LED付き車輪広告、アルゴリズムで作曲配信など、Orange Fabが東京でデモ・デイ開催

フランス系グローバル通信企業のOrangeがアジアで展開するアクセラレータープログラム「Orange Fab Asia」の2期目のスタートアップ参加企業によるデモ・デイが東京・新宿で11月25日に行われた。Orange Fabは、Orangeの子会社であるOrange Labs Tokyoが運営する3カ月のプログラムで、資金投資などは行わない。デモ・デイでこのプログラムについて説明したオレンジ・ジャパンの西川浩司氏(パートナーシップマネージャー/ベンチャーパートナー プログラムマネージャー)によれば、「ゼロをイチにするのではなく、ある程度できて来ているスタートアップ企業を、グローバル展開するのを助ける」のがOrange Fabの趣旨だという。

Orange Fabはサンフランシスコで始まったプログラムだが、Orange本社が陣頭指揮をとっているのではなく「各拠点を勝手にやっている。サンフランシスコから始まったのもそういう理由」(西川氏)という。アジアでは東京を中心に去年の12月にスタートして、第2期は2014年9月から12月まで。「日本からアジアへ展開するということで、台湾や韓国に広げていった」が、今年後半に入ってからはOrange Fab自体は「イスラエルやコートジボワールでもスタートアッププログラムをやってる」のだという。これまで6カ国で66の企業がプログラムに参加してきた。

プログラムの狙いは、Orangeが持つ専門性やビジネス機会を提供して、シナジーを作りながら協業していくというモデルだったが、2015年春からは、より広い既存大手企業の参加を募ってパートナープログラムをやっていくという。具体的には、Air Liquide(フランスのガス会社)、アルカテル・ルーセント、大和ハウス、電通、EDF(フランス電力。ただし日本と違ってグローバルに事業を展開している)、ソニー、タレス(航空産業、宇宙産業、セキュリティ)、Veolia(水関連の事業を展開しているフランス企業)などが参加予定で、日本法人がある場合には、日本側を窓口としてグローバル・ネットワークを利用できるようにしていく狙いだそうだ。

5月に続いて今回で2度めのデモ・デイには、投資家や企業幹部、メディアなどが集まった。ピッチは一部日本のスタートアップをのぞいて英語で行われ、東京だけでなく、ソウルや台北から来た起業家たちが事業提携を呼びかけ、デモ終了後の各ブースでは参加者らと熱心に情報交換をする場面が見られた。

以下、ピッチした18社のうち日本、台湾、韓国のスタートアップ企業を、ざっと紹介する。

AlpacaDB(Ikkyo Technologies

画像にアノテーションを付ける技術を提供している。画像データの量は年々急増しているが、その多くはオブジェクトとして保存され、データベース上では単なるIDやURLとなっていることが多い。AlpacaDBは画像認識技術とディープラーニングを使って、大量の画像に対してキーワード付けや分類を行うという。こうした画像認識による多量の画像処理は、GoogleのようにAIや機械学習の専門家を雇える大手テクノロジー企業か、労働集約型として大量の人間を突っ込むかのどちらかだったといい、AlpacaDBはその中間のニーズを狙うという。これまでの利用事例だと、運動会の撮影写真で同一人物を判別してリコメンドすることで売上増につなげた例や、SNS上で300万枚以上の画像の中から類似画像を探しだして不正利用を発見するといった例があるという。

Fukushima Wheelアイズジャパン

自転車はちょうど200年前の1814年にドイツで発明された。200年間なんのイノベーションもないというアイズジャパンの山寺純氏は、「車輪の再発明」をすることで自転車プラットフォーム事業を立ち上げるのが目標という。Uber型の自転車レンタルサービスは自明なアイデアで、東京も含めて世界各年で取り組みがあるが、「どれも利益がほとんど出ていない」という。それは直接課金モデルだからで、Fukushima Wheelは車輪自体をLEDを使った広告媒体とするモデルで企業からの収益を狙うという。また自転車に各種センサーを搭載することで、北京の大気汚染、パリの騒音問題のように、政府や地方自治体などの調査利用に生かすというモデルに向けて、プロトタイプの自転車を開発中という。

Spectee(ユークリッドラボ)

リアルタイムのニュース配信サービス。世界のあらゆる場所で「今」起きてることをリアルタイム配信するというコンセプトで、写真や動画を常にSNSから引っ張ってきて配信しているそうだ。もともとはロケーション情報系のサービスだったが、ピボットし、2014年8月にベータ版アプリをローンチ。現在1万5000ダンロードでトラクションが出てきているという。高い速報性が求められる天災やスポーツイベントなどで、通信社やネット系メディアよりも、現場にる人たちのツイートのほうが有効だが、あらかじめ地域名や緯度経度情報、キーワードでTwitterやFacebookの公開投稿をクロールして地域性と同時性の高いイベントを判別し、それをデータを解析したり、機械学習したり、人間が見たりして、いち早く伝えるそうだ。RSSによる配信はしているが、恐らく通信社や媒体社への素材提供がビジネスとなるのだろう。

