語学学習のQ&Aアプリ「HiNative」が6.5億円調達、登録ユーザー数は1年強で3倍以上に

写真左より、YJキャピタル代表取締役の堀新一郎氏、Lang-8代表取締役の喜洋洋氏

外国語学習者向けのQ&Aアプリ「HiNative」を運営するLang-8は9月10日、YJキャピタル、大和企業投資、FFGベンチャービジネスパートナーズ、個人投資家の千葉功太郎氏などから約6億5000万円を調達したと発表した。

これまでにもTechCrunch Japanで紹介してきたHiNativeは、外国語を学習する人向けに開発されたQ&Aアプリだ。たとえば、「〇〇は英語で何と言う?」などと質問すると、その言語のネイティブスピーカーが回答してくれる。テキストでの回答のほか、音声で回答する機能もある。また、そのように語学学習に直接つながる質問だけではなく、日本語を学ぶ外国人が「(就活の)合同説明会では履歴書は必要ですか?」など、その国の文化や慣習についても盛んにQ&Aが行われているのが特徴だ。

HiNativeは2014年11月にサービスリリースされ、2018年8月時点で登録ユーザー数は341万人だという。Lang-8は2017年6月にはユーザー数が100万人を突破したと発表していたから、そこから1年と少しの期間でユーザー数を3倍以上に伸ばしていることが分かる。サービスが対応する言語も110言語にまで増え、240の国と地域で利用されるようになった。

今回のラウンドに参加しているYJキャピタルは、2年前に行われた前回ラウンドで、「HiNativeがもつ可能性に自信が持てなかった」という理由から出資を見送ったという経緯がある。そのYJキャピタルで代表取締役を務める堀新一郎氏も、現在のLang-8については「この2年間でKPIが強烈な右肩上がりで成長を遂げている」とコメントしている。

「コミュニティの価値はユーザー数が増えれば増えるほど高まっていく。ユーザーが増えたことで回答者の層が厚くなり、ユーザーにとっての価値もさらに高まる。まずはユーザー数を数千万人規模にまで伸ばしたい」(Lang-8代表取締役の喜洋洋氏)

ユーザー数の伸長に貢献したのは、Lang-8が以前から注力してきたYouTuberマーケティングだ。これは、外国語学習の領域で影響力のあるYouTuberと直接契約を結び、HiNativeを実際に使用する動画をアップロードしてもらうなどの施策。Lang-8はこの施策を国内だけでなく海外のYouTuberに対しても行っており、その結果、登録ユーザー数の約97%が海外ユーザーなのだという。ここ最近では、ベトナムなど東南アジアからの登録が伸びているそうだ。

今回のラウンドで約6億5000万円を調達したLang-8。同社はこの資金を利用して、海外利用比率のさらなる向上を目指すための新規ユーザーの獲得、回答率やスピードの改善などのサービス向上、マーケティング施策などの強化を行っていく。

「HiNativeを通して目指すのは、世界中のネイティブスピーカーがもつ知と経験の共有だ。(冒頭で紹介した)合同説明会の例など、たとえ特別な知識や経験がなくとも、ネイティブスピーカーの『当たりまえ』が誰かにとっては非常に価値のある情報になり得る。HiNativeを利用すれば、疑問に対してすばやく適切な答えがかえってくるという世界を早く作りたい」(喜氏)

lang-8、外国語学習者向けのQ&Aアプリ「HiNative」が100万人を突破

外国語学習者向けのQ&Aアプリ「HiNative」や、ネイティブによる英語添削アプリの「HiNative Trek」を開発するLang-8(ランゲイト)。同社は6月28日、HiNativeの登録ユーザー数が100万人を突破したことを明らかにした。

これまでもTechCrunchでお伝えしてきたとおりだが、HiNativeは、ユーザーがお互いに母語を教え合う語学学習アプリ。例えば、英語を学んでいるユーザーが「英語で○○というのはどう表現するか」という質問を投稿すると、その英語を母語に持つユーザーがテキストや音声で回答するというもの。

サービスは2014年に11月スタート。2017年1月時点で39万人だった登録ユーザー数は直近で急増。2月には50万人、6月26日には100万人を突破したという。現在、110言語に対応しており、231の国と地域から利用されているという。

実はlang-8は今月で創業10周年になる。当初は京都に拠点を置き、外部資本を入れずにサービスを開発していたが、Open Network LabのSeed Accelerator Programに採択されたことをきっかけに上京し拠点を東京に移転。外部資金を調達し、いわゆるスタートアップ的な成長を目指すようになった。

「ユーザー獲得についてはほとんど事業計画通りに進んでいる。2017年前半はHiNative内での回答のスピードと品質を強化してきた。平均回答時間も年初の平均40分という数字が20分にまで短縮されている。またiOS版のみだがユーザーの評価制度も導入し、品質向上に努めた。2017年後半は課金のチューニングを進めていく」(lang-8代表取締役・喜洋洋氏)

lang-8では、2017年末にユーザー数250万人、2018年末に1000万人、最終的には1億人の登録ユーザー数を目指すとしている。

1日1題の英語学習アプリ「HiNative Trek」にビジネス英語コースが登場 ― 8カ国同時リリース

外国語学習者向けのQ&Aアプリ「HiNative」や、ネイティブによる英語添削アプリの「HiNative Trek(以下Trek)」を開発する日本のLang-8(ランゲエト)は4月10日、これまではIT業界のみに特化していたTrekに一般ユーザー向けのビジネス英語プログラムを追加すると発表した。

この新プログラムは日本だけでなく、中国、韓国、台湾、香港、ロシア、メキシコ、チリのユーザーにも同時リリースする(学習できる言語は英語のみ)。

2016年2月に正式リリースしたTrekの利用料金は月額9800円。海外向けには98ドルで提供する。今回の新コース追加後も料金に変更はない。

今回発表したビジネス英語コースでは、面接やカンファレンスで利用するフレーズなど、ビジネスの現場で使う実践的な英語を学ぶことができる。教材の監修を務めたのは、アル・ゴア元アメリカ副大統領、マーク・ザッカーバーグなどの同時通訳を務めた経験をもつ関屋英里子氏だ。また、実際に米国企業で就労経験のあるネイティブスピーカー5人によるチェックも重ねて行っている。

ビジネス英語コースの利用方法は従来のTrekと変わりない。ユーザーは平日に1日1問ずつ出題される課題を解くことで英語を学習していく。問題の内容としては、英作文、英語で出題される質問に対して英語で解答するもの、英会話などがある。

今回から一気にサービスの多言語化を進めるLang-8。同社の国際色豊かなユーザーベースを踏まえれば、これは妥当な選択だったと言えるだろう。

同社がこれまでに獲得したユーザー数は現在約60万人。HiNativeはQ&AサービスであることからWeb経由の流入などが増え、2016年3月時点の約9万人から大きく上昇している。そして、その8割が海外ユーザーだ。2017年3月における国別利用割合(Android版)を多い順に並べると、ポーランド、ロシア、アメリカ、メキシコ、ブラジルとなる。日本はそれに続く6番目の位置だ。

Lang-8代表の喜洋洋氏は、同社がこれまでに進めてきたYouTubeマーケティングが海外ユーザー獲得の原動力となったと話す。具体的には、インフルエンサーと呼ばれる影響力をもつ海外YouTuberにアプローチをかけ、彼らにHiNativeを紹介してもらうという方法だ。例えば、同社は2017年2月にポーランドのYouTuberへのアプローチを開始。3月には同国のApp Store「教育アプリランキング」で1位にランクインするなど、一定の効果は出ているようだ。

下の動画では、韓国語を勉強するアメリカ人がHiNativeを紹介している。

ところで、これまでのTrekは「IT特化」という特徴があり、それが他社との差別化要因になっていた気もする。しかし、今回の一般ビジネス英語コースを追加することにより、Trekは他の一般的な英語学習サービスと直接競合することになる。これについて喜氏は、「(差別化の要因となるのは)コンテンツの質というよりも、Trekの仕組みだと思っている。Trekでは予約が必要なく、非同期でやりとりができるので時間効率が良いこと。そして、テキストと音声がデータとして残るので復習しやすいことなどが特徴だ」と語る。

ただ、同社が公開しているユーザー数はHiNativeとTrekを合わせたもので、2016年2月にリリースしたTrekがどれだけのユーザーを獲得してきたのかは不明だ。だから、この仕組みが本当にユーザーに「ウケて」いるのか僕には分からない。逆に言えば、今回ビジネス英語コースを追加したことによって、これからTrekの真価が問われることになるのだろう。

Lang-8は2016年10月に京都大学イノベーションキャピタルなどから2億円を調達。その後、2017年2月の「ITコース2」、そして今回の「一般ビジネス英語コース」と立て続けにTrekの強化を行ってきた。

「これでようやく準備が整い、既存アプリのチューニングに注力できるようになった。その指標の1つであるHiNativeの『回答を得るまでの時間』は今年初めと比べて30%ほど改善し、平均して28分程度になっている。また、スタートは遅れてしまったが、2017年末までにユーザー数250万人というかねてからの目標はなんとか達成したい」と喜氏は語る。

Lang-8代表の喜洋洋氏

 

語学学習サービス「HiNative」のLang-8が2億円調達——開発・マーケを強化し17年末250万ユーザーを目指す

Lang-8代表取締役の喜洋洋氏

Lang-8代表取締役の喜洋洋氏

「9年目にしてやっと『レバレッジをかけて伸ばす』ということの意味が分かってきた」——Lang-8(ランゲート)代表取締役・喜洋洋氏はこう語る。同社は10月5日、京都大学イノベーションキャピタル、East Ventures、ディー・エヌ・エーのほか、千葉功太郎氏、Justin Waldron氏(元 Zynga co-funder)をはじめとした個人投資家数人を引受先とした第三者割当増資を実施し、総額2億円の資金を調達した。

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Lang-8の創業は2007年。当時京都大学の大学生だった喜氏が立ち上げたスタートアップだ。提供していたのは語学学習向けSNSの「Lang-8」。京都にてサービスを運営していたが、2012年には本社機能を京都から東京に移転。2013年にはOpen Network Labのインキュベーションプログラムに参加した。

SNSのLang-8を運営しつつ、2014年11月に正式ローンチしたのが新たな語学学習サービス「HiNative」だ。これはとある国の言語を学んでいるユーザーが「○○語(学習している言語)で□□はどう表現するか」という質問を投稿し、その言語を母国語に持つユーザーがテキストや音声で回答するというQ&A型のサービスだ。

積極的なプロモーションこそは行わなかったが、ユーザー数は徐々に増えていった。変化が起こったのは2015年末。SEOでウェブ経由の流入が増えたほか、YouTuberを起用したマーケティングが奏功した。これにともなって登録ユーザーも増加。2016年1月時点の6万人だった登録ユーザーは、9月末には4倍の24万人まで拡大した。

集まった質問は9月末時点で96万件。回答数は340万件に上る。対応言語数は120言語で、それらの言語の使われるほぼ全ての国からアクセスされているという。

「2015年は地道にリテンションを改善する施策を進めた。質問に対する回答が早いとユーザーの満足度が上がり、リテンションもよくなる」(喜氏)。質問に対して回答がつくまでの平均時間は2016年初の90分から約30分に短縮。今後は5分以内に回答がつくよう仕組みの導入も検討しているという。

ウェブ版「HiNative」の月間ユニークユーザー数

サービスの質を変えるとともに、冒頭の言葉のように、レバレッジをかけてユーザーを集めることにも力を入れる。「今までは広告でユーザーを増やすという発想がなかったが、薄く、長い時間を掛けるのは意味がない。経営者思考を持ってユーザーを大きく増やしていきたい。さまざまな国のユーザーを集めて、ユーザー数1000万人規模のサービスに育てれば簡単にはマネができない」(喜氏)。京都にいた頃のLang-8は、月次売上が10万円なんて報じられたこともあった、どちらかというと地道にユーザーを伸ばすスタートアップにも思えた。だが東京に拠点を移し、そこで出会った起業家が自社を追い抜くペースでイグジットするのも目の当たりにしたことで、焦りを感じ、戦い方も変えたという。

 Lang-8では今回の調達資金をもとにスマートフォンアプリエンジニアやウェブエンジニアなどの開発者を拡充していく。現在5人のチームだが、倍の10人程度まで増員していく計画だ。また、マーケティング施策も強化する。海外を中心にユーザーの認知を拡大し、今後は有料オプションや高度な学習向けの課金サービスに誘導を図る。Lang-8では、登録ユーザー数で2017年末に250万人、2018年末に1000万人を目標としており、最終的には「1億人のグローバルで使われるサービスを目指す」としている。

