先週のUS注目記事 ― ますますいろいろなものが繋がる時代へ

本稿では先週1週間(4月28日から5月4日)の記事の中から、日本版では取り上げられなかったが、面白そうなものを紹介したいと思う。

ますます激しくなる(らしい)人材獲得競争

ウェアラブルやIoT(Internet of Things)が進化していくことで、ますます優秀なエンジニアのニーズは高まりつつあるとのことだ。

そんな中、HackerRankの共同ファウンダーであるVivek Ravisankarによる「How to Hack Hiring」(採用活動をハックする)という記事が掲載されていた。思い込みを捨てて効果的な採用活動を行おうという内容だ。ちなみにここでの「思い込み」は採用担当者側のもの。

ありがちな「思い込み」の例として以下のようなものが挙げられている。

  1. 優秀な技術者はスタンフォードにしかいない
  2. 面接時の質問のユニークさが多様な人材確保に役立つ
  3. プログラマーの採用にはホワイトボードを用意して、コーディングさせてみるのがベスト
  4. 採用計画が完了すれば、選外となった応募者のことはどうでも良い

「質問のユニークさ」とは、Googleの面接でも出題されていたクイズ風の質問のことだ。しばしば「世界にピアノ調律師は何人存在するだろうか」という例が挙げられる。こうしたタイプの面接について、Googleは「完全に時間のムダだった」と評価するにいたっているのだとのこと。

面接スタイルというのは、流行に大きく左右されるという面もあるようだ。

大成功裏にKickstarterプロジェクトを完了したPlay-i

優秀な技術者にかくまで大きなニーズがあるのであれば、子供を優秀な技術者に育てるのは考えられるオプションだろう。その一助となりそうなのが、TechCrunchでも何度も取り上げてきているPlay-iだ。

Kickstarterでも(大方の予想通り)大成功をおさめた。そのPlay-iが、なぜKickstarterを選んだのか、あるいはキャンペーンをどのように運用していったのかをまとめる記事を寄稿してくれている。

A Look At Play-i’s Successful Crowdfunding Campaign」(Play-iの大成功クラウドファウンディングキャンペーンの復習)がその記事だ。クラウドファンディングはまだまだこれから発展していくものと思われる。気軽にアイデアを試すことのできる場としての重要性も強く意識され始めている。

大成功キャンペーンの技を学習しておくのはぜひとも必要なことだろう。

可能性領域を広げる3Dプリント

ところでテック系人材が人気を集めるというのは、テックがさまざまな産業を「繋ぐ」役割を担いつつあるからとも言えそうだ。ソフトウェアがあらゆる分野で活用されつつある。

たとえばクラウドファンディングというのも、テックと市場とを繋ぐ面白い仕組みだと位置づけることができる。また3Dプリントというのもいろいろな領域を「繋ぐ」ものとして機能し始めているように見える。当初は「メーカー」とテックを繋ぐものとしての意義が注目されたが、そうした「プロ」領域を超えて、一気に消費者市場にも広がる可能性を見せてもいる。

たとえば3Dプリンターは布製テディベアを出力することもできるようになっている。そして消費者マーケットに向けて靴の中敷きを出力するサービスなども人気を集めているのだ。

3Dプリンターを活用した中敷き出力サービスが640万ドルを調達したという記事が「SOLS, Maker Of 3D-Printed Shoe Insoles, Raises $6.4M Series A」(3Dプリントによるシューズインソール・メーカーのSOLSが640万ドルを調達)だ。

これもテック?

