音楽や演者、感覚の動き・表情などで空間を即興で演出するHumanoid DJが大塚愛とスペシャルライブ

先に開催されたMicrosoft Japan Digital Days。4日間にわたるイベントでは、組織の競争力を高める最新事例とソリューションというビジネスやテクロノジーに関する130以上のセッションが行われた。

その「締め」、クロージングイベントとしてエイベックスのAI DJ「Humanoid DJ」とミュージシャン大塚愛氏によるスペシャルライブも開催された。

Humanoid DJ(ヒューマノイド DJ)」とはAI DJである「LUCY」が観客の感情を解析し、機械、データ、ネットワークとも繋がり、姿形や空間自体も変容させ一期一会な空間を演出するというプロジェクトのこと。クリエイティブカンパニー「NAKED, INC.」と総合エンタテインメント企業エイベックスが作り出したものだ。

オンラインで開催された今回は演者である大塚愛さんの表情や動き、そしてプレイヤーのキーボード演奏、さらに本イベントのハッシュタグ「#MSDD2021」が付けられたツイートを、Humanoid DJが読み取り、その場、その場で演出していく。投影されるツイート内の言葉やイメージ画像の選択し動かしているのはLUCYだ。「このシステムはMicrosoft Azure上にある。

そもそもライブイベントは一期一会なものであり、ミュージシャンが同じで演奏する楽曲は同じでもまったく同じ演奏にはならないということはあるが、即興でつくり出される空間は、できては消えていく特別なものであると感じられる。

コロナ禍で音楽イベントが、オンラインで開催された。今後、これまでのようにリアルでのライブも戻ってくるだろうが、各種イベントと同じくオンライン配信も並行して行うハイブリッド型が増えるのではないだろうか。オンラインは「生」の良さにおいては「リアルでのライブ」に負ける部分もあるが、場所を問わずに気軽に参加できるといったメリットも大きい。またオンラインであれば、アーティストが豆粒のように小さい……といった状況もないので、空間をつくり出す「Humanoid DJ」とも相性がいいはずだ。

非常に未来的な演出だが、仕組みはでき上がっていること、コロナ禍でのオンラインイベントの増加など条件は整っている。今後すぐに、さまざまなイベントでHumanoid DJの「プレイ」を楽しめるようになるかもしれない。

DXを推進する日清食品がアプリを内製、ノーコード・ローコードで営業担当が25時間で完成

日本マイクロソフトが10月11日から14日にかけて開催中の「Microsoft Japan Digital Days 2021」では、生産性や想像力を高め、組織の競争力に貢献するソリューションや、その導入事例について学べるプログラムが提供されている。

Day 2の10月13日13時5分に行われたセッション「外注から内製化へ。製造業が取るべき次なる一手!日清食品グループが実現した『低コスト』『高スピード』のアプリケーション開発の世界」では、IT企業ではない日清食品がDX推進の一環として行ったアプリ内製化について語られた。その様子をレポートする。

登壇者は日清食品ホールディングスのCIO成田敏博氏と情報企画部係長武田弘晃氏だ。

老舗食品製造企業がアプリ内製化に取り組むようになった背景

日清食品ホールディングスCIO成田敏博氏

日清食品は1948年に設立された70年を超える老舗の食品製造企業だ。売上収益は約5000億円、営業利益が約550円という企業規模である。

2030年に向けた成長戦略テーマ「既存事業のキャッシュ創出力強化」「EARTH FOOD CHALLENGING 2030」「新規事業の推進」を達成するのに欠かせないのが「フードテックイノベーション」であるとしており、デジタルのみならずビジネスの変革も含むためNBX(日清ビジネストランスフォーメーション)としてDXに取り組んでいる。

取り組みを大きく2つの柱に分けており、その柱の1つ「効率化による労働生産性の向上」内に「ツールの最大活用」がある。

同社では、従業員にSurface Proを支給しており、ほとんどの業務がSurface Pro、つまりノートPCで行われているが、工場内作業中、取引先への移動中などではモバイル端末のほうが操作しやすい。腰を落ち着けて作業できる環境であっても、スキマ時間にノートPCを取り出し、起動し、テザリングをし、検索するといった動作は時間や手間がかかる。

