長文記事を音声変換するアプリAudmをNYタイムズが買収

長文記事を音声コンテンツに変えるスタートアップのAudm(オードゥム)は3月22日、The New York Times Company(ザ・ニューヨーク・タイムズ・カンパニー)に買収されたと発表した。InstapaperやPocketなどの最新のアプリを含め、ニュース記事を音声に変換するサービスは他にもあるが、Audmは自動音声技術を使わず、コンテンツをプロの声優が読み上げることで差別化している。これによりコンテンツはより楽しく聴けるものになり、例えばポッドキャストを聴くような感じになる。

同社は2007年、コロンビア大卒業生のRyan Wegner(ライアン・ウェグナー)氏とChristian Brink(クリスチャン・ブリンク)氏が設立した。2人はそれぞれ心理学とソフトウェア開発のバックグラウンドを持つ。大学時代は互いを知らなかったが、2014年に出会い、音声ニュースアプリのアイデアを持ち寄ることになった。彼らは当初、クラウドソーシングによるナレーションで試行していたが、後にプロの声優を使い頭角を現した。

同社は2017年にY Combinatorのスタートアップアクセラレータに参加し、ビジネスをさらに発展させた。Audmは当時Wired、The Atlantic、Esquire、Harper’s Bazaar、The New York Review of Books、ProPublica、London Review of Booksなど、さまざまな出版業界のパートナーと協力していた。 同社のウェブサイトによるとThe Atlantic、Outside、BuzzFeed News、Vanity Fair、The New Yorker、New York、Rolling Stone、Texas Monthlyとも協業している。

もちろんThe New York Times(NYT)もAudmと協業していたが、限定的なものだった。現在、Audmには利用可能なNYTストーリーが2つしかなく、両方とも2019年のものだ。今回の買収に伴いそれは変わると思われる。

同社は、新型コロナウイルスのパンデミックからの逃避と救済のために、毎週日曜日に「The Daily」でNYTの記事の朗読を提供する計画をすでに検討し始めたという。これは、Taffy Akner(タフィー・アンカー)氏によるTom Hanksのプロフィール記事Sue Dominus(スー・ドミナス)氏によるコロンビアの双子の兄弟の話から始まった。

The New York Times Magazineのオーディオストーリーも制作されている。AudmアプリでThe Wingblack theaterBernie Sandersその他の特集が聴ける。NYTによると、モバイルページなど他の形式での配信も試行中であり、Magazineから他の媒体への拡大も予定している。

現在、ユーザーはAudmアプリを3日間無料で試用した後、月額8.99ドル(約1000円)または年額59.99ドル(約6700円)でサービスを利用できる。The Times Companyは、ビジネスモデルが今後どう進化するのか、そもそも進化するのか、Audmのサービスが独自のNYTアプリと統合されるのか、詳細を明らかにしていない。

App Storeのプロファイルによると、AudmはMagazines&Newspapersカテゴリーで20位にランクされた。このアプリはAndroidでも利用できるが、ランキングは高くない。

NYTの発表によると、Audmは他の出版社を含め、毎週何時間分もの新しいストーリーを導入し続ける予定だ。

話し言葉の音声制作担当ディレクターであるウェグナー氏と、Audmの製品担当ディレクターであるブリンク氏、チームの他のメンバーは、買収された後Times Companyに参画した。

Pitchbookのデータによると、AudmはY CombinatorHack VCPrecursor VenturesSwitch Venturesからアーリーステージの資金を調達している。

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(翻訳:Mizoguchi

Samsung、New York Timesの新サービス”The Daily 360″で日常的VRを推進

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誰もが、その日のニュースに没頭する。New York Timesの新サービス、The Daily 360がSamsungの強力な支持を得たのは恐らくそれが理由だ。SamsungはGear 360カメラ等の機器を同紙の記者に提供し、取材先で360度動画の撮影を可能にした。、NYTは11月1日から同紙ウェブサイト、モバイルおよびVRアプリで、毎日少なくとも1本の没頭型ビデオを配信することを約束した。

このプロジェクトは極めて興味深い。360度ビデオの報道利用は最適な事例の一つだ。例えばHuffington PostのRYOは、これまでにいくつか興味深い記事を提供しており(情報開示:TechCrunchとHuffington PostはいずれもAOL傘下にある)、The Guardianの6×9プロジェクトも優れた事例の一つだ。NYT自身も注目すべきVR映像をいくつか作っており、The Displacedはその一例だ。

このプロジェクトの狙いは、VRと360度ビデオを、稀にしか使われない特別なフォーマットから、日常的に制作、消費されるものへと変えることだ。このニュースを伝えるプレスリリースで、NYTの執行副社長兼最高売上責任者、Meredith Kpit Levienはプロジェクトの最終ゴールについて、360度コンテンツを「テキストやインタラクティブ並み」に日常的なものにすることだと話した。

NYTにとってこれは、GoogleからMicrosoftまで誰もが挙ってハードウェアやプラットフォームを作るこの成長分野で先行するチャンスだ。Samsungにとっては、ユーザーが数回体験した後は興味を失う静的なコンテンツライブラリーに、リアルタイム性とダイナミズムを付加するチャンスだ。ユーザーのよく知っているコンテンツプロバイバーから毎日新しいものが送られてくることの価値は、VRのような新興分野では小さなことではない。

だからといって成功するとは限らない。かつてやはり新しいタイプのプラットフォームに賭けた早期の試みは、The Daily 360と似た名前だった:News CorpのiPad専用デジタルマガジン、”The Daily” は、コンテンツを特定メディアにターゲティングしたことで、厳しい結果を招いた。