いろいろな場面で存在感を増している「テック」であるので、TechCrunchで扱う分野の幅もどんどん広がりを見せている。

どんどん広がりを見せるので常に刺激を感じ、面白そうなものを翻訳していく。そんな中、「面白い!」と興奮したが翻訳を躊躇ったプロジェクトがある。それがこの「Buildies Cardboard Blocks Are, You Know, For Kids」だ。

昭和の子供は確かにこれに興奮する。間違いなく「Crunch」なプロダクトなのだが、果たして「TechCrunch」なのだろうか。

しかし、こうした分野にもテックの要素が入り込んでいく時代になりつつあるのは間違いないのだろう。

Maeda, H


今週のUS記事総まとめ ― Heartbleedなど、驚きの一週間

日本語版オリジナルの記事も含めて驚きの多い一週間だった。TechCrunch日本版に携わり始めてしばらくになるが、身内的にいえばこんな展開もすごい驚きだ。定例イベントなども、皆さんのおかげでさらに盛り上がりつつある。これからの発展をご期待いただきたい。他にもダジャレに驚いたり、楽しい時間を過ごすことができた。

おしゃれなロゴ付きで世に強烈な「驚き」をもたらしたセキュリティ問題 ― Heartbleed

そんな国内ニュースをさておき、ともかく業界に「大激震」を起こしたのが「OpenSSLの重大バグが発覚。インターネットの大部分に影響の可能性」だろう。「[ビデオ]OpenSSLのバグ“Heartbleed”ってどんなの?」も含め、さまざまな解説情報がネット上に公開された。

ちょっと面白い切り口だったのが未訳ながら「Heartbleed, The First Security Bug With A Cool Logo」(「重大セキュリティトラブルもクールなロゴ付きで紹介される時代」)だった。こうした重大問題が発生したとき、一般的にはテキストだけの情報が流通する。しかし今回は専用のサイトもあり、そしてなんとトラブルのためのロゴまで用意されていた。もしかすると暗躍する組織などが背景にいるのかもなどという声もあったのだそうだ。

「シェア」時代の典型ツールとしてのDropboxにはまだまだ「驚き」の可能性

そして、これまた驚かせてくれたのがこちら。「ライス元国務長官、Dropboxの取締役に就任」。ライス氏の属人情報は何も存じ上げないながら、それがためにむしろテレビでビッグイベントについてコメントする様子が印象に残っていて「あんな人が!」と驚きを感じてしまった。

Dropboxからは他にも「Dropbox、1億ドルで買収した人気のメール整理アプリ、MailboxのAndroid版を発表」というニュースも人気を集めた。TechCrunchは何度も「メールの死」を宣言してきたような気もするけれど、やはりメールはまだまだ重要なコミュニケーションツールであるということなのだろう。

Dropboxの「Dropbox、ユーザーの写真すべてを保存・共有するアプリ、Carouselを発表」、「Dropbox、Microsoft Officeで共同作業ができるツール、Project Harmonyを開発中」などという記事も注目を集めた。確かにDropboxは「シェア」時代の典型とも言えるもので、まだまだ発展の可能性を内在しているのだと思う。

クラウドファンディングでも「驚き」の成果

クラウドファンディングでも驚異的な成果があがった。それは「世界初、299ドルの3Dプリンター、Kickstarterのゴールを11分で達成」だ。

最近はニュース的にはやや落ち着きを見せていた3Dプリンター関連だが、低価格化および大衆化することで、また大きな話題を集めることとなった。記事の中にある紹介動画もなかなか面白い。ぜひご覧頂きたい。

ちなみにこちらの記事には続報もあり「Updated: Micro $299 3D Printer Passes $2M On Kickstarter In 3 Days」(続報:Kickstarter展開中の299ドル3DプリンターのMicro、3日で200万ドル超を調達)とある。

ところでKickstarterといえば「キッチンスケールは栄養価をも計測する時代に ― Prep Padに続いてSITU登場」という記事もあった。ふつうの人が投資するKickstarterにて、いわゆるニッチガジェットだけではなく「日用品」とテックの融合も進みつつある。

クラウドファンディングではないが「喘息対策に利用するピークフローメーターのテック化を目指すMy Spiroo」という記事もあった。これもやはりテックとの融合による、医療デバイスの「日用品」化を示す例だと言えそうだ。

