スマホアプリ開発時のフィードバックをより手軽に実現、グッドパッチの新プロダクト「Balto」

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏、デザイナーの川又慧氏、エンジニアの寺島博樹氏、Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏、デザイナーの川又慧氏、エンジニアの寺島博樹氏、Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏

UI/UX設計に特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。クライアントワークでスタートアップから上場企業まで、スマートフォンアプリやウェブサイトのデザインを手がける一方で、デザインにまつわる自社プロダクトも手がけている。そんなグッドパッチが1月26日、スマートフォンアプリのフィードバックツール「Balto」の提供を開始した。

2014年10月には第1弾としてスマートフォン向けサイトにも対応したプロトタイピングツール「Prott」をリリース。ユーザー数や売上の実数は開示していないが、「現在の売上は、前年同月比で230%。競合サービスが出てきているが、サービスは依然伸びている」(グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏)状況だという。その後2016年2月には、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメントなどを引受先とした総額4億円の資金調達を実施。自社プロダクトの開発を強化するとしていた。

第2弾となるBaltoは、スマートフォンアプリ開発時のフィードバックを手軽に実現するツールだ。Baltoはエンジニア向けのダッシュボードと、スマートフォンアプリで構成されており、ユーザーはまず、BaltoのSDKを組み込んだ自社アプリを作成し、ダッシュボード上から配信する。配信した自社アプリは、Baltoアプリを通じてスマートフォンにインストールできる(このあたりの仕組みはAppleが買収したTestFlightやミクシィからスピンアウトしたDeployGate、直近Googleが買収したばかりのFabricのようなイメージだ)。

フィードバックの担当者は、画面上に表示されるボタンをタップするか、二本指でスワイプ操作することで、自社アプリのスクリーンショット、もしくは動画(6秒まで)を撮影可能。スクリーンショットには丸や矢印といったシェイプをつけることも可能。さらにコメントをつけて、フィードバックを投稿することができる。投稿されたフィードバックはダッシュボード上でToDoリストとして一元管理できる。料金はスタートアップ向けのスモールプラン(プロジェクト:4件、プロジェクト作成権限者:4人まで)で年額4万3200円からとなっている。14日間のフリートライアルも設ける。

Baltoを使ったフィードバックのイメージ

Baltoを使ったフィードバックのイメージ

社内向けのツールがきっかけ

Baltoのプロトタイプが立ち上がったのは1年数カ月前。同社エンジニアの寺島博樹氏が業務のすきま時間に開発した社内向けのツールがベースになっているという。「アプリのフィードバックといえば、スクリーンショットを撮って、Skitchでコメントを付け、チャットツールやGitHubで共有したり、Excelやスプレッドシートで管理するという手間がかかっていました。それを少しでも自動化できないかと考えたのがBaltoです」(Balto プロダクトマネージャーの中村太紀氏)。

デザイナーの川又慧氏は、アプリの「実装フェーズ」を「よりプロダクトを磨くフェーズ」にするためにも、フィードバックが重要だと語る。「プロトタイピングのフェーズでは見えない、つまり体験やインタラクションに伴う課題が見えてくるのは、エンジニアが本格的に関わる実装フェーズから。ここでのフィードバックをスムーズにすれば、プロダクトを磨くスピードが早くなり、結果として品質が上がるのではないかと考えています」(川又氏)

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また製品化にあたって重視したのは、利便性だけでなく、いかに楽しくなるフィードバックを行うか、という点だという。土屋氏は書籍「みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド」(アーロン・イリザリー、アダム・コナー著、安藤貴子訳)を例に挙げつつ、「フィードバックの仕方によっていかにいいチームになるか、クオリティの高いプロダクトになるか、ということが開発の1つのトピックになってきました。これをいかに実現するかは課題です。Baltoの1つのテーマは『使っていて楽しくなる』。ポジティブなフィードバックで楽しくプロダクトを作って欲しい」と語る。実際、エンジニアは淡々とバグの報告をもらうより、「この仕組みはどうなっているの?」といったちょっとしたコミュニケーションも含めてフィードバックがあるほうがモチベーションが上がるようなケースもあるそうで、Baltoを使ってそんなやりとりが生まれることも期待しているという。

今後BaltoはGitHubとの連携やクレジットカード決済への対応などを進める。また今春をめどに第3弾の自社プロダクトとして、タスク管理・プロジェクトマネジメントツール「Laika」の提供を予定しているという。プロトタイピングツールのPrott、その次の実装フェーズで使用するBaltoを提供し、両方のフェーズを一元管理するプロマネツールを提供することで、「デザインチームのプロセス全体を変える、『いいプロダクトを生み出せるためのプロダクト』を提供していく」(土屋氏)としている。
余談だが、Prottは「プロットハウンド」という犬種が、Baltoはアラスカで活躍した犬ぞりのリーダー犬の名前、そしてLaikaはスプートニク2号で宇宙に行った犬の名前——ということで、同社の自社プロダクトは全て犬に関わるネーミングになっているのだとか。

組織化に苦しんだ1年——4億円を調達して自社プロダクト開発を強化するグッドパッチ

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

ユーザーインターフェースデザインに特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。同社は2月19日、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNCを引受先とする総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。また資本参加した各社との事業連携も進める。

今回の資金調達をもとにプロトタイピングツール「Prott」のさらなる開発を行うほか、新サービスの提供を進める。また同社が拠点を持つドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパをはじめとして、Prottを世界展開していくという。

ニュースアプリの「Gunosy」や家計簿アプリ「Money Forward」、キュレーションアプリ「MERY」をはじめとしたユーザーインターフェースのクライアントワークを手がけつつ、自社プロダクトのProttの開発を進めてきたグッドパッチ。inVisionなど海外発のプロトタイピングツールがある中、Prottは現在世界140カ国・5万人以上が利用するまでになった。クライアントにはリクルートやヤフー、ディー・エヌ・エー、グリー、IDEOなどの名前が並ぶ。

「Prott」

「Prott」

会社は順風満帆、さらに調達して一気に自社プロダクト開発を進めるといった状況かとも思ったのだが、グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏いわく、この1年は「組織化に苦しんだ1年」だったという。

「フラットな環境」作れず、4カ月で10人が退社

「去年の今頃は社員50人がいたものの、役員は自分だけ。給与振り込みすら僕がやっていた。『伝言ゲーム』でなく、社長と直接話し合えるフラットな環境でいたいと思ったから。だがよかれと思ってやっていたことは、お互い不幸なだけだった」(土屋氏)

直接やりとりをするつもりが、スタッフの人数が増えすぎて結局1人1人とコミュニケーションを取ることができなくなった。採用を優先すると今度は現場のコミュニケーションができない状況になっていた。人材コンサルを入れて改めて組織作りを進めたが、昨年8月頃から4カ月で——転職や引き抜き、デザイナーとしての独立など様々な理由で——10人の社員が退社した。退職した社員の中には創業期からグッドパッチを支えたメンバーもいた。

前年比での成長はキープできたものの、スタッフが抜けたことで売上も下がった。だが苦しい時期だったが人材採用に関しては好調だった。経営陣を強化氏、事業責任者を置き、組織作りを進めて、80人規模の強い組織作りができているという。

「一番変わったのは『人に任せる』ということがやっとできるようになったということ。今までフラットさについて勘違いをしていた。たとえ組織が階層化されていたとしても、マインドセットがフラットであればそれでよかった」(土屋氏)。土屋氏はこれまでにFailconなどでも自身の創業期の苦悩を語ってきたが、昨年から今年のこの時期を越えて、「起業家」から「経営者」としての道を歩み出したと語る。このあたりの心境は土屋氏のブログで詳細に書かれている。

クライアントワークは継続、新サービスも開発

組織作りで苦労した1年だが、きっちりと成果も出した。例えばMERYなどは、日時利用者数ではブラウザのほうがユーザー数は多い一方、記事閲覧数では圧倒的にアプリが増えているのだという。グッドパッチがデザインしたアプリは、ウェブより回遊率の高い構造になっているというわけだ(ディー・エヌ・エーの決算資料より)。そのほか、コミュニティサービスの「ガールズちゃんねる」では、UI改善により1セッションあたりのPVで約124%増、PV数は約134%増という結果を残した。

