中国Infervision、画像によるがん検知サービスを280の病院に提供

つい最近まで、我々は医用画像から病気を診断するのに、訓練を受けた医師の目に頼っていた。

ひと握りのスタートアップが、顔認識や自動運転に使われているのと同じ技術である深層学習を通じた医用画像分析の改良を世界中で競っているが、北京拠点のInfervisionはそうしたスタートアップの一つだ。

Infervisionはこれまでに Sequoia Capital Chinaのような主要投資家から7000億ドルを調達していて、中国で多い死亡原因である肺がんの細胞を見分ける事業をまずスタートさせた。今週、シカゴで開かれた北米放射線学会の年次総会で、設立3年のこのスタートアップはコンピュータービジョンを使った分析を心石灰化のような胸部関連の病状にも広げることを発表した。

「AIを使った分析作業に、より多くのシナリオを加えることで、我々はこれまで以上に医師をサポートできる」とInfervisionの創業者でCEOのChen KuanはTechCrunchに対しこう語った。医師は1回の画像スキャンから数十の病気を見つけることができる一方、AIには1度に複数のターゲットオブジェクトをどうやって特定するかを教えなければならない。

しかしChenは、マシーンはすでに他の点で人間にまさっていると言う。その一つとして、マシーン分析が速いことが挙げられる。通常、医師が1枚の画像を分析するのに15〜20分かかる。それに対し、InfervisionのAIが分析レポートをまとめるのにかかる時間は30秒以下だ。

AIはまた、長年の課題である誤診断にも対応する。中国の医療新聞Medical Weeklyは、炭鉱夫によくみられる病気である黒肺塵症の診断の精度が、経験5年以下の医師で44%だったとレポートしている。また、1950〜2009年にあった検視を調べた浙江大学の研究では、臨床の誤診断率は平均46%だったことが明らかになった。

「医師は長時間働き、常にかなりのストレス下に置かれている。これがエラーにつながる」とChenは指摘する。

Chenは、彼の会社が診断の精度を20%高めることができる、と主張する。中国ではよくあることだが、遠隔の奥地ではヘルスケアの提供が不足していて、そうした場合にAIが医者の代わりとなる。

初のクライアントを獲得

深層学習を扱う他の企業と同様、Infervisionもさまざまなソースからのデータを使ってアルゴリズムのトレーニングを続ける必要がある。今週現在、Infervisionは280の病院ーうち20の病院は中国外にあるーと協働していて、毎週12病院が新たなパートナーとして加わっている。またInfervisionは、中国の一流の病院の70%が同社の肺に特化したAIツールを活用している、としている。

しかしInfervisionは出だしから順風満帆だったわけではない。

中国南部の町、深圳市の出身であるChenは、ノーベル賞受賞者のエコノミストJames Heckmanのもとで学んだが、シカゴ大学の博士課程を中退したのちに、Infervisionを立ち上げた。起業家として歩み始めて最初の6カ月、中国中の40もの病院に足を運んだーそれは無駄だった。

「当時医療AIはまだ新しいものだった。病院というのはもともと保守的だ。患者を守らなければならず、そのために外部の人とパートナーになるのを敬遠する」とChenは回顧した。

やがて、四川省人民医院がInfervisionにチャンスをくれた。Chenと、創業メンバー2人はわずかながらまとまったイメージデータを入手した。Chenたちは病院横の小さなアパートに引っ越し、事業を進めた。

「我々は医師の働きぶりを観察し、彼らにAIがどのように働くのかを説明し、彼らの不満に耳を傾け、プロダクトをイテレートした」とChenは語る。Infervisionのプロダクトは優れたものであることを証明し、すぐにその名は医療従事者の間で知られるようになった。

「病院はリスク回避の傾向にあるが、そのうちの誰かが我々のことを気に入ってくれたらそれが口コミで広がり、他の病院がすぐに我々にアプローチしてくる。医療業界はかなり緊密だ」とChenは話した。

AIは過去数年で二次的なインベンションからヘルスケアにおける標準へと発展し、病院はテックスタートアップのサポートを積極的に模索し始めている。

Infervisionは海外マーケットでも向かい風の中で歩を進めてきた。たとえば、米国ではInfervisionは医師訪問をアポ制に制限され、これによりプロダクトのイテレーションスピードが遅くなった。

Chenはまた、多くの西洋の病院が中国のスタートアップが最先端の技術を提供できるということを信じなかった、と認めた。しかし彼らはInfervisionは何ができるかということを知ると、Infervisionを歓迎した。これは部分的には、1日あたり画像2万6000枚という貴重なデータのおかげだ。

「技術能力に関係なく、中国のスタートアップは、他国のスタートアップが巡り会うことがない、山のようなデータへのアクセスが与えられている。これはかなりのアドバンテージだ」とChenは話す。

