暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.9.27~10.3)

暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.9.27~10.3)

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、重要かつこれはという話題をピックアップし、最新情報としてまとめて1週間分を共有していく。今回は2020年9月27日~10月3日の情報をまとめた。

Atariの独自トークン「Atari Tokens」が暗号資産取引所Bitcoin.comを介し11月にIEO、販売終了後に上場決定

ビデオゲーム界の老舗メーカーAtari(アタリ)は10月1日、暗号資産取引所Bitcoin.comとの間でAtariの独自トークン「Atari Tokens」(ATRI。EthereumのERC-20準拠)の公開販売(IEO。Initial Exchange Offering)および販売完了後の上場に向けた契約の合意を発表した

Atariの独自トークン「Atari Tokens」が暗号資産取引所Bitcoin.comを介し11月にIEO、販売終了後に上場決定

IEOの開始は、2020年11月上旬を予定。暗号資産取引所Bitcoin.comを介して、ジブラルタル拠点のAtariグループ子会社Atari Chainが実施する。Atari Tokenは販売期間中、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)の主要暗号資産でのみ購入可能となる。

今回のIEOとその後の上場は、Atariのブロックチェーンプロジェクトにとって重要なマイルストーンという。Atari Token保有者に流動性を提供し、同プロジェクトが計画をするAtariブロックチェーンエコシステムの発展への道を切り開く第1歩としている。

Atari Tokenのユースケース

またAtari Tokenのユースケースは、現在、Atariグループが活動をしている分野を予定。それぞれ関係各所とパートナーシップ契約を締結しており、平行していくつかのプロジェクトが進んでいる。最初は、暗号資産を使用したAtari CASINO、PCゲーム配信プラットフォームUltraでのAtariゲームの配信、今秋発売予定の新型家庭用ゲーム機「Atari VCS」などで利用される予定になっている。パートナーシップに関しては、順次atarichain.comで発表されるという。

最終目的は、決済手段はじめ、スマートコントラクトの促進、ゲーム内の収益化、アセットの拡張から保護まで

Atari Tokenは、イーサリアムのERC-20準拠のトークンとして発行された暗号資産。主たる目的は、ビデオゲームなどインタラクティブエンターテインメント業界内での決済手段として利用するものの、トークンはさまざまな業界にも有益であるとAtariグループは考えているという。

最終的な目標は、Atari Tokenが世界中で利用可能になること。決済手段のみならず、スマートコントラクトの促進から、ゲーム内の収益化、アセットの拡張から保護まで、多くの用途を想定しているそうだ。また、安全かつ信頼性が高く、普遍的で、流動性のある使いやすいトークンの作成を目指している。

Atari TokenはIEOおよび上場を機に、Atariのパートナーを含むさまざまなAtari商品やサービスとの交換手段として、まもなくAtariのネットワーク内で利用できるようになる。

Atari Token誕生までの経緯

Atari Tokenを開発するチームは、現在、Atariグループとドイツを拠点とするインターネット銀行ICICBによるメンバーで構成されている。

Atari Tokenは2018年の発表当初、AtariグループがInfinity Networks Limited(INL)とパートナーシップを結び独占契約を締結、INLにAtariブランドを付与し、ブロックチェーンプロジェクトとして立ち上がった経緯がある。プロジェクトでは、暗号資産の作成やAtariブランドを使ったブロックチェーンゲームや映画、音楽などあらゆるデジタルエンターテインメントにアクセスできるプラットフォームの構築を目指していた。

しかし、INLによるブロックチェーンプロジェクトは、Atariが期待する速度で開発は進まなかったようだ。AtariとINLは、どちらの側にもペナルティを発生させることなく、円満かつ即時にこのライセンスを終了させ、すべての権利をAtariグループ側に回復させることで合意し、INLとのパートナーシップを解消した。

その後、Atariグループはブロックチェーンプロジェクトをふたつに分離し、Atari Tokenについては、2020年3月にICICBグループと提携した。

グループは、Atari Tokenのユースケースの最大化を考慮し、開発の速度を上げるために、現時点において最も実現性の高いプロジェクトを優先しパートナーシップを締結している。それらが、Pariplayと契約をしたAtari CASINOであり、Ultraを始めとするその他のパートナーシップでということになる。Atari CASINOはまもなく開始を予定しており、IEOの前にAtari Tokenのプレセールを実施している。

ウォレットなどの開発も進行

Atari Tokenは、IEOおよび上場の計画の他にも、現在、ウォレットなどの開発が進んでいることも明らかにしている。ウォレットはすでにAndroid版のテストが最終段階であり、監査が完了し、安全性が確認でき次第発表するとした。

テックビューロHDの「mijin Catapult(2.0)がアマゾンAWS Marketplaceにて世界190ヵ国に提供開始

NEMブロックチェーンのプライベートチェーン版「mijin Catapult(2.0)」を提供するテックビューロホールディングス(テックビューロHD)は9月30日、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が世界190ヵ国で提供する「AWS Marketplace」において、初の日本法人パートナー企業のうちの1社として登録されたと発表した。同日より、mijin Catapult(2.0)の提供を開始した。

テックビューロHDの「mijin Catapult(2.0)がアマゾンAWS Marketplaceにて世界190ヵ国に提供開始
AWS Marketplaceは、同社クラウドサービス向けのオンラインソフトウェアストアである。ITビジネスを構築・運営するために必要なサードパーティーのソフトウェア・データ・サービスを検索・購入・デプロイ・管理するために使用できるデジタルカタログとなる。