Musicshake Biz(SilentMusicBand)

韓国から参加しているスタートアップ企業のSilentMusicBandが提供するのは、リアルタイムに楽曲を生成して配信するサービス「Musicshake Biz」。利用シーン、音楽ジャンル、速度などをボタンから選ぶと、楽曲生成エンジンが「それらしい」音楽を作って再生する。同じ選択肢でも再生ごとに全く異なるものの同じような音楽がかかる。書店や衣料品店、レストランなどで流すBGM、ゲームや映画に利用する楽曲などを、安価に、法的問題なしに提供できる。今は1曲2ドルで提供しているが、2015年には1カ月1ドルというモデルで提供予定。韓国ではNexonやサムスンから投資を受けているほか、日本ではUSENと提携している。創業者のブルー・ユン氏は、もともとスタジオ・ミュージシャンであり、ゲーム開発者だったこともあるそうで、音楽サービス3000億円市場の10%をつかみたいと話している。

Cy7(Ambedded Technologies

台湾から参加しているAmbedded Technologiesが開発するのは多数のプロセッサを0.5Uもしくは1Uのサーバサイズに収納したARMサーバのCy7。SNSなど多数のユーザーに数十GBのストレージを提供するようなケースを想定したストレージで、容量あたりの電力消費量やメンテナンスコストが下げられる。ラックをフルにすると、532台のマイクロサーバーとなるが消費電力は7kW程度という。CephやGlusterFSなどのオープンソースの分散ストレージを使うソフトウェア・サポートも提供するという。

CallGate

韓国から参加しているCallGateは、キャリアでもあるOrangeらしい選択のスタートアップ企業。キャリア向けに提供するソリューションで、通話中の画面にコンテンツを表示することができる。顧客からすれば、カスタマーサポートやIVR(自動音声応答)、ウェブとサービス提供者とのチャンネルは増えて複雑化しているが、これを「通話」で1本化する。「電話をかける」というのを入り口としつつも途中の画面でIVRのメニューをたどれたり、地図やWebページを見たりできるのだという。既存のIVRにかぶせて利用できるほか、利用者に準備が不要で学習コストもかからない導入ハードルの低さがポイントだそう。韓国では、すでにロッテホームショッピングで利用されていて、2014年の売上は330万ドルの見込み。アシアナ航空なども導入予定で、2015年には800万ドルの売上予想で、グローバルにサービスを拡大予定という。

APPEXE(Mobilous

2011年に創業したMobilousは、GUIのアプリビルダーを使って安価にネイティブアプリを作れる「APPEXE」を提供している。iPhone/iPad、Androidだけでなく、Windows Phone、Windows 7/8のデスクトップアプリにも対応している。開発費が数十万円から数百万円までの市場を狙っていて「安いコストで短期で早く作りたい」というニーズに対応、もしくは掘り起こす。イベントなどの1度だけの使い捨てアプリの開発にも使われ始めているほか、すでにコンテンツを多く持つWebサイトや紙のカタログのモバイルアプリ化でも採用事例が出ているのだとか。

Repro

モバイルアプリ向け解析ツール。Mixpanelのように事業者が独自定義できるユーザーアクションごとのKPIがトラックできたり、ユーザーが利用中の様子を動画で把握できるのが特徴。アプリがクラッシュするケースでも、スタックトレースと動画でデバッグができるそう。人間のテスターのマッチングや回収作業も60カ国で自動で行うプラットフォームという。現在、ミクシィや楽天、KDDIなど200アプリで導入実績があるという。

このほか、ジムのトレーニング機器にデバイスを付けてフィットネス・データを収集する「Pafers」(台湾)、遠隔操作でペットに餌をやったり、ボールを投げて遊んでやったりできる「BallReady」(韓国)、Dropcamのような遠隔カメラの「QLync」(台湾)、街のビジュアル広告をスマフォなどで画像認識して、その場で商品購入ができる「Viscovery」(台湾)、独自3D技術でクロマキーなしに人物と背景の動画合成ができる技術などを持つ動画通信サービスの「Haeden Bridge」(韓国)、太陽光発電やハウス栽培で室温を適正に保つフィルター技術をもつ「SunValue」(台湾)、大容量の画像や音楽をメッセンジャーを介してシェアできる「Spika」(韓国)などがデモを行った。