水を推進剤とする衛星用エンジンを開発する東京大学発のPale Blueが4.7億円調達、量産体制を構築

水を推進剤とする衛星用超小型推進機の実用化を手がけるPale Blueが7000万円を調達

環境にやさしい水を推進剤とする超小型衛星用エンジン(超小型推進機)の開発などを行う、東京大学発のスタートアップPale Blue(ペールブルー)は10月28日、シリーズAラウンドにおいて4億7000万円の資金調達の実施を発表した。

引受先は、既存投資家であるインキュベイトファンド、三井住友海上キャピタルに、今回新たに加わったスパークス・イノベーション・フォー・フューチャー、ヤマトホールディングスとグローバル・ブレインが共同で運営するCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund」の4社。

同時に、商工組合中央金庫からの2000万円の融資契約を締結し、さらに経済産業省の令和2年度補正宇宙開発利用推進研究開発を受託(初年度予算最大3億円)。これにより、累計調達額は約10億円となった。

水イオンスラスター(水プラズマ式推進機)の作動の様子

水イオンスラスタ(水プラズマ式推進機)の作動の様子

Pale Blueの製品には、現在水蒸気で推進する高推力多軸の「水レジストジェットスラスタ」、水プラズマで推進する低燃費の「水イオンスラスタ」、水蒸気と水プラズマで推進する高推力、多軸、低燃費の「水統合スラスタ(ハイブリッドスラスタ)」という3種類の超小型推進機がある。これまでに同社は、大学や研究機関などと連携して、これらのエンジンの宇宙実証プロジェクトを進めてきている。すでにフライトモデルの開発が完了し、企業や政府からの受注も増えているとのことだ。

水レジストジェットスラスタ(水蒸気式推進機)

水レジストジェットスラスタ(水蒸気式推進機)

水統合スラスタ(水蒸気式+水プラズマ式推進機)。大きさは9cm×9cm×12cm

水統合スラスタ(水蒸気式+水プラズマ式推進機)。大きさは9cm×9cm×12cm

近年では、超小型衛星によるコンステレーション構築の機運が高まっているが、打ち上げの際に、大型衛星との相乗りの場合希望する軌道が選べないことがある。また、重力や空気抵抗で高度が下がり衛星の寿命が短くなってしまう問題もある。そこで、高性能な推進機が求められている。経済産業省が令和2年度補正宇宙開発利用推進研究開発で、モジュール型の推進機の開発と実証を行う企業を公募したのもそんな背景からだ。Pale Blueはその審査に通り、予算を獲得できた。

今回調達した資金は、グローバルも含めたチーム強化、量産体制の構築や新たな研究開発に使われる。「圧倒的な安全性・価格競争力・持続可能性を持つ、水を推進剤とした超小型推進機の社会実装を加速させ、宇宙空間における新たなモビリティインフラを構築することで、地球周辺及び地球以遠における持続可能な宇宙開発に貢献します」とPale Blueでは話している。

超小型衛星用推進機開発の東大発「Pale Blue」が研究開発型スタートアップ支援助成金NEDO STSで採択

超小型衛星用推進機開発の東大発「Pale Blue」が研究開発型スタートアップ支援助成金NEDO STSに採択

Pale Blueは4月1日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施した2020年度「研究開発型スタートアップ支援事業/シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援」(最大助成額:7000万円。NEDO STS事業)第3回公募において、助成対象として採択されたと発表した。2020年4月の設立後1年で累計調達額は約2億円となった。

これにより、宇宙産業を革新するメガコンステレーションの実現に必要な安全かつ安価な超小型衛星向け水統合エンジンの開発および実用化に挑む。

超小型衛星用推進機開発の東大発「Pale Blue」が研究開発型スタートアップ支援助成金NEDO STSに採択

現在、技術革新によって超小型衛星の市場が拡大している一方で、現状の小型衛星のほとんどは推進機を搭載していないため、能動的に軌道や姿勢を維持して運用寿命を長引かせたり、軌道を離脱させたりすることができず、とりわけ、後者に起因する宇宙ゴミ(デブリ)増大は深刻な問題になっているという。

こうした課題は推進機の搭載により解決可能なものの、大型衛星搭載の推進機は体積・重量・コストの観点から小型衛星への適用が難しく、また高圧ガス・有毒物を推進剤として使うため、環境への配慮や持続可能性の点でも問題があるという。

Pale Blueはこの解決策として、水を推進剤とした小型推進機を開発。従来の高圧・有毒な推進剤から脱却し、低圧貯蔵可能、安全無毒で取り扱い性と入手性の良い水を推進剤として利用することで、前述の課題を解決し、圧倒的な小型化と低コスト化を実現するとしている。

小型衛星実用化のボトルネックとなっている小型推進機にイノベーションを起こすことで、小型衛星群によるビジネスや深宇宙探査を実現し、科学技術による人類の幸福の最大化や文明レベルの向上を目指す。

東京大学は長年にわたって宇宙推進機の研究を行ってきており、推進機内における複雑なプラズマ物理の解明や電気推進の性能評価に関して、世界をリードする研究機関のひとつという。Pale Blueメンバーは、東京大学在籍時から推進機の基礎研究に加えて、高周波電源や高電圧電源の小型化・高効率化に取り組み、成果を上げ、さらに実際の小型衛星に搭載する推進システムの開発を多数経験してきたという。同社は水統合推進システムの実現において、東京大学のエンジン基礎研究の成果を社会実装・実用化する役割を担い、その収益をアカデミアに還元することを目指すとしている。

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カテゴリー:宇宙
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