SAP、オンライン調査のQualtricsを80億ドルで買収へ――SaaS企業買収として最大規模

TechCrunch Disrupt SF 2015に登壇したQualtricsのRyan Smith

今日(米国時間11/12)、SAPはQualtricsを80億ドルのキャッシュで買収することで同社と合意したと発表した。SAPはエンタープライズ・ソフトウェアの世界的有力企業である一方、Qaltricsはオンライン調査サービスとソフトウェアを提供するスタートアップで上場を目前に控えていた。買収手続きは来年、2019年の上半期に完了するものとみられている。Qualtrics の直近のラウンドは2016年に実行され、25億ドルの会社評価額で1億8000万ドルの資金調達に成功している。

SaaS企業の買収としては2016年にOracleが93億ドルでNetsuiteを買収したのに次ぐ第2の規模となる。

電話記者会見でSAPのCEO、Bill McDermottはQualtricsの上場による株式販売はすでに募集枠を上回っており、両者は数ヶ月前から話し合いをしていたという。SAPは「われわれのソフトウェアは世界のソフトウェア・トランザクション収入のシェアの77%に達している。Qualtricsの調査、アンケートのサービスとソフトウェアが加わることで、今後、9000以上の大企業は必要としている顧客満足度や社員の会社に対するエンゲージメントに関する情報を容易に知ることができるようになる」と述べた。

McDermottはまたSAPによる Qualtricsの買収の影響をFacebookのInstagram買収に匹敵するものだとして 「90年代のレガシー・テクノロジーを21世紀まで引きずってきた企業は完敗した。SAPはライバルの既存のマーケットの大きな部分を消滅させた」と強調した。SAPのライバルと考えられている企業はOracle、 Salesforce.com、Microsoft、IBM.だ。

SAPはドイツのヴァルドルフに本拠を置くグローバル企業で、買収に必要なコスト70億ユーロ(79.3億ドル)の資金をすでに確保しているという。これには支払いが必要な社員へのボーナス、買収時点での貸借対照表の負債分などのコストが含まれる。

2002年にQualtricsを共同創業したRyan Smithが買収後もCEOを務める。買収手続きの完了後、同社はSAPのCloud Business Groupに属すが、本社は引き続きアメリカのユタ州プロボとワシントン州シアトルに置かれる。ブランドおよび社員も従来どおり維持される。

われわれのCrunchbaseによれば、QualtricsはAccel、Sequoia、Insight Venturesなどから総額で4億ドルの資金を調達している。.予定されていた株式上場では18ドルから21ドルの範囲を目標として2050万株を売り出す予定だった。CrunchBaseのAlex Wilhelmによれば、新規上場で4億9500万ドル程度を調達できるものと予測されていた。この株価であれば時価総額は39億ドルから45億ドル程度となる。

新規上場申請書によれば.、Qualtricsの収入は今年の第2四半期の9710万ドルから8.5%アップして第3四半期には1億540万ドルとなっていた。第3四半期のGAAPベースの純利益も第2四半期の97万5000ドルから490万ドルにアップしている。前年同期の純利益も470万ドルだった。2018年初頭から9ヶ月のQualtricsの営業キャッシュフローは525万ドルで、前年同期の361万ドルからアップしている。

今日の発表で、Qualtricsは2018年通年の収入は4億ドルを超えるという予想している。これは40%の急成長となるが、SAPの買収によるシナジーの効果は計算に入っていない。

Qualtricsの主たるライバルはSurveyMonkeyで、同社は今年9月に上場を果たしている。

画像:Steve Jennings (opens in a new window) / Getty Images

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

シリコンスロープ―テクノロジー・スタートアップの新たな聖地、ユタはユニコーンを量産中

2015-12-22-utah

この季節、オグデンからプロボにかけての山の斜面、地元のユタ州民が「シリコン・スロープ」と呼ぶワサッチ郡にはすでに雪が降っている。しかしロッキー山脈のこのあたりは単なる雪山ではない。そのニックネームから想像されるとおり、ユニコーン―評価額10億ドルを超えるスタートアップ―を多数産みだしているのだ。

ユタ州の新たな特産となったユニコーンのうち、4社はワサッチ地区に本拠を置いている。Omnitureのファウンダーとして有名なJosh Jamesのビジネス・インテリジェンスのスタートアップ、Domoもその一つだ。さらにPluralsightQualtricsInsideSalesもユニコーンだし、他にいくつかの「半ユニコーン」も存在する。

ユタの経済成長は主として最近の2年間に集中している。リードしているのはテクノロジー産業だ。こうしたテクノロジー・スタートアップの特長はベンチャーキャピタリストが注目する前からすでに黒字化を達成している企業が多いことだろう。

「蜂の巣」効果

ユタのテクノロジー・スタートアップでは地元コミュニティが以前から大きな役割を果たしてきた。ユタはOmniture、WordPerfect、Landeskの誕生の地であるだけでなく、Pixarの共同ファウンダー、エド・キャットムル、Atariの共同ファウンダー、ノーラン・ブッシュネルの2人はどちらもユタ大学の卒業生だ。付近の大学やカレッジは高度な学位を取得したエンジニアを毎年何百人も社会に送り出している。ユタはさほど生活費も高くなく、十分な教育を受けた人材が地元には多数住んでおり、彼らの大部分は他所に移ることを望んでいない。しかもユタのスタートアップの多くはベンチャーキャピタルの資金を受け取る必要なしに運営されている。

