような形で、飲食店の“集客”の課題を解決するプロダクトを軸に展開してきた。本日より提供開始となったMAツールもまさにこの領域のサービスだ。

今回マイナビとタッグを組むことで採用面でのプロダクトも今後強化できるだろうし、多くの飲食店をサポートしたり直営店で貯めたナレッジを活用したりすることで、メニュー開発や企画の面でも飲食店を支援できるだろう。

これまでサービスの拡充を図ってきた中でソフト領域がある程度整ってきたからこそ、「ハード領域にも積極的に取り組んでいくフェーズ」(高梨氏)に変わってきたのだという。

それに向けた動きのひとつが本日スタートしたfavy storeだ。ここには飲食店の「仕入れ」をサポートするプロダクトで、食材はもちろん、調理器具、家具、ユニフォーム、清掃、予約サービス、店舗BGM、アプリなど飲食店経営に役立つツールが掲載される。

メーカーなど出店する企業にとっては、favyを導入する全国3万店舗以上の飲食店に掲載料無料で自社の商品を紹介できるのがメリット。高梨氏によればこのサービス単体で収益化を図る意図はないそうで、サービスの利便性が増した結果「飲食店がfavyを選ぶ理由になればいい」と話す。

まずは100以上のストアがサービス上に並ぶことを目指していて、調達した資金の一部はこのfavy storeやMAツールのシステム開発、エンジニアの採用強化に用いる。

WeWorkがオフィスをサービス化したように、飲食店経営もサービス化

そしてもうひとつ、favyが資金を投じて取り組んでいるのが、シェフが料理だけに集中できる新しい形態のコワーキングスペース兼シェア型レストランだ。

「WeWorkがオフィスをサービス化したのと同じようなことを、飲食店でもできるのではないかと考えている。シェフが自分で飲食店を構え、運営するにはかなりの初期コストがかかる。料理を作る以外の部分をフルセットでサポートすることで、飲食店経営をサービス化したい」(高梨氏)

高梨氏の話す通り、favyのコワーキングスペースではシェフが起業する際の課題となる「出店コスト」「スタッフの採用」「集客ノウハウ」が必要ない。

見た目は1つの飲食店に見える約120坪(120席ほどを予定)の店舗のキッチンには5人のシェフが滞在でき、それぞれに調理機材と収納スペースが用意。客席はもちろん、ホールスタッフも5人でシェアをする(スタッフはfavyが採用)。集客面でもfavyのグルメメディアと、同社が培ってきたナレッジを用いたサポートを受けられるのが特徴だ。

キッチンに立つシェフは定期的に入れ替わり、某アイドルグループの総選挙のように来店者が飲食店を評価し、ランキング化される仕組みを考えているそうだ。

「スタートアップ的な表現をすると、シェフがもっと簡単にPMF(プロダクトマーケットフィット)を図れるようにしたい。一度自分で飲食店を始めると、ピポットをするのも難しい。最初に初期コストを抑えて色々と試し、コアなファンができた段階で自分の店舗を持てばリスクも少ない」(高梨氏)

高梨氏によると以前から飲食店経営のサービス化の構想やシェフ向けのコワーキングスペースのアイデアがあったそう。これまでの期間は、そこに必要なモジュールをひとつずつ仕込んでいた段階だったと言えるのかもしれない。

favyでは今秋を目処に第一弾となるスペースを銀座にオープンする計画。「1拠点を作るのにけっこうなコストがかかる」(高梨氏)そうで、急激に多拠点展開をするという訳ではなさそうだけど、今後全国に同様のスペースを広げていきたいという。

飲食店の経営をデジタル化し、ECのように効果測定できる環境へ——「favy」が5億円を調達

favyの役員と株主一同。写真中央が代表取締役社長の髙梨巧氏

「どうやって飲食店というビジネスとデジタルを融合していくか、『飲食店の経営のデジタル化』をテーマに事業を進めてきた。特に正確な経営判断に必要なデータ基盤を作るというのは創業時から決めていたこと。ようやく、やりたかったことの本丸の領域に入っていける段階になった」——favy代表取締役社長の髙梨巧氏は、同社の現状についてそう話す。

