痛くない乳がん用診断装置開発の東大発スタートアップ「Lily MedTech」がNEDOに採択され約2.4億円獲得

痛くない乳がん用診断装置開発の東大発スタートアップ「Lily MedTech」がNEDOに採択され約2.4億円の助成獲得

リング型の超音波振動子を用いた革新的な乳房用画像診断装置の開発を行う東大発スタートアップ「Lily MedTech」は8月24日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)が実施する、2020年度「研究開発型スタートアップ支援事業/ Product Commercialization Alliance」(PCA)に採択され、約2.4億円の助成対象に決定したと発表した。

Lily MedTechが開発する乳房用超音波画像診断装置は、ベッド型をしており、ベッド上部に空いた穴の中の水槽にリング状の超音波振動子を搭載。女性がベッドにうつ伏せになり、乳房を水槽に入れることで、乳房全体の3D画像を自動で取得できる。

同装置は非接触のため、マンモグラフィのような圧迫による痛みはなく、超音波を使用するので被ばくのリスクもないという。また、乳房を下垂させた状態で自動撮像を行うため、操作者に依存せず、再現性の高い画像が取得できるという特徴を備えている。

今後国内外へ装置を広く浸透させ、より多くの女性が乳がん検診を受けやすい環境を作るため、同事業のコスト改善のための改良開発を行っていくとしている。

NEDOは、持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する、国立研究開発法人。リスクが高い革新的な技術の開発や実証を行い、成果の社会実装を促進する「イノベーション・アクセラレーター」として、社会課題の解決を目指している。

Lily MedTechは、女性に優しい乳がん診断を目指す女性起業家による東京大学発のスタートアップ企業。2019年12月9日に「第一種医療機器製造販売業」の許可を取得、現在は量産体制の構築と、発売に向けた社内体制の構築に注力している。

東京大学医学系研究科・工学系研究科での研究技術を基に、リング型の超音波振動子を用いた革新的な乳房用画像診断装置「リングエコー」を開発を進行。

現在の乳がん検診にはX線マンモグラフィやハンドヘルド型の超音波が用いられており、マンモグラフィは圧迫による乳房の痛み、X線照射による被ばくリスク、デンスブレスト(高濃度乳房)に対する検出精度低下などの課題があり、ハンドヘルド型の超音波はがん発見が検査技師の技術に依存するという課題を抱えているという。

これに対しLily MedTechのリングエコーは、被ばくリスクや圧迫による痛みがなく操作者の技術に依存しない装置として期待されている。

仕事、恋愛、結婚、出産、育児など、公私ともに選択肢が多い世代の女性が、乳がんによりその選択肢を奪われないよう、また乳がん罹患前と生活が大きく変わることのないよう、少しでも貢献するため日々開発を進めているとしている。

関連記事
痛くない乳がん用診断装置開発のLily MedTechがアフラックCVCから資金調達

全エンジニアがGoogle出身のスマイルロボがNEDOスタートアップ事業化支援公募で採択、新たな資金調達も実施

スマイルロボティクス

スマイルロボティクス(スマイルロボ)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)実施の2020年度「研究開発型スタートアップ支援事業/シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援」(NEDO STS事業)第1回公募において、ロボティクス領域から唯一のスタートアップ企業として採択されたと発表した。

さらに、NEDO認定VCのANRIから、新たに追加の資金調達を完了したことも明らかにした(NEDO STS事業への採択は認定VCからの出資が条件)。

スマイルロボは「ロボット技術で全人類を笑顔に」をミッションに、東京大学情報システム工学研究室(JSK)出身で元Googleのロボットエンジニアが集まり、2019年に創業したロボット開発スタートアップ。

同社は、ロボット制御技術・ディープラーニング技術を活用し、飲食店のホールなどを中心に「片付け」のオペレーションを省力化すべく「モバイルマニピュレーター型自動下膳ロボット」の開発を進行。NEDO STS事業第1回公募関連の交付決定先一覧によると、他にロボティクス領域案件は見当たらず、スマイルロボが「唯一のロボットスタートアップ」として採択されたことになるという。

