語学アプリ「abceed」に新バージョン、TOEIC以外の英語学習にも対応

語学アプリ「abceed(エイビーシード)」を運営するGlobeeは、iOS版abceedの新バージョンリリースを発表した。これまではTOEIC学習に特化したUI/UXで提供されてきたが、汎用的な英語学習に対応できるようにリニューアルされている。

abceedの特徴は、出版社から刊行されている200以上の紙の教材と連動しながら、クイズやシャドーイング、ディクテーション、スラッシュリーディングなど約20種類のトレーニング法に対応したアプリである点だ。参考書を広げながら紙と鉛筆、音声プレイヤーを駆使して学習する代わりに、空いた時間にアプリで学習を進めることができるようになっている。

TOEIC、英検、英会話など、200以上の英語教材に対応

2017年10月からアプリ内課金を行う有料版の提供がスタートしたabceedは、2019年10月現在、アカウント登録者数が90万人を超えた。このユーザー90万人分、1億問以上の解答データを活用して、abceedでは「abceed AI」を開発。ユーザーのTOEICスコアをリアルタイム予測できるほか、ユーザーに最適な問題をレコメンドして、効率よく英語学習を進められるように促す。

最新バージョンではTOEIC以外にも、TOEFL、英検、英会話といった学習に対応できるよう汎用的なデザインへ変更。ウィズダム英和・和英辞典やユーザー間の全国模試機能、オリジナル教材機能なども追加された。2020年春にはスピーキング対策機能の追加と、android版のリリースも予定しているという。

既に紙の教材を持っているユーザーが、教材の音声を再生する機能や自動採点マークシート機能、学習時間計測機能を利用するのは無料(一部有料販売されている音声を除く)。単語帳や辞書機能、シャドーイング、ディクテーション機能が使える「Premiumプラン」は450円/月〜、全ての教材が使い放題で予測スコア機能、問題のレコメンド機能も利用できる「Unlimitedプラン」は1000円/月〜、PremiumプランとUnlimitedプランの両機能が使える「Unlimited Plusプラン」は1400円/月〜(いずれも1年プランの金額)となっている。

紙の教材をアプリで見る、というだけなら電子書籍でもよいような話だが、語学学習で求められる音声の再生やシャドーイング、ディクテーションと、問題がどこまで解けたか自動的にチェックできる機能がセットになっている、という点がabceedの面白いところだ。

語学の分野にとどまらず、紙の書籍を活用して、横断的に利用できるプラットフォームとする動きは、このところ増えている。スタディプラスが9月に公開した「ポルト」は大学受験の参考書の分野で、abceedと同様のサービスを展開している。また、Legal Technologyがつい先日正式にローンチした「Legal Library」は、法律家向けに複数の法律専門書籍や官公庁の資料を、横断検索して閲覧できるプラットフォームとなっている。

語学アプリ「abceed」運営が資金調達、AI開発に加え“学習空間”設計を目指す

あまたある語学学習アプリの中で、「abceed(エービーシード)」はTOEIC教材を中心に提供するものなのだが、出版社から刊行されている紙の教材と連動している点が大きな特徴だ。

abceedを運営するGlobeeは10月15日、日本ベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資の実施を発表した。2014年設立のGlobeeはこれまでにエンジェル投資家から出資を受けているが、VCからの資金調達は初めて。今回の第三者割当増資による調達額は数千万円規模と見られ、同ラウンドで融資も合わせて総額1億円を調達予定だという。

Globeeは2014年6月、当時大学4年生だった代表取締役の幾嶋研三郎氏により設立された。幾嶋氏は留学生とのコミュニケーションを密にすることで、1年間でTOEIC 955点を獲得できた経験から、語学学習をサービスとすることを着想。創業当初は、留学生バイトを講師とした英語学校の運営を行っていた。

