コーエーテクモが今秋リリース予定のアプリ「三国志ヒーローズ」、「将棋ウォーズ」で知られるHEROZのAI「臥龍」を搭載

左から、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長の襟川陽一氏、HEROZ代表取締役COOの高橋知裕

オンライン将棋対戦「将棋ウォーズ」などで知られるAIスタートアップのHEROZは9月12日、コーエーテクモゲームスとの共同開発により、AIバトルボードゲームの「三国志ヒーローズ」をスマホ向けアプリとして2019年秋に配信することを発表。狙いはこのスマホゲームによりHEROZのAI技術をより多くの人々に届けることだ。

三国志ヒーローズは、三国志をテーマとしたターン制バトルボードゲーム。HEROZいわく、「テーブルゲームの手軽さと、eスポーツの競技性を併せ持ち、将棋や囲碁のようにプレイヤーの知略が勝利に直結する」。

ポイントは、シングルプレイのモードでプレイヤーの相手となるAIとして、HEROZが生み出した「臥龍(GARYU)」が搭載されていること。HEROZは、将棋の電王戦で史上初めてプロ棋士を破り、その後名人にも勝利した「Ponanza(ポナンザ)」や、世界コンピュータ将棋選手権で1位を獲得した「Apery(エイプリー)」などのAI開発者を擁する。

「臥龍」はHEROZの「HEROZ Kishin」をベースに、三国志ヒーローズ専用に特別なチューンアップを行った戦略戦特化型のAI。「プレイヤーのスキル上達に合わせ、入門レベルから上級レベルまで、さまざまな難易度でプレイが可能」だという。

コーエーテクモホールディングス代表取締役社長の襟川陽一氏は東京ゲームショウ2019にて、「私からHEROZ様に、一緒にゲームを作りましょうとお願いをした。AIをゲームにも活用できないか、というところが出発点だった」と共同開発にいたる経緯を説明。

HEROZ代表取締役COOの高橋知裕氏は「弊社のメンバーは機械学習を使って将棋のソフトから囲碁、麻雀まで、ボードゲームのAIを強くすることをずっと集中してやってきた。他の産業に適応していきたいという思いはずっと持っていた」と話す。

「将棋などの頭脳ゲームにおいて、考えて考えて勝利を勝ち取るのは、人間にとって非常に面白いこと。より多くの人に(そのような面白さを)届けたい。一方で、将棋となると少し難しいと思う人もいるかもしれない。このゲーム(三国志ヒーローズ)ではその難しさを極力なくしているが、脳みそで戦う。ファン層を広げていきたい」(高橋氏)。

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AIが金融理論に基づく株式ポートフォリオを自動提案、HEROZがSMBC日興証券と新サービス

AI開発のHEROZは3月25日、SMBC日興証券と共同で開発した投資情報サービス「AI株式ポートフォリオ診断」をSMBC日興証券のユーザー向けに3月29日より提供開始すると発表した。

AI株式ポートフォリオ診断は資産運用を始めたばかりのユーザーをターゲットにしたもので、AIを活用することにより現代ポートフォリオ理論と呼ばれる投資理論を初心者でも実践できるようにしたサービスだ。

同サービスの主な機能は2つある。1つ目はAIによるユーザーへのポートフォリオ提案だ。ユーザーが新規でポートフォリオを組む場合、ユーザーが投資金額と銘柄を1つ選択するだけで、AIが自動で効率的なポートフォリオを提案する。選択した銘柄と相性のいい銘柄を組み合わせていき、入力した投資金額内で購入可能なポートフォリオを提案するという仕組みだ。また、既存のポートフォリオのリバランス(銘柄の入れ替えや構成比率の調整)提案も行う。

2つ目は、ディープラーニングを利用したHEROZの「株価予測AI」によって銘柄の期待収益性をスコア化する機能だ。AIが決算データや株価データを学習することで、株式の1ヶ月先の期待収益性を予測し、スコア化するという。

