人気瞑想アプリHeadspaceがAlpine.AIの買収でAIを装備へ

3100万人のユーザーを擁し、評価額3億2000万ドル(約356億円)の瞑想アプリHeadspaceは、他の健康関連商品と差をつけようと、音声認識とAIの技術を倍掛けしようと考えている。同社は本日(米国時間9月4日)、デジタル・アシスタント市場の黎明期から活躍していた企業Alpine.AI(元VoiceLabs)を買収したと発表した。それには、Headspaceの主要アプリの音声による操作を高度化する狙いがある。

「現在、瞑想アプリはいくつかありますが、自分が今どの段階にあるかを的確な音声ガイドで教えてくれるものができれば、他社製品を大きく引き離すことができます」と、Headspaceの新CTO、Paddy Hannonは話している。彼は、Alpineから来た4人を率いて、Headspaceのサンフランシスコのオフィスに加わることになっている。

買収の条件は公表されていないが、Headspaceによると、その人材と技術の両方を引き継ぐとのこと。その中には、Alpine.AIの共同創設者でCTOのAlexandre Linaresと3人の技術者が含まれている。Alpine.AIのCEO、Adam Marchickは、今後は顧問として残る予定だ。

VoiceLabsは、長年にわたり、音声をベースにしたさまざまな製品を試してきた。その中には、Amazonに潰された音声を使った広告製品、音声アプリ開発者のための分析サービス、そして最近では、小売業者のカタログを読み込み、AIで顧客の製品に関する質問に答えるという、音声による買い物アプリを構築するためのソリューションもあった。

後にAlpine.AIと社名を変更したこの会社に、Headspaceは強い興味を示した。

Alpine.AIは、小売業者のためのソリューションを開発してきた。それは、顧客がボイス・アシスタントと自然に会話ができるようにするものだ。たとえば、マスカラについて尋ねると、ボイス・アシスタントは「何色にしますか?」とか「防水にしますか?」と聞いてくれる。

Headspaceは化粧品を売るつもりではないが、Alpine.AIの機械学習技術を自分たちの分野に応用する可能性に期待を寄せている。

現在、Headspaceの主要なインターフェイスには音声が使われている。瞑想セッションでは、心地よい、穏やかで、特徴ある声がユーザーをガイドする。この声は、共同創設者で、元チベット仏教僧のAndy Puddicombeのものだ。

これを基礎にして、Alpine.AIの技術を導入することで、ユーザーは音声によるインタラクティブな操作が可能になり、Headspaceの別の瞑想セッションを開拓したり、より丁寧な個別の指導を受けられるようにするという計画だ。

たとえば、ユーザーが「ストレスで参っている」と言えば、アプリは、その人のアプリ内の履歴を参考に、適切な瞑想法を推薦してくれる。

Alpine.AIの技術を追加することで、Headspaceは、参入企業が多くひしめき成長過程のこのセルフケア・アプリの世界で、大きな競争力を持つことになるだろう。Headspaceは、いちばんのライバルであるCalm.comに、評価額の面でわずかに優位に立っている。PitchBookのデータによれば、Calm.comの評価額は、およそ2億2700万ドル(約253億円)だ。

Headspaceの音声アプリを改良するという、第一の利点のほかにも、Apline.AIの技術には別の使い道がある。iOSとAndroidのアプリでは、ユーザーのアクションによって(音声コマンドではなく)、個別の助言を提示するという機能も考えられる。

Hannonによると、Alpine.AIには、その成り立ちによる魅力もあると言う。

「彼らはすべてをAmazonの上で作りました。Dockerを使用しています。大変に魅力的な買収だった理由には、それもあります」とHannonは説明している。「彼らは、私たちが内部で作っていたのと同じパターンでソフトウエアを作っていたのです。私たちが使っているのとほとんど同じデータベース技術も利用していました。彼らも私たちと同じ、RESTサービスを使ってます。なので、インフラの観点からすると、とてもわかりやすいのです」