1日1問の継続こそが価値を生む、lang-8がIT業界特化の英語学習サービス「HiNative Trek」をスタート

 

2014年10月にまずは海外向けにサービスを開始したlang-8の外国語学習サービス「HiNative」。アプリのデザインを担当した制作会社THE CLIPがオープンエイトに買収されたこともあり、その際にチラッとご紹介したのだが、2月からは日本向けにもスマートフォンアプリの提供を開始している。

Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏

Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏

HiNativeは「○○って英語でどういうの?」「○○と△△って英語でどう違うの?」といった外国語に関する疑問を、テンプレートを使って手軽に投稿したり、回答したりできるサービスだ。現在7万ユーザーがおり、質問数は25万7000件。回答数は80万件となっている。2月のアプリ国内ローンチまでは露出を控えていたが、今後は年内100万ユーザーを目指すとしている。

そんなHiNativeの中で有料の英語学習サービスがスタートした。サービス名は「HiNative Trek」。IT・スタートアップ向けに特化した、実践的な学習内容になっているという。

HiNative Trekは、1日1問ずつ(平日のみ)出題される課題を解くことで英語を学習していくサービス。問題の内容は英作文や英語で出題される質問に対する英語での解答、会話など。

教材の内容は「私たちのサービスは競合の2倍のMAUです」というテキストの英作文だったり、「What are the major product milestones?」という質問への英語での回答だったりと、IT業界の人間であれば業務中に使ったり、聞いたりしたことがあるようなフレーズになっているのが特徴。回答の際はテキストに加えて音声を録音して投稿。するとネイティブスピーカーの講師が指導をしてくれる。午後1時までに投稿すれば、当日中に指導が行われる。

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「実践的で『言えそうで言えない』という内容の教材を独自に制作している。ネットにはいい教材があっても継続できないことが課題だった。HiNative Trekは1日1問で継続しやすく、また一方で、たまった課題をまとめて提出しても構わない。音声も使うが、Skype英会話と異なり完全非同期でのやりとりができるので便利」(Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏)。

教材は1カ月ごとにテーマを設定。内容に関しては、西海岸のテック系企業勤務経験のあるネイティブも複数回チェックしているという。

料金は月額9800円となっており、正直少し高く感じる。喜氏はネイティブによる指導でコストが上がる点もあるが、オリジナル教材や1日1問であっても継続することこそが語学力を高めるという点をアピールする。「語学学習はやろうやろうと言うままで毎年を過ごして機会を損失しているということも多い」(喜氏)。

同社ではまず、有料会員数百人規模を目指す。ユーザーの動向を見て講師陣の拡大なども進めていく。

 

検索するより人に聞け、HiNativeはポスト検索時代の外国語学習コミュニティ

これって英語でどういうんだろう? とか、「cemetery」と「graveyard」って、どう違うんだろう? というような疑問をさっくり解決してくれるサービス「HiNative」が、2014年10月のローンチ以来4カ月弱でユーザー数2万5000人、回答数は12万を超えて順調なスタートを切っているようだ。

HiNativeは外国語に関するふとした疑問に、その言語のネイティブ・スピーカーが回答してくれるサービスだ。質問するだけじゃなくて、自分が話す言語について回答するのも楽しい。「達人と名人はどう違いますか?」「ミルクと牛乳はどう違いますか?」「selfieは日本語で何と言いますか?」という日本語を学習中のアメリカ人や中国人の質問に、日本語ネイティブ・スピーカーとして回答を付けたりすることができる。HiNativeは、そういう各国(言語)のユーザーの教え合い精神で成り立っているQAコミュティーの一種だ。

ぼくは去年末から時々使ってみているけど、信号待ち程度の時間でもスマホで気軽に投稿して聞けることとか、打てば響くように回答がすぐに付くことから、とても良いサービスだと感じている。

テンプレで事足りるので、質問がラク

HiNativeのポイントは2つあると思う。

1つは手軽なこと。質問には以下の画面のように3つのテンプレが用意されている。自由に質問できるテキストボックスもあるけど、だいたいテンプレのどれかだけで事足りる。

これらのテンプレの質問文は、その質問に回答ができるユーザー向けにはその言語で表示される。例えば、「AとBではどう違いますか? 例文も教えて下さい」というのを選択して、AとBに相当する英単語を入力すると、英語のネイティブ・スピーカーに表示される質問文は、

What is the difference between cemetery and graveyard?
Feel free to just provide example sentences.