グルメメディアや飲食店向けツールなど、食の領域で複数の事業を展開してきたfavy。同社は6月11日、Draper Nexus Ventures、アプリコット・ベンチャーズ、みずほキャピタルを引受先とした第三者割当増資と、日本政策金融公庫の資本性ローンに基づく融資により、総額約5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

favyでは調達した資金をもとに新規事業となる飲食店向けMA(マーケティング・オートメーション)ツールの開発のほか、グルメメディア「favy」やサービスEC事業「ReDINE」 の拡充に向けて組織体制を強化する。

同社は2017年3月に環境エネルギー投資、サイバーエージェント・ベンチャーズ、みずほキャピタル、個人投資家より総額約3.3億円を、2016年4月にみずほキャピタルとサイバーエージェント・ベンチャーズから総額1億円を調達している。

飲食店がデータを収集し、有効活用できるシステムを作る

favyはちょっと変わったスタートアップかもしれない。

グルメ領域のメディアや飲食店向けのサイト作成ツール「favyページ」など複数のWebサービスを展開する一方で、「飲食店ABテスト」というリサーチサービスを作ったと思いきや、完全会員制の焼肉屋定額制のコーヒースタンドなど、新しいモデルの飲食店を立ち上げたりもしている。

もちろん各取り組みごとに狙いや役割はあるのだろうけど、創業時から髙梨氏がやりたかったことは変わらないという。それがこれから始める飲食店のMAツールも含め、冒頭で紹介した「飲食店の経営のデジタル化」の実現であり、そのために不可欠な基盤作りだ。

「レジの情報や予約の情報も有用だが、多くの飲食店にとってそれだけでは基盤としては物足りないと考えていた。売り上げが増えたとしても『それがどんな顧客なのか、何の影響で来店したのか』と言ったことがわからなければ次に繋がらない。何に投資をしたらどれだけのリターンがあったのか、きちんと効果測定できるようなデータとシステムが必要だ」(髙梨氏)

たとえばfavyが運営する焼肉屋「29ON(ニクオン)」では完全会員制とすることで、1人あたりの来店率やLTV(顧客生涯価値 : 1人の顧客が生涯に渡ってどれくらいの利益をもたらすかを算出した数値)がわかる。これによって「飲食店でも健康食品や単品通販と同じようなマーケティング手法が使える」(高梨氏)という。

「自社店舗で試すうちに必要なデータをトラッキングさえできれば、それを活用することで売り上げを伸ばしていけるという手応えをつかめた。さらに言えば、どのようなデータをトラッキングするべきか、どういった形でデータが取れれば使いやすいかもわかってきている。これらの仕組みを他の飲食店でも使えるようにシステム化したのが、飲食店向けのMAツールだ」(髙梨氏)

高梨氏はもともとネット広告代理店のアイレップ出身。同社ではSEO、SEM分野の立ち上げを担っていた。「Google アナリティクスの登場でWebサイトの効果測定や改善が簡単になった」ように、飲食店にも同様の仕組みが必要だという。

月間閲覧者6000万人超えのメディアfavyと連動

現在開発を進めるMAツール(飲食店向けには顧客管理ツールと紹介しているそう)は、favyの直営店で約1年前からテストを重ねてきたもの。2018年夏頃のリリースを目処に、5月にはテスト版をリリースしている。

開発中のMAツール。画像はテスト版のTOP画面

このツールでは顧客の予約経路やグルメメディアfavy内における行動データなどから、マーケティングに必要な情報を自動で収集、分析。店舗への来店誘導、集客施策に活かせるほか、予約管理や顧客管理に関する業務を効率化する機能、無断キャンセルを防ぐための前日確認を自動化する機能なども備える。

