ライブコマースからセキュリティへ、東大発のFlattが2.2億円を調達して新たな挑戦を加速

写真左からFlattに個人投資家として出資したメルカリCTOの名村卓氏、Flatt代表取締役の井手康貴氏

「ライブコマースアプリ『PinQul』を手がける東大発スタートアップ」としてこれまでにも何度か紹介してきたFlatt昨年8月には同サービスのクローズを発表していた同社だが、新たな資金調達を踏まえて次のチャレンジとして選んだサイバーセキュリティ事業をさらに加速させていくようだ。

Flattは7月11日、サイバーエージェント(藤田ファンド)、ディノス・セシール、メルカリCTOの名村卓氏を引受先とする第三者割当増資により約2.2億円を調達したことを明らかにした。名村氏については、投資家としてだけでなく技術顧問として技術・組織面でもFlattをサポートするという。

同社は2017年5月の創業。エンジニアとしてFiNCやメルカリに在籍していた代表取締役の井手康貴氏など東大生メンバーが中心となってスタートしたチームだ。過去には2017年5月にヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やペロリ創業者の中川綾太郎氏らから数百万円、2018年4月にも複数の個人投資家から2700万円の資金調達を実施している。

Flattは最初のプロダクトとしてライブコマースアプリのPinQulを2017年10月にローンチした後、翌年8月にクローズを発表。現在は2019年から取り組むサイバーセキュリティ事業が同社の主力事業だ。

これまではWebサービス向けの脆弱性診断事業を展開してきたが、今後はSaaS型のセキュリティサービスなど自社プロダクトのローンチも控えているという。

若い世代を主なターゲットとしたコンシューマー向けのライブコマースアプリから、法人向けのサイバーセキュリティ事業への方向転換は随分と毛色が変わったようにも思う。ただPinQulがスタートする際に取材をした時から井手氏は「この2つの領域で迷った結果、最終的にライブコマースを選んだ」という旨の話をしていたので、彼らにとっては割と自然な選択だったのかもしれない。

改めて次の事業ドメインとしてセキュリティを選んだ理由について聞いたところ「マーケットが大きい上に将来性も見込めることに加え、テックドリブンな領域であり、社会的な貢献度も見込めるなど自分たちの中でいくつかポイントがあって最初から候補として考えていた」(井手氏)という。

「近年では車や家電など、あらゆるものがインターネットに繋がってより効率化されていく流れが進んでいる。この流れは不可逆のものであり、これによってネットワークに繋がる機器が今後さらに増えていく。繋がっていくポイントの1つ1つが脆弱性の穴になり、セキュリティの重要性やニーズはより高まっていく。業界自体もまだまだアップデートしていく余地が大きい」(井手氏)

これまで数ヶ月間に渡って展開してきた脆弱性診断自体は、自動(ツール)と手動を組み合わせたオーソドックスなもので、Webサービスを展開するITスタートアップを中心にレガシーな企業のサポートなどもしてきたそう。

大手企業や以前TechCrunchでも紹介したココンなどすでに既存のプレイヤーがいくつも存在する領域ではあるが、マーケット自体が大きく需要に対してプレイヤーも少ないため、単体でも事業としては成り立つそう。ただFlattとしては今夏を目処に自社プロダクトをローンチする計画で、そちらによりリソースを投下していきたいという。

新プロダクトは現在クローズドβ版で検証をしている段階で具体的な内容はまだ明かせないとのことだけれど、井手氏やCCOの豊田恵二郎氏の話を踏まえると「脆弱性診断を実際にやっていく中で感じた課題や『脆弱性診断だけではカバーできない領域』に対応していく法人向けのSaaS」になるようだ。

社名も近々Flatt SECURITYに変更し、今後はセキュリティ領域に注力していくつかのプロダクトを展開する方針。この辺りは今回加わった投資家の1人であり技術顧問にも就任している名村氏のサポートも受けながら進めていくようで、新プロダクトについてもアイデアのタネは名村氏とのディスカッションから生まれたものだという。

「インターネット上でのサービスが発展する一方で、サービスを脅かすことへの驚異は異常なスピードで増え、かつ高度化しています。セキュリティはもはや、如何なる会社にとっても手を抜くことのできない重要な要素となっています。Flattのような若く優秀なエンジニア集団であれば、きっとこんな世界の救世主になるようなサービスを生み出すことができるだろうと確信し、今回協力をさせていただくことになりました」(名村氏のコメント / Flattのリリースより)