となる。この質問をするには「cemetery」と「graveyard」という単語だけ入力すればいい。この質問形式では単語を3つ以上に増やすこともできて、ぼくがHiNative上で見てドキッとした日本語関連の質問だと、

火 と 炎 と 焱 はどう違いますか?

なんていうのがある(ちなみに、ぼくの回答は「3つ目の字は見たことがない。ジョークかと思った」)。質問が手軽なのがHiNativeの特徴だが、回答のほうも手軽にできる工夫がある。例えば「この表現は自然ですか?」という質問に回答する場合は、とても自然/だいたい合ってるけど少し不自然/不自然/意味が通じない、の4つから選ぶだけで良くて、無理にコメントを付ける必要はない。すでに別ユーザーがテキストで回答している場合には、それに「いいね」をするだけでネイティブ・スピーカーとして1つの有益な情報提供ができる。

回答は速いと5分以内、いろんな意見が集まる

HiNativeのもう1つのポイントは、回答が付くのが速く、その数が多いことだ。

HiNativeを開発・運営するLang-8(ランゲエト)創業者でCEOの喜洋洋さんによれば、質問してから回答が付くまでの所要時間は「だいたい30分から1時間」だそうだ。質問内容が難しくなくて、時間帯さえ良ければ(その言語を第一言語として話す人が起きている時間帯という意味)、5分程度で回答が付くことも少なくない。ぼくが使っている印象だと、アメリカ英語に関する質問だと5分程度で回答が付きはじめて、だいたい1、2時間ぐらいで2〜5件程度、多いと8件ぐらいの回答が集まるといった印象だ。

これは、ググレカス時代の終焉なのか?

HiNativeは、ぼくの(古い)感覚からするとググレカスという質問・回答が多い。

回答するのは主にネイティブ・スピーカーなのだが、教師や編集者、言語学者ではない。だから、みんな基本的に辞書は引かないし、ググる人も少数派。自信満々に「自己解釈」をサラッと述べて去っていく人が多い。ねちっこい外国語学習をやってきたぼくは、「ミルクと牛乳は全く同じ」と回答する日本語ネイティブ・スピーカーや(よく考えればミルクと牛乳では使う状況が異なるケースもあることは分かるはず)、ネイティブ・スピーカーでもないアメリカ人が日本語について「牛乳というのは単に古い言い方で、今どきはもうミルクのほうが多いってことで間違いないと思う」と回答していたりするのを見ると、ちょっとぐらいは考えるなり調べるなりしてから回答すればいいのに、と思ってしまう。

ググレカスってやつだ。だけど、たぶんそういう考えは、もう古いんだと思う。

PC時代のQAサイトの多くは、これぞ唯一決定版という質問と回答のペアを想定していて、それを引き出すのがQAサイトの役割という考え方でデザインされている。なぜなら、その入口はGoogleだからだ。Wikipediaもそうだけど、決定版の記述(URL)があれば、後はGoogleがそれを質問文と結び付けてくれる。上に述べた「決定版のQA」を強く想定しているQAコミュニティでは、重複する質問を忌み嫌う文化が強い。くだらない質問をしたら怒られるので、質問には事前調査と勇気がいる。掲示板上で繰り返される同じ質問に、ほとほとウンザリしてきた人々が作ったサイトとしてスタートしているからだ。例えば、先日Andreessen Horowitzから4000万ドルの資金を調達したStackExchangeEnglish Language&Usageというサイトが、その典型だ。ぼくがかつてした英語に関する質問には、既存の質問と重複の疑いがあるので「違いを明示して質問しなおせ」という怖い指摘が入っている。

HiNativeが参考にしたというnanapiが運営する質問・回答コミュニティの「answer.jp」も同じだが、もう重複やFAQがどうこうという時代ではないのかもしれない。回答者予備軍は星の数ほどいる。むしろ回答したい人(人の役に立ちたい、感謝されたいという気持ちを持つ人)は多いのだ。だから、従来型のQAサイトならコミュニティマネージャーが目をひんむいて襲いかかって来そうな、「日本語の「は」と「が」はどう違いますか?」という質問が普通に流れてきて、それに対して初学者が知るべき手短な回答が付いたりする。

