気候変動で増える水害を抑えるため、ただ成長を良しとする都市部に建築基準で待ったをかけるForerunner

市長は世界一大変な仕事であり、都市を引っ張っていくことは益々困難になっている。世界中の都心部で人口が膨れ上がっているが、その成長が起きる地域は気候変動の制約を受けている。住民に人気の高い海沿い地域も、海面上昇のリスクを負っている。成長のニーズと住民を災害から守る必要性をどう天秤にかけたらよいのだろう。

ほとんどのケースで、針は成長の方向に振りきっている。沿岸都市は大規模な広がりと開発をなすがままにし、より多くの固定資産税と住民を追い求めている。海面は恐ろしいほど上昇しているにもかかわらず。これは大惨事のレシピであり、それでも構わず多くの都市が選んだ献立だ。

Forerunner(フォアランナー)は針を反対側に振れさせようとしている。このプラットフォームは都市計画者や建物管理者が調査、研究を行い、将来の洪水被害の軽減に焦点をあてたより厳しい建築基準や土地利用基準を執行できるようにする。特に焦点の中心にあるのが、国の洪水保険制度の利用が多い米国都市で、Forerunnerは、各都市が同制度の複雑なルールをできるだけだけ遵守するための手助けをする。

画像クレジット:Forerunner

会社はFEMA(連邦緊急事態管理局)などからデータを入手して、各施設に義務づけられている最低床高基準を割り出し、建物がその基準を満たしているかどうかを調べる。さらに、洪水地帯の境界線を追跡し、水位認定証の作成、管理など国の洪水保険書類の処理手続きを支援する。

共同ファウンダーのJT White(JT・ホワイト)氏とSusanna Pho(スザンナ・フォ)氏は長年の友人同士で、MIT Media Lab(メディア・ラボ)で働いたあと、2019年初めにこの氾濫原管理プロダクトを一緒に作り上げた。「多くの自治体が『国の洪水』規則を守っていない問題はいくら強調しても足りません」とフォ氏はいう。「彼らは厳しい条例を元に戻すつもりです【略】多くの日常的な遵守確認が不可能だからです」。

洪水被害にあった沿岸都市は国の洪水保険で保護されるが、そこではしばしば倫理崩壊が起きる。なぜなら被害は補償されるので、そもそも災害を避けようというインセンティブが小さいからだ。連邦政府がこの基準を強化しようとしているのに加え、新しい世代の都市設計家や首長の間では、多くの都市の「建築-破壊-再建築」モデルは気候変動を踏まえてやめるべきだという認識が高まっている。洪水の後には「都市がより高い基準で再構築することを望んでいます」とホワイト氏は語った。「一種の再構築のサイクルや、同じことの繰り返しに私たちは憤慨しています」。

新たなモデルへの移行はもちろん容易ではない。「自治体は多くの難しい決断を迫られます」と彼はいう。しかし「当社のソフトウェアはそれを少しだけ簡単にします」。これまでに会社は早くも手応えを感じており、現在33の自治体がForerunnerを使用している、とファウンダーらは述べている。

顧客はルイジアナ州とニュージャージー州北部に集まっているが、同社最大の顧客はテキサス州ヒューストン市街地の大部分を含むハリス郡だ。郡は国基準の遵守を高めることによって洪水保険料を最大500万ドル(約5億5000万円)節約できる可能性がある、ホワイト氏はいう。「当社サービスの利点の1つは、自治体内の洪水保険契約者全員が来年からすぐに割引を受けられることです」と彼は語る。しかし、いずれFEMAはインセンティブよりも逆インセンティブに焦点を当てるだろう。「FEMAの持つ最強の武器は、自治体から洪水保険制度を取り上げられることです」とホワイト氏は指摘した。

会社は2019年に早期シードラウンドで資金調達し、現在プラットフォームの機能強化と売上を軌道に載せることに集中している。行政テック分野では難しい注文かもしれない。

住宅の増加と成長への要求が高まる中、気候変動は別の要求を都市に突きつける。市長や都市のリーダーたちは、過去のグロース(成長)モデルから、未来のレジリエント(適応)モデルへの転換を益々迫られている。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook