ポリウス開発の建築用3Dプリンターを利用し排水土木構造物製造の実証試験を実施、産官学が国内初連携

建設用3Dプリンターを開発するポリウスが排水土木構造物製造で実証試験を実施、産官学が国内初連携建設用3Dプリンターを開発するスタートアップ企業Polyuse(ポリウス)は12月21日、国土交通省が主導する「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」(PRISM)において、加藤組と共同で建設用3Dプリンターによる施工DXの共同実証の実施を発表した。これは、国土交通省中国地方整備局広島国道事務所と広島大学も参画した、産官学による日本初の取り組みとなった。

この実証は、2021年12月13日から17日まで、令和2年度安芸バイパス寺分地区第4改良工事の現場にて行われた。加藤組の施工管理のもと、実際の工事現場で建設用3Dプリンターを使い、排水土木構造物を製造。そしてこの構造物に対して、広島大学大学院先進理工系科学研究科 半井健一郎教授主導のもと、硬化環境(外気温)による初期硬化の変化、経年劣化の推定検査、強度発言の変化に関する調査などが実施された。今後国内における建設用3Dプリンター施工での必要データの蓄積・公表を進めるという。

加藤組の加藤修司代表は、これまで日本の建設現場を支えてきた「スーパーマンのような職人たち」が時代とともに年老いて建設業から離れてゆく中、新たな感性を持ったクリエイティブ集団との協業が欠かせないと感じていたときにPolyuseと出会ったと話している。同代表によれば、Polyuseは、海外では主流のロボットアームを採用せず、単純な構造のものを提供しているとのこと。それは「強い単純な構造で安価なものこそ日本の中小建設企業のニーズにあっていることを理解しているからだ」という。

広島大学において造形した構造物に対し各検証を実施

広島大学において造形した構造物に対し各検証を実施

また半井教授は、型枠を組んで打ち込むという現在のコンクリート工法とは異なり、型枠を必要としない3Dプリントでは、「あらゆる形が自由に造形」でき、廃棄物も減ると話す。また、現在の工法では硬化後に型枠を外さなければ表面の品質がわからないが、3Dプリントなら施行中に確認でき、問題があれば硬化前に補修できることから、「施工手順も自由度が飛躍的に増加」するという。さらに、「施工方法は建設用3Dプリンターによって劇的に変化する」ものの、セメント系材料を使うために、従来のコンクリート工学分野の知見が活用できるとのことだ。

建設3DプリンターのPolyuseが資金調達、普及を阻む壁とそれを超えるための戦略とは

人材不足、高齢化など、建設業界では課題が山積している。この状況を打破すべく、3Dプリンターの活用が注目されている。そんな中、建設用3Dプリンターを開発するPolyuse(ポリウス)が、Coral Capital、STRIVE、池森ベンチャーサポート、吉村建設工業から約8000万円を調達した。代表取締役の岩本卓也氏は「建設用3Dプリンターの活用は始まったばかり。本格的普及には段階的なアプローチが不可欠です」と語る。建設用3Dプリンターは今後どう活用されていくのか。岩本氏と、同じく代表取締役の大岡航氏に聞いた。

3Dプリンターが建設業界を救うか

建設業界には、すぐに解決できない課題が多い。根強い3K(きつい、汚い、危険)のイメージ、慢性的な人材不足、高齢化、進まない施工期間の短縮、販売管理等コストの膨張など、枚挙にいとまがない。

「現在、建設業界を中心的に支えているのは50代、60代の人材です。この中で10年以内に働けなくなる人もいるでしょう。10年後の建設業界の人材は、今の3分の2になると言われています。建設業界全体のデジタル・トランスフォメーションを進めることで、効率化を進め、人材不足を補うことは喫緊の課題です」(岩本氏)

さらに、これまで建設業界が猶予されてきた長時間労働の上限規制が2024年に始まる。3Dプリンターのようなマシンを積極的に導入することで、職人の負担や労働時間を減らすことも必要になる。

しかし、建設用3Dプリンターの活用は実際にはそれほど簡単ではない。なぜなら、そのためには、建設、ハードウェア、ソフトウェア、マテリアル、事業開発を理解する人材が必要だからだ。

「建設において3Dプリンターを活用するということは、3Dプリンターというハードウェアを理解し、それを制御するソフトウェアを開発し、ソフトウェアを使って樹脂やセメントなどのマテリアルを立体的に作り上げ、作ったマテリアルを建設現場のオペレーションに載せ、一連のプロセスを事業として成り立たせるということです。現状、これらのいくつかを持ち合わせるプレイヤーはいますが、すべてを揃えているところは見かけません。そこで、その要素をすべて持つ当社の存在意義が出てきます」(岩本氏)

ポリウスの3Dプリンターは、マテリアルの調整により従来では難しかった曲線造形も可能になった(画像クレジット:ポリウス)

3Dプリンター活用が進まないワケ

3Dプリンターには建設業界の課題を解決する可能性がある。しかし、岩本氏は「3Dプリンターの活用と普及拡大には、主に3つの壁があります」と語る。

1つめが建築基準法の壁だ。これは、建築基準法が直接的に3Dプリンター活用を禁じているということではない。建築基準法を遵守した形で3Dプリンターを活用した建物を建てようとすると、実績を積みづらいのだ。

「建設業界は3Dプリンターを試し始めたばかりで、実績が多くありません。『3Dプリンターで建てた橋は理論上〇〇年保ちます』とは言えるものの、『3Dプリンターで建てた橋が実際に〇〇年保ちました』とは言えないのです。建築基準法を所管する国土交通省は実績重視です。理論的に安全だとしても、実際にどれだけ安全に使えるのか実績のない3Dプリンターで橋を作らせるわけにはいかないのです」(岩本氏)

2つめの壁は3Dプリンターそのものにかかるコストだ。建設用3Dプリンターには、アーム型とガントリー型がある。アーム型は本体の構成要素が少ないので、開発がしやすい。本体を移動させないで印刷できる範囲は狭いが、本体を移動させればでいくらでも印刷範囲を広げられ、汎用性が高い。だが、開発コストが2000万円ほどで高い。一方ガントリー型は印刷範囲であるフレームから開発する必要がある。印刷範囲がフレームにより限定的になるが、広く取ることができる。開発コストをアーム型より安く抑えやすい点が特徴だが、移動や設置が難しい。使い勝手で言えば高価なアーム型が有利だが、コストの面では現状、ガントリー型が現実的だ。ポリウスは主にコスト面での優位性や、協業先との話し合いからガントリー型の3Dプリンターを採用している。

3つめの壁は人件費と工数だ。実は、現段階でポリウス製ではない3Dプリンターを活用した施工を行うと、3Dプリンターなしの既存の施工よりも多くの作業者と工数がかかる。他社製品の場合「マテリアルの粉を入れる人」「ミキサーを管理する人」「ポンプを制御する人」「造形時の状態を見る人」「データを監視する人」など、最低4~5人は必要になる。一方、ポリウス製の3Dプリンターでは、一連の作業に必要なのは1人だ。

「従来では、『建設用3Dプリンター』という一般的な観点でいうと、既存工法より3Dプリンター活用工法の方が人件費と工数がかかる、という壁があります」(岩本氏)

建設業界全体を巻き込む

上記の3つの壁があることで普及が遅れる建設用3Dプリンターだが、それを打開するためには3Dプリンターの活用事例をとにかく増やすことが必要だと岩本氏は話す。建築基準法の壁を超えるため、同社は「法律に触れない範囲での3Dプリンター活用を進めている」(岩本氏)という。具体的には、側溝、土手、テトラポッドなどの土木構造物や、住宅の門扉や置物、公園の遊具といった外構(エクステリア)だ。建築物全体を3Dプリンターだけで仕上げるのではなく、建築物の一部を仕上げ、既存の施工方法と組み合わせることで、3Dプリンターの活用事例を全国規模で増やそうとしている。

大岡氏は「私たちは建築基準法を常に意識しないといけないので、行政とのコミュニケーションが重要です。建設業界の人材不足、効率改善は、行政も重要性を理解しているので、行政と戦うような構図にはなりません。むしろ、行政との関係性が強いゼネコンなどと協力して、業界ごと改善する方法を模索する必要があります。私たちは既存のプレイヤーと戦いたいのではなく、一緒に業界をよくしていきたいのです」と業界全体の協力の重要性も指摘する。

この「業界全体」というのは、ポリウスのキーワードでもある。

「3Dプリンターを活用するには、建設、ハードウェア、ソフトウェア、マテリアル、事業開発のノウハウが必要です。ただ、それらを全部まとめて一気通貫でやる企業や組織はこれまでありませんでした。私たちの活動の幅を広げるには、大学などの研究機関に当社の事業や、テクノロジー連携のあるべき姿をお伝えし、業界のあらゆるプレイヤーと研究機関のコラボレーションの可能性を掘り下げていかなければなりません。業界全体のステークホルダーのみなさんと一緒にコンソーシアム型開発を進めていくことが重要です」(岩本氏)

日本で建設用3Dプリンターを制すれば、世界を制す

ポリウスの調べでは、世界には建設用3Dプリンター企業が70社ほどあるという。しかし、日本ではまだまだ珍しい。大岡氏によると、日本は海外と比べて建築に関わる基準が厳しく、ポリウスのようなスタートアップが生まれにくいのだそうだ。

「逆にいうと、海外の建設用3Dプリンター企業は日本に参入しにくいのです。そこで、私たちはそこを逆手にとって建築基準の厳しい日本にまず対応し、その後比較的に基準の緩い海外に進出してこうと考えています」(岩本氏)

とはいえ、日本での3Dプリンター活用はまだまだ始まったばかり。まずはテクノロジーがあまり浸透していない建設業界とのコミュニケーションを重ね、3Dプリンターの信頼を醸成することが必要になる。ポリウスは今回の資金調達により、3Dプリンターを扱うハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニア、マテリアルエンジニアなどの各種エンジニアを募集し、研究開発を進めていくという。

ポリウスのメンバー。写真中央が代表取締役の岩本氏、その左が同じく代表取締役の大岡氏。

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