今回のAWS Marketplace登録により、販路として世界190ヵ国のAWSの顧客に対しグローバルなサービス提供をできるようになったほか、月間29万人を超えるアクティブな顧客に対して同社サービスをアピール可能となった。

NEMブロックチェーンのプライベートチェーン「mijin」

テックビューロHDが提供するプライベートチェーン「mijin」は、NEM(ネム)コアの開発者が同社に合流し開発したNEMブロックチェーンのプライベートチェーン版。「mijin Catapult (2.0)は、エンタープライズで利用可能なプライベートブロックチェーン環境を構築する「mijin v.1」をバージョンアップした製品。

またmijin Catapult (2.0)は、NEMの次期バージョン「Symbol」にあたる存在でもある。mijin Catapult (2.0)は2018年6月にオープンソース化され、Symbol公開に先行し2019年6月より製品版として公開されている。

mijin Catapult (2.0)は、300社以上への提供実績を持つmijin v.1の性能を向上させるために仕様全体を一新し、機能・性能・仕様のすべての面においてバージョンアップを実施。異なるブロックチェーン間でのトークン交換や複数トランザクションの一括処理を可能にするなど、前バージョンの課題であった処理速度、スケーラビリティの両面で大幅なグレードアップを実現している。

具体的には、mijin v.1と同様、ひとつのブロックチェーン上に複数のアセット(トークン)を同時に発行し流通・管理を行える機能「マルチアセット」、複数人の合意によって取引・コントラクトを実行する「マルチシグネチャー」機能が最大3階層まで設定が可能になった。

追加の機能として、第3者を介さず異なるブロックチェーン間でのトークン交換(クロスチェーン・トランザクション)や、複数トランザクションの一括処理(アグリゲート・トランザクション)が可能となっている。前バージョンの課題であった処理速度、スケーラビリティの両面での大幅なグレードアップも実現した。

今回のAWS Marketplaceにおける提供では、ブロックチェーンの導入促進を目的に設計・開発イメージをより多くのAWSユーザーに体験してもらえるよう、機能を制限した無料トライアル版が提供されている。

無料トライアル版の概要は、以下の通り。

  • ノード: 1台のみ(DUALモード/APIノードにHarvestを有効)
  • デプロイ: およそ15分程度で下記構成が完成
  • ライセンス費: 無料
  • インフラ費: AWS使用料として、Amazon EC2、Amazon EBS、Amazon Route53、パラメータストアの費用は発生
  • リージョン: 世界16リージョンに提供

制限事項として、公開ネットワークのみ(IPアドレス制限は可能)の配置、基軸通貨発行数は2000cat.curency限定、手数料が必要、提供されるバージョンは、「mijin Catapult (2.0)(0.9.6.4)」に固定としている。

テックビューロHDの「mijin Catapult(2.0)がアマゾンAWS Marketplaceにて世界190ヵ国に提供開始

テックビューロHDでは、2020年12月に予定されているSymbol正式版のリリースに合わせて、有料エンタープライズ版の追加公開を予定。またmijin Catapult (v.2) Free Trial版については、2021年1月末日をもってAWS Marketplaceから削除する予定で、2021年4月1日以降は問い合わせも受付終了予定としている。

パブリックチェーンのSymbolとプライベートチェーンのmijin Catapult(2.0)のクロスチェーン・トランザクション

パブリックチェーンのSymbolとプライベートチェーンのmijin Catapult(2.0)のクロスチェーン・トランザクションでは、「Atomic Swap」という方法でプライベートチェーンとパブリックチェーン両者のメリットを使い分けて利用できるようになる。それにより、Symbolとmijin Catapult(2.0)や、管理者の違うmijin Catapult(2.0)間でお互いのモザイク(トークン)の交換が可能になる。パブリックチェーンを使いつつ、大事なものはプライベートで取引をするといったサービスが提供可能になる。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

LINEの暗号資産事業・ブロックチェーン関連事業を展開するLVCとLINE TECH PLUS PTE. LTD.(LTP)は9月30日、LINEの独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」(LINE Blockchain White paper v2.1)基盤を導入した外部企業のサービスを発表した

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表LINEは、LINE Blockchainを基盤としたブロックチェーンサービス(DApps)を簡単かつ効率的に構築できる開発プラットフォーム「LINE Blockchain Developers」を展開している。企業は、LINE Blockchain Developersを導入することにより、既存サービスにブロックチェーン技術を組み込むことができ、独自のトークンエコノミーの構築も可能になる。

また、LINE Blockchain Developersで構築した各サービス内で発行されるトークンを、LINE IDと紐づくデジタルアセット管理ウォレット「BITMAX Wallet」にて管理・連携させることもできる。企業は、それによりLINEのユーザー基盤を活かしたサービスの構築が可能になる。

2020年8月26日にLINE Blockchain Developersの提供開始を発表後、6日目にして申込数が100件を突破したという。

今回の発表では8社が紹介され、そのうちの2社はすでにサービスを開始している。導入企業の詳細は、以下の通り。

モバイルRPGゲーム「ナイトストーリー」

ブロックチェーンゲームを開発するBiscuitlabsは、9月30日よりモバイルRPGゲーム「Knight Story」の日本版を提供開始した。プレイヤーはナイトとなり、ペットとともにバトルをしながら素材を収集し、素材を組み合わせて装備アイテムを作成し強化していく。ゲーム内アイテムはNFT(Non Fungible Token。ノン ファンジブル トークン)のため、プレイヤーはアイテムの保有権を持ち、交換・売買ができる。

電子契約サービス「リンクサイン」(linksign)

リーガルテック企業のComakeは、AI・ブロックチェーンベースの電子契約サービス「リンクサイン」(linksign)の提供を9月30日より開始。契約書の作成、内容の検討、署名、締結などと契約行為を始まりから終わりまで完結できるオールインワンプラットフォームとなっており、顧客は様々な契約書テンプレートから契約書を作成できる。また、すべての契約プロセスをリアルタイムで確認可能。ブロックチェーンにより、契約文書の偽造・変造を防止する。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

ソーシャルメディア「aFan」

Common Computerの「aFan」は、クリエイターとファンをつなぐブロックチェーンベースのソーシャルメディア。ファンは、写真家、イラストレーターなどのクリエイターに直接寄付・応援することで、クリエイターのコンテンツ制作や活動をサポートできる。ファンとクリエイターは、トークン「ファンコ」を通じて、従来の「いいね」やコメント以上の相互交流が可能となる。サービス開始は、10月上旬予定。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

MMO戦略ゲーム「リーグオブキングダム for LINE Blockchain」

ブロックチェーンゲーム開発会社NOD Gamesは、MMO戦略ゲーム「リーグオブキングダム」の日本版「リーグオブキングダム for LINE Blockchain」を10月末より提供開始予定。王国同士、連盟や戦争を通じで領土を広げていく、大陸の覇権を争うゲーム。プレイヤーは、ゲーム内で保有する資産をブロックチェーンアイテムトークンに転換することで完全に保有し、取引できる。ブロックチェーン技術をさらに活用し、プレイヤーがゲームの方向性決定に参加できる仕組みも将来計画している。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

コインプッシュゲーム「CryptoDozer」

ブロックチェーンゲーム開発会社のPlayDappは、コインプッシュゲームをモチーフにした「CryptoDozer」を2020年内に日本向けに提供開始予定。30種類以上のDozerドールを入手できるコインゲーム。ファンシードールを獲得するためにDozerドールを調合することもできる。ドール強化でゲームプレイをさらに活性化することが可能。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

ソーシャルカラオケアプリ「SOMESING」

Emel Venturesは、ソーシャルカラオケアプリ「SOMESING」を2020年内に日本向けに提供開始予定。いつでもどこでも高音質のカラオケを楽しむことができる。全世界の友達とデュエットすることも可能。ブロックチェーン技術を応用した世界初のカラオケアプリであり、独自のリワードシステムによりユーザーは自分が歌った歌に対して公正な報酬を受け取ることがきる。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

ビデオ・ストリーミング・プラットフォーム「Theta.tv」

ビデオ配信サービスを提供するTheta Labs(Theta Network)は、eスポーツ専門のビデオストリーミングプラットフォーム「Theta.tv」を2020年内に日本向けに提供開始予定。ユーザーは、コンテンツを視聴し、帯域幅を別の視聴者たちに共有することでリワードを受け取れる。ユーザーは特定のクリエイターを購読し寄付することも可能。

LINE、独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」基盤を導入した外部企業サービスを発表

スポーツゲーム「Crypto Sports」(仮称)

アクセルマークオルトプラスの100%子会社OneSportsは共同で、プロスポーツライセンスを使用したゲームの開発を進めている。2021年以降にローンチ予定。ユーザーは試合に参加して選手を育成し、その選手達を取引できる。

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カテゴリー: ブロックチェーン
タグ: Atari TokensAWSEthereumLINELINE BlockchainLINE Blockchain Developersmijin CatapultNEMSymbolUltraテックビューロ

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JCBAとJVCEA、暗号資産の20%申告分離課税や少額非課税制度の導入等税制改正に関する要望書まとめ

一般社団法人「日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)」は7月31日、一般社団法人「日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」と共同で、2021年度税制改正に関する要望書を取りまとめ公開した。

毎年、JCBAは業界団体として自民党「予算・税制等に関する政策懇談会」に参加し、暗号資産の税に対する要望を行ってきた。今回は、2021年度税制改正にあたり、暗号資産交換業および暗号資産関連デリバティブ取引業の自主規制団体であるJVCEAと共同で、税制改正が求められる事項を整理してまとめた。両団体は、暗号資産市場の活性化、決済利用の促進を図り、関連産業の発展を期待し、以下の通り税制改正に関する要望を要望骨子として公開した。

  1. 暗号資産のデリバティブ取引について、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを要望する
  2. 暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、暗号資産に係る所得金額から繰越控除ができることとする
  3. 暗号資産取引にかかる利益年間20万円内の少額非課税制度を導入する

暗号資産取引における所得は、現在の税制では原則として雑所得に分類される。雑所得は、給与所得など各種所得と合計した金額に課税される総合課税となる。また、累進課税のため所得額に応じて税率が上がり、最大で55%(所得税45%+住民税10%)という高い税額になる。雑所得は、損をしても、給与所得や不動産所得のようなものと損益通算することもできなければ、翌年に繰り越すこともできない。

両団体は、2020年5月より暗号資産が金商法の枠内での規制を受けたことから、株やFXなど他の金融商品先物取引等同様に20%の分離課税とするなど、税制の公平性・中立性が担保されるよう要望をまとめた。

なお、今回まとめられた「2021年度税制改正に関する要望書」は、JCBA公式サイトにて公開しているので、誰でも閲覧できる。

FIX Networkによる、NEM次期バージョン「Symbol」を活用した携帯電話「SIMスワップ詐欺」防止ソリューションの詳細が明らかに

携帯電話(スマートフォン)の電話番号を搾取する「SIMスワップ」という詐欺手口をご存じだろうか?

近年、海外ではSIMスワップ詐欺が社会問題になっているという。SIMスワップは、携帯電話のSIMカードを強制的に切り替え、電話番号を乗っ取るという手法の詐欺。その手口は単純で、犯人は新品のSIMカードを用意し、電話会社に携帯電話を紛失したとウソの申告をする。電話会社に申告を信じさせた上で、新たに用意したSIMカードに、ターゲットとなる電話番号を紐付けさせて、その携帯電話を乗っ取るというものだ。

乗っ取り後は、携帯電話内に登録されているサービスをチェックし、ネットバンキングや暗号資産取引所口座、暗号資産ウォレットなど、金目のサービスを見つけては、パスワード再設定を試み、アカウントを乗っ取る。これらのサービスの多くは、SMS認証によるワンタイムパスワードで本人確認を行うことから、パスワードの変更が容易で、各種サービスにログインが可能になってしまうという。ログイン後は、犯人自身の口座等に資産を送金し、SIMスワップ詐欺の完了となる。

NEM.io財団(NEM財団)ブログによると、2018年から2019年にかけて、SIMスワップによる詐欺で米国だけでも5000万ドル(約53億円)以上の暗号資産がスマホの暗号資産ウォレットから盗まれたと推定されている。

NEM Symbol

NEM財団ブログおよびSymbol公式サイトは7月31日、NEM財団と提携するイスラエル・リトアニアの通信関連スタートアップFIX Networkによる、NEM次期バージョン「Symbol」を活用した携帯電話の「SIMスワップ詐欺」防止ソリューションの詳細を明らかにした

FIX Networkは、携帯電話のSIMカード上に秘密鍵とトランザクションを保護できるソリューションを提供するために設立された企業。NEM財団は、2019年11月に発表した「NEM Foundation Update: November 2019」のパートナーハイライトにて同社を紹介している。

NEM Symbol

同社の技術は、ブロックチェーンベースのセキュリティプロトコルを実装した上で、既存の携帯電話インフラを活用し、SIMを介した携帯電話加入者のための新しいプライバシー、セキュリティ、管理、安全性のソリューションを提供する。そのアーキテクチャーにより、携帯電話事業者は加入者のSIMカード上に秘密鍵を保管することで、デジタルID管理、暗号試算ウォレット、個人データファイアウォールなどのサービスを加入者に提供できるようになるという。NEM財団は、2020年3月11日にFIX Networkとパートナーシップを締結したことも報告している。

FIX Networkが提供する最初の製品「FIX ID」は、携帯電話加入者の最も貴重なデジタル識別子である電話番号を保護し、SIMスワップなどの不正行為を防止する。同サービスは、エンドユーザーアプリによって管理され、加入者が所有するグローバルな電話番号を通じて参加者を識別し、ユニークなデジタルIDとして機能する。電話会社は、FIX Networkを介して、暗号資産ウォレット、ネットバンキング、ID管理などのサービスを提供できる。

FIX IDソリューションを管理するセキュリティポリシーの初期実装は、ブロックチェーンベースではないが、今後FIX NetworkのソリューションはNEMの次期バージョンであるSymbolと統合され、ブロックチェーンベースになる予定だという。

NEMの次世代バージョンSymbolのローンチは、4月に発表されたロードマップによると、2020年11月中旬から下旬の予定だ。

NEM Symbol

日本でも次世代Webブラウザー「Brave」で暗号資産BATの受け取り・利用が可能に!

暗号資産取引所「bitFlyer」を運営するbitFlyerは7月30日、Brave Software International SEZCと共同開発する、オープンソースの次世代高速ブラウザー「Brave」(ブレイブ)内で使用できる暗号資産ウォレットについて、その詳細を発表した。Brave Software International SEZCは、Braveブラウザーを開発・提供するBrave Softwareの子会社だ。

日本でも次世代Webブラウザー「Brave」で暗号資産BATの受け取り・利用が可能に!

両社は7月9日に業務提携について合意し、Braveブラウザーの暗号資産ウォレット領域におけるパートナーシップ契約を結び、暗号資産ウォレットを共同開発することを発表した。今回の発表でbitFlyerは、サービス提供開始は2020年11月頃を予定していることを明らかにした。

Braveブラウザーは、広告ブロック機能を標準装備し軽快な動作や匿名性を実現するとともに、暗号資産イーサリアム上で発行されたERC-20準拠トークンBAT(Basic Attention Token)を用いたBrave Rewardsの仕組みを搭載。ブラウザー利用者はBraveが許可した広告を見ることで報酬としてBATが得られる。ただし2020年8月現在、日本では、改正資金決済法を遵守するためにBATではなくBATと対価のBATポイント(BAP)が使用されている。

これに対して、bitFlyerが開発する暗号資産ウォレットのサービス提供開始以降は、bitFlyerに口座を持つユーザーはBraveブラウザー上でbitFlyerアカウントとの連携が可能になる。金融庁が認定する暗号資産交換業者のbitFlyerのアカウントを連携することで、BAPではなく暗号資産BATを報酬として受け取れるようになるわけだ。

受け取ったBATは、Braveブラウザー上でコンテンツ(サイト)制作者にチップ(投げ銭)としての送金も行える。付与されたBATは、bitFlyerで売却し日本円に換金することも可能だ。これで、海外でBreveブラウザーを使用しているユーザーと、いよいよ同じ環境になる。

Brave Software Asiaがオンラインイベントを開催

Brave Softwareの日本法人Brave Software Asiaは、オフィスオープンを記念して、7月30日にオンラインイベント「Brave Software Asia Office Opening Party」を開催した。イベントは、Brave Software Asia代表取締役の嶋瀬宏氏(写真左)が司会進行となり、改めてBraveブラウザーについての紹介が行われ、Braveの日本展開について語られた。イベントではbitFlyer代表取締役の三根公博氏(写真右)も登壇し、その場でBraveブラウザーの暗号資産ウォレットサービスについて詳細が報告され、今回の発表へとつながった。

Brave Software Asia代表取締役の嶋瀬宏氏(写真左)とbitFlyer代表取締役の三根公博氏(写真右)

Braveは、何を問題としているのか

オンラインイベントは、JavaScriptの生みの親であり、Mozilla(Firefox)の共同創設者でもあるBrave SoftwareのCEO、Brendan Eich(ブレンダン・アイク)氏のビデオメッセージによる挨拶からスタートした。

Braveが目指す世界は、インターネットの再構築。現在のインターネットが抱えている問題を解決するために、Braveを設立したという。

インターネットの大きな問題点としては、まずコンテンツの質を指摘する。現在の表示回数が増えるほど広告収益がアップする仕組みは、コンテンツのクオリティーよりもページビュー数(PV)に重きを置くものが増え、結果、フェイクニュースや人の目を引くゴシップニュースなど、質の低いコンテンツが氾濫する状況を作り出してしまったという。PVを稼ぐためには何でもする昨今の迷惑系動画配信などもその例の代表ではないだろうか。

また、ユーザーを特定することで広告単価がアップする現在のネット広告は、広告トラッカーといったプライバシーを侵害する仕組みを作り出してしまった。トラッキングや非効率な広告システムは、ユーザーが意図しない通信を不用意に増やし、無駄な通信費用を発生させる結果にもつながっている。その費用は無視にできないほど増加していることもBraveは指摘する。

プライバシー保護と、暗号資産BATが得られるBrave Rewards

Braveはこれらの問題を解決するべく、消費者を中心としたインターネットの再構築に立ち上がったのだという。

その答えが、Braveブラウザーが作り出しているエコシステムなのだ。Brave Softwareは、高速でプライバシー保護機能を備えるWebブラウザーに、ブロックチェーンのデジタル広告プラットフォーム機能を統合する。基本は広告の表示やトラッカーをブロックし、軽快な動作や匿名性を実現する。その上で、Braveが許可した広告を見ることで報酬として暗号資産BATが得られるBrave Rewardsという仕組みを備えた。

ブラウザー利用者は、広告を見なくてもいいし、自分の意思で見て報酬を得てもいい。Braveブラウザーは、1時間に何回広告を表示させるかといった、その頻度もコントロールできる。これらは、オープンソースソフトウェアとして開発されているブラウザーを基礎としている点も特徴的だろう。

コンテンツクリエイターにチップとして寄付できる

また、報酬として得たBATを自分の気に入ったコンテンツクリエイターにチップとして寄付できるのも大きな特徴だ。この仕組みは、これまで広告収入がメインだったクリエイターが、チップを得るためによりよいコンテンツを作ることに専念できる仕組みとなる。

エコシステムに暗号資産を活用することで、マイクロペイメントの仕組みを導入できるようにもなる。たとえば、漫画を描くクリエイターは、漫画の一コマを1円以下の価格で切り売りするといったことも暗号資産では可能になるということだ。

広告を見て得られる報酬が暗号資産であるという仕組みは、従来のスマホコンテンツのような課金をすることもなくなるため、消費者、クリエイター双方にメリットがある。BATは暗号資産取引所に上場されている暗号資産であることから、もちろん課金システムにも対応することはできる。

Brave Softwareは、これら報酬などの仕組みで新しいビジネスモデルを構築しようとしているのだ。ユーザー、パブリッシャー、広告主のためになる新たなWeb環境を作り直すことで、消費者を中心としたインターネットの再構築を目指している。

Brave Software Asiaがオンラインイベントを開催

これらBraveブラウザーの輪の広がりは、インターネット上のエコシステムを本気で変えてしまうだけの潜在的な可能性があるのではないだろうか(筆者の個人的な感想だが)。

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コインチェックがNEM保有者への補償と一部仮想通貨の出金・売却再開を発表

3月12日、コインチェックは、1月26日に起きた仮想通貨NEMの不正送金に関する補償と、一部仮想通貨の出金・売却再開について発表を行った。

まず、仮想通貨NEMの不正送金に関する補償については、同日中に行うとコインチェックでは述べている。補償対象は日本時間2018年1月26日23:59:59時点でNEMを保有していた顧客で、補償金額は88.549円×同時刻での保有数。補償は日本円で行われ、顧客のCoincheckアカウントの残高に補償金額が反映される。NEMと日本円のレートは1月28日に発表されたものと同額。3月8日の同社の会見では、補償対象のNEM総数は5億2630万10XEMと発表されており、補償総額は約466億円となる。

