マスク氏の地下交通システム「Loop」は約束した無人ではなく運転手必須のテスラ「オートパイロット」を採用

正式公開から2週間足らず、The Boring Company(ザ・ボアリング・カンパニー)がラスベガスで運営するLoop(ループ)システムに初のセキュリティ侵害が発生した。

6月21日、Internationl Beauty Show(インターナショナル・ビューティー・ショウ)最終日の午前、地下を走行する同システムのTesla(テスラ)車団に「無許可車両」が侵入したことが、Loopの運営管理者とクラーク郡当局で交わされたメールでわかった。当該メールはTechCrunchが情報開示法に基づいて入手した。

一連のメールには、侵入事件以外にもLoopの運用に関する新たな詳細が記されていた。システムの非Teslaの電気自動車への驚くべき依存、Tesla車両に運転支援システムであるAutopilot(オートパイロット)の使用を許可する計画、および社内でテクノロジーが自律システムではないと位置づけられていることなど。

The Boring Company(TBC)はラスベガス市警察に侵入事件の捜査を依頼した。「無許可車両のドライバーは協力的で最終的にシステム外へと誘導された」とあるメールに書かれていた。

セキュリティ侵害による負傷や死亡はなかったが、TBCにとってなんとも不名誉な事件であることは間違いない。同社は5300万ドル(約58億2000万円)をかけた同システムのセキュリティと安全性をLVCC(ラスベガス・コンベンション・センター)に売り込んでいた。

TBCとLVCCの間で結ばれた経営合意によると、システムは「偶発的、悪意による、あるいはその他の無許可車両のトンネル内侵入を防ぐための物理的障壁」を備えることになっていた。システム進入路の防犯ゲート、地上駅を囲う数十基のコンクリート製車止めポールなどだ。

TBCもLVCCも、本事象に関する問い合わせに答えていない。TechCrunchはいずれかの回答が得られ次第本稿を更新する予定だ。

オートパイロットにチャンス到来

TechCrunchが入手したメール群は、スリルを求めた侵入者以上の情報を提供している。

そこにはTBCがLVCC Loopを走るTesla車の台数を62から70に増やし、Teslaのオートパイロットテクノロジーの使用を許可する計画の詳細が書かれている。これまでTBCは、全車両の運転支援テクノロジーを無効化し、人間ドライバーに操作させている。

新たな運用計画では、7つのアクティブセーフティ技術として、自動緊急ブレーキ、前方・側方衝突警報、障害物対応加速、死角監視、車線逸脱抑制、緊急車線逸脱警報、および2つの「フル・オートパイロット」技術である、車線中央維持と交通量感知型クルーズコントロールの仕様を要求している。

TBCがオートパイロット利用の必要性を説明するためにネバダ州クラーク郡の建築物・防火局に送ったレターをTechCrunchが他のメールとともに入手した。

TBCのプレジデントであるSteve Davis(スティーブ・デービス)氏は、当該機能を無効化することは「実績ある公道仕様技術」から「積極的に安全レイヤーを取り除く」ものであると書いた。デービス氏は「Tesla車でオートパイロットを作動させていたドライバーは、オートパイロットあるいは能動的安全機能を使用していなかったドライバーと比べて走行1マイルあたりの衝突が1/4以下だった」というTeslaの2021年第1四半期安全レポートの記述を引用した。「ここで明らかにされているように、Tesla車のこれらの機能を無効化することは事故の可能性を高めるものです」とデービス氏は書いた。

しかし、幹線道路交通安全局(NHTSA)は先週、いくつかの衝突事故を受けて同テクノロジーの正式な安全調査を開始した。

クラーク郡建築物・防火局責任者のJerry Stueve(ジェリー・スチューブ)氏はメールで次のように返信した。「我々はこの件を検討する予定ですが、『autodrive』(自動運転)という用語の定義とそれに何がともなうかをより明確にしていただければ、当部におけるこの要望の評価に役立つと思われます」。

「『オートパイロット』という用語がしはしば曖昧であり、車両とシナリオによって多くの異なる意味をなしうることに同意します」とデービス氏は返信した。(ここでデービス氏は上司であるElon Musk[イーロン・マスク]氏と意見を異にしているようで、マスク氏はオートパイロットの名前に対する批判に対して、誤解を与え「ばかげている」と反論している)。

