WeWorkの新CEO米国最大のモール運営不動産会社の元トップ

予定していた株式上場を撤回するなど波乱を経験中のWeWorkは、シェアリングエコノミーのスタートアップという企業イメージを捨て、むしろオフィス賃貸の世界的巨大企業という方向に転じたいなら不動産業出身のトップを選ぶべきだろう。

実はそれがまさに実現するという。 Wall Street Journal(ウォールストリート・ジャーナル)のスクープ記事によれば、WeWorkはSandeep Mathrani(サンディープ・マトラニ)氏を新しいCEOに指名した。

マトラニ氏はこの1年半、大手不動産会社のBrookfield Properties(ブルックフィールド・プロパティ)のCEOと同グループの副会長を務めてきた。それ以前にはシカゴの大手不動産会社であるGeneral Growth Properties(ジェネラル・グロース・プロパティ)でCEOを8年間務めている。同社はBrookfieldが2018年に92億5000万ドル(約1兆円)で買収するまで米国最大のショッピングモール運営会社だった。それ以前の8年間、上場不動産会社のVornado Realty Trust(ボルネード・リアリティ・トラスト)でエグゼクティブバイスプレジデントだった。同社の時価総額は125億ドル(約1兆3544億円)で、Brookfieldは80億ドル前後(約8668億円)だった。

同氏はマイアミ在住だが、WeWorkのCEO就任に伴ってニューヨークに移るという。公開されている登記書類によれば、同氏は昨年ニューヨークに高層アパートメントを、少なくとも1区画購入している。

マトラニ氏はソフトバンクグループの副社長であるMarcelo Claure(マルセロ・クラウレ)氏の指揮下に入る。クラウレ氏は昨年10月にWeWorkのエグゼクティブチェアマンに就任し、同氏自身「185億ドルのギャンブル」と呼ぶソフトバンクの投資の収拾に当たっている。

同氏氏は就任直後、不安が広がる社員の全員集会で「185億ドルという投資額は1100万人が住む私の母国(ボリビア)のGDPより大きい」と述べてWeWorkに対するソフトバンクのコミットメントを強調した。

クラウレ氏は以前、ソフトバンク傘下のSprintのCEOを務めており、このときT-MobileのCEOであるJohn Legere(ジョン・レジャー)氏をWeWorkのトップにスカウトしようとしたと伝えられる。 レジャー氏はその後メディアに「T-Mobileを離れる予定は一切ない」と述べたものの、数日もたたないうちに 2012年以来CEOを務めていたT-MobileのCEOを辞任した。ただしその後も同社の会長には留まっている(Vergeによるとこの契約は4月30日に満了となるという)。

SprintとT-Mobileは司法省から合併の承認を得ているが、ニューヨーク州、カリフォルニア州の司法長官を始めとする13州の司法長官が合併を阻止しようと裁判闘争を続けている。

いずれにせよ、マトラニ氏はWeWorkの共同創業者でCEOだったAdam Neumann(アダム・ニューマン)氏とは正反対の人物だ。 ニューマン氏のハイテクシェアリングオフィスのビジョンと会社運営は投資家から著しい不信の目を向けられて退陣を余儀なくされている。

ただしソフトバンク自身も、過去の投資ラウンドのたびにWeWorkに途方もない会社評価額を与えてきた。最後には470億ドル(約5兆930億円)に達し、これは一般投資家の眉をひそめさせるのに十分な額だった。にもかかわらず、WeWorkが株式上場の計画を発表するとただちにWeWorkの経営、会社統治の内容、そして何より会社の価値について確実な情報を求める声が市場から出た。

株式上場のためのS-1申請書を検討すると、それまで知られていなかった赤字の累積、ニューマン氏の会社運営の実態が明らかになった。これを機にリーダーシップの欠如を報じるウォールストリート・ジャーナルの記事をはじめ、内情を暴露する批判的報道が相次き、同社は上場計画の撤回に追い込まれた。

WeWorkのリストラ計画には2400人の人員削減も含まれていた。レイオフは米国の感謝祭の直前に実行され、またニューマン氏が買収したもののコア事業に無関係と判断されたいくつかの企業が売却された。マトラニ新CEOの最大の任務はこの上場計画を復活させることなのは間違いない。ウォールストリート・ジャーナルの記事によれば、ソフトバンクはWeWorkの5年計画の再建プランを策定しており、来年にはキャッシュフローを黒字化する予定だという。

WeWorkは、多少ペースは落ちるにしても、新しいオフィススペースの買収を取りやめるつもりはないと報じられている。

画像:Associated Press / GGP Inc.

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(翻訳:滑川海彦@Facebook