利用者を巻き込む「驚き」

これまでのものとは少々ニュアンスが異なるが、ユーザーを巻き込んだ「驚き」もあった。

ひとつは「Facebook、全モバイルユーザーにMessengerアプリのダウンロードを強制、メインアプリからチャットを削除へ」というものだ。古くて新しいバトルフィールドであるメッセンジャー関連サービスだが、ここでFacebookはやや「追い詰められている」と考えているのかもしれない。そこで大きく「改善」するために、大きな変化を持ち込もうという意図もあるのだろう。

この意図に理解を示す人もいる中、やはりというべきか、「余計なことをするな」という声も大きい。膨大な利用者数を抱えるサービスの宿命とはいえ、こうした部分での過ちが致命傷となることもある。Facebookのサービス「改善」が、他サービスにとっての「チャンス」となることもあるのだろう。

Facebookからは他にも「Facebook、『いいね!』をねだるなどのページにペナルティーを課すと発表」。どきっとする人もいれば、歓迎する人もいる話。こういう話に限らず、キュレーションだのレコメンドというものの「システム化」の難しさを示す話でもある。

Twitterからも、利用者を巻き込む大きな変更がアナウンスされた。「Twitterのデザインがリニューアル―プロフィールはFacebook的になり、背景画像は廃止」という記事がそれだ。こちらは反対の声もあるものの、併せて新たな機能も導入されることになっていて、そちらに期待する声も多い様子。

ちょっと愉快だったのは「パワポキラーPreziがユーザ数4000万に–急成長は今も続く」の記事。多くの人がツイートしてくれた。「そう、これ便利なんだよね」という声もありつつ「そんなのがあるんだ」という声もちらほら。「驚き」にもいろいろある。

ちなみに、利用者を巻き込む話ながら、日本ではまだ巻き込んでもらえないという話もある。「Amazon、AmazonFreshで利用できるハンディ・バーコードスキャナーのDashを試験展開中」というのもそのひとつだ。

アメリカ国内でも地域限定で行っているAmazonFreshと連動するサービスだが、いろいろな可能性を感じさせる。

未訳記事からの「驚き」

これもいろいろある。たとえばもうすぐGoogle Glassが一般消費者の手にもやってくる。英語版の記事は「Google Lets Anyone In The U.S. Become A Glass Explorer For $1,500 Starting April 15」だ。利用例を示す動画の中で「ぼくはアマチュアの木登り師だよ」という発言があった。

「プロの木登り師」ってどんなんだろうと検索してみると、円山動物園のブログにヒットした。なるほど、こいつはプロかもしれない。

イスラエルのStoreDotというスタートアップの開発するモバイルバッテリーも面白い。30秒でフル充電できるのだそうだ。記事は「StoreDot’s Bio-Organic Battery Tech Can Charge From Flat To Full In 30 Seconds」。実用化にはまだ時間がかかるものの、イスラエルのStoreDotというスタートアップが開発元で、Samsungも開発作業に参加しているそうだ。

本家TechCrunchにて定期掲載しているInside Jobsシリーズも面白い。CEOなどではない、実際の技術業務に携わるエンジニアにスポットをあてたシリーズだ。今回は「Inside Jobs: Why Facebook’s Hardware Engineering Head Likes Getting His Hands Dirty」。訳出するとなるとシリーズすべて訳出したくなってしまうので、少し躊躇いを感じているところ。

長くなってしまった。他にも触れたいものはたくさんあるが、あとひとつ分くらいのスペースしかない。それなら「TinkerBots Want To Make Modular Robotics Child’s Play」にしておこう。子供にロボティクスを教えるための「おもちゃ」だ。このいかにも「おもちゃおもちゃ」した感じが楽しそうだ。

Maeda, H


TechCrunch Tokyo 2012年の最優秀賞、スマート電動車イスのWhillがアメリカでいよいよ市販へ

元ソニー、オリンパス、トヨタのエンジニアらによって創立され、TechCrunch Tokyo 2012の最優秀賞を受賞したハードウェアのスタートアップ、Whillはスマートで洗練されたまったく新しい車イスをデザインした。同社の最初の市販モデル、Whill Type-Aがいよいよアメリカで予約受付を開始した。