調達した資金に関しても新プロダクトの開発・マーケティングに向けた人材採用への投資がメイン。中長期的にセキュリティ領域で複数のプロダクトを手がけることも見据え、R&Dも進めていく。

ライブコマースアプリ「PinQul」がクローズへ

配信者が視聴者とリアルタイムにコミュニケーションをしながら商品を売買する「ライブコマース」。新しいコマースの形として中国で普及し、日本でも昨年に入って続々と新たなサービスが生まれ、注目を集めてきた。

これまでTechCrunchでもいくつかのサービスを紹介してきたけれど、そのひとつでもある「PinQul」がクローズすることになったようだ。同サービスを運営するFlatt代表取締役CEOの井手康貴氏が8月16日に公開した自身のブログ記事で、背景なども含めてサービスのクローズを発表した。

井手氏はブログ内で「僕個人の目指すところとして日本を変えるために10年で1000億円、20年で1兆円規模の会社にならねばいけないというのは意識していました」とした上で、もともとPinQulではアパレルの委託販売を行うライブコマースのプラットフォームを作ろうとしていたこと、最適化を進めた結果、自社ブランドを自社在庫で売るアパレル屋になってしまったことに言及している。

既存の日本アパレル企業の多くがユーザーに向けてではなくバイヤーに向けた商売になっており、半分は在庫が残る前提での価格設定、同じOEMをつかって同じような商品を各ブランドが作り、売れ残りが生まれてはセールで売る、そういった現状に対して、KOLによるD2Cブランドは一定の解を示すことはできたし今後も増えていく流れなのではないかと思っています。 ただ、これだとアッパーとしては10年で300億くらいの会社を作るのが精一杯かなと感じました。(井手氏のブログより引用)

同社CCOの豊田恵二郎氏によると「数字としては悪くなく、(5月リリースの)Web版を出してからは当初の想定以上のMAUにもなっていた」とのことで、伸ばせる余地もあったという。

ただ最終的には事業の規模感(アッパー)が見えてしまったこと、そしてそれが自分たちが当初目指していた形ではないこともあり、サービスクローズを検討。シリーズAの調達を進める中で、株主とも相談し7月末に方針を決定した。

現時点で具体的な時期は言及されていないが、クローズは9月が目安になる模様。次の事業に関しても「(現時点では)完全に白紙」であるものの、また新たなプロダクトでチャレンジをしていくという。

なおPinQulの正式リリースは2017年の10月。運営元のFlattは2017年5月創業で、これまで11人の個人投資家から資金調達をしている。

ライブコマース「PinQul」が7人の投資家から2700万円調達、“接触数”を増やすべくメディア性の強化へ

ライブコマースプラットフォーム「PinQul(ピンクル)」を提供するFlattは4月17日、7人の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により総額2700万円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドに参加したのは、Fablic代表取締役CEOの堀井翔太氏、メルペイ代表取締役の青柳直樹氏、個人投資家の三木寛文氏を含む7人。Flattでは2017年5月にもヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やペロリ創業者の中川綾太郎氏らから数百万円を調達。同社に出資する個人投資家は合計で11人になったという。

今回調達した資金を元に取り扱い商材の拡大、インフルエンサーの起用、流通の最適化に加え、関連サービスの新規開発やWeb版の開発を進める。

Flattの創業メンバー。左からCCOの豊田恵二郎氏、代表取締役CEO の井手康貴氏、COOの綾部翔太氏、エンジニアリングマネージャー の町田公佑氏

ユーザーとの接触数を増やすための“メディア性”がキモ

冒頭でも触れたとおり、PinQulはインフルエンサーがライブ配信をしながらお気に入りの商品を販売できる、ライブコマースプラットフォームだ。ライブコマースは中国で一足早く普及し、2017年の1年間で日本でも一気に広がった。2018年に入ってもKDDIとエブリーが共同で事業開発に取り組むと発表するなど、すでに複数の企業が新規で参入。引き続き注目を集める市場になりそうだ。

PinQulの正式リリースは2017年の10月。コアなファンを抱える「マイクロインフルエンサー」を地道に開拓し、限られた配信者のみがライブ配信をできる仕組みとして運営してきた。11月中旬からはプライベートブランド「P.Q. by PinQul」を提供、2018年2月にはTOKYO BASEが手がける新ブランドのライブ販売を実施。合わせてPinQulを活用したい企業のサポートや、配信者の公募も始めている。