「ユタには時間をかけて良好なファンダメンタルを備えた企業を育てる文化がある」とFarmingtonに本拠を置く教育スタートアップ、PluralsightのCEO、Aaron Skonnardは言う。Pluralsightは外部の資金援助なしに9年近くやってきた。「シリコンバレーにはわれわれのところのような強い忍耐心の強さはない」とSkonnardは考えている。

最初からそのような財政規律の教育を受けていたため、長期にわたってじっくりスタートアップを育てることができたファウンダーを何人も知っている。

—QualtricsのRyan Smith

ユタではシリコンバレーに比べてベンチャーキャピタルが遠い存在だったのは事実だが、それだけに当地のスタートアップは生まれた瞬間から収益性に注意を払わざるを得なかった。「われわれはスタートアップはどうしたら企業を黒字化できるか常に考えることを規律として叩き込まれている」とプロボのスタートアップ、InsideSales.comのCEO、Dave Elkingtonは言う。

しかし最近、ベンチャーキャピタルはユタで珍しい存在ではなくなってきた。数年前、名門VCのSequoiaはQualtricsのファウンダー、Ryan Smithに7000万ドルのベンチャー資金をシリーズAラウンドとして投じた。以来、Qualtricsには2億2000万ドルのベンチャー資金が流れ込んでおり評価額は10億ドルを超えている。

SmithとSkonnardはいくつかの点で同意見であることがわかった。たとえば、スタートアップは最初期の時点から収益性を考えなばならないという財政規律だ。「最初からそのような財政規律の教育を受けていたため、長期にわたってじっくりスタートアップを育てることができたファウンダーを何人も知っている」とSmithは言う。

急がずIPOへ

Smithはユタで生まれた有名なワープロ・ソフトウェアを例にこういう。「WordPerfectはものすごいイノベーションを起こしていたかもしれない。しかし1992年に売却されている。、もしこの売却がなかったらどうなっていただろう?」

ユタのユニコーンは現在の10億ドルの評価額を得るまでに非常に長い期間、多くは10年以上をスタートアップとして過ごしている。これはSnapchatやPinterestとは比べものにならないくらい長い期間だ。

TechCrunchはNational Venture Capital Associationが収集したデータを検討したが、今年の第1四半期から第3四半期までに7億ドル弱がユタのテクノロジー・スタートアップに投資されている。

ユタに投資したこうしたベンチャーキャピタリストの狙いはもちろん高配当だ。教育テクノロジーのスタートアップ、Instructureは昨年上場した。 Domo、 Pluralsight、InsideSales.comの3社も間もなく後に続きそうだ。2016年には相当数のユタのスタートアップが上場を果たすに違いない。

InstructureのCEO、 Josh Coatesは「ユタのエコシステムは信じられほど急速に拡大している。ユタには現在5、6社の極めて活気あるテクノロジー企業が存在するが、いずれも近く上場を果たす準備ができている」と言う。

Smithがわれわれに語ったところによると、Qualtricsも来年か再来年には上場するという。「あらゆる面でそうなるだろうという兆候が見える。いずれにせよ、われわれは上場企業として自らを律している」とSmisthはTechCrunchに語った。

unicorn-money

スーニコン―「すぐにユニコーンになる」存在

一般のメディアの注目を引かないステルス的スタートアップにも検討を要する存在が多数だ。Entrataは不動産管理ソフトの企業で、そう聞けば想像がつくとおり、AirbnbやUberのような分かりやすい派手な存在ではない。しかし同社には通年換算で1億ドルの売上があり、しかもこれまでベンチャーキャピタルの支援を全く受けていない。完全に自己資金のみで運営されている。

紙の健康情報をデジタル化することを目的とするユタのスタートアップ、Catalystは最近5億ドルの評価額でベンチャー投資を受け、ユニコーンへの道の半ばまで来た。これまで総額1億6500万ドルの資金をユタ内外のベンチャーキャピタリストから調達しており、これにはユタきっての大手ベンチャーキャピタル、Sorenson Capitalも含まれる。手元資金の総額は10億ドルを超えるだろう。

エンタープライズの成長も有望

ユタの成長の大きな部分は大企業の成功のせいでもある。これまでユタの大企業はスタートアップ以上にメディアや投資家の注目を引くのが難しかった。注意を引くにはきわめてど高い利益を産み出すか巨額の評価額を獲得する必要があった。

「当地の大企業にはSnapchatのような爆発的急成長もAmazonのような持続的巨大化も難しい。そいう土地ではないのだ。しかし投資家がユタの企業をじっくり検討すると、満足して次の会社、またその次の会社と投資すjることになる」とSmith。

ベンチャーキャピタルのAccelはQualtricsだけで7000万ドルを投資している。Accelはまたユタのフラッシュメモリー・メーカー、Fusion-ioにも投資中だ。

「ほぼすべての主要なシリコンバレーの投資家がユタを注視している」とElkingtonは言う。

「ユタの企業文化は長続きする会社を育てる」Skonnardは胸を張って主張する。

F画像: Andrew Zarivny/Shutterstock

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+