チリ拠点の植物由来肉・乳製品メーカーThe Not Companyの企業価値が260億円超に

中南米最大の植物由来代替肉・乳製品メーカーであるThe Not Company(ザ・ノット・カンパニー/NotCo)が8500万ドル(約9億円)の調達ラウンドをまもなく完了し企業価値は2億5000万ドル(約264億円)となった。

この最新調達ラウンドは、チリ・サンティアゴ拠点の同社による数多くの成功に続くものだ。NotCoが国際舞台に立って(The Ringer記事)から2年間、同社はマヨネーズ製品に始まり、牛乳、アイスクリーム、ハンバーガーへと市場を拡大してきた。代替鶏肉などの製品も計画されている、と同社に詳しい人たちは言っている。

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NotCoは、チリ、アルゼンチン、および中南米最大の市場であるブラジルでいくつかの製品をすでに販売しているほか、Burger Kingと同社チェーンの植物性ハンバーガーのサプライヤーとして超大型契約を結んだ。このBurger Kingとの契約は、NotCoのたんばく質製法が成功した証だ。NotCoは1店舗1日あたり48個のハンバーガーを販売する契約で、これは店舗あたり販売数でImpossible Foodsを上回る(未訳記事)と情報筋は語る。

NotCoはアルゼンチンとチリの食料品店でもハンバーガーを販売している。同社はまだ黒字転換できていないが、2021年12月には黒字、さらにはキャッシュフローもプラスになる可能性があると言う。

NotCoの共同創業者のKarim Pichara氏、Matias Muchnick氏、Pablo Zamora氏(画像クレジット:The Not Company

売上だけでなく新製品の多様化でも成長を見せていることから、投資家の注目が集まるのは当然だろう。

同社の最新ラウンドでは「消費者ブランドに特化した未公開株式投資会社であるL Catterton PartnersとBiz Stone(ビズ・ストーン)氏が支援するFuture Positiveが出資した可能性が高い」と情報源は語る。NotCoの既存の投資家は、Amazon創業者のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏の私的投資会社であるBezos Expeditions、ロンドン拠点の CPG(消費者向けパッケージ製品)投資会社、The Craftoryほか、IndieBio、SOS Venturesなど。

Crunchbaseによると動物性タンパク質の代替食品は、ベンチャー投資家にとって巨大(かつ今も成長中)の分野だ。今月Perfect Dayは、最新の調達ラウンドで2度目となる1億6000万ドル(約170億円)の資金を獲得し、総調達額は3億6150万ドル(約382億円)になった。。また、Perfect Dayは消費者向け食料品会社のUrgent Companyも設立した(未訳記事)。

一方、大手食料品チェーンは植物由来メニューの実験を続けると共に、動物の培養による細胞ベースの代替肉にも手を広げている。KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)は最近、Beyond Meatの代替鶏肉’の実験を拡大し、モスクワで培養肉の実験を行うことを発表した。

一連の動きは、消費者の嗜好の変化、植物由来食品への関心の高まり、動物農業(畜産)の世界気候に与える深刻な影響などが認められたことの証でもある。

ウェブサイトのClimateNexusによると、動物農業は人工温室効果ガス排出における化石燃料に次ぐ第2位の原因だ(国際連合食糧農業機関PDF)。さらに、森林破壊、水質・大気汚染、生物多様性喪失の主要因(国際連合食糧農業機関PDF)でもある。.

年間700億頭の動物が、人間の食用に育成されており、地球の耕作・居住可能面積の1/3を占め、世界の淡水資源の16%を消費している。世界の食料における肉の消費を減らすことは、温室効果ガス排出減少に極めて大きな影響を与える可能性がある。もし米国人が牛肉を植物由来の代替肉に置き換えた場合、二酸化炭素排出量が1911ポンド減少するという試算もある。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

高栄養価の代替食品でチリから革命を起こすNot Company

食料のグローバル化と工業化によってもたらされる栄養不良、資源不足、公害という三重の危機に出資する機会を味わいたい技術系の投資家たちは、新しい持続可能な資源を謳い、スタートアップに投資している。

この5年間、ベンチャー投資家や投資企業は、全世界で2100件、95億ドル(約1兆550億円)を投資しているが、CB Insightsのデータによれば、すべては食料の従来型の栽培、飼育、生産、加工、流通に置き換わるか、それを補完するものを目指している。

サンディエゴのダウンタウンから22分の、街の南東の隅に本社を置くNot Companyは、そうした巨大な代替食品ビジネスの中に現れた有望な新顔たちとは、ちょっと毛色が違う。CEOのMatias Muchnickと2人の共同創設者は、食品革命の恩恵を中南米に、そしてゆくゆくは全世界にもたらしたいと考えている。

いくつもの企業を立ち上げてきたMuchnickにとって、Not Companyは2つめの食品関連事業だ。その前に創設したのは、植物ベースのドレッシングとマヨネーズを販売するEgglessという会社だ。

Egglessで食品関連事業に参入し、その味を知ったMuchnickは、あることを学んだ。食品業界での研究開発が、じつに原始的で非効率であることだ。

その問題を解決しようと、Muchnickはカリフォルニア大学バークレー校で食品業界について研究を始めた。

「バークレーで、そのデータと科学について学ぼうと生物化学学部に入ろうと決めた」とMuchnickは話す。「しかし薬学のほうが、うまく解決してくれるとわかりました。そこで私は、医薬品業界で今何が起きているのかを調べまくり、それを食品業界で研究しました」

バークレーからハーバードに移ったMuchnickは、恒星内部の動きをデータ科学と機会学習とで探っていた宇宙物理学者のKarim Picharaを引き抜いた。データ科学者を仲間に入れたMuchnickは、次にカリフォルニア大学デイビス校で植物のゲノミクス研究をしていたPable Zamoraを第三の共同創設者に加えた。

こうして、Not Companyのドリームチームが結成された。

Not Companyの共同創設者、Karim Pichara、Matias Muchnick、Pable Zamora。

 

Not Companyの活動の中心は、驚くほど潤沢な資金を持ち、一度はトラブルに陥ったアメリカの競合相手Just(かつてはHampton Creekと呼ばれていた)と同じく、機械学習技術を使い、植物の遺伝子的な類似性をマッピングして、その動物体内での結果を調べることにある。

「レンズ豆でもなんでも、遺伝子をマッピングできます」とMuchnick。「どんな種類の豆も、動物性タンパク質をエミュレートできるかどうかを簡単に調べて予測できます」

3人の創設者は、みなアメリカに住んでいるが、故郷のチリに戻ってビジネスを立ち上げることを決めている。Muchnickにとって、サンティアゴに拠点を置くことは、費用も安く済み、研究者も豊富に揃っているところが強みだった。シリコンバレーから離れているから、それを好む求職者もいる。

「我々は目立つ存在となりました」と彼は言う。

しかし、サンティアゴの拠点は、中南米の市場を支配して、喉から手が出るほど欲しがっている人たちに、健康な食品を届けるというNot Companyの最初の戦略的目的を叶えるものでもあった。

栄養不足の形を変える

Muchnickが故郷に拠点を置いた理由は、中南米に溢れている高カロリー、低コストな食品と戦うためでもある。それが世界の国々の栄養不足の原因であり、そこを改善したい。

この新興市場で、栄養不足の問題がどのように作用しているかを知るには、ネスレ、ゼネラル・ミルズ、ペプシコ、ファストフードのマクドナルドやKFC傘下のヤム・ブランズといった企業の状況の変化を見るとよい。

アメリカやヨーロッパではすでに遍在している大手の栄養不足食品企業は、成長を求めて新興市場に目を向け、低収入層の顧客に合わせた製品やビジネスモデルを売り込んでいる。

そうした企業の製品は安価だが、栄養価値はほとんどない。飢えないだろうが、他の健康上の問題が引き起こされる。

「広く信じられている話です。安い食べ物がどこでも手に入るという、実現しうる最高の世界。深く考えなければ、筋が通っています」と、カナダ・オンタリオ州のゲルフ大学食品経済学教授のAnthony Winsonはニューヨークタイムズに語っている。現実はもっと難しいと、Winsonは言う。「厳しい言葉で言えば、食事に殺される、ということだ」