「いつ面白くなるかと言えば、私たちの音声コンテンツを、彼らのテキストベースのシステムに加えたときです。しかし、AmazonがLexのようなサービスで提供しているのを見てわかるとおり、テキストから音声へ、または音声からテキストへ変換するシステムは数多くあります。そうしたものを使えば、実装は可能だと私は考えています」と彼は言っている。

今回の買収には、ボイス・コンピューティングの未来に賭けるという意味もある。音声で操作するデジタル・アシスタント機器の数は、この2年半の間に、世界中で10億台を超えるまでになっている。アメリカの家庭の20パーセントが専用のスマートスピーカーを所有していて、その数は増加すると見られている。

収益性の高いセルフケア・アプリ市場での人気アプリのひとつとして、Headspaceのユーザー数は、現在のところ3100万人に達している。そのうち、190各国にわたる100万人が有料加入者だ。また、同社は大企業とその従業員に瞑想エクササイズを提供するB2Bビジネスにも力を入れていて、250社以上の企業が契約をしている。

買収の時点で、Alpine.AIは、The Chernin Group、Javelin Venture Partners、Betaworksといった投資会社から「数百万ドル」を調達したシードステージの企業だった。しかし、音声で使えるスマートスピーカーの人気が確かなものになってはいるが、音声ベースのインターフェイスを開発する数あるスタートアップの中で、規模を拡大し、Nuanceや、Apple、Google、Amazonといったその他のプラットフォーム大手と肩を並べるようになったものは、まだない。それもまた、Alpine.AIの買収が魅力的だった理由だ(しかもイグジットに対してもオープンだった)。

Alpine.AIは、その製品を利用していたPetcoなどの少数の小売店との関係を縮小し、個別の移行プランを提示している。

「私たちのこれまでの努力が、ユーザーの健康的な習慣を指導したりガイドすることに特化できることを、とても嬉しく思っています」とAlpine.AIのCEO、Adam Marchickは、買収について話している。「Alpineの機械学習能力は、Headspaceの取り組みを加速し、新しい会話エクスペリエンスを市場にもたらすでしょう」

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(翻訳:金井哲夫)

悟りもアプリで開ける時代?ーー拡大するマインドフルネスのスタートアップ企業

【編集部注】執筆者のJoanna GlasnerはCrunchbaseの記者。

 

インターネットに接続している生活が良いとは限らない。スマホを片手に時間を浪費し、人と接する機会を失い、即座に得られる満足感を求める悪しき習慣ができつつある。そう感じることがあまりにも多い。

この問題を解決できるアプリがあればいいのに。できれば1日中使えて、人間とのやりとりを必要としないのなら尚良い。数分でダウンロードできるのなら言うことなしだ。

ようこそ、マインドフルネスとウエルネスの世界に。ここ1年ほどで投資家が、マインドフルネスや幸福、理想的な精神状態の促進を目的としたアプリやツールの開発を行うスタートアップ企業を支援した数は20以上になる。Crunchbaseのデータによると、これらの企業は今日までで1億5000万ドル以上を調達。最も高額なラウンドのいくつかはここ数カ月で行われ、その資金のほとんどはカリフォルニア州に本拠を置くスタートアップ企業に投じられる。

瞑想マネー

深呼吸をしたら、その金がどこに注ぎ込まれているのかを説明しよう。

今のところ、資金調達において最高額なのはHeadspace。瞑想の技術を学ぶ人気アプリを開発した企業だ。サンタモニカに本拠を置く同社は、今年6月に3700万ドルの資金を調達し、現在までの調達額は7500万ドルとなった。ビジネスモデルは至って単純で、ユーザーは無料レッスンから使用開始して、継続したい場合はサブスクリプション費用を支払う。

Headspaceは自社のアプリを、1800万ダウンロード超えの世界で最も人気のある瞑想アプリと称している。だが、その会社のミッションはアプリのユーザー数より遥かに大きい。

「瞑想は序章に過ぎない」。Headspaceの最高執行責任者であるRoss Hoffmanはそう述べる。創業7年目のHeadspaceはこれから「生まれてから死ぬまでの健康と幸福に関する包括的なガイド」を作成したいと考えている。