HEROZはプレスリリースのなかで、「SMBC日興証券とHEROZは、昨年10月より実用化に向けた取組みに着手し、2019年度上期のサービス提供に向け準備中の「AI株価見守りサービス」をはじめ、今後も最新のAIの技術を用いた様々なサービスを提供いく予定」だとしている。

TC Tokyo団体・前売り券の販売開始!スタートアップの「いま」を知る絶好の機会

11月15日(木)と16日(金)に東京・渋谷ヒカリエで開催される日本最大級のスタートアップ・テクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo」まで2カ月を切った。9月19日からは、一般入場者向けの前売りチケットと、主に企業やまとめ買い向けの団体チケットの販売が始まっている。前売りチケットは1枚3万円、団体チケットは5枚以上の一括購入が条件となるが1枚2万円とオトクだ。

なお、前売りチケットは10月31日までの期間限定、団体チケットはTechCrunch Tokyoの開催当日まで購入できる。ここでは、改めて続々と決定している登壇者を紹介しておこう。現在、絶賛交渉中の登壇者も複数人いるので決定まであともう少し待ってほしい。

Julio Avalos氏(GitHubチーフ・ストラテジー・オフィサー兼ジェネラル・カウンセル)
GitHubは、ソースコードをホスティングするソフトウェア開発プラットフォーム。Avalos氏は、2012年にGitHubにジョイン。同社では経営陣および取締役会との連携を推進、ビジョンの定義および事業の管理運営を担うと同時に、法務や政策、人材、ソーシャルインパクト、戦略的パートナーシップを監督している。Avalos氏には今後のGitHubの戦略について聞きたいと思っている。

堀江裕介氏(dely代表取締役)
delyは、レシピ動画サービス「クラシル」などを展開するスタートアップ。2016年2月にサービス開始したクラシルは現在までに1200万以上のダウンロード件数、290万人を超えるSNSフォロワー数を獲得するまでに成長している。また、ヤフーによる連結子会社化が発表されて話題になった。堀江氏には、彼の頭の中にある1兆円企業になるまでのロードマップを聞く予定だ。

Long N. Phan氏(Top Flight Technologies CEO)
Top Flight Technologiesは2014年創業で、ドローンの研究開発と運用を進めることで、将来的に「空飛ぶクルマ」の実現を目指す米国スタートアップ。Long Phan博士からは、空飛ぶクルマというワクワクする話を聞けそうだ。

林 隆弘氏(HEROZ代表取締役CEO)
HEROZは、人工知能を活用したインターネットサービスの企画・開発・運営を手がける日本のスタートアップ。2017年には将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」が現役将棋名人に勝利するなど、HEROZの技術力にいっそうの注目が集まった。林氏には、上場年となる今年に改めて創業当初を振り返り、氷河期と呼ばれる時代に起業家になることで得た経験、学び、苦労を大いに語ってもらいたいと考えている。

Harinder Takhar氏(Paytm Labs CEO)/中山一郎氏(PayPay社長)
paypay_nakayamapaytm_halisonPayPay(ペイペイ)は、ソフトバンクとヤフーの合弁会社で、2018年秋よりバーコードやQRコードを使って決済ができるスマホ決済サービスを開始する。同サービスを提供するにあたって同社は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先であるインドのPaytm(ペイティーエム)と連携。Paytmは、すでに3億人以上のユーザーと800万店の加盟店にサービスを提供している決済サービス事業者だ。TechCrunch Tokyoでは、元PaytmのCEOで、現在はPaytm LabsのCEOを務めるTakhar氏と、PayPayの中山社長に登壇いただき、モバイル決済の最新事情について語ってもらう予定だ。

