介護に新風、「パワード衣服」のSuperflexにグローバル・ブレインらが約10億円投資

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人間の筋力を拡張する外骨格ロボット(パワードスーツ)としてはサイバーダインの「HAL」が有名だ。身体にくっつく小型モビルスーツのような装置を着けると、筋肉を流れる電流を体表面から読み取って、その動きを補強する。介護や災害の現場で大きな力を発揮できる「サイボーグ」のようなハードウェアだ。

これに対してSRI Internationalからスピンオフした米スタートアップ企業のSuperflexが開発しているのは「パワードクロージング」(powered clothing)。SuperflexのCEOで、元SRIのロボティクス部門長であるRich Mahoney氏がTechCrunch Japanの取材に語ったところによれば、これは伸縮する人工筋繊維のような布を使って、人間の動き(筋力)を拡張することができるもの。着衣ができる「パワード衣服」というべきものだそうだ。

従来の外骨格ロボットに比べて格段に軽いのが特徴だ。布状なので関節部分の突起や構造物もなくシンプルに作れる。2018年の日米市場での一般向けリリースに向けてプロダクトは開発中というが、全体の重量は2kg前後となる見込み。

もともとSRI(スタンフォード研究所)のロボティクス部門で7年にわたって共同開発していたものを2016年春に部門ごとスピンオフしたのがSuperflexだ。アメリカ陸軍と一緒に開発していた「疲れない兵士」を生むためのウェラブルロボット技術を民間転用する、ということになる。

障害者やアスリートも対象だし、衣類に近いことからデザイナーやファッションブランドとの協業を考えているというが、大きなターゲット市場は介護だ。これまでのパワードスーツが被介護者を抱きかかえるときに健常者である介護者の力を増幅する利用形態が多かったのに対して、Superflexは自律して歩行や生活の基本動作ができなくなった高齢者が直接着衣して使うことを想定している。Mahoney氏によれば、どちらかといえば電動アシスト自転車に近いという。

日本のVCがリードを取った理由

このSuperflexがシリーズAラウンドとして9600百万ドル(約11.3億円)の資金調達を今日発表した。本ラウンドをリードしたのは先日200億円の第6号ファンド設立を発表したばかりの日本の独立系VC、グローバル・ブレイン。ほかにHorizons VenturesRoot VenturesSinovation Venturesによる協調投資となっている。米国発スタートアップに対するグローバルな協調投資で日本のVCがリードを取るのは「日本のVC業界としても画期的」(グローバル・ブレイン代表の百合本安彦氏)で「SRIとコネクションができたことも大きい」(同)という。SRIは1946年にスタンフォード大学によって設立された研究開発機関で、古くはマウスの発明や最近だとiPhoneに搭載されるSiriを産んだ機関として知られている(現在のSRIのプロジェクト一覧)。

Horizons VenturesはSkype、Siri、Facebook、Spotifyなどへの投資でも知られる香港の有力VCだ。Sinovation Venturesは中国のVC。 もともとインターネットやGPSを産んだDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)の支援の受けたプロジェクトとしてスタートしたことを考えると、米国軍需から民間転用の応用で、高齢化先進国の日本やアジア市場への足がかりを早くも付けた、ということになる。「もともとグローバル・ブレインは介護市場に強く、日本と東南アジアの市場を熟知している」(グローバル・ブレイン百合本氏)

今回の投資決定は「(市場に出ているパワードスーツなど)全部を試着した上での総合評価した結果」(百合本氏)という。従来のパワードスーツより大幅なコストダウンが可能であるほか、介護者ではなく、お年寄りが直接身につけることから重量的に考えてSuperflex以外に比べるべきものはなかった、という。軽量のため装着したまま電源を切ることができ、長時間動作も期待できるそうだ。

まだ1着あたりの価格がどの程度になるか、あるいは月額利用モデルとするかなどは未定だが、「コンシューマー市場で売る価格。これは従来とは全く異なるジャンルの家庭向け電化製品でもある」(Mahoney CEO)という。少なくとも産業用ロボット製品のような価格になることはなさそうだ。

ところで自力でなく、補助付きで高齢者が活動をするようになると、かえって筋力退化を早めるのではないかと思ったのだけど、Mahoney氏によれば逆の調査データも。健康維持は筋肉だけの話ではなく、心肺機能を維持するための物理的アクティビティも重要で「たくさん動けば、より健康」だそうだ。

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グローバル・ブレイン代表の百合本安彦氏(左)と、Superflex CEOのRich Mahoney氏(右)