そのため、ツール開発に「モバイルファースト」を掲げ、できるだけモバイルで業務を行えるようにすることを目指した。

しかし、製造業のためエンジニアを多数抱えることは現実的ではない。かといって外注では社内のニーズに迅速に対応できない。

そこで、2021年に入ってから内製化のため「ノーコード・ローコード」でのアプリ開発を検討。Power Appsを活用したアプリ開発に取り組むことになったのだ。

25時間で開発した営業活動を助ける商品検索アプリ

日清食品ホールディングス情報企画部係長武田弘晃氏

どの企業でもそうだが、日清食品グループでも営業担当者は商談など外回りが多い。移動中やスキマ時間に、得意先から質問されるであろう商品について調べるには、ノートPCよりモバイル端末に優位性がある。

とはいえ、商品データベースにアクセスするには、支給されているノートPCからしか行えず、開くのが難しい場合は社内の営業事務担当者に当該製品の検索を依頼していたという。場合によっては、検索してもらったものが正しいかを確認後、取引先へメールしてもらうということも行っていた。

これでは、営業事務担当者は、その都度、行っていたかもしれない作業の手を止めて、依頼に応えなければならないし、外回りをしている営業担当者にもストレスがかかってしまう。

そこで、すでにMicrosoft Listsに格納している商品データベースをスマホで検索できるような商品検索アプをMicrosoft Power Appsで開発することにした。

アプリの開発に要した時間は、開発のためのトレーニング、フィードバックを受けての修正の時間も含めてわずか25時間。内訳は、ハンズオントレーニングが2時間、大枠の作成に10時間、日清らしいデザインや使い勝手の追加に7時間、営業戦略部門へβ版の説明を行うのに1時間、そしてフィードバックを受けて行った機能の追加開発に5時間だ。

同アプリの特徴としては、商品検索時に品目コードでも略号でも商品名でも検索できること、入力文字列も全角半角、大文字小文字、ひらがな・カタカナを問わず直感的に利用できること、フィルターやソートはコンボボックスではなくワンタップで検索できるボタン形式を採用していること、ヘルプのキャラクターに同社のキャラクター「ひよこちゃん」を使っていることなどがある。

また、閲覧履歴を設けて移動中に調べた商品情報にすばやくアクセス可能にした他、手元にある商品のバーコードをスマホカメラで読み取って、当該商品の情報もクイックに得られるようにした。

フィードバックによって追加された機能は、商品情報を得意先へメール送信するというもの。おかげで、社内にいる営業事務担当者へ都度連絡する必要がなくなったという。

Power Appsを選んだ理由として武田氏が挙げた理由は3つ。1つ目はすでに同社内で使ってたMicrosoft 365製品群との相性が良いこと、2つ目はその契約範囲内で使えたため追加コストがかからなかったこと、最後は短期間でユーザーが望む機能拡張が行われていることだ。

これまでは、Microsoftパートナー企業に開発を依頼していたという武田氏。しかし「それでは社内ナレッジが蓄積できず、いつまでたっても自社開発が行えない」と考えた。それでは、社内のニーズに迅速に応えるというNBX取り組みの趣旨に反してしまう。

そこで、MicrosoftパートナーであるAvanade(アバナード)に、アプリ開発のハンズオントレーニングや開発に必要な情報のQ&Aといったサポートを依頼。その甲斐あって、25時間という短時間でのアプリ開発に成功した。

アプリβ版を営業戦略部門へ公開した際の反応は「早く使いたい」「いつから使えるの?」といったポジティブなもの。「ユーザーが、使ってハッピーになれるUI / UXであると確信した」という。

完成版のリリースには、事前告知として全国の営業担当者向けにデモを行い、ついでリリース時にイントラネットとオンライン社内報などを使って告知を行った。その結果、使い勝手の良さもあいまってリリースから短期間で浸透し、多くの人が利用するようになった。

成功の要因は開発環境にPower Appsを選んだこととユーザーファーストの思想

Microsoft 365とのシームレス連携を考えてPower Appsを選んだ日清食品グループだが、メリットが多かったという。それはUIの作成が容易だったこと、標準機能が充実していること、ローコードであることだ。

Power Appsを選んだこと以外に、プロジェクトの成功要因として、武田氏は3つのものを挙げた。

1つ目はユーザーファーストに基づいた開発を行ったこと、2つ目ははUI / UXにこだわったこと、最後はAvanadeのサポート力の高さだ。

「ソリューションファーストだったら、ユーザーがハッピーになるソリューションを開発できなかったはず。また、日清らしい親しみやすさや直感的な操作感へのこだわりをもって開発したため、ユーザーが使いたいと思うようなものを作ることができた。そしてこれらは、アプリ開発において不慣れだった自分たちの質問や相談にクイックに応じてくれたAvanadeの高い技術力なしにはなし得なかった」(武田氏)