芳川裕誠氏(Treasure Data CEO)
A1O8H0568.jpg2011年にCEO兼共同創業者の芳川裕誠氏ら3人の日本人がシリコンバレーにて立ち上げた。今年7月に、ソフトバンクグループ傘下のコンピュータチップ設計企業ARMホールディングスに買収されたことで、国内での認知度も一気に高まった注目の企業。芳川CEOには、日本人が異国の地で創業した理由や苦労したことなどの創業ストーリーだけでなく、近年あらゆる分野で重要度が増しているビッグデータ解析について興味深い内容を聞き出したいところだ。

小泉文明氏(メルカリ取締役社長兼COO)
メルカリについては、もはや説明不要かもしれない。フリマアプリで革命を起こした日本では希有なユニコーン企業。現在では子会社のソウゾウが「次のメルカリ級事業を創る」をミッションに掲げて、旅行領域での新規事業開発を進めている。さらに昨年には金融関連の新規事業を行うためにメルペイを設立したことも記憶に新しいだろう。小泉社長には、メリカリの上場について振り返っていただいたうえで、今後の展望についても語ってもらいたいところだ。

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今年上場のHEROZ代表がTC Tokyoに登壇、“スタートアップ氷河期”と言われた創業当時を振り返る

11月15日、16日に開催する僕たちの年次イベント「TechCrunch Tokyo 2018」に登壇いただくスピーカーをまた1人紹介しよう。2018年4月20日に東証マザーズ市場へ上場したHEROZの代表取締役、林隆弘氏だ。

HEROZは、人工知能を活用したインターネットサービスの企画・開発・運営を手がける日本のスタートアップ。各種AIエンジンを自社で作り上げる高い技術力が同社の強みだ。2017年にはHEROZリードエンジニアの山本一成氏が開発した将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」が現役将棋名人に勝利。HEROZの技術力に一層の注目が集まった。

山本氏のほかにも、世界コンピューター将棋選手権で優勝した将棋プログラム「Apery(エイプリー)」の開発者である平岡拓也氏など優秀なエンジニアを多く抱えるHEROZ。総従業員数40名のうち約3分の2がエンジニアという、まさに“技術ドリブン”という言葉が相応しいスタートアップだ。

HEROZでは創業当初から培ってきたAI関連技術を活用し、ダウンロード数が約480万を超す「将棋ウォーズ」をはじめとする頭脳ゲームアプリを多数展開。そのBtoC事業が現時点における収益の柱だ。そのC向け事業に加え、近年のHEROZが「成長分野」と位置づけて注力をするのが、これまで将棋AIの開発で培った技術を標準化して法人向けに展開するBtoB事業だ。

HEROZの2018年4月期決算資料より

同社は機械学習やディープラーニングをサービスとして提供するMLaaS(Machine Learning as a Service)の「HEROZ Kishin」を開発。同サービスを金融、建設、品質管理など幅広い分野に展開している。2017年に資本業務提携を結んだハーツユナイテッド(現デジタルハーツホールディングス)との協業では、HEROZ Kishinによってソフトウェアテストやデバックを自動化するなどの実績をつくった。また、マネックス証券との協業では、AIがユーザーの投資行動を学習することでその後の投資技術の向上をサポートしたり、過去の取引データを分析することで不正取引の検知をするなどしている。

そんなHEROZの創業は2009年4月。“スタートアップ氷河期”と言われる時代だ。今でこそ「〇億円調達」という言葉をよく目にするようになったが、当時はリーマンショックのあおりで日本のスタートアップ業界も息を潜め、そうした資金調達のニュースすら少ないような状況だった。そんな中、HEROZは創業直後の2009年6月にジャフコなどから1億円を調達するなど当時から“大物ルーキー”として注目される存在でもあった。

今年のTechCrunch Tokyoに登壇する林氏には、上場年となる今年に改めて創業当初を振り返っていただき、氷河期と呼ばれる時代に起業家になることで得た経験、学び、苦労を大いに語って頂きたいと思っている。そのような経験談は、若い世代の起業家にとっても非常に有意義なものとなるはずだ。また、「将棋ウォーズのHEROZ」と称されたBtoC中心の時代から、BtoB事業にも重きを置く現在のビジネスのかたちへの変遷、そして、上場企業となったHEROZのこれからの戦略についても聞きたいと思っている。