Flattの代表取締役CEOを務める井手康貴氏によると、プロダクトリリースからの約半年間は最低限の仮説検証のため、さまざまなことに取り組む期間だったという。今回の資金調達はその結果をもとに一層アクセルを踏むためのものだといえそうだ。

「ライブコマースについて良い点も悪い点も明確に見えてきた。悪かった点は改善しつつ、今後は取り扱い商材の拡大やインフルエンサーの起用を継続しながら関連サービスの新規開発にも取り組み、事業の拡大を目指していく」(井手氏)

井手氏の話では今後のPinQulで特に重要テーマとなるのが「接触数、視聴数を増やすための場所の確立」だ。配信ごとのCVR(購入率)やPBの売り上げが順調な一方で、ライブ配信だけではユーザーとの接点が限られる。今後スケールさせていく上では、いかにユーザーと接触する機会を増やし、PinQulへ誘導できるかがキモになる。

「最初はアーカイブ動画をコンテンツとして残しておくことで接触数を増やせるのではないかと考えていたが、実際はあまり上手く機能しなかった。今は別の手段でメディア性をもたせることを考えている。具体的には常に見ていて楽しいコンテンツをアプリ内もしくは外部のプラットフォームとして育て、相性のいいものをライブで扱うといったスキームだ」(井手氏)

Flattでは最近PinQulのAndroid版をリリースし、現在はWeb版の開発にも取り組んでいる。同時にサイトの設計も商品情報をベースとした「ECっぽい感じのUI」に変えていく予定。あくまでも軸はコマースの部分におきつつもメディア性を加え、その中で最適なライブの見せ方を模索していくという。

企業との取り組みを強化しキャッシュポイントを作る

またキャッシュポイントを作るという観点では、今後法人との取り組みも一層強化する方針。キーワードになりそうなのはリアル店舗とPBだ。

「日本のEC化率はまだまだ今後伸びる余地がある中で、リアルも含めた購買行動の設計を考えている。ポップアップショップにライブコマースとインフルエンサーを絡めた取り組みなど、具体的に話を進めている段階だ」

「扱う商品としては既存の商品よりもPBに注力していく。たとえばYouTuberなど影響力のあるインフルエンサーとPBの相性がいいことはわかっている。今後は『PBの請負人』のような形で、インフルエンサーがオリジナルの商品を作って売りたいと思った際に選ばれるポジションもとっていきたい」(井手氏)

最近資金調達をした「ShopShops」のように、配信者がブランドの店舗でライブコマースを行うというプロダクトも海外では登場し始めている。これはあくまで例にすぎないが、リアル店舗×ライブコマースという切り口はまだまだ発展の余地がありそうだ。

今回井手氏の話の中で、Flattとして将来的にはコマース領域以外でも複数の事業を展開し、多角化を図っていきたいという話もあった。とはいえまずはEコマースに注力し「10年以内にEコマースで最大のプラットフォームになる」ことを目指していくという。

ライブコマースはECの有力なチャネルとなるか、PinQulとTOKYO BASEがPB商品の共同販売へ

2017年は国内ライブコマースの“黎明期”と言える1年だった。多くのサービスが立ち上がり、「ライブコマース」という概念が一気に拡大。TechCrunch Japanでも11月に開催したTechCrunch Tokyo 2017でパネルディスカッションのテーマに取り上げ、関連するニュースも度々紹介してきた。

2018年は他の業界がそうであるように、各企業の優劣がはっきりしてくるのではないだろうか。昨年の秋には先駆者ともいえる「Live Shop!」運営のCandeeがプライベートブランドを始めるなど、新たな取り組みもみられた。存在感を増す事業者がでてくる一方で、撤退を決めるところもでてきそうだ。

PinQul(ピンクル)」を提供するFlattもこのライブコマース市場で事業を展開する1社。昨年10月にアプリをリリースし、11月からはプライベートブランド「P.Q. by PinQul」を始めた。

そんなFlattが次に取り組むのは、自社商品を販売したい事業者とタッグを組むことによるPinQulの本格的な拡大だ。

同社は2月16日、PinQulにてTOKYO BASEの新ブランド「SOCIAL WEAR」のライブ販売を実施することを明らかにした。ライブを行うのはInstagramのフォロワーが22万人を超える「にょみ。」さん。自身がプロデュースした洋服を2回の放送で販売する予定。1回目の配信は本日21時からだ。

