圧倒的な性能アップで注目されるAMDのモバイルCPU「Ryzen Mobile」とは?

圧倒的な性能アップで注目されるモバイルCPU「AMD Ryzen Mobile」とは?

2017年に投入され、Intel一択だったCPU市場にクサビを打ち込んだのが、AMD Ryzenプロセッサーだ。第1世代Ryzenでは、Intelの強固な地盤にひびを入れた程度だったが、2019年7月に投入されたZen 2アーキテクチャを採用した第3世代Ryzenでは、確実に地盤を砕き、自作PC市場のCPU単体販売数シェア(BCNランキング調べ)がIntelを上回ったほどだ。

  • 第1世代Ryzen: Zenアーキテクチャ(Ryzen 1000シリーズ)
  • 第2世代Ryzen: Zen+アーキテクチャ(Ryzen 2000シリーズ)
  • 第3世代Ryzen: Zen 2アーキテクチャ(Ryzen 3000シリーズ)

プロセッサーを手がけて半世紀のAMD

Ryzenとともにその名を知らしめたAMDだが、まだまだ「AMDって?」と首を傾げてしまう人も、かなりの数になるはずだ。そこで、駆け足になるが、軽くその歴史に触れておこう。

AMDこと、Advanced Micro Devices(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)の歴史は約半世紀と長く、1969年に半導体メーカーとして設立された。当初はIntelプロセッサーと同じ仕様の製品を提供するセカンドソースメーカーだったが、Intel互換プロセッサーの開発を経て、1999年にIntelと互換性のない独自プロセッサー「Athlon」を投入、すでにIntel独占状態だったCPU市場に一石を投じた。

その後も独自CPUの開発し、2006年にはNVIDIA GeForceのライバルとなるRadeonを手がけていたATI Technologiesを買収。dGPUのRadeonシリーズに加え、CPUにGPUを統合したAPUを開発している。

Zen 2アーキテクチャ採用の「Ryzen Mobile 4000」シリーズ

しばらくの間パッとしなかったAMDは、Ryzenの高いコストパフォーマンスに加え、PlayStation 5や次世代Xboxはじめ据置型家庭用ゲーム機にもAMDプロセッサーやグラフィックス機能が採用され続けるなどで改めて知られるようになった。今や自作PCだけでなく、メーカー、BTO PCに第3世代AMD Ryzenシリーズを採用するデスクトップPCが増えている。

そんなAMD Ryzenのモバイル向けは、デスクトップ向けに遅れること約1年、Zen2アーキテクチャを採用するRyzen Mobile 4000シリーズを投入している。

大幅性能アップで注目を集める第3世代Ryzen Mobile。GPUにはRadeon Vegaを内蔵する

大幅性能アップで注目を集める第3世代Ryzen Mobile。GPUにはRadeon Vegaを内蔵する

Ryzen Mobile 4000シリーズは、同社デスクトップ向けAPU(CPUとGPUを統合したAMDの製品名)と同じく、GPU「Radeon Vega」を内蔵する開発コードネーム「Renoir」(ルノアール)として噂されていた新世代のAPUになる。

  • 第1世代Ryzen Mobile APU: Zenアーキテクチャ+Radeon Vega(Ryzen Mobile 2000シリーズ)
  • 第2世代Ryzen Mobile APU: Zen+アーキテクチャ+Radeon Vega(Ryzen Mobile 3000シリーズ)
  • 第3世代Ryzen Mobile APU: Zen 2アーキテクチャ+Radeon Vega(Ryzen Mobile 4000シリーズ)

製造プロセスとして、7nmプロセスを採用

メインストリームCPUの製造プロセスが14nmで滞っているIntelと異なり、7nmプロセスを採用しており、Zenアーキテクチャ、12nmプロセス採用の第2世代Ryzen Mobileから大幅に性能を引き上げられている。

7nmプロセス製造とZen2アーキテクチャの採用は大きく、第2世代Ryzen Mobileからはメモリーコントローラーが強化され、メモリークロックは第2世代Ryzen MobileのDDR4-2666から、DDR4-3200に向上ししている。