残念ながら、学生限定の割引チケットである「学割チケット」はすでに売り切れてしまった。でも、9月18日までは、通常料金よりも大幅に割引された「超早割チケット」を手に入れることができるので、下のリンクからぜひ購入いただきたい。

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「将棋ウォーズ」開発元のAIスタートアップHEROZがマザーズ上場へ

将棋ウォーズ」を始めとした個人向けのゲームアプリや法人向けのソリューション「HEROZ Kishin」など、AI事業を展開するHEROZ。同社は3月15日、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を申請し承認された。上場予定日は4月20日だ。

有価証券報告書によると同社の平成29年4月期(第9期)における売上高は8億7762万円、経常利益が9435万円、当期純利益が9406万円。平成30年1月期(第10期第3四半期)における売上高は8億7189万円、経常利益が3億394万円、当期純利益が2億2393万円だ。

HEROZは2009年4月の設立。「mixi」向けのアプリを複数リリースしたのち、2012年にAIを活用したスマホアプリ将棋ウォーズを開始した(東京大学将棋部の出身である同社エンジニアの山本一成氏が開発したAI「ponanza」や、将棋ウォーズについては以前TechCrunchでも紹介している)。

その後も「Backgammon Ace」や「CHESS HEROZ」、「ポケモンコマスター」などを立て続けにリリース。現在はこれらのサービスを通じて培ったAI関連技術を、金融や建設など法人向けにも提供している。

株式の保有比率については、代表取締役の林隆弘氏と高橋知裕氏がそれぞれ35.19%を保有。ついでMICアジアテクノロジー投資事業有限責任組合(モバイル・インターネットキャピタル)が8.44%、HEROZが3.57%、ビッグローブが2.81%と続く。

将棋で磨いたAI技術をFintechへ応用、HEROZが1億円を追加調達

将棋AIをビジネス化して実績を伸ばしているHEROZが今日、創業6年目にして追加で1億円の資金調達を行ったと発表した。これまで取り組んきたでボードゲームAIによるビジネスの国際展開に加えて、金融やヘルスケア領域にもAIを適用していくという。第三者割当の引受先は一二三(ひふみ)インキュベートファンド。

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HEROZの「将棋ウォーズ」については以前TechCrunch Japanでも取り上げた。将棋なら羽生名人ということになるが、人間のチャンピオンを凌駕する実力を持つに至ったAI技術を活かし、HEROZは人間同士のオンライン対戦のコミュニティーを作ってきた。一般プレイヤーからすると、AIはすでにあまりにも強いので、AIが「コーチ役」を果たしていて、これにユーザーは課金するという仕組みが回り始めている。月商は非公開だが原価率が低く済む割にユーザーの熱量が高いのが特徴といい、強力なAIを呼び出して自分に代わってAIに指してもらうのが5手で100円。それから1日3局という対局数制限が解除できる月額500円の有料課金ユーザーが全体の1割程度。提供開始から3年、現在1日20万局以上の対戦が行われているという。

将棋ウォーズで培ったマネタイズモデルを国際展開しようというのが「バックギャモンエース」、「チェスヒーローズ」だ。将棋人口は約1270万人。これに対してバックギャモンは約3億人、チェス約7億人と、市場はより大きい。チェスやバックギャモンは、欧米では高級指向の文化として受け入れられていてプレイヤーの贅沢品の購買傾向が高いことから、HEROZではメディアとしての価値もあると見ているという。例えば、世帯収入が12万ドル以上ある人のうち21%が日常的なチェスプレイヤーなのだそうだ。

金融やヘルスケアでも応用が効く

将棋AIで培った機械学習やディープラーニングのノウハウは、「そのままではないものの並列化や機械学習のテクニックなど応用が効く」(HEROZ共同創業者で代表取締役の高橋知裕氏)ことから、まずは金融分野に進出する。具体的には市場のアービトラージを取るようなもので、過去データから将来を予測するようなもの。これはすでに証券会社に提供してて、「証券会社が持っている分析よりも良い結果を出している」(高橋氏)という。また、まだ実証段階の取り組みであるもののヘルスケア領域でもAIの適用を試みる。こちらの分野では、医療系ベンチャーの日本医療機器開発機構と協業に向けて模索を開始した段階という。

HEROZは2009年4月創業で、創業時にビッグローブキャピタルなどから1億円の資金調達をしたあと、モバイルゲーム関連で収益を上げてビジネスを回してきた。会社として「AI x モバイル」を掲げていて、将棋AIで最高峰の強さであるPonanzaの開発者の山本一成氏など過去3人の将棋電脳戦出場者がいるなどトップエンジニアを抱えているのが強み。社員数は現在約70名。

最強AIが人間と切磋琢磨、将棋に続いてバックギャモンとチェスで世界に挑戦するHEROZ

モバイルゲームのアイテム課金といえば、ほかのプレイヤーより速く何かを達成したいとか、強くなる何かのためにお金を出して優越感や満足感を得るためのものという印象を持っていたのだけど、2009年創業のスタートアップ企業、HEROZ(ヒーローズ)が提供するオンライン将棋対戦「将棋ウォーズ」のちょっと変わった「アイテム」の話を聞いて、こんなマネタイズもあったのかと膝を叩いた。

「将棋って偶然性がない実力の世界なので、モバイルゲームのようにお金をかければ勝てるわけではないんです。羽生善治名人には勝てません。そこで人工知能(AI)を投入しているんです」

HEROZの共同創業者で代表取締役の高橋知裕氏によれば、同社が2012年から提供している「将棋ウォーズ」の課金アイテムは、世界最強の人工知能(AI)による「5手分の指し手」なのだという。ユーザーは1回100円で「棋神」と呼ばれるAI搭載の将棋の神キャラを召喚することができる。この棋神が、その局面に合った最良の5手をユーザーに代わって指してくれる。HEROZはゲーム含めた他のエンターテイメント系のアプリ開発経験もあるため、最近のゲームに見られる派手な演出でババーンと最強の手を指してくれる(上の右画面)

このAIはプロ棋士に勝利した世界最強レベルで、普通の人はもちろん、プロ棋士でも簡単に勝てるようなものではない。

上達の「お手本」を示す指導役としてのAI

こう説明すると、なんだ、やっぱり勝つためのチートのようなものかと思うかもしれないが、実は棋神を使うのは1局あたり1、2回というユーザーが多いという。実力勝負の世界なので、AIに代理で打ってもらって勝ったとしても何も嬉しくないからだ。では、なぜユーザーが棋神を呼ぶかというと、それは学びのためだ。

「勉強でもスポーツでもゲームでもお手本って必要じゃないですか。それと同じです。AIにリアルタイムで教えてもらえるんです。だから棋神が使える将棋ウォーズは、eラーニングも兼ねているんです。ユーザーの方には将棋で強くなりたいっていう人が多くて、ただ単に勝ちたいという人は、そんなにいません」

「実は初心者よりも上位の人同士のほうが棋神を使います。それは、より局面が難解だからです。上級者ほど感動するみたいですね。なるほど、こういう手があったのか、と」

ちなみに、棋神が指しているのか人間が指しているのかは対局相手には表面上は分からなくなっているそうだ。

将棋は1局が平均して100手ぐらいで、双方50手ずつ。終盤で明らかに勝ち目がない局面には棋神は使えないので、このアイテムが使えるのはせいぜい1000円分ぐらいまで。将棋に限らないが、一流のプロに個別指導を受けると1000円などでは済まない。だから、棋神を使うことは将棋ファンのユーザーにしてみれば「安い」のだそう。その局面で打つべき手を教えてもらえる上に、デジタル対局なので後から棋譜を振り返れるというメリットもある。

