ルービックキューブロボは終わったがPepperは死なず、先週のロボティクスまとめ

思わず二度見してしまった。1億ドル(約110億円)というのはいずれにしても大きな数字だが、5600万ドル(約61億8000万円)を調達したラウンドから2カ月半しか経っていないことを考えると途轍もない。少なくとも、Path Robotics(パス・ロボティクス)が、口でいうだけでなく実際に資金を投入する準備ができていることは確かだ。そして、Tiger Global(タイガー・グローバル)が、この溶接ロボット企業を気に入っているらしいことも。

関連記事:溶接工不足を埋める自律ロボットのPath RoboticsがシリーズBから2カ月半後さらに約110億円調達

この「先買」シリーズCラウンドで、同社は総資金額が1億7100万ドル(約189億円)となり、最も資金力のある建築ロボット企業のトップに躍り出たことになる。だが、そこにはもちろん、かなりの余地がある。世界の建設市場は年間で数十兆ドル(数千兆円)規模と言われている。そして、この業界の美点の1つは、攻めることができる側面がどれだけ多いかということだ。

画像クレジット:Path Robotics

つまり、Pathのこれほどの資金調達は、溶接に留まらない野望を示しているということだ。とはいえ、溶接業では2024年までに米国だけで約40万人の労働力が不足すると言われていることを考えると、最初に溶接のロボット化から始めるのは良い判断と言えるだろう。Tiger GlobalのパートナーであるGriffin Schroeder(グリフィン・シュローダー)氏は、その幕を少しだけ引いて次のように述べている。

コンピュータービジョンと独自のAIソフトウェアを使ったPathの革新的なアプローチにより、ロボットはそれぞれ異なる溶接プロジェクトの課題を感知、理解、適応することができます。この画期的な技術は、溶接のみならず、さまざまな用途や製品に応用でき、顧客に総合的なサービスを提供することが可能であると、我々は考えています。

スタートアップ企業が、早い時期からあまりにも多くのことを引き受けてしまうことには危険がともなう。たとえPathのような資金力のある企業であっても。

画像クレジット:ADUSA Distribution

Verve Motion(ヴァーヴ・モーション)の資金調達ラウンドは、先週のラウンドアップ掲載にぎりぎり間に合わなかった。1億ドル(約110億円)規模のラウンドを主導するのは大変なことだが、1500万ドル(約16億5000万円)だって決して馬鹿にできる金額ではない。ハーバード大学のヴィース研究所(Wyss Institute)に属するConor Walsh(コナー・ウォルシュ)博士の研究室と、同大学のJohn A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences(ジョン・A・ポールソン工学部および応用科学部)で行われている非常に興味深い研究から生まれたVerve Motionは、いわゆるパワードスーツやエクソスーツと呼ばれる筋力強化スーツをてがけている数多いスタートアップ企業の1つである。

関連記事:食料品店従業員の腰を守る外骨格のパイロット試験を経てVerve Motionが約16.5億円調達

この技術には、移動に問題を抱える人々とブルーカラー労働力という2つの需要層がある。Verveは、少なくとも現在のところは、後者をターゲットにしている。このソフトなエクソスーツは、荷物などを繰り返し持ち上げるような作業を行う職場で、負傷を減らすことを目的として設計されている。率直に言ってこのスーツは「退屈で、汚くて、危険」な業務の革新に非常に適している。

人工知能を研究する非営利団体のOpenAI(オープンエーアイ)からは、ロボット工学チームをひっそりと解散させたという、あまり楽しくないニュースも聞こえてきた。この動きは2020年10月から見られたものの、Venture Beat(ベンチャー・ビート)が米国時間7月16日にそれを報じた。OpenAIのロボット工学チームは、ルービックキューブを解くロボットハンドでよく知られていた。それは魅力的なプロジェクトだったが、どうやら行き詰まってしまったようだ。広報担当者は以下のように述べている。

私たちは、ルービックキューブプロジェクトやその他の取り組みを通じて、強化学習の最先端を進んできましたが、2020年10月、これ以上はロボット工学の研究を続行することはせず、チームを他のプロジェクトに集中させる決定を下しました。その理由は、AIとその能力が急速に進歩しているため、人間のフィードバックをともなう強化学習など、他のアプローチの方が強化学習の研究をより早く進めることができると考えたからです。

画像クレジット:Dick Thomas Johnson Flickr

Pepper(ペッパー)の死を伝える報道は、かつてMark Twain(マーク・トウェイン)が言った「新聞で、唯一信頼に足る事実が含まれているのは広告だけだ」という言葉を思い出させた。それは誇張したものではないかもしれないが、少なくとも公式には否定されている。

とはいえ、ソフトバンクのロボット事業の顔が、同社の期待していたほど成果を上げていないことは依然として明らかであり、少なくとも、同社は振り出しに戻すことに決めている。