Whillは現在500 Startupのアクセラレータ・プログラムに参加しており、170万ドルの資金を調達ずみだ。500 Startups以外の投資家にはItochu Technology Ventures、Facebook Japan、エンジニアのEric Kwan、SunBridge Global VenturesWingle Co.などが含まれる。現在シード資金の調達を完了中だ。

同社は昨年TechCrunch Tokyoに既存の車イスに取り付けて自走できるようにする電動アドオンのプロトタイプで参加した。東京モーターショーで展示し、アメリカ、日本、イギリスで市場調査を行った結果が、Whillは4輪電動駆動の完全に新しい車イスを開発することを決断した。またアメリカでの需要がもっとも高かったのでまずアメリカ市場を対象とすることにした。

まず開発チームはアメリカで150人の車イス利用者にインタビューし、ユーザーは機敏であると同時に安定性の高い装置を求めていることを知った。そしてもっとも重要な点は、車イスに伴うネガティブなイメージを払拭できるようなスマートな印象の乗り物が求められていることがわかった。

事業開発責任者の水島淳は、自動車、自転車、オートバイ、スケートボード、なんであれ乗り物というのは所有者をハッピーにするが車イスはダサイというイメージがつきまとう唯一の乗り物だと説明する。一般の認識がネガティブなのだ。

Whillの車イスはまず外観が未来的にデザインされている(CEOの杉江理は日産自動車のデザイナーだった)。Type-Aモデルがこれまでの電動車イスと根本的に異なるのは、左右のコントロール・ハンドルを押し下げることによって前進するという操作体系だ。これは自転車やオートバーのライディング姿勢に似ている。

「外観だけでなく、機能的にも操作体験を自動車、オートバイ、スケートボードなどに近づけようとした」と水島は説明する。単にイスの背にもたられた姿勢ではなく、走行中は前傾姿勢を取ることでユーザーはアクティブに見える。また乗り物を操縦しているという喜びを感じることができる。

Whillのコントローラーはジョイスティックのように片手で操作できる。Type-A以外の2モデルは備え付けのテーブルを利用したり走行していないときは楽な姿勢で背もたれによりかかれるという。

回転半径が小ささと走破性の高さを両立させたこともWhillの大きな特長だ。通常の車イスでは回転半径を小さくするためには前輪を小さくする必要がある。すると前輪が床の小さな突起や窪みに引っかりやすくなり、また砂利道などでは容易に埋まってしまう。

Whillチームは前後に回転するだけでなく左右にも動く特別な前輪の開発に成功した。これによってType-Aは回転半径をわずか71センチに収めながら7.5cmの障害物を乗り越えられる。

Type-Aの価格はまだ発表されていないが、水島は「最初の出荷分についてはアーリー・アダプター向け特典機能をつける予定だ」と述べた。Whillはアメリカで食品医薬品局から医療機器としての認定を受ける計画だ。そうなれば保険が適用になるし、他国への輸出も容易になる。製造に関しては台湾とメキシコの企業とOEMの交渉を進めている。将来のモデルには各種データの分析や通路の障害物、電池容量低下などををユーザーに警告するモバイル・アプリを組み込む予定だ。

水島は「われわれはモビリティ・デバイスのiPhoneを目指している。Type-Aはユーザーの移動に関して広汎な機能を備えている点で車イスのスマートフォンだ。将来、単なる車イスを超えて、他の乗り物が利用できない場面で一般のユーザーにも利用される省エネ移動手段としてWhillを普及させたい」と語った。

Whillの開発のきっかけは創業メンバーの障害者の友人が「車イスに乗るのが嫌で2ブロック先の食料品店にさえめったに出かけない」ということを知ったことだったという。「2ブロックばかり、健常者にはなんでもない距離だが、われわれの友人は大変な困難を克服しなければならなかった。このショックがチームにWhillの開発を決意させた」のだという。

Whillを試用したい場合はサイトを訪問すること。Type-Aは今月サンノゼで開催されるAbilities Expo San Joseでデモされる。また来年のCESAbilities Expo LAにも出展される。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