「が」と「は」の格助詞の使い分けを教えてくれ、という質問を見て、ぼくは卒倒しそうになった。検索すれば5分で読める良い解説が30秒以内に見つかるだろうし、その気になればもっと詳しい説明もいくらでもネットで手に入るだろう。どんなクソな入門書や文法書にも、そのぐらいのことは書いてある。それを聞くか? というのがぼくの感覚だった。

でも、これはぼくが古くからのネットユーザーで発想が古いからだと思い知らされた気がする。聞いてダメな理由なんてなくて、これはむしろコミュニケーションの一種として常に生まれては消えて行く、川面を漂う泡のようなものなのだろう。聞いたほうにしてみても、まさか格助詞(英語でいえば冠詞)だけで数百ページの本が書けるような話だと思っているわけでもないだろうし、いきなり文法書の一章分の答えを読みたいわけじゃない。とりあえずは「初めて出てきた主語には「が」を使い、すでに会話に出てきた主語には「は」を使う」とだけ答えれば半分ぐらい正解なわけだし、それでいい。この説明に当てはまらないものが出てきたら、また聞けばいいだけだ。

teachは日本語で何と言いますか?」→「おしえる」→「ありがとう!」というようなやり取りもHiNative上には少なくない。このやり取りなんかは、ポスト検索時代の何かを象徴しているような気がする。

HiNativeをやってみてこれはいいなと思ったのは、複数の人の見解がサッと聞けるというメリットがあることだ。例えば、ぼくが実際にした英語の質問で、「hit one’s stride」という慣用表現がある。徐々に環境に慣れて本来のペースを掴んで仕事でパフォーマンスを発揮するというようなときに使う表現らしい。ぼくはこれを辞書で知って、本当に使われているのかどうか知りたくて質問したのだけど、これに対して「意味が通じない」と答えた人がいる一方で、いやいやとても良く使うよと実例を示してくれた人もいた。たぶんこれは日本語で言う「オトナ語」に近くて、ビジネスの場で使われる表現なんだろうと思う。

学習者にとってHiNativeが辞書を超えてるなと思うこともある。この間、スコットランド出身の歴史家が書いた本を読んでいたときに「cotton up」という句動詞が出てきて、cottonに動詞の用法があるのかと驚いて辞書を引いたら「人と親しくなる」などと書いてあった。確かにそれで文意が通るので、へぇーと思ったのだが、HiNativeで質問してみたら、みんな聞いたことがないというのだ。唯一ひとりだけ、たぶんアメリカ南部の古い表現じゃないのかなという指摘をしてくれる人がいた程度。外国語の辞書というのは地域や時代によらず、かつて存在した用法を、できるだけたくさん収録するのが仕事なのだろう。収録例が多いほど「読む」ときに役立つ。しかし、「こんな言葉、オレは聞いたことないし、家族にも聞いたけど誰も知らなかったよ」とは決して言ってくれない。

隣に複数のネイティブ・スピーカーがいるかのように質問できる

HiNativeの実例を、もう少し出してみよう。

ある朝、どうもTechCrunchのサンフランシスコオフィスでWiFiの調子が悪かったらしく、担当者が「wonky」(不調)だとメッセで言っていた。なんかファンキーな響きで印象に残るし、ぼくも「unstable」という工学臭のする面白みのない言葉じゃなくて、人間ぽい感じのwonkyという形容詞を使ってみようかなと思ったのだけど、果たして外国人のぼくが使うべき単語なのだろうか? 担当者はイギリス出身でイギリス口語ではないのか? というので、HiNativeで聞いてみた。

「The wifi connection has been wonky this morning. この表現は自然ですか?」

回答では5人が「自然」と言っていて、少し不自然とした人は1人だけ。そして不自然だと指摘した人によれば、wonkyは以前よりも良く耳にするようになってきたスラングだけど、「unstable」というほうをオススメするねというものだった。ぼくはこの回答により、断然wonkyを使うことに決めた。

ぼくは外国語として英語をしゃべるのだけど、口にしてから「あれ、そんな言い方ってありなんだろうか?」と思うことが良くある。まあ文法なんてクソ食らえんだけど、言ってから確認しようと思うぐらいの向学心はある。例えば、この間セブン・イレブンでコーヒーマシンがドリップするのを待っていて背後から「Are you in line?」(列にお並びですか?)と聞かれたときのことだ。ぼくはとっさに「No, I’m waiting for my coffee to fill up.」(いや、コーヒーが入るのを待ってるんです)と答えた。聞いてきたのは外国人観光客グループで、ATMの列とコーヒー待ちの人がゴッチャになる狭い店内のことだった。いくら21世紀になったとはいえ東京に遊びに来ていきなり英語で現地人に話かけるのはヒドい話じゃないのか、モノリンガルのアメリカ人め……、と内心で思いつつも、同時にぼくは「fill up」って他動詞的だからcupのような目的語がないとおかしいような気がする、と、そのことが気になってしまった。

以前なら、こういうのは解決しない問題だった。モヤモヤが残る。ぼくが尊敬する外国語学習の達人の中には、こうしたモヤモヤを脳内にストックしておいて、後で一気に解決することが大事だという人がいるのだけど、HiNativeがあれば、その場で聞ける。

信号待ちで質問をして、コーヒーをすすりながら10分ほどで会社に着く頃までに、5人ほどが「自然だし、全く問題ないよ!」と回答をくれた。その後2日ほどでその数が8人に増えた。

もう1つの例。メールを書いていたときのことだ。「She insists coming」と書き送りながら、何となく不自然な感じがして、HiNativeで質問してみた。これに対して、「ちょっと不自然」という人が2人いて、「She insists on coming」とonを入れるほうがいいと教えてくれた。この回答には、さらに5人がいいねを押していて、多くのネイティブ・スピーカーが「そうそう、insist onだよ」と言ってくれたことがすぐに分かった。これは、かつてなら検索するか辞書を引くか、あるいは違和感を覚えつつ放置したところだったろうと思う。

上に挙げた質問と回答のやり取りは、どれも、まるで隣に何人かのネイティブ・スピーカーが座っているかのような感じだった。従来だと気軽にはできなかったことだと思う。ぼくの仕事場には週の半分ぐらいはイギリス人がいて、ときどき上のような質問をするのだけど、仕事中に英語の質問をされたらウザいだろうなということで控えめにしている。HiNativeでは、そういう遠慮が全く要らないのがいい。

ぼくは割と「事後に確認のために聞く」ことが多いけど、HiNativeのユーザーとしては、その言葉を使う前に聞く人が多いそうだ。何かを言いたいときに質問を投げることでシチュエーションに応じた学習ができると喜さんは言う。

「外国語学習は海外に住むのがベスト。常に24時間インプットがある。でも話すという瞬間が大事。インプットだけだと分かった気になるだけ。プログラミングで、いざ書こうとするとコードが書けないのと同じ。何かを言おうとするとき、空白の「?」が頭に出てくることがある。そこをフィードバックで埋めていくのが一番いい」。

2月末頃のアップデートでは音声機能も追加する。発音を聞いてもらって、それをネイティブ・スピーカーに評価してもらった上で正しい発音を教えてもらうことができるようになるそうだ。

Lang-8はブログ的、HiNativeはTwitter的

さて、Lang-8という社名で気付いた人も多いと思うけど、HiNativeを運営するLang-8は、日記やエッセイといった感じのテキスト投稿を互いに添削しあう外国語学習コミュニティの「Lang-8」を運営する日本のスタートアップ企業だ。Lang-8は2007年6月にローンチしたサービスで、2009年夏のiPhone発売前夜のこと。だから「Lang-8はPCベース。PC使う人なんてほとんどいなくなる」(喜さん)ことから、スマホに特化したサービスとしてゼロベースで考え直したサービスが、HiNativeなのだそうだ。

ぼくはLang-8のユーザーでもあるから良く分かるのだけど、Lang-8に投稿するのは結構「重たい」ことだったりする。2009年からの5年ちょっとで、ぼくはLang-8に100本以上の投稿をしている。だけど、ある月は5回投稿するのに、ある半年間はゼロといったように投稿が億劫になって存在自体を忘れてしまうことがある。いま、自分がLang-8に投稿したものを見返してみて思ったけど、これとかこれのように、ちょっとした質問をしているケースも多く、これならHiNativeのほうがいいかもなというものが少なくない。ちょうどブログ投稿とツイートのような違いがあるんだと思う。

使ったことのない人のために念のために言っておくと、Lang-8には素晴らしい外国語学習コミュニティがある。学習意欲が高く、鋭い言語感覚を持った人たちが謙虚に教え合っていて、第一言語であろうと外国語であろうと、けっこう深い文法的な考察や文化比較が行われている、というのがぼくのユーザーとしての印象だ。

