東大発スタートアップ「ノイカ」が世界初のサンゴの人工産卵実証実験を再始動

環境移送技術 イノカ サンゴ 人工産卵 実証実験

東大発スタートアップ企業のイノカは7月26日、IoT技術による水温調整により、沖縄の久米島付近の海面水温と同期させた完全閉鎖環境内の実験で、サンゴの人工抱卵を実現したと発表した。また、サンゴの人工産卵のための実証実験を2020年8月から再始動すること、2021年3月に世界初の産卵時期をコントロールした人工産卵の成功を目指すことを明らかにした。

イノカは、「自然の価値を、人々に届ける」をミッションに2019年に創業した、東京大学発のスタートアップ企業。国内最高峰の「生態系エンジニア」とAI・IoTエンジニアとを中心に、生態系の理解と再現(=「人工生態系」技術)の研究開発および社会実装を推進する。

地球上の全海洋面積のうち、サンゴ礁が占める面積の割合は世界の0.2%程度にすぎない一方、約9万3000種(海洋生物種の25%程度)の生物種が生息し、1km2のサンゴ礁が年間15トンの食料を生産しているという。

サンゴの生態系は大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を海洋に固定するブルーカーボン生態系としても注目されている。温室効果ガスの抑制効果も期待されていることから、世界的に減少を続けているサンゴを保護し、残していくことでSDGsに貢献できると考え、2019年10月より実験を開始した。

環境移送技術 イノカ サンゴ 人工産卵 実証実験

今回イノカが成功した実験は、独自で研究開発を進める「環境移送技術」を用い、虎ノ門・オフィスビル内の会議フロア一角にて実施した。IoT技術を活用し、四季の変化をサンゴの採種元である沖縄・久米島付近の海と同期させ、水槽内の水温調整、また水流を作ることで沖縄の海のような波を人工的に発生させた。

環境移送技術とは、水質(30種以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係といったパラメーターのバランスを取りながら、自社開発のIoTデバイスを用いて実際の自然環境と同期させ、特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するイノカ独自の技術。

同実験では沖縄産の成熟したサンゴを利用し、アクアリウム用サンゴライトで紫外線を照射。ライトについては、昼は太陽を浴びるような明るさ、夜間は月明かりに照らされる程度の明るさとすることで、水槽内の環境を沖縄の海に可能な限り近づけたという。

環境移送技術 イノカ サンゴ 人工産卵 実証実験

産卵実験時のシステムは24時間ライブ配信し、産卵の予兆を常時監視。5月中旬にサンゴを折って確認したところ、体内での抱卵を確認したものの、産卵タイミングである6月中旬に再度サンゴを折って確認した際にはサンゴの体調の悪化に伴い卵が確認できず、産卵に至らなかったという。

環境移送技術 イノカ サンゴ 人工産卵 実証実験

同社は、サンゴが産卵しなかった原因を「体調不良によってサンゴ本体に卵が吸収されたのではないか」と考えており、体調悪化を食い止めるため卵を自分自身のエネルギーに変えた可能性を挙げている。

同社は、今回の結果をもとに、2020年8月より再び実証実験を開始する予定。生体へのストレスを可能なかぎり低減できるよう、水槽内の各パラメーターをさらに精緻に調整し、サンゴの健康状態の判別のために画像解析技術も応用。世界初の産卵時期をコントロールした人工産卵の成功を目指す。

また暑い時期を経験させず、かつ次の産卵タイミングまで最短でたどり着くように季節を3ヵ月ずらす。11月の水温設定から実験をスタートさせ、約半年後の2021年3月に産卵を目指すとしている。

小型水槽内での人工産卵技術が確立すれば、ビルなどの一般的な都市空間のような場所でも人工産卵が可能になるため、サンゴ研究が飛躍的に促進されるという。

また本来、自然界におけるサンゴの産卵は年に1回と限定的だが、水槽内の各パラメーター調整により、理論上産卵時期をコントロール可能となる。何世代にもわたって研究調査を行うモデル生物としてサンゴを扱えるようになるため、サンゴの基礎研究が進み、サンゴ保全に大きく寄与すると同社は考えている。

イノカは今後も、国内初のサンゴの人工産卵の成功を目指しながら、地球温暖化や環境汚染などの危機に対し、生態系の価値を「のこす」ための取り組みを進めるとしている。

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Biome バイオーム 大阪府立環境農林水産総合研究所 おおさか気候変動適応センター 生物多様性

いきものコレクションアプリ「Biome」(バイオーム。iOS版Android版)運営のバイオームは7月22日、大阪府立環境農林水産総合研究所に対してアプリを提供し、府内の「在来種」と「外来種」を中心とする生物ビッグデータの構築、および生物多様性と気候変動の影響の調査に協力すると発表した。

Biome バイオーム 大阪府立環境農林水産総合研究所 おおさか気候変動適応センター 生物多様性

同企画では、バイオーム提供のアプリBiomeのゲーム機能を用いて、府内のいきもの観察クエスト「在来種 VS 外来種 おおさかはどっちが多い?」を2020年7月25日より配信。注目の在来種と外来種を中心に幅広い生物種を網羅することが期待されており、アプリを通じて集められた府内の網羅的な生物分布データは生物多様性と気候変動の影響分析に活用される。またコンテンツの配信に合わせて、大阪府立環境農林水産研究所 おおさか気候変動適応センター主催のいきもの観察イベントを、7月25日から9月30日まで開催する。

Biomeは、独自のゲーム機能「クエスト」を実装しており、テーマに沿って選ばれた対象種を見つけ、写真を撮影・投稿することでゲームをクリアできるようになっている。選ばれるいきものは季節や地域によって多様であり、様々な条件で発行されるクエストを仲間とともにクリアすることで、遊びながらいきものに関する様々な知識を身に着けられる。コンプリートしたユーザーは、アプリ内のバッヂを獲得できる。

大阪府の都市部およびその近郊の自然環境において、希少種を含む在来種の減少や新たな外来種の発見が報告されているという。しかし、これまで生物多様性の調査は、専門的な知識を要することから専門家など限られた人手によって行われてきた。Biomeは、スマホで撮影したいきものの種名をAIが自動判別する機能を実装しており、誰でも気軽にいきものの情報を収集できる。アプリを利用して数多の市民の目を通じた情報収集を行うことで、「広域・細粒度・最新」の生物ビッグデータの構築が期待される。

バイオームは、世界中の生物・環境をビッグデータ化し「生物多様性市場」を創り出すことを目指し、2017年に京都大学技術イノベーション事業化コース最優秀賞の受賞を経て、2017年5月に設立された京都大学発のスタートアップ企業。SDGs(Sustainable Development Goals。持続可能な開発目標)の社会的ニーズを背景に生物の分布データを取り扱った生物情報プラットフォームを構築し、情報収集ツールとしてBiomeを提供している。

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JAXAが国際宇宙ステーションで使う生活用品アイデアを募集開始

JAXA J-SPARC THINK SPACE LIFE

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月7日、 J-SPARCのビジネス共創プラットフォーム「THINK SPACE LIFE」プラットフォーム、また国際宇宙ステーション(ISS)での利用を目指す、宇宙と地上の生活の共通課題を解決する生活用品アイデアの募集開始を発表した。

JAXA宇宙イノベーションパートナシップ「J-SPARC」(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、事業意思のある民間事業者などとJAXAの間でパートナーシップを結び、共同で新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す新しい共創型研究開発プログラム。新規マーケット創出活動や異分野糾合のための場作りなど、事業化促進に資する活動を含めて約20のプロジェクトを現在進めている。

J-SPARC「THINK SPACE LIFE」プラットフォーム

THINK SPACE LIFEは、J-SPARCの事業化促進に資する活動として始動する、宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くするプラットフォーム。

宇宙飛行士のパフォーマンス向上や宇宙旅行者の満足度向上につながるサービスの提供、将来的には月・火星での有人探査ミッションも見据えることで、地上における新たな生活様式やワークスタイルに向けたサービス創出、さらには健康や住まいに関するSDGs目標(持続可能な開発目標)達成など社会課題の解決も目指す。

暮らしやヘルスケア分野の新事業のタネを掘り起こし、研究開発やビジネス創出を後押しする取り組みとなっており、企業などに対しアイデアの企画から商品・サービス開発に至るまでのインキュベーション機能や、企業間・産学官連携を促進する横断的コミュニティ活動の場を提供する。

アイデア共創ワークショップや関連する分野の専門家によるメンタリングなどのアクセラレーション活動、地上での実証の場の提供などを通じ、事業アイデアの企画からサービス開発、そして実証までを加速させる。これらのインキュベーション機能にまつわる企画・運営、各種インキュベーション機能の機会提供については、同プラットフォームのインキュベーションパートナーとの協働で推進する。

JAXA J-SPARC THINK SPACE LIFE

国際宇宙ステーション(ISS)搭載に向けた、新たな生活用品アイデアの募集

JAXAは「宇宙での暮らし」に着目し、将来の有人探査ミッションや宇宙旅行者向けの生活用品の提供が持続的なビジネスとなるような将来を目指し、宇宙滞在用の生活用品を広く募集する。

合わせてJAXAは、公宇宙生活での課題や困りごと集「Space Life Story Book」を公開。宇宙生活の利便性向上および地上課題解決にもつながる課題テーマとその解決策案(新規生活用品などのアイデア)について、企業の強みを生かした提案を募集している。

JAXA J-SPARC THINK SPACE LIFE

募集・選定のプロセスとしては、まず応募アイデアの中から、宇宙飛行士の生活用品としての搭載を目指した開発に進むものを選定。選定企業での開発完了後、JAXAにて国際宇宙ステーション(ISS)搭載可否を総合的に判断を行う。ISSに搭載すると判断した製品は、JAXAが選定企業から別途調達し、ISSへ輸送する。

また、選定企業による開発着手後、宇宙で実際に使えるものであるかなどを確認するために、開発途中で宇宙飛行士と選定企業とで開発の方向性やプロトタイプの確認の場(1回程度)を設ける。

JAXA J-SPARC THINK SPACE LIFE

募集要項」では、選定企業とJAXAの役割分担について説明しており、それぞれ必要な経費を分担するとしている。開発費用は選定企業が負担し、JAXAは負担しない。JAXAがISS軌道上で使用する製品については、別途調達する。

また選定企業とは、宇宙飛行士のプロトタイプ確認や、搭載可能とされた場合の画像利用条件などの規定を含む覚書を締結する。

  • 応募締切: 9月4日17時まで
  • 応募資格: アイデアの事業化に取り組むことのできる、日本の法律に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する法人
  • 募集内容: 宇宙およい地上での生活の課題解決や利便性を向上させることができる新規生活用品などのアイデア(課題テーマおよび解決策)
  • 主要スケジュール(予定):
    ・2021年5月 開発完了
    ・2021年6月 ISS搭載可否判断
    ・2021年6月以降 (搭載の場合)ISS搭載に向けた準備
    ・2022年度以降(予定) ISSに当該生活用品を搭載
  • 応募フォーム: 【エントリー】宇宙生活/地上生活に共通する課題テーマ・解決策アイデア募集

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エネチェンジがLooopと共同で海外特化の脱炭素エネルギーファンド設立、1000億規模の投資目指す

テクノロジーを活用したエネルギー関連の事業を手がけるENECHANGE(エネチェンジ)は4月21日、太陽光発電システムや電力小売り事業を展開するLooopと共同で海外特化の海外特化型の脱炭素エネルギーファンド「JAPAN ENERGY ファンド」を設立したことを明らかにした。

同ファンドは脱炭素・ESG投資を実施する国内外の投資家の協力を受けながら、投資総額1000億円規模を目指す計画。2019年12月に組成した第1号ファンドでは1億米ドル(110億円規模)での展開を予定していて、運営はENECHANGEとLooopがJapan Energy Capitalを介して共同で行う。LPには2社に加えて大和エナジー・インフラ、北陸電力が参画を決めた。

ENECHANGEとしてはデータ解析技術を持つエネルギーテック企業として、海外の再生可能エネルギー領域により深く進出していく計画だ。

ENECHANGE代表取締役会長兼CEOの城口洋平氏によると、今回のファンドは「日本企業による海外への脱炭素エネルギー投資促進」を通じて、持続可能な社会の実現へ向けた取り組みを推進するのが目的だ。

特にエマージング諸国(新興国)は先進国と比べてプレイヤーが少なく、テクノロジーの活用によって発電量や収益性向上を見込める余地も大きい。そのような背景からトルコやヨルダンなど新興国での展開を中心としたファンドの立ち上げを決めたようだ。

本ファンドは具体的に2つのプロジェクトで構成される。1つが新興国の再生可能エネルギー事業へ投資をする「JEF Renewables」。もう1つが電力ビジネスの先進国である欧米諸国などに拠点を置くエネルギー系スタートアップへ投資する「JEF Ventures」だ。

メインとなるのは前者。エネルギー自給率が低く再生可能エネルギーによるインフラ開発の必要性が高い新興国で稼働中の再生可能エネルギー発電所(太陽光発電所など)に対し、日本政府や現地政府、地元事業者と連携して投資をする。

城口氏によると新興国の発電所に関しては運営や管理が不十分なことから、発電量や収益性などの観点で本来のポテンシャルを発揮できていないところも多いそう。そこにENECHANGEグループが培ってきたデータ解析技術や設備保守点検ノウハウを取り入れバリューアップを行い、売電や再販売によって収益をあげる。

イメージとしては不動産の二次流通に考え方が近く、仕入れてきた中古不動産をリノベーションしてより高い価格で販売するようなものだという。

「センサーを設置してパネルやインバーターなどのデータをリアルタイムで取得し、発電量や日射量、パネル温度などを緻密に解析すると、本来はもっと効率的に運用できる可能性を秘めた発電所がわかる。イギリスやドイツなど一部の先進国ではこのような取り組みが進んでいるが、新興国はまだまだ水準が低い。AIやデータ解析技術を使うことで改善できる余地が大きい」(城口氏)

1号投資案件としてはトルコの太陽光発電所に対して約1000万米ドル(約11億円)を出資し、共同運営権を取得する。この発電所も東京ドーム数個分の大きさのため、人力でくまなく状況をチェックするのは極めて難しく、そこにテクノロジーを活かせるという。

これまでENECHANGEではグループ会社であるSMAP ENERGYの技術を用いてスマートメーターの解析に力を入れてきたが、電力分野においては電力の消費側だけでなく、発電側にもデータを活用できるチャンスがあり市場も大きい。同社としてはその市場に進出していきたいという考えもあるようだ。

「再生可能エネルギー領域ではもともと二次流通市場が存在していなかったところから、徐々にグローバルで市場ができ始めている状況。日本では固定価格買取制度(FIT)があるため現時点で大きな市場ではないものの、2030年代から広がっていくと考えられる。ゆくゆくは日本での事業展開も視野に入れながら事業を作っていきたい」(城口氏)

上述した通りJAPAN ENERGYファンドでは先端技術を有する海外スタートアップへの投資も並行して実施して行く計画。こちらではENECHANGEが運営する欧州エネルギーベンチャー開拓プログラム「Japan Energy Challenge」と連携し、脱炭素技術に関して先行する有望なスタートアップへの投資を通じて、日本国内での脱炭素化に繋がるオープンイノベーションの実現を目指すという。

自治体から住民への通知を自動化する「BetterMe」開発のケイスリーが1.9億円を資金調達

写真後列中央:ケイスリー代表取締役CEO 幸地正樹氏

地方自治体のSDGs推進支援や行政機関向けプロダクトの開発に取り組むケイスリーは3月26日、モバイル・インターネットキャピタルが運営するMICイノベーション5号投資事業有限責任組合を引受先とする第三者割当増資により、総額1億9000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社の外部からの資金調達はこれが初となる。

コンサルティングとプロダクトの両輪で社会課題解決目指す

ケイスリーは2016年4月、PwCコンサルティングでコンサルタントとして、主に官公庁向けの支援に従事していた代表取締役CEOの幸地正樹氏が「日本でもインパクト投資の手法として、(課題解決の成果に対し報酬を出す契約である)ソーシャルインパクトボンドの導入をもっと進めたい」と設立したスタートアップだ。

ケイスリーが目指すのは、社会課題解決の基盤づくり。これまでに、地方自治体のSDGs推進支援、ソーシャルインパクトボンドの導入推進など、新しい社会的課題解決手法の構築に携わってきた。地方自治体へのコンサルティング事業と、行政分野を対象にしたGovTechプロダクト事業を両輪として展開している。

2017年8月には、日本初のソーシャルインパクトボンドを組成し、八王子市で成果連動型の大腸がん検診受診率向上事業に行政アドバイザーとして関わったケイスリー。その後、広島県内6市で実施した大腸がん受診勧奨事業で得た知見もあわせ、厚生労働省の支援のもとで、2019年3月から沖縄県浦添市で機械学習と行動経済学の知見を用いたプロダクトの実証実験を開始した。浦添市では、大腸がん検診の受信を勧めるメッセージをSMS経由で、国民健康保険に加入する1万7000人の住民に自治体から自動で配信するサービスを、SMS配信事業のアクリートとの提携により行っている。

この実証実験をベースに、さらに公的通知自動化サービスとして進化させたのが、同社が開発中のGovTechプロダクト「BetterMe」だ。BetterMeは2019年10月、500 KOBE ACCELARATORSにも採択され、現在開発を本格化させている。

500 KOBE ACCELARATORSに参加したケイスリーのプロダクトチームメンバー。左から2人目が取締役CFO 森山健氏

ケイスリー取締役CFOの森山健氏は、「コンサルティングとGovTechの両輪で事業展開することで、自治体が抱える課題を発掘して、解決手法を見つけ、洗練し、プロダクトとして戻すという流れを作ることができ、PDCAをまわすことを可能にしている」と同社の特性について説明する。実際、自治体で支援を行うときにも役所の担当者と行動をともにして、住民からのヒアリングをもとにPDCAサイクルに反映しているという森山氏は「現場は大事」と語る。

事業のうち、コンサルティング領域では、現場に近いNPOから国際イニシアチブまで、さまざまな規模の組織について、産官学および金融との連携にかかわる戦略策定から、案件組成に不可欠な現場支援まで、幅広くサービスを提供しているという。

「IT系スタートアップがいきなり地方自治体へプロダクトを持ち込んで営業しても、門前払いされることも多い。ケイスリーでは、成果連動型のソーシャルインパクトボンドを取り入れる手法や、コンペで政策課題の解決を目指す方法をコンサルティングで伝え、課題解決のためにテクノロジーを掛け合わせることで、実際の社会課題解決につなげることを目指している」(森山氏)

また、官民が連携し、成果に連動して報酬が得られるソーシャルインパクトボンドの効用については、森山氏は次のように述べている。「課題に対して、例えばSMSのサービスというモノを売るのでは、1配信につき単価数円といったつまらないビジネスになってしまう。『受診者が増えたら1万円』といった成果・付加価値を売るという形に切り替えることで面白いサービスができ、行政コストの適正化も図ることができる」(森山氏)

浦添市のケースでは、職員が検診を勧める電話などをかけるのにかかる年間4万2000時間を人件費として換算すると、およそ1.3億円をSMSの自動送付で置き換えることができると試算。また受診率を12%改善できるとすれば、早期治療により適正化できる医療費は年間約2000万円と見積もられている。

行動経済学とデータでよりよい意思決定を促すプロダクトづくり

ケイスリーでは事業コンセプトに掲げる「社会課題を最速で解決するための基盤をつくる」を実現するために、データサイエンスと行動経済学を組み合わせ、プロダクトへ取り入れようとしている。

浦添市の実証では、単に自治体から住民への告知を紙からSMSに変えたというだけではなく、どういうメッセージを送るかでも、がん検診の受診率に差が出ているという森山氏。例えば、他の民間業者がこれまで手を付けていなかった、「無関心期」にある未検診者へのメッセージ配信では、受診率1%だったところが16%にまで向上したという。「文面は30パターンほど用意し、12回の配信でPDCAをまわして改善していったところ、よい実証成果が得られたと思う。メッセージへの反応(ナッジ)には地域性もあるようだ」(森山氏)

森山氏は「検診に行かない人には、交通手段がない、検診に行く時間やお金がつくれないなど、何らかの理由があり、これが検診率と密接に関連している。面倒くさがり屋だとか、健康意識が低いと決めつけるのではなく、これこそを行動経済学の知識で階層化していくと、よりよい成果が得られるだろう」と話す。「そのほか、気温と受診率などにも相関がある。今後、行政データや行動データなどのデータベースを拡張し、ビッグデータを解析することでも成果がさらに上がるのではないか」(森山氏)

「行動経済学はノーベル経済学賞を4回受賞している分野だが、紙と鉛筆で研究が行われている非常にアナログな世界。まだテクノロジーがそれほど使われていないので、これはチャンスだと感じている。行動経済学をデジタル化・インフラ化することで、現在手がけているがん検診の受診勧奨だけでなく、今感染症で話題になっているソーシャルディスタンス対策や、災害時の自治体からの迅速で的確な発信などにも役立てることができるようになるだろう」と森山氏は言う。

森山氏は「人間の意思決定の数理モデル化、ナッジと呼ばれる人の行動のきっかけとなるしかけ(浦添市の例ではメッセージの内容に当たる)、成果の効果測定の3つをそろえることで、PDCAサイクルをまわして、行動経済学のデジタル化に取り組むことができる」と考えている。

「行動経済学でアナリティクスカンパニーをやる、というのは世界でも例がない。行動経済学をデジタル化して、API開放することにより、ショートメッセージだけでなく、LINEでも、チャットボットと組み合わせても使えるようにできる。チャネルは多様化させるとして、エンジンとなる部分をこれから掘り下げていけば、世界にないサービス、テクノロジーが提供できると考えている」(森山氏)

調達資金は、500 KOBE ACCELERATORで本格化させた「BetterMe」の開発に活用するというケイスリー。特に、自治体向けサービスを開発するにあたって求められる行政ビッグデータの解析では、情報セキュリティ対策を重視し、インフラ、ネットワークに強いエンジニアの採用を強化すると森山氏は述べている。

「ガンダムに例えれば、僕らがやろうとしているのは、人間をニュータイプにする試み。また、これは消費者保護の取り組みでもあると考えている」という森山氏。「古典経済学で言うところの『合理的判断』ができないのが人間で、不確実性のもとでの人間の意思決定を科学するのが行動経済学だ。これをプロダクトに取り入れることで、『この広告に騙されたらダメだよ』『50代になったので、がん検診に行った方がいいですよ』と、チャットボットなどが分身として人間の判断を助けてくれるようになれば、人間はニュータイプになれるのではないかと思っている」(森山氏)

「行政に都合の良い市民を作りたいというのではなく、市民が情報を正しく認識して、よりよい意思決定を自分のためにできるよう、お手伝いしたい。それが行政が望む姿と重なっている領域で、事業を行っていきたい」(森山氏)

ピアボーナスを用いた新たな“従業員寄付体験”でSDGs推進企業を後押し、UniposとREADYFORがタッグ

ピアボーナスサービスを展開するUniposとクラウドファンディング事業を運営するREADYFORは2月18日、従業員が「Unipos」上で獲得したピアボーナスをSDGs活動を行う団体へ寄付できる「SDGsプラン」の提供をスタートした。

知っている人も多いかもしれないがUniposについて簡単に説明しておくと、同サービスでは業務中の良い行動に対して従業員間で感謝のメッセージとともに「ポイント」を送り合う。もらったポイントはピアボーナスとして給与などの報酬に変換できるのが特徴だ。

たとえば資料作りを手伝ってもらったり、企画の相談に乗ってもらったり。そんな時にタイムライン上で“ありがとう”というメッセージと合わせて、ポイントを送る。もしくはタイムラインに流れてきた別のメンバーの投稿に対して“拍手(いいね!のような仕組み)”をすることでポイントを送ることも可能だ。

メッセージとポイントの送付はタイムラインを介して行われるため、メンバーの影での貢献が可視化されやすくなり、メンバー間・部門間の連携強化やバリューの浸透にも繋がる。そんな効果を見込んで、スタートアップから大手企業まで340社以上がUniposを活用している。

さて、ここからが今回スタートしたSDGsプランの話だ。今までのUniposではもらったポイントは報酬に変換する仕組みだったが、SDGsプランを活用するとそのポイントを自分が選んだ寄付先へ寄付することができるようになる。

Uniposを導入する企業は最初にポイントの配当方法をインセンティブプラン(従来のプラン)とSDGsプランから選ぶ。SDGsプランの場合はあらかじめ自社に最適な寄付先をいくつかピックアップしておき、各メンバーはその候補の中から自分の共感した団体へ寄付をする仕組みだ。寄付先の団体からは活動レポートが送られてくるため、自分が届けたピアボーナスのインパクトもわかる。

企業ごとの寄付先の選定については、これまで1万件以上のクラウドファンディングプロジェクトを支援してきたREADYFORが同社のデータベースやノウハウを活用してサポート。これによって企業は自社の事業や理念にマッチした寄付先をスムーズに見つけられるだけでなく、Uniposを使って従業員を巻き込みながらSDGs活動を推進できる。

寄付先についてはジャパンハートやカタリバ、フローレンス、Learning for Allなどの特定非営利活動法人をはじめ、さまざまな領域の団体から選べるとのことだ。

ピアボーナスを用いた新しい従業員寄付体験の創出へ

Unipos代表取締役社長の斉藤知明氏(写真左)とREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏(写真右)

2016年1月に持続可能な開発目標(SDGs)が発表されてから4年、日本国内でもSDGsへの取り組みに関する話をよく耳にするようになった。

SDGsに対する考え方や取り組み方は企業ごとにも異なるが、UniposとしてはSDGsを「単に社会にとって善い行いをする」ことではなく、それが「組織の成長」にも繋がる状態、最終的に社会と組織と個人全ての成長を促進するような取り組みだと捉えているそうだ。

「今までUniposでは自分の頑張りがチームや会社への貢献に繋がっていくことが実感できることで、互いの信頼関係が向上する仕組みを提供してきた。今回はそこに社会が加わり、『個人の貢献がチームへの貢献、会社への貢献だけでなく社会への貢献にも繋がる』仕組みを作っていきたいと考えている」(Unipos代表取締役社長の斉藤知明氏)

Uniposでは昨年11月からドイツで先行してSDGsプランの試験導入を進めてきた。たとえばドイツのコンクリート会社では、従業員がピアボーナスを使って植林団体へ寄付をした事例がある。この会社の事業は成長していて社会の役にも立っている反面、CO2の排出量が多くサステナビリティの点を気にするメンバーもいたそう。Uniposがメンバーの日頃の行動が企業・社会それぞれへの貢献に結びつくことを示した一例と言えるだろう。

この仕組みを広げていく上で重要になるのが「従業員が支援したいと思えて、なおかつ会社の成長にも繋がるような団体が寄付先として選定されていること」(斉藤氏)であり、今回UniposがREADYFORとタッグを組んだ理由もまさにそこだ。

日本には膨大な数のNPO団体が存在するため、各団体の活動や実績を見極めた上で、企業ごとに適切な団体をピックアップすることは簡単ではない。クラウドファンディングの支援を通じて様々な団体と付き合ってきたREADYFORが“企業と団体の橋渡し役”を担うことで、企業の負担を増やすことなく、ピアボーナスを軸とした新しい従業員寄付体験を実現することができるという。

そのREADYFORは昨年7月に始めた「READYFOR SDGs」によって、企業とSDGs活動のマッチングを進めてきた。同社代表取締役CEOの米良はるか氏の話では、企業の担当者とやりとりをしている過程で「従業員の中でのSDGsの認知が低い」という課題を聞く機会が何度もあったようだ。

特に大企業では社内の理解を得ることが物事を上手く進めていく上でも不可欠なため、「SDGsや社会課題を知るための取り組みに社員全体を巻き込みたい」という要望が強いという。

「(Uniposのピアボーナスの仕組みによって)チームへの貢献やメンバーへの感謝が寄付に繋がるといったように、個人の負担が少ない形の寄付体験を作ることで、従業員に社会課題や社会貢献を身近に感じてもらうきっかけになる。企業にとっても、入りやすいSDGsの取り組みになると考えている」(米良氏)

両社によると欧米諸国では従業員寄付の仕組みを導入する企業が増えているそう。従業員が自分で興味のある団体を選び、主体的に寄付できるサービスも「Yourcause」、「Catalyzer」、「Smartsimple」、「Salesforce Philanthropy Cloud」を始め続々と台頭しているという。

日本ではまだこれといったサービスがないだけに、UniposのピアボーナスとREADYFORのネットワークをミックスさせた新しい寄付体験がどのように広まっていくのか、今後に注目だ。

SDGs達成を目指すスタートアップのコンテスト「XTC」初の日本予選が2月26日開催、出場10社が決定

2015年より開催され、例年、世界中から6000社以上がエントリーするスタートアップのコンテスト、Extreme Tech Challenge(XTC)。

XTCの目的は、国連サミットで採択された、17の持続可能な開発目標(SDGs)と連携し、地球と人類とが直面している最大の課題をテクノロジーで解決するスタートアップを発掘し、支援すること。 Lynq、Elevian、Doctor on Demand、Wanderu、Cresilon、Bloomlifeを含む過去の出場企業の累計調達額は440億円にもおよぶ。

XTCの7つの審査カテゴリは、SDGs17課題を集約した7カテゴリーだ。それらは、「AGTECH、FOOD & WATER」、「CLEANTECH & ENERGY」、「EDUCATION」、「ENABLING TECHNOLOGIES」、「FINTECH」、「HEALTHCARE」、そして「TRANSPORT & SMART CITIES」。

今年は、6月にパリで開催される決勝戦に向け、日本で予選、JAPAN COMPETITION 2020が開催される。2月26日にNagatacho GRiDで開催される日本予選では、書類審査を突破した10社のスタートアップが、日本代表として決勝に進むことのできる、2枠のシード権を巡って争う。シード権を獲得した2社は、パリで開催されるVivaTechnologyのメインステージでピッチを披露することになる。

本日、そんなXTCの日本予選に出場する10社のスタートアップが発表された。

コンテストの審査員を務めるのは、TomyK代表でACCESS共同創業者の鎌田富久氏、立命館大学の情報理工学部で教授を務める西尾信彦氏、IT-Farmのジェネラルパートナー白井健宏氏、Plug and Play Japanの小林俊平氏、そしてXTC Japanのメンバー1名。

当日は、「ソーシャルインパクト投資」、「日本のSDGsの現状」、「世界規模で事業を展開する企業の作り方」などをテーマとした、専門家による特別講演も行われる。XTC主催者、そしてTreasure Data創業者、芳川裕誠氏の登壇が決定している。

XTC JAPANが目指すのは、日本におけるインパクト投資の活性化、そしてグローバル課題の解決、ならびに海外進出を目指すスタートアップの支援。

XTC JAPANは、日本のソーシャルインパクト投資市場は微増に留まっているのが現状。一方、グローバルではソーシャルインパクト投資の投資残高は急速に増加しており、昨年4月での推定残高は5020億ドル(約55兆円)と、2018年から倍以上に増加したとも言われている、と説明。

そして、日本では数少ないユニコーン企業ですら、海外進出に苦戦している。また、日本はマーケットが小さいため、ある程度までしか成長しないという課題もある、と指摘している。

IT-FarmのパートナーでXTC Japanの企画、後援を務めている春日伸弥氏は「『グローバル課題の解決』。それが全てだ。グローバルの課題を、テクノロジーを使って解決する。そのために、スタートアップを、資金やパートナーシップなどにより支援する」と話す。

春日氏いわく、今回の初の日本予選では「結果的に、日本国内でなく世界に目を向けているスタートアップからの応募が集まった」。同氏は2月26日のイベントが起点となり、前述のようなSDGs達成を目指すスタートアップが、例えば大企業と繋がることにより、エコシステムが活性化することを期待している。XTC Japanでは現在、一般参加者向けのチケットを販売中だ。

ムスカ試験プラントは2020年中に稼働へ、肥料や飼料を試験導入した農家の反応は良好

ムスカは12月16日、ムスカシステムを利用して生産された肥料と飼料を使った米と野菜、地鶏の試食会を開催した。同社はTechCrunch Tokyo 2018のスタートアップバトルで最優秀賞を獲得した2016年12月設立の昆虫テック、大きく分けると農業技術系(アグテック)スタートアップだ。

ムスカで代表取締役CEOを務める流郷綾乃氏

50年1200世代の交配を重ねたイエバエの幼虫と使い、蓄糞や生ゴミなどの有機物を1週間で分解して肥料・飼料化する、100%バイオマスリサイクルシステム技術を擁する。通常のイエバエの幼虫でも2〜3週間程度かければ糞尿やゴミを分解することはできるが、交配を重ねてサラブレッド化したムスカのイエバエの幼虫に比べて処理能力は大幅に落ちる。

ムスカの創業者で取締役会長を務める串間充崇氏

ムスカでは、糞尿など栄養分として育ったイエバエの幼虫が成虫になるために有機物の中から這い出してくるハエ本来の習性を利用して幼虫のまま回収。幼虫が分解した糞尿は有機肥料に、回収した幼虫はタンパク質の飼料として利用できる。

実際には、有機肥料はペレット(小さな塊)状に、幼虫は乾燥させた状態で出荷される。これがムスカソリューションで、廃棄物である蓄糞や生ゴミを分解して肥料・飼料化、その肥料や飼料で野菜や家畜を育て、蓄糞や生ゴミを再度回収というリサイクルが実現する。

野村アグリプランニング&アドバイザリーの調査部で副主任研究員を務める石井佑基氏

試食会に先だって、野村アグリプランニング&アドバイザリーの調査部で副主任研究員を務める石井佑基氏が登壇し「食料危機の対する食の未来について」というテーマで基調講演が行われた。石井氏は、牛や豚、鶏などを育てる畜産業は、農作物の栽培に比べると大量の飼料と水を使う点では効率が悪いと説明。これまでの人口増加に対しては農地の拡大と化学肥料の活用などで収穫量を増やして乗り切ってきたが、今後の人口増加と世界各国の所得向上によって肉を食べる人口が増えると、近い将来に限界に近づくと指摘した。

こうした問題に着目して、Beyond Meat(ビヨンド・ミート)やImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)といった植物由来の代替肉を開発するスタートアップや、昆虫を食品として使うスタートアップも出てきているが、元来雑食の人間にとって食肉は切っても切り離せない関係と語った。そして2025年〜2030年に到来すると指摘されているタンパク質危機、つまり食肉や魚介類などのタンパク質食品の需要が生産・供給量を大幅に上回ってしまい、飼料や肥料の高騰、ひいては小売価格の大幅上昇につながるという危機を乗り越えるためには、ムスカのような持続可能な取り組みが重要であることを解説した。

写真に向かって左から、祝田農園の松田宗史氏、遊土屋の宮澤大樹氏、農業研究家の白木原康則氏、一番右は串間氏

基調講演のあとのパネルディスカッションでは、実施にムスカの肥料を使っている農家が登壇。米農家の松田宗史氏によると、ほかの有機肥料も使っているがムスカの肥料を併用することで害虫が付きにくく、生育も良好だったという。イチゴ栽培事業を展開するD2Cスタートアップの遊土屋を立ち上げた宮澤大樹氏は、「まだ試験導入の段階は効果については判断できないが」と前置きしたうえで「現在数ラインでムスカの肥料だけを使って栽培している苺は農薬の散布も必要なく生育も順調」と語った。

石坂村地鶏牧場の代表を務める中村秀和氏

ビデオメッセージを寄せた養鶏農家の中村秀和氏も「ムスカの飼料は地鶏の食いつきがよく、2カ月ぐらいすると通常の飼料よりも大きく育つ」とコメントした。ちなみに、ブロイラーは1カ月半ほどで出荷されるが、地鶏は長い場合で120日ほど飼育される。なお、宮崎で主に飼育されている地鶏は「地頭鶏」(じとっこ)と呼ばれており、首都圏や関西圏などでも宮崎料理店や居酒屋などで食べられる。

実際に過去にムスカが大学との共同研究で得た結果でも、ムスカの飼料を与えた養殖した魚の個体が通常の飼料(魚粉)に比べて大きくなるなど良好な結果が出ている。

質疑応答ではムスカでCOOを務める安藤正英氏が、ムスカの試験プラントは2020年中には稼働させることを表明。プラントの建設費や運営費を考えると一般的な化学肥料などに比べて単純比較では当初は割高になることを認めたが、現在家畜や魚の養殖などの飼料として使われている魚粉の国際価格は高騰を続けている。ムスカプラントの数が増えて糞尿や生ゴミの処理能力が高まれば、将来的には一般的な飼料の同程度のコストに収まることも十分に考えられる。

そして安藤氏は、自身がムスカに入社した一番の理由が、SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた17項目のうちムスカが14項目を達成している点を挙げた。達成していない残り3項目は、QUALITY EDUCATION(質の高い教育をみんなに)、GENDER EQUALITY(ジェンダー平等を実現しよう)、PEACE, JUSTICE AND STRONG INSTITUTIONS(平和と公正をすべての人に)なので、ムスカの事業を照らし合わせると14項目はフル達成に近い。海外ではSDGsの達成を目標とした食品なども登場しており、今後地球規模で考えていかなければならない問題であることは確かだ。

なお試食会では、祝田農園で収穫した米を使ったおにぎり、遊士屋のイチゴ、農業研究家の白木原氏が栽培したキュウリとミニトマト、そして石坂村地鶏牧場で育てられた地鶏のグリルなどが提供された。

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神戸から世界へ、国連調達を目指すスタートアップ育成拠点が2020年夏に神戸上陸

兵庫県と神戸市は11月28日、国連の機関であるUNOPS(United Nations Office for Project Services、国連プロジェクトサービス機関)との間で、テクノロジーを活用してSDGs(持続可能な開発目標)上の課題解決を目指すグローバルイノベーションセンター(GIC)の開設に向け、基本合意書(MOU)を締結した。

写真に向かって左から、グレテ・ファレモ国連事務次長兼UNOPS事務局長、久元喜造神戸市長

GICの神戸拠点は2020年夏頃に神戸市内に開設される予定で、SDGs上の課題に基づき入居期間1年間の条件で入居者を公募する。一定の選考基準にて毎年約15社を選定。3か月ごとに目標を立てて達成度合いを評価し、年間5社程度を国連調達へ参加させることを目標とする。なおGICの拠点としては約300平方mのコワーキングスペースが必須となるそうで、神戸市では現在、既存の建物を前提に候補地を策定中とのこと。

UNOPSは、フィンランド・ヘルシンキで開始されたSlush Helsinki 2019で、今回の取り組みについて講演した

UNOPSは、デンマーク・コペンハーゲンに本部を置く、プロジェクトサービス(事業運営・実施)に特化した国連機関。世界80か国以上で毎年1000件以上の援助事業を実施している。通常資金(コア予算)に対して各国政府から資金提供を受けず、事業運営の実施のみですべての経費をまかなう完全独立採算の機関で、ほかの国連機関や国際開発金融機関、援助国および被援助国政府などからの依頼に基づき、援助事業のプロジェクト推進を進めている。具体的には、アフガニスタンでの道路舗装や太陽光発電を利用した街灯の敷設、ヨルダン北部では老朽化した配水管を修復して漏水を削減する事業などを進めた。

神戸市は、米国シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタルである500 Startupsと連携したアクセラレーションプログラム「500 KOBE ACCELERATOR」や、スタートアップと協働する行政のオープンイノベーション施策「Urban Innovation KOBE」、インキュベーション拠点として「起業プラザひょうご」の運営など、さまざまなスタートアップ支援策を実施してきた経緯がある。このような神戸の取り組みが評価されたほか、誘致に向けて神戸市が迅速に対応したことで、今回アジア初のGICの開設が決まったとのこと。

スウェーデンのGIC施設

なおGICは神戸が3拠点目となり、すでに2018年1月にカリブ海東部の小アンティル諸島にあるアンティグア・バブーダ、2019年10月に本部のデンマークに隣国であるスウェーデンに開設している。既存2施設については、現在入居するスタートアップに向けた課題策定を進めているそうだ。今後は発展途上国を中心にGICの設置を進めていく予定で、すでにモンテネグロ、チュニジアへの設置も決まっている。

前述したように、GICに入居できるのはSDGs上の課題解決を目指せるスタートアップ。つまり世界で通用するサービスやテクノロジーを開発している企業に限られる。となると、食料や物流、医療、教育、インフラ、通貨などの問題を解決するサービスやテクノロジーを有する企業にチャンスがありそうだ。

ちなみに関西には、食材表示の絵文字を開発するフードピクト、低コストでIoTシステムを構築できるPalette IoTを開発するMomo、衛星データと農業データを活用して農業を最適化するアプリケーションを開発するSagri、コオロギ由来のプロテインバーを開発するバグモ、遠隔集中治療支援システムを開発するT-ICUなどのスタートアップがある。神戸市としては、GICの開設によってこれらのスタートアップはもちろん、国内やアジアのスタートアップが神戸を拠点として国連調達を目指して活動することに大きな期待を寄せているようだ。

現在日本では、最初期のスタートアップを支援するエンジェル投資家やシード・アーリーのスタートアップを支援するベンチャーキャピタルが東京に集中しており、地方拠点のスタートアップがそのコミュニティに早期から参入するのは距離的な問題もありなかなか難しい。地方都市を拠点とする資金のある企業にとっても、スタートアップとの接点が東京に比べてまだまだ少ないのが現状だ。GICは開かれた施設になるとのことで、神戸市としては定期的なGICオープンファシリティDayの開催を通じて、地元企業への働きかけも進めていきたいとしている。