リチウム充電池を作った3名がノーベル化学賞を共有

毎朝メールをチェックしたりInstagramを見たり友だちにテキスティングしたりするたびに、スマートフォンに新しい単3形電池を2つ入れなければならないとしたら、モバイル革命はちっとも革命にならなかっただろう。しかし運よく充電できるリチウムイオン電池が発明された。そしてそのための、3人の男の何十年にもおよぶ労苦にノーベル化学賞が贈られた。

今年の受賞者である、M. Stanley Whittingham(マイケル・スタンリー・ウィッティンガム)氏、John Goodenough氏(ジョン・グッドイナフ)氏、そして吉野 彰氏らは全員が現在の最も一般的な可搬性電源の開発に貢献した。彼らとその先人たちおよび後続者たちがいなければ、私たちはもっと無駄の多い、あるいは定置型のエネルギー源に縛られていただろう。

電池の進化には1世紀近くという長い時間を要した。電池の次のレベルとして、リチウムという軽量で電気特性のいい金属に着目するまで私たちはほぼ1世紀近く、鉛と希硫酸を使った電池(鉛酸蓄電池)を使用していた。しかしリチウムは空気や水とすぐに反応するので、それと組み合わせる適切な基材を見つけることが難題だった。

50年代と60年代の実験が、その後のもっと的を絞った研究、とくにウィッティンガム氏の研究の基盤を築いた。彼とパートナーのFred Gamble(フレッド・ガンブル)氏は1976年に、リチウムイオンは電子を与えて充電状態にすると二硫化チタンの格子中へ完全にフィットすることを示した。それらはそこ(そのファンデルワールスギャップ)におとなしく、充電で電子が供給されるまで座っていた。しかしこの設計はリチウムの陽極を使うので、曲げたりつぶしたりするとすぐに反応して発火のようになった。

グッドイナフ氏と彼のチームは、リチウムイオンがより安定し、たくさんの電力を取り出せる陰極素材を開発し、実用化のための新しい可能性を開いた。ただしこの時点では、金属リチウムの陽極が曲げたりつぶしたりするとすぐに反応してしまう性質はそのままなので、電池をさらに安全で使いやすくするための研究が進んだ。

yoshino battery

1985年に、吉野氏の研究から、高性能かつ物理的にも丈夫で安定性の高い素材がいくつか発見された。それらの名前は、化学の知識のない人にとってはどれも、ちんぷんかんぷんである。

その後、数多くの改良が加えられたが、技術の必要不可欠な基礎を作ったのがこの3名だ。そしてリチウムイオン電池が安全で容量が大きく何百回も充電できるとわかってからは、ラップトップや医療機器、そして最終的にはモバイルの電話機に採用された。リチウム電池の開発の初期から30年以上経つ現在では、運輸交通のためのエネルギー保存媒体としても選ばれ、ガソリンに代わりつつある。

今年のノーベル化学賞の賞金は、この技術を理論から商業的現実へと最も強力に前進させた3名の研究に3等分された。しかし重要なのはその賞金の金額ではなく、人類の歴史に名を残す非凡な栄誉を獲得したことだ。

画像クレジット: Niklas Elmehed. © Nobel Media.

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

ノーベル賞おめでとう! 大株主、ビノッド・コースラが中村教授のLEDベンチャーSoraaを語る


編集部:Vinod Khoslaは起業家、ベンチャーキャピタリスト。Khosla Venturesのファウンダー。情報テクノロジーと維持可能なエネルギーに関する投資を行っている。Sun Microsystemsの共同ファウンダー、元CEO。

私はまず中村修二(写真)におめでとうを言いたい。中村教授は、Khosla Venturesが投資しているSoraaのファウンダーでもある。昨日(米国時間10/8)、中村教授と同僚研究者2人はノーベル物理学賞を受賞した。中村教授らは、アルバート・アインシュタイン、マリー・キュリー、ニールス・ボーアらと並んで人類の歴史を変えた偉大な科学者の仲間入りを果たした。

2001年に、中村の執筆した窒化ガリウムLEDについての論文を読んで以来、中村と私はこのテクノロジーのもつ巨大な可能性を現実化させる方策について議論してきた。その会話の結果、中村たちは2008年に新世代のLED照明メーカー、Soraaを創立した。

昨日、ノーベル賞委員会はついに青色LEDの発明が大事件であったことを次のように認めた。「LED照明は既存の電力網が利用できない世界の15億人の人々の生活の質を高めることを約束する。消費電力がきわめて低いので、安価な太陽光発電で照明が得られるようになるのだ。」

驚くべきことに、シリコンバレーは人類の多くに影響を与えるこの大発明に対してきわめて冷淡な反応しか示さなかった。多くの投資家は世界を明るく照らすというような遠大なビジョンを持つにはあまりに近視眼的で、ハイリスクで高度に科学的な研究の価値を理解しようとしない。もちろん、真に意味のあるイノベーションは簡単に起こせるものではない。ノーベル賞委員会も中村らを「他のすべての研究者が失敗したにもかかわらず、成功させた」と賞賛している。

本当に価値のあるものはみなそうだが、先端的な物理学理論をベースにしたテクノロジー・スタートアップの運営はきわめて難しい。今日、Soraaは窒化ガリウムを積層したGaN on GaNテクノロジーによるLEDの世界的リーダーに成長している。SoraaのLEDランプのエネルギー効率は他を引き離して世界一だ。窒化ガリウム・テクノロジーは量産に向かず高価で非実用的だという通念をシリコンバレーのよき伝統にのっとり、Soraaは無視した。当時ほとんどの専門家がこのアプローチに反対したにもかかわらず、今やGaN on GaNによるLEDはこれまでの手法によるLEDと比較して製造にかかる資本投資が80%少なく、製造に必要な資源も80%少ない。しかもSoraaのLEDは他のテクノロジーによるものと比べて光の品質が高く、寿命もはるかに長い。

Soraaは今や第三世代のLEDライトを製造しており、その将来は明るい。しかしこれまでに数多くの危機を経験してきた。なんどもこのテクノロジーは結局日の目を見ないのではないかと思われた。資金不足から倒産の危機に瀕したのも一度や二度ではない。そのつどつなぎ融資、一時的な給与減額、さらには創業者たちの相当額の個人借り入れなどによってこのテクノロジーを生きながらえさせきた。結果的には幸運にも、Khosla VenturesはSoraaの最大の株主の一つとなったが、これは他の投資家を見つけるのが難しかったからでもある。

Soraaが今日の姿になるまでに、われわれは何度もこのプロジェクトは野心的にすぎたのではないかと疑う経験をした。ある時点ではKosla VenturesのパートナーがSoraaの臨時CEOを務めねばならないことがあった。Soraaは現時点では完全に成功を収めたとはまだいえない。しかし少なくともGaN on GaNテクノロジーによるLEDが世界から消えることはないはずだ。実はわずか1年前にもその危機があったのだ。

売上の急速な拡大にもかかわらず、Soraaがいわゆる「クリーン・テクノロジー」に分類されているために資金調達は困難を極めた。この点ではElon Muskも資金調達で同様の苦難を経験している。Teslaも何度も倒産の危機に見舞われており、そのつどイーロン・マスクがその魅力で資金を集め、また私財を投じて辛うじて乗り切ってきた。

LEDは疑いなく照明の未来だ。「世界で消費される電力の4分の1は照明に使われている。エネルギー節約に対するLEDの 貢献は巨大だ。同時に、白熱電球の1000時間、蛍光灯の1万時間と比較して、LEDの寿命は25000時間以上もあるため、製造資源の節約効果も大きい」とノーベル賞委員会が認めている。今後はSoraaのテクノロジーを利用することによって、エネルギー消費量は5分の1になるはずだ。

将来、照明は現在よりはるかに安全で効率的になる。LEDは低電圧で作動するため、配線には電気工事の特別な資格も必要ない。照明の設置、運用の柔軟性が飛躍的に増すだろう。

テーブルやデスクにはそれぞれ専用の照明が付属するようになり、移動するときには照明ごと移動できるようになる。低発熱のLEDが普及すればエアコンの電力消費量も大幅に減少する。新世代のLED照明はインターネットで接続されたホーム・オートメーションと併用され、スマートフォンからコントロールされたり、ユーザーの行動パターンに合わせて最適化されたりするるなどクリエーティブな応用が広がっていくだろう。実際、Soraaでは平らな壁紙に見える照明、発光する布地、3Dプリントによる照明器具、それぞれにIPアドレスを持ちモノのインターネットに接続する照明などを開発中だ。高効率、低発熱のLEDは照明デザインを完全に自由にする点も見逃せない。

照明革命は始まったばかりだ。アルバート・アインシュタインが1921年に光電効果を発見してノーベル賞を受賞したとき、原子力エネルギーの利用、宇宙探査に加えて照明のイノベーションの端緒も作られた。エネルギーを潤沢に使える地域に住むわれわれ7億人ほどはスイッチを押せば明かりが点くことを当然と考えているが、現在でも世界の70億の人々の多くは夜を闇の中で過ごしている。世界の人々の生活の質を向上させるにはシリコンバレーの起業家精神が―それだけで十分とはいいえないが―絶対に必要だ。

地球温暖化によって破滅的な結果がもたらさせることを防ぐために、われわれはもっともっと中村修二のような人物を支援していかねばならない。こうした事業には当然ながら多くのリスクと困難が付随する。しかしわれわれは世界的に大きな意味のあるイノベーションをもたらすう事業で失敗することを恐れてはならない。古くから言われることだが、「リスクを取らないことこそ最大のリスク」なのだ。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+