新しいレーシングカーのためにF1がデータを収集した方法とは

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こんにちは!立ち寄っていただいたことに感謝したい。今日は材料がてんこ盛りだ。資金調達ラウンドのダイジェストや、スタートアップ市場のデータ(DocSend[ドックセンド]に感謝する)などをお届けする。だが、最初は個人的に大好きなものから始めよう。レースだ。

The Exchangeは、テクノロジーマネーがF1の世界に流れ込むことに関する、さまざまなジョークを飛ばしてきた。Splunk(スプランク)、Webex(ウェベックス)、Microsoft(マイクロソフト)、Zoom(ズーム)、Oracle(オラクル)というた企業が、チームやレース、そしてリーグそのものを後援している。

F1のパートナーとして注目されているのがAmazon(アマゾン)だ。例えば同社のパブリッククラウドプロジェクトのAWS(アマゾン・ウェブサービス)は、F1中継の画面上に現れるグラフィックを動作させている。もちろん、ファンの目からはAWSグループの計算機クラスターがどのようにして特定の指標を出しているのかが正確にはわからないこともあるが、AWSによるタイヤの摩耗に関するメモは有用でタイムリーなものだ。

しかし、F1の世界の舞台裏では、Amazonがこれまで私が理解していた以上に活躍していたことがわかった。要するに、これまで述べてきたテクノロジー企業とF1のお金の話は、大きなパズルの一部に過ぎなかったのだ。それはどのようなものなのだろう?実はF1の新しい2022年型マシンの設計過程で、AWSが重要な役割を果たしていたことがわかったのだ。

マシンはこんな感じだ。

画像クレジット:フォーミュラ・ワン

なかなかいいんじゃない?

なぜこんなにスラリとした形状なのか気になっていると思う。その答えは、この車両が非常に特殊な空力目標を持って設計されているからだ。例えばF1マシンの後ろに流れる空気の影響で、後続車のコースどりが難しくなる「ダーティエア」現象を減らすことなどだ。

現在のF1マシンは、現行世代のF1ハードウェアとしては最後のシーズンを迎えているが、大量のダーティエアを発生させている(頑張れランド!)。そのため、大切なダウンフォースを失うことを恐れて、コース上のクルマ同士が近づくことができないという、少々厄介なレースになっている。ご存知のようにダウンフォースは、クルマが壁にぶつからずコース上に留まることを助ける。

F1が次の時代の競争で求めていた、ダーティエアを削減しよりクルマ同士が接近したレースを可能にするベースカーを設計するためには、CFD(Computational Fluid Dynamics、計算流体力学)に多くのコンピューターパワーが投入されなければならなかった。そのとき、AWSがF1のコンピューティングニーズに対応していることがわかったのだ。

今回、初めてAmazon Chime(アマゾン・チャイム、Amazonのウェブ会議システム)を利用して、F1のデータシステム担当ディレクターであるRob Smedley(ロブ・スメドレー)氏とこうした統合について話をすることができた。元フェラーリとウィリアムズのエンジニアだったスメドレー氏によれば、F1とAmazonは2018年から新型車のプロジェクトを進めているそうだ。F1には自社の問題を解決するための多くの頭脳が集まっており、一方Amazonはトリッキーな計算をするために大量のコアを提供した。

スメドレー氏によると、もし彼のチームが、個別のF1チームに許されているものと同じコンピューティングパワーを使っていたとしたら、2台の車が前後を走る新しいモデルを計算するのに1回あたり4日かかっていただろうという(なにしろF1レースというスポーツには、チームをある程度平等にするための、あるいはメルセデスの足を引っ張るための規制がたくさんあるのだ)。

しかし、Amazonが2500個の計算コアを提供したことで、スメドレー氏とF1のデータ科学者たちは、同じ作業を6時間または8時間で終わらせることができた。つまり、F1グループはより多くのシミュレーションを行い、より良いクルマを設計することができるのだ。時にはより多くの計算パワーを使用することもある。スメドレー氏は2020年のある時点で、彼のチームが十数種類の繰り返しシミュレーションを同時に実行したこともあるとThe Exchangeに対して語っている。これを可能にしたのは、約7500個のコアによるデータ処理だ。このシミュレーションの実行には30時間かかった。

つまり、F1にはテック系の資金が多く投入されていて、各チームが仕事をすることを助けて、財政的に余裕がある状態にさせていることは事実だが、しかし、F1の本質的な部分にも多くの技術が投入されているのだ。また、F1オタクの私にとって、自分の好きなことが仕事に結びつくのはとてもうれしいことだ。

さて、いつもの話題に戻ろう。

中西部の最新ユニコーン

M1 Finance(M1ファイナンス)は、私の取材活動の中に何度も登場する会社だ。その大きな理由は、彼らがずっと資金を調達し、新しいパフォーマンス指標を発表し続けているからだ。今週、同社は1億5000万ドル(約165億円)のラウンドを実施し、評価額は14億5000万ドル(約1595億7000万円)に達した。この消費者向けフィンテックスーパーアプリの最新の資金調達ラウンドは、ソフトバンクのVision Fund 2が主導した。

