卒業率わずか25%、シリコンバレー発の「マジでガチ」な起業家育成プログラムがすごい

FI関西の卒業生と運営スタッフ

シリコンバレー発の起業家育成プログラムを運営する「Founder Institute」(ファウンダーインスティテュート、以下FI)をご存じだろうか。2009年の創設から過去5年間で1116社の卒業企業を輩出し、このうち8社がエグジットを達成。そのポートフォリオの評価額は50億ドルを超えるという、40カ国66都市で展開するグローバルなインキュベーターだ。

FIの特徴のひとつとして挙げられるのが、会社を辞めずに参加できること。プログラムは毎週1回、4カ月にわたって夜間にコーチングとメンタリングが行われ、昼間の仕事と両立させながら起業の準備を進められる。こう聞くと、生ぬるく感じる人もいるかもしれないが、そんなことはない。というよりも、なかなかのスパルタ式プログラムだ。

それを物語っているのが卒業率の低さ。2014年4月、関西に日本初のFI支部が設置されたことはお伝えしたが、第1期生は大阪、京都、神戸、奈良から約50人が応募し、IQテストや志望動機などの審査に通過した20人が入学。このうち、実際に卒業できたのはわずか5人。入学者の25%にとどまっている。

起業志望者はテスト費用として50ドル、合格した場合はプログラム参加料として900ドルをFIに支払う。退学になっても返金されないが、来期の参加料が免除される仕組みとなっている。

FIの起業家育成プログラムとは

入学者にとって最初の関門は「メンターレビュー」だ。ビジネスアイデア策定、市場調査、収益モデルの決定を経て、メンターの前でプレゼンを実施する。メンターの評価が低ければ落とされるわけだが、FI関西では半数がドロップアウトさせられたのだという。

関西支部のメンターにはFI創業者のアデオ・レッシ、Google Japan元社長の村上憲郎、東証マザーズへの上場が承認されたロックオン代表取締役の岩田進らが参加。グローバルでは、EvernoteのCEOであるフィル・リービンや『リーン・スタートアップ』の著者として知られるエリック・リースら3000人が登録している。

メンターレビュー後も、スパルタ式の課題は毎週続く。

一例を挙げると、プロダクトのランディングページを1週間以内に作り、事前登録フォーム経由で翌週までに150人、翌々週までに200人のメールアドレスをゲットしろ、といった内容だ。期限内に課題を提出できなければ退学となり、毎週のようにふるいにかけられていく。

プログラミングをかじっていればランディングページを1週間で作るのは造作ないかもしれないが、起業志望者の中にはITとは無縁だった人もいる。昼間の仕事を続けながらページを作り、しかも、そこから実際に事前登録ユーザーを集めるのは、そんなに簡単なものではないだろう。

入学者のひとりで、スポーツ業界向けウェアラブル端末を手がける山田修平は、「(運営側が)とにかくプレッシャーをかけてくる」と4カ月間のプログラムを振り返る。最もきつかったと語るのは、プロダクト開発にあたって最低25人からお金を借りる「プライベートファンディング」の課題だ。

「お金を返さないといけない状況を作って自分を追い込むとともに、周りの人間を巻き込んでいけというもの。金額は1円でも1000円でも構わないのですが、25人というと気軽にお願いできる人ばかりではなく、心理的なハードルがめっちゃ高かったです」。

卒業の最終条件は「会社を登記すること」

FI関西の運営に携わる、みやこキャピタルの藤原健真によれば、課題の作業量は「毎週20時間分」に相当。最終的な卒業条件は「会社を登記すること」で、「座学だけで終わらないガチなプログラム」と説明する。プログラムは世界共通だ。

「本国からは『簡単に卒業させるな』と言われているので、いつも落とす理由を探している。ただ、これだけ厳しい基準を設けているからこそ、卒業企業の高い成功率がある」。FIによれば、卒業企業の生存率(現在も運営している会社)は89.5%。全体の42%は卒業後に資金調達を実施しているのだという。

