メタバースの内と外で生まれるビジネスは「インターネット」の進化をなぞる?

今、国内ではメタバースが熱い。「Oculus」(現在は、ブランド名が「Meta」に変更されている)が2018年から販売しているスタンドアロンVRゴーグルのおかげで、高価なPCや接続に関する複雑な知識なしに、メタバースの世界に入れるようになったからだ。また、マスメディアで報道されるようになったことも要因だろう。

早くからメタバース(当初はVRと呼ばれていたが)に着目し、今やメタバースに住んでいると言っても過言ではないShiftallのCEO岩佐琢磨氏は、自社でメタバース関連のアイテムを開発している。

そんなメタバース界の当事者である岩佐氏には、メタバースの楽しさや、他国との温度感の差、メタバース内での生活を快適にするアイテムなどについて聞いてきた。3回目となる今回は、メタバースとそれにまつわる今後のビジネスなどについて話を伺った。

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メタバースでの滞在時間が長くなることで生まれる新ビジネス

人は実生活において、住まいの居心地を良くしたり、人に会うときには好印象を持ってもらうためきれいな身なりをするように心がけるものだ。そのために、より快適な家を求めたり、家具を買ったりするし、美容院に行く、流行の服を買うといった消費が発生する。

同様に、メタバース内で生活する人が増えれば、その空間(ワールド)や自分(アバター)をより良いものにしたいというニーズが生まれ、そこにビジネスも生まれる発生する。

「すでに、経済活動が行われています」と岩佐氏はいう。「例えばアバター作家といった職業も誕生しています。しかもそのビジネスは国境を超えたものです。現在、日本のメタバースシーンで人気を博しているアバターは、日本だけでなく韓国のクリエイターによるものも多いです。現在のところ、まだメタバースに足を踏み入れている人の数は決して多くはありませんが、今後、その人数は増えていくでしょう。自分を表現するアバターはとても大切なものです。そこで1つ5000円のアバターでも購入されることは十分に考えられます。それを全世界規模で、例えば100万人が買うようになったらかなりの経済規模になります」。

また、ワールドにはもっとビジネスチャンスがありそうだ。

「今後、ホームページを持つように企業はそれぞれワールドを持つようになるかもしれません。またイベントを開催するときなどに特設ページを用意するように、企業がメタバースでイベントを行う際、そのイベントごとにコンセプトや雰囲気が違うワールドが必要になると思います」と岩佐氏はいう。

それはたとえば人気コミックを販売している出版社が、昔の日本を舞台にした作品と海を舞台にした作品でそれぞれイベントを行いたいと考えた場合、それぞれのイメージに合った会場を用意するのと似ている。

「今後、ホームページ以上に多様なワールドが必要とされ、作られていくのではないかと思います。そのため、ワールドを作ることができる人へのニーズが高まり、経済が回っていく日は遠くないでしょう」と岩佐氏は語る。

このようにメタバース内でのビジネスで暮らして人たちが登場する時期はまったくわからないというが、すでにアバタービジネスをグループで行っている人たちが出始めていることから「数万人から数十万人規模の人が、メタバースの世界の中で作ったもので生活できるようになるのには、そう長い時間がかからないのではないか」と岩佐氏は予測している。

NFTがメタバース内のビジネスとして成り立たない理由

また「メタバース」と同じく新しい技術としてNFTも注目を集めている。ブロックチェーン技術を使ったNFTなどのサービスは、デジタルで作られたもう1つの世界であるメタバースと親和性が高いのではないかと漠然と考えていた。

しかし、岩佐氏は「NFT×メタバースは現時点ではあまり相性が良くない」とバッサリ否定する。それぞれのユーザーと事業者がお互いに異質な存在になっているというのがその理由だ。

「NFTで売買したデータ、それ自体はいくらでもコピーできます。ただ、NFTであればその正当な所有権が誰にあるのか、というトランザクションの履歴をチェーンの上に保存でき、それを改ざんできないという特性があるだけです」という。

