サムスンのGalaxy S20 Ultraはその超高価格を正当化できているのか

まずお金の話から始めよう。もう少し言えば、物の値段についての話だ。数年前、スマートフォンのフラグシップモデルの価格は1000ドル(約10万8000円)の壁を超えた。その主な要因はディスプレイのコストにあった。その価値の判断は難しいが、それがイノベーションの代償というものだ。

スマホのコスト上昇が、売り上げ鈍化の主な原因とされている。デバイスの性能はすでにかなり良くなっていて、長期間使えるようになった。しかしその価格が1000ドル(約10万8000円)を超えるようでは、ユーザーは2年やそこらで、黙ってアップグレードしてくれるはずがない。

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サムスンは、誰よりもそのことを理解している。手頃な価格帯のシリーズに加えて、同社は「手頃なフラグシップ」モデルの販売にもかなり力を入れてきた。ハイエンドの機種と、一般的なモデルの間にあるスイートスポットを突こうという、比較的新しいカテゴリーだ。最初はS10eとして登場し、現在ではLiteシリーズに受け継がれている。

もちろんGalaxy S20 Ultraは、そのカテゴリーには含まれない。スマホの販売数が減少する時代にあって、あえて思い切り豪華なスマホを思い描いて作られたものだ。モバイルテクノロジーの最先端におけるサムスンの地位を再確立するために設計された、同社として最高峰であるフラグシップの新たなカテゴリーを切り開くものなのだ。時代遅れにならないためなら、少しくらい余計なお金を払うことを何とも思わないような人たちをターゲットにしている。

ここで言う「少しくらい」は、1399ドル(約15万1000円)のことだ。もし、年末調整や確定申告で、期待以上に税金が戻って気が大きくなっているなら、1599ドル(約17万3000円)出して、標準の128GBではなく、512GBモデルを入手してもいい。何が最高峰かという定義も、最近では揺らいでいる。2019年サムスンは、複数の5Gスマホを導入することで時代を先取りした。当時は、ハードウェアのコストが高く、カバーエリアも一部だけに限られていたため、5Gのサポートはまだ最上位機種だけに限られていた。

ところが2020年には、すべてのS20モデルで5Gを全面的にサポートすることになった。そのため機能てんこ盛りのUltraとしても、S20+に対して差別化する方法を見つけなければならなかった。Ultraが際立っている重要な領域はいくつかある。最も目立つ直接的な違いはサイズだ。価格が上がるにつれて、ディスプレイのサイズも当然のように大きくなる。ただし、サムスンの先進的なハードウェアによって、本体サイズは、ほぼ前世代のデバイスと同程度に抑えられている。

特にその点で、サムスンはすばらしい仕事をした。大きな6.9インチのディスプレイを、166.9×76.0×8.8mmのボディに押し込むことに成功したのだ。6.7インチディスプレイのS10 5Gのサイズが162.6×77.1×7.9mmであること考えると、これはなかなか印象的だ。厚みが増えたのは、ほぼ間違いなくバッテリー容量が大きくなっているからだ。2019年までのデバイスでは4500mAhだったものが、2020年のUltraでは、さらに大容量の5000mAhのバッテリーにアップグレードされている。

サムスンが公表した仕様では、バッテリー寿命は控えめな数字になっている。それも、電力消費量が多いAMOLEDを120Hzのリフレッシュレートで使い、5Gの無線機能を追加したためだろう。同社では、これを「終日使えるバッテリー」としている。あれこれ考慮した上での曖昧な表現だ。5Gの装備がバッテリー寿命に与える影響については、まだ研究の余地がありそうだ。すべてデフォルトの設定で、なんらかのネットワークの問題によって、ほとんど、あるいはまったく5Gの使えない環境で試したところ、1回の充電で約28時間使用できた。

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これなら確かに「終日使える」ことにはなるが、巨大なバッテリーを内蔵していることを考えれば、もう少し使えても良さそうな気はする。とはいえ、1日とちょっとの間、充電せずに使えることは間違いないだろう。そして何よりうれしいのは、付属の電源アダプターによる超高速充電だ。空の状態から完全に充電するまで、1時間もかからなかった。

デザイン言語については、3種類すべてのS20でほとんど共通している。正直に言って、2019年のモデルと比べても、代わり映えがしない。サムスンはフロントの自撮り用カメラ(Ultraでは贅沢にも40MP)は、すでにホールパンチ方式に変更済だった。ただし裏面を見ると、大きな違いに嫌でも気づかされる。Ultraのカメラモジュールは、文字通りウルトラ級だ。デバイス裏面の表面積の1/6ほども占める段差のついた領域に、4台のカメラが仕込まれている。

S20+では12MP、64MPの望遠、12MPの超広角それにToFセンサーという十分過ぎる組み合わせだが、Ultraではさらにメインが108MP、10倍ズームの望遠が48MP、12MPの超広角、そしてToFセンサーとなっている。距離(深度)を計測するToFセンサーによって、ボケ効果や3Dスキャンといった楽しい付加機能が使えるようになる。ただしノーマルのS20は、ToFセンサーを装備していない。サムスンはARの世界でより重要な役割を果たすため、しっかりと基礎固めをしているという印象がある。それはAR絵文字のような機能に限った話ではない。ただし、他のメーカーと同様、メインのAR機能の実装については進展が遅いようだ。