さらに、IntelがIce LakeでサポートするLPDDR4-3733を上回るLPDDR4x-4266にも対応している。このメモリーの高クロック化により、iGPUの性能アップに期待が持てる。

 

開発コードネーム「Renoir」の第3世代Ryzen Mobile 4000シリーズ

開発コードネーム「Renoir」の第3世代Ryzen Mobile 4000シリーズ

Ryzen Mobile 4000シリーズのラインナップ

2つのスキームで展開するIntelのモバイル向け第10世代Coreプロセッサーと比較すると、Ryzen Mobile 4000のSKUは少ない。8コア/16スレッド、ベース稼働クロック3.3GHz、最大稼働クロック4.4GHzとなる「Ryzen 9 4900H」を最上位に、4コア/4スレッドでベース稼働クロック2.7GHz、最大稼働クロック3.7GHzの「Ryzen 3 4300U」まで、9SKUを用意している。

TDP(熱設計電力)は、15W、35W、45W、35-54Wの4種類。TDP15WのSKUを含め、ベース稼働クロックが高くなっている点にも注目といえる。なお、TDPはプロセッサナンバー末尾のアルファベットで分かり、TDP15Wは「U」、35Wは「HS」、45W、35~54Wは「H」となっている。

Ryzen Mobile 4000シリーズのラインナップ

GPUコアは第2世代同様Radeon Vegaベース

GPUコアは第2世代と同じRadeon Vegaをベースに7nmプロセスに移行しており、各SKUでGPUコア数や、GPU稼働クロックが異なるAMD Radeon Graphicsが搭載されている。

GPUはAMD Radeon Graphicsを搭載

GPUはAMD Radeon Graphicsを搭載

そこで、GPUコア数7基、稼働クロック1600MHzのAMD Radeon Graphics(Vega 7)を搭載しているRyzen 7 4700Uでその性能を確認してみた。

「Intel Iris Plus Graphics」採用のモバイル向け第10世代Coreプロセッサー搭載ノートPC同様に、Ryzen 7 4700U搭載ノートPCにおいて、Epic Gamesの「フォートナイト」をフルHD解像度、画質(プリセット)「中」という条件でプレイしたところ、フレームレートは80fps台と、快適ゲーミングの指標となる60fpsを余裕でオーバーしていた。CPUスペックが異なるため横並びの比較にはならないので、あくまで参考程度としてほしい。

さらに、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV」の公式ベンチマークでは、フルHD解像度、標準品質(ノートPC)で「とても快適」指標を記録していた。フレームレートは30fps台だったので、実際にレイド戦などをプレイするのは厳しいが、iGPUとしては非常に高い性能を持っているのは確実といえる。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」のスコア

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」のスコア (C)2010 – 2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

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カテゴリー:ハードウェア

タグ:AMD

最新ノートPCでIntelモバイルCPU「Core i7-1065G7」とAMD「Ryzen 7 4700U」の性能を確認する

最新WindowsノートPCでIntelとAMDのモバイルCPUの性能を確認する

現在モバイルノートPCで採用されている最新モバイルCPUというと、Intelの「第10世代Coreプロセッサー」、AMDの「Ryzen Mobile 4000」がある。基本的な特徴についてはすでに掲載してある記事の通りだが、実際の処理性能が気になる方は多いはずだ。

ノートPCの場合、同一スペックのCPUでも、メーカーが設定したTDP(Thermal Design Power。熱設計電力)値や、冷却性能でパフォーマンスが若干異なってしまう。そこで、IntelとAMDのCPUをボディデザインで採用している日本HPのノートPC「HP ENVY x360 15」を借り受け、ベンチマークを実施してみた。

