国内12兆円市場を狙う「住」のソーシャルサイト「SUVACO」が今朝ローンチ

「ソーシャル・ホームデザイン・サイト」という耳慣れないジャンルのWebサイト「SUVACO」(スバコ)が今朝、プレオープンした。建築家やリフォーム業者、インテリアメーカーといった「住」のプロフェッショナルや業者と、その顧客である施工主を結びつけるオンラインのコミュニティサイトだ。リフォームや、新築デザインを建築家やインテリアデザイナーに依頼したいが、そもそもどこを探せばいいか分からない私やあなたのような人と、まだ発掘されていないような建築家を結ぶプラットホームを目指す。


SUVACO共同創業者の黒木武将氏(左)と、中田寿氏(右)

ぱっと見は一種のカタログサイトだ。建築家のホームデザインの事例や、インテリア写真を雑誌感覚で眺められる。もともと住宅やインテリア関連の雑誌を眺める層には、サイトを巡回するだけでも楽しめそうなサービスだが、2013年のローンチなので、狙いソーシャルなインタラクションが発生するプラットフォームとなることだ。お気に入りの建築家をフォローしてみたり、コミュニケーションを取るとか、気に入った画像を家族や友人とシェアするといったことができる。建築家の作品に対してコメントを入れるとかデザインを相談するといったことも可能だ。こうしたインタラクティブなやり取りを通して、自分のイメージにあう理想の部屋やインテリアを探し、それを作れるプロに出会えるというのがSUVACOだという。

なんだ、またマッチングサイトかと思うかもしれないが、これは注目のスタートアップだ。

何しろリフォームや注文住宅は12兆円もある巨大市場という。SUVACO共同創業者の1人で、過去11年にわたってメリルリンチ等の外資系証券会社などでIPOを手がけてきた中田寿氏は「ネット企業がdisruptしていない最後の巨大市場」とし、次のメガベンチャーが登場する可能性がある市場規模と話す。生命保険の37兆円、銀行の15兆円、ファンションの7兆円、旅行の6兆円、化粧品の2兆円といった市場では、それぞれライフネット生命、ソニー銀行やじぶん銀行、zozotownといったようにネット企業が既存勢力のパイを侵食しているが、同様の変化は住宅関連市場では、まだ起こっていないという。

「まだ起こっていない」というのは、米国では同コンセプトのプラットフォームとして2009年2月に「Houzz」がスタートし、現在月間アクティブユーザー数が1600万人にのぼるコミュニティに成長しているからだ。Houzzはこれまでにセコイアキャピタル、KPCBなどを含むVCから計3度、総額49億円ほどの資金調達をしているレイターステージの成長株だ。Houzzはこれまでに蓄積したデータから「現実的なリフォームの相場」を米国の州ごとに表示するような機能を追加したり、雑誌の切り抜きをスクラップするようにお気に入りのアイテムを貯めることができるideabookという機能を提供していたりする。内装写真の各所に付けられたタグにマウスオーバーすれば、アイテムの商品情報や販売サイトへのリンクが表示されるなど、単にカタログ雑誌の写真をオンライン化した以上のイノベーションを起こしつつある。

本日プレオープンとなったSUVACOは、Houzzほど高度な機能はさすがにまだ提供できていないものの、スッキリした美しいUIで、建築やインテリア好きなら眺めているだけでも飽きないかもしれない。すでに書いたようにフォロー機能やFacebookの「いいね!」的な「クール」ボタン、ユーザーがアイテムや部屋に対して付けたコメントが時系列に表示されるタイムラインとして「みんなの投稿」というソーシャル要素も実装されている。プレオープン時点で、すでに50人の建築家などの専門家、約700のアイテム、1,000強の部屋のデザイン例を集めている。こだわりを持って作られた「作品」が並ぶ。

リフォーム市場の7兆円、建売住宅以外の注文住宅市場が5兆円。このうち建築家が手がける約3兆円の市場、それに家具の6,000億円の市場がSUVACOのひとまずのターゲットという。例えば5,000万円の案件の場合、デザイン料として一般的に建築家は1割の500万円の対価を得るが、この対価のうちさらに1割の50万円がSUVACOの取り分となるという(建築家か工務店か、リフォームか注文住宅かなどで1〜5%とSUVACOの手数料率は異なる)。現状でも市場規模は大きいが、追い風も吹いているという。日本は新築市場の比率が高く、他国に比べてリフォームやリノベーション市場の割合が小さい。このことからリフォーム市場には成長余地があるとして、2020年までに倍増すると政府の成長戦略に盛り込まれている。

中田氏とともにSUVACOを共同で創業した黒木武将氏が自ら建築家を口説いて回った。富士銀行でキャリアをスタートし、シカゴ大学MBA、米国でも日本でも買収案件を手がけてきた金融業界20年のエリートが、なぜ住宅関連のITベンチャーなのか? 黒木氏は「日本にLBOが入り始めたころからM&Aを手がけてきた。もうやり尽くしたという思いもあり、新しい価値を作って行きたい。われわれミドルの人間がやらないと」という。長くIPOを手がけてきた中田氏には米中に大きく水を空けられてるIPOの市場規模の現状に対して、日本のスタートアップ業界に必要なのは数を増やすことよりも、量を増やすことという問題意識があったという。「必要なのは次のメガベンチャーを生み出すこと」という思いから住宅市場に取り組むことに決めた。「中田も私も建築業界の非効率性を外部の人間としてビジネスの観点から見れる。そこを建築家や事業会社の方々にご説明して賛同いただいた上でSUVACOに参加していただいている」という。必ずしも賛同が得られる場合ばかりだはなかったというが、黒木氏は「このままじゃダメだと思っている建築家が多かったのは発見」といい手応えを感じている。現状、建築家と施工主の出会いは前時代的な口コミがメイン。一般的な建築事務所だとアシスタントが何人かいて、事例を掲載するWebサイトもあるかもしれないが、潜在的な施工主がこうしたページにたどり着く道筋はほとんどないのが現状という。部数10万部程度の住に関する雑誌は数誌あるが、こうした雑誌が扱うのは個別案件ではなく、コミュニケーションも発生しない。

建築業界は言語や文化、地域性が強いビジネスだが、4年先を行っているHouzzが将来に日本市場に将来参入しないとも限らない。グローバルな視点で見た場合の競合はどう見るのか? 「3年から5年あれば日本市場を取れると見ています。その後はアジア圏を目指したい。アジアでは日本の建築のデザインや品質に対する評価は高い」と黒木氏は語る。

「ソーシャル」と聞くと写真共有やコミュニケーションのことを思い浮かべて食傷気味に思う読者も多いかもしれないが、巨大市場に切り込む地に足の着いたベンチャーの門出を祝いつつ、TechCrunchとしてはSUVACOの9月のグランドオープンも引き続き注目していきたい。