FI関西を運営する藤原健真

そしてこのたび、第一期生のプログラムを終了したFI関西が8月7日、大阪で卒業式を兼ねたデモデイを開催した。4社5人が手がけたプロダクトはトラック輸送の価格比較サイト、高級コーヒー豆の定期購入サービス、ルームシェア向け家計簿アプリ、フットサルプレイヤー向けウェアラブルデバイスと多種多様。いずれもローンチ前ではあるが、関西にスタートアップを育成する拠点が根付くかどうかを占う意味でも、各社の今後に注目したい。

FI関西の第1期卒業生のプロダクト

トラック輸送の価格比較サイト「BestLogi」

出発地や到着地、貨物の大きさや重要といった条件を入力すると、運賃相場を検索できる。中小の輸送業者に登録してもらい、初回の発注のみ90%オフのお試し輸送サービスも設ける。中小の輸送業者をどれだけ集められるかが成功の鍵を握りそうだが、創業者の青山晋也はセミナーやイベントを通じて集めるという。

青山によれば、中小の輸送業者は日通やヤマトの下請けが大半。BestLogiでは大手を中抜きすることで、発注者はコストを削減でき、受注者は取り分を増やす仕組みを作るとしている。キャッチフレーズに「輸送業界の価格ドットコム」を掲げている。

高級コーヒー豆の定期購入サービス「CANVAS COFFEE」

毎月3000円で3種類のコーヒー豆を届けるサービス。翌月以降は、ユーザーがお気に入りのコーヒー豆に加えて、最低1種類はCANVAS COFFEEが選んだコーヒー豆を届ける。10月中旬にサービスを開始する予定で、事前ユーザー登録を受け付けている

バリスタとして10年のキャリアを持つ創業者の八木俊匡は、「コーヒーの美味しさは言語化するのが難しく、知識がなければ理想のコーヒーを選べない」と語る。FI関西に入学した当初は、バリスタを派遣して豆を届けるビジネスモデルを検討していたが、「それではスケールしない」というアドバイスに従い、現在のサービスにピボットした。

毎月定額料金を支払うことで商品が届くサブスクリプション型ECは2012年頃に日本やアメリカで急増したが、そのブームは沈静化した。日本での可能性について八木は、「飲み比べないとわからないコーヒーにはチャンスがある。ゆくゆくは顧客の嗜好データのノウハウをワインやチョコレートなど、他の業界でも応用したい」と話している。

ルームシェア向け家計簿サービス「Crewbase」

創業者の1人で京都大学に在学中の浦嶋優晃の試算によれば、日本のルームシェア人口は約140万人、ルームメイト間で支払う金額は255億円に上るという。また、ルームメイト間でのトラブルの多くは金銭問題と指摘。これを解決するために、FI関西で出会った元電機メーカーの中江敏貴とともに、ルームメイト間の支出を記録したり、差額の精算時に送金できる家計簿サービスを立ち上げることにした。

サービスは、支出の負担や清算方法を細かくルール付けできるのが特徴。例えば、食費はAさんが全額支払う、光熱費はBさんが3割、Cさんが7割負担する、といったルール設定が可能だという。収益はルームメイト間の差額資金を決済する際に徴収する手数料がメインとなる。

フットサルプレイヤー向けのウェアラブルデバイス「Up performa」

アマチュアのフットサルプレイヤーが、プレイ中の走行距離やスピード、ポジショニングを記録・分析するためのウェアラブルデバイス。位置情報はGPSを活用して取得する。2015年にクラウドファンディングに出品する予定。サッカー以外の屋外スポーツでも展開したいという。

アマチュアスポーツにデータ解析の需要があるのか、データを取得しても解析できる人がいるのかは定かではないが、実際に中学校のサッカー部で使ってもらったところ、「お前走ってないやん」というのが丸わかりだったりして、監督や選手の反応が良かったとのことだ。


会社を辞めずに参加可能、アクセラレータ「Founder Institute」が日本初の支部を関西に設立

海外の企業や組織が日本で拠点を設置するとき、ふつうに考えれば、まず最初は東京となるだろう。しかし、Founder Instituteが選んだのは関西だった。Founder Instituteは今日、日本で初めてとなる支部を関西に設立することをアナウンスした。プログラムに参加したい起業家は、今日から申し込みができる