最強の将棋プログラムを作る人工知能研究者たち

「指導者としてのAI」という新たなマネタイズ手法を得た将棋ウォーズだが、これが可能になった背景には、アルゴリズムの改善とコンピューターの高速化があるという。

コンピューター将棋が初めて人間のプロ棋士に勝ったのは、2012年のこと。チェスで世界チャンピオンのカスパロフがIBMのディープブルーに負けて話題になったのが1997年というのを考えると、割と最近のことだ。

HEROZには人工知能の研究者として広く知られたプログラマ達がいる。当初インターンとしてHEROZに参画した山本一成氏はその一人で、東京大学将棋部の出身で、山本氏が開発している将棋プログラム「Ponanza」こそが、現役のプロ棋士に勝利した初めての将棋プログラムだ。HEROZ共同創業者の林隆弘氏もアマ将棋の世界選手権で優勝したり、朝日アマ名人戦他で多数全国優勝した経験もあるほどの将棋の指し手。

アイテム課金の理由が指導にあるとしたら、強くなければ意味がない。もともとオンラインで将棋AIを提供する競合サービスというのはほとんどないそうだが、HEROZがこの分野で「他社には真似ができない」(高橋氏)と胸を張るのは、AIエンジンの開発競争で先頭を走っているという自負があるからだそうだ。

HEROZの売上規模に占める対戦型ストラテジーゲームの割合は徐々に拡大しており、将棋ウォーズは2014年末に累計1億局の大台を突破。1日の将棋対局数は現在20万局以上という。同時期、AI分野での取り組みが評価されてRed Herring Globalのトップ100にも選出されている。HEROZ自体は、モバイルアプリの売上が大きく拡大し、過去3年間で売上規模が約20倍になったことから日本テクノロジー Fast50で1位を受賞している。

人間とAIによる切磋琢磨は始まったばかり

すでに将棋ではプロ棋士が負け始めている。チェスに至っては世界チャンピオンが負けてから10年近くが経過している。将棋もチェスも偶然性がなく、すべての情報がプレイヤーに見えている「完全情報ゲーム」だ。理論的には打つ前から最善手があって、対局前から勝ち負けが決まっている。「解明されてしまったゲーム」に人間は興味を失わないのだろうか?

そう思ったのは素人のぼくの勘違いで、現状は全く違うらしい。

人間のチャンピオンが負けてしまうほどAIが強くなることと、盤面の組み合わせ全てを解析しきる「完全解析」は全く意味が異なるという。ゲームとしての完全解析が終わるのは、チェスも将棋もはるか遠い未来のこと。盤面の組み合わせが将棋などよりはるかに少ないオセロでは1960年代にはAIが人間よりも強くなっているが、それでも完全解析にはほど遠い。探索空間が広すぎるのだ。

オセロは本当にAIが強くなりすぎてしまって、もう対局している人間が「指し手の意味が理解できない神のような手」に思えることが良くあるぐらいだそうだ。これに対してAI将棋では、ときどき人間が想定していない手が繰り出されるものの、そうした手こそが人間とコンピューターとが互いに切磋琢磨して将棋の未探索領域を開拓している現場という。

「1997年にディープブルーが出てどうなったか。チェスは成長しているんです。コンピューターは人間のプレイヤーが自己を高めるツールにもなっています。プロはコンピューターを使って研究しています。こういう局面だと何が良いかを指し示してくれる」

「チェスの元世界チャンピオンのカスパロフさんが来日して羽生善治名人とチェスで対戦したとき、両者とも同じことを言っていました。コンピューターが成長して、人間が考えなかった手筋を考えてきたんです。コンピューターと人間が一緒に成長しています。テクノロジーって人類の進化のためにあると思うんです。AIが出ることによって、気付かなかったことが発見できるようになる」