Headspaceは事業拡大にも励み、幸せの輪を広げるためにも尽力している。人材募集のページには、ニット生地の布張りソファがある開放的なオフィスと、サラダとご飯を口にする幸せそうなスタッフが掲載されている。Headspaceの求職者には、世界の健康と幸福を向上するという企業理念に対し、応募する役職を通してどのように貢献できるかが問われる。

潤沢な資金を調達した健康促進に取り組むスタートアップ企業はまだ他にもある。「すべての感情的なニーズに対処するべく、ユーザーの意欲を引き出すようデザインされた」デジタルツールとプログラムを開発するHappify Healthは2500万ドルを調達。オンラインでヨガ、瞑想、フィットネスのレッスンを提供するGrokker2200万ドルを獲得している。

シードファンドや初期段階のファンドを調達している興味深い企業は他にも多くある。それにはHeadspaceの競合Calmや、モチベーションが高まるテキストメッセージを届けるShine、多忙な人の燃え尽き症候群を防ぐThrive Globalなどがある。

こうした動きは何を意味するのだろう?

冒頭の不機嫌さはさておき、よりバランスの取れた生活を送るために設計されたアプリは、インターネットで過剰に繋がった世界の隙間市場を埋めているようだ。また、過度なデジタルの刺激を電子機器で治すのは皮肉といえど、そこには論理性もある。

「テクノロジーは、この惑星にあるすべてのものに対する意識を広げてくれるかけ橋となった…しかし、テクノロジーは同時に我々をマルチタスカーにし、数千人の友達がいるのにもかかわらず、孤独にした」。社会的意識の高いマイクロVC、Mindful Investorsの共同設立者Stuart Rudickはそう語る。MIndfulのポートフォリオには、変化する気象音を使用して、ユーザーの瞑想をガイドする脳波計ヘッドバンドの開発企業Museも名を連ねる。

Rudickは、マインドフルネスと瞑想のツールに対する投資家の興味をより広域な健康的生活への関心と見ている。特に瞑想は十数年まえのヨガと似た成長をたどっており、より多くの人口に普及しつつある。

投資家の視点から見ると、ヨガやフィットネス、健康的な生活などへの投資は良いリターンと高評価の企業を生み出した。元々ベンチャー支援を受けて10年前に上場したヨガのアパレルメーカーLululemonは、現在80億ドル相当の評価額を誇る。ユニコーン企業を挙げると、屋内サイクリングブームの火付け役であるPelotonは、前回のラウンドで12億5000万ドルの評価額をつけた。(こちらにその他数社をまとめた)。

同様に失望もあった。最近の事例で言えば、未公開株式ファンドの支援を受けたヨガスタジオチェーンのYogaWorks。同社の株価は上場時すでに予想額を下回り、8月のIPOから3分の1まで落ち込んだ。

スターの力

 

だが、マインドフルネス界の投資家は単に金銭的リターンを求めている訳ではない。Rudickのようなダブルボトムライン・インベスターと呼ばれる投資家は、潜在的利益に加えて社会的利益をもたらす企業を探している。

瞑想やマインドフルネスはセレブからの人気も集めており、著名な支援者からスタートアップ企業が資金を確保するのに役立っているようだ。Headspaceの投資家にはRyan Seacrestジェシカ・アルバ、そしてJared Letoなどがいる。Museは支援者にアシュトン・カッチャーを持つ。一方Thriveは、有名なメディア起業家Arianna Huffingtonによって設立された。

とは言え、セレブからのサポートが活気のない企業をユニコーン企業に変えることはないだろう。しかし、セレブが勢ぞろいコンテンツを端末で眺め、我々がどれだけの時間を浪費しているかを考慮すれば、数分でも時間とって、気持ちをスッキリしようと提案するセレブに耳を傾ける方がおそらく利口だろう。

 

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(翻訳:Keitaro Imoto / Twitter / Facebook