最近の企業買収に見られる「少額の投資で速やかに自社製品の拡張を図る」3つの例

2021年に入ってから、筆者はすでに9件のM&A案件を取材してきた。最大の案件はCitrix(シトリックス)が22億5000万ドル(約2360億円)でWrike(ライク)を買収したことだ。しかし、すべての取引が巨額な金額をともなうわけではない。本日紹介する3つの案件は、もっと低い金額帯の買収が活発に行われていることを示すものだ。

企業は自社製品を強化する方法を模索しており、同時に有能な人材を導入したいと考えている。小規模な買収は、すべてを社内で構築することなく、製品のロードマップを埋める方法を得ることができる。

買収した企業は、少額の現金で機能性を追加できる。小規模な買収では、金額が明らかにされないこともある。買収が公開企業に重大な財務的影響を与えるほどの規模でなければ、価格を発表する義務はないからだ。

それでは、この数日の間に起こった3つの買収を見ていこう。

TenableがAlsidを買収

2018年に株式を公開したネットワークセキュリティ企業のTenable(テナブル)は、Active Directory(アクティブディレクトリ)のセキュリティを専門とするフランスのスタートアップ企業Alsid(アルシド)を9800万ドル(約103億円)で買収した。ユーザー情報管理ツールとして人気が高いマイクロソフトのActive Directoryは、ハッカーの標的にもなりやすい。ユーザーの資格情報を手に入れることができれば、ネットワークに侵入するのは簡単になる。Alsidの製品はそれを防ぐために開発された。

セキュリティ企業は、時間の経過とともにサービスの幅を広げていく傾向がある。Alsidは、Tenableのセキュリティプラットフォームに新たなツールを追加し、より広い範囲をカバーできるようにする。

「Alsidの買収は、ユーザーアクセスとパーミッションに向けた自然な拡張であると、我々は考えています。契約が完了すれば、この買収は当社の『Cyber Exposure(サイバー上のリスク変動資産管理)』のビジョンを戦略的に補完することになり、企業が攻撃の全体像を理解してサイバーリスクを低減するために役立つでしょう」と、Tenableの投資家向けFAQには書かれている。

AlsidのCEO兼共同創業者であるEmmanuel Gras(エマニュエル・グラス)氏は、この種の攻撃を防ぐために会社を立ち上げたと語る。「Alsidを設立したのは、企業が直面するセキュリティ上の最大の課題の1つであり、脅威行為者が企業のシステムを横断するために用いる最も一般的な方法であるActive Directoryの脆弱性という問題の解決を支援するためです」と、グラス氏は声明で述べている。

パリに拠点を置くAlsidは、2014年に設立された。Crunchbaseのデータによると、2019年には1万3000ユーロ(約165万円)という小額の資金調達を行った。

CopperがSherlockを買収

Google Workspace上に構築されるCRMツールのCopper(カッパー)は、顧客体験プラットフォームのSherlock(シャーロック)を買収したと発表した。金額については明らかにしなかった。

新型コロナウイルスの流行は、多くの買い物客をオンラインに導いた。顧客をより理解して、よりカスタマイズされた体験を提供すれば、より多くのエンゲージメントを促進させ、売上の増加に貢献する。Sherlockの買収によって、Copperは同社のクライアントが顧客をよりよく理解するために役立つツールを手に入れることになる。

「Sherlockは革新的なエンゲージメント分析とスコアリングのプラットフォームであり、見込み客や顧客の意図を表面化させ、営業、アカウント管理、カスタマーサクセスの専門家に行動を促します」と、CopperのDennis Fois(デニス・フォイス)CEOは、この取引を発表するブログ記事で書いている。

彼はさらに、「顧客との関係はエンゲージメントに基づきます。Sherlockとともに、私たちは行動と勢いに焦点を当てたCRMを作成していきます」と付け加えている。

RapidAPIがPawを獲得

APIがソフトウェア開発の考え方を変えたことは明らかだが、大規模な組織にまたがって増殖することで、それ自体が管理の問題を生み出している。API管理プラットフォームのRapidAPI(ラピードAPI)は米国時間2月10日、Paw(ポー)の買収を発表した。

Pawを買収したことで、RapidAPIは顧客が独自のAPIを設計する機能を追加でき、本質的に企業内におけるAPI環境の作成と管理に関連するすべてのものをワンストップで顧客に提供できるようになる。「今回の買収により、RapidAPIはそのオープンAPIプラットフォームをAPI開発ライフサイクル全体に拡張することができ、APIの開発から購入まで、複数のクラウドやゲートウェイを横断して、接続された体験を開発者に提供することが可能になります」と、同社は声明で説明している。

2015年に設立されたRapidAPIは、Crunchbaseのデータによると6700万ドル(約70億3000万円)以上の資金調達を行っている。同社の直近の資金調達は2020年5月に行われたもので、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)、DNS Capital(DNSキャピタル)、Green Bay Ventures(グリーン・ベイ・ベンチャーズ)、Microsoft(マイクロソフト)のベンチャーファンドであるM12、Grove(グローブ)から2500万ドル(約26億2000万円)を調達したラウンドだった。

これらの買収は、いずれも買収企業にとって重要なニーズを満たし、既存のプラットフォームの能力を拡張して、多額の資金を投入することなく、より多くの機能を顧客に提供できるようするものだ。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:TenableAlsidCopperSherlockRapidAPIPaw買収

画像クレジット:courtneyk / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)