今回のNEDO STS事業の助成金、ANRI・DEEPCOREから新たに追加で調達した資金は、ソフトウェアエンジニア・ハードウェアエンジニアの採用強化、モバイルマニピュレーターの研究開発および実証実験に用いる。

同社ロボットは、「自律走行型のロボットアーム」といえる「モバイルマニピュレータ型」である点が大きな特徴。社会実装においては、「アームのない搬送ロボットとは異なり、例えば飲食店では、顧客(もしくは店員)が『ロボットとテーブル間の皿の乗せ替えをする』必要がない」、「自律走行型であり、テレプレゼンスでの『遠隔操作』や『床にガイドを貼る』必要がない」というメリットがあるとしている。

また昨今のコロナ禍による社会的な非対面化ニーズ・自動化ニーズの高まりを受け、「飲食店においては、従来の『下膳』に加えて『配膳』なども含む『運搬作業全般』への対応」、「飲食店に限定せず、様々な施設における『つかむ・はこぶ』作業を自動かつ非対面で行えるような対応」に関する開発を、現在急ピッチで進めているという。

関連記事
“下膳ロボ”で飲食店の片付けを自動化、Google出身エンジニア創業のスマイルロボティクスが資金調達

本郷発のAIを世界へ、AIスタートアップを支援する「HONGO AI 2019」が始動

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は7月4日、アーリーもしくはシードステージのAIスタートアップ企業を表彰するコンテスト「HONGO AI 2019」の募集を開始した。最終選考会および授賞式は、10月2日に東京都文京区にある東京大学の伊藤謝恩ホールで開催する予定だ。

市場の成長性や技術の模倣困難性、チームの質などの観点から産官学の有識者が選考に加わり、事前選考を通過した企業は「HONGO AI Award」に出場できる。HONGO AI Awardの受賞企業は、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資機会や、本事業委託先であるアドライトによる大手企業とのマッチングなどの事業支援を受けられるとのこと。

主催者のNEDOはこれまで、ロボットと人工知能の基礎的な研究と社会実装を5年前から、3年前からは社会のニーズ応じた応用研究を進めていた。また2年前にAIコンテストを開催した実績もある。今回HONGO AI事務局の協力を得てこのAIコンテストを復活させた。インターネットが普及し始めたことに渋谷近辺がビットバレーと呼ばれたように、AIが普及するこれからの時代に本郷近辺がHONGO AIと呼ばれるように、存在感を高めるのが狙いの1つだ。

HONGO AI事務局とは、東京大学がある東京・本郷地域でのAIスタートアップ企業を盛り上げるために、2019年に結成されたばかりの有志の任意団体。現在は代表幹事を、経営共創基盤(IGPI)、Deep30投資事業有限責任組合、ディープコアが務めている。

応募要件は、株式価値が20億円未満、累計の資金調達額が5億円の、シードもしくはアーリーステージのスタートアップ。選考には、HONGO AI事務局のディープコアやDeep30だけでなく、さまざまなVCやCVCへの参加を募る。

東京大学の松尾 豊教授

選考委員の1人である東京大学大学院工学系研究科で人工知能を専門分野とする松尾 豊教授は、「東大だけでなく、東工大、早稲田、筑波、京大、阪大などポテンシャルの高い大学はたくさんあり、AIスタートアップが生まれる環境は整っている。HONGO AIのような取り組みが全国に波及することに期待している」とコメント。

HONGO AIの一番の強みといえるのが、東大から供給される人材。松尾教授は「現在、東京大学で100人ぐらいがAIやディープラーニングを研究しているが、これが10倍ぐらいの数になれば、シリコンバレーや深圳と肩を並べるレベルになるのではないか」とも語る。ちなみに松尾研究室の昨年の卒業生は、進学もしくは起業の道に進んでおり、企業に就職した学生はいなかったそうだ。大学卒業後は、就職せずに起業という流れは今後も強くなっていくだろう。

日本のAI技術が今後どのように進化するのかも含め「HONGO AI Award」に期待したい。