Adobeはハードウェアに本気, デジタルペンMightyとNapoleon定規を来年前半に発売

Adobeの初めてのハードウェアへの進出が現実になろうとしている。同社が今年の初めのMAXカンファレンスで、先細のデジタルペンMightyとデジタル定規Napoleon発表したときには、それらはまだ実験段階とみなされていた。でも、そのときですら、AdobeのDavid Macyは本誌に、片手間でやってるプロジェクトではない、と断言していた。だから今日(米国時間9/17)同社が、それらを2014年の前半に発売すると発表したことは、それほど意外ではない。

今月初めにぼくは、このハードウェアプロジェクトを育てた同社のExperience Design(XD)チームのリーダーMichael Goughを取材し、そのときにMightyとNapoleonの最新バージョンを試してみた。まだ発売の日付や価格は発表されていないが、そのときのGoughの話では、同社はこの製品を特別な高級品と見なしているという。実際に触ってみた感じでも、いかにも高級品という雰囲気だ。

MightyとNapoleonはどちらも、今年初めの初披露以降、何度か設計変更を繰り返している。たとえば定規のNapoleonは、機能や描画形状の切り替えがワンボタンになり、Mightyペンは、形状は初めの三角形を維持しつつ、充電用の端子の位置が前から後ろに変わった。

“ハードウェアが新たな重要な収益源になることを期待している”、とGoughはぼくに言った。ソフトウェアの使い方が変わりつつあり、Adobeはそれによって訪れる新しい時代においてもトップでありたい。そのための梃子(てこ)の役割を、ハードウェアに期待するのだ。

Goughによると、昨年まで同社はこのプロジェクトを完全に内製で進めるつもりだった。しかしMAXの終了後チームは、同社にハードウェアの高度な能力がないことを改めて自覚し、ハードウェアの技術的な細部よりもユーザ体験やデザインに注力すべきだ、と決定した。そして数社を検討したのちに決まったパートナーAdonitは、iPad用デジタルペンJotの資金募集をKickstarterで行ったことで、ご記憶の方もおられるだろう。

またハードウェアの製造は台湾のOEMに委託しているが、まだ生産計画の細部は決まっていない。Goughの話では、最終バージョンはハードウェア内蔵の加速度計のデータ…動きの方向、圧力など…をBluetoothでiPadに送信することになる。

Mightyはマジック? 先細のペンをiPadが認識する

Mightyペンが画期的なのは、とても先細であることだ。iPadやそのほかのタブレットは、人の指の太さを想定しているので、先細のペン先は無視する。だからこれまでのタブレット用スタイラスは、太いゴム球を使うか、またはJotのように指先サイズのペン先を透明にして細いペン先をエミュレートしていた。しかしiPadで何かを描こうとすると、どちらのソリューションも不満足だ。

Mightyの小さなペン先をどうやってiPadに認識させるのか、これについてAdobeは“マジックだ”としか言わないが、ペンの先端部分に何かを仕掛けるために、充電端子を後ろに移したらしい。

平行線と輪郭線

Goughによると、同社の今の仕事はクリエイターたちのツールの使い方に適応することだが、しかしある面では同社自身が“クリエイティブ”の新しい定義を提供ないし提案することもある。“われわれは次世代のクリエイターのためのツールを作り始めたい。彼らは全員、今のツールに不満だ”、とGoughは言う。Goughによれば、ツールが世代を定義し、そして今日の世代はモバイル世代だ。だからAdobeも、このモバイルというプラットホームのための正しいツールを提供しなければならない。

ハードウェア本体のほかにAdobeは、二つのiPadアプリによってハードウェアの能力を見せようとしている。その一つ、Parallel は、MightyとNapoleon用に最適化されたiPad用スケッチアプリだ。ぼくもそのプレリリース版で遊んでみたが、それはこのハードウェアとクラウドへの接続があってこそ初めて生きる、ベーシックなお絵描きツールだ。

たとえばデジタル定規Napoleonを使うと、ペンを使わなくてもiPad上で直線を描ける。ただし実際の入力は、その線をMightyペンでなぞったときに行われる。このアプリは、さまざまな線の描き方を紹介しており、平行線もその一つだ。だから、Parallel(平行)というアプリ名になった。Napoleon定規は、直線以外にもいくつかの基本的な形状をプリセットしている。

NapoleonとParallelアプリがよくできているのは、クラウドからいろんな種類のアウトラインを取り出せることだ。この点に、Adobeが今日発表した第二のiPadアプリが関わってくる。

Contourアプリは、その名のとおり、輪郭線を作る。このアプリのとくにクールな機能は、何かの写真を取るとその‘何か’のアウトラインを自動的に作ることだ。そしてデバイス上のそのデータはクラウドへシンクされる。そのためのリポジトリとしてはBehanceが妥当だと思うが、Adobeはまだその詳細を明かしていない。Goughによれば、これからは誰もがシェイプ(shape, 形状)の集まりを作ってCreative Cloudで共有できるようになる。

同社はこの二つのハードウェアのためのSDKのローンチも予定している。Adobeの長期的な目標は、単純にペンと定規を作ることではなく、それらを…長期的には他メーカーのハードウェアをも…有効利用できるプラットホームを築くことだ。少なくとも今後当分のあいだ、Adobeはあくまでもソフトウェア企業であり、売上の多くはCreative Cloudのサブスクリプションに由来する。だからAdobeが作る斬新で高級なハードウェアも、Creative Cloudの利用度を高めるものでなければならない。そしてAdobe以外にも、Creative Cloud対応のハードウェアを作る企業が今後続々登場すれば、なお一層好都合だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))