フェイスブックによる顧客サービスプラットフォーム「Kustomer」買収にEU介入の可能性

欧州連合(EU)は、Facebook(フェイスブック)による顧客サービスプラットフォームKustomer(カスタマー)の10億ドル(約1100億円)の買収に関して、EUの合併規則による付託を受けて捜査に入る可能性がある。

欧州委員会の広報担当者は、EU会社合併規則第22項に基づき、オーストリアから本買収提案の付託申請を受けたことを確認した。これはEU加盟国が国の届出義務条件に満たない取引(正式な届出義務を課すためには当該企業の売上が低すぎる場合)に対して警告を与えることのできる仕組みだ。

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委員会広報担当者は、本案件がオーストリアで現地時間3月31日に提出されたと語った。

「第22項の付託請求を受理した後、委員会はその付託請求をただちに他の加盟国に通知しなくてはなりません。加盟国は委員会から最初の通知を受けてから15就業日以内に元の付託請求に加わることができます」と広報担当者は本誌に伝え、次のように付け加えた「他の加盟国の付託請求参加期限が満了した後、委員会は請求を受け入れるか却下するかを10就業日以内に決定します」。

欧州委員会がこの買収案件を捜査するかどうかは数週間のうちにわかる。捜査は数カ月にわたる可能性があり、そうなればFacebookが自らの帝国にKustomerのプラットフォームを引き入れる計画は遅れることになる。

FacebookとKustomerには、進展状況についてのコメントを求めている。

ソーシャルネットワークの巨人による顧客関係管理プラットフォーム買収計画が2020年11月に発表されるやいなや、FacebookがKustomerの所有する個人データで何をするのかという懸念が直ちに浮上した。Kustomerのサービス分野が、健康医療、政府、金融サービスなどに及ぶことから、データにはセンシティブな情報が含まれている可能性がある。

2021年2月、アイルランド人権委員会(ICCL)は欧州委員会および国とEUのデータ保護機関に、提案された買収に関する懸念を提起し「データ処理に起因する結果」の監視を要請するとともに、Kustomerの利用規約がユーザーデータを広い範囲の目的に利用を許していることを強調した。

「Facebookはこの会社を買収しようとしている。『当社のサービスの改善』(Kustomerの規約にそう書かれている)の範囲がそもそも曖昧だが、Kustomerが買収されればさらに広がる可能性が高い」とICCLは警告する。『当社のサービス』は、例えばFacebookのあらゆるサービスやシステムやプロジェクトを意味すると取られかねない」。

「欧州司法裁判所の判例法および欧州データ保護委員会は、『当社のサービスの改善』および同様に曖昧な記述を『処理目的』として認めていない」と付け加えた。

またICCLは、買収後使用されるユーザーデータの処理目的を確認する質問をFacebookに送ったと語った。

ICCLのJohnny Ryan(ジョニー・ライアン)上級フェローは、一連の質問に対してFacebookから何ら回答を受け取っていないとTechCrunchに伝えた。

本誌もFacebookに対し、Kustomerを買収した後同社の所有する個人データをどう扱うかについて質問している。

ちなみに、最近のGoogle(グーグル)によるウェアブルメーカーのFitbit(フィットビット)の買収は、EUの数カ月にわたる競争に関する監視を受け、テック巨人がさまざまな譲歩、たとえばFitbitのデータを10年間広告に使用しないことなどに同意することで、ようや当局に承認された

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これまでFacebookによる買収は、概して規制当局のレーダーにかかることなく進められてきた。約10年前、同社はライバルのInstagramとWhatsAppを買収してソーシャル世界を支配した。

しかしその数年後、同社は「誤解を招く」書類提出について、EUに罰金を払うはめになった。Facebookは、WhatsAppとFacebookのデータを結合させたが、当局にはそれは不可能だと伝えていた。

あまりにも多くのデータスキャンダルがFacebookと密接に繋がっている中で、巨人は顧客の不信を背負い、運営に対するはるかに厳しい監視を受けている。そして今度はCRM会社を買収してB2Bサービスを拡大する計画にも横槍を入れると脅されている。こうしてFacebookは「move fast and break things(すばやく動いて破壊)」した結果、モノを破壊するという評判のためにゆっくり動かなくてはならなくなった。

【更新】Facebookはその後広報担当者の名前で以下の声明を送ってきた。

「この契約はダイナミックで競争の激しい分野において、ビジネスと消費者にさらなるイノベーションをもたらします。より早く、質の高い顧客サービスをいつでも必要な時に提供することで、多くの人々が利益を受けます。FacebookとKustomerがこの競争促進的契約を通じて、より多くの選択肢とよりよいサービスを提供することを規制当局に明示できると期待しています」

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookKustomer買収欧州連合

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Facebookが過去最大1000億円でKustomerを買収、カスタマーサービス事業の強化を目指す

米国時間12月7日、Facebook(フェイスブック)は、ビジネス向けサービス構築のためとして過去最大の買収を行った。新たにフェイスブックの傘下に入ったKustomer(Facebookリリース)は、カスタマーサービスに根本的な変化をもたらすことを目指すスタートアップだ。同社は顧客のソーシャルメディアその他のチャネルでの活動及び顧客とユーザー企業との間の関係を総合し、顧客の全体像を得て企業に優れたデータを提供するアプローチを採用している。

詳細は明らかにされていないが、事情に通じた情報源はTechCrunchの取材に対して、買収価格が10億ドル(約1040億円)程度だったことを確認した。この取引の記事(と10億ドルという価格)は12月7日のWSJに掲載されている。

Kustomerの共同ファウンダーはCEOのBrad Birnbaum(ブラッド・バーンバウム)とJeremy Suriel(ジェレミー・スリエル)の2人で、これまでにAirtime、AOLなどで一緒に仕事をしてきた。Kustomer以前のスタートアップはSalesforceへの売却に成功している。Kustomerへの投資家はCoatue、Tiger Global Management、Battery Ventures、Redpoint Ventures、Cisco Investments、Canaan Partners、Boldstart Ventures、Social Leverageの各社で総額1億7400万ドル(約181億円)を調達している(未訳記事)。PitchBookのデータによれば、最新の会社評価額は7億1000万ドル(739億円)だった。

フェイスブックの買収の動機はわかりやすいが、同時に、戦略的な方向性を示す非常に重要なサインでもある。

フェイスブックは、プラットフォーム上の企業にカスタマーサービスを提供するビジネスを着実に構築してきた。Kustomerの買収はこのサービスの一層の強化を目指していることを示すものだが、将来はこれを有料化して収入の柱の1つとなるサービスとしていきたいのだろう。

現在、フェイスブックのビジネス利用者は約1億7500万人だ。これには独自のホームページやアプリではなくフェイスブックを主要なオンラインのアイデンティティ(身元)としている企業へのアクセスとフェイスブックグループのアプリ(Instagram、Messenger、WhatsAppなど)を顧客との会話のチャンネルの1つ(唯一という場合もある)としている企業へのアクセスの双方を含む数字だ。

20億人以上というフェイスブックの全ユーザー数と比べれば、1億7500万人はさほど大きな数字に感じられないかもしれない。

しかしSnapchat、TikTok、その他のサービスとの競争が次第に激しさを増すにつれて、優れたビジネス向けプロダクトを持つことは企業とそこにアクセスするユーザーをフェイスブックのエコシステムに囲い込んでおくために重要となる。また同社では現在も広告収入が他を大きく引き離して同社の収入のメインだが、企業向けサービスは広告を補完する新しい収入分野となる道を開くだろう。

実際、カスタマーサービスはフェイスブックにとって非常に興味深い方向だ。これまでもメッセージングアプリ上に企業向けの機能を追加(未訳記事)するために多大の投資をしてきた。たとえば最近では、企業がWhatsAppアプリ内に簡単にショッピングその他の機能を追加できるようにしている。カスタマーサービスは、これまでのフェイスブックの閉鎖的なエコシステムの外に広がる広大な分野だ。

実際、Kustomerを始めCRM(顧客関係管理)企業が最近何をしているかを説明するために多用されている用語は「オムニチャンネル」だ。つまりアプリ、ソーシャルメディア、ウェブサイト、チャットボット、電子メールなど顧客との会話が発生するさまざまなチャンネルを総合し、ユーザー企業が顧客の全体像を把握できるようにする。これによりカスタマーサービス要員の仕事が効率化され、ある顧客はどのチャネルから企業に連絡する可能性が高いかなどが的確に示せるはずだという論理だ。コンテキストに基づいた顧客の全体像が把握できれば、企業のカスタマーサポートにとって極めて有益だ。

フェイスブックの場合、これまでCRMプロファイルは、サービスの登録ユーザーに関するものに限られていた。しかしカスタマーサポートの強化はプラットフォームを超えて広く顧客関係を把握し、コントロールすることを目的としている。

偶然だが、ライバルのSnapがカスタマーサポートのための音声チャットのボットを作るVoca.aiの買収(未訳記事)を発表したのが2020年12月初めだった。

SnapがVocca.aiのテクノロジーをどのように利用するのかはまだわからない(Spectaclesに、音声コマンドなど音声ベースのテクノロジーを導入するのかもしれないという推測も出ている)が、我々はこの買収は理に適っていると評価した。私自身「Snapchatをセールスツールに利用している企業にさらに多くのサービスを提供し、プロダクトのポートフォリオを拡大することは適切な方針だ」と書いている。

今回のフェイスブックのKustomer買収は、いろいろな意味で極めてタイムリーな動きだと感じる。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookKustomerCRMカスタマーサービス買収

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(翻訳:滑川海彦@Facebook