外部にツール開発の依頼を出していれば得られなかったナレッジは、部内で共有した。それにより、Power Appsができることを把握し、アプリのメンテナンスも行えるようになり、ユーザーのニーズにアプリ開発で応えられるかもしれないという選択肢を持つことができ、同社のモバイルファーストをさらに推進することが期待される。

日清食品グループでは「ハッピー」「クリエイティブ」「ユニーク」「グローバル」という4つの思考をバリューとして捉えている。

アプリ開発の内製化は、ユーザーが抱く課題を解決するものになるため、またノートPCでは作業しづらい環境でもモバイルで業務ができるため、さらに使いたくなるUIであるため、ユーザーにハッピーをもたらすものとなる。

「製造、販売、倉庫といったそれぞれの現場で業務をしやすくするため、またBCP対策としても有効なモバイルファーストを今後も推進していくことで、日清食品グループのDX化をさらに推進していきたい」と武田氏は述べて、セッションを終了した。

リピート率59%アップ!電子カルテ軸の鍼灸プラットフォームで受療者、鍼灸院、見込み客それぞれの課題を解決

日本マイクロソフトが10月11日から14日にかけて開催中の「Microsoft Japan Digital Days 2021」では、生産性や想像力を高め、組織の競争力に貢献するソリューションや、その導入事例について学べるプログラムが提供されている。

Day 1の10月12日13時35分に行われたセッション「世界の人々の健康をサポートする鍼灸メーカーがSaaS事業を提供するに至るまで(真のDXとは何かについて)」をレポートする。

登壇したのは、鍼灸鍼をはじめ医療機器の開発・製造・販売を行ってきたセイリン ICTプロジェクトリーダー 菊地正博氏とAzureを使ったeコマース開発を得意とするシグマコンサルティング プロジェクトリーダー 木下浩之氏だ。

鍼灸業界の発展を阻む課題をプラットフォームで解決

「鍼灸業界の発展を支えるプラットフォーム」というサブタイトルで進められた当セッション。2020年9月に「鍼灸つながるカルテ」「はりのマイカルテ」をリリースした背景がセイリン菊地氏の口から語られた。

鍼灸治療を受ける人(受療率)は年間560万人で、国内人口の約5.6%。受療したことがあるもののリピートにつながらない人は約2000万人いる。

「肩こり 鍼」などで検索するような鍼灸に興味のある見込み客は約670万人、健康やボディケアに関心のある層は2400万人いるものの、実際に鍼灸治療を受けるに至っていなかった。

鍼灸業界の発展には、受療したもののリピーターになっていない人や見込み客をいかに呼び込むかが課題だが、それには、立ちはだかる負のスパイラルを断ち切る必要があるという。

負のスパイラルには、受療者、鍼灸院、見込み客、他業界の抱くイメージや体験などがある。

受療者側には「施術の効果を感じられない」「本音を言いづらい」「保険適用外で治療費が高い」というもの、鍼灸院側は「来てくれなくなった理由がわからない」「それゆえ施術や接客レベルを上げようがない」「サービス改善のモチベーションが上がらない」というもの、見込み客にとっては未経験ゆえ「怖い」「効果が不明」「マッチする鍼灸院を探せない」という負の感情が、医療施設や介護施設など他業界からは「鍼灸による成果のエビデンスがない」「信頼できる鍼灸師が少ない」「連携するメリットが見いだせない」ため紹介・連携できないという課題があった。

そこで、セイリンではそれらの課題を解決する最適解が電子カルテを軸とした鍼灸プラットフォームであると考えた。

単なる電子カルテであれば、すでにさまざまな医療機関で採用されているが、これは、施術側が治療を記録するためだけのものではない。治療内容とともに、日常生活で気をつけるべき点などのフィードバックを患者に提供し、鍼灸師は受療者からの満足度に関するフィードバックや相談を受けられるようになっている。これにより患者の満足度は上がり、鍼灸師もサービスや技術向上のモチベーションを上げられる。

さらに、患者の症状と施術内容を鍼灸データベースに蓄積することで、これから施術しようとしている鍼灸師には最適な施術のレコメンドを、医療施設や介護施設には鍼灸治療を使うことのメリットなどを含むエビデンスを提供可能になる。

患者から受け取った満足度評価や感じられた効果も蓄積され、その情報は4月1日にリリースした鍼灸院検索サイト「健康にはり with はりのマイカルテ」でいずれ検索可能になり、新規ユーザーが自分にマッチする鍼灸院を探すのに役立てられる。

つまり「鍼灸つながるプラットフォーム」のシステムを導入することで、これまで鍼灸業界の発展を阻害してきた負のスパイラルを断ち切れるというわけだ。

とはいえ、タッチポイントであるアプリの使い勝手が悪ければ鍼灸師も受療者も手間と感じてしまう。

鍼灸師が使う電子カルテ「鍼灸つながるカルテ」はPC、タブレット、スマートフォンのマルチデバイス対応なうえ、入力しやすさを確保しているという。

また、治療前後の変化、治療内容など、通常、自分のものであるのにアクセスできないカルテの内容を鍼灸院から患者へ患者側電子カルテ「はりのマイカルテ」を通じて共有することで、受療者が施術の効果を実感でき、通院のモチベーションを上げられるような仕組みを作っている。

さらに、通常であれば鍼灸院に到着後に記入する問診票の内容をアプリを通じて事前に伝える仕組みもあるため、現状を落ち着いて入力できるうえ、到着後の待ち時間が減るというメリットがある。鍼灸師にとっては、患者が来院する前に情報を得られるので、前もって施術準備を行える。

患者に記載してもらった情報も含めた電子カルテの情報は、ビッグデータという形で鍼灸データベースに蓄積するが、それは教科書にも記載されていない内容だ。師匠たちから受け継いできた「暗黙知」が、システムに入れるすべての鍼灸師に共有され「形式知」となることが、業界全体のメリットになる。

また、蓄積された情報はエビデンスとしても機能するため、鍼灸治療を選んでもらえるよう介護施設や医療施設に交渉できるようになるため、また見込み客の認知度が上がるため、新規受療者の増加も見込める。

リピート率アップについては、鍼灸院「ニイハオ鍼灸院」の導入事例が紹介された。「はりのマイカルテ」導入前後3カ月で比較したところ、アプリ利用患者50人の来院平均回数が2.09回から3.32回へ59%アップ。未利用患者43人の平均来院回数が1.66回から1.71回であったことを考えると、カルテ共有の効果が高かったことがうかがえる。

菊地氏は、4月にリリースした受療者向け鍼灸院検索サイト「健康にはり」内の情報を定期的にアップデートしていくことで「針灸初心者でも安心して治療を受けてもらえるようにしたい」という。

最後に「鍼灸つながるプラットフォームにより、鍼灸治療に関する知を次世代に伝えること、針灸業界の発展を支え、受療率5%を15%にアップさせることを行っていきたい」と今後の抱負を語った。

針灸業界の発展を支えるプラットフォームをさらに下から支える

シグマコンサルティングの木下氏は、同社がAzureを使ったeコマースの知見をどのように鍼灸つながるプラットフォームに活かしたかということについて解説した。

これまで、針灸業界には同様のサービスがなかったため、ニーズを聞き取りながらゼロベースで実装。Azureがあったからこそ、1年半という短期間で行えたことを強調した。

とはいえ、カルテ情報の取り扱いには高度な機密性が要求される。

ここで、シグマコンサルティングの知見が活きてくる。eコマースでは、クレジットカード情報など財産に関係する情報のやり取りが必要になる。シグマコンサルティングには、PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard。クレジットカード業界のセキュリティ基準)といったセキュリティ事項に対応した実績あり。今回のプラットフォームのシステム構成にも、Azure AD B2Cの認証の仕組みを導入することで堅牢なシステムをすばやく構築した。

データベースにはSQLを利用することで拡張性を担保しつつ、SaaSビジネスで重要なランニング費用低減を図ったという。

これまで器具販売を中心に営業してきたセイリンがSaaSビジネスを成功させるための事業支援も行ってきた。その中にはセイリンだけでなく、導入する鍼灸院へのサポートも含まれる。

セイリンには、営業活動の目標値として「鍼灸院が同システムを導入することによって成功体験を得る」というものを設定した。そのうえで、営業活動を可視化し、営業プロセスを見直ししやすくして商談内容に一定の品質が保たれるようにした。

鍼灸院へは、プラットフォームを利用することで成功体験を得られるようカスタマーサクセスチームを立ち上げて対応した。カルテの電子化、受療者とのコミュニケーション促進、予約業務の効率化など、いくつかのポイントを押さえて支援。サクセスが明確化されたことで、KGI・KPIも明確になり、次なるカスタマーサクセスを実現するためにプロジェクトを改善する必要があり、その点でも支援したという。

「これらの支援により、組織は自走型へと変化する。シグマコンサルティングは、開発からビジネスの成功までをサポートしていける」と、木下氏は締めくくった。