興味深いのは月間閲覧者が6000万人を超えるfavyで蓄積されたデータと連携している点だろうか。

高梨氏の話では、このデータを活用することで「来店したことのないユーザーも含めて、お店の見込み客が見える化できる」という。たとえばラーメン屋の記事に興味を持っているユーザーのデータとエリアのデータを組み合わせ、「新宿のラーメン屋だと、これくらいの見込み客がいる」と把握できるようなイメージだ。

テスト版の顧客管理画面

もちろん飲食店向けのMAツールと言っているように、来店頻度が下がっているユーザーへ広告やはがきを自動で送ったりなど、見込み客に対する集客施策を自動化することもできる。

飲食店向けのSaaSとしてさらなる進化を

今回の資金調達を踏まえ、favyでは組織体制を強化しMAツールや既存事業の開発、機能拡充を進める方針。MAツールに関しては他サービスとの連携にも取り組んでいくという。

また高梨氏によると、今後目指しているのは飲食店向けSaaSとしての展開。詳しくはまだ言えないとのことだが「集客の機能をより掘り下げていく深さの部分と、それ以外の領域へラインナップを広げていく幅の部分」の2軸でサービスを拡張していく計画のようだ。

「飲食店の経営のデジタル化を通じてやりたいのは、飲食店が簡単にはつぶれない世界を作ること。『デジタル化』というのは、広告手段が増えるとか、効果測定ができるというだけでなく、考え方がアップデートされるという意味もある。自社でも直営店を経営していて飲食店の仕組みとデジタルなマインドを融合することの大変さを痛感しているが、(favyの事業を通じて)飲食店の経営をサポートしていきたい」(高梨氏)

グルメ情報まとめサイトなど展開するfavyが1億円を調達、飲食店を使った“リアルABテスト”を展開

FAVY

飲食店向けのウェブサイト作成サービス「favyページ」、そしてMAU(月間アクティブユーザー)150万人グルメ情報のまとめサイト「favyまとめ」、さらには飲食店の「C by favy」を展開するFavyは4月18日、みずほキャピタルおよびサイバーエージェント・ベンチャーズが運営するファンドを引受先とした総額約1億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今回調達した資金をもとに経営基盤の強化を図るとともに、新サービス「飲食店ABテスト」の提供を開始する。

飲食店ABテストとは、いわばオンラインのABテストのリアル版とも言えるサービスだ。飲食店に来店したユーザーに対して、クライアントの商品や原料を利用した料理などを複数体験してもらった上でアンケートに答えてもらい、商品名の是非や品質・強みの把握、適性価格を探ることができるマーケティングリサーチサービス。

これまで生産者・産地・メーカーによる商品テストでは、実店舗でリアルな消費者の意見を集めることは難しかったとfavyでは説明する。また一方で、飲食店は収益を営業収益(つまり飲食の提供)に頼っており、曜日や天候によって差が生まれて安定した収益の確保が難しい状況だったという。

だがこの飲食ABテストでは、生産者・産地・メーカーの商品を提携する飲食店に提供。favyが商品企画・開発、商品テスト、宣伝・拡販などで支援を行いつつ、来店したユーザーに対してABテストとして料理を提供する。その後アンケートを回収。消費者の声を元に商品の戦略を練り、販売時にはfavyページなどでネットワークを持つ飲食店に商品の提案などを行う。また飲食店ではタイアップ商品のアンケートを行うことで、営業外の収益を得ることが可能になるという。

冒頭にあるようにfavyでは東京・新宿に飲食店も展開していることから、2月から試験的に取り組みを進めていた。C by favyではこれまでに、生パスタと乾麺の比較や、国産ワインと通常の海外産ワインの訴求力の違いなど、いくつかのテストを行っている。

「ABテストの狙いは、飲食店に営業外収益的な新たなキャッシュポイントを作ること。そのために飲食店という場を他のビジネスに活用できないか検討した結果、行動観察型のリサーチの場として転用できることに気付いた。それを飲食ABテストというサービスメニューとして磨いてきた」(favy代表取締役の高梨巧氏)。favyでは年内に提携100店舗でのアンケート調査の実現を目指す。