関連記事:フィンテックM1 Financeがソフトバンク主導のシリーズEラウンドでユニコーンに

さて、なぜ私たちがこの会社気にするのか?M1の超おもしろい点は、同社の収益の成長を時間軸に沿って追跡する方法を教えてくれたことだ。私がこのスタートアップを取材しはじめた頃、同社のCEOは、運用資産(AUM)の約1%程度の収益を挙げたいと語っていた。つまり、AUMの増加を追跡することで、会社の収益成長を追跡することができるのだ。

そして、同社はAUMの数字を発表し続けている(世の広報担当のみなさん、長期的なデータを提供することは、私たちにスタートアップへの興味を持たせ続けるためのすばらしい方法なのだ!)

M1のAUMを時系列で見てみよう。

1%の目標値で換算すると、年間収益はそれぞれ1450万ドル(約15億6000万円)、2000万ドル(約22億円)、3500万ドル(約38億5000万円)、4500万ドル(約49億6000万円)となる。言い換えれば、2020年6月から実質的に収益が3倍になっている。これはとても良い数字で、投資家が支持したいと思うような成長だ。それが今回のラウンドとなり、そして、M1の新しいユニコーン価格となった。

Truveta

Truveta(トゥルベータ)を覚えているだろうか? 以前、同社が計画を発表したときに、記事を書いている。Microsoft(マイクロソフト)の元幹部であるTerry Myerson(テリー・マイヤーソン)氏がチームの一員であり、私もかつてMicrosoftの取材を生業としていたため、このスタートアップには初期の頃から注目していた。Truvetaは「医療機関から大量のデータを収集し、それを匿名化して集計し、第三者が研究に利用できるようにしたい」と考えていることを、前回お伝えした。

今週、このスタートアップは、新しいパートナーシップと9500万ドル(約104億5000万円)の資金調達を発表した。これはかなり大きな調達額だ!このスタートアップは現在、17のパートナーヘルスグループを抱えている。

多くのデータを1カ所に集めることで、医療の世界をより良く、より公平にすることを目指している。そして今、その目標を達成するために大金を手に入れたのだ。この先何ができるあがるのかを見ていこう。

関連記事:データは米国の不公平なヘルスケア問題を解決できるだろうか?

その他の重要なこと

文字数を適度に抑えて編集の手間を減らしたために、他の記事では紹介しきれなかった重要なものを紹介しよう。

Cambridge Savings Bank(CSB、ケンブリッジ・セービング・バンク)がフィンテックに参入:Goldman(ゴールドマン)が一般庶民向けのデジタル銀行Marcus(マーカス)を立ち上げたことを覚えているだろうか?同じこと狙うのは1社だけではない。今回はCSBが独自のデジタル・ファースト銀行のIvy(アイビー)を構築しローンチを行った。率直に言って、長い営業の歴史と、古典的な技術スタックとサービス群を持つ銀行から始めるというアイデアを私は気に入っている。そして、そのすぐ隣にもっとモダンなものを建てるのだ。古い銀行そのものに新しい技術を習得させるよりも、その方が良い解決策となるだろう。また、多くの銀行がこのようなことをすれば、ある程度ネオバンクの勢いを削ぐこともできるだろう。だよね?

Code-X(コードX)が500万ドル(約5億5000万円)を調達、評価額を公表しても大騒ぎにはならないことを証明:「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」を構築したフロリダのスタートアップ、Code-Xが、最新の増資により4000万ドル(約44億円)の価値を持つことになった。いや「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」が何であるかは知らない。しかし、Code-Xがアーリーステージ ラウンドの一環として評価額を発表したことは知っている。それは拍手喝采に値する。よくやった、Code-X。

最後にDocSendのデータ:その名の通り「文書を送る」同社が今週新しいデータを発表したので、ご紹介しよう。以下がその主たる内容だ。

DocSendのStartup Index(スタートアップインデックス)中の2021年第2四半期のデータによると、スタートアップのピッチ資料に対する投資家の関心とエンゲージメント(需要の代名詞だ)は、前年同期比で41%増加している。一方積極的に資金調達を行っているファウンダーが作成したピッチ資料へのリンク(供給の指標だ)は、2021年第2四半期に前年同期比で36%増加している。

なぜこれがおもしろいのかって?需要が供給を上回っているからだ!あははっ!それがすべてを物語っているような気がする。

ここ数週間、ベンチャー企業の第2四半期決算を調べてきたが、どうにも簡潔にまとめることができなかった。なぜスタートアップの評価額が上がっているのか?なぜ スタートアップ企業はより多くの資金を、より早く調達しているのか?なぜなら、ベンチャーの後援対象となる企業たちに対して、投資家の需要が供給をはるかに上回っているからだ。

それが2021年だ。

きょうのみなさんは素晴らしく、楽しそうで、とてもすてきだ!