Founder Instituteはシリコンバレーを拠点とするグローバルなアクセラレータで、起業家のトレーニングやスタートアップの立ち上げ支援を行うプログラムだ。現在6大陸にまたがって33カ国61都市で活動を行っている。2009年の創業以来これまでに1116社の企業を支援し、1万人以上の雇用を生み出してきたという。これまでに8つのエグジットがあり、Founder Instituteによれば、そのポートフォリオの評価額は50億ドル以上と推定しているという。創業タイミングとしてはY CombinatorやTechStarsに遅れるものの、“卒業生”となった社数やグローバルに展開している拠点数では世界最大規模のアクセラレータプログラムといえそうだ。

Founder Instituteは、ほかのアクセラレータにない特徴がある。

1つは、このプログラムは夜間のパートタイムであることだ。Founder Instituteに参加する起業家は4カ月間のプログラムで起業家CEOのメンターたちから訓練やフィードバック、サポートを受けながら、実際に会社を登記してビジネス立ち上げを行うが、このプログラムに参加するために会社を辞める必要はない。多くのアクセラレータは、3カ月や4カ月の期間はフルタイムでの参加を前提しているが、Founder Instituteでは会社に勤めながら参加でき、仕事を辞める前にビジネスアイデアを検証したり、改善したりできるのだという。

Founder Instituteのもう1つの特徴は参加者のインセンティブ設計だ。Founder Instituteでは、同期生となる会社群の株式を起業家同士でシェアするプール方式というものがある。同期の仲間とともに自分の起業した会社の株式の3.5%をワラントとして10年間のボーナスプールに供与する。プールの見返りのうち40%はFounder Instituteと、その地域のディレクターに還元され、30%がメンターに還元される。各メンターのシェアは卒業生の無記名によるレーティングによって決まる。残りの30%が卒業生自身に還元される。誰かが成功すれば皆でその成果を分かち合うというモデルだ。Founder Instituteのゴールは世界75余りの都市で毎年1000の価値ある永続的企業を立ち上げること、という。

関西に日本初の拠点を作ることについてFounder Institute創業者CEOのアデオ・レッシ氏は、「世界をリードするいくつかのテクノロジー企業にとって関西は本拠地となっていることから、優秀な人材が現地に多いことは間違いありません。一方で、彼らのような優秀な人材が起業するためのサポート体制は決して十分であるとは言えません」と、その理由を説明している。

Founder Instituteは年2回開催される学期を通じて、日本国内で年間20社以上のテクノロジー系スタートアップの創出を目指すそうだ。今年3月に実施したトライアル期間に100人もの応募があったそうで、関西での設立を決定した背景には、こうした実績もあったようだ。

Founder Institute関西支部の3人のディレクターとコメントは以下の通り。

・安井一郎:日本国内および海外のアーリーステージ企業への経営戦略・投資コンサルティングを専門に行うHIGアソシエイツ株式会社 代表取締役

「関西ではスタートアップに対する3つの大きな課題があると考えています。まず1つめは、 スタートアップを立ち上げるためのベストプラクティス(成功事例・最優良事例)が共有されていないということ。2つめは、失敗に対する文化的な恐れが存在すること。3つめは、スタートアップを支援するエコシステムが関西には存在しないこと。Founder Instituteは、これら全ての問題を解決できると考えています」

・牧野成将:IT/サービス系スタートアップへの投資を行う株式会社サンブリッジグローバルベンチャーズマネージャー

「熱意ある起業家による適切な教育があれば、関西における状況は改善され、関西のポテンシャルも最大化されると考えています。Founder Instituteによって、それは可能だと思っています」

・藤原健真:京都を拠点とする大学ベンチャーファンドを運営する Miyako Capital ベンチャーパートナー、SaaSスタートアップ Coworkify 創業者、英語による京都のスタートアップコミュニティサイ ト startupkyoto.com の運営者。

「自分自身が関西出身であるため、関西を世界クラスのスタートアップ育成拠点にすることについては誰よりも情熱を持っています。関西が得意とするコンシューマ家電、半導体、ゲーム、 ヘルスケア分野の知識とノウハウをITと掛け合わせることで、Founder Institute関西はグローバルな舞台で活躍するスタートアップの成長に大きく貢献できると考えています」