Flattでは今後アパレル商材に限らず、自社商品を販売したい事業者や個人の募集を進めるという。

従来のメディアとは異なるライブコマースの可能性

今回ライブコマースに取り組むTOKYO BASEのSOCIAL WEARはかなりエッジの効いたブランドだ。

コンセプトは、日本生産がシュリンクしていく中「日本のファッション製造業を活性化させ、強い日本産業を取り戻す」こと。日本製にこだわり、生産は受注ベース。実店舗を持たずEコマースに特化したブランドで、60%の原価率を誇る。

これまではZOZOTOWNでのみ販売をしていたが、新たなチャネルとしてPinQulが候補にあがった。ライブコマースの特徴はテキストや画像に比べて、リッチでインタラクティブなコミュニケーションが可能になること。SOCIAL WEAR自体がユニークなストーリーを持つブランドということもあり、TOKYO BASEとしてもライブコマースとは相性がいいと踏んだようだ。

特に今回ライブ配信をするにょみ。さんが売るのは自らプロデュースした洋服。PinQulではすでに自身で手がけた商品を販売した配信者が複数人いて、約30分で1万1800円のセットアップが40着以上売れたという事例もある。FlattのCCOを務める豊田恵二郎氏も「語るべきストーリーがあるものほど向いている」と話す。

人とものを増やし、本格的に規模拡大を狙うフェーズへ

Flattではこれまで、ライブ配信を行うキー・オピニオン・リーダー(KOL)についても、扱う商品についてもかなり限定していた。

代表取締役CEOの井手康貴氏や豊田氏も以前から「実際に売れるか」を重視していると話していて、単にSNSのフォロワー数が多いだけの「インフルエンサー」ではなく、ファンからの信頼があり実際にものを売ることができるKOLを直接キャスティングしてきた。商品についても、あくまで「自分の気に入ったものを紹介してマネタイズできる仕組み」を目指して、むやみに広げることはなかった。

その考えを突き進めたひとつの結果が配信者によるプライベートブランドであり、実際にCVRも10%〜20%と「商品が売れる」仕組みができ始めているという。

その反面、今のやりかただけでは同社が目指す規模までは大きくならないという話もあった。そこで次なる一手として始めるのが、TOKYO BASEのように自社商品を販売したいと考える事業者との協業だ。

「これまでクオリティコントロールをものすごく大事にしてきて、実際CVR的にもいい数値がでている。今後もPBには力を入れていくが、それだけでは難しいのでB向け(事業者)にも拡大しないといけない。直近は配信者のハードルを下がるために裏側のシステムや体験の改善に全振りしてきて、ようやく拡大に向けた準備が整ってきた状況だ」(井手氏)

現時点でもすでに複数の企業からPinQulで商品を販売したいという問い合わせがきているそう。「ライフスタイル」などある程度の基準は設けつつも、アパレル業界以外の企業にもPinQulの提供を進める方針だ。共同でプライベートブランド商品を開発したり、熱量のある社員が販売をしたりといった可能性もあるという。同様にライブ配信者についても公募を開始し、放送数の拡大も目指す。

「今後企業がどのライブコマース(プラットフォーム)がいいかを比較するようになっていく。結局のところ『売れるかどうか』が見られているので、CVRを下げないという部分は徹底した上で規模を広げていきたい。特にファッション領域のKOLは自分たちがしっかりと巻き込み、ものについても『PinQulなら売れる』という状況を作っていきたい」(井手氏)

30分で40着以上売れることも――ライブコマース「PinQul」がプライベートブランドを開始

2017年に入り日本国内でも一気に知名度が上がったライブコマース。「TechCrunch Tokyo 2017」でもライブコマースに関するセッションを行ったが、やはり注目度は高かった。

10月のサービスローンチ時に紹介した東大発ベンチャーFlattも、この領域で事業展開をするスタートアップのひとつ。同社は12月19日、運営するライブコマースアプリ「PinQul(ピンクル)」にて、プライベートブランド「P.Q. by PinQul」の展開を開始したことを明らかにした。

TechCrunch Japanでは「Live Shop!」を提供するCandeeがプライベートブランド「TRUNC 88(トランクエイティーエイト)」を始めるという発表をつい先日紹介したばかり。ただPinQulは一足早く11月中旬からプライベートブランドの提供を開始。12月中旬までの約1ヶ月で、すでに数百万円の売り上げになっているという。

約30分で1万1800円のセットアップを43着販売

PinQulはインフルエンサーがお気に入りのファッションアイテムを紹介するライブコマースアプリ。主に20~30分間のライブ配信を通じて、商品の紹介やユーザー間のコミュニケーション、商品の売買までを行う。誰でも商品を売れるオープンなプラットフォームではなく、PinQulの運営が配信者を選ぶ。

プライベートブランドの構想はサービスローンチ前に取材した時から話がでていたが、ODMメーカーと組んでインフルエンサーが商品をデザイン、販売できるというもの。ただし個々のインフルエンサーが独自のブランドを持つわけではなく、デザインしたアイテムを「P.Q.」ブランドの元で販売する形をとる。

11月中旬より提供を開始し、12月中旬時点で3人の配信者がアクセサリーやセットアップといったオリジナルアイテムを計6回販売。売り上げは数百万円になっている。FlattのCCOを務める豊田恵二郎氏によると高単価の商品も売れているそうで、実施した回数はまだ多くないものの手応えを感じているという。

「代表的な例としては1万1800円のセットアップが1度の配信で43着売れた。ライブコマースは従来のテキストや画像、動画と比べて伝えられる情報が多い。ユーザーとのコミュニケーションやユーザー間のコメントなどリッチな体験を通じて商品を販売することで、購入率や購入単価をあげられるという当初の仮説が検証できてきている」(豊田氏)

実際に販売されているオリジナルアイテム。左のグレーのセットアップが43着売れた製品だ

売れる人の特徴は「ライブ慣れ」したフォロワーがいること

PinQulの正式ローンチから約2ヶ月半。豊田氏に直近の進捗について聞いてみると、「プライトベートブランドで予想以上の売り上げを記録したことが1番大きな変化」としつつ、合わせて売れる人の傾向がわかってきたという。

「実際に2ヶ月やってみて、人による差がものすごく大きいとあらためて感じた。たとえばフォロワー数のような単純な指標はあてにならない。影響が大きいのはライブ慣れしているかどうかということ。具体的には(配信者の)フォロワーがライブ慣れしているかが、商品の売れ行きに影響する」(豊田氏)

ライブが盛り上がることでより商品が売れるようになり、そのためには視聴するフォロワーのコメントが不可欠。ところがライブ慣れしていないフォロワーばかりだと肝心のコメントがつかないため、配信を頑張ってもなかなか売れないということもあるそうだ。たとえばセットアップを43着販売したインフルエンサーは、普段からインスタグラムでライブ配信をするなど自身もフォロワーもある程度ライブ慣れしているという。

とはいえ回数を重ねるごとにライブ慣れして成果があがることも多く、上述したインフルエンサーも1回目よりも2回目の方が販売数が増えたそうだ。

フォロワーが強力な売り子になることも

また視聴者であるフォロワーが売り上げに影響する例として興味深かったのが、1回目の配信で商品を購入したユーザーが「コアなファン」となり、2回目の配信で売り子のような存在を果たしたという話だ。

豊田氏によると「前回の放送でフォロワーになった人が、2回目の放送で他のユーザーに対して自発的におすすめのサイズなどアドバイスのコメントを行っていた」という。リアルタイムでのユーザー間コミュニケーションによって商品の売れ行きが変わるというのも、ライブコマースならではだろう。

ライブコマース領域に特化してサービスを運営する中で、Flattにはこのような双方向コミュニケーションに関する知見も蓄積されてきた。直近では配信者やコンテンツの数を増やしながらも、知見を共有することで配信者の育成にも力を入れていく方針だという。

なお10月のサービスローンチ時に、同社がフリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏や、ペロリ元代表取締役の中川綾太郎氏を含む個人投資家から資金調達を実施したことにも触れた。個人名や金額などは非公開ではあるが、現在までで個人投資家の数もさらに増えているということだ。

「ユーザーと近い世代の方がいいものを作れる」東大発・Flattがライブコマースアプリ「PinQul」公開

「参入企業は増えてきているものの、ライブコマースに特化してやっているところはまだ多くない。僕たちはライブコマースのプラットフォームを作っていきたい」——そう話すのは、現役東大生が中心となって起業したFlatt代表取締役CEOの井手康貴氏と、COOの豊田恵二郎氏だ。同社は10月5日、ファッションアイテムを対象としたライブコマースアプリ「PinQul」をリリースした。

“ライブ配信”を通じた新たな購買体験として注目を集める、ライブコマース。2017年に入ってから日本でも次々と立ち上がり、Techcrunchでもほぼ毎月ライブコマースに関連するニュースを紹介してきた。