TechCrunch Japan編集長交代のお知らせ

2010年5月以来、TechCrunch Japanの編集長としてその職を務めてきたが、個人的な理由でこの職を退くことになったのでお知らせしたい。代わりに、新たな編集長を迎えることになった。

読者の方々には西村賢(@knsmr)という名前に聞き覚えがあるかもしれない。彼は直近の6年半ほどは@ITの編集記者としてニュース記事執筆や技術系連載の編集担当をしてきていて、副編集長を務めていた人物だ。@ITでは技術向けやいわゆる企業向けのエンタープライズ関連の話題についての動向を取材していたので、インターネットのビジネスを追いかけていた私とは趣が異なるかもしれない。本人曰くソフトウェア技術を追いかけていた記者なのだそうだから、よりテクノロジー向きな内容もTechCrunch Japanで取り上げられることになるだろう。

@IT以前もテクノロジー媒体の編集者として活躍してきたこの業界のベテランなので、TechCrunch Japanの新しい編集長として私以上にふさわしい人物であると考えている。今後は西村氏の手によって新しいTechCrunch Japanが作られていくことになるが、これまでとは違った新しい媒体の価値が形成されるに違いないと確信している。

なお、私ごとではあるが、これまでTechCrunch Japanでお世話になった方々にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。テクノロジー業界でもっとも影響力のある媒体の日本のローカルの小さな部分を担ってきたが、個人的には非常に刺激的な仕事であり、楽しい時間だったが、やり尽くしていないこともあって実際には心残りも多い。

ただ、もう何年もテクノロジーメディアの仕事をしてきていてそろそろ新しいチャレンジをしたいと考え続けていた。このタイミングが適切だったかどうかはわからないが、今回、編集長の座を降りることとさせていただいた。

今後はベンチャーキャピタリスととして日本のインターネットの産業の中やスタートアップとの関わりで活躍の場を作っていきたいと考えているが、引き続きTechCrunch Japanでの執筆活動は続けていく予定である。

いままで支えてくだった方々には心からお礼を申し上げるとともにこれからもTechCrunch Japanの応援をお願いしたく思っている。本当にどうもありがとうございました。


山田進太郎氏が新たに立ち上げたのはフリマアプリのメルカリ

山田進太郎氏がウノウをZyngaに売却したのはもう3年近く前のことになる。この間、ご存知のとおり、Zyngaの失墜により日本からZynga Japanが撤退するなど、ゲームやソーシャル周辺のビジネスはめまぐるしく状況は変わっている。だから、彼が新しく始めるビジネスがC2Cのコマースサービスであってもまったく驚きはしなかった。むしろ、流行のビジネスに取り組むのは彼らしいとさえ思っている。

彼はZynga Japanを去ったのち、少しブランクを開けて今年に入って新たなスタートアップKouzohを立ち上げている。そして満を持してリリースしたサービスは、C2Cのコマース、いわゆるフリマ(フリーマーケット)のサービスを提供するスマートフォンアプリのメルカリだ。すでにこのアプリはGoogle Playからダウンロードできるようになっている。

フリマアプリといえば、FabricのFrilが先行しているし、フィーチャーフォン時代にはショッピーズがその市場を確立し、いまではサイバーエージェントの毎日フリマLISTORなどいくつかのサービスが参入している状況だ。Frilは少し前の数字になるが、2013年3月27日付の日経新聞朝刊の報道によれば3月下旬で1日3300の売買が成立し、1品あたり平均約3,000円で取引されているというから、1日でおおよそ1,000万円の取引があると想像できる(これがホントならFrilは1日100万円の収入があることになる)。現在はこれよりももっと成長しているだろうから、スタートアップにとっては魅力的な市場であることはわかる。

これらのサービスの多くは若い女性をターゲットにしたファッション中心のサービスのようにも思える。メルカリももちろんこの分野をなぞるが、山田氏によれば、この市場に参入を決めたのは先行するサービスの成功ぶりだけを見ていたわけではないようだ。

