元早稲田の24歳、多国籍チームで20万ドルを調達して留学支援プラットフォームを立ち上げ

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早稲田大学国際教養学部に在籍中の2年生だったときにアメリカのポートランドへ1年間留学した森川照太氏は、まだ24歳の起業家だ。留学経験のある森川氏が台湾系アメリカ人でシリアルアントレプレナーのMark Hsu氏と2015年9月に共同創業したST Bookingは21世紀の留学プラットフォームとなる、という大きな目標を持っている。

留学にまつわる学校紹介や海外生活支援、翻訳サービスなどのマッチングを行う留学業界は古くからあり、この業界では約60年前に創業したEF Education Firstが最大手かつ老舗。約4万人の従業員と世界500拠点を抱えている。EF Education Firstを創業したスウェーデン人のBertil Hult氏はForbesの富豪ランキングに登場するほど成功したビジネスパーソンだ。

ST Bookingの森川氏によれば、ヨーロッパから登場したEF Eduation Firstが今や留学業界最大手となっている現状はあるものの、次の留学のメインストリームとなる「アジアから英語圏への留学」という部分は、まだこれから。東南アジアなど各国の留学エージェントは小さく、そして情報やマッチングは「足、紙、電話」というように前時代的なのだという。留学エージェントが留学受け入れ先を探すときには現地へ通訳を雇った上で訪問して直接交渉などをしている状況という。だからST Bookingの狙いは「教育機関へアクセスできずにいた留学エージェントへワンストップソリューションを提供する」というものだ。受け入れ先の教育機関だけでなく、滞在先や家賃の保証人、アルバイト先確保などの生活支援における課題を解決するプラットフォームを目指していて、ここにアジア発の留学スタートアップとしてのチャンスを見ている。

「不動産業界と構造が似てます。レインズとかSUUMOみたいなマーケットプレイスがない」(森川氏)。情報流通がネット時代のスピードに追いついていない業界であることから、情報の不透明性や非対称性が存在していて、学生がぼったくられるようなケースもいまだに存在しているという。

まずは日本へのインバウンド留学でナンバーワンを目指す

screenshot_mobile_STB_01ST Bookingの狙いは「アジア、英語」という大きなところだが、まずは日本へ来たいという日本向けインバウンド留学生にターゲットを絞る。「東南アジアから日本への留学生の流れは伸びています。2014年は14万人でしたが、政府も2020年前でに30万人にするといっていて、ほぼ2倍です。今までは中国人や韓国人が圧倒的に多かったのですが、今はベトナムやネパール、ミャンマーが年率40〜90%で増えています。伸びているところでナンバーワンを取りたいです。日本留学といえば、ST Bookingというブランドを作りたい」(森川氏)

日本国内ではアウトバウンドでは留学ジャーナル、EF Education Firstといった強豪がいるし、インバウンドでもベネッセなどが事業展開をしている。勝機はどこにあるのかと聞くと、「テクノロジーや仕組みで勝負したい」という。まず学校データベースの充実、遅れている情報の多言語化などを進める。利用価値があるのに知られていない奨学金制度なども少なくないそうだ。

ST Bookingは、すでに台湾で400社、タイで300社など東南アジアで約1200社の留学エージェントをクライアントにかかえていて、日本の受け入れ側として日本語学校や専門学校、大学など約60校がパートナーとなっているそうだ。今のところST Bookingは受け入れ側のターゲットの獲得人数を決めて、そこで発生するコミッション手数料を受け取るビジネスで売り上げを作っているが、留学生はインバウンドの「上流」。ここを抑えることで、今後は不動産や求人、旅行などの市場も取り入れ、海外の人が日本で活躍するプラットフォームへと成長させたい考えだという。

ST Bookingは日本向け留学支援プラットフォームとして今日、シンガポールに拠点を置くVC、BEENEXTなどから総額20万ドル(約2400万円)のシード資金を調達したことを発表している。

六本木で先輩起業家や同世代起業家に刺激を受けて

ところで森川氏がぼくに語ったことで興味深いと思えたことがあるのでヒトコト付け加えておきたい。

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ST Booking 共同創業者の森川照太氏

森川氏の祖父や父親は事業家だった。だから、いずれは自分も事業を立ち上げたいと考えていた。ただ、まず商社かコンサルで修行を積んでから。そう思っていたそうだ。それが、以前六本木にオフィスを構えていたEast Venturesに集まる2周めや3周めの連続起業家(例えばメルカリ創業者の山田進太郎氏)や、若くして事業を伸ばしている起業家(例えばBASE創業者の鶴岡裕太氏)などを見ているうちに、自分も若い時期から挑戦するのが大事だと考えるようになったそうだ。

「進太郎さんとか鶴岡さんとかを見て、実は過去に失敗していたりするのを知って意外に普通の人だと分かったんです。あるいは最初から凄かったわけじゃなくて、若いうちから小さな成功や失敗を重ねながらやっていく中で成功してきたんだということが分かってきたんです」

これは、ぼくが初期のY Combinatorの起業家の多くから何度も直接聞いた言葉と同じだ。2000年代後半にY Combinatorが出てきたころに、このシリコンバレーのアクセラレーターの代名詞ともなったプログラムに参加した起業家たちはみんな、「Why not me?」と思う瞬間があったという。オレ(わたし)にだってできるかも、ということだ。起業家の中には、ずば抜けた頭脳や感性を持つ人がいることは事実だけど、みんなが最初から超サイヤ人というわけじゃない。1つめや2つめの起業で成功しているとも限らない。

まだまだM&AやIPOといった分かりやすい成功の絶対数は少ないものの、成功している起業家をみて why not me? と考えるようになる人が出てきている。そういうことが日本のスタートアップ業界でも起こり始めているのかなと思う。