直近ではGUが参入したり、俳優の山田孝之氏がライブコマース事業を手がける会社を立ち上げたりと大きな動きもあったものの、まだサービスが本格化するには至っていない。メルカリやBASEの参入も注目を集めたが、あくまでメインサービスの販売チャネルの1つという印象が強く、現時点では圧倒的なサービスがあるわけではない。

今回Flattはアプリのリリースに合わせて、第三者割当増資による資金調達を行ったことを明かしている。引受先はフリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏、ペロリ元代表取締役の中川綾太郎氏を含む複数名の個人投資家。金額は数百万規模だという。

Flattにとって外部からの資金調達は今回が初めてで、これを機にライブコマースプラットフォームを拡大する方針だ。

本当に気に入ったものだけを紹介する、ライブコマースアプリ

PinQulは女子高生や女子大生など若い女性をターゲットに、インフルエンサーがお気に入りのファッションアイテムを紹介するライブコマースアプリだ。

誰でも自由に配信できるC2C型ではなく、PinQulの運営によって選ばれたインフルエンサーが配信を行う。方向性としてはCandeeのLive Shop!に少し近いが「番組の作り方が異なる」という。

「(Live Shop!は)コンテンツが重視されていて、1時間前後のテレビ番組を見ているような感覚。しっかりとした企画があって、その一部で商品が紹介される。PinQulではよりコマース軸に振り切って、その時に売りたい服を20~30分で紹介するというものが多い。基本的には商品の紹介とそれに対するコミュニケーションで成り立っている」(豊田氏)

PinQulで取り扱う商材は「配信者の所有するアイテム(フリマ形式)」「既存のブランド品」「インフルエンサー自信がデザインしたアイテム」の大きく3つ。敷居を低くする意味でも最初はフリマ形式をメインにするが、徐々に残りの2つを増やすようにシフトしていくそうだ。

ブランド品については「merry jenny」「EMODA」などを展開するMARK STYLER傘下のブランドの取り扱いがすでに決定済み。今後も取り扱い商品を拡大しながら、従来のECよりも店舗に近い形での購入体験や、ファッションショーの生配信とコマースの掛け合わせなど新たな取り組みを検討する。

また既存の製品だけでなく、Flattが提携するODMメーカーと組んでインフルエンサー自身がデザインした商品を販売できるような仕組みも整える。この背景には既存のインフルエンサーマーケティングに対する課題感があるという。

「(インフルエンサーマーケティングの中には)ある意味『信用を切り売り』しているような事例も多い。ブランドから言われた商品を自分のSNSで紹介しても、今のユーザーはそういう動きには敏感で反応が薄かったり、コメント欄が荒れたりするなど評判が良くない。PinQulではあくまで自分の気に入ったものを紹介してマネタイズできる仕組みを目指していて、その究極が自分で作ったアイテムを売ることだと考えている」(井手氏)

「ユーザーと同世代」という強みを活かす

Flattの設立は2017年5月。エンジニアとしてFiNCやメルカリに在籍していた代表の井手氏を始め、東大生を中心にPinQulのユーザーと同年代の若いメンバーが集まる。

PinQulの構想は井手氏がメンバーの1人と中国を訪れた際に、ライブコマースが実際に流行していることを体感したことから。セキュリティ分野のサービスと迷ったそうだが、市場の盛り上がりやメルカリに関わったことでコンシューマー向けのサービスに興味を持ったこと、そしてユーザーと同年代であることもありこの領域を選んだ。

確かに若い世代のインフルエンサーに対する熱心度や、既存のインフルエンサーマーケティングに対する反応は同年代だからこそより実感できる部分はありそうだ。実際サービス設計の面ではもちろん、配信者となるインフルエンサーを開拓する際も、自分たちのまわりにターゲット層の女性が多いことはすごく大きいという。

たとえばインフルエンサーについては、同世代の女性がフォローしている「マイクロインフルエンサー」を見つけ、自分たちからアプローチをしているそう。事務所に所属していなかったり、一般的な知名度はなくても影響力を持つ女性を集めコミュニティを作っているという。

PinQulの正式なリリースは本日だが、1ヶ月程前からベータ版を運用。10個の商品が0.3秒で売り切れる(正確にはカートに追加され、その後全商品が決済された)こともあり、規模はまだ小さいがニーズは感じているそうだ。

これから他のサービスが参入することも十分考えられる領域なだけに、PinQulがどこまでプラットフォームを拡大できるのか、今後に注目だ。