たとえば、ヤフーオークションはその取扱高はおおよそ年間6,800億円弱程度と、ここ数年は変化していない。成長が止まった状態だ。それは、入札による値決めや煩雑なやり取り、月額の会員費、C2Cならではのトラブルなど、スピードや手軽さを求めているスマートフォン世代には敷居が高く、敬遠されがちな状況だと山田氏は考えている。ケータイ世代の台頭を背景に成長したDeNAのモバオクも同じくスマートフォンの台頭によって利用が減少している。既存C2Cのサービスが停滞しているからこそ、この市場に参入の余地がある。だから、扱うアイテムはファッションだけでなくオールジャンルにしたいと言う。

それだけでなく行き過ぎた経済発展によって、リソースが逼迫する中で、個人間取引が伸びるだろうとも語っている。そもそも山田氏は楽天の内定時に学生インターンとして楽天フリマの立ち上げに関わっていた。そんな経験も今回のサービスに乗り出したきっかけになっているようだ。


メルカリでは売り手はスマートフォンで商品の写真を撮影して、値段を決めてその説明を加えて投稿するだけで出品が完了する。買い手もクレジットカードなどの手段で商品を買えるようになっている。ただ、そこにはエスクローのような仕組みが入っていて、買い手は実際はメルカリ側に商品代金を支払い、商品が売り手から買い手に届いた時点でお互いにユーザーを評価し終えた時点で始めて、メルカリから売り手に入金されるようになっている。

手数料は出品した商品価格の10パーセントを売買成立時に売り手が支払うことを考えているが、スタート時の1、2カ月の間は無料にしている。決済にかかる手数料(クレジットカード手数料やコンビニ決済手数料など)もメルカリ側が支払うとしているので、現在のところ売り手も買い手も、いまのところ余計な費用はかからない。

メルカリは現在はAndroidアプリしかないが、数週間以内にiPhoneアプリもリリースされるという。山田氏はこのビジネスを日本で立ち上げた後に、早い段階で米国で展開したいと考えている。渡米経験のある彼は北米で使われるようなサービスを作りたかったと常々考えていた。Zyngaではそれはなし得ることができなかったが、北米で類似のサービスが大成功を納めていないことを考えると、もしかしたらメルカリにはチャンスがあるのかもしれない。


習い事の先生が見つかるcyta.jpの利用者はスマホがPCを抜く、今後の開発はスマホ一極集中へ

習い事の先生を探すサイトcyta.jpを紹介したのはもう2年前のことになる。順調にcyta.jpは成長し続けていて、彼らはこの8月には実際にcyta.jpでレッスンを体験する受講生の数は2万人になると見込んでいる。この間にサイトに大きな変化があったという。それは体験レッスンを申し込むユーザーのデバイスが、PCを超えてスマートフォンになったということだ。しかもスマートフォン版が用意されていなかったのにも関わらずである。

ビジネスをスタートさせた際にはわずか全体の11パーセントでしかなかったスマートフォンの割合が、いまでは45パーセントまで成長している。逆に70パーセント程度あったPCは45パーセントまでになっている。もちろん、これは相対的な値なので、全体としては数字は伸びているのだが、インターネットのビジネスと向きあう身としてはスマートフォンが台頭しているとはいえ、この数字は大きく感じる。

前置きが長くなったが、この特殊な事情を鑑みて今日からcyta.jpはスマートフォン版を公開して、スマートフォン版の開発に一極集中させるのだと、cyta.jpを運営しているコーチ・ユナイテッド代表取締役の有安伸宏氏は語っている。

そもそもここまでに行き着いたのには、彼が考える「サービスEC」というコンセプトがある。いわゆるECはモノを買うために最適に進化してきた。しかし、cyta.jpのように習い事の先生を探すといったいわゆるリアルの対面「サービス」を予約から決済できて成功しているものはいまだ数少ない。これをサービスECと位置付けて、今後は特定の場所で空いた時間にすぐに習い事ができるようなものへと進化させていたきたいと有安氏は考えている。

