日豪のスリープテック企業、KoalaとO:が法人向け睡眠手当制度で連携

オーストラリアのスリープテック企業Koala Sleep(コアラスリープ)と、日本の睡眠・体内時計スタートアップO:(オー)が5月28日、法人向け睡眠手当制度の提供と実証実験の実施で提携することを発表した。

Koala Sleepは、D2Cで自社企画のベッドマットレス「コアラ・マットレス」を販売するオーストラリアのスタートアップで、日本には2017年10月に進出。TVの情報番組で「ワイングラスを置いたマットレスに飛び乗ってもこぼれない」と紹介されたのを見たことがある人もいるかもしれない。

一方のO:は企業向けに、従業員の睡眠状況を記録・可視化してコーチングを行うスマホアプリを使ったサービス「O:SLEEP」を提供。従業員の健康管理や業務改革、組織改善などを支援するスリープテック企業だ。

日豪のスリープテック・スタートアップ2社による連携内容は2つ。1つ目は、O:SLEEP利用者を対象に、睡眠時間や質をスコアリングし、点数が高かった人にコアラ・マットレスを提供する「睡眠手当制度」。これにより、睡眠習慣の改善とアプリによる分析のモチベーションをユーザーに持ち続けてもらうことが狙いだ。

もう2つは「実証実験」で、上記の睡眠手当制度でマットレスの提供を受けた利用者の睡眠データから、寝具と睡眠の相関関係を数値化を試みるというものだ。

今回の提携にあたりTechCrunch Japanでは、Koala Sleep創業者のDaniel Milham(ダニエル・ミルハム、以下ダニー)氏から、プロダクト開発や改良の経緯、日本市場への展開と、O:との提携背景について、メッセージを入手したのでご紹介したい。

オーストラリア発のD2Cマットレス

Koala Sleep創業者のDaniel Milham(ダニエル・ミルハム)氏

Koala Sleepがオーストラリアで、ダニー・ミルハムとミッチ・テイラーによって創業されたのは、今から4年前の2015年11月のこと。ダニーがマットレスを意識しだしたきっかけは、幼少期からプレーしていたラグビーにより腰痛を抱えていたことからだという。

彼らは既存のマットレスを片っ端から購入し、課題を研究した。その結果「値段、質、大型家具ならではの買い物のしづらさ、配送の不便さなどに気づいた」とダニーはいう。そこで「のちに展開する寝具以外の家具(ソファなどオーストラリアでは販売が始まっている、開発中の商品)にも共通する、価値あるサービスにしよう」との思いから、家具・インテリア用品のD2Cブランドを立ち上げた。

はじめに商品化されたのは、現在も主力となっているベッドマットレスの「コアラ・マットレス」。彼らが素材として選んだのはウレタンフォーム素材だった。

「睡眠の質を決める要素は、寝心地の良さ、そしてサポート(反発)力の2つだ。フォーム素材は、スプリングやコイルと比べて密度が高く、よりしっかりと体をサポートすることができる。一方で、理想の寝心地を実現するために採用したのは、独自開発のフォーム素材『クラウドセル』だ」(ダニー)

メモリーフォーム(低反発材)も体当たりは心地よいが、体が沈んでしまい、腰痛などの原因となることもある。ラテックス素材は高いサポート力を備えるが、ゴムっぽさがあり、寝心地の面で難がある上に、価格が高い。またいずれも通気性が低いという欠点がある。

クラウドセルは連続気泡構造のフォーム素材で、通気性に優れ、柔らかい寝心地が実現できるという。この柔らかい層と硬い層の2種類のウレタンフォーム素材を組み合わせることで、寝つきの良さにつながる寝心地の良さと、深い眠りにつながるサポート力の両方を兼ね備えたマットレスができあがった。

通常、ウレタンフォーム素材は原価の高さから、コイル、スプリング素材のマットレスの上に補助的に使われることが多いというが、コアラ・マットレスでは、シンプルな構造のマットをD2C直販で提供することにより、価格を抑えている。

また、この構造のシンプルさは、顧客にとっては選びやすさにもつながるという。コアラ・マットレスはベッドマットレスとして1商品で完結していて、パッドや敷き布団のような別のアイテムは必要ない。また厚みや素材、構造も共通で、顧客はサイズを選べばよいだけだ。