将棋の世界でも、あるとき森内俊之名人(当時)というトップ棋士が指した新手が、将棋AIが指した手だったと話題になったこともあるという。昔は良いと言われた手筋が、最近になってそうではなかったと分かるようになったのも膨大な棋譜がコンピューターに蓄積、解析できるようになってきたからだという。こうした事情もあってか、むしろ将棋人口は増加傾向にあるという。

将棋1270万人、バックギャモン3億人、チェス7億人

HEROZは将棋ウォーズでやってきた「AIを活用したボードゲームのオンライン対戦」を、2014年5月からバックギャモンでも「BackgammonAce」(バックギャモンエース)として提供している。「グローバル風のデザインにして、将棋ウォーズで培ってきたサービス性を入れていく」(高橋氏)といい、すでに世界150カ国以上でプレイされているそうだ。

将棋はあくまで日本のゲームだ。プレイヤー数は増加傾向にあるといっても1270万人にすぎない。これが囲碁となると5000万〜6000万人のプレイヤーがいる。そして世界最古のボードゲームと言われるバックギャモンは全世界で3億人のプレイヤー、チェスに至っては全世界で7億人がいると言われているそうだ。

「バックギャモンはトルコ発祥で、中東では地面に描いてやるぐらいだそうです。日本のバックギャモン人口は小さいですが、世界チャンピオンが日本から3人出てきています。チャンピオンはコンピューターが強いところ、先進国から出てくるんです」

日本から出てきたチャンピオンの1人、望月正行選手とHEROZは1月にスポンサー契約を締結した。この契約は世界展開を考える上でHEROZにとって大きな意味があるという。オンライン対戦はコミュニティでもあるため、強い人がいることが重要だからだ。望月氏は去年から今年の世界ナンバーワンランク。バックギャモン界でモチヅキという日本人を知らない人はいないというくらいに影響力があって、今後オフラインの大会で「グランド・マスター」を創設しようという動きが出てきている中でも望月氏の影響力が大きいのだとか。

望月氏はコンピューター利用によって強くなったバックギャモンプレイヤーの第1世代といい、その望月氏はブログの中で、面白いことを言っている。

「コンピューターが強くなると、人間のレベルはどんどん上がると思いますよ。(中略)BOTによって創造的なムーブが増えた。自分の引き出しが増えていった感じ。将棋でもそういうことが今後どんどん出てくるんじゃないか。BOTは創造しているわけじゃないんだけど、固定観念がないから人間にとっては面白い手を指すと思う」

振り返ってみると、バックギャモンでは2000年代前半には人間がBOTに負け始めていたというものの、人間のプレイヤーのレベルはまだ発展途上にあって、その歩みはコンピューターとともにあるということだ。

HEROZは強いAIを活用したという以外にも、ゲーミフィケーション的要素を多く取り入れている。

例えば、バックギャモンには定石のような動きがあって、それぞれに名前が付いているが、それぞれの指し手を初めてプレイヤーが使ったときに、派手な演出で指し手の名前を表示してカードを集めるようになっている。また、これまで良く研究されていなかった、指し手ごとの勝率も表示する。この解析は望月氏のような経験豊富なプレイヤーも驚かせたりもしているそう。

まだ、HEROZのバックギャモンのユーザー数は数万単位だそうだけど、バックギャモンは市場としても有望と見ているという。というのも、ヨーロッパでは装飾品の一種としてヴィトンやダンヒルがバックギャモンのボードを販売していて、富裕層が嗜んだりするという文化があるからという。

HEROZは1999年にNECに同期入社した高橋知裕氏と林隆弘氏が独立して2009年に創業。同年、ジャフコ、モバイル・インターネットキャピタル、ジェービィックベンチャーキャピタル、BIGLOBEキャピタルなどから総額1億円の資金を調達している。また、バックギャモンに続いて2014年12月には「CHESS HEROZ」(チェスヒーローズ)というチェスアプリも世界中に提供していて、こちらも今後注目だ。

以下にバックギャモンアプリのデモと高橋氏自身による説明動画、チェスアプリのデモを貼っておこう。