「これらは『自律走行車』(autonomous)でも『自動運転車』(self-driving)でもありません」とデービス氏は続けた。「Teslaのオートパイロットと能動的安全機能を利用することで運転中の安全性に新たなレベルを加えることができますが、この機能を利用するためにはいつでもハンドルを取り戻せる十分注意深いドライバーが常に必要です」。

オートパイロットvs自律走行運転

TBCがLVCCに初めてLoopシステムを売り込んだ時の約束と矛盾することもあり、この区別は非常に重要だ。2019年、工事契約署名前に提出した地上利用申請書でTBCは次のように書いた。「Tesla Autonomous Electric Vehicles(AEVs、テスラ自律走行電動自動車)は高速、地下トンネルの乗客を3か所の地下駅まで運びます」。

2019年7月の計画書には「自律走行電動自動車の地下トンネルにおける活用は、既存の建造物や輸送システムに関わる妨害や対立を最小限にする独自の輸送ソリューションです」と書かれている。以来、同社は他の申請書類に同じような文言を使用しており、ラスベガス地域に数十の駅を設置する提案書も同様だ。

2021年1月、TechCrunchはLVCCとTBCの間で交わされた経営合意文書を入手し、そこにはこう書かれていた。「LVCCがPeople Mover Systemを購入した理由の1つはPeople Mover System車両の自律走行する能力にある【略】本契約書は、システムが有人運転を自律走行に切り替え、2021年12月31日までに、価格交渉を前提に、この変更を運用に織り込む意志があることを認識している」。

その期日はほぼ間違いなく守られない。2021年6月、スチューブ氏はデービス氏に次のように話した。「プロジェクトのはじめに話したように、自律走行運用の承認には、大がかりな監視、試験、検証が必要です。このプロセスには非常に多くの時間がかかります」。

それに答えてデービス氏は「私たちが自律走行あるいは自動運転の機能、運用を要求していないことを明らかにさせていただきたい」と述べている。

Loopの中の人間たち

問題は2つある。第1はTeslaのオートパイロットシステムが当面、ドライバーなしでは完全な動作ができないこと。第2は、おそらくもっと深刻で、Loopは国の標準が定める地下輸送システムの安全要求を満たすために、強くドライバーに依存していることだ。その種のシステムの乗客は、モノレールであれ電動車を使う地下的であれ、停電、火災、洪水などの非常時の安全が保証されなくてはならない。

TechCrunchがメールとともに入手したLVCC Loopの設計文書にはこう書かれている。「(我々の)訓練されたドライバーはシステムの安全面で重要な役割を果たします。緊急時にドライバーが乗客を適切に安全な場所に誘導する行動は、主要なリスク軽減措置です」。

TechCrunchが入手したいくつかの文書がこれを裏づけている。火災の際、ドライバーは「乗客の降車を補助し、歩ける乗客を最も近い出口に誘導する。ドライバーは口頭で指示を与える他乗客を身体的に補助すること場合もある」。ドライバーが乗客を率いて歩く場合「頻繁に振り返って全員がすぐ後に続いていることを確認する」。

ドライバーは、手に負えない問題がある乗客の判定と対応に責任を持ち、オートパイロット自体の動作状況の監視も行うとTBCはいう。「Loopにはドライバーが同乗し、能動的安全機能の使用を監督して必要に応じてブレーキや操舵を取って代わる人間が常に存在することを保証します」とデービス氏が6月に述べている。

TechCrunchが入手した数十件の文書と数百通のメールの中に、LVCC Loopの将来拡張の詳細や、TBCが完全自律走行に移行する方法や日程について書かれたものは1つもない。

Loopが米国土木学会の定める自律走行システムの安全原則に合致しているかについての質問に対して、TBCは次のように回答した。「自律走行運用に特有の基準はLVCC Loopには当てはまりません、なぜなら当システムは車両を操作するドライバーを有するからです」。

果たしてTBCがクラーク郡に伝えていることが、あるいはLVCCに伝えていることが、将来のLoopの運行にどれほど近いものなのかを知るには、時を待つしかない。

ちなみに、もしLoopの車両がまだドライバーレスではないのなら、LVCCはせめて全車両がTesla最新のモデルになると期待できるのか?おそらく違うだろう。

Loopのもう1つの要件は、米国障害者法(ADA)を遵守していることだ。クラーク郡担当者への7月のメールで、TBC幹部は、LVCC LoopのためにTesla以外のADA準拠電動車を購入する予定であることを明かした。

メールに具体的モデル名は書かれていなかったが、短距離用鉛酸蓄電池を備え、Tropos Motors(トロポス・モーターズ)の電動多目的車、Able(エーブル)と同じ仕様だ。この件に関してTroposもTBCも質問への回答はない。

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画像クレジット:Ethan Miller / Getty Images

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(文:Mark Harris、翻訳:Nob Takahashi / facebook

イーロン・マスク氏のLoopのドライバーには同社の「偉大なリーダー」に関する台本が渡される

Elon Musk(イーロン・マスク)氏がラスベガスで展開している地下システム「Loop」のドライバーたちは、同社での運転歴を尋ねる乗客の質問をはぐらかしたり、衝突事故については知らないと宣言したり、マスク氏自身についての会話を遮断したりするよう指示されている。

TechCrunchは、公文書法を利用し、6月にオープンしたLoopの通常業務を詳細に記した文書を入手した。このLoopは、ラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)の周辺で、改造したTesla(テスラ)車を使って参加者を輸送する。文書の中には、好奇心旺盛な乗客が質問してきたときに、新入社員が必ず従う「Ride Script(乗車に関する台本)」も含まれている。

この台本は、システムを構築・運営するThe Boring Company(TBC)が、新システムやその技術、特に創業者であるイーロン・マスクのパブリックイメージをコントロールすることにどれだけ真剣かを示している。

台本のアドバイスによれば「あなたの目的は、乗客に安全なドライブを提供することであり、楽しいドライブを提供することではありません。会話は最小限にして、道路に集中しましょう」「乗客はあなたに質問を投げかけてきます。質問される可能性のある内容と、推奨される回答がこちらです」。

乗客がドライバーに勤続年数を尋ねると、次のように答えるように指示される。「このトンネルをよく分かっているくらいには運転していますよ!」と答えるように指示されている。さらに「(何百回も運転しているとしても)1週間しか運転していないと思われると、お客様は安心できません。従って、勤務年数を話すのではなく、質問をかわすか、焦点をずらす方法を考えてください」とドライバーにアドバイスしている。

このシステムでどれくらいの衝突事故が発生したか(台本では「事故」という言葉を使っている)を聞かれたドライバーは、こう答えるように言われている。「非常に安全なシステムなので、よくわかりません。会社に問い合わせてみないとわからない」。TBCの従業員やドライバーの数、トンネルの掘削費用などを質問しても、同じように曖昧な答えが返ってくるはずだ(掘削費用は合計で約5300万ドル[約57億8800万円])。

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TBCでは、Tesla(テスラ)の先進的な運転支援システムであるAutopilotの使用が明らかに弱点となっている。クラーク郡は現在、自動緊急ブレーキや障害物を認識しつつ車線内にとどまる技術を含むさまざまな運転支援機能の使用をLoopシステム内のいかなる場所でも許可していない。

群は、整備士にこれらが作動していないかどうかを確認することを義務付けているほどだ。

文書には「初期点検チェックリストに基づくアクションの完了に加えて、整備スタッフは、手動によるループ操作のため、ハンドル操作やブレーキ・加減速アシスト(通称Autopilot)などの車両の自動機能が無効化されていることを確認します」と書かれている。TechCrunchが閲覧した車両整備プランによると、その後の確認はCWPMの技術者によって毎日行われる。

万が一乗客が、Loopのテスラ車がAutopilotを使用しているかどうかを尋ねた場合は、ドライバーは回答するだろう。しかしこれに関する内容は、TechCrunchが入手した文書では「公共の安全に関わる機密事項」とされ、他の多くの技術的な詳細と同様に編集されていた。

この決定について、TechCrunchは関係者に何度も説明を求めたが、回答は得られなかった。

名前を言ってはいけないあの人

台本には、マスク氏自身に関する質問への回答も含まれている。「この種の質問は聞かれることが非常に多く、非常にデリケートな質問です。当社の創業者に対する世間の関心は必然的なものであり、会話の大部分を占める可能性があります。可能な限り簡潔に、そしてそのような会話を止めるために最善を尽くしてください。乗客がその話題を強要し続ける場合は、『申し訳ありませんが、本当にコメントできません』と丁寧に伝え、話題を変えてください」。

にもかかわらず、このスクリプトには、マスクのよくある質問に対する答えがいくつも用意されている。マスクはどんな人かと聞けば、こんな答えが返ってくるはずだ。「彼はすごい人です!刺激的 / やる気にさせてくれる、など」。

