CRISPRは次のステージへ?科学者たちはRNA編集に一歩近づいた

有名なSalk研究所の研究者たちが、細胞内の機能をより正確に操作できるようにするCRISPR酵素の分子構造を、決定できたと報告している。

過去数年間にわたって、CRISPR-Cas9が、個人の細胞の中にある欠陥を修正するために、遺伝子編集能力を提供してくれるのでは、という大衆の期待を担い続けてきた ―― 突然変異を治療し、多くの病気の出現を防いでくれるかもしれないものとして。

具体的には、Cas9酵素群は、はさみのような振る舞いをして、遺伝子コードの一部を切り取り、それらを代替片と置き換える働きをする。しかし、これらの酵素は生体の発達の基本を司るDNAを標的としているために、酵素を使ってDNAを再プログラムする行為が、有益さを上回る有害な結果を生み出すのではないかという懸念も高まっているのだ。

Scientific Americanのレポートには次のように説明されている:

月曜日に発表された研究は、それはタイタニック号サイズの氷山の一角に過ぎないと示唆する:専門家が考えていたものよりも遥かに厳しい遺伝的大混乱を、CRISPR-Cas9が引き起こす可能性があるのだ。研究は、将来CRISPRベースの治療を受ける患者の健康を、脅かしかねないと結論付けている。

この結論は、関連する問題を特定した2つの研究の直後に出されたものだ:CRISPR処理を受けた細胞の中には、おそらく主要抗ガンメカニズムを欠いてしまうものがあり、そのため腫瘍を誘発してしまう可能性がある。

化膿連鎖球菌由来のCRISPR-CAS9遺伝子編集複合体。Cas9ヌクレアーゼタンパク質は、相補的部位でDNAを切断するためにガイドRNAシーケンスを使用する。Cas9タンパク質:白い表面のモデル。DNA断片:青いはしご状のもの。RNA:赤いはしご状のもの。写真提供:Getty Images

ジャーナル誌Cellに掲載されたSalk Instituteによる新しい発見には、DNAの代わりにRNAを標的とすることができる酵素であるCRISPR-Cas13dの、詳細な分子構造が示されている。

かつては、単にDNAにエンコードされた命令の伝送機構に過ぎないと考えられていたRNAは、今や酵素のような生化学反応を行い、細胞の中でそれ自身が調節機能を果たすことが知られている。細胞機能の全体計画ではなく、細胞が機能するための機構を標的とすることができる酵素を同定することにより、科学者はより少ないリスクでより高度に洗練された治療法を考え出すことができる筈だ。

より簡単に言えば、科学者たちに、遺伝子に対する恒久的な(そして潜在的に危険な)変更を加えることなしに、遺伝子の活動を変えることができるような編集ツールを与えることは、探究に値するオプションであるということだ。

「DNAは一定ですが、常に変化しているのはDNAからコピーされるRNAメッセージなのです」と語るのはSalk研究所AssociateのSilvana Konermann(ハワード・ヒューズ医学研究所のハンナグレーフェローであり、研究の筆頭著者の一人)である。「RNAを直接制御することによってそれらのメッセージを調節できるということは、細胞の運命に対して重要な影響をもたらすということです」。

Salkの研究者たちは、今年のはじめに彼らがCRISPR-Cas13dと呼ぶ酵素ファミリーをまず同定し、この代替システムがRNAを認識して切断できることを示唆した。彼らの最初の研究は認知症治療を巡るもので、ツールを使って認知症患者の細胞の中でのタンパク質バランスの不均衡を修正できる可能性があることを示した。

「以前の論文では、ヒト細胞の内部でRNAを直接操作するために使用できる新しいCRISPRファミリーを発見しています」と語るのは新しい研究の共著者である、Helmsley-SalkフェローのPatrick Hsuである。「Cas13dの構造を可視化することができたので、これからは酵素がどのようにRNAに導かれ、どのようにRNAを切断することができるかを、より詳細に見ることができます。これらの知見によって、私たちはシステムを改善し、プロセスをより効率的にして、RNAに起因する疾患を治療する新しい戦略の道を切り開くことができるのです」。

この論文の他の著者は、SalkのNicholas J. BrideauとPeter Lotfy、ホワイトヘッド研究所バイオメディカルリサーチのXuebing Wu、スクリプス研究所のScott J. Novick、Timothy Strutzenberg、そしてPatrick R. Griffinである。

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(翻訳:sako)

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