中国の巨大な医療産業において、競争には事欠かない。AIを監視とフィンテックにも持ち込んだ中心的な存在のYituは、今週あったシカゴ放射線学会でがん発見ツールを発表した。

AIソリューションを商品として提供することで収入を上げているInfervisionは、今後は脳血管系そして循環器系の疾患のような、社会の負担増を招く病状に特化したプロダクトを優先する、としている。

イメージクレジット: Infervision

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(翻訳:Mizoguchi)

中国の医療系スタートアップ、Infervisionが日本進出へ――機械学習と画像認識をがん診断に適用

日本版編集部注:ディープラーニングと画像認識をがんの診断などに利用するスタートアップ、中国のInfervisionが日本市場に進出することが明らかになった。

TechCrunch Japanの取材に対し、同社は「日本市場への進出にあたり、いくつかの医療設備メーカーに私たちのプロダクトを紹介したところ、彼らからは良い反応が得られた」とコメントした。また、「日本でのパートナーシップも探しているところだ。病院などの医療機関や大学との連携を考えている」とも話している。

以下では、米国版TechCrunchが公開したInfervisionに関する記事を翻訳して紹介する(2017年5月公開)。

中国では、およそ60万人が毎年肺がんで亡くなっている。大気汚染が進み、喫煙率も高いこの国では、肺がんは主な死因の1つだ。肺がんの発生件数は、2020年までに毎年80万件のペースで増加するといわれている。

状況が悪化し続けるなか、中国の国営メディアは肺がんの脅威について報じただけでなく、大気汚染を手に負えない状況にまで悪化させたとして政府関係機関の責任を追求している。

中国が抱える問題は肺がんの発生件数の増加だけではない。質の低い医療もこの問題に拍車をかけている。手遅れになるまで肺がんの発見が遅れることもある。

北京に拠点をおくInfervisionは、機械学習とコンピュータービジョンのテクノロジーをがんの診断に利用するスタートアップだ。同社のCEOであるChen Kuan氏は、この問題を身をもって体験した。

540万の人口をもつ中国の都市Mianyang。この地域に住んでいたKuan氏の叔母は、地元の病院で適切な医療を受けることができず、彼女のがんは発見されることなく放置されてしまった。

「単純に、十分な知識や技量をもつ医師の数が足りていないのです」とKuan氏は語る。「医師は毎日かなり多くの患者を診断しなければならず、患者が受ける医療の質には大きなバラつきがあります」。

特に、放射線医師の不足は深刻だと彼はいう。

2012年、Kuan氏はシカゴ大学で経済学と政治学の2つの博士課程に在籍していた。彼はそこで機械学習のテクノロジーにはじめて触れ、これが後のInfervision創業のきっかけとなる。

中国出身の友人たちと共に、彼はディープラーニングと人工知能がもつ可能性に惹きこまれていった。しかし、Infersionのアイデアが具体化したのは、2年前に彼が中国でコンピュータービジョンとディープラーニングについての講義を行ったときだった。

ある放射線医師がKuan氏の講義を受けていた。彼は、長引く病気に苦しむ患者を助けるために、がんの診断に機械学習を利用してはどうかと考えていた。そして、その気持ちがKuan氏の心を打った。Kuan氏は博士課程を中退し、中国に戻ってInfervisionの創業準備を始めた。

それからあっと言う間に2年が過ぎ去り、Sequoia Capital Chinaなどから資金を集めたInfervisionは、Nvidiaが主催するGPU Tech Conferenceに登壇するまでになった。

Infervisionは、2003年に大流行したSARSに対応するかたちで中国全土に導入されたインフラを活用している。同社は、その当時に収集されたレントゲン写真を利用してアルゴリズムをトレーニングしたのだ。Infervisionはそれに加えて、同社のソフトウェアを導入する20の病院から得たリアルタイムデータも活用している(Peking Union Medical College Hospital、Shanghai Changzheng Hospitalなど)。

また、InfervisionはGE Helthcare、Cisco、Nvidiaなどと業務提携を結び、同社の技術向上を目指している。昨年のローンチ以降、同社はこれまでに10万枚以上のCTスキャン画像とレントゲン画像を解析した。

Infervisionは病院のシステムにオンプレミス型のソフトウェアをインストールし、病院から収集した新しい画像データによって画像認識と診断ツールの精度を向上させているとKuan氏は語る。

Kuan氏によれば、アルゴリズムのトレーニングには2つの段階があるという。まず、放射線医師から集めたアノテーション済みのデータがInfersionのトレーニングデータに加えられる。その後、精度が向上したソフトウェアが病院のシステムに再配信されるのだ。

「このテクノロジーが医師の代替品になることは絶対にありません。これは何度も繰り返される仕事を削減するための技術なのです」とKuan氏は語る。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter