iOS 14のApp ClipsはApp Storeに行かずに機能が利用できるApple版インスタントアプリ

AppleのApp Storeは今や200万近いアプリが登録された巨大なエコシステムとなっている。 つまり必要なアプリを見つけてダウンロードするのが非常に難しくなっているわけだ。 アプリのデベロッパーが新しいユーザーを獲得するにはApp Storeを対象とする検索広告、伝統的SEO、各種デジタル広告などにますます多額の投資をしなければならないい。

今年後半にリリースされるiOS 14に搭載されるApp Clipsはデベロッパーの新ユーザー獲得に新しいオプションを提供する。AppClipsでアプリを公開した場合、ユーザーは必要に応じてアプリの一部の機能をオンデマンドで即座に読み込むことができる。利用が終了するとApp Clipsのアプリはデバイスから消える。

App Clipsのコンセプトは目新しいものではない。GoogleのAndroidプラットフォームでは数年前からInstant Appと呼ばれるオンデマンドのミニアプリを提供している

App ClipsはInstant AppsのiOS版で、アプリをウェブページなみに手軽に扱えるようにすることを目的としている。スピーディーかつ一時的で、特定の機能を利用したいだけなのにApp Storeからアプリをダウンロードしてデバイスにインストールしなければならないというハードルを取り除く。

現在多くのユーザーは急いでいるときにアプリをまるごとダウンロードしたがらない。たとえば市営パーキングで駐車料金を支払いたい場合、パーキングメーターにクレジットカードを通すだけですめば好都合だ。市の駐車アプリをダウンロードしてインストールするよりはるかに時間と手間の節約になる。

ファーストフード店で行列を作っている人々もいちいち店のアプリをダウンロードしてメニューを見て注文しようとはしない。ほとんどの客はカウンターでスタッフに注文し、料金を払う。自転車をレンタルするならスマートフォンを一回タップするだけですませたいだろう。

 

App Clipはウェブサイトを開くのと同じくらい手間でアプリの特定機能を利用できるようにすることを狙っている。上に挙げた例のように一度タップするだけでApple Payでチェックアウトするという他にも多数のシナリオが想定される。

AppleはQRコードを読み取るだけでClipsを起動できるようにする予定だ。今年後半に登場するApp Clip CodeはClip体験をさらにアップグレードする。NFCとQRコードのスキャンを組み合わせた機能でユーザーはタップないしQRコードのスキャンでApp Clipにアクセスできる。

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たとえば、パーキングメーターにApp Clip Codeを表示すればユーザーはコードをスキャンするだけでアプリの一部機能を即座に読み込み、駐車時間に応じた支払いを行うことができる。ApplePayが利用できるシステムであればクレジットカードのスワイプを省略することもできまる。

App Clipのサイズは10MB未満に制限され、App Storeアプリにバンドルされる形で公開される。デベロッパーはUIKit、SwiftUIなどの現在アプリ開発に用いている開発環境を利用してApp
Clipを書くことができる。ただしApp Clipsを起動してもアプリ本体がデバイスにダウンロードされることはない。

App Clipsが提供する重要なメリットはプライバシー保護の面で優れていることだ。App Clipsは簡単にいえばオンデマンドでアプリのコードを実行する仕組みだ。このためiPhone上に健康、フィットネスなど機密性の高い個人データへがあってもアクセスは制限されている。またApp Clip自身と使用したデータは、一定時間再利用されないと自動的に消去される。

逆にユーザーが特定のApp Clipを頻繁に利用する(行きつけのコーヒーショップなど)と、App Clipsが消去されるまでの時間が延長され、機能も拡大される。コーヒーショップの例でいえば、App Clipsはオーダーの際にユーザーが前回した注文を記憶し、候補として提示する。これにより注文のプロセスがスピードアップできるわけだ。このユーザーはやがてアプリ全体をダウンロードしてインストールすると決めるかもしれない。

この場合、Appl Clipsから本体アプリへの移行もシームレスに実行される。iOSは、App Clipsがすでに得ていたカメラ、マイク、Bluetoothアクセスなどへのアクセス許可を記憶しており、アプリ自動的に適用する。またアプリで使用されたデータも移行される。

