20代の転職意欲を可視化ブーストするポジウィルが資金調達

ポジウィルは11月12日、STRIVE(ストライブ)、柳澤安慶氏、ほか個人投資家への第三者割当増資による資金調達を発表した。調達額は非公開。今回調達した資金は、採用やサービス開発、マーケティングとして活用し、事業基盤の強化を図るという。

同社は20178月設立のスタートアップ。転職そのものではなく、その前段階をサポートする点で一般的な転職支援サービスとは異なっている。転職希望者が同社のサービスを有償で利用することで、さまざまなアドバイスを専門家から受けられるのが特徴だ。

具体的には、累計1000人以上の利用実績があるオンライン有料転職相談サービス「そうだんドットミー」と、転職に向けた2カ月集中プログラム「ゲキサポ!転職」の2サービスを運営している。ゲキサポ!転職は、2カ月で税別30万円の費用がかかるが、2019年7月末のリリース以降、すでに100名以上が利用しているとのこと。

一般的な転職サービスは、優秀な人材を確保したい雇用主である法人から、採用が決定した人材の年収の3分1、もしくは月収3カ月ぶんほどの成功報酬を受け取るというのが基本的なマネタイズの仕組みだ。一方ポジウィルは、転職先を見つけるサービスでないため人材紹介業ではない。同社は転職希望者が、どういった仕事に就きたいのか、自分の価値はどこにあるのかといった就職活動の基礎的な部分を徹底的に鍛え直すことに特化している。

就職氷河期を経験している読者にとっては疑問符が3つほど付くサービスだが、現在の20代を取り巻く環境は当時とはまったく異なっている。リクルートキャリア出身でポジウィルの代表を務める金井芽衣氏によると「ゲキサポ!転職は20代のビジネスパーソンをターゲットとしており、若年層の就職活動に必要とされている」と語る。

スマートフォンやタブレット端末が普及した現在では、さまざまな企業に対してエントリーシートを一斉に送信できるほか、ネット企業を中心に積極的な採用活動を進めているので最近は人手不足が常態化している。特にプログラマーやエンジニアはかなりの売り手市場になっている。そして、多くの企業が事業内容だけだなく、社員教育方針、福利厚生などをウェブサイトに詳しく掲載しているため、多くの情報を短時間で集めることもできる。テクノロジーの発達によって、就職や転職を希望する側は情報過多になっているという現状がある。

その結果、「自己分析や明確な動機、会社への情熱がないままに就職が決まり、入社後に違和感を覚えて1年未満で辞めてしまう若者が増えている」と金井氏。「難易度の高い大学に努力して入った学生は特に、過去に必死に頑張ってきた経験があるため、入社後の仕事内容にやりがいや達成感を得られずモチベーションが下がってしまう傾向がある。彼らはもっともっと頑張って仕事をしたいと考えています」と続ける。ゲキサポ!転職はこういったビジネスパーソンに対し、2カ月間集中して自己分析や取り組みたい仕事などを洗い出したうえで、目的を持って転職に臨める環境を作るのが狙いだ。なお、実際の転職活動は転職者個人が進める必要がある。

同社は、転職希望者を入社させることで多額の成功報酬が得られる人材紹介業と一線を画するサービスを目指す。第一の目的は転職の成功ではなく、転職における個人の意向や可能性を転職者本人に深く考えさせること。転職市場で売り物にされないために、20代には少々高額な求職者課金型でサービスを展開しているわけだ。今後は同サービスのモデルを横展開し、子育てや介護などさまざまな悩みを専門家に相談できる有料課金サービスを育てていきたいとしている。

無料で手に入る情報は玉石混交で、その中から正しく役に立つ情報、自分に合った情報を見つけ出すには、結局は知識が経験が重要。有料サービスにすることで、本当に必要な情報に最短でリーチできる同社のサービスモデルの今後の横展開が楽しみだ。

調剤薬局向けクラウド「Musubi」開発のカケハシが26億円調達、伊藤忠やアフラックが株主に加わる

カケハシは10月31日、シリーズBラウンドで第三者割当増資による26億円の資金調達を発表した。引き受け先は既存株主のDNX Venturesやグロービス・キャピタル・パートナーズのほか、新たに伊藤忠商事、電通ベンチャーズ、アフラック・イノベーション・パートナーズ、みずほキャピタルが加わった。今回の資金調達により累計調達額は約37億円となる。そのほか既存の引き受け先は以下のとおり。

  • STRIVE
  • 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
  • 千葉道場2号投資事業有限責任組合
  • Coral Capital(旧500 Startups Japan)
  • SMBCベンチャーキャピタル

カケハシは、調剤薬局向けのクラウドシステム「Musubi」を開発している2016年3月設立のスタートアップ。患者の疾患や年齢、性別、アレルギー、生活習慣、検査値などのデータを基に最適化した服薬指導をサポートする。季節に応じた対応や、過去の処方や薬歴などを参照した指導内容の提示も可能だ。データを入力していくことで各種情報が蓄積され、より高い精度で患者に最適な服薬指導やアドバイスを自動提案してくれる。

Musubiはタブレットを使用するサービスで、服薬指導中に患者と薬剤師が一緒に画面を見ながら、話した内容をタップするだけで薬歴の下書きを自動生成できるのも特徴だ。調剤薬局といえば、医師から出された処方箋を手渡して薬をもらうだけの場所になりがち。通常は「(処方された薬を)ジェネリック医薬品に切り替えますか」「お薬手帳を持っていますか?」ぐらいの会話しか発生しない。

こういった環境にMusubiを導入することで「かかりつけ薬局」としての存在感が増すという。患者にとっては、診察を受ける医療機関はさまざまでも、薬を受け取る調剤薬局を1つに決めておくことで薬歴が集約されるので、調剤薬局で市販薬を購入する際の服薬指導やアドバイスの精度も増すはずだ。小児科や皮膚科などは平日でも混み合っていることが多く待ち時間が長い。深刻な症状を除けば、調剤薬局に相談して解決というケースも増えるだろう。

カケハシによると、今回調達した資金のうちの大半は、Musubi事業の拡大と新規事業の創出に必要な人材に投資するとのこと。同社は2019年2月に大阪に拠点を開設するなど首都圏以外での事業展開を進めている最中だ。

8つのプロペラで空⾶ぶクルマが年内に有⼈⾶⾏試験へ、SkyDriveが15億円調達

SkyDriveは9月30日、第三者割当増資および助成⾦で総額15億円調達したことを発表した。累計調達額は20億円。今回の第三者割当増資の引き受け先には、既存投資家であるDrone FundとZコーポレーションに加え、STRIVEと伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、環境エネルギー投資が加わった。同社は今回調達した資金を、2019年内の有⼈⾶⾏試験に向けた開発に投下していく。また、今回の第三者割当増資のリードインベスターを務めるSTRIVE代表パートナーの堤 達⽣⽒がSkyDriveの社外取締役に就任する。

SkyDriveは、航空機・ドローン・⾃動⾞エンジニアを中⼼して2016年に結成された有志団体CARTIVATORが前身。2018年12⽉に、電動で⾃動操縦と垂直離着陸が可能な無人の空⾶ぶクルマの屋外⾶⾏試験を開始。最近では愛知県・豊⽥市と「新産業創出へ向けた『空⾶ぶクルマ』開発に関する連携協定」を締結し、2019年6⽉に豊⽥市に⾶⾏試験場をオープンしている。同社は、2019年内の有⼈⾶⾏試験のあと、2020年夏のデモフライト、2023年の発売開始、2026年の量産開始を目指している。

同社によると、当初は有志団体として2020年夏のデモフライトを目標に機体を開発していたそうだが、効率よく移動できる日常的な交通手段やエンターテイメントとしての空飛ぶクルマの可能性を感じ、多くの利用者が利用できる未来を目指すために事業や技術開発の加速させるために株式会社化したとのこと。

無⼈試作機での屋内⾶⾏試験

この空飛ぶクルマは、4か所に搭載した8つのプロペラで空を飛び、地上走行には3つのタイヤを使う。サイズは通常の自動車よりひと回り大きく、大人2人が乗車して高度150~300m程度を飛行することを想定しているとのこと。すでに、機体フレームや飛行ユニット、飛行制御の最適化により、無人状態でさまざな形態での安定飛行が可能になっている。

有人飛行試験については、まずは大人1人が乗車することになるという。技術的にはすでに実現可能な段階になっており。現在は機体の安全をより担保するため、モーターやアンプ、フライトコントローラーなどの耐久試験、機体トラブル時の乗員保護の試験などを進めている。

2023年からの一般販売に向けて同社は、既存の航空機レベルの安全性の確保、バッテリーの長寿命化などによる航続距離延長(現時点では20分強)、多くの人が空飛ぶクルマを受け入れてくれる社会受容性の向上、離発着上や飛行経路などのインフラ構築などがカギになるとしている。正式な予定販売価格は発表していないとのことだが、まずは3000万円程度の価格設定になるという。ただし、将来的には量産効果によって自動車レベルに価格を下げることが可能とのこと。

空飛ぶクルマの価格が自動車並みの数百万円に収まり、周辺住民の理解が進んで離発着できる場所が増えれば、移動手段としてだけでなく物流にも大きな変革をもたらすの間違いない。道路行政を主体とした公共事業のあり方も変わるかもしれない。

スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた(キーノート講演のレポートはこちら)。

本稿では、パネルディスカッションの模様をお伝えする。登壇者はVoicy代表の緒方憲太郎氏、空CEOの松村大貴氏、STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名。モデレーターはTechCrunch Japan 編集統括の吉田博英が務めた。

パネルディスカッションでは、チーム育成に関わる悩みや問題点について、起業家やVC、それぞれの立場から議論が行われた。まずは各氏から自己紹介があった(STRIVEおよび堤氏の紹介はキーノート講演レポートを参照してほしい)。

寺田氏はエン・ジャパン執行役員および「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャーLENSAの代表取締役を務める。企業が無料で採用ページ作成から求人情報の掲載・管理までできる採用支援ツール「engage(エンゲージ)」に立ち上げから関わり、現在も運営を中心になって行っている。

「求人媒体には求人同士を比較する役割はあるが、それとは別に企業の詳しい情報、採用情報を見るためには、独自の発信の場があるべき」との思いから、2016年にengageを立ち上げた寺田氏。「クックパッドにレシピを投稿できる人なら、誰でも採用ページを作れるようなUIにしている」ということで、手軽に始められることから利用を伸ばし、現在の利用企業数は20万社に上るという。

engageでは、採用情報、求人情報を掲載できるほか、IndeedやGoogle しごと検索など、求人情報のメタ検索サービスに対応したマークアップを実装し、これらのサービスへ求人情報の自動掲載が可能だ。

また付随サービスとして、求職者と録画面接ができるビデオインタビュー機能や、オンライン適性テスト「TalentAnalytics(タレントアナリティクス)」、入社した人の離職リスクを可視化して、対策を提案する「HR OnBoard(エイチアールオンボード)」といったツールを提供。起業したばかりであまり費用がかけられないスタートアップも、採用に加えて入社後活躍まで使えるサービスを無料で利用開始できる。

緒方氏が創業したVoicyは、音声×テクノロジーをテーマとするスタートアップだ。直近のラウンドでは合計8.2億円の資金調達を実施。現在、4つのミッションを持って事業を進めている。

音に関わるインフラ・デザイン・メディア・ビッグデータの4つを通じて、「音声で生活のどこにでもリーチすることができるようになり、今まで端末がなければ情報が得られなかった世界から、普通に生活しているだけで情報を得られる世界を実現しようとしている」と緒方氏は説明する。

もっとも知られている事業はボイスメディアのVoicyだ。「できるだけ簡単に発信ができて、聞けるように、と心がけている。人の生声が聞けることで、その人らしさが一番届けられるメディアになっているのではないかと自負している」と緒方氏は語る。

Voicyには企業チャンネルも多く開設されている。会社のイメージアップや採用活動にも利用されているそうで「組織づくりにも応用できる」と緒方氏は述べている。

外部に発信するチャンネルやコミュニティとは別に、Voicyでは社員だけに届く「声の社内報」もサービスとして提供する。このサービスはVoicy内でも運用されており、30名ほどいる社員の評判もよいとのこと。Voicyでは社長の日報や週次報告などを音声で届けているそうだ。

声の社内報は2000名規模の企業にも実証実験として導入され、社長の音声が何分で離脱されるか、誰が何時に聞いたか、といったデータも収集されつつあるという。緒方氏は声の社内報が「カルチャー共有とエンゲージメント向上につながる」と話している。

はホテル価格のダイナミックプライジングを実現するサービス「MagicPrice」を開発・運営する。CEOを務める松村氏は「空を立ち上げるまではヤフーに勤めており、起業は初めて。部下も持ったことがなかった」と語る。「だから僕は、どうしたら、少なくとも僕が楽しく働けるかを考えた。僕と近い考え方の人がここにいたら楽しいだろう、とか、何人ここにいたら楽しいだろう、といったところを、ゼロベースで考えながら組織を作っている」(松村氏)

そんな松村氏の空が掲げるビジョンは「Happy Growth」だ。「みんな、日々幸せに生きたいはずだが、それを続けていくのは大変。そのために空に集まる個人の人生でも、空という会社自体でも、一緒に実現しようという考え方が『Happy Growth』だ。超楽しく働いて、超幸せと思いつつ、経済的にもすごく伸びているというのを実現して、還元し、社会にも『そうやって生きていっていいんだ』ということを示していく」(松村氏)

「プロダクトを通じてクライアントのHappy Growthも支持する。プロダクトも人事制度も採用の仕方もカルチャーも、ゼロベースで、どうすればベストかを考えながらつくっている」と松村氏は述べている。

空がミッションとするのは「世界中の価格の最適化」。MagicPriceはそのうち、ホテルの料金設定を最適化するプロダクトとしてSaaSで提供されている。

SaaSを運営するには、カスタマーサクセスがカギとなる。松村氏は「カスタマーサクセスには、文化が必要で、大事」と話す。空では、社員のエンゲージメントを確認する組織サーベイを月に1度実施しているそうで、結果は良好だということだ。「特に人間関係や、戦略・理念への共感の値が比較的高いので、より伸ばしていきたい」(松村氏)

松村氏によれば、入社した人材へのオンボーディングプログラムは実施しているが、評価制度の運用や入社後の育成プログラムはまだ実施していないという。松村氏は「アーリーステージだけかもしれないが、組織文化や組織の状態は採用で9割が決まると考えている。また成果・評価を短期的報酬とは連動させないとかたくなに決めている。もうひとつ、完璧な評価はムリという前提で考えるようにしている」と空の評価に対する考え方を語る。

スタートアップでは評価制度はリスクになることも

登壇者紹介の後、ディスカッションが始まった。最初の話題は「メンバーを評価する基準」について。自己紹介で「完璧な評価はムリ」と語った空の松村氏は「評価とはなぜ必要なのかというところから考えたい」と問いかけた。

「起業家は誰からも評価されなくてもモチベーション高く働ける。同様に評価がなくても働ける人はいる。誰も楽しくない評価に時間を割いて、それは何の役に立つのか。空では形だけの評価はせず、成長支援や本人の気づきになる評価だけをするようにしている。コアバリューへの寄与など、定性的で自己判断が難しい部分については数値化して分かりやすくしてはいるが、基本的にはそれほど評価を行っていない」(松村氏)

また松村氏は「チームがワークしていないことを、評価制度やマネジャーのせいにしない方がいい」とも述べている。

「それは採用ミスマッチの問題。それを評価制度で補おうとするのはキツいのではないか。だからスタートアップこそ、1人目の採用からしっかりやらなければ、後で気づいてやり直そうとしても辞めてもらうしかなくなる。採用でマッチングすることを僕の会社では心がけている」(松村氏)

Voicyの緒方氏も、評価を実施すること自体の価値について、このように述べている。

「大企業に所属していたこともあるので、組織で人を動かすためには評価が必要かもしれないとは思う。ただスタートアップの場合は、そもそもやる気満々で来ている人たちが働いている。だから評価によってさらにお尻をたたくことで、燃え尽きてしまう恐れがある。またスタートアップには『がんばっていることを認めてもらいたい』という自己承認欲求の強いメンバーが集まりがちで、『評価が平等じゃない』といってもめる可能性の方が高い。だから評価を取り入れることで起こるリスクの方が高いというのが僕のイメージ」(緒方氏)

緒方氏は「基本的には評価と報酬は連動させない」と話している。「スタートアップでは外部との相場が全然違う。そこで評価と報酬を連動させるとおかしなことになってしまう」(緒方氏)

これらの前提を踏まえた上で、Voicyでは「評価は本人にしてもらっている」と緒方氏はいう。

「自分で自分を評価することは必要。僕が今までいた会社では、評価する側とされる側に共通の尺度がないことが多かった。評価する側のリテラシーが低いことも多く、低いレベルで仕事の評価が行われている。Voicyでは、今いるメンバーに、3年後には会社を支えられる強いメンバーになってほしいと考えている。だから、自分で自分のことを評価できる力を付けてほしい」(緒方氏)

自己評価に対しては「なぜそう評価したのか」を確認し、「僕はこう思う」とフィードバック。「個人の能力アップのための評価」になるようにしていると緒方氏は説明する。

「Voicyはフィードバックをする文化がすごく強い。1日体験に参加した人からびっくりされることもあるほど。行為を判断することはよいことだ。ただ、それにより、その人を査定する必要はないと思っている」(緒方氏)

STRIVE共同代表パートナー 堤達生氏

STRIVEの堤氏は、VC組織での評価について、以下のように打ち明ける。「プロフェッショナルファームなのでスタートアップとは環境が少し違うと思うが、日本人に比べて外国人がすごく評価してもらいたがるので、いつも悩む。フィードバックだけでなく、次の給与など、具体的に明確に評価しなければならない。コミュニケーションのひとつとして、評価を行わなければすぐ辞めてしまうこともある」(堤氏)

評価基準については「VCは個人事業主の集まりと思われがちだし、もちろん個人の力は大きいが、実はチームにどれだけ貢献しているかという点を最も大事にしている」という堤氏。「投資件数が多くても、チームに貢献していなければ『自分のことしか考えていない』として、評価がディスカウントされる」と話している。

エン・ジャパンはすでに日本で1500人、世界で4000人規模の従業員を抱える規模となっていることから「評価を回さなければ(組織が)立ち行かない」と寺田氏。評価で気になることは「みんな評価されるとなった途端に、急に『俺のことをどう思っているのか』という“for me”、自分のことになる点」だという。

エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

「同じミッションや目的に向かって仕事をしていく中で、個人の評価とはある意味、プロダクトや事業への評価と同じ。そこと連動して初めて評価が決まるというのが本来の姿。『事業やプロダクトに対して自分は何ができるのか、何をやっていくべきか』という視点で目標設定を行い、言語化することで“for me”から“for product”“for business”へ目線が向かうようにすることを繰り返して、評価への納得度が高まるようにメンテナンスはしている」(寺田氏)

寺田氏には、緒方氏から「評価制度を設計するときに、参考にしたい」と質問があった。質問は「本来は絶対評価で、その人の行為に対する評価が望ましいはずだが、『あの人より自分の方ががんばった』といった相対評価の方がやる気が出る、という人が相当多い。相対評価的な要素も加味して取り入れるべきか」というものだ。

寺田氏は「最終的には相対評価も入ることは否めない」としながら、「でも評価の対象はがんばったか、がんばっていないかではない。自己基準ではなく、設定されているものに対しての評価」と説明している。

エン・ジャパンでは、業績に対する評価と、ミッションやビジョンへのコミットやスキルへの評価を分けているという。「業績評価への報酬については、良かったタイミングでボーナスとして支給する。考え方やカルチャー、スキルの部分については能力・グレードとして基本給に反映している」ということだった。

メンバーのグループ分けとコミュニケーション

続いての話題は「メンバーをグループに分けていくときに気をつけていること」、そして「グループ間のコミュニケーション」についてだ。

「Voicyではプロダクトで3つに部署を分けている。法人向け、個人向け、そして会社自体もひとつのプロダクトと考えて『自社向け』の3グループだ」と緒方氏は現在の体制について説明。部署間での人材ローテーションは積極的に行っているそうだ。

「グループ意識が付かないように、安心している暇がないぐらいに、どんどん変えている。ただし能力が偏っている人は1部署にとどまることもあるので、その場合は役割を変えるようにしている」(緒方氏)

緒方氏は「会社というコミュニティを『七輪』に例えて考えている」という。「七輪の上でうまく焼き肉を焼きたいと考えて、火が盛んに付いている炭があったら少し端の方によけておいて、その隣にまだ火が付ききっていない炭を置く。これから赤くなりそうだな、という炭は風通しのよいところに置く。そんな感じで人を配置していくようにしている。『いま一番燃えているな』という人をサポート側にさっと回す、ということは意識してやっている」(緒方氏)

空CEO 松村大貴氏

空の松村氏は「SaaSビジネスをやっていると、マーケティング、セールス、広報、デザイナー、エンジニアと、本当に多様な職種の人が集まる」と話す。

そんな中で「人に気を遣わないグループ分けを心がけている」という松村氏。「誰かへの温情で今のポジションに残す、といったことにならないように、合理性を重視している」と話している。合理性重視で意思決定をする会社だということは、入社の際にも伝えているそうだ。「役割が変わってもいいよね」と採用時に確認した上で、グループ分け、配役をしているという。

松村氏には、コミュニケーションについては悩んでいる点があるらしい。「SaaSは総力戦。どれか1つだけがよくてもうまくいかず、プロダクトからマーケティング、カスタマーサクセス、全部整って初めて伸びていくサービスだ。そうした中で、公式なミーティングをどう持つかで、少し悩んでいる」(松村氏)

一方で「非公式なコミュニケーション」は勝手にやってくれていると松村氏。「そこは職種や意見は違っても、根底でビジョンには共感しているからだと思う。人生観・価値観が合う人を面接で採用することによって、意見は割れることがあっても、基本的には信じられる人の集まりになっている」(松村氏)

堤氏のSTRIVEには、投資とバリューアップの2つのチームがある。「小さい組織だからカルチャーフィットを大事にしている」という堤氏は「VCでは論文採用などが進んでいるが、僕らは時代に逆行している(笑)。面接の回数は多いわ、ケーススタディーは実施するわで、会食も内定前提でなくても、飲んだりしながらその人の生い立ちを聞くといったことをやっている。最初の採用時点でのセレクションはすごく大切にしている」と語る。

コミュニケーションに関する堤氏の最近の悩みは、投資チーム以外にも人が増えていくステップで、「一般的な会社っぽい」人たちといかにプロジェクト単位でうまく融合させるか、それぞれをどう盛り上げていくか、という点だそうだ。

寺田氏からも「グループ分けで悩むことは確かにある。ただ採用の段階で先に悩んでおいた方がいい」と採用時の選択の重要性について発言があった。「カルチャーフィットしない人を入れると、どうしてもうまく回らなくなってしまう。そこを基準にしてチームを考えると、本質的でないところへ意識がいってしまうので、まず採用の段階でカルチャーフィットや目的に対する共感を第一指標にすべき」(寺田氏)

その上でグループを分けるとき、寺田氏は「メンバーシップ型の『人に仕事を割り振っていく』形で組織を作るケースと、ジョブ型の『仕事に人を付けていく』ケースとで、分け方を多少変えている」という。

「メンバーシップ型の場合は、人の性格・価値観のバランスを見て、チームとして協調しながら進むようにグループ分けをしていく。ジョブ型でそれぞれのミッションが決まっている場合は、パフォーマンスの塊で分けている」(寺田氏)

採用・育成・評価、それぞれの考え方

最後のお題は「会社の規模によって評価基準は変わるかどうか」。松村氏は、今後規模が大きくなっても「どこまでそういった制度なしで、今のまま伸ばせるかチャレンジしたい」と語っている。

「当然、採用と育成のコストパフォーマンスは変わっていく。今は採用の方がコスパがよいが、確かにそのうち育成の方がコスパがよいような人数拡大ベースになっていくかもしれない。ただ、評価制度が必要なほどコミュニケーションがうまく回らなくなってきた、とか、評価制度が浸透していないとみんなの方向性が分からなくなる、というのは全て、採用時点の妥協からスタートすると思っている。だから、どこまでこだわりの採用を、手を緩めずにやれるか粘ってみたい」(松村氏)

こうした観点から、空では「新卒はしばらく採らない」という松村氏。育成しなくてもスター、という人材を集めるスタイルを当面続けていく考えだと話す。

人材採用においては、空は「21歳から59歳まで多様。年齢に関係なく、ビジョンに共感してくれる人を採用している」と松村氏。今は「マネジメントだけができる経験者はいない。人材をケアしてくれる人と、仕事のディレクションをする人、重要な意思決定を責任を持ってやってくれる人、これらの役割は必ずしも全部同じ人がやらなくてもよいのではないかと考えているので、『マネジャー職』ではなく、役割分担をしている」と話す。

「ただ、長期間、多くの人数や予算を使って成果を出すときに、ディレクター的な役割は必要かと考えている。それができる人を今増やそうとしている段階だ」(松村氏)

Voicy代表 緒方憲太郎氏

松村氏とは対照的に、緒方氏は「育成する気満々」だそうだ。新卒でも1名採用を行ったという緒方氏は「自分の会社でみんなが伸びたらうれしい」と述べている。

「うちで育てる、という会社が増えないと、日本の経済が伸びない。新卒から、日本経済まで支えて『税金を多めに払ったってかまわない』というぐらいのマインドを持つ人たちをつくるということは、スタートアップが一番やらなければならないんじゃないかと思う」(緒方氏)

緒方氏は、社員には「全部の時間を3分の1ずつに割って、3つの時間の使い方をしてくれ」と話しているという。「1つは自分のアウトプットとバリューを出すこと、1つは組織に対してバリューを出すこと。最後の1つは会社の投資として、本人の成長につながり、個人では受けられない挑戦の場を提供している。挑戦にトライすることで、自分のアウトプットとバリュー、組織へのバリューを増やせれば、会社としてはもっと挑戦できる。挑戦をどれだけ提供できるかが、Voicyの価値だと思っている」(緒方氏)

「評価についても既に変えようとしている」という緒方氏。30人規模となり、平均年齢もぐっと上がる今のタイミングで、海外でも戦えるように集まる人に合わせて「評価が必要」と判断した。ただし「評価をすることが大事なのではない」と緒方氏は続ける。

「日本型の評価は『後払い』っぽい。今までがんばってきたことに『がんばってきたよね』とするものだが、Voicyではそれをする気は全くない。今まで100の仕事をしていた人に『あなたは120の仕事ができるから、次の給料はこれ』として、次にお願いする仕事に対して報酬なり立場なりを提供する形が正しいと思う。『この給料でこの仕事』と任せておいて、その人がアンダーパフォームだったとすれば、それは経営者の投資ミス。プレイヤーの方に責任を負わせるのは違う。だからこそ、与える仕事の評価、能力値算定ができなければいけないと思っている」(緒方氏)

緒方氏からは、「会場に来ている人の参考になれば」ということで「スタートアップの組織論」についても話が挙がった。緒方氏はスタートアップの組織を「火が付いたろうそくで調理をしている状態」と例える。

「一番適正な火の量で料理ができるわけで、ガンガン火をたいたところで料理はできないかもしれないけれども、火力が小さくてもダメ。そこで火力を大きくしようとすると、ろうそくはどんどん減っていく。みんなに給料をすごく出して『いい会社です』なんてやっていても、火だけが強くなって、すぐにろうそくはなくなってしまうかもしれない。それを上にある料理にピッタリな火力にして、そのときのろうそくの量で上にできた料理を見せながら『もうちょっとろうそくを足したい』と訴えてろうそくを足す、という強弱の調整をしているのが経営者だ」(緒方氏)

緒方氏が起業しようと考えて、社長の話を参考にしたスタートアップのうち、もう半分ぐらいはいなくなっているという。「どんなにきれい事を言っていても組織として成り立たなければ意味がない」と緒方氏はいい、「社長がやるべき方向性は大きく2つある」と話している。

「ひとつは適正なバランスで事業モデル、組織モデルをつくっていくこと。もうひとつは圧倒的に粗利率の高い事業をつくること。見ていると『圧倒的に粗利の高い事業で売って、きれい事を言う人』と『きれい事は言わずにバランスをすごくチューニングしていく人』の話しか、ほとんど参考にならない」(緒方氏)

こうした考え方は組織づくりでも大切だと緒方氏は訴える。「今ファイナンスがどれくらいできるか、人事マーケットがどれくらい逼迫している、または余裕があるかによって、ろうそくの火力を変えていく必要がある。今でいえば、エンジニアがいなければ事業がつくれないという世の中になってきていて、エンジニアが全然足りないというリスクがある。いわばエンジニアが巨神兵みたいなもので、入れないと戦えないが、扱いが難しいといったところ。だが、ビジネスサイドだけでなんとかしようとしても、事業としてのアップセルは望めない」(緒方氏)

そこで人に費用を投下していくのだが「その時に、ろうそくを火に変えてその場の熱とするフローに使うことのほかに、ストックとして組織の体力のほうに持っていくことも考えなければならない」と緒方氏。「長期的に、将来もっと大きくなったときのための仕込みが必要になってくる。フローの部分だけ見てうまくいっているように見えるところでも、ストックの部分がスカスカという事業もすごくある」と語る。

緒方氏は「今、自分たちのステージがどこなのかを考えて、ストックに積み込むモデルでやっているからこそ、人を育てること、育てる力がある人をつくるということを大事にしている」とVoicyでの組織づくりについて言及する。

「スタートアップの中で組織を考える場合、ビジネスモデルにメチャクチャくっついている。また、労力をつぎ込んでも、スカることもある。そんな中で僕が気をつけていることは『事業が分からない奴に組織はつくらせない』ということだ。組織をたくさん見てきただけで『組織については任せろ』といってジャブジャブ採用だけしているような人を入れると、いつの間にか会社がスカスカの骨だけになってしまう状況になるので、そこは気をつけた方がいい」(緒方氏)

化粧品ECのスタートアップ「NOIN」が総額8億円調達、メーカーへCRM解放へ

化粧品のECプラットフォーム「NOIN」を運営するノインは7月8日、DGインキュベーション、STRIVE、500 Startups Japan、みずほキャピタル、DK Gate、AGキャピタルなどから約8億円の資金調達(払込予定分を含む)を発表した。

今回の調達ともない、リードインベスターであるDGインキュベーションの上原健嗣氏が社外取締役に就任する。なお、3月にはGunosyで執行役員を務めていた千葉久義氏が取締役に就任している。

写真に向かって左から、DGインキュベーションの上原健嗣氏、ノインで社長を務める渡部賢氏、同社取締役の千葉久義氏、STRIVEの堤達生氏

経済産業省の調査「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、化粧品のオンラインでの購入率は約6%とオンラインストアが普及している現在でも未成熟な市場。同社は、オンラインストアと化粧品のミスマッチを解消するために化粧品ECプラットフォーム「NOIN」を立ち上げた。メディアとしての側面もあり、化粧品の購入だけでなく、メイク術や悩み解決といった記事をテキストや動画で手に入れることもできる。

今回の資金調達では、人材採用や育成、NOINのブランディングおよび認知拡大を目的としたプロモーションを強化。同時に、連携する化粧品メーカー各社への購買データ展開、CRMツールの解放など実施する予定だ。

今回の資金調達についてTechCrunchは以下の質問について同社から回答を得た。

——化粧品はやはり試してみないとなかなか購入につながらないと思うのですが、オンライン購入率を向上させる施策があれば教えてください。

実際に試すという点においては、店舗でテスターを用いて試せるものは数としては限られています。また、試すにあたっても直接顔につけるというよりも手元での色みやテクスチャーの確認というものが多いかと思います。当社では商品詳細のコンテンツに力を入れており、商品イメージの写真やタッチアップした際のスウォッチ画像、記事コンテンツ、動画コンテンツと1つの商品に対してのコンテンツがかなり充実しています。実際、商品詳細コンテンツを充実させた商品の売れ行きはないものと比較すると購入率は大きく違います。コンテンツのカバー率も高まっており、店頭よりもカバーできている商品は多いです。

また、ユーザーの平均年齢は25.8歳とかなり若いですが、1回あたりの購入単価が4000円を超えるほど高くなっています。当初は2000〜2500円程度を予想していましたが、かなり購入単価が高めです。コンテンツを通じてよいものであるという理解が深まると購入意欲も引き上げられるのだと考えています。

——ほかのコスメ系ECと差別化できるポイントを教えてください。

取り組み先のメーカー、ブランドに対して販売データを提供している点は差別化ポイントと考えています。アプリに溜まってきている「ユーザーがどのような商品と比較検討の末、その商品を購入したのか」「一緒に購入される商品にはどのような傾向があるのか」など、ブランドのマーケティング活動に有益となるデータをメーカーやブランドと共有しています。

「ブランドの商品をお気に入り登録しているユーザー」「過去購入経験のあるユーザー」というようなセグメントを切り、そこに対して各ブランドのCRMのツールとして使ってもらえるような機能提供も考えており、こちらも差別化ポイントとなるのではないかと思います。

——今回の資金調達で採用を強化するとのことですが、具体的なポジションや職種などあれば教えてください。

エンジニア採用を強化します。ユーザーの手元に届いて使ってもらうまでが我々のプロダクトでの体験だと考えているので、CSやロジスティクスの体制に関しては最重要と捉えています。多量の受注を受けても迅速にお客様に商品をお届けできるよう、ピッキングや配送などの倉庫管理のアプリケーションを完全に内製で開発しているほか、CS部門をツールを含めて充実させることにより、トラブルの際には利用者の問い合わせに対し、社内の配送データなども使って迅速なトラブル解決ができるフローを整えています。加えてメーカーに渡すマーケティングデータの解析ツールの開発も行わなければなりません。

――今回の資金調達で強化する、プロモーションについて具体的に決まっていることがあれば教えてください。

CMなどの大型のプロモーションも次の施策として進めていきます。リアルの場でのユーザー接点も重要と考えており、夏フェスのようなリアルなイベントへの協賛も行っていく予定です。プロモーション以外の資金使途としては 、化粧品メーカー・ブランド向けのマーケティングデータの解析ツールやCRMツールの開発に当てていこうと思っています。

――今回の資金調達で強化する、ブランディングついて具体的に決まっていることがあれば教えてください。オリジナルブランドなども検討されていますか?

オリジナルの商品に関しては検討していますが、完全にオリジナルということではなく、メーカーやアーティストと一緒に新しい商品やブランドを立ち上げていくという方向性で考えています。現在進行中のものとしては、ヘアメイクアップアーティストと一緒にヘアオイルの開発を進めているところです。

——新たにCOOに就任された千葉氏は、どのような組織改革を進められる方針ですか。

ノインはこれまでCEOの渡部を中心として対ユーザーに全力で向かい合い、toC向けのプロダクトを磨き上げるという方向に関しては素晴らしいものがあると思っています。一方でパートナーであるコスメブランドやメーカーとの関係構築はこれからの課題です。toBでのパートナーの課題解決ができる組織にしていきたいです。組織全体としては、やはりプロダクトや各種施策に対しての数値感覚の強い人を一人でも多く育てていきたいです。

「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

本稿では、そのうちのキーノート講演をレポートする。登壇者は、グリーベンチャーズで共同代表であり、ベンチャーキャピタルSTRIVEを立ち上げた堤達生氏だ。堤氏には「アーリーステージ企業が陥る成長痛について」と題して、これまでに手がけてきた投資先スタートアップに見られる成長過程での“痛み”と、チーム成長で重視すべき点について語ってもらった。

3年目に消え始める「スタートアップの魔法」

まずは自己紹介も兼ねて、STRIVEと堤氏の経歴について説明してもらった。

STRIVEは、堤氏が天野雄介氏、グリーベンチャーズとの共同事業として設立したベンチャーキャピタルだ。5月14日には新ファンド「STRIVE III」がファーストクローズを迎え、運用を開始した。現在、新ファンドも含めて3本のファンド、合計220億円を運営しながら、引き続き資金を調達中だ。

STRIVEでは、シリーズAを中心としたアーリーステージのスタートアップへ2億〜5億円のサイズで投資を行っている。リード投資、かつハンズオン投資を特徴とし、採用支援も含め、熟練メンバーが経営者支援まで実施する。

堤氏は、20代前半はシンクタンクで経営コンサルタントとして、後半はグローバルブレインでアソシエイトとして働き、30代からは「事業をやりたくなった」とのことで、サイバーエージェントでベンチャーキャピタル事業も含む金融事業の立ち上げに参画。その後リクルートで新規事業開発部門に参加して「事業の作り方を学んだ」という。リクルートではコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運用にも従事していた。

グリーには2011年ごろ参加し、CVC事業を立ち上げ。そして2014年、グリーを辞し、グリーベンチャーズとのジョイントベンチャーの形で、ファンドを設立、現在に至っている。
堤氏の投資先スタートアップの事業分野は幅広い。SaaSへの投資が多いが、メディア、マーケティング、ビデオやライブ、Eコマースなど多岐にわたっている。堤氏は「起業して投資家を選ぶときには、パートナーの得意分野、何に興味を持っているかを調べてから相談すれば、無駄な時間をショートカットすることができる」と話している。

STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏

自己紹介に続き、堤氏からはスタートアップにおける「3年目の魔法」について解説が始まった。スタートアップにとっての魔法とは「創業初期の頃のワクワクした気持ちや、やってやるぞといった感覚」のこと。堤氏はその“魔法”が「だいたい創業3年目で消え始める」という。

3年目というと調達ステージでいえば、シードからシリーズAラウンドにあたる時期。「何となく思っていた成長とは違う」「VCや自分たち自身の期待していたものと成長とのギャップを感じる」と、少しずつ苦しみ始める企業が増える時期だと堤氏は話している。

「かつてのグリーや最近のメルカリなど、テンポよく成長する企業はごくまれ。大半のスタートアップは勢いで3年目を迎えた後、いったん成長の踊り場を迎える。この踊り場のことを“3年目の魔法が消える”といった表現をしている。いわゆる“成長痛”のようなものだと理解してもらえばいいかと思う」(堤氏)

ではその“成長痛”の症状とは、どういったものなのだろうか。堤氏はいくつかの典型的な症例を挙げる。

1つ目は「人員は何となく増えているが、隣の人が何をやっているのかよく分からなくなってくる」というもの。30人〜50人規模の組織になってくると起こり始めると堤氏はいう。

2つ目は「創業メンバーと新規メンバーの確執」。例えば「あいつは仕事はあまりできないのに、初期メンバーだから取締役に収まっている」といった不満が新たに参加したメンバーから出るというものだ。堤氏によれば、これも「メチャクチャよくある」症例だとのことだ。

「鳴り物入りで入った幹部社員がワークしない」という例も多いという。Googleなどの有名企業から“優秀な人材”として移籍した人物であっても、アーリーステージのスタートアップにフィットするのは、なかなか難しいと堤氏は述べている。「大企業の中でスター社員だったとしても、スタートアップで成功することとは必ずしもリンクしない。『意外とワークしない』という感想になるのは、採用のときの期待値とのズレの問題でもある」(堤氏)

また「経営者がイベントなど外部のネットワーキングには熱心になるが、内部とのコミュニケーションがだんだん減って『最近社長とあまり会話できていない』『社長がオフィスにいるかいないか、よく分からない』となることもよくある」そうだ。

これらの状況の結果は成長率に現れると堤氏はいう。3年目までは劇的に成長していた企業であっても、成長の鈍化が見られるようになる。

「これは起業家には気をつけて欲しいことだ」と堤氏は、その成長鈍化の理由について、以下のように説明する。「成長市場を狙って起業すること自体はよいけれど、市場の成長と企業の成長は必ずしも一致しない。市場の成長率が10%で、自社の成長率も10%だったら、それは成長していないことになる。マーケットの伸び率に乗っかっているだけ。マーケットの成長が鈍化してしまうと、その会社の成長も止まってしまう」(堤氏)

組織が