しかし語学学校といえば、競合がひしめくレッドオーシャン。うまく成長できたとしても5年後、10年後の行く先が見えないと幾嶋氏は考えた。当時の語学学校ではまだまだ、紙やオフラインでの教材提供や学習進捗管理が中心だったことから、「IT化の流れがこれから来る。そのときに変革する側にいたい」と2015年初頭に事業のピボットを決意。その後一旦、ピボット先となる事業を探しながらソフトバンクへ入社し、シェアサイクリングや保育園向けアプリなどの新規事業開発に携わっていた。そして2017年1月にソフトバンクを退社。まずは無料アプリとしてabceedの提供をスタートし、その年の10月にアプリ内課金を行う有料版をリリースした。

abceedは、初めからアプリとして完結するように開発されたわけではなく、書店にも並ぶ紙の本の教材と連動した“文房具”アプリとして誕生した。幾嶋氏は「紙の教材ありきで、そこへITの便利さを取り入れるという発想で開発・公開したところ、既存の教材を使っていた人が利用して、一気にユーザーを集めることができた」と話す。

文房具、すなわち英語教材に対する「鉛筆・消しゴム・マークシート」と「音声再生プレイヤー」の代わりとして機能するabceed。その使い方を見てみよう。

まずは音声を聞きたい問題集を、アプリの中から探して選択。音声はダウンロードして、再生することができる。

マークシートも問題集ごとに表示でき、紙の教材を見て、音声を聞きながら問題を解くことも可能だ。マークシートを利用すると、問題を解いた後に自動で採点をしてくれる。

また一部の教材については、紙の本がなくてもアプリ内で学習が完結する、アプリ学習機能が利用できる。単語帳教材の一部を“お試し”で使ってみたが、各単語ごとに1画面でディクテーション、解説確認ができるし、その後の理解度のテストもサクッとできる。リーディング系の問題では、紙の本併用のほうが良いかもしれないが、リスニング系の問題については特に、アプリ学習は手軽に進められて良いのではないかと感じた。

現在の対応教材数は131タイトル。そのうちアプリ学習機能付きの教材は45タイトルだ。音声ダウンロードとマークシートの利用は無料。アプリ学習機能は有料で、各学習コンテンツを電子書籍のようにアプリ内で購入する形となる。また、有料のプレミアムプランにアップグレードすると、自分用の単語帳への登録やディクテーション機能、お気に入り教材のオフライン利用、教材をまたいだ総合学習分析機能などが利用できるようになる。

幾嶋氏は「紙の本というオフラインのコンテンツをツール化することで、結果として大量の学習データが取得できた。このデータは電子コンテンツ(アプリ学習機能)開発にも役立っている」と述べている。

これまでにabceedで蓄積した学習データはユーザー50万人分、億単位になるとのこと。Globeeでは調達資金で、これらの学習データと、深層学習や位相的データ解析といった技術を組み合わせ、ユーザーに最適な学習コンテンツをレコメンドする「abseed AI」の開発を進めていく考えだ。

幾嶋氏はまた「既存のTOEICメインとする学習領域から、語学全般へ領域を広げたい」とも話している。さらにこれまで、紙とデジタルを併用することで効果的な学習を促してきた経験を踏まえ、「オフラインも含めた新しい学習体験ができる“空間”を設計・デザインするためにも投資していく」とのことだ。具体的には、AR/VR、スマートスピーカーなどを取り入れた語学プラットフォームの開発を検討。建築家・山之内淡氏を顧問に迎え、オンラインとオフラインを融合した新しい学習体験の設計・デザインを進めるという。

「現在は日本国内をメインにサービスを提供しているが、世界展開も視野に入れている」という幾嶋氏。「日本のアプリストアで1位を獲得したとしても、MAU(月間アクティブユーザー)は20万〜30万程度。海外にも展開することでMAUは100倍以上になる。ユーザー数100万を超える、使われるサービスを目指して今後も開発を進めていきたい」(幾嶋氏)

写真左から、日本ベンチャーキャピタル 劉宇陽氏、Globee CTO 上赤一馬氏、代表取締役 幾嶋研三郎氏、建築家 山之内淡氏(撮影:宇田川俊之氏)