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もちろユーザーはこうした実世界での利用以外にもオンラインでApp Clipsを発見して利用することがあるだろう。Appleはむしろこちらを主なユースケースと考えいるかもしれない。

Appleは、App ClipはiMessageのリンクとして送信できるとしている。またSafariでモバイルサイトを閲覧しているときにポップアップとして表示されるし、Appleマップのビジネスの説明ページにも表示できる。Siriの「この周辺」の候補にも表示される可能性があるとAppleは述べてる。

「デバイスの中であれ、現実世界であれ、世界のどこにいいようと常にユーザーのそばにあって即座に利用できる」というのがApp Clipsの考え方のようだ。

画像:Apple
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滑川海彦@Facebook

Google、Android App Bundleをアップデート――Instant App同時公開がサポートされた

Googleは今日(米国時間10/18)、Androidアプリのデベロッパー向けに重要なアップデートを発表した。 ひとつはアプリのサイズを減少させるもので、もう一つはInstant Appを簡単につくれるようにするものだ。Instant Appはデバイスにインストールせずに動かすことができる軽量なアプリで、ユーザーが簡単に試してみることができるためメリットが大きい。

Android App Bundleはアプリをモジュラー化して開発し、各デバイスに必要なイメージを配信する方法でしばらく前から公開されている。Googleによれば、App Bundleを利用して開発されたアプリは数千にも上り、ファイルのサイズは平均35%も節約できたという。今日のアップデートで、GoogleはApp Bundleがデバイス上にすでにインストールされている非圧縮のネーティブ・ライブラリを利用する方法に改良を加えた。.これによりインストールする際のダウンロードのトラフィックは平均8%減少し、デバイス上で占めるサイズも16%小さくなるという。

サイズについていえば、現在App Bundleから生成されたAPKの最大ファイルサイズは100MBだが、Googleによれば近くデベロッパーが500MBまでのAPKをアップできるようにするという。

またApp Bundleは新たにAndroid Studio 3.2(安定版)とUnity 2018.3 ベータでもサポートされた。

ダウンロード失敗の大きな原因がデバイスに空き容量が不足していることなのでファイルサイズが小さくなるのはアプリの公開にメリットがある。ただGoogleが今回公開したもう一つのアップデートのほうがデベロッパー、ユーザー双方に影響が大きいかもしれない。GoogleのInstant Appはデベロッパーが小さいアプリを公開できる機能だ。これはアプリのトライアル版や、ユーザーがアプリをウェブ検索で見つけ、すぐに試してみたい場合などに効果的だ。Instant Appはフルサイズのアプリをダウンロードしてインストールするという面倒な(往々にして時間がかかる)プロセスを必要としない。

GoogleはデベロッパーがApp BundleでInstant Appを開発できるようにした。つまりデベロッパーはフルサイズのアプリとInstant Appの双方を開発、公開する必要がなくなった。その代わりに、App Bundleでアプリを開発し、Instant Appを含めるオプションを選択して単一のアプリとしてGoogle Playで公開すればよい。アプリをアップデートする際もいちいち2つのアプリをメンテナンスする必要がなくなった。

デベロッパーはInstant Appを使ってゲームなどの有料タイトルを開発した際、その一部をInstant Appにして登録前のユーザーにトライアルを許すというキャンペーンが実行できるようになった。

Androidデベロッパー向けの他のアップデートにはクラッシュ・レポートの改良が含まれる。これは実際にアプリを利用しているユーザーからのクラッシュ情報ととFirebaseテストラボからの結果が総合して報告される。またアプリのサブスクリプション課金の手続きなどもアップデートされた。詳細はこちらから確認できる。

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滑川海彦@Facebook Google+

Android Instant Appはアプリ開発者の「フレネミー」

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編集部注: 本稿を執筆したのはLiftoff CEOのMark Ellisだ。