日本円での補償にともなう課税については国税当局に同社が相談を行っており、分かり次第アナウンスが行われるという。平成29年分の確定申告には影響はない。

一方の一部仮想通貨の出金・売却再開については、同日から順次行われるという。再開される機能は一部仮想通貨の出金と売却で、入金・購入は対象外。出金再開対象となるのは、ETH、ETC、XRP、LTC、BCH、BTCの各通貨。売却再開対象はETH、ETC、XRP、LTC、BCHの各通貨(BTC売却は停止されていない)。

コインチェックでは今回の再開について「外部専門家による協力のもと技術的な安全性等の確認が完了した」ことを受けてのものだと述べている。再開は技術的な安全性等の確認が完了した機能、通貨から順次行う、としている。

また「全ての仮想通貨の入金、購入、新規登録等については、経営管理態勢及び内部管理態勢が整い次第再開する」という。コインチェックでは3月8日の金融庁による業務改善命令を受け、内部管理態勢、経営管理態勢等を抜本的に見直すとコメントしていた。

NEM不正流出から現在までの主な流れは、以下の通り。

NEM保有者への補償は来週めど――2回目の業務改善命令を受けたコインチェックが会見

580億円相当のNEMが流出した事件で金融庁から業務改善命令を受けていたコインチェック。同社は3月8日16時より、「これまでの経緯及び今後の対応」を説明するとして記者会見を開いた。

会見に先駆けてコインチェックは同日午前11時、今回のNEM流出事件に関連し、金融庁から2度目の業務改善命令を受けたことも明らかにしている。そのプレスリリースによれば、コインチェックは金融庁に対し、3月22日までに業務改善計画を書面で提出するとともに、業務改善計画の実施完了までのあいだ、1ヶ月ごとの進捗・実施状況を翌月10日までに書面で報告するとしている。

コインチェックは流出事件が発覚したあと、自社および外部のセキュリティ会社5社による調査を実施した。同社は記者会見の中で発生原因の調査結果を明らかにした。以下はその概要だ。

今回の流出事件を起こした外部の攻撃者は、コインチェック従業員の端末にマルウェアを感染させ、外部ネットワークから当該従業員の端末経由で同社のネットワークに不正にアクセス。攻撃者は、遠隔操作ツールにより同社のNEMのサーバー上で通信傍受を行いNEMの秘密鍵を窃取したという。その秘密鍵を利用した不正送金を防げなかったのは、コインチェックがNEMをホットウォレットで管理していたのが原因だ。

コインチェック取締役の大塚雄介氏によれば、同社はセキュリティ強化策の一環として、以下を実施したという。

  • ネットワークの再構築:外部ネットワークから社内ネットワークへの接続に対する入口対策の強化および、社内から外部への接続に対する出口対策の強化。
  • サーバーの再設計及び再構築:各サーバー間の通信のアクセス制限の強化、システム及びサーバーの構成の見直しを実施
  • 端末のセキュリティ強化:業務に使用する端末を新規購入し、既存端末を入れ替え
  • セキュリティ監視:社内のモニタリング強化など
  • 仮想通貨の入出金等の安全性の検証:コールドウォレットへの対応など、安全に入出金などが行える技術的な検証を進める。

また、同社はこれらの技術的なセキュリティ対応に加えて、以下のシステムリスク管理態勢の強化を図る。

  • システムセキュリティ責任者の選定と専門組織の設置
  • システムリスク委員会を設置
  • 内部監査態勢の強化
  • その他経営体制の強化

これらの対応をとったうえで、同社は「一時停止中のサービスの再開に向けて全力を挙げて取り組むとともに、金融庁への仮想通貨交換業者の登録に向けた取り組みも継続し、事業を継続する」と述べている。

また、注目されていたNEM保有者への保障については、来週中をめどに実施することを明らかにした。補償総額を算出するNEMと日本円のレートは、先日同社が発表していた1 NEM = 88.549円となる。

当初、コインチェックは保証対象のNEM総数を5億2300万XEMとしていたが、同社は本日の会見でその総数が5億2630万10XEMとなることを発表。これに先ほどのレートをかけ合わせると、補償総額は約466億円となる。

現在、コインチェックの記者会見では質疑応答が進行中だ。詳細はのちほどアップデートしてお伝えする。

日本円の出金は401億円、事業継続と業者登録を目指す——コインチェック大塚COOが説明

コインチェック取締役COOの大塚雄介氏

仮想通貨「NEM」の不正流出事件が起こり、仮想通貨の売買や日本円の出金を停止していた仮想通貨取引所「Coincheck」。サービスを運営するコインチェックは2月13日、日本円の出金を再開した

コインチェックでは同日20時から本社が入居するビルのエントランスで会見を実施。同社取締役COOの大塚雄介氏が現状を説明した。なお、同日午後には複数メディアで同社が会見をするとの報道があったが、報道後も同社広報は「会見は行わない」としていた。