このカメラシステムの最大のウリは、なんといっても望遠レンズだ。このカメラは屈曲系の望遠レンズを、横向きにして薄い本体に収納している。このカメラでは、10倍までは堅実なハイブリッドズームが可能となっている。ハードウェアとソフトウェアの組み合わせた同社独自の「スペースズーム」によって、Ultraでは最大100倍のズーム機能を実現している。他のモデルでは30倍までだ。この倍率は印象的なものだが、「ロスレス」で撮れるのは10倍までだということは、頭に入れておく必要がある。

それを超えると、画質の劣化が始まる。そして正直にいって、100倍に達する頃にはモネの絵画をデジタル化したような画像になってしまう。何が写っているのかを判別することはできたとしても、ほとんどの場合、Instagramでぜひ共有したいと思うようなものにはならないだろう。とはいえ、コンサートやスポーツ観戦で、スタジアムの最上段の席から撮るような場合には、それなりに役立つこともあるかもしれない。

ToFセンサーもそうだが、正直なところサムスンは将来のアップデートへの布石として、このようなズーム機能を装備したのだろう。将来の画像処理AIと100倍ズームを組み合わせれば、外付けのレンズなどを使わなくても、かなり良好な望遠撮影ができるようになる可能性が高い。ただし現状では、人目を引くためのおまけ以上のものではないだろう。正直にいって、S20+のスペックを超える部分についてはちょっとやり過ぎの感が強い。そでもUltraを選ぶのは、よほど熱心な愛好者だけではないだろうか。

Ultraの下位モデルを勧めるのを、ちょっとためらってしまう唯一の理由は、5000mAhに届かないバッテリーを搭載する両モデルのバッテリー寿命について心配があるからからだ(それぞれ4000と4500mAh)。リフレッシュレートが120Hzのディスプレイは、ゲームをプレイするには最適だが、ほとんどのユーザーに対しては、基本的にオフにしておくことを勧める。必要なときだけ120Hzに切り替え、それ以外は60Hzに設定しておくことで、バッテリー寿命を2、3時間は延長できるだろう。

108MPのカメラにも、同じことがいえる。ほとんどの写真では、ピクセルのビニングを利用するのが理にかなっている。これにより、サイズの小さな12MPのショットとなり、1ピクセルあたりの実質的な光量が増す。その結果、写真はより明るく、よりシャープなものになり、暗い場所での撮影にも強くなる。しかも、画像ファイルサイズをかなり抑えることもできる。時々、設定の変更を忘れたまま撮影したが、その巨大なファイルサイズには、写真を送信する段になるまで気づかなかった。

新しい写真機能の中で最高のものは、ハードウェアにあるわけではない。私は長い間、優れたイメージング機能の鍵はシンプルさにあると考えてきた。カメラの性能は向上し続け、モバイルデバイスを使ってプロフェッショナルな写真を撮影したいという人のために、多くの機能を提供してきた。それはすばらしいことだ。Google(グーグル)の新製品発表イベントには、伝説的な写真家であるAnnie Leibovitz(アニー・リーボヴィッツ)氏が登場して、デバイスのカメラを賞賛するまでになっている。

ただしそうした機能も、簡単に利用できるようになっていなければ、大半の消費者にとっては宝の持ち腐れだ。その点「シングルテイク」は、デフォルトのカメラ設定に加えられた有効な機能だ。異なるタイプの写真を、まとめて1回の操作で撮影できる。ただし、その場合は10秒間カメラを構えたまま待つ必要がある。それによってライブフォーカス、タイムラプス、超広角の写真を同時に撮影できる。写真はまとめてロールに保存されるので、後から最適なものを選択できる。ファイルサイズは大きくなるが、スマホ全体からすれば大したサイズではない。何でもかんでも溜め込みたくはないという人は、手動で削除すればいい。

S20シリーズに加えられた大きなアップデートは、将来を保証するもののように感じられる。この原稿を書いている時点では5G、100倍ズーム、8Kビデオ撮影といった機能は、必ずしも大きな意味を持つものではないだろう。サムスンは、とにかく他社に先駆けることに注力しているように見える。たとえば5Gもまだ利用可能なエリアが限られている。しかし、ユーザーがこのデバイスを長く使っていれば、やがて次世代の通信環境はどこでも利用可能となり、デバイスを買い替える前に有効活用できるようになるのは間違いないだろう。

しかし、現在を考えると、Ultraの1399ドル(約15万1000円)からという価格は、かなり高く感じられる。ただし幸いにも、サムスンはもう少し安価に手に入るモデルを数多く用意している。たとえば、S10 Liteもあるし、標準的なS10も今なら割引価格で入手できるはずだ。100倍ズームのような機能は、最新鋭には違いないが、その価格を正当化できるほどのものではないだろう。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)