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

調達では今後Prottの開発や世界展開に加えて、新サービスの提供も進める。新サービスはプロダクトマネジメントツール。プロトタイピングツールだけでなく、今後あらゆる開発工程を一気通貫で管理できるシステムの開発を目指す。「いわばAtlassian方式。BtoBのプロダクトは時間が掛かると思うが、3年後、5年後のインパクトは大きい。そのための調達だ」(土屋氏)

では今後、クライアントワークを捨てて自社プロダクトに注力するのかというと、そういうわけではないらしい。クライアントワークでデザインの価値を上げていきたいと土屋氏は語る。

「グッドパッチののミッションは『デザインの力を証明する』ということ。日本ではデザインが勘違いされてきた。ビジネスサイドが企画を立ててワイヤーフレームを書き、それをデザイナーがデザインして、エンジニアが実装するという世界だった。だがデザインへの投資を促さないといけない。海外では事業会社がデザイン会社を買収する流れが増えているが、日本ではやっとスタートアップで重要視されてきたというところ。『デザイン会社』という立場は捨てない。いかにプロダクトを主体的に作るデザイナーを育てるかは重要だ」(土屋氏)

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている

グッドパッチ、スマホ対応のプロトタイピングツール「Prott」を正式に公開


ニュースアプリ「Gunosy」をはじめとして、ユーザーインターフェース(UI)デザインに特化したウェブ制作会社グッドパッチ。同社は10月1日、プロトタイピングツール「Prott」の正式に公開した。

Prottは、プロトタイプを素早く作る「ラピッドプロトタイピング」と、必要なコミュニケーションを的確に行う「ラディカルコミュニケーション」をコンセプトにしたプロトタイピングツールだ。スケッチ画像や写真をアップロードし、左右へのフリックといった操作によって画面がどう遷移するかを設定していくことで、コードを書くことなくプロトタイプを作ることができる。また、ビジネス向けのコミュニケーションツールであるSlackやHipchatと連携することで、プロトタイプの更新情報も共有できる。

Prott – Rapid Prototyping for Mobile Apps from Goodpatch on Vimeo.

2014年4月にベータ版を開始したが、これまでに7000人のユーザーを獲得。デザインコンサルティングファームのIDEOをはじめ、ヤフー、ディー・エヌ・エー、イグニスなどの企業が利用している。今回の正式提供にあ
わせてiOS、Mac、Windows向けのアプリを提供している。実際にiOSアプリのデモを見せてもらったが、写真を取り込み、画面遷移時の動作を選択するだけで、手軽にプロトタイプを作ることができた。

料金は1プロジェクトであれば無料。複数プロジェクトを利用する場合には、1400円のスタータープランから大規模向けのエンタープライズプランまで複数のプランを用意する。

自身のブログ(現在は移転)にあるように、これまで務めていた製作会社を辞めて米国西海岸に行き、働いていた経験もあるグッドパッチ代表取締役の土屋尚史氏。同氏はシリコンバレーから生まれるサービスについて「ベータ版からUIのクオリティが高いものが多い」と説明する。日本だと、スマートフォンアプリを作る際、PCのウェブでの経験を詰め込みすぎる傾向にあるため、機能はすごくても、ゴテゴテしたUIになりがちなのだという。一方でシリコンバレー発のアプリは体験に重きをおいており、「いらない機能は落とす」というものが中心。「(デザイナーだけでなく)CEOからしてデザインに対する意識、考え方が違う。日本は遅れていると思う」(土屋氏)

土屋氏に教えてもらったのだけれども、Prottのようなプロトタイピングツールの競合は、日本企業ではまだいないのだそうだ。ただ海外を見てみると、「POP」や「invision」、「axura」(こちらはNTTデータが国内での販売を担当)など多い。invisionなどは直近も2000万ドルの資金調達をするなど、「ニッチだけれどもマーケットはある」(土屋氏)のだそうだ。

グッドパッチでは今後、Prottにワイヤーフレーム作成をはじめとしたさまざまな機能を追加するほか、外部連携なども進めていくとしている。