調査結果がそれを示している。The New England Journal of Medicineの2017年の調査によれば、世界人口のおよそ10パーセントが肥満だという。6億400万人の成人と、1億800万人の子どもだ。そして、新興市場では、人の肥満率が急速に増加している。

栄養不足は、工業化された食品ビジネスが新しい土地に進出したときの副作用に過ぎない。それらの企業は、サプライヤーの工業化も目論んでいるとタイムズは伝えている。それは大規模農場への転換を促し、森林伐採を進める。

こうした問題は、ネスレやゼネラル・ミルズといったお菓子メーカーだけに限らない。ファストフード業界の肉の需要は、新興市場の国々の牧畜の工業化も進め、それが地球温暖化の大きな原因となる。

そのような問題を、環境への悪影響がずっと小さい低コストな食品で 、Muchnickの会社は解決しようとしているのだ。

Not製品

Muchnickたちは、2015年の会社設立以来、数多くの製品を開発してきた。同社の当初の目的は、既存の製品に代わる健康な食品を研究開発して企業にライセンスすることにあった。

「私たちは技術系企業です。食品会社ではありません。他の企業のための研究開発に資金を投入したいのです」とMuchnickは2016年に語っていた。

いろいろな製品を熱心に開発するようになったのは、それからだとMuchnickは言う。

「マヨネーズを作りました。チョコレートを作りました。ミルクを作りました。ソーセージ、バーガー、シュラスコ(ローストビーフみたいなものだが、まずい)などの肉の代替品も」と、製品開発に熱くなっておいたころを振り返ってMuchnickは話す。ついには、ハンプトン・クリークの後を追う形で、Not Companyはマヨネーズの販売に乗り出した。

チリは、世界で3番目に大きなマヨネーズの市場なので、そこで販売を始めたのは理にかなっていたとMuchnickは言う。彼らのロードマップに描かれた、より意欲的な製品よりも、簡単に製造できたという点もある。

Muchnickによれば、店に置かれるようになってわずか8ヶ月で、(あまり大きいわけではないが)チリのマヨネーズ市場の10パーセントを獲得したという。ロードマップの次なる製品は、9月に発売を予定しているミルクの代替品だ。2019年にはNotヨーグルトとNotアイスクリームも登場する。

2020年までには、Not Companyはソーセージとひき肉の代替日も発売すると、彼は言っている。

これらの製品の陰では、PicharaとZamoraが開発した、動物と植物のタンパク質のつながりを探る機械学習ソフトウエア「Guiseppe」(ジュゼッペ)が活躍している。

「私たちは7000種類の植物をマッピングしました。もうこれで十分だと思っています」とMuchinickは話す。「それをアミノ酸構造にマッピングしたところ、動物性タンパク質によく似ていました」

Guiseppeは、7つの異なるデータベースと7つの異なるアプローチを操るとMuchnickは説明する。食品とその材料の分子データ、食品とその材料のスペクトル画像、それに、社内の味覚テスターが収集した、味、食感、後味、刺激、酸味といったデータがある。「山ほどのパラメータがあります」とMuchnickは話している。

ロードマップが完成したことで、同社は市場拡大のための追加投資を受けた。チリ国内だけでなく、中南米全体に打って出る。

Not Companyはこのほど、Kaszek VenturesとSOS Venturesから、工場の拡張のための資金として300万ドル(約3億3300万円)の投資を受けた。

ほんの2年前には、あからさまに否定していた方向への大転換だ。「私たちはブランドカンパニーを目指しています」と今のMuchnickは言う。「Not Companyにはソーシャルカレンシーがあるんです」

それを実現させるには、サプライチェーンの開拓が必要だ。同社はすでに毎月64トンのマヨネーズを生産しているが、ミルクやヨーグルトやアイスクリームや、さらには肉の生産を視野に入れると、工場を拡大し続けなければならない。

「私たちは、現地生産のための工場を建てようと決めました」とMuchnickは話している。「これから、ブラジルとアルゼンチンに製品の輸出を始めます。市場シェアが5パーセントから8パーセントに達したら、現地生産に切り替えることにしています」

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(翻訳:金井哲夫)