創業から6カ月は「数千人のカスタマー候補にインタビューを行い、睡眠に関するさまざまな質問に回答してもらった」とダニーはいう。「顧客の声に寄り添えるブランドであるために、私たちは常にお客様からフィードバックをいただき商品開発に活かせるような仕組みを持っている」(ダニー)

その仕組みのひとつが、購入から約4カ月間、自宅でコアラ・マットレスを試すことができる返品返金保証制度だ。「120日トライアル」と呼ばれる試用期間中に、体に合わず、返品を希望する顧客にはアンケートを送り、どういった部分が合わなかったのかなど、回答してもらっているという。

日本市場へ上陸した2017年10月にも、何千人という規模でアンケートを行い、オーストラリアで創業時に行ったのと同様の市場調査を再度実施したというKoala Sleep。その結果、オーストラリアで販売しているマットレスと基本的な構造は変えることなく、サイズ変更とやや固めの仕上げにローカライズすることで、日本でも「目指す睡眠改善をサポートするマットレスを届けられると確信した」(ダニー)ということだ。

提携で「働く人の睡眠改善、データ活用に期待」

Koala Sleepが、オーストラリアに次いで展開する市場として日本を選んだ理由について、ダニーは「海外展開を考えたときに、オーストラリアで成功したサービス内容に共感してもらえる市場を探した。日本の顧客には『120日トライアル』『送料無料』『即時配送』をはじめとする、当社のサービスに魅力を感じてもらえると分かった」と話している。

物流システムや法律の違いなどから、オーストラリアでは実現している「4時間配送」など、日本では実現できなかったサービスもあるが、「顧客にとって手軽なショッピング体験となるサービスを提供する」との考え方から「最短翌日配送」といった日本独自のサービス開発も行った。

「おかげさまで日本市場でも急成長を続けており、東京オフィスのチームも大きくなりつつある。毎月伸び続ける売り上げは十億円規模に迫る勢い。1500件中1000件を超える5つ星レビューも集まっている。その背景には、ローカライゼーションを意識した数々の施策があると考えている」(ダニー)

TwitterなどのSNSに対するコメントにも社員が1つ1つ返信するそうで、日本の顧客からの信頼を得るため、顧客からの声、フィードバックを大事にする施策を常に意識しているという。

「(日本でも)D2Cブランドとして、他の仲介業者との利害関係も営業部隊のコミッションも、間に入る何もかもを取り払うことで、お客様と直接対話できるブランドとしてより信頼を築いていけるその成長過程にあると思っている」(ダニー)

サービスのローカライゼーションでオーストラリア本国と大きく違うのは「マットレスブランドとして店舗を持つか持たないかという点」だとダニーは述べている。

「D2Cブランドとして、なるべく余計なコストをかけずに、手に届きやすいお値段で高品質な商品を提供することを考えたときに、店舗や代理店を持つという選択は理にかなっていない」とダニーは話しているが、一方で「我々が日本のマットレス業界の中では、比較的新しい価値を提案しているブランドだということは自覚している」ともいう。

このため「ブランドを信頼してもらうには、インターネットでの直販だけにこだわるべきではない」として、日本ではコアラ・マットレスの体験会を開催し、オフラインで顧客と対話して、商品に触れてもらう機会を作ってきた。6月には“睡眠研究所”をテーマにした体験会を東京・表参道で開催するそうだ。

O:との提携についてKoala Sleepは、これまでファミリーへ訴求してきたコアラ・マットレスを、新たに「働く人」に対して訴求していく機会と捉えている。

「日本では長く『ワークライフ』が『ホームライフ』よりも優先されてきた。ようやく『働き方改革』が進む今日、働く人の睡眠と心身の健康に対する意識を上げる絶好のタイミングであると考えている。この好機に、スリープテックのO:との提携を発表できるのは非常に価値があるものだと感じている。働く人の睡眠改善を促進するプログラムに参加させていただけるこの機会を光栄に思う」(ダニー)

また、ダニーは今回のパートナーシップにより、働く人の睡眠の質と日中の仕事でのパフォーマンスに関するデータを収集でき、働く人の睡眠改善にコアラマットレスがどう貢献できるかを検証することにも期待を寄せている。

「今後の商品・サービス開発にこのデータを生かしていくことで、よりニーズにあった価値を提供できるブランドに成長していけることを楽しみにしている」(ダニー)