さらにこんな追い打ちをかける。「彼の元で働くのは好きですか?」と尋ねると、北朝鮮のような答えが返ってくる。「はい、彼はすばらしいリーダーです!私たちがすばらしい仕事ができるようにやる気を与えてくれます」。

乗客が、マスク氏がどのようにビジネスに関わっているのか疑問に思った場合、ドライバーは次のように答えるだろう。「彼は会社の創設者であり、非常に深く関与し、サポートしてくれています」。また、マスク氏の不規則なツイートについての質問は「イーロンは有名人なのです。私たちはただ、すばらしい移動体験を提供するためにここにいるのです!」と跳ねのけられる。

しかし、ある質問は、すべての人がマスクの下で働くことに満足しているわけではないことを示唆しているようだ。「新聞で読んだ彼についての記事で、彼は『意地悪な上司である/マリファナを吸う/従業員に休暇を取らせない / など』というのは本当ですか?」ドライバーはどちらかというと曖昧な返事をするだろう。「その記事は見ていませんが、私の経験ではそんなことはありません」。

余談だが、TechCrunchが入手した数百ページに及ぶトレーニング文書や業務マニュアルには、Loopでの薬物使用やハラスメントを防止する強いポリシーが詳細に記されているが「休暇」という言葉は出てこない。

認められている技術

クラーク郡は現在、Loop内での自動運転機能の使用を禁止しているため、しばらくは人間のドライバーがシステムの一部となる可能性がある。しかし、クラーク郡に提出された設計・運用文書によると、このシステムには他にも多くの先進技術が導入されている。地下のLoopに設置された62台のテスラには、非接触型決済システムに使用される固有のRFIDチップが搭載されており、車道、駅、駐車場に設置された55個のアンテナの上を通過すると、その位置が特定されるようになっている。

また、各車両は、速度、充電状態、乗車人数、シートベルト着用の有無などのデータを24のホットスポットに送信する。乗客が気を付けるべきなのは、車内に設置されたカメラからの映像も常時ストリーミングされていることだ。これらのデータは、Loop内に設置された81台の固定カメラの映像とともに、コンベンションセンターから数ブロック離れた場所にあるオペレーションコントロールセンター(OCC)に送られる。映像は最低でも2週間は録画・保存される。

OCCでは、オペレーターがカメラの映像やその他のセンサーを監視し、セキュリティ上の脅威や、ドライバーの携帯電話の使用やスピード違反などの問題を発見する。OCCは、Bluetoothヘッドセットや車載用iPadを使ってドライバーと通信し、メッセージや警告、トンネル内の車両の位置を地図上に表示する。車両には、駅構内での時速16.09キロメートルからトンネルの直線区間の時速64.37キロメートルの範囲で厳しい速度制限があり、前の車と6秒以上の間隔を保たなければならない。

2021年の春に行われたテストでは、クラーク郡の職員が、一部のドライバーが規則を守っていないことを発見したことが文書に記されている。「速度制限について質問したところ、何人かのドライバーは、直線および / またはカーブしたトンネルの速度を間違って答えていた。駅、急行レーン、傾斜部の速度については誰も答えられなかった」とある文書には書かれている。「ドライバーは乗客にシートベルトを締めるようにアナウンスしておらず、質問されても、任意であるまたは必要ないと『答えていた者がいた』」。

また、何人かのドライバーは、前の車との安全のための距離を6秒維持できていなかった。TBCはクラーク郡に対し、これらの分野で再教育を行うと答えた。

TBC、クラーク郡、およびLVCCを管轄するラスベガスコンベンション・観光当局は、この件に関する複数のコメント要求に答えなかった。

LVCVAは最近、Alphabet(アルファベット)がスピンアウトした都市型広告代理店Intersection Media(インターセクション・メディア)とLoopシステムの命名権を販売する契約を結び、450万ドル(約4億9100万円)の利益を見込んでいる。

TBCは現在、近隣のホテルにサービスを提供するためLoopの2つの拡張工事を行っているが、最終的にはストリップとラスベガスのダウンタウンの大部分をカバーし、40以上の駅を持つ交通システムを構築したいと考えている。このシステムは、TBCが資金を提供し、チケット販売によってサポートされることになる。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:LoopElon MuskTeslaAutopilot運転支援システムThe Boring Company

画像クレジット:Ethan Miller / Getty Images

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(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)