サービスECはたしかに目新しいものではない。彼がこのコンセプトを思いついたのは、グルーポンであったし、食べログのレストラン予約のcenaなどからヒントを得ている。とはいえ、集客から予約、決済、サービスの品質管理、ユーザーの書き込みによるCGMというサイクルを実現できているサイトは少ない。メディアとしての価値は高く集客はできるが、予約や決済ができなかったり、あるいは予約や決済は用意されているがメディアとしての価値が低かったりというケースはよく見かける。cyta.jpは結果的にこれを一気通貫して開発してきた。だからこのサービスECのコンセプトを推し進めて行こうということだった。

最近では既存のECサイトもモバイル向けの開発に熱心だが、サービスECではサービスを受けられる場所や時間がより重要になる。このためにモバイル向きのサービスということになるのだろう。

いまだ手付かずの状態にあるO2Oの市場にはサービスECのようなものは参入の余地が大きく残されている。ただ、一方で使う側はこういったテクノロジーに不なれな場合もある。cyta.jpはユーザーに向き合うだけでなく、先生(彼らはプライベートコーチと呼んでいるが)たちへの指導や彼らをモチベートする仕組みも秀逸だ。ユーザー側には見えないバックエンドへの開発も惜しみなく行われていることがこのビジネスの成功の鍵なのかもしれない。


クレジットカード連携特典サービスを実現するカンム、クレディセゾンと提携

カンムは以前はMarketgeekという株価情報のサイトを運営していたが、ピボットして新たなサービスを提供し始める。CLO(card linked offer、カード連携特典)と呼ばれるサービスがそれだが、クレジットカードの利用履歴に基づいてユーザーに店舗と連動する特典を提供するというものだ。その第一弾はクレディセゾンとの提携によって今日から実現されるようになる。CLOはすでにCardlyticsCarteraなどによって米国でサービスが提供されている。TechCrunch JapanでもCardlyticsについては以前に寄稿によって紹介している。

今回スタートするCLOセゾンは、クレディセゾンのクレジットカード会員に対して、彼らの年齢や性別、クレジットカードの利用履歴などを解析することによって会員それぞれに適した店舗の特典情報を会員サイトで提供するものだ。会員向けサイトには、会員はたとえば毎月のクレジットカードの利用明細を確認するときなどにログインするが、その際に特典とクレジットカードを結びつけるように設定してもらう。スタート時には通販のQVCやディノス、TOHOシネマズ、パルコ、ローソンが特典を提供するが、こういった店舗(通販でもリアルな店舗でも)でクレジットカード会員がクレジットカードで支払いをすると、提供される特典が適用されるようになる。特典はたとえば、クレジットカードで貯まるポイントが通常の利用よりもたくさんもらえるといったものだという。


カンムのビジネスは、店舗に送客するごとに受け取る店舗側からの送客料で、これをクレジットカード会社と折半する。クレジットカード会社から見ると、会員のクレジットカード利用を促進しつつ、店舗からの送客料という新たな収益も受け取れる旨みのあるサービスとなっている。もちろん特典を発行する会社にとっても、クレジットカード会員の情報から得られる、年齢や性別、エリア、年収、来店利用暦などによって緻密なマーケティングができるとカンム代表取締役の八巻渉氏は語っている。O2Oの新たなツールとしても利用されることを彼らは期待している。

こういった話からCLOはインターネットのマーケティングツールのような仕組みのようにも思えるが、カンムではすべての情報はクレジットカード会社のシステム内に閉じられていて外部に持ち出せないようになっているという。またクレジットカードの会員の情報となるクレジットカード番号や個人を特定する名前などについても当然ながら取得していないという。

これまで、こういったシステムはこれまでクレジットカード会社がSIベンダーに多額の開発費を支払って実現するケースが一般的だったが、新たなビジネスモデルによってスタートアップ企業が参入し、導入側は低コストで開始できているのが興味深いと言えるだろう。

カンムは今回のサービスのアナウンスと同時にEast VenturesとANRIおよび個人の三者に対して第三者割り当て増資を実施し、およそ4,300万円の資金を調達したことを発表している。それ以前にはEast Venturesクロノスファンドから500万円の資金を集めている。