Lang-8はメンテモードで、HiNativeでアクセルを踏む

Lang-8とHiNativeの関係だが、喜さんは「やっとスタート地点に立った気分」で、HiNativeで重点的にアクセルを踏んで行くという。

「Lang-8自体の引きは強い。現在、スマホとPCを合わせて800万PV。登録110万ユーザーで、口コミで毎日1000人ぐらい新規登録があります。月商百数十万円程度と、東京以外で安月給なら3人回る」。サービスイン6年目にしては売り上げ的には厳しい数字となっているようだ。「まだ、気持ちとしてはLang-8のアプリも作りたいし、有料課金の可能性もある。チューニングすれば、まだサービスとして伸ばせる。ただ、今は最小限の労力でメンテナンスモードにしてHiNativeに取り組んでいます」。

Lang-8は2009年にエンジェル投資家4人から1000万円弱の資金を調達。2014年1月にも金額非公開ながらもサイバーエージェント・ベンチャーズからも出資を受けている。

7年に及ぶLang-8の運用というのは投資家からすると長すぎて、いわゆる「いつまでも跳ねない」サービスなのかもしれない。この点について、喜さんは「7年も8年もやっていて、のんびりやってるって思われてるんでしょうけど、今までと同じスピードでやるつもりはない」と語気を強める。

Lang-8をスタートして運営していく中で、2度ほどエンジニアが離れてしまう経験をしたが、2年ほどかけて自分自身でサーバー運用とプログラミングを覚え、徐々に作りたいサービスが作れるようになった経緯があるという。このときの経験で痛感したのは、エンジニアが離れてしまうのは結局サービスが伸び悩んだからだということだそうだ。「当初エンジニアと合わないのは、プログラミングが分かってないからかと思ってた。でも、そうじゃない。サービスが伸びなかったらモチベーションが続かない。だからサービスを伸ばすことがいちばん。モチベーションが続くのは2年がマックスだと思っている。それは1年ぐらいで見えてくるはず」と、一種のピボットとも言える新サービスのHiNativeへかける思いを語っている。

タイミング的にもスマホの普及により、Lang-8でも要望の多かった「音声対応」がやりやすくなった事情があるという。これはネイティブアプリの強みで、「スマホで舞台が整った」と喜さんは言う。

Lang-8で分かったことで、HiNativeに生かす知見は2つあるという。

1つは「お金を払ってくれるのはアジアの人だと思っている」こと。「中国、韓国は信じられないぐらい教育にお金をかける」といい、喜さん自身、中国留学中にマクドナルドの時給が10元(百数十円)というところで、家庭教師は時給1500円というレートだったという現実を目の当たりにしたという。

Lang-8でも中国人ユーザーが多い。中国版TwitterのWeiboのリツイートが100万ビューなどになって「少し中国でLang-8が話題になると、いきなり1日で3万人増えたりする」と巨大市場を思わせる手応えを感じているそうだ。ただ、闇雲にユーザー登録を急いでも仕方がなくMAU率を上げること、つまり「どういう理由で使わなくなっているか」を見ながらサービス改善をすることをHiNativeでは第一に考えているという。

これと関連することだが、もう1つ、Lang-8の運営で「無料だと誰もが英語をやりたい」というアンバランスが発生することも良く分かったという。英語学習者の数が多すぎて、相互添削のモデルがうまく機能しなくなるのだ。一方で、お金を払ってでも添削してほしい人もいるので、有料の先生を付けるというアイデアがある。「需給のアンバランスを解決するのはお金でできることが多くある」という。ちなみに、各言語ユーザーの当初のアンバランスを防ぐ意味で、今のところHiNativeのiOSアプリは日本のApp Storeには出していないそうだ(ただしWebはアクセスできる。PCやAndroidもWeb版ならOK)

マネタイズのアイデアとしては、国や文化についても質問できるようにしたり、旅行者向けに「電源の使えるカフェは?」という地元の人がリアルタイムチャットで解決するサービスとしてお金を流すことも考えているという。「旅行だと予算の単位が10万円とかなので、1日1000円でも払ってくれるかもしれない」。法人向けにチャットで仕事関連の内容を教えてもらえるという有料サービスも考えているのだとか。