つまり、NFTアートを購入した場合、買った本人は権利を持っているということで自尊心が満たされ、さらにその権利を売って儲けることもできるだけだともいえる。

「メタバースの中で大切なことは、絵の所有権ではなく絵そのもの。ワールドにそれを飾ることに価値があるのです。すばらしい絵が飾られているすばらしい空間があることに意味があります」と岩佐氏は語る。飾る絵を選び、用意することが重要なのだ。NFTアートである必要はないのだ。

また、現在のところVRChatを提供しているプラットフォームSteamは、暗号資産やNFTを全面的に禁止している。これは余計なトラブルを避けるためのルールでもあるのだろうが、暗号資産、NFTがメタバースで現状、その成長に必要なものではない、ユーザーに強く求められているものではないということでもあるだろう。

求められるであろうガジェット

メタバースを巡るビジネスは、その中だけのものにとどまらない。

例えば前回の記事で紹介した、メタバース内での生活をより快適にするためのガジェットとしてShiftallはヘッドマウントディスプレイ「MeganeX」や、自分の動きを自在にトラッキングしてくれる「HaritoraX」、また仮想空間の温度をリアルに感じられるようにするウェアラブルデバイス「Pebble Feel」を開発、提供する。

メタバースを楽しむために開発されたアイテム。左上から時計回りに「MeganeX」、音漏れを防ぐBluetoothマイク「mutalk」「Pebble Feel』

「ヘッドマウントディスプレイ、コントローラー、トラッキングデバイスが、現時点でのハードウェア3大デバイスでしょう」と岩佐氏。「ただ、今後はもっとさまざまな分野のものが増えてくると考えている」と語る。

「CES 2022 では、メタバース内で触れられたときに、その触覚を感じるスーツのようなものが発表されていました。そうしたハプティクススーツとHaritraXのようなトラッキングデバイスがセットになったようなものが出てくるかもしれません。

現時点では、ヘッドセットの下に表情をセンシングするフェイシャルトラッカーデバイスを装着して現実の表情とアバターの表情を同期させている人もいます。デバイスの形状や種類は、どんどん変化していくのではないでしょうか」(岩佐氏)

そのような中で、VRChatがOpenSound Control(以下、OSC)という新しいプロトコルに対応したことが発表された。OSCは、オーディオ機器と音楽パフォーマンス向けのコントローラーを接続するためのプロトコルだが、その他の機器との接続にも利用可能でアイデア次第でこれまでなかった機器をメタバースの世界につなげることができる。

「例えば、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったら、アバターの顔を赤くする、現実世界の室温が25℃を超えたらアバターが上着を脱ぐ。逆に、アバターが靴を脱ぐ操作をしたら、エアコンの温度を2℃下げるなど現実世界側を操作することも可能になります」と岩佐氏。

VRChatがOSCに対応したことで、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったらアバターの顔を赤くするといったことも可能になる

また、コミニケーションをとる上で壁となる言語についても、OSCを使ってText to Speachで話す、外部ツールに話す内容をいったん投げて翻訳させるといったこともすでにできるようになる。とはいえ「まだまだ翻訳ツールには改善の余地があるため、言語ごとに人が集まっているのが現状。時間の経過とともに解決されるのではと期待している」とのこと。

電子工作が得意な人たちが、すでにさまざま操作を個人的にテストしているが、今後、それらのアイデアが製品化することも十分考えられる。

Metaをはじめとするテック企業が新しいビジネスのフィールドとして新サービスをスタートさせることも多いが、まだまだ始まったばかりの「メタバース」。今後、その体験を現実のものに近づける(もしくは現実では不可能なことを可能にする)新たなガジェットや新サービスが発表されていくだろう。

現在、私たちの周りに当たり前のように存在するインターネットと同様に、メタバースももっと身近なものになり生活の一部になる可能性は大きい。特にコロナ禍で人と人との距離感が変わった今、遠く離れていても目の前にいるかのように他人とコミュニケーションがとれるメタバースは加速度的に進化していくかもしれない。

そしてそれにともなって、そこで生きる、生活の糧を得る人も生まれてくる。インターネット黎明期、まずそこにアクセスしホームページで情報を公開したり得たりすることだけで興奮していたが、現在そこは、eコマースをはじめとしたビジネスの舞台にもなっている。メタバースでもまた同様のことが起こることが予想される。新しい世界は、また新しい可能性に満ちている。

ヘビーユーザーだからこそ生まれたメタバースでの時間をリッチにするShiftallの新製品

ShiftallのCEOの岩佐琢磨氏は、多い日は6時間以上メタバースに滞在し、VRゴーグルを装着したまま眠ってしまうことがあるほどのヘビーユーザーだ。

そんな岩佐氏は、メタバース内で時間をより快適なものにするプロダクトを同社で開発している。

先に開催されたCESではVR、メタバースの展示は日本での盛り上がりを考えると少なめだったというが、現状、それでも仮想現実に入っていくにはVRゴーグルをはじめとしたガジェットが必要だ。

「ヘッドマウントディスプレイが重いから装着が面倒くさい、家族がいる環境でしゃべりづらいから無言にならざるを得ないといったような課題をなくしたい、もっと快適にメタバース内で生活したい」と岩佐氏はいう。そんなユーザー視点をもとに、Shiftallはメタバースでの生活を快適にする製品を生み出している。

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メガネなしでもOKで軽量なMeganeX

VRを一気に身近なものにした「Oculus」ブランドのVRゴーグル製品群。最新モデルはOculus Quest 2(現在はOculusではなくMeta。以下、Meta Quest 2)となる。

Meta Quest 2は前モデルと比べて解像度がアップ、30gほど軽くなっているが503gと500mlのペットボトル1本分の重量だ。下を向く、うなずくといった動作で、ズルリとヘッドバンドが外れてしまうこともある。また、決して「軽い」とはいえない重量であるため、長時間使っていると疲れてしまう。

そんな悩みを解決するのが、販売予定価格10万円未満(税込)の『MeganeX』(メガーヌエックス)だ。

MeganeXは「年間2000時間(約5時間半 / 日)以上をメタバース内で過ごすといわれるヘビーユーザー」が快適な体験を得られるようにした、超高解像度、超軽量のメガネ型(ゴーグル型ではない)のVRヘッドセット。折りたたんで持ち運ぶのもラクラクだ。

Meta Quest 2と比べるとその大きさの違いがわかる

両目5.2K(5120×2560)/10bit HDRと高解像度なので、ドット感のないリアルな体験をユーザーに与える。実際にかぶってみたが、(メタバース内の)部屋から見える景色が、本物のそれを見ているような錯覚が生じるほど。約250gと軽いので装着感がない……というのは言いすぎだが、Meta Quest 2に比べると、やはり軽く「ゴーグルをかぶってこの景色が見えている」という感じはしない。

個人的にありがたかったのは、視力0.XXの私がメガネなしで装着できること。Meta Quest 2では、公式で度付きレンズが販売されているが、コンタクトレンズを使うこともある筆者は、ゴーグルのレンズを取り替える手間を考え、購入していない。しかし、メガネをかけたままゴーグルを装着すると、かぶり方によってはお互いに干渉したり、メガネがずれたりして、プチストレスになっていたのだ。

MeganeXでは、レンズの瞳孔間距離を変えられるだけでなく、レンズの下に度数調整を行うノブがあり、かなりの近視でも、メガネなしでくっきり見えるよう調節できる。これなら、年齢とともに視力が変化しても対応可能。メガネを買い換える必要のある現実世界より、メタバースの世界に、どっぷりハマってしまいそうだ。

メタバース内の温度を感じることができるPebble Feel

Pebble Feel(ペブルフィール)は、小石(Pebble)のようなサイズ感のウェアラブルデバイスで、販売予定価格は2万円(税込)前後。肌側(専用ベルトで装着するため、実際に肌に直接触れるような使い方はしない)にあるプレートが、ペルチェ素子により暖かくなったり、冷たくなったりすることで、メタバース内の環境をリアルに持ち込むことができる。

手のひらサイズのPebble Feel

肌側のプレート。ここが冷却されたり加熱されたりする

実際は、このように専用ジャケットを着用する

ペルチェ素子とは、通電することで一端の熱を他端に移動させる特性があるため、その方向を入れ替えることで、プレートを熱したり冷却したりすることが可能。ネッククーラーなどにも採用されているが、Pebble Feelでは、その中でも高性能タイプのものを搭載しているため、わずかな時間で温冷が入れ替わり、移動先のワールドが熱帯でも雪国でも瞬時にその場に合った体験が得られるようになっている。

デモでは、橋を隔てて雪だるまのある雪の降るワールドとストーブのあるワールドを往復させてもらうことができた。セーターなどを着込んでおり、専用ベルトを装着できなかったため、首筋に直接当てて試したのだが、橋の中央では熱くも冷たくもなかったPebble Feelが、ストーブのそばでは熱を帯び、雪だるまの前ではキンキンに冷える、という体験をすることができた。見えているものとのミスマッチがないので、高い没入感を得られるだろう。

家族が寝静まったあとでもメタバースに浸れるmutalk

せっかくメタバースの世界にいるのに、まったくしゃべらない人がいる。「無言勢」と呼ばれる人たちだ。なぜしゃべらないのか。一緒にいる家族に気を使うため、というのが理由の1つにあるという。

それを解決するのが「mutalk」だ。これは、一種のBluetoothマイクで、楕円柱状をしており、口元を覆うことで音漏れを防ぐことができる。

マイクは顔から最も離れた位置に設置されているため、息継ぎの音や、不快な破裂音などが相手に伝わることはない。

実際に、Shiftall 広報 深谷友彦氏を話者として試してもらったところ、通常のボリュームだけでなく、ささやくような声でもクリアに伝わってきた。これなら家族が寝静まったあとでもメタバースの世界に浸れるし、音声チャットを楽しむこともできる。

Windows、macOS、iOS、iPadOS、Androidなどさまざまなデバイスに対応しているので、メタバース内のチャットだけでなく、オフィスの自席、カフェなど、周りに人がいる状況でも会話内容の秘匿性を保ったまま、オンラインミーティングや通話を行える。もちろん、周りに迷惑をかけることもないだろう。

専用バンドで顔に固定できるので、両手にコントローラーを持っていても心配なし。もちろん、外出先では、手に持った状態で、必要なときだけ口元に当てる使い方のほうがスマートだろう。mutalkの販売予定価格は2万円(税込)前後となっている。

バンドで顔に固定。手が自由になる

売り切れ状態が続くほど大人気なフルトラッカー『HaritoraX』も

2020年5月に発売し、予約開始とともに予定数を販売しきってしまうほど人気を博しているアイテムが『HaritoraX』だ。

Meta Quest 2では、ヘッドセットを装着している頭と、コントローラーを持つ両手の計3点をトラッキングするが、HaritoraXを追加で装着することでは腰や足の動きまでトラッキングできる。

地磁気センサー、加速度センサーを搭載したバンドを腰、太もも、ふくらはぎ(または足首)に装着するからだ。まさに「メタバース内にいるのに、布団で寝てしまうこともある」岩佐氏ならではの発想だろう。

「メタバース内でラジオ体操のために集まることがあるけれど、手や頭だけでなく、腰の動きや足の動きもトラッキングできるから、屈伸や、上体そらしなども“やってる感”がある。正座、お辞儀、ヤンキー座りなど、日本人ではおなじみの姿勢をメタバース内で再現できるので、『欲しい!』という人が増えたのだろう」と深谷氏はいう。

Windows PCが必要だが、SteamVRに対応したヘッドセットであれば利用可能。内蔵バッテリーで駆動し、4時間半の充電で約10時間動作する。

半導体不足などにより、製品出荷をした2021年7月からながらく売り切れ状態が続いているが、岩佐氏によれば「数万台単位で作れるだけの部品を発注した」とのこと。販売再開が待ち遠しい製品だ。

今回紹介した製品は以下のものだ(カッコ内は販売予定価格または販売価格。いずれも税込

  • MeganeX (10万円未満)
  • Pebble Feel (2万円前後)
  • mutalk (2万円前後)
  • HaritoraX (2万7900円)

最終回は、岩佐氏が考える、メタバースで生まれると予測されるビジネスや今後求められるガジェット、加熱するNFTとの関連についてお届けする。

自らもメタバースの住人で専用デバイスも開発、Shiftall岩佐氏に聞く「メタバース周りの現状」

Shitallは2022年1月、CESでVRヘッドセット「MeganeX」、ウェアラブル冷温デバイス「Pebble Feel」、メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク「mutalk」を発表した。

「メタバース」というキーワードが飛び交っている。デジタルにおける新たなフロンティア、コロナ禍で閉鎖的な現在を生活的にもビジネス的にも変えてくれるかもしれない「メタバース」に大きな注目が集まっている。

Facebookが社名を「Meta」に変更し、メタバースという単語をちりばめることでアピールする新サービス、アプリが昨秋以降、急増していく中で、2022年春における「実際のところ」はどうなのだろうか?

作りたいものを作る!Shiftall(シフトール)のCEO岩佐琢磨氏は、新卒でPanasonicに勤めていたが、独自製品をスピード感を持って開発したいという想いを持って同社を退職。ハードウェアスタートアップCerevoを立ち上げた。

先に開催されたCESでも新製品を発表し、理想や概念ではなく実務として「メタバース」に取り組んでいる​​岩佐琢磨氏。

「当事者」である岩佐氏に、日本そして海外でのメタバースの現状やShiftallがそれにどのように関係してくるのか。また、考えるメタバースの楽しさ、ビジネス、将来について話を伺った。

日本と海外でのメタバースに対する温度差

2018年に、PCレス、ゴーグル単体でVRを楽しめるOculus Goが発売され、2019年に6軸センサー搭載のOculus Quest、2020年にその後継モデルとなるOculus Quest 2(現MetaQuest)が発売されても、一部の人たちを熱心なユーザーは生んだものの、それ以上、一般層にまで浸透しなかったVR。

しかし、Questを販売しているFacebookが、社名をMetaへ変更され「VR」ではなく「Metaverse(メタバース)」という言葉が使われ始めてから、ITと親しいウェブメディアだけでなく、マスメディアでも取り上げられるようになり、盛り上がっている。

そのような状況において、2022年1月に米国で行われた世界最大級の電子機器の見本市CESに参加した岩佐氏は「メタバース関連のアイテムに、あまり盛り上がりが見られなかった」という。

「例年、多くのブースを出す中国から企業が参加できなかった点が大きい。また、メディカル分野のスタートアップが多い韓国からの出展が多かったことなどから、ヘルステックやメディテックが目立っていました。メインはオートモーティブ関連の出展でした」。

国内の報道を日常的に見ていると「メタバース関連がメインではないのか」と感じてしまうが、岩佐氏は「例年に比べて、VRやAR関連の出展は増えていたけれども、現地(米国・ラスベガス)はそれほどヒートアップしていませんでした。日本国内と海外で、メタバースに対する温度感の差が激しい印象です」と語る。

メタバース界隈とインターネット黎明期の共通点

メタバースに関する岩佐氏の話で興味深い点は、同氏がインターネット黎明期とメタバースの現状に共通点を見出していることだ。

「今、ごく一部の人たちがVRChatの中でわいわいと楽しく過ごしています。それって国内でインターネット接続が一般化して、ホームページを作って情報を発信するようになった人が登場し始めた1997~98年の感覚に似ています。HTMLタグを駆使してホームページを作って、CGIを組んでカウンター作ったり『キリ番ゲット』などとインターネットというサービスを楽しんでいたときのノリに近いものが、現在のメタバースにはあります」と岩佐氏はいう。

当時、そのノリに対して、周囲から「何が楽しいんだろうか」と冷ややかな目がよせられることもあったが、現在、メタバース世界を楽しんでいる人たちに対する目もそれに近いものがあるという。

やがて、ホームページをWYSIWYGで作れるホームページ・ビルダーが登場し、わざわざホームページを作らなくても簡単にブログを始められる仕組みが生まれ、女子高生たちはかわいらしいアバターをアメーバピグの中で作っていくようになる。

そしてYouTube、Instagram、ブログ、TikTokなど、人気配信者(ブロガー、ティックトッカーなど呼び方はそれぞれ)が、やがてインフルエンサーと呼ばれ社会に対する影響力が大きくなっていく。

メタバースでも同じように、HTMLタグよろしくBlenderやUnityで手作りしている状況だが、pixivが提供しているVRoid(ブイロイド)のように、マウス操作だけで髪の毛を伸ばしたり、目を大きくしたりできるツールが登場してきており「ワールドすら、近いうちにそれほど知識がなくてもGUIベースで誰もが作れるようになるのではないかと考えている」と岩佐氏は考えている。実際、取材後の2月15日にクラスターは、誰でも簡単に自分の想像したメタバース空間を創造できる新機能「ワールドクラフト」のリリースを発表している。

「ブログから始めて起業したり、有名になった人が生まれたように、メタバース上のワールドを舞台にして人気になり、稼ぐ人が生まれてくるときが来ると思います。すでにその兆しは見えています。堀江さんや三木谷さんが、『これからはホームページでビジネスが回る。数兆円規模の市場になる』と予測したときと同じフェーズに、メタバースもさしかかっています」と岩佐氏はいう。世界を変えるような、次なるビジネスの芽がすでにメタバースの世界に誕生し始めようとしている。

そしてそれを裏づける出来事も生じている。

ShitallのCEO岩佐琢磨氏

調達金額でわかる加速する注目度

2021年、メタバースをめぐる資金調達の流れを振り返ってみたい。中国のVRヘッドセットメーカーPico Technologyが約40億円を調達したのが3月のことだ。Epic Gamesは4月に約1000億円、ソーシャルVRサービスを提供するVRChatは6月に約80億円を調達した。

そして、Pico Technologyは、8月にTikTokを運営するByteDanceに約840億円で買収される。それだけの価値があると認められたわけだ。

岩佐氏は「2021年7月以前と8月以降では、参入してきた人(企業)に変化が見られる」という。

というのも、それまでは多くても調達額は数十億円程度だったが、数百億円、数千億円という話が聞かれるようになったからだ。

Nianticが11月にARメタバースに355億円を調達。VRイベント「バーチャルマーケット」を提供するHIKKYもは2月8日にシリーズAで70億円を調達、12月には韓国ネイバー傘下のメタバースプラットフォームZepeto(ゼペット)が、ソフトバンクグループから約171億円を調達している。すでに、KDDIの資本が入っているクラスターもあり、3大キャリアがそれぞれメタバースに関連した武器を持っている状態だ。「年末近くにはソーシャルVR「Rec Room』が約164億円の調達に成功しています。どうも札束で殴り合いをしているように感じます」岩佐氏はいう。

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メタバースへのアプローチは2種類

岩佐氏が語る「メタバース」は、あくまでも「VRの世界で、コミュニケーションを取るVR SNS」を対象にしている。「『フォートナイト』も『どうぶつの森』もメタバースだと主張する人がいますが、メタバースという言葉が乱用されているのではないでしょうか。他者とコミュニケーションを取るために、VRゴーグルをかぶって入る空間がメタバースだと感じています」。

その上で「『メタバース』に対して2つのアプローチがあることを認識している」と岩佐氏はいう。1つ目がゲームからのアプローチとなる。「他者とコミュニケーションを取れるSNS要素があることを理由に、『フォートナイト』や『Roblox』などは、自分たちもメタバースだと称しています。ゲームをしていない時間でもその空間にとどまれるような工夫もしている、と」。

そして2つ目のアプローチはSNSとなる。「VRChatはSNSからのアプローチ。ゲームもできるけど、バーチャル空間でも現実世界と同じように過ごすことを目指しており、いろいろな試みがなされています。決して朽ちないけれども、もう用済みになってしまった『廃墟』巡りをしたり、誕生日パーティーを開いたり、メタバースの中にお墓を作ったり……。リアルのようでいて、リアルではない楽しさがあります」と岩佐氏は語る。

さらに岩佐氏は「瞬時に世界中の人とつながれるから、国境がないように考えるかもしれないけれど、アバターのデザイン、コミュニケーションの取り方、人との距離などで、国民性が出ます。その様子を見るのも、メタバースの楽しみ方の1つですね」という。

メタバースの世界にいる状態なのに、現実世界においても布団で寝てしまうこともあるという岩佐氏。それほど長くいるのに必要なものをShitallで生み出してきた。次回は「メタバース住民必見」のメタバース向け製品を紹介したい。

ヘビーなメタバースを楽しむ人向け、軽量メガネ型VRヘッドセットや冷温デバイスなどをShiftallが発表

昨年、注目を集めたメタバース。2022年はさらに多くの関心が寄せられ、新たなサービスなど登場すると思われる。テック業界におけるこれからの動向を占うCES。リアルでの参加を見送る企業も増えているが、それでも各社から最新製品が登場するだろう。

日本のShiftallは1月4日、VRヘッドセット「MeganeX(メガーヌエックス)」、ウェアラブル冷温デバイス「Pebble Feel(ぺブルフィール)」、メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク「mutalk(ミュートーク)」の3製品を発表した。

MeganeX

「MeganeX」はSteamVRに対応した超高解像度・超軽量のVRヘッドセットだ。メタバースで多くの時間を過ごすヘビーなVRユーザーが、今、求めている「軽さ」を追求した本製品は、ゴーグルタイプではなくメガネ型で重量は約250g(Oculus Quest 2は503gなので半分以下)。スピーカー内蔵の折りたたみフレームになっており、長時間装着しても疲れづらく、収納、携帯も楽になっている。

リフレッシュレート120Hzの5.2K/10bit/HDRのディスプレイを採用。6DoFに対応し、SteamVR対応するVRアプリケーションを楽しめるとのこと。

ウェアラブルデバイス「Pebble Feel」は最低9℃から最大42℃まで人体を冷やしたり、温めたりできるパーソナルエアコンだ。

Pebble Feel

専用シャツに装着することで接触する首元を霊薬、加熱し厳しい季節を快適に過ごせるのはもちろん、専用のSteamVR用アドオンを利用することで、VRChatといったメタバース空間で熱さや寒さを体験することもできるようになる。

mutalk

「mutalk」はメタバース対応の音漏れ防止機能付きBluetoothマイク。メタバースはオンラインゲームでのボイスチャットに最適だ。専用バンドで顔に固定することもできるためハンズフリーで会話も可能となっている。

MeganeXは販売予定価格税込10万円未満、Pebble Feelは2万円前後、mutalkは2万円前後となっている。MeganeXとPebble Feelは2022年春、mutalkのみ2022年夏の発売予定とのこと。いずれの製品もパナソニックと協業開発し、Shiftall製品として発売される。

まだ3製品は米国時間1月5日に開催されるCES 2022で出展される。

画像クレジット:Shiftall