一方Daily 360は、焦点を絞ったスタンドアロンのサービスというよりも、ずっと偶発的なアドオンサービスのように思われるので、日々の没頭型ジャーナリズムの未来を占う好事例となるはずだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ロシアのハッカーがNew York Times記者を攻撃との報道

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報道によるとFBIは、米国ジャーナリストに対するロシア諜報機関が首謀した疑いのあるハッキング事件を捜索している。標的の中には複数のNew York Times記者がいたと、CNNおよびAPは伝えている。

New York Timesは、同紙モスクワ支局が狙われたことを認めたが、攻撃が成功したことを信じる理由はないと語った。

New York Timesや他の新聞社に対する攻撃がロシアによるものとする理由は明らかにされていないが、CNNはこれを最近のDNCハック事件と結びつけている。セキュリティー会社のCrowdStrikeも、使用された戦術やマルウェアを分析した結果、DNCハックをロシアと結びつけたとCEOのGeorge Kurtzは言った

FBI当局者はAPに対して、New York Timesネットワーク全体ではなく、特定の人物が標的とされていたと話した。しかしNew York Timesは捜査内容に関するコメントを拒んだ。

「多くの報道機関と同じく、当社はシステムへの侵入に関して慎重に警戒している」とNew York Times広報担当のEileen MurphyがAPに伝えた。「外部の捜査組織や警察に協力することを含め、対策には様々なアプローチがある」。さらにMurphyは、モスクワ支局を含め同社ネットワークが侵入被害を受けたという証拠がないことを付け加えた

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

良質な調査報道をクラウドファンディングで育て維持したいと願うUncoverage

Israel Mirskyは民主主義におけるジャーナリズムの役割を、次のようなアナロジーで説明する: 自由な社会は、強力な免疫系がないと機能しない。調査報道に従事するジャーナリスト(investigative journalists)は、感染を見つけて闘うヘルパーT細胞の役を担う。彼らはたとえば、訴追者や立法者*や世論の注意を腐敗に向けさせる。〔訳注: 訴追者や立法者, prosecutors, lawmakers…ふつうに訳すと検事や議員、となる。〕

しかし、インターネットがニュースのビジネスモデルを変えたため、媒体は記者たちに十分な報酬を支払えなくなり、その免疫系の力は弱くなっている。

今月の初めにMirskyは、クラウドファンディングのサイトIndiegogoで、新しいクラウドファンディングプラットホームUncoverageを立ち上げるための資金募集を開始した。そのねらいは、人びとが直接、調査報道のプロジェクトを支えることによって、今経済的な苦境に立つ新聞や雑誌に依存せずに、記者たちが自分の仕事をできるようにすることだ。記者の企画に資金が集まれば、Uncoverageはその記事を全国紙誌に売り込む。この際もちろん、報酬期待ではなく掲載依頼の売り込みだ。

“ぼくのような、つねに良いニュースに飢えている人間は、今調査報道が経済的に成り立ちにくくなっていることを、怖いと思う”、とMirskyは語る。

ジャーナリズムをクラウドファンディングする試みは、これが初めてではない。2011年にAmerican Public Mediaが買収したSpot.usは、ローカルニュースの充実を目指して2008年に創業された。今年の9月にローンチしたBeacon Readerは、映画/TV番組配給のNetflixのように、有料会員制(月額5ドル)でライターたちの記事を読ませようとする。ジャーナリストたちの仕事を広告収入依存にしない、という試みだ。

Uncoverageは、市民ジャーナリストを対象としない。企画がこのサイトで採用されるためには、その記者が既存のメディアの経験者でなければならない。

また、Mirskyによれば、地域ニュースも対象にしない。Uncoverageに持ち込まれる企画は、世界全体や特定地区(例: “東アジア”)、あるいは国を対象とするものでなければならない。つまり、期待されるオーディエンスが相当大きいこと。また報道写真の企画も単独では対象としないが、ジャーナリストと組んだ報道写真企画は取り上げる。

期限まであと17日の今日(米国時間12/17)現在で、目標額55000ドルに対し12000ドル弱が集まっている。

今後支援者たちは、特定の企画を支援してもよいし、あるいはより広い話題(トピック)を支えてもよい。どちらにも編集者が付き、たとえば経済的~金銭的腐敗を担当する編集者Sharona Couttsは、ジャーナリストたちと協働して企画の評価と彫琢を行う。ただし彼女の役割は、今後変わることもありえる。

また、資金を募る話題も、今後流動的である。Mirskyの頭の中に今ある話題は、経済的腐敗と、ビジネスとしての刑務所などだ。しかし今後の編集者やパートナー次第で、メインの話題は変わっていく。もちろん出資者や読者の意向によっても。

Mirskyによると、取材資金を得るためにUncoverageに持ち込まれる企画の内容や形式は、その完成度を問わない。びっしり書かれた企画書でも、未完の企画書でも、わずか500語のメモでもよい。Uncoverageは出版者と密接に協働するが、出版者側からの給与は出ないので、編集者とライターのあいだ力関係が従来とは変わるかもしれない。

“資金の一部が企業でなく個人から来るということは、全然別の形の会話をもたらすだろう”、とMirskyは言う。

しかし会話が変わっても、それが編集者いじめになるわけではない。

“目標は、記事がメジャーな全国紙誌(+インターネットサイト)に載ることだ。良質な調査報道が、記者にとっても、出版者にとっても、どんどん書けてどんどん載るようになることを期待したい”。

[画像: Flickr / NS Newsflash]

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))