独自コインを通じて資金とファンを獲得、「SPOTSALE」や「BASE」が新たな取り組み

近年クラウドファンディングを筆頭に、個人や企業が共感してくれたファンから資金を集められる仕組みが増えてきている。

5月17日にお店の“会員権”取引所「SPOTSALE(スポットセール)」が発表した「SPOT COIN」や、同月14日にネットショップ作成サービス「BASE」が公開した「ショップコイン」もまさにその手段のひとつ。

これらのサービスは店舗が“独自のコイン”を発行することで、初期の資金調達やファン獲得を実現できるものだ。

ユーザー間での売買も可能な「SPOT COIN」

イジゲンが2018年3月にリリースしたSPOTSALEは、飲食店や美容室などの店舗と顧客をつなぐ会員権の取引所だ。店舗は優待つき会員権を発行しユーザーに購入してもらうことで、資金と顧客を同時に獲得できる。またユーザーが購入した会員権を売買できる点がクラウドファンディングとの大きな違いだ。

今回イジゲンが発表したSPOT COIN(リリース日は6月15日)は、SPOTSALEに上場する企業や店舗が独自のコインを公募し、発行できるポイント機能のようなもの。コインはユーザー間で売買できるほか、実店舗やECサイトでの決済(SPOT Pay)、店舗がSPOTSALEで発行する会員券の購入にも使える。

ユーザーがサービスや会員権をディスカウント価格で購入できる仕組みを作ることで、店舗が資金集め・ファン集めをしやすい環境を構築。より良いサービスを早期から提供できるような経済システムの創造を目指しているという。

資金決済に関する法律(資金決済法)における「前払式支払手段」に該当するかが気になるところだが、SPOT COINでは有効期限を半年間としているため資金決済法の適用対象にはならないという(発行の日から6月内に限って使用できるものは適用対象外。前払式支払手段については日本資金決済業協会のサイトに詳しい記載がある)。

イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏によると「最初は第三者型で登録することを検討していたが、SPOTSALEの場合では(コイン価格が変動して大幅に上昇する可能性もあり)供託金が調達した金額を超えてしまうリスクがある」ため、リスクを避けるべく6ヶ月の期限を設けたそうだ。

そのためSPOT COINを購入したユーザーは半年以内に「SPOT Payで使う」「売却する」「会員権を購入する」のどれかを選択する必要がある。

今後イジゲンではSPOT COINの第1弾として、6月15日より自社の独自コイン「イジゲンコイン」の公募販売を開始する計画。同コインはイジゲンが提供するサービスの支払い手段として利用できるようにする予定だ。

BASE出店店舗が使える新たな資金調達手段「ショップコイン」

また先日ネットショップ作成サービスのBASEからも、ショップコインという新たなサービスがリリースされた。これはBASEに出店する店舗が独自のコインを販売することで資金を調達できる機能だ。

コインは作成元の店舗でのみ、1コイン1円として利用が可能。販売価格は100コインあたり50〜100円の範囲で選べるため、コインの価格を100円より安く設定すればユーザーが利用時に割引を受けられるようになる。店舗はコインの作成にあたって資金を集める目的を「公約」として明記する必要があり、この内容などをもとに運営側で審査を実施。通過した場合のみコインを販売できる仕組みだ。

ショップコインのサイトに「このサービスの本質的な目的は『ファンとの関係を継続すること』にあると私達は考えています」とあるように、資金調達の手段としてだけでなく、熱心なファンを獲得するきっかけにもなりそうだ。

まだ知名度が低い店舗でも割引価格でコインを発行すれば注目するユーザーがでてくる可能性もあるし、早くから応援してくれたファンにはサービスを他の顧客よりも安く提供することで期待に応えることができるだろう。

なお先に紹介したSPOT COINと似ている部分もあるが、ショップコインの場合は購入したコインをユーザー間で売買する二時流通の仕組みはない。資金決済法上の「自家型前払式支払手段」にあたるものの、各店舗が販売できる上限金額は1000万円以下となっているため「自家型発行者」には該当せず、資金決済法やこれに関係する金融庁のガイドライン等に基づく規制の対象にもならないという。

今回紹介した2つのサービスとは方向性の異なる部分もあるが、3人以上のコミュニティが「コミュニティコイン」を発行することで支援者を集めることのできる「fever」や、個人や店舗が特典を設定した無料の“ポイント”を配布できる「MINT」といったサービスもでてきている。

これらのサービスによって、店舗とファンの関係性の築き方もより広がっていきそうだ。

ファンと資金を同時に獲得、お店の“会員権”取引所「SPOTSALE」が正式リリース

会員権を発行することで、店舗が資金や新たなファンを獲得できる「SPOTSALE(スポットセール)」。開発元で大分県発のスタートアップ、イジゲンは3月13日、同サービスを正式にリリースした。

サービスの概要については2018年1月にイジゲンが資金調達を実施した際にも紹介しているが、SPOTSALEは飲食店や美容室などの店舗と顧客をつなぐ会員権の取引所だ。リリース時点では以下の3つの機能を提供する。

  • 店舗が会員券の発行を行い、期間限定で公募販売をする
  • 一般公開された会員券はユーザー同士で売買できる
  • 会員券を所有するユーザーは発行店舗で優待を受けられる

イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏に前回取材した際「購入型のクラウドファンディングに(会員権を売買できるC2Cの)二次市場がくっついてるようなプラットフォーム」という話があった。

店舗にとっては会員権の発行(SPOTSALEに上場する)を通じて資金と顧客を同時に獲得できるのが最大の特徴。一方の会員にとっては優待を受けられるだけでなく、サービス内で会員権を売買できる点が従来のクラウドファンディングとの大きな違いだ。

正式リリースにあたって店舗情報が公開。会員権の価格や優待内容も閲覧した上で、公募に申し込めるようになった。

同社によると現時点で登録ユーザー数は約3000人、2018年3月までに会員券の発行を希望する店舗は飲食系や美容系を中心に約70店舗(初期上場店舗は10店舗で、60店舗が審査中とのこと)。総調達金額は約1.4億円を予定しているという。

今後は地域や特定の分野に貢献したユーザーによる会員券推薦機能や、評価の高い店舗の段階的な追加公募、日本以外へのサービス展開等も予定する。「SPT(会員権の購入に利用するポイント)は将来的に仮想通貨になることも視野に入れ、流通も可能にしたSPOTSALE経済圏の構築を目指していく」(鶴岡氏)

店舗が資金やファンを獲得できる“会員権”の取引所「SPOTSALE」、開発元のイジゲンが6200万円を調達

店舗が会員権を発行することで、資金やファンを獲得できるプラットフォーム「SPOTSALE(スポットセール)」。同サービスを開発するイジゲンは1月26日、ANRI、インフキュリオン・グループ、モバイルクリエイト、バリュープレス創業者の大木佑輔氏を引受先とした第三者割当増資により、総額6200万円を調達したことを明らかにした。

2013年設立のイジゲンは、受託開発やITコンサルティングに加えて、自社で位置情報を活用したポイントアプリ「AIRPO」やグループ向けの写真共有アプリ「guild」を展開する大分発のスタートアップだ。

同社で現在開発している新サービスが冒頭でも紹介したSPOTSALE。飲食店や美容室などの店舗が会員権を発行、販売することで資金を調達できる「お店の会員権の取引所」だ。

会員権にはたとえば「1000円以上の注文でドリンク1杯目が無料」「来店時に20%オフ」のような優待が設定される。これを通じて店舗が新規顧客の開拓や、中長期に渡って応援してくれるファンの獲得も目指せるのがウリだ。

購入した会員権については他のユーザーと売買することもできるため、イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏は「購入型のクラウドファンディングに(会員権を売買できるC2Cの)二次市場がくっついてるようなプラットフォーム」だと話す。

たしかに店舗が複数の個人から資金を調達できることに加えて、顧客の獲得手段としても活用できる点ではクラウドファンディングに近い。また会員権をユーザー同士で取引できる仕組みや、店舗がSPOTSALEを活用する際に「SPOTSALEに上場する」という表現が使われているあたりは、ICOに似ている点もある。

ただし株やICOにおけるトークンの取引とは違い、C2Cで会員権を売買する際のオファーや価格の設定などは完全に1対1で決める。鶴岡氏も「(株のように)そこまで頻繁に売買が発生するわけではない」という考えで、たとえば引っ越しや違う店舗に浮気してしまった際などに使ってもらうことを想定している。

「継続して長いスパンで(店舗とユーザー間の)関係性が構築されるサービスを作りたい。そこに愛が生まれると、単発の取引ではなくもっと深い特別な関係性ができる。特に地方はICOができずIPOをやる規模でもないが、いいお店や企業がたくさんある。そのような企業が応援される、評価される仕組みを作り、店舗から『SPOTSALEに上場すること』を目標にしてもらえるようなサービスを目指したい」(鶴岡氏)

SPOTSALEのリリースは2月の予定だが、現在Webサイト上で先行してユーザーと会員権の発行店舗を募集中。現時点で登録ユーザー数は2000人、店舗数は50店舗、会員権の購入に利用できるポイント(SPT)の発行総額は200万円分を超えた。

現時点では飲食店が多いが、コワーキングスペースなど場所の運営をしている企業からの登録もあるそう。今後はNPO向けのサービス展開も準備していくという。

今回の調達先のうち、インフキュリオン・グループとモバイルクリエイトとは業務提携も締結。グループ内および出資先がFintech系の事業を展開しているインフキュリオン・グループとは知見やノウハウの共有のほか、共同で事業開発にも取り組む。IoTサービスや決済事業を展開するモバイルクリエイトについても同様だ。