来週は、バッテリーに特化した2つのSPAC、つまりEvonix(エボニックス)とSESについてご紹介する。バッテリー技術、エネルギー密度、そして未来について、多くのことを語ることができるだろう。そして、もちろんお金についても。

ではまた。

カテゴリー:その他
タグ:The TechCrunch Exchangeレース自動車F1AmazonAWSユニコーンM1 Finance

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

フィンテックM1 Financeがソフトバンク主導のシリーズEラウンドでユニコーンに

7500万ドル(約83億円)のシリーズDを発表してわずか4カ月、M1 Financeは米国時間7月14日、ソフトバンクのVision Fund 2が主導する1億5000万ドル(約165億円)のシリーズEを明らかにした。

既存投資家らも参加した最新ラウンドにより、シカゴ拠点のフィンテックM1は14億5000万ドル(約1595億円)というバリュエーションでユニコーンのステータスを獲得する。また今回のラウンドはわずか13カ月と少しという期間で4回目で、2015年半ばの創業からの累計調達額は3億ドル(約330億円)を超える。既存投資家にはCoatue Management、Left Lane Capital、Jump Capital、Clocktower Technology Venturesなどが含まれる。

M1の創業者でCEOのBrian Barnes(ブライアン・バーンズ)氏によると、3月のシリーズDの時点で同社は「ユニコーンに近いステータス」だった。

M1は従来型の3種のフィンテックサービス(自動投資、借入、預入・引出し)を1つに集約していて、ここ数年、急速に成長している。2021年3月初めの資金調達時点で、運用資産(AUM)は35億ドル(約3850億円)に達した。そしてバーンズ氏によると、現在のAUMは45億ドル(約4950億円)で、これは18カ月前の5倍超だ。

2020年7月1日以来、同社はユーザーベースを2倍超に、AUMを3倍に増やした。

画像クレジット:M1 Finance

人々が自分のお金を「無料のコントロールと自動化」で管理して増やせるようサポートするプラットフォームを構築するというミッションの下、M1は2016年後半にサービス提供を開始した(M1がどのように収益を上げているか、詳細はこちらのブログをチェックして欲しい)。

今では「数十万人」という顧客がM1のプラットフォームを通じて投資したり、デジタルチェッキングしたり、あるいは最大貸付金額のポートフォリオにアクセスしたりしている、と同社は話す。

他の多くの企業と同様、M1にとってもパンデミックは追い風となった。

特に、ミレニアル世代の投資への関心が高まったようだとバーンズ氏は指摘する。

M1 Financeの創業者でCEOのブライアン・バーンズ氏(画像クレジット:M1 Finance)

「ロックダウン(都市封鎖)により多くの人が支出を減らし、その一方で不確かな将来によって投資を通じて長期的に富を築くことへの関心が高まりました」とバーンズ氏はTechCrunchに語った。「M1はこれを直に体験しました。パンデミックが始まった2020年3月以来、当社の運用資産は4倍になりました。2021年1月の利用申し込みは前月の3倍超となりました」。

2020年12月、M1は「Plus」の顧客があらかじめ設定したルールに基づいて財政目標を自動化できるようにするSmart Transfersを立ち上げた。そして2021年2月には、M1 Plusの親や保護者が若いユーザーのためにポートフォリオに投資できるようにするCustodial Accountsをリリースした。6月にはM1 Plus顧客が物理的な小切手をM1 Spend Plus当座預金口座から送れるようにするSend Checkの展開も開始した。

「毎日の取引の手入力や画一的なポートフォリオに背を向けたように、当社は常に変化を追求する企業でありたいと考えています」とバーンズ氏は述べた。「投資、借入、支出を刷新し続けて複雑なプロセスをシームレスにする方法を模索するというのが当社の計画です」。

SoftBank Investment AdvisersのマネージングパートナーのMunish Varma(ミュニッシュ・バルマー)氏は、M1が「投資、支出、借入のプロダクトを持つワンストップのスーパーアプリでユーザーの財務管理を支えるのにいい位置につけている」と確信している、と話す。

M1は調達した資金を新たなプロダクトや機能、さらに「イノベーティブ」なプラットフォームの構築と人材採用に使う計画だ。同社の従業員数は2020年初めの40人から現在は250人に増えた。

筆者の同僚Alex Wilhelm(アレックス・ウィルヘルム)氏がM1のシリーズDをカバーした記事で指摘したように、貯蓄や投資、支出の分野で2020年成長したのは同社だけではない。投資分野ではRobinhoodやPublicが好調で、支出や貯蓄の分野ではChimeが急成長した

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カテゴリー:フィンテック
タグ:M1 FinanceSoftBank Vision Fund資金調達ユニコーン企業

画像クレジット:Cattallina / Shutterstock

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi