ライナフがスマートロック新製品、LIXILと共同開発する「スマートドア」構想も

スマートロックを切り口に不動産テックサービスを展開するライナフは3月30日、スマートロックの新機種「NinjaLock2」を公開した。製品は5月より予約販売を開始する。あわせて、住宅設備・建材大手のLIXILと共同で、IoTを活用した新サービスの研究開発をすると発表した。

各種サムターン錠への対応で海外進出するNinjaLock2

まずは新製品のNinjaLock2について見ていこう。NinjaLock2は、サムターン錠の上からかぶせることで、アプリをインストールしたスマホやタブレットとBluetoothで通信して錠の開閉ができるスマートロック「NinjaLock」の後継機種となる。

 

従来製品との違いのひとつは、オプション製品のキーパッドとの連動だ。キーパッドはFeliCaと数字キーによる暗証番号入力とに対応しており、部屋のドアの外側に取り付けられる。ライナフ代表取締役の滝沢潔氏は、キーパッドの追加について「民泊での利用を意識した」と言う。「来日した外国人観光客には、モバイルでのネット環境が整っていない人も結構多く、従来品のスマホアプリや携帯電話からの開錠操作では不十分だった。そのため暗証番号による開錠にも対応することにした」(滝沢氏)

 

従来のスマホ操作による開錠設定と同様、暗証番号にも、3日間だけ使えるものを発行するといった期限を設けられるほか、同時に50個までの異なる番号を発行することにより“誰が開錠したか”を追跡することも可能だ。また、SuicaやPASMOなどのICカードを、日常的にカードキーとして利用することもできるという。

NinjaLock2本体のほうでは、対応するサムターン錠が増えたことが大きな変化だと滝沢氏は話す。「サムターンの回転角度を5度単位で、720度(2回転)まで設定できるようになった。また、サムターンにかぶせる部分は特許を申請中で、どんなサムターンの形状でも挟み込めるようにした。これまで必要だったアタッチメントの交換が不要になる」(滝沢氏)

サムターンの90度回転が一般的な日本だけでなく、海外の錠にも対応できるようになったNinjaLock2は、アジアでも同時発売するそうだ。「米欧はまだだが、まずはアジア地域で販売を開始する予定。台湾や香港では展示会への出展も決まっている」(滝沢氏)

新機種ではそのほかに、本体内に時計(リアルタイムクロック)を内蔵したことで、「毎日夜10時になったら自動施錠する」など、開閉動作を予約することができるようになっている。

NinjaLock2を受託生産するのは、鴻海精密工業に次ぐ世界第2位のEMS(受託生産業者)、Flextronicsだ。「思いがけず、大きな企業と組めることになった」という滝沢氏は「高い品質のスマートロックを提供できると期待している」と話している。

方向性の違いが見えてきた、日本のスマートロック3社

NinjaLock2は、すでに提供されている他のスマートロック製品と、見た目や物理的な機能ではそれほど大きな差があるようには見えない。新製品投入で、ライナフが目指すものは何だろうか。

滝沢氏は「日本でスマートロックを扱うスタートアップ3社は、ここへ来て方向性に違いが出てきている」という。「WiLとソニーが設立したQrioはメーカー色が強く、ハードウェア(ガジェット)としてのスマートロックを提供している。Akerunシリーズのフォトシンスは『Akerun Pro』を月額9500円のレンタルプランでのみ提供し始めた(関連記事)ことで、法人オフィスのセキュリティ需要に応えていて、セコムやALSOKが提供してきたサービスのリプレースが主戦場となってきている」(滝沢氏)

そうした中、ライナフがスマートロックで狙うのは、あくまでも「不動産テック」だと滝沢氏は言う。滝沢氏は2016年11月の取材でも「不動産の流通と活用を促すためのテクノロジー」として、NinjaLockとの組み合わせにより不動産物件を“セルフ内覧”できるサービス「スマート内覧」や、貸し会議室を予約・利用できる「スマート会議室」を紹介していた。

「スマート内覧はサービス提供開始から半年で、内覧数を2.5倍に増やしたところもある。一方で、サービスの提供にあたっては、スマートロックの付け外しに課題があった。NinjaLockの取り付けには両面テープを使っていたが、粘着力が強すぎるとはがす時に大変だし、弱すぎては錠としての意味がなくなる。そこで新製品のNinjaLock2では、オプションに強力な磁石でロックを取り付けることができる、マグネットパーツを用意した」(滝沢氏)

キーパッド等のデバイスとの組み合わせや、時計の内蔵による開閉動作予約など、NinjaLock2の新機能も、物件の貸し出しや民泊としての利用といった不動産活用を促進することにフォーカスした結果ということのようだ。

スマートホームではなく「スマートドア」でサービスを家に取り入れる

そして、さらに新しい不動産価値を生み出そうと考えられているのが、今回のLIXILとの提携による共同研究開発による「スマートドア」構想だ。

滝沢氏は「これからの住まいのコンセプトは、サービスが家に入ってくることだ」という。「不動産の価値を時代別に見ていくと、バブル期は狭いワンルームをできるだけ多く供給・保有する、という考え方だった。2000年代に入ると、バス・トイレが一つになったバブル期物件の人気はなくなり、リビングを広く取った物件が好まれるようになった。居住する人数が減ったことで物件当たりの部屋数が減り、1LDK、2LDKといった部屋割りが増えた。そして2020年代、働き方改革で共働き世帯が増えることなどから考えられるのが『サービスが入ってくる家』というコンセプトだ」(滝沢氏)

具体的には、スマートロックが内蔵されたドア(スマートドア)が家の外側と内側の2カ所に設置され、ドアとドアの間に土間のようなサービスゾーンが設けられた構造が想定されている。

「サービスゾーンには棚、ハンガーラック、冷蔵庫が置かれている。スマートドアが設置された家に入ってくるサービスとして考えられるのは三つ。一つは宅配便。ワンタイムの鍵で外側のドアを開けて、サービスゾーンの棚に荷物を置いていってくれるというもの。二つ目は食材やお弁当、クリーニング、洋服レンタルなどの宅配サービス。食材やお弁当なら冷蔵庫に入れていってもらって、帰宅したらすぐに食べられるとか、クリーニングに出したいものをハンガーラックにかけておけば回収して、仕上がったものはまたハンガーラックにかけていってくれるといったことを考えている。三つ目は家事代行。家事代行では、内側のドアも開けられるキーを担当者ごとに発行して、サービスを受けることを想定している」(滝沢氏)

また家事代行については、株主である大手デベロッパーとともに不動産の付加価値を上げる施策として、賃貸マンションをターゲットに一棟まるごとサービスを提供することも検討しているという。

ライナフは2016年にLIXILアクセラレーター・プログラムでアライアンス賞を受賞し、新たな住まい・暮らし方の実現に向けた協働検討を行っていた。今回、新しいコンセプトのIoT建材と新サービスの研究開発を共同で行うことで両社が合意。LIXILとの連携では、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の企業間連携スタートアップに対する事業化支援事業に採択され、NEDOから最大7000万円の助成金が交付されることも決定している。滝沢氏は、開発実施から半年間ほどでサービスをローンチしたい、と話している。

滝沢氏は「住まいとIoTというと、スマートホームが取り上げられがちだが、現時点で大きな進展はなく、ユーザーも顕在化していない。Apple Homeなどとの連携も検討はしているけれど、今はスマートホームよりは『サービスを家に入れるドア』というところに開発リソースを集中したい。IoTは生活を豊かにするべきものだし、共働きの人も高齢者も生活が豊かになるサービスを考えたい」と語る。「それから宅配サービスもいいけれど、スマートドアは商店街の八百屋さんや魚屋さん、クリーニング屋さんといった地域のサービスも家に取り込むことができると思っている。地域と不動産との結びつきも強くできるコンセプトだと考えている」(滝沢氏)