イスラエルは日本のスタートアップ企業にとって世界へのゲートウェイになるか?

これまで何度かTechCrunch Japanで報じているが、サムライインキュベートの創業者でCEOの榊原健太郎氏が、イスラエルと日本をブリッジするまた別の枠組みを作って動き出したようだ。

サムライが今日発表したのは、現地テルアビブのアクセラレーター「StartupEast」への投資と協業だ。まず6月に東京でイベントを行い、イスラエルを始めとする各国のスタートアップ関係者を日本へ紹介する。そして「Startup adVenture Bootcamp」と呼ぶ、3週間をテルアビブで過ごすアクセラレータープログラムの日本のスタートアップからの受け付けを開始する。3週間のプログラムには、ワークショップやネットワーキングイベントを通じた現地スタートアップ界の成功者との交流や、担当分野ごとのメンターによる英語圏でのテストマーケティング、投資家の前でのピッチを行うデモデイなどが含まれているそうだ。ちなみに、これは公式発表としては第1号のイスラエル投資案件だが、榊原氏によれば未公表の投資案件はすでに10社以上になっているそうだ。

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なんでイスラエルなのか? なにをやってるのか?

日本から見るとイスラエルは距離的にも心理的にも遠い。飛行機だと韓国経由でテルアビブまで15時間、いつもドンパチやっていて、人気のダウンロードアプリナンバーワンは「ミサイル警報アプリ」というような土地柄だ。ヨーロッパの一部のようでもあり、アジアの一部でもあるとイスラエル人はいうが、それは日本で言えば三重県のような感じではないのか。「近畿じゃねぇ。中部でもねぇ」と言われる三重県民には申し訳ないが、つまりイスラエルもアジアと文化的近縁性が薄いように思う。

なのだけど、イスラエルこそ、日本のスタートアップ企業にとって、世界へ繋がるゲートウェイになれるのだ、と、榊原氏が投資とパートナーシップを決めたStartupEastの創業者でパートナーを務めるアモス・アブナー氏(Amos Avner)はSkypeインタビューでTechCrunch Japanに、そう語った。

startupeast01「日本企業がアメリカに直接行ってビジネスをやってもいいのですが、たぶんすごく難しい。例えば、日本の大手通信キャリアのCEOがシリコンバレーに行っても、面会を断られることがあったと言います。人的ネットワークを使った正しい紹介がないと入っていくのが難しいのです」(アブナー氏)

ここだけ聞くと、なぜか間に入ってきて紹介料を取るいかがわしい「紹介ビジネス」っぽくも聞こえるが、この言葉の裏には、これまでイスラエルが培ってきた米国をハブとする世界とのビジネスネットワークへの自信があるようだ。

「イスラエルは人口800万人の小さな国ですが、オープンな社会です。国内市場が小さいので輸出に頼らざるを得ません。だからイスラエルでは英語教育は小さなときからやっていて、みんなバイリンガルだし、それが成功への鍵だと理解しています。日本同様にアメリカから大きな影響を受けています。アメリカはグローバリゼーションの中心ですしね。テルアビブは西洋化していて、街を歩けば目につくブランドも物品もアメリカから入ってきています。イスラエル人はアメリカへ旅行もするし、仕事という意味でも移住者が多いんです。シリコンバレーだけでも5万人のイスラエル人が働いていてます」

総人口800万のうち5万人がシリコンバレーで働いているというのは、かなりの割合だ。これを日本の人口1億2000万人にして考えると、約75万人の日本人がシリコンバレーにいておかしくないという計算になるけど、もちろんシリコンバレーに日本人はそんなにいない。

アブナー氏によれば、西洋文化との親和性の高さとオープンさを生かして、アジアでいえばシンガポール的なハブになることを目指しているようだ。

「例えばスリランカは、ずっと内戦状態でしたが、一方でリゾートでも有名で、観光業で国家イメージを作るのに成功しています。イスラエルもビジネスやスタートアップのハブとして確立していきたいんです。すでにヨーロッパやアメリカ方面へのコネクションはできていますが、アジアは、まだこれからです。これは別にイスラエルが良い国だからおいでよって話じゃないんです。イスラエルはアジアの一部で、中国や韓国、日本にとって自然な、世界に通じるゲートウェイ、足がかりとなれるという話です」

StartupEastは2013年創業の、イスラエルとアジアを結ぶという、ちょっと特異な立ち位置のアクセラレーターだ。これまでイスラエルはもちろん、韓国やシンガポールのスタートアップ企業を合計15社ほど「Startup adVenture Bootcamp」という3週間のアクセラレータープログラムに受け入れてきた。現在も次の7社が決定しているという。アジア圏の起業家にとってはイスラエルと、その向こう側への世界へのハブという位置付けだが、逆方向のベクトルとして、アジア圏へ進出したいイスラエルを始めとするスタートアップ企業へのマーケティング支援や提携提案なども行うという。StartupEastは6月に、4社のイスラエル企業と1社のシンガポール企業を引き連れて東京で初めてのイベントを行うそうだ。サムライインキュベートがStartupEastと提携した背景には、イスラエル発のスタートアップ企業のアジア進出をゲートウェイでごっそり押さえたいということがあるようだ。この辺は先行者メリットがありそうだし、アブナー氏も先駆者としての榊原氏を高く評価している。「なぜサムライと組んだかといえば、それは彼らが先駆者であり起業家で、自分たちと同じマインドセットを持っていると思ったからです。テルアビブで日本人や日本企業のプレゼンスがないわけではありません。楽天の人たちはいたし、ソニーも来てるし、医療関係でインキュベーターを買収したりというのがありました。でも、今回のような取り組みではオレがやるぞ、という人物が必要です。ケン(榊原氏)は大きなリスクを取ってきたし、ユニークな存在です」。

StartupEastは、シンガポール、韓国には提携パートナーがいて、今回日本を追加。今後は中国でもローカルの提携パートナーを探すのだという。

スタートアップハブとして実績を伸ばすテルアビブ

イスラエルといえば、シリコンバレーやロンドンと並んでスタートアップ先進地域として名を馳せている。

例えば、Economistがまとめた各種データによれば、1人当たりのベンチャーキャピタル投資額ではダントツの世界1で170ドル。2位のアメリカに対しても75ドルと2倍以上の差を付けている。PwCがまとめたレポート(PDF)でも、イスラエルのスタートアップ企業のM&AとIPOによるエグジットの総額は2012年が56億ドル、2013年が76億ドル、2014年が149億ドルと年々急速に伸びている様子が分かる。バイアウトによる早すぎるエグジットの多さが逆に懸念されていたようだが、2014年にはIPO件数が18件と前年の3件から大幅に増加している。TechCrunchも頻繁に伝えているが、イスラエル発のスタートアップとしては、Googleが10億ドル以上で買収したWazeや、Appleが3億ドル以上で買収したPrimeSense楽天が9億ドルで買収したViberなどが思い浮かぶ。最近だとDropboxがオフィス統合のために買収したCloudOnというのもイスラエルだ。

これまで買収する側としては、アメリカのテックジャイアントが多かったが、イスラエルのスタートアップに注目するのは、もはやアメリカだけではなく、中国からもどっと資金が流れこんでいるようだ。たとえば、2015年1月にはイスラエルのVCであるSingulariteamがTencentやRenrenから1億ドル以上の資金を集めてファンドを組成したり、同様にイスラエルVCのCarmel VenturesがBaiduなどから2億ドル近くの資金を集めて4号ファンドを組成したというニュースもあった。TechCrunchではイスラエルがエグジット大国となりつつあって、中国企業がイスラエルのスタートアップに接近していると伝えしている。

テルアビブで生まれ育ったというアブナー氏によれば、韓国や中国からイスラエルへは良く人が来ていて、LGエレクトロニクスあたりがイスラエルのスタートアップを買収する例も出ているそうだ。一方、サムライの榊原氏が帰国時に日本企業をまわった印象では、「上場企業の製造メーカーやIT企業の社長と話をしても、皆さんイスラエルのことをご存じない」という状況という。そういう意味でも日本とイスラエルを繋ぐことには、人的交流による情報流通という役割もありそうだ。

StartupEastでは、すでにイスラエル=アジアの人的ネットワークによって、協業の事例が出てきているが、アブナー氏は「今後3、4年でもっと日本とイスラエルのジョイント・ベンチャーが出てくるのでは」と話している。

ミサイル着弾でも帰国しない、サムライ榊原氏が率いる新ファンドは「イスラエルと日本の架け橋になる」

創業間もないスタートアップを育成投資するインキュベーター。日本での草分け的存在として知られるサムライインキュベートが1月12日、5号ファンドを設立すると発表した。これまで国内約80社に投資してきた同社だが、新ファンドでは、シリコンバレーに次ぐ「スタートアップの聖地」と言われるイスラエルの企業に積極的に投資していく。

「聖地」から世界を狙うスタートアップを支援

TechCrunchでも報じたが、サムライインキュベート創業者の榊原健太郎氏は5月にイスラエルに移住し、7月に同国最大の商業都市であるテルアビブに支社を設立。起業家の卵が寝食を共にする住居兼シェアオフィスの「Samurai House in Israel」を構え、イスラエルから世界を狙うスタートアップを支援している。

イスラエルがどれくらい「スタートアップの聖地」なのかは、データが物語っている。人口わずか776万人のイスラエルにおけるベンチャーキャピタル(VC)の年間投資額は2000億円と、日本の約2倍。人口1あたりの投資金額では世界1位だ。SequoiaCapitalやKPCB、IntelCapitalといった世界の大手VCが現地のスタートアップに投資し、これらの企業をIT企業の巨人が買収するエコシステムができているようだ。

例えばFacebookは2012年6月、iPhoneで撮影した友達にその場でタグ付けできるアプリを手がけるFace.comを買収。このほかにも、Microsoftは検索技術のVideoSurfを、AppleはXboxのKinectに採用された3Dセンサー技術のPrimeSenseを、Googleは地図アプリのWazeを買収。日本でも、楽天がモバイルメッセージアプリ「Viber」を9億ドル(約900億円)で買収して話題になった。

ちなみに、TechCrunch編集者のMike Butcherは「テルアビブで石を投げればハイテク分野の起業家に当たる」と、スタートアップシーンの盛り上がりを表現している。実際のところを榊原氏に聞くと、「道端でも飲食店やクラブでも起業家だらけ」とのことで、本当らしい。

テルアビブの市役所には、TechCrunch編集者のコメントが掲げられている。左から2番目が榊原氏

ファンド規模は10倍に、要因は日本企業が注ぐ熱視線

新ファンドでは、イスラエルと日本のスタートアップ110社以上に投資する。イスラエルについてはファイナンスやセキュリティ、ヘルスケア、ロボティクス、ウェアラブル分野のスタートアップ40社が対象。この中には、ベネッセ出身の寺田彼日氏らが現地で創業した「Aniwo(エイニオ)」も含まれる。

日本人とイスラエル人の混合チームで構成されるエイニオが手がけるのは、起業数が年間3000社と言われるイスラエルのスタートアップの事業スライドを収集・公開するサービス「Million Times」。起業家や投資家、一般ユーザーが交流できるプラットフォームを作ろうとしている。榊原氏は「事業スライド版のGoogleを狙える」と評価していて、1000万円の投資が決まっている。

イスラエル企業の投資先としては、自分の足を動画撮影することで足の形をモデリングする、靴の通販サイトで使えそうな画像解析技術であったり、自分の周囲数十センチの空気だけを浄化するウェアラブル空気清浄機を手がけるスタートアップなどに投資する予定だという。

新ファンドの規模は約20億円になる見込み。サムライインキュベートの過去のファンドを見ると、1号が5150万円、2号が6200万円、3号が2億1000万円、4号が2億4000万円。創業間もないスタートアップを対象にしていることもあり規模が小さかったが、5号ファンドでは10倍となる。

ファンド規模拡大の要因の1つは、日本企業がイスラエルに注ぐ熱視線だ。前述の通り、イスラエルからはイケてるスタートアップが数多く輩出されていて、イノベーションを迫られる日本の大企業にとって、魅力に映ることだろう。かといって、イスラエルの現状はわからない。そんな大企業が、新ファンドへの出資を希望するケースが増えているのだという。

大企業マネーの背景には「過去のファンド実績がある」と榊原氏はアピールする。1号ファンドでは、スマートフォン向けの広告配信サービスのノボットが、創業2年目にKDDI子会社のmedibaに15億円で売却。3号、4号ファンドの実績は明かしていないが、1号ファンドは7倍、2号ファンドは10倍以上のリターンが確定しているという。

ノボット以外の投資先としては、個人が独自の旅行を企画して仲間を集うトリッピース、、個人がコンテンツを販売できるオンラインサロンプラットフォームを手がけるモバキッズ、スライド動画作成アプリ「SLIDE MOVIES」や日記アプリ「Livre」など他ジャンルのアプリを手がけるNagisaなどがある。

イスラエルの技術と日本企業の架け橋に

日本進出を狙うイスラエルのスタートアップにとっても、「渡りに船」の存在のようだ。日本の四国ほどの面積に人口がわずか776万人のイスラエルは国内市場がないに等しく、敵対するアラブ諸国からなる周辺国の市場も見込めない。だからこそ、「最初から欧米やアジアを視野に入れるスタートアップが多い」と榊原氏は話す。

「イスラエルの起業家は0から1を生み出すのが得意。イグジットの意識も高くて、『このプロダクトはキヤノンに使ってもらえる』とか『ドコモにピッタリ』とか言ってくる。新ファンドは、イスラエルの技術を日本企業と連携させる架け橋になれる。」

5号ファンドでは、イスラエルに登記するスタートアップについては、一律で1億円の評価をして、1000万円を上限に投資する。国内のスタートアップは引き続き、B2BおよびC2C分野に注目し、一律で3000万円の評価をして、450万円を上限に投資する。現時点でイスラエル企業15社、日本企業5社への投資が確定しているという。

ミサイルが飛んできても帰国しない「ラストサムライ」

3月の取材時に、「日本の住居を完全に引き払って、背水の陣でイスラエルに挑戦する」と語った榊原氏。移住後は支社設立のために、ヘブライ語を話す日本人に協力してもらって銀行口座を作ることや、イスラエル人の保証人探しに奔走することに始まり、現地でのプレゼンスを高めるために人と会いまくる日々だったと振り返る。

7月8日には、イスラエル軍がガザ地区への軍事作戦を開始。それ以降、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとの争いで、イスラエルには1000発以上のミサイルが着弾している(ほとんどはミサイル防衛システム「アイアンドーム」が迎撃している)。7月末に実施したイスラエル支社のオープニングパーティーでは「ミサイルが飛んできても日本には帰らない」と宣言。現地では「榊原こそラストサムライ」と喝采を浴びた。

住居兼シェアオフィスのSamurai House in Israelでは、現地の起業家や投資家にアピールするために、毎週のようにイベントを開催。寿司を作ったり剣道を教えるなど、日本をテーマにしたミートアップを60回以上やってきた。「最初はどこにも投資できないんじゃないかと不安もよぎった」という榊原氏だが、今では「イスラエルは日本人にとってブルーオーシャンな市場。リターンを得るのは難しくない」と自信をのぞかせている。

Samurai House in Israelでは毎週ミートアップを開催している


イスラエル経由世界行き――日本の起業家を募集開始、サムライインキュベート榊原氏が現地移住でベンチャー支援

サムライインキュベートの榊原健太郎氏

日本のインキュベーターの草分けでもあるサムライインキュベートが、シリコンバレーに次ぐ「スタートアップの聖地」と言われるイスラエルに進出する。5月に同社代表の榊原健太郎氏が自ら移住し、同国最大の商業都市であるテルアビブに支社を設立。起業家と共同生活して100%事業にコミットするためのシェアハウス「Samurai House in Israel」を開設し、世界を狙う日本のスタートアップを徹底的に支援するという。これに伴い、シェアハウスへの入居者募集を開始。応募条件は英語で日常的なコミュニケーションができることなどで、専用サイトで4月2日まで募集している

サムライインキュベートは榊原氏が2008年3月に創業。現在は東京・天王洲アイルに起業家支援のためのコワーキングスペース「サムライスタートアップアイランド」を構え、経営やマーケティング、財務などさまざまな面でサポートしている。2009年には「サムライファンド」を立ち上げ、1号ファンドからは、スマートフォン向けの広告配信サービスのノボットが創業2年目にKDDI子会社のmedibaに15億円で売却されている

今でこそ80社以上に投資しているサムライインキュベートだが、創業当初は東京・練馬に築20年を超える一軒家を借り上げ、スタートアップ5社と寝食を共にして24時間体制で起業家を支援していた。榊原氏が「サムライハウス」と名付けたこの一軒家は、日本で最初の共同生活ができる起業家向けのコワーキングスペースだという。このたび立ち上げるSamurai House in Israelは、イスラエル版のサムライハウスと言えそうだ。

IT業界の巨人が熱視線を送る中東のシリコンバレー

イスラエルは年間700社以上のハイテクスタートアップが設立され、中東のシリコンバレーとも評される。TechCrunch編集者のMike Butcherは「テルアビブで石を投げればハイテク分野の起業家に当たる」と、スタートアップの盛り上がりを表現している。大手VCの視線も熱く、SequoiaCapitalやKPCB、IntelCapitalなどが現地のスタートアップに投資し、これらの企業をIT業界の巨人が相次いで買収するなど、「イグジットのエコシステムが出来上がっている」(榊原氏)のだとか。

例えばFacebookは2012年6月、iPhoneで撮影した写真に写った友達にその場でタグ付けできるアプリを手がけるFace.comを買収。その金額は8000万ドルから1億ドルに上るとも報じられている。このほかにも、Microsoftは検索技術のVideoSurfを、AppleはXboxのKinectに採用された3Dセンサー技術のPrimeSenseを、Googleは地図アプリのWazeを買収するなど、M&Aの事例は枚挙にいとまがない。

ちなみに、イスラエルのスタートアップ事情を詳しく説明する書籍『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』では、「もしイスラエルが“インテル・インサイド”にならって製品に“イスラエル・インサイド”のステッカーを貼ったとしたら、そのステッカーは世界中の消費者が手にするほとんどすべての製品が対象になる」とその技術力の高さを評している。

テルアビブの市役所には、TechCrunch編集者のMike Butcherのコメントが掲げられている。左から2番目が榊原氏

そんなイスラエルに進出するサムライインキュベートは、現地にシェアハウスを開設して何をするのか。

榊原氏によれば、現地の滞在先やシェアオフィス、シードマネーの500万円を提供するほか、イスラエルでの起業やチームビルディング、ファンディング、マーケティングなどの面で支援するのだという。「イスラエルは物価が日本より高いため、僕も入居者と自炊することになりそう」と話すように、文字通り寝食を共にするようだ。こうしたサポート以外にも、榊原氏が築いた現地のエンジェルやVCとの人脈を活かし、支援先のスタートアップへの投資を促していく。

海外のVCの多くは、そもそも日本の起業家がどういうものかあまり知らないため、日本に登記しているスタートアップに投資したがらない傾向がある。また、日本市場は世界の市場規模に比べて小さいことから、市場規模の大きい世界へ展開している企業が関心を持たれがちだ。

その点、日本の四国ほどの面積に人口がわずか776万人のイスラエルは国内市場がないに等しく、敵対するアラブ諸国からなる周辺国の市場も見込めない。だからこそ、世界レベルで活躍するスタートアップが生まれるのだと榊原氏は指摘する。現地のスタートアップに興味を持つVCも多いことから、「日本のスタートアップがイスラエルを経由してシリコンバレーや世界に進出できる可能性も大きい」(榊原氏)。

シェアハウスの入居応募条件は、英語で日常的なコミュニケーションができる人(ちなみに榊原氏自身も、週に3回ほど英会話学校に通って英語を特訓中らしい)。エンジニアを獲得できるCEO候補、長期滞在可能、イスラエルに知見がある、テクノロジー寄りのサービス、イスラエルと親和性の高い事業アイデアを持って実現できる人であれば、なお歓迎なのだという。応募は日本人起業家が大半を占めると思われるが、「サムライ魂を持っていれば、国籍は問わない」としている。

日本の住居を5月で引き払い、背水の陣でイスラエルに挑むという榊原氏。当面の目標としては、3年以内に現在のサムライインキュベートと同様、年間60社以上に投資することを掲げる。投資先としては日本人の起業家、日本人とイスラエル人のチーム、それ以外の海外起業家が対象。長期的には2020年の東京オリンピックが開催されるまでに、日本からGoogleやAppleといった「ホームラン級」のスタートアップを輩出したいと語っている。

「イスラエル経由世界行き」を実現するスタートアップが増えることを期待したい。