冒頭、大塚氏は「まだすべて話をするわけではなく、後日改めてその機会を設けさせていただきたいと思う」とした上で、現時点での同社の状況を説明した。

コインチェックでは2月13日付けで金融庁の業務改善命令に対して、報告書を提出。「継続して事業をさせて頂くところを一歩一歩、改善を進めている。まず一歩目だが、日本円の出金を再開した」と説明。すでに13日だけで401億円の出金を終了しているという。また明日以降についても、順次出金を行うという。すでに発表済みのNEMに関する補償については「ある程度の目処はついている」としたものの、時期や詳細については「確定したらご報告する」とするにとどめた。

現時点ではいまだ中止している仮想通貨の送金や売買に関しては、外部のセキュリティ専門会社と安全を確認した後に再開するという。ただしこちらに関しても具体的なスケジュールは明示せず、「明確に決まり次第、ちゃんとご報告をさせていただく」とした。

大塚氏かra

説明があったあと、報道陣との質疑応答が行われた。以下はその概要だ。なお会見は「後ろの予定が詰まっている」(同社)とのことで20時20分で終了した。最後に報道陣が投げた「被害者に対してひと言」という質問に回答することなく、大塚氏はその場を去っている。

–業務改善報告書の内容、金融庁とのやり取りについて
お答えすることができないかたちになっている。(記者からの話せる範囲で、という質問に対しても)ちょっとお答えできない。すみません。基本的には今、進めている最中。内容についても、プレスリリースには出しているが、改善報告書の項目の中身に関しては答えられない。

–再発防止策において、不正監視の回数増加やコールドウォレットの扱いについて
今の時点でお答えできない

–経営体制や第三者委員会の設置について
(前の質問と)一緒で、そこについてもお答えできることない

–補償のめどについて
改善計画については、お答えできない。補償のめどなど日付については正式に決まったら。補償金額と数量については報告していることがすべて。(残りの入金額については)今時点ではお答えできない。(ユーザーから返金依頼があれば返せるかについては)はい。

–NEMの補償時期がはっきりしない理由について
資金自体はすでにある。そこの調整を行って、問題ないことを1つ1つ確認していく。補償の資金となる現金は手当できている。(財務状況を金融庁に報告しているかについて)金融庁とのやり取りに関しては話せない。

–NEMの補償時期が言えないと不信感がある
おっしゃることはまさにそうだが、お答えできない。1つずつ確認しているので、確認できれば報告させて頂く。

–顧客資産と会社資産を分別した上で返せるということか
はい。もともと分別管理が前提。今回の日本円の出金も、預かった資金から出している。
(補償の資金についても)自己の資金から。(他の仮想通貨も分別管理しているかについては)、はい。

–そもそも金融庁の仮想通貨交換業者登録が遅れた理由について
事件と関係がないのでお答えしかねる。

–売買機会を逸したユーザーからの損害賠償の動きについて
売買については今しばらくお待ち頂く。(補償については)まだ確認できていないのでお答えしかねる。

–事業者登録ができる確信があるか
はい。基本的には事業を継続する。登録もさせて頂く。(登録ができなければ)違法になるので事業ができないと思う。

–NEM流出からの2週間で決まったことは
外部の専門家にセキュリティの確認をして、日本円の出金ができるようになった。加えて仮想通貨売買も前に進めている。(解決までの時間について)ある程度の見通しはついているが、正式にはまだ。目処についてもお伝えできない。私たちのシステムとして安全に送金できるのかどうかを確認中。一番はユーザーの資産が手元に戻る事。

–だいたいでいいので目処を示せないのか
見通しとズレがないようにしてから正式に報告する。

–なぜ代表取締役社長の和田晃一良氏はいないのか。
私が責任を持っているから。(和田氏は)今日は業務改善命令の報告をしていた。今もオフィスにおり、サービス改善に関わっている。

–コインチェックの現預金について
お答えしかねる。(売上高や営業利益、純利益なども)お答えは控える。(開示の意向について)現時点では、ない。

–経営責任について
繰り返しになってしまうが、業務改善命令の中身に関してお答えできない。(責任の取り方については)今ちゃんと考えているところ。正式な内容がきまれば報告する。(経営陣の辞める意向については)そこらへんも含めて中身が決まれば報告する。

–出金停止、業務停止の是非について
ユーザーの資産を一番に考えて、これ以上被害が出ないためにも妥当な判断だと思っている。

–破産申請の可能性について
破産するつもりはなく、事業継続の意思がある。ある程度の見通しも立っている。事業の継続と金融庁への登録を継続する。

–不正アクセスの原因究明について
報告の内容になるため話せない。(ユーザーへのアナウンスについて)目処が立ち次第報告する。

–不正流出したNEMが換金されているという話について
捜査関係の話はできない。

コインチェックが580億円のNEM不正流出について説明、補償や取引再開のめどは立たず

既報の通り、仮想通貨「NEM(ネム・XEM)」の不正流出が明らかとなり、NEMを初めとした仮想通貨の売買を中止している仮想通貨取引所「Coincheck」。サービスを運営するコインチェックは1月26日、その詳細を説明する会見を東京証券取引所で行った。23時30分にスタートした会見は(当初のアナウンスは23時開催)、27日1時過ぎまで続く異例のものとなった。

会見には、コインチェック代表取締役社長の和田晃一良氏、取締役COOの大塚雄介氏、同社の弁護士である堀天子氏が出席。冒頭、和田氏は「本件に関しまして、皆様をお騒がせしていますことを深くお詫び申し上げます。たいへん申し訳ございませんでした」と謝罪。その後、大塚氏が状況を説明し、記者からの質疑に回答するかたちで会見は進められた。