 

iPhoneの誕生以来、AppleはApp Storeというマーケットプレイスを通して、人々とモバイルデバイスの関わり方をデザインし、革新し、そしてある程度はコントロールしてきたとも言えるだろう。App Storeがスタートした直後に掲載されていたアプリの数は552個だ。それが今となっては、iOSアプリは世界中で200万、AndroidのGoogle Playストアには220万ものアプリが掲載されている。言うまでもなく、自分が開発したアプリを420万ものアプリの「海」の中から見つけてもらうのは非常に困難なことだ。さらに、人々が1ヶ月のあいだに使用するアプリの数は限られており、彼らはほとんどの時間をそれよりもさらに少ない数のアプリの中で過ごす。アプリの開発者の仕事はさらにやりづらくなったことだろう。

アプリはモバイルにとって欠かせないものになった。ある問題に対して「いいアプリがあるよ!」という言葉は、ただのスローガンではない。ライフスタイルなのだ。簡単にホテルを予約したいって?アプリをダウンロードすればいいじゃないか。

しかし、ダウンロード抜きでアプリを使えるAndroid Instant Appが誕生したことによって、近い将来このライフスタイルが変化するかもしれない。GoogleのInstant Appは、Androidアプリの開発者がこれまで苦労して作り上げてきたマネタイズの方法を破壊するために生まれてきたもののように思える。エンゲージメントの定義をぼやけさせ、大きなマーケットプレイスが持つ経済システムを少しずつ破壊していく。つまり、Instant Appはアプリのパブリッシャーのフレネミーとなるのだ。それについて考察していこう。

Googleが欲しいものがアプリにはある

GoogleはInstant Appのことを開発者の「味方」だと呼んでいる。ユーザーがアプリを利用するまでの時間を短縮できるというのがその理由だ。しかし、Instant AppはユーザーをモバイルWebに引き戻すための手段として開発された可能性が高い。検索機能と広告界のリーダーであるGoogleは、Webを通して名を上げた(そしてお金を稼いだ)企業だ。だからこそ彼らは、デバイスがデスクトップであろうと、モバイルであろうと、ユーザーにこれからもWebを使い続けてほしいと思っているのだ。

現在、検索を通じたアプリのダウンロード数は、全体のダウンロード数の27%でしかない。アプリをどこで見つけたのかという質問に対して、もっとも多い答えは友人や家族からの紹介で、2番目がアプリストア、そして3番目が検索エンジンを通じて見つけたという答えだ。さらに、検索でアプリを見つけたとしても、アプリをダウンロードするときにはユーザーは検索エンジン(ほとんどがGoogle)を離れ、ダウンロードされたそのアプリに完全に集中することになる。ほんの数年前まで、Googleはアプリ内にある情報をインデックスすることができなかった。そのため、アプリ内のコンテンツが検索結果に表示されず、Googleはアプリからマネタイズすることが出来なかったのだ。

Instant Appがアプリの機能を抽出することで、スマートフォンの容量を節約しながらアプリを利用するまでの時間を短縮することができるだけでなく、ユーザはGoogleのモバイルWebエコシステムから離れる必要がなくなる。これによってGoogleはより多くの情報を集めることができ、彼らのサービスの利用を促進して広告料金を稼ぐことができるようになる。この点において、Android Instant Appはアプリのパブリッシャーがアプリ内広告によってマネタイズする機会を減らしていると言える。なぜなら、ユーザーはもはやアプリをインストールする必要はなく、定期的にアプリを利用する必要もないからだ。

問題の裏に隠された解決策

モバイルアプリをマネタイズする方法としてよく採用されるのが、アプリの販売(アプリ自体を有料にして販売する)、アプリ内購入(追加的なコンテンツや、広告の削除に課金をする)、そしてアプリ内広告(アプリ内でビデオ広告やバナー広告をポップアップ表示する)の3つだ。Android Instant Appが普及することになれば、この3つのマネタイズの方法すべてが機能しなくなる可能性がある。Googleのモバイルブラウザを使えば、素早く、かつ広告なしでアプリを利用できるのにもかかわらず、わざわざアプリをインストールして利用するユーザーなどいるだろうか?