日本HPの最新ノートPC「HP ENVY x360 15」シリーズ。お絵描きなどにも最適なペン入力にも対応

日本HPの最新ノートPC「HP ENVY x360 15」シリーズ。お絵描きなどにも最適なペン入力にも対応

日本HPは、CPUにIntel 第10世代Coreプロセッサー(Ice Lake)を採用した「HP ENVY x360 15(インテル)」と、第3世代Ryzen Mobileを採用する「HP ENVY x360 15(AMD)」を用意している。それぞれ10点タッチ、4096段階の筆圧感知対応の15型フルHD液晶IPSパネルや、タブレット形状にもできる360度回転ギミック、Wi-Fi6などのスペックを備えている最新モデルになる。

Intelモデルのシルバーに対して、AMDモデルはブラックのボディカラーを採用

Intelモデルのシルバーに対して、AMDモデルはブラックのボディカラーを採用

液晶ディスプレイは360度回転。タブレットとしても利用できる

液晶ディスプレイは360度回転。タブレットとしても利用できる

「HP ENVY x360 15(インテル)パフォーマンスモデル」(15-ed0026TU)のCPUは、4コア/8スレッド、ベース稼働クロック1.30GHz、最大稼働クロック3.9GHzの「Core i7-1065G7」。また512GB Optane SSD、16GBメモリー(DDR4-3200)などを搭載している。直販価格は税別13万9800円だ。

  • 「HP ENVY x360 15(インテル)パフォーマンスモデル」(15-ed0026TU)
  • Core i7-1065G7(Ice Lake)搭載。 4コア/8スレッド、ベース稼働クロック1.30GHz、最大稼働クロック3.9GHz
  • 直販価格は税別13万9800円

もう一方の「HP ENVY x360 15(AMD)パフォーマンスモデル」(15-ee0020AU)は、8コア/8スレッド、ベース稼働クロック2.0GHz、最大稼働クロック4.1GHzの「Ryzen 7 4700U」を採用。その他の仕様はIntelモデルと同様で、直販価格は税別12万9800円だ。

  • 「HP ENVY x360 15(AMD)パフォーマンスモデル」(15-ee0020AU)
  • Ryzen 7 4700U搭載。8コア/8スレッド、ベース稼働クロック2.0GHz、最大稼働クロック4.1GHz
  • 直販価格は税別12万9800円

物理4コアと、8コアの差や、ベース稼働クロックに700MHzの開きがあるが、最大稼働クロックは近い位置にある。しかも同価格帯になっている2機種で、CPUやiGPU(Integrated GPU。内蔵GPU)の処理能力を見ていこう。

Adobe製品を使ったテストでは、実稼働クロックの差が顕著に出る結果に

「Adobe Photoshop Lightroom」を使ったRAW現像や、「Adobe Premiere Pro」での4K動画編集、編集動画の書き出しなどといったCPUが重要な処理をいくつか行ったところ、Ryzen 7 4700U搭載のHP ENVY x360 15(AMD)パフォーマンスモデルが高速に処理を完了した。

Ryzen 7 4700Uが物理8コアを採用している点に加えて、シングル、マルチコア動作時ともに実稼働クロックが3GHz台と高いことがポイントといえる。

実際、オールコアに高い負荷をかけ、処理時間に大きく影響する「Adobe Premiere Pro」を使った4K動画の書き出し(4K→フルHD解像度、約13分40秒、ソフトウェア処理)に要した時間は、Intel Core i7-1065G7搭載のHP ENVY x360 15(インテル)パフォーマンスモデルが、28分12秒必要としたところ、Ryzen 7 4700U搭載のHP ENVY x360 15(AMD)は24分4秒で完了している。

HP ENVY x360 15(インテル)パフォーマンスモデルで、「Adobe Premiere Pro」を使って、編集動画を書き出した際のタスクマネージャー

HP ENVY x360 15(インテル)パフォーマンスモデルで、「Adobe Premiere Pro」を使って、編集動画を書き出した際のタスクマネージャー

フリーエンコードソフトウェア「HandBrake」で、約5分間の4K MP4動画をフルHD解像度(プリセット:Vimeo YouTube HQ 1080p60)のエンコードを試したところ、同様の状況となった。

