小型衛星打上機の開発を手がけるSPACE WALKERが総額3.25億円を調達

SPACE WALKER

サブオービタルスペースプレーン(小型衛星の打ち上げ)の設計・開発、運航サービスの提供を目的とするSPACE WALKER(スペースウォーカー)は、2019年10月1日以降、2020年2月末までの間に、CE(コンバーチブル・エクイティ)型新株予約権により新たに1億5500万円の資金調達を実施し、プレシードラウンド総額として3億2500万円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、新居佳英氏(アトラエ 代表取締役CEO)、QB第一号投資事業有限責任組合、髙木秀邦氏(髙木ビル 代表取締役社長)、有限責任事業組合ハンズインなど。今回の資金調達により、2018年10月15日に実施したエンジェルラウンドも含め、累計調達額は5億2500万円となった。

SPACE WALKERは、「誰もが飛行機に乗るように自由に宇宙へ行き来する未来の実現」を目指し、サブオービタルスペースプレーンの設計・開発、運航サービスの提供を目的に2017年12月に設立。現在は、アイネット、IHI、IHIエアロスペース、川崎重工業、東京理科大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など技術パートナー企業とともに、2022年に打ち上げ予定の科学実験用サブオービタルスペースプレーンの開発に取り組んでいる。また実証技術を応用して、各パートナーと協働し、メイドインジャパンの小型衛星打上機を2024年、そしてサブオービタル宇宙旅行機を2027年に初飛行させることを目指している。

今回調達の資金は、主にサブオービタルスペースプレーンの技術実証機である有翼ロケット実験機「WIRES(WInged REusable Sounding rocket)#013」、「#015」の設計・開発および製造に活用する。

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堀江貴文氏語る「日本が世界に勝てるのは宇宙とロボティクス、今が大チャンス」

Infinity Ventures Summit 2019 Summer KOBEの2日目となる7月12日には、宇宙開発を手がけるスタートアップのインターステラテクノロジズの創業者である堀江貴文が司会を務めた「宇宙開発概論」というセッションが開催された。

ゲストとして、2027年までの有人宇宙飛行を目指すSPACE WALKER(スペースウォーカー)で代表取締役CEOを務める眞鍋顕秀氏と、人工流れ星を開発中ALEで代表取締役を務める岡島礼奈氏の2人が登壇した。

堀江氏がセッション中にしきりに強調していたのが「日本にとって宇宙産業は非常に有望で、世界に勝てる数少ない産業」という点。

その根拠として同氏は、国内には最適な射場があることに触れた。ロケットは地球の自転速度を利用できる東に向けて打つことが多く、西に向けて打つことはない。また、縦に回る極軌道に載せる必要がある地球観測衛星などは南や北に打つ。インターステラテクノロジズが利用する北海道にある射場は東、北、南のどの方向に打てるそうだ。米国では、東に打つときはフロリダ(ケネディ宇宙センター)、南に打つときはカリフォルニア(ヴァンデンバーグ空軍基地)の射場が使われることが多く、開発拠点から遠いとそれだけ移送コストもかさむ。

次に堀江氏が挙げた理由が、ロケット部品の国内製造能力。日本では、すべての部品を国内調達できるのが非常に大きな強みだという。「ロケットの部品を海外から輸入するとなると、輸入や移送にコストがかかるうえ煩雑な税関手続きなども発生し、低コストのロケットを量産するには不利」と眞鍋氏。堀江氏は「日本なら、国内の部品を集めて射場の近くに建設した工場で組み立てればすぐに発射できる」ことを強調した。実際にインターステラテクノロジズのロケットは1カ月程度で組み上げたそうだ。

この点に関してさらに眞鍋氏は、助成金の申請に行くと「海外でやれば?」という意見もあるが「海外でロケットを打ち上げるのは、許認可や輸出など大変」と話す。岡島氏も「ロケットには国籍があり、日本のロケットは宇宙活動法という法律に則って運用するが、海外で打ち上げるとなると同じような別の法律に従う必要があり、その都度必要な調整が煩雑」と語る。

ちなみに岡島氏が代表を務めるALEが開発した人工流れ星を生成可能な衛星は、すでに打ち上げは成功しているものの、人工流れ星の放出には着手できていないとのと。JAXAのイプシロンロケットに載せて打ち上げられて高度500kmの位置にいるのだが、高度400kmの位置にある宇宙ステーションよりも低い高度で検証する必要があり、現在高度を調整している最中とのこと。

公表はできないがすでに顧客もついているそうだ。問い合わせベースでは、ホテルやイベントのオープニングに使いたいという依頼もあったとのこと。明るさはマイナス1等星程度で、オリオン座が見える空なら、そのオリオン座を構成する星よりも明るく見える。気になる価格は、流れ星1つあたり数百万円程度になるとのこと。この価格設定について「特大の花火と同じくらいの値段」と岡島氏。数百万でコストであれば結構な需要が生まれそうだ。

話を元に戻そう。堀江氏は3つ目の理由として国内の資金調達市場の成熟を挙げる。国内のスタートアップ企業への投資は現在も盛んで、ネット関連企業に数十億円が投資されることも少なくない。最近ではVCが組成するファンドに機関投資家も加わるようなり、ファンド規模も拡大している。堀江氏は「ネット企業への投資もいいが、もっと宇宙産業に目を向けてほしい」とも語る。「インターステラテクノロジズでは、さまざまなアイデアを駆使してなんとか10億円ほど集まった」とのこと。宇宙産業への投資熱がまだ低いことに不満を募らせているようだった。

堀江氏はどのように資金を集めたかも語ってくれた。インターステラテクノロジズのロケットは100kgほどのペイロード(可搬重量)があるが、コーヒーやハンバーガーなどを載せて打ち上げるのだそうだ。ハンバーガーは250万円でロケットに載せる権利を売ったとのこと。「宇宙に行ったハンバーガーというだけで十分な宣伝効果になるじゃないですか」と堀江氏。確かに、数百万円で宇宙に持って行けるのであれば、宣伝費用としてはリーズナブルかもしれない。

そのほか、宇宙で飛ばす紙飛行機などエンタメ系の実験も真面目に進めている。

実はインターステラテクノロジズは7月13日にロケットの打ち上げを予定している。この機体は「ペイターズドリームMOMO4号機」と名付けられており、ロケットとしては珍しく外装に広告が入っているのが特徴だ。ペイターズ(paters)とはオンラインラウンジアプリ、いわゆるパパ活アプリだ。そのほか、メガネのオンラインストアを運営するOWNDAYS(オンデーズ)、平和酒造といったさまざなスポンサーのロゴが機体にペイントされる。これらも堀江氏のアイデアだ。

最後の理由が、スタートアップが宇宙開発に参入できる環境を整ったこと。現在堀江氏のインターステラテクノロジズは、JAXAとの共同実験を進めているそうだ。「例えば、JAXAが機体に使うシールは200万円ぐらいする。もちろん超高性能で剥がれないのだが、剥がれるかもしれないが30万円ぐらいの品質のシールを試したりしている」とのこと。そのほか、ロケットの姿勢制御用などに使うジャイロスコープもJAXAは1個800万円ぐらいのものを使っていて、万が一のために冗長性を持たせるために2、3個を搭載する。これも汎用のジャイロスコープにしてコストダウンできないかを検討している」そうだ。

堀江氏によると、インターステラテクノロジズでは現在10基のロケットを作っており、1基を5億円ぐらいで売る予定。そうなると1基あたり1000万円ぐらいの部品コストしか使えないとのこと。「JAXAのシールを2枚使うだけで400万円するので、残り600万でほかの部品を調達するのは無理で、部品の大幅なコストダウンは必須」という。

そしてスタートアップの強みとして堀江氏は「失敗してもいい」点を強調した。JAXAなどの国家事業となると絶対に失敗できないため、基本設計はあまり変えられない。H-IIAロケットも基本設計は古く「iPhoneより性能が低いコンピュータを使っている」と眞鍋氏。堀江氏は「スタートアップであれば、どんどん新しい設計のロケットを試すこともできる」とし「インターステラテクノロジズのロケットもH-IIAロケットよりも高性能なコンピュータを積んでいる」と教えてくれた。そして「高性能といってもラズパイなのでコストは安い」とのこと。ご存じのようにラズパイは、ワンボードマイコンのRaspberry Piのことで一般向けなら6000円弱、産業用でも5万円ぐらいで手に入る。

このように堀江氏は、スタートアップと宇宙産業の相性がいいことをアピールした。「海外のネットベンチャーは非常に強く、日本企業が進出しても成功するのは難しい。これからの日本が世界で戦えるのは、ロボティクスの分野と宇宙の分野しかない」と堀江氏。岡島氏も「ロケットには言語バリアがなく、載せられるのであればどの国のロケットであっても構わない」と語る。

堀江氏と眞鍋氏によると、現在の日本の宇宙産業はインターネットの黎明期に似ているそうだ。「当時は回線やサーバーのコストがむちゃくちゃ高く、以前経営していた会社はその影響で上場年に赤字になったほど。そのあと、Linuxベースの安価なサーバが出てきてサーバーコストは大幅に下がり、回線コストも非常に安くなった」と堀江氏は振り返る。

堀江氏は「宇宙産業で日本と競争できるのは米国と中国ぐらい。フランスも実力はあるが、射場が南米のフランス領などにあるので移送コストの問題がある。とにかくいまは日本にとって大チャンス」と何度も強調していた。

余談として堀江氏は、所有するプライベートビジネスジェット「HondaJet Elite」に触れ、現在6人で共同所有しており購入時には1人あたり1億円程度を出したことを明かしてくれた。そして、年間の維持費は1300~1400万円、1回のフライトは40~50万円とのこと。共同所有であれば、起業家やVCが無理なく所有できる額であり「この飛行機が30機ほど日本にあればシェアリングも可能なってさらに身近になる」と堀江氏。HondaJet Eliteの最大定員は、乗員1名+乗客6名、もしくは乗員2名+乗客5名。ビジネスやファーストクラスでの移動を考えれば、それほど高コストではない。また、移動時間をコストとして考えれば、十分に現実的だろう。

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あと9年で僕たちは宇宙に行けるかもしれないーー民間による有人宇宙飛行を目指すSPACE WALKER発足

「2027年にスペースプレーンで人間を宇宙に飛ばす」ーーそんな大きな目標をかがけた日本のスタートアップがいる。本日プロジェクトの発足を発表したSPACE WLAKER(スペースウォーカー)だ。同社はこれから、九州工業大学、IHI、JAXA、川崎重工業などと共同で2021年に無人のサブオービタル宇宙飛行用の機体を飛ばし、2027年には民間事業として有人宇宙飛行の実現を目指す。

SPACE WALKERのプロジェクトのルーツとなったのは、2005年より開始した九州工業大学の有翼ロケットプロジェクトだ。この研究は現在も継続中で、8月末には実験機である「WIRES #014-3」の打ち上げが予定されている。

WIRES#014-3の全長はわずか1.7メートル、総重量も42キログラムとその規模は小さい。だが、SPACE WALKERと九州工業大学は今後も機体の共同開発を続け、有人飛行に耐えうる安全性と性能をもった機体の開発をめざす。2027年の有人飛行では、IHI製のLNGエンジンを3基搭載した、全長15.9メートル、総重量18.7トンの機体が開発される予定。このスペースプレーンに乗り、乗員2人、乗客6人の計8人が宇宙に飛び立つことになる。

8月末に打ち上げられる「WIRES#014-3」の実機

有人飛行用のスペースプレーンは、発射から約4分ほどで高度120キロメートルに到達する。地球が丸く見え、無重力状態となる高度だ。乗客は約3〜4分のあいだ無重力状態を楽しみ、その後地球に帰還する。ちなみに、この「スペースプレーン」とは一般的な航空機と同じように特別な打ち上げ設備を必要とせず、自力で滑走し離着陸および大気圏離脱・突入を行うことができる宇宙船のことを指す。

この壮大なプロジェクトを構想したSPACE WALKERの創業メンバーは全部で10人。ファウンダーで九州工科大学教授の米本浩一氏(SPACE WALKERファウンダー)、宇宙ステーション「きぼう」の運用会社のJAMSSで代表取締役を務めていた留目一英氏(同取締役会長)など、創業メンバーの約半数は宇宙領域の専門家だが、残りの半数はスペースプレーンのデザインやブランディングなどを手がけてきた大山よしたか氏(同CEO)、元ミクシイ執行役員の辻正隆氏(同取締役)など専門領域や世代を超えたメンバーで構成されている。

代表取締役COOの眞鍋顕秀氏は、「ベンチャー企業であるSPACE WALKERの役割は、これまで日本が培ってきた宇宙関連技術をインタグレーターとして取りまとめて、民間事業として有人宇宙飛行を実現すること」と話し、そのために世代や業種を超えた組織体制を構築したという。

今後SPACE WALKERが開発予定のスペースプレーン

オールジャパンの技術と人材により、民間による宇宙旅行事業の実現を目指すSPACE WALKER。でも正直なところ、少なくとも現時点では同プロジェクトはまだブループリントの域を出ないという印象だった。

米本氏は「2021年の無人飛行には100億円規模の開発費用が必要。2027年の有人飛行では、1000億円を超える規模まで考えないと、安心して人間を乗せられるレベルのものはできない」と話す一方、設立段階のSPACE WALKERの資本金はわずか100万円。現在同社はいわゆるエンジェルラウンドとしてエンジェル投資家、シード投資家を対象とした資金調達ラウンドを実施中としているが、そこで資金が集まるかもまだ定かではない。

また、民間企業として宇宙飛行ビジネスを行うと聞けば、事業化まで食いつなぐための資金調達計画や、事業を立ち上げたあとのマネタイズ方法が気になるところだけれど、眞鍋氏は「これまではとにかくチームの構築に注力してきた」として、資金調達計画や宇宙飛行事業の“値段感”を具体的に示すことはなかった(値段が分からなければ、貯金のしようもない!)。

それでも、テクノロジー好きのTechCrunch Japan読者のみなさんがSPACE WALKERの話を聞いてワクワクしないはずがない。“2027年”と書くとなにか遠い未来のように感じるかもしれないけれど、彼らの計画では、あと9回だけ年を越せば僕たちが宇宙に行ける未来がやってくる。その胸踊る未来が実現するために、SPACE WALKERはこれから今のブループリントを現実味を帯びたロードマップにしていく必要がある。これから、その過程に注目が集まりそうだ。

さて、先日ニュースにもなった「スターウォーズ」を見返して、宇宙旅行の予習をしておくとしよう。