Foxconnは190億ドル分の工場建設を中止、競争力と長期的投資のバランスは?

Foxconnが世界的に事情縮小を進めるペースはわれわれが想像していたよりずっと速かった。昨日(米国時間1/30)、TechCrunchはFoxconnがウィスコンシン州に建設予定だった100億ドル規模の工場建設をキャンセルしたことを報じた。ウィスコンシン州政府は大混乱に陥っているようだ。これに加えて、Nikkei Asian Reviewが入手した内部文書によれば、Foxconnは広州の90億ドル規模の工場建設も延期する方針だという。その原因として貿易戦争の激化とマクロ経済の減速に対する懸念が挙げられている。

われわれは昨日の記事でマクロの経済環境の影響について論じたが、Foxconnのドラスティックな規模縮小の決断を理解するには製造業のフレキシビリティーに関する考察が必要になりそうだ。

数週間前、私はFictivのファウンダー、Dave Evansにインタビューした。Fictivはファブレス製造を請け負うスタートアップだ。 Evansによれば「製造業のクラウド化と考えていい。AWSやロードバランシングサーバーを使うのと同様、需給に応じてダイナミックにスケールアップしたりスケールダウンしたりできる」のだという。

政治的環境が急速に変化し、消費者需要の予見も難しい現代では、「製造業には何より柔軟性が必要だ」とEavansは強調した。「地政学的条件の変化に対応できるほど機敏なサプライチェーンを構築する方法についてまだ誰も語っていない。サプライチェーンの確立には数年、場合によって十年以上もかかることもある。しかし政府の政策、各種の貿易取り決めを考えると四半期レベルの対応速度が必要だ」とEvansは述べた。

「強固な基盤の上に事業を構築したければ、強固なサプライチェーンを構築する必要がある。トランプ大統領がツイートするたびあちこちに吹き飛ばされるピンポン玉にはなりたくないだろう」とEavansは語った。前回の記事で指摘したように、アメリカの製造業の復権を妨げている最大のハードルはこの規模の柔軟性の欠如だ。

製造規模を機敏に変更できる点が長年中国の製造業の優位性をもたらしてきた。事情をよく知る知人によれば、「中国の製造業で最大の強みは、深シンセンや広州で最近発展したエコシステムではなく、工場を一週間で数万人規模で拡大縮小できることだ」という。

中国経済において単なるメーカー以上の巨大な存在となっているFoxconnは事業規模の柔軟性の重要さについて知り尽くしているはずだ。Foxconnには発注者の需要に対応して即座にパーツや完成品を何百万という単位で提供し、あるいは提供を止める能力がある。成長計画が実情に合わないと見てとれば即座に修正する。これはウィスコンシン州には大損害をもたらしたが、アメリカが外国製品との競争で遅れを取ってきた大きな理由が柔軟性の欠如だ。

競争力の維持と長期的投資を両立させるというジレンマ

東京における重要な鉄道ターミナルであり商業センターでもある渋谷地区は民間企業の東急が運営の重要な役割を担っている。

競争は資本主義に必須の要素だ。激しい競争があればそれだけ価格は下がり、消費者は利益を得る。われわれが独占を防止するさまざまな規制を設けているのはそのためだ。

しかし同時に、競争は皆が小さなパイを奪い合うという副作用をもたらしがちだ。今の売上が今四半期の決算に直接反映される。目先のサバイバルと利益率が何より大事になると長期的な投資は後回しになってしまう。収入はマーケティングと営業に回され、研究開発や企業の将来のために投資されない。

これが競争にまつわる巨大なジレンマだ。競争が足りなければ非効率が温存される。しかし、われわれの直感とは逆に、独占はイノベーションの生みの親となってきた。現代のGoogleやMicrosoft、以前のXeroxのパロアルト研究所やAT&Tのベル研究所はわれわれの生活に大きな影響を与える新しいテクノロジーを無数に育ててきた。独占に支えられた強固な経営基盤と長期的なビジョンがこうしたイノベーションを生んだ。

ここで興味あるのは、世界の鉄道の民営化の成功と失敗を分析したFinancial Timesの長い記事(有料)だ。要約すれば日本は民営化と顧客満足度の向上の双方を成功させたが、イギリスでは民営化後、料金が上昇して運行本数が減った。 逆にスイスの鉄道は模範的に運営されているが完全に国有企業だ。

どうしてこういう差が生まれたのだろうか?

スイスと日本という成功例に共通しているのはシステム志向だ。つまり「鉄道企業」だからといって物理的な鉄道だけが事業の対象ではないことを両国は理解していた。日本の鉄道企業は広大な土地を保有しており日本有数の不動産デベロッパーでもある。鉄道の利用者が増えれば、駅やその周辺に建設されたショッピングセンターの利用者も増える。鉄道とショッピングセンターの所有者が共通であるためにこういう循環が生じる。

しかし独占は独占だ。事業を分割して競争させればもっと利潤を消費者に還元できるのではないか? しかし日本の鉄道事業者は沿線に広大な土地を所有しているため鉄道ビジネスの長期の繁栄のためには沿線の繁栄が欠かせないという事情にあった。Financial Timesの記事によればこうだ。

東急電鉄は東京西部のもっとも人口の多い郊外に路線を持つ私鉄だ。取締役の城石文明氏は、 「東急の沿線は魅力のある住宅地だ。われわれは 若い世代が将来にわたってこの沿線を好み、住み続けてくれるよう全力を挙げている。なるほど日本では今後人口増は見込めないだろうが、鉄道事業において勝者と敗者は生まれるだろう。人々は便利な場所に集まる。つまりある沿線では人口が30%増えるのに対して、別の沿線では70%減るというような事態が予想される」と述べた。

つまり競争はここでも存在する。ただ非常に長期的なスパンの競争だ。東急電鉄のような会社は時刻表どおり電車を走らせることだけが事業の最終目的ではないことを理解している。人々が生活の基盤としてどの沿線を選ぶかという非常に重要な決断が電鉄企業のパフォーマンスにかかっているのだ。同時に沿線環境を高いレベルで維持すれば電鉄会社は投資の元を取ることができるという点も考えねばならない。

今日の多くのスタートアップが直面する課題の中でも、長期的投資をどうするかはもっとも重要かつ困難なものだと私は見ている。いうまでもなく競争は激しい。キックスクーターのスタートアップを立ち上げた、と思った瞬間に情勢が激変し、数々の難題が降りかかる。長期的に価値ある会社を作るのは重要だ。しかし「6ヶ月後には倒産しているのだったらどうやって長期的価値を実現できるのか?」という議論に答えるのは難しい。

シリコンバレーではヘルスケア、教育、建築、不動産といったジャンルに進出する企業が続いている。こうした分野のプロダクトの研究開発には巨額の長期的投資が必須だ。長期的な利益を生むためには競争の減少にともなう副作用を最小限にしつつ最大限の投資を確保することがこれまでになく重要になっているるのだと思う。

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滑川海彦@Facebook Google+