三井不動産が50億円のCVCをグローバル・ブレインと共同で設立

日本国内で事業会社がスタートアップへ資金を提供するためのファンドであるCVCファンドを設立する流れが続いているが、三井不動産も今日、総額50億円となるファンドの立ち上げを発表した。本業強化や事業領域拡大を狙う。東京・六本木で会見した三井不動産取締役専務執行役員の北原義一氏はファンド設立の意味合いとして「短期的な利益を追求するわけではない。リスクを取ってアントレプレナーと一緒に未来を作っていきたい」と述べた。

photo01「31VENTURES Global Innovation Fund 1号」と名付けられた新CVCはグローバル・ブレインと共同で設立したもの。運営期間は10年で、アーリーステージのスタートアップを中心にシード期からミドル期を投資対象とする。日本を中心に、北米、欧州、イスラエル、アジア諸国などで投資していくという。投資領域はバイオや創薬以外としていて、不動産、IoT、セキュリティー、エネルギーなどを例に挙げている。今回CVC設立に関わったグローバル・ブレインは300億円を運用する独立系VCであるほか、これまでにもKDDIやニフティと共同でCVCを設立してきた経緯がある。グローバル・ブレイン代表の百合本康彦氏によれば同ファンドの投資先では9件のIPOと21社のM&Aの実績がある。

これまで三井不動産はベンチャー向けオフィスを幕張、日本橋、霞が関、柏の葉などで運営してきた実績があり、これまで330の企業・個人が会員となっている。また三井不動産は、既存VCへのLP出資としては内外ファンドへも出資実績がある。国内ではジャフコ、ユーグレナやSMBC日興証券が立ち上げた次世代日本先端技術育成ファンド、そして海外VCだと500 StartupsやDraper Nexus Venturesにも出資してきている。

今回は三井不動産は社内でバラバラに動いていた関連メンバーを集約した形だ。今後は資金、コミュニティー、三井不動産が持つアセットやリソース、社外専門組織による支援の3つの柱で、新産業創出をサポートしていくという。三井不動産が持つアセットというのは具体的には、住まい、ショッピングセンターやリゾートホテル、オフィスビル、物流施設など顧客接点などが含まれる。これが起業家にとって有効なプラットフォームとなるのではないかと話す。たとえば、「三井のリパーク」の駐車場において、三井不動産が直接出資しているクリューシステムズの高機能セキュリティ機能を導入決定したことや、コワーキングスペース「Clipニホンバシ」でフォトシンスのAkerunの実証実験を行ったこと、Asia Research Instituteというスタートアップの位置情報アプリを実用化に向けて豊洲で実証実験するといった取り組みを行っているそうだ。

大手不動産デベロッパーはどこも、成長性の高いスタートアップ企業群の誘致に向けて動いてるし、これまでの三井不動産の取り組みを見ていると、今回の三井不動産のCVC立ち上げは、ほとんど既定路線だったようにも見えるくらいだ。ただ50億円というのはCVCとしても比較的大きいし、踏み込んできた印象もある。

2015年以降に組成されたCVCファンドには、2015年1月設立のYJキャピタルの200億円の2号ファンドや楽天が2016年1月に設立した100億円のCVCが規模の大きい。このほかLINE Venturesや富士通、電通ベンチャーズ、テンプホールディングス、朝日放送などが10〜50億円のファンドを設立・組成している例がある。

「マネタイズは来年以降に」–BASEがグローバル・ブレインから3億円調達、元ペパボ福岡支社長も参画

「当初は今夏にもマネタイズを始める予定だったが、2014年中は考えないことにした。市場自体がまだまだ大きくなる」——ネットショップ作成サービス「BASE」を手がけるBASE代表取締役社の鶴岡裕太氏はこう語る。同社は5月15日、グローバル・ブレインから約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

「30 秒でネットショップを作ることができる」をうたうBASEだが、出店店舗数は楽天超えの(楽天は約4万2000店舗。もちろん性質も異なり単純比較はできないが)8万店舗を達成。月間の流通総額は非公開ながら、「すでに億単位にはなっている」(鶴岡氏)とのことだ。直近では大型のクライアントも出店をはじめたほか、百貨店とのリアルイベントを開催するなどしている。

しかし一方でマネタイズはほとんど進めていない。もちろん決済会社の手数料はユーザーから取得するものの、同社としてのサービス利用料などは取っておらず、オプションサービス群を提供する「BASE Apps」でもほぼ収益を出さずにサービスを提供している状況だという(余談だが、ブラケットの「Stores.jp」は、オプションサービスでも利益を出していると聞いている。世間で競合とは言われているが、ビジネスモデルは違うようだ)。

そのためBASEでは、当初2014年夏にも各種手数料やオプション、業種特化型のテンプレート販売などで収益化を検討していたとのこと。しかし今回の調達を決定して、この予定を2015年以降にずらした。2014年はサービス拡大のために注力するという。「マーケットにはいろんなプレーヤーががいるが、BASEを含めてみんな成長している状況」(鶴岡氏)。今後はBASE の開発やサポート人材の拡充、PRの強化のほか、多国語対応を進めて海外進出も視野に入れる。今回の増資に伴ってグローバル・ブレインの深山和彦氏が社外取締役に就任する。

またBASEでは、元GMO ペパボ取締役で福岡支社長の進浩人氏をCOO に迎える予定。鶴岡氏によると、進氏はネットショップ構築サービス「カラーミーショップ」やハンドメイド作品のCtoCプラットフォーム「ミンネ」など、GMO ペパボのEC関連事業の立ち上げを手がけてきた人物とのこと。