大塚氏による説明および当日配布された資料によると、今回の不正送金の経緯は以下の通り。

2時57分(以後、すべて1月26日):事象の発生(コインチェックのNEMアドレスから、5億2300万NEM(検知時のレートで約580億円)が送信される。

11時25分:NEMの残高が異常に減っていることを検知

11時58分:NEMの入出送金を一時停止

12時7分:NEMの入金一時停止について告知

12時38分:NEMの売買一時停止について告知

12時52分:NEMの出金一時停止について告知

16時33分:日本円を含むすべての通貨の出金を一時停止について告知

17時23分:ビットコイン以外の仮想通貨の売買、出金を一時停止・告知

18時50分:クレジットカード、ペイジー、コンビニ入金の一時停止について告知

コインチェックでは、今回の不正アクセスによる送金を金融庁および警視庁へ報告。NEMのコミュニティをとりまとめるNEM財団やNEMを取り扱う国内外の取引所と連携して、送信されたNEMの追跡および売買停止要請をしているという。なお、今回の取引に関しては、NEM財団との話し合いの中で、ハードフォークやロールバックによって被害を受けたユーザーを救済することはできかねる、といった旨の回答を受けているという。

被害ユーザー規模は調査中、運用体制に不備

流出の影響を受けるユーザーの数は「現在調査中」(大塚氏)で、規模感も把握できていないという。補償については、「お客さまの保護を最優先に検討しており、対応中」という表現にとどめて、現時点で具体的な施策を明らかにしていない。コインチェック社への財務的な影響についても精査をしている状況であり、確認ができ次第対応を報告するとしている。また、サービス復旧の見通しについては、原因を究明中であり未定。見通しは立っていないとした。

今回の不正流出の原因は、現時点では不明。だが、NEMはホットウォレット(ネットワークに接続されたウォレット。手軽に仮想通貨を取り出しやすい一方で、今回のように不正な送金をされる可能性がある)で管理されており、マルチシグ(仮想通貨の秘密鍵を分割し複数管理することでセキュリティを高める技術)を実装していない状態だったという。一方でコインチェックはビットコイン(BTC)に関してはコールドウォレット(ネットワークに接続されていない環境に秘密鍵を保存したウォレット)を利用し、マルチシグを実装。Coincheckで取り扱う代表的オルトコインのイーサリウム(ETH)に関しても、コールドウォレットでの管理を行っていた。

会見では、この運用体制に関する質問が報道陣から相次いだ。大塚氏、和田氏はセキュリティに関しては「何より最優先していた」と説明するも、マルチシグ実装予定についての質問には「他の優先事項が高い項目もあり、具体的な見通しがついていたわけではない」(大塚氏)と回答。それに対して記者が「結果的にこういう自体を引き起こしたのは、やはりセキュリティが甘かったのではないか」とさらに追求し、大塚氏が数十秒の間回答に窮するという場面もあった。

あくまで主観的に現場の空気を伝えると、マルチシグの未実装、ホットウォレットでの管理という観点で「セキュリティの甘さ」について何度も具体的な回答を求める報道陣(会見の後半になると、参加している僕ですらうんざりするような質問の仕方もあったけど)に対して、「セキュリティは万全だった」と答えるコインチェックが噛み合わない状況だった。会見後に話した投資関係者からは、「これはセキュリティの不備を認めることで、善管注意義務違反に問われることを避けたのではないか」といった声も聞いた。

数字の公開「株主を含めて協議」

また、影響を受けるユーザーの数をはじめとして、金額以外の数字を公開しなかったことに対しても質問が集まった。これに対して、大塚氏らが「公表するかどうか株主を含めて協議する」と回答したが、和田氏、大塚氏が株式の過半数を持っていると説明したところ、会場の報道陣の一部からは笑い——どちらかというと失笑だ——が起き、「(過半数あるのであれば)2人が情報の公開を決めれば他の株主の反対を排除できるのではないか」といった指摘も飛んだ(これについては、「株主」という言葉がスタートアップコミュニティと、一般の市場で異なる性質を持っていることをより認識してもよかったのではないかとも感じた。スタートアップにとっては過半数未満の株主も成長を支援するパートナーという意味もあるが、世のマーケットを見ている人たちからすればそれは想定している「株主」とは異なるからだ)。

もう1点質問が多かったのは、テレビCMと仮想通貨交換業者の登録についてだ。コインチェックは仮想通貨交換業者への登録申請をしているが、現時点までに登録が完了していない(登録申請自体は行っており、受理されてはいるが認められていない状況)。だがその一方で、すでにテレビCMを含めたマーケティングを積極的に行っている。業者登録前にCMを積極的に流すのは良識が無いのではないかと問われると、「登録申請、セキュリティに関しては、経営上最優先でやってきた。その上で、さらに使っていただきたいというところで……優先順位としては2番目で、CMもやらせていただいた」(大塚氏)と回答した。

会見の後半、和田氏は、今回の最悪のケースについて「顧客の資産が毀損し、お返しできないことだと考えている」と語った。コインチェックは「顧客最優先」と再三説明し、今後情報も開示していくことを検討しているという。だが、現状はその内容のほとんどが「調査中」という状況だ。