Softbank Robotics(ソフトバンクロボティクス)の蓮実一隆CMOは、看板を持った人型ロボットの販売を練り直して継続するという話に加えて「私たちは5年後もPepperを販売しているでしょう」とReuters(ロイター)に語った。これがどういう意味であるかを判断することは難しい。Pepperは、ソフトバンクが買収したフランスのAldebaran(アルデバラン)という企業に由来する確かな血統を持つにもかかわらず、この種のものとしては、特に実用的なロボットではなかった。

少なくとも、ソフトバンクロボティクスでは、デザインの変更などを検討しているようだ。しかし、それだけでは大きな変化は起こりそうもない。

関連記事
より安価な義手を求めて
アルファベット傘下のIntrinsicがステルスモードを脱し産業用ロボットの能力向上を目指す
オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」に新製品、自走可能で接客・誘導も行える拡張版「OriHime Porter」登場

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Path RoboticsVerve Motion外骨格倉庫OpenAISoftbank RoboticsPepper

画像クレジット:OpenAI

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Pepper生産中止・肉の包装・ベリーの収穫、多数の資金調達が行われた今週のロボティクスまとめ

私たちはピッツバーグでの大規模なイベント終えたばかりだ。来週にはインタビューや発表されたプロフィール、その他の楽しい情報をすべて見直した上で感想をお届けしたい。一方、山のような投資ニュースに押されているせいで、後回しになっている部分もあることをお伝えしておく。そしてPittsburgh Robotics Network(PRN、ピッツバーグ・ロボティクス・ネットワーク)が、私たちのイベントと同じ日に、独自の大規模イベントを開催したことにも注目したいが、実際今週は国の政治家の訪問も含めて、市内では多くの活動が行われていたのだ。

PRNのプレスリリースは以下の通りだ。

本アライアンスには、カーネギーメロン大学、Argo AI(アルゴAI)、Aurora(オーロラ)、ピッツバーグ大学、Kaarta(カールタ)、RE2 Robotics(RE2ロボティクス)、Neya Systems(ネヤ・システムズ)、Carnegie Robotics(カーネギー・ロボティクス)、HEBI Robotics(HEBIロボティクス)、Near Earth Autonomy(ニア・アース・オートノミー)、BirdBrain Technologies(バードブレイン・テクノロジーズ)、Omnicell(オムニセル)、Advanced Construction Robotics(アドバンスト・コンストラクション・ロボティクス)など、ピッツバーグ地域のトップクラスのロボット企業、研究機関、大学のリーダーたちが参加している。Richard King Mellon (リチャード・キング・メロン)財団は、今回の会員数の増加を記念して、PRNの継続的な発展を支援するために12万5000ドル(約1395万円)の助成を行った。

先週私は、資金調達の発表が活発になるだろうと示唆したが、今週は確かにそれが実現した。かつては、夏枯れと呼ばれるような現象が起きていたものだ。それがおそらくはパンデミックのせいなのか、かつてのようなのんびりしたシーズンはいまは起きそうもない。VCたちはロボットに非常に積極的で、カテゴリーを問わず資金を投入し続けている。

しかし、その話を始める前に、Pepper(ペッパー)に対して少々悲しいお別れを告げておこう──少なくとも今は。SoftBank Robotics(ソフトバンク・ロボティクス)の担当者がTechCrunchに語ったところによれば、SoftBank Roboticsは、この愛嬌のある挨拶ロボットの生産を一時停止するとのことだ。ロイターが最初に、フランス国内で330人分の雇用枠を削減することをはじめとする、ソフトバンクのロボット部門の「縮小」を最初に報じた。ソフトバンクはプレスリリースの中で「ソフトバンクの子会社であるSoftBank Robotics Groupは、2012年以降ヒューマノイド(人型)ロボットに投資を続けてきました。PepperならびにNAO(ナオ)ロボット事業はこの先も継続していく意向です」と述べている。

画像クレジット:Aldebaran Robotics(CC-BY-3.0ライセンス)

おさらいしておくと、投資大手のソフトバンクが2021年にフランスのロボット企業Aldebaran Robotics(アルデバラン・ロボティクス)を買収したことで、SoftBank RoboticsとPepperが誕生した。後者は、その分野ではかなり広く普及していた研究用ロボット「Nao(ナオ)」を発展させたものだ。今でも、あちこちの大学や研究機関でこのロボットを目にすることができる。

Pepperは、その基礎となる技術の一部を、より多くの人々に提供しようとしたものだ。このロボットは人間に近い大きさで作られ、タブレットを持って挨拶をするようにデザインされていた。だが正直にいって、それは「それっぽいもの」というだけだった。テクノロジーを適用できる問題を探して、Applebee(アップルビー、米国のファミリーレストラン)での挨拶や、空港での情報提供などを行うことができる洗練されたロボットとして売り込まれた。

なぜPepperがうまくいかなかったのか、そのことに2020年の問題がどれほど影響しているのかについての詳細は後回しにするとして、そもそも私はこのロボットが本当に役に立つのかどうかをいつも疑問に思っていた。これには高度なロボット技術が必要とされるという説得力のある議論を見つけることは、なかなか難しい。もちろん、研究用ロボットの製作に特化しても、せいぜい客寄せのための目玉商品にしかならない、という、はるかに説得力のある議論もある。

画像クレジット:CMR Surgical

とはいえ、ロボット投資にはまだまだ期待が持たれている。そしてSoftBank Roboticsも規模は縮小しているかもしれないが、同社の投資部門は、メッセージボードを手に持っているだけではないロボットに対して、非常に強い関心を持っているようだ。たとえばVision Fund 2(ビジョンファンド2)は、CMR Surgical(CMRサージカル)の6億ドル(約669億6000万円)に及ぶ大規模なシリーズDを主導している。英国を拠点とするこの外科用ロボット企業は、いまやキーホール手術の技術で30億ドル(約3348億円)の評価を受け、ユニコーン3個分の価値となっている。

私がこのカテゴリーで最も魅力的だと思う理由は、高度に専門化した施術の分野を実質的に平準化できるという期待からだ。この技術へのアクセスは、高額な医療を受けることが困難な発展途上国やその他の市場にとって、非常に大きな意味を持つ。

画像クレジット:Soft Robotics

一方Soft Robotics(ソフト・ロボティクス、SoftBank Roboticsに似ているが「bank」が外れている)は、その23億ドル(約2553億円)のシリーズBを1000万ドル(約11億円)拡大する中で、パンデミックによる需要について言及している。すべてがアプトン・シンクレア(米国精肉業界の実態を告発した小説家)の書く世界のようではないものの、食肉加工業界はパンデミックの最中、まったくの地獄のような様相だった(私自身は肉を食べないので、この問題に関する私の個人的な考察は省くことにする)。Soft Roboticsは、損傷しやすい食品を移動させることができる空気圧式のグリッパーを提供しており、ロボットピッキングの分野では以前から注目されていたスタートアップだ。

関連記事:食品加工を柔らかなタッチの「手」でこなすSoft Roboticsがパンデミック関連の需要を見込み新たに約11億円調達

画像クレジット:Traptic

損傷しやすい食品の移動といえば、和たちたちは米国時間7月1日の午前中に、2019年のStartup BattlefieldのファイナリストであるTraptic(トラプティック)が、イチゴ摘みロボットの商業展開を開始したことを独占的に報じた。これは、先に行われた未発表である500万ドル(約5億6000万円)のシリーズAに続くもので、これによってこれまでの資金調達額は840万ドル(約9億4000万円)に達した。他の多くの業界と同様に、パンデミックのためにフィールドワークは大規模な人員不足に陥った。

関連記事:イチゴを傷つけずに収穫するロボットのTrapticが商業展開を開始

画像クレジット:Toggle

飲み物をミックスするロボットキオスクのBotristaは、今週シリーズAを発表した。同社は、最大8種類の材料を約20秒で混ぜることができるこのシステムをさらに改良するために、1000万ドル(約11億1000万円)を調達した。一方、ニューヨークを拠点とする建設用ロボット企業ToggleはシリーズAで800万ドル(約8億9000万円)を調達した。

画像クレジット:TechCrunch

退屈さを感じている暇はなかった。水曜日(米国時間6月30日)の大きなまとめを、木曜日に向けて書くおもしろさを味わえたからだ。だが時には、朝に大きなニュースがやってくることもある(ロボット関連のスタートアップ企業のみなさん、勝手なお願いだが、木曜日に大きなニュースを発表するのは控えていただけると個人的には大変助かる。ご協力に対してあらかじめお礼を述べておこう)。たとえばZebra(ゼブラ)がFetch(フェッチ)を2億9千万ドル(約323億1000万円)で買収する意向を示したといったニュースだ。この件については、もう少し考えをまとめて、別記事で紹介するが、とりあえず、FetchのCEOであるMelonee Wise(メロニー・ワイズ)氏の言葉を紹介しておきたい。

Fetchチームは、Zebraに参加してAMR(自律走行搬送ロボット)と当社のクラウドベースのロボティクスプラットフォームを通じて、柔軟な自動化の導入を加速させることに、期待を膨らませています。私たちは、適切なチームと適切な技術を合わせて、お客様の真の問題を解決できるエンド・ツー・エンドのソリューションを提供します。お客様がフルフィルメント、流通、製造のオペレーションを動的に最適化し、総合的に協調させることを支援することを通して、需要の増加に先んじて、配送時間を短縮し、労働力の減少に対応することを可能とします。

関連記事:ヒートアップする倉庫や仕分けのロボティクス、Zebra TechnologiesがFetchを約324億円買収

カテゴリー:ロボティクス
タグ:SoftBankPepperAldebaran RoboticsCMR SurgicalSoft RoboticsToggleFetch資金調達

画像クレジット:TechCrunch

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:sako)