H.265で出力すると、Ryzen 7 4700Uは10分26秒で出力が完了し、Intel Core i7-1065G7よりも11分程度高速だった。

Ryzen 7 4700Uの動画エンコード実行中のタスクマネージャー

Ryzen 7 4700Uの動画エンコード実行中のタスクマネージャー。CPU使用率は100%

Core i7-1065G7の最大稼働クロックは3.9GHzだが、あくまでもシングル負荷時の数値で、動画エンコードなどのすべてのコアに負荷がかかる際の実稼働クロックは1GHz台だったため、この差はやむを得ないところだ。

CGレンダリング系ベンチマーク「CINEBENCH R20」でシングルコアのCPU処理能力を見る

また、CGレンダリング系ベンチマーク「CINEBENCH R20」で、シングルコアのCPU処理能力(スコア)を見てみた。HP ENVY x360 15搭載のCore i7-1065G7は、ベンチマーク実行中に3.34GHz前後の稼働クロックになり、スコアは「398 pts」を記録した。3.72GHz~4GHz前後まで稼働クロックを伸ばしたRyzen 7 4700Uは「464 pts」のスコアを記録。デスクトップ向けと同じく、モバイル向けプロセッサーも、IntelとAMDのコアあたりの性能差はほぼないといえるようになっている。

冷却ファン非搭載でも運用できる第10世代Coreプロセッサー、冷却機構はマストだがクリエイティブ作業もこなせる第3世代Ryzen Mobile

第10世代Coreプロセッサーは、MicrosoftのタブレットPC「Surface Pro」(Core i3/Core i5搭載モデル)に代表される、冷却ファンを装備しない(できない)機種でも運用できる低消費電力(低発熱)な(Stock Keeping Unit)を用意したモバイルCPUといえるだろう。
一方の第3世代Ryzen Mobileは、冷却機構はマストだが、6コア以上の物理コア&高稼働なクロックでクリエイティブな作業もラクラクと行える性能を発揮するといったイメージだ。

最新ライトゲームをiGPUで楽しめる第3世代Ryzen Mobile

AMD Ryzen Mobileが内蔵するGPU「AMD Radeon Graphics」は、高パフォーマンスが特徴とされる。そこで実際のゲーム環境での動作を見るため、新たなeスポーツタイトルとして注目を集めるライトFPSゲームの「VALORANT」や、マイクラ好きにオススメなハックアンドスラッシュ&ダンジョンクローラーRPG「Minecraft Dungeons」を試してみた。

すると、Ryzen 7 4700UのiGPU「AMD Radeon Graphics(Vega 7)」では、「VALORANT」で平均フレームレート179.4fpsを叩き出し、「Minecraft Dungeons」でも30fpsオーバーの平均フレームレートになった。

注目の「VALORANT」。iGPUのAMD Radeon Graphics(Vega 7)なら、画質を上げても余裕で60fpsオーバーを維持できる

注目の「VALORANT」。iGPUのAMD Radeon Graphics(Vega 7)なら、画質を上げても余裕で60fpsオーバーを維持できる (C)2020 Riot Games, Inc. All rights reserved. Riot Games, League of Legends and PvP.net are trademarks, services marks, or registered trademarks of Riot Games, Inc.

IntelのモバイルCPU(Ice Lake)のうち、Core i7-1065G7が内蔵する最上位iGPU「Intel Iris Plus Graphics(64ユニット)」では、「VALORANT」は平均98.5fpsとゲームプレイを軽快に楽しめるフレームレートだった。ノートPCでカジュアルゲームを満喫するなら、第3世代Ryzen Mobileに注目といえるだろう。

Intel Iris Plus Graphics(64ユニット)は30fpsを切ってしまったが、AMD Radeon Graphics(Vega 7)は、30fpsオーバーでプレイ可能だった

Intel Iris Plus Graphics(64ユニット)は30fpsを切ってしまったが、AMD Radeon Graphics(Vega 7)は、30fpsオーバーでプレイ可能だった Mojang (C) 2009-2019. “Minecraft” is a trademark of Mojang Synergies AB