医療用注射剤を代替するカプセル剤開発のRani TherapeuticsがIPO申請

医療用注射剤の代替となるカプセル剤の開発を進める、サンノゼを拠点とするRani Therapeuticsが米国時間7月30日金曜日に株式を公開した。

S-1申請書によると、IPO前週の株価は14ドル(約1500円)から16ドル(約1700円)の間と推定されている。金曜日に株価はやや下がり、約11ドル(約1200円)でデビューした。Rani Therapeuticsはこれで約7300万ドル(約79億6000万円)を調達した。

Raniのデビューは、セラピューティクス分野でのIPO活動が相次ぐ中でなされた。2020年には71のバイオテック企業が上場を果たしている。2021年はすでに59社がIPOを行っており、さらに多くの企業が現在進行中だ。7月30日だけで、Rani Therapeuticsを含む8つのバイオテック企業の取引開始が見込まれている。

Rani Therapeuticsの意識は、同社を取り巻くIPO活動というよりも、自らに向けられており、創業者のMir Imran(ミール・イムラン)氏の言葉を借りれば「レーザー光線のように集中」している。同社の主力製品であるRaniPillの第I相試験で、臨床への応用が期待される初期のエビデンスを得たことで、株式公開の決定が後押しされる形となった。

「私たちはすでに人を対象とする段階に入っており、間違いなくオーラルバイオロジクスを実現する確固たる道を歩んでいます。これはライフサイエンスの方向性を示す注目すべき特異な市場であり、私たちはこの分野でイノベーションを推進することに大きな興奮を覚えています」とイムラン氏はTechCrunchに語った。

Rani Therapeuticsの主力製品はRaniPillというカプセルで、通常は注射で投与される薬剤を体内に送り込む。TechCrunchはこの薬についてここで詳しく説明しているが、いくつかの基本的なステップに沿って作用するものだ。

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カプセル剤は胃酸に強いコーティングで覆われている。カプセル剤が小腸に入ると、コーティングが溶け、小さなバルーンを膨らませる。その小さなバルーンが膨らむと、微小針によって薬剤が注入される(微小針は薬剤投与後に溶解する)。その後、同社のS-1申請書によると、バルーンの残りの部分は「通常の消化過程を経て排泄される」。

このプロセスはすべてカプセル剤の中で行われる。見た目はジェルカプセルのようだ。

患者が注射よりも経口薬を好むことを示唆するエビデンスがいくつか存在する。例えば、がん患者を対象とした研究では、通常の注射よりも経口療法に対する患者の選好が明確になっている。ただし、すべての状況に当てはまるわけではない。一部の患者では、大量の錠剤を服用するよりも、注射で投与される長時間作用型の薬剤に対する選好が示されている(一部のHIV患者でこの傾向がみられる)。

しかし、注射針はあまり快適なものでない。2019年に発表された35件の研究のレビューとメタアナリシスによると、若年成人の20%から30%が注射針の使用を懸念しており、治療やワクチンを避ける人もいるという。

Rani Therapeuticsは、FDA承認済み薬剤のカプセル剤の開発を進めているが、これらの薬剤は多くの場合通常の注射で投与されるものだ。次の薬剤が開発対象に含まれている。

  • 末端肥大症または消化管の神経内分泌腫瘍(NET)に対するオクトレオチド
  • 乾癬性関節炎に対するTNF-α阻害薬
  • 骨粗鬆症に対する副甲状腺ホルモン(PTH)
  • HGH欠損症に対するヒト成長ホルモン(HGH)
  • 甲状腺機能低下症に対する副甲状腺ホルモン

同社の研究サイクルの中で最も進んでいる製品は、オクトレオチド(治験での名称はRT-101)を投与するために開発されたカプセルで、62人の参加者を対象とした第I相臨床試験で試験された。S-1申請書で部分的に報告された試験結果では、オクトレオチドのバイオアベイラビリティが注射薬と比較して65%であることが示された。このことは、カプセルが効果的に薬物を体内に取り込むことができることを示唆しているが、これらの結果はまだ初期段階にある。

Rani Therapeuticsは2022年に、骨粗鬆症治療薬のPTHとヒト成長ホルモンの2つの第I相試験を開始する。現在開発中の残りの薬についての研究は、2023年に予定されている。

同社の究極的な目標は、RaniPillを特定の薬剤とは切り離して妥当性を検証することにある。同社は、薬物を使用せずに臨床試験でRaniPillを試験できる治験用医療機器に関する適用除外(IDE)の承認取得を進めている。この研究は、製品が反復投与に対してどの程度安全かを明らかにすることを目的としており、2022年に開始される予定だ。

「引き続き薬を使ったデータの生成を進めていきたいと考えています。私たちは今後も薬を作ることになるからです。ですが、プラットフォームの安全性と忍容性を確立することは重要です」とイムラン氏。「ですから、この点(薬剤と切り離した妥当性の検証)にも高い重要性を見出しています」。

同社のリーダーには、バイオテック分野で成功したイグジットの実績がある。

Rani Therapeuticsは、2012年にミール・イムラン氏によって設立された。イムラン氏は1985年に、後にEli Lillyに買収されたIntec Systemsの一員として、植込み型除細動器を開発した。それ以来、同氏は20社に及ぶ医療機器企業を立ち上げている。そのうちの15社はすでにIPO済みもしくは買収済みだ。

しかし現時点では、Rani Therapeuticsの財務は大幅な損失を計上している。2019年と2020年の純損失は、それぞれ2660万ドル(約29億1200万円)と1670万ドル(約18億2800万円)だった。2021年3月現在、同社は1億1960万ドル(約130億円)の赤字を計上している。

これまでの資金調達総額は約2億1150万ドル(約230億円)で、これには今回のIPOで獲得したキャッシュは含まれていない。Rani TherapeuticsはIPOで調達した7300万ドル(約79億6000万円)をIDEの研究資金に充て、さらなる臨床試験を実施する計画だ。

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画像クレジット:Rani Therapeutics

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

Rani Therapeuticsのロボットカプセルは皮下注射治療をどう変えるか

新しい自動注射カプセルがまもなく皮下注射治療の代わりになるかもしれない。

このいわゆるロボットカプセル(ロボットピル)のアイデアは、ライフサイエンスラボであるInCube Labsの研究プロジェクトから生まれた。同ラボは約8年前にラトガーズ大学で電気・生物医学工学の学位を取得したRani Therapeuticsの会長兼CEOであるMir Imran(ミール・イムラン)氏が運営する。ライフサイエンス分野のイノベーションで有名なイムラン氏は、20以上の医療機器会社を設立し、世界初の植込み型除細動器の開発を支援してきた。

サンノゼを拠点とするRani Therapeuticsがその基盤となる技術に取り組んでいるとき、イムラン氏と同氏のチームは、皮下(または皮膚の下の)注射による痛みをともなう副作用を軽減すると同時に、治療の有効性を改善する方法を見つけたいと考えた。「技術自体は非常にシンプルな仮説から始まりました」とイムラン氏はインタビューで述べた。「患者が飲み込む生物学的薬剤を内包するカプセルを作れないのはなぜだろうと考えました。腸に到達するとカプセル自体が変形し、痛みなく注射を行います」。

Rani Therapeuticsのアプローチは、消化管固有の特性に基づいている。カプセルの注射メカニズムは、患者の胃から小腸に移動するときに溶けるpH感受性コーティングで覆われている。これにより、カプセルが適切な場所に適切なタイミングで確実に薬を注射することができる。目的地に到達すると、反応体が混ざり二酸化炭素を生成する。二酸化炭素が小さなバルーンを膨らませ、圧力差を生じさせて、薬物を充填した針を腸壁に入れる。「つまり、一連の出来事が本当にタイミング良く起こることにより針が目的地に届きます」とイムラン氏は話した。

機械的ともいえる手順にもかかわらず、カプセル自体には金属やバネは含まれていないため、体内の炎症反応の可能性が低くなる。代わりに、針やその他のコンポーネントは注射可能なグレードのポリマーでできており、イムラン氏によると他の医療機器にも使用されている。小腸の上部に注射を行う場合、胃酸と肝臓からの胆汁の広がりが細菌の繁殖を妨げるため、感染のリスクはほとんどない。

カプセルに関するイムラン氏の優先事項の1つは、皮下注射による痛みをともなう副作用を排除することだった。「それを痛みをともなう別の注射に置き換えても意味がありません」と同氏はいう。「しかし、生物学が私たちに味方しました。腸には皮膚にあるような痛みのセンサーがありません」。さらに、小腸の高度に血管新生された壁に注射を投与すると、通常は脂肪組織に薬を入れる皮下注射よりも効率的に働く。

イムラン氏と同氏のチームは、成長ホルモン障害先端巨大症、糖尿病、骨粗鬆症など、さまざまな適応症にカプセルを使用する計画を立てている。先端巨大症治療薬であるオクトレオチドは2020年1月、1次臨床試験で安全性と持続的なバイオアベイラビリティの両方を実証した。彼らは他の適応症について臨床試験を将来続けることを望んでいるが、最初は先端巨大症を優先することを選択した。先端巨大症に対し確立されている治療薬は「非常な痛みをともなう注射」が必要だとイムラン氏は述べた。

Rani Therapeuticsは2020年末、プラットフォームのさらなる開発とテストのために6900万ドル(約75億円)の新規資金を調達した。「これが今後数年間私たちに資金を提供してくれるでしょう」とイムラン氏はいう。「私たちのビジネスへのアプローチは、テクノロジーを非常に堅牢で製造可能なものにすることです」。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Rani Therapeutics医療

画像クレジット:Rani Therapeutics

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Nariko Mizoguchi