しかし、ディベロッパーが直面している問題はこれだけではない。アプリのリテンション率自体も低下してきているのだ。全体の25%のユーザーは、あるアプリをダウンロードした後90日の間にそのアプリを1度しか利用していないことが分かっている。また、ユーザーが一ヶ月の間に一度もアプリをダウンロードしていないという結果を受けて、モバイルアプリのブームは終わったと主張する者もいる。

新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。

Instant Appを利用して友達にアプリを紹介するのはとても簡単だ。もはや、アプリストアを起動して自分のスマートフォンのストレージを犠牲にしてまでそのアプリをインストールすべきかどうか判断する必要はない。必要なのはInstant Appを起動して、そのアプリのコアとなる機能やコンテンツにアクセスすることだけだ。

例えば、Buzzfeedに掲載された料理のレシピを友人にシェアしたければ、その友人にリンクを送ればいい。リンクをクリックすればInstant Appが起動して、シエアされたレシピを簡単に、かつ素早く見ることができる。また、パブリッシャーがアプリをモジュール化して複数のInstant Appを開発すれば、既存の顧客ベースを拡大することもできるだろう。マーケットプレイスにアプリが溢れかえっているという状況を考えれば、自分のアプリをできるだけ見つかり易いようにできるInstant Appの存在は歓迎すべきものだろう。

残念ながら、Android Instant Appの誕生によってユーザーがアプリをダウンロードする回数は減っていくだろう。そして、パブリッシャーはエンゲージメントを計測するための新しい方法を考えださなければならない。Instant Appが普及すれば、ユーザーがネイティブアプリを利用した時間によってエンゲージメントを計測することはできなくなる。つまり、ゴールを設定してそれを計測する必要があるのだ。

例えば、ホテルのInstant Appを通した部屋の予約や、スターバックスのInstant Appを通したコーヒーの注文は増えるだろう。Instant Appを利用してホテルの予約ができるのに、1年に数回しか利用しないホテル予約アプリをわざわざダウンロードする人などいないからだ。この種のサービスを提供するアプリでは、Instant Appの登場によって収益が伸びる可能性がある。

Instant Appの登場によってアプリのダウンロード回数は減る一方で、ユーザーがアプリの価値や利便性を理解するにつれてエンゲージメント率やリテンション率は上昇するかもしれない。そして、ユーザーの利用回数が増えれば増えるほど、アプリ内購入の回数やアプリの利用時間も増え、広告のインプレッション回数も増えていくのだ。

今後はどうなるか?

現在のところ、Android Instant Appを利用できるのはAndroid 7.0 Noughtを搭載したデバイスのみに限られており、DisneyやMedium、Hotel Tonightなどの企業が利用を検討している最中だ。Instant Appで利用できる機能は限られている一方で、そのロードにかかる時間はモバイルWebのハイパーリンクと同じとは言わないまでも、同等の速度を実現している。今後もこのスピードが維持され、Instant Appが普及するにつれて、これが今後のアプリ開発の中心要素となり、アプリを提供する方法やアプリの探し方が変化していくかもしれない。Androidに追いつくために、AppleがiOS向けにInsta Appと似たものを発表する可能性もあるだろう。

しかし、新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。Instant Appではポップアップ表示によって許可を得ることで、センシティブな情報を集めることができるようになっている。しかし、この機能を悪用すれば、悪意のあるデベロッパーがユーザーの合意を得ることなしに任意のアプリを動作させるということができるかもしれない。さらに、Instant AppはWebアプリ特有の非効率性を引き継ぐことになるのではないかと心配する人もいるだろう。つまり、Instant Appではネイティブコードの代わりにJavaScriptやそれに似たものを動作させる必要があるのだろうかという懸念や、クロスプラットフォーム互換性を持たせなければならないのか、そしてネイティブ・アプリに比べてさえないAPIしかもたないWebアプリのように、Instant Appの機能が限定されるのではないかという懸念だ。Instant Appが普及するかどうかを判断するには時期尚早だが、確かなことが1つある。ユーザーはコンテンツに早く到達することを望み、Googleはそれを実現しようとしているということだ。

「フレネミー」とは、本当は敵やライバルであるにもかかわらず、潜在的な利益のために友人のふりをしている人のことを指す。Android Instant Appは、アプリのダウンロード回数やネイティブ・アプリが使用される時間を減らす一方で、長期的な目線で見れば、アプリのコンテンツとユーザーの間にある壁を取っ払い、より幅広い人々がアプリを利用する可能性を高める。そして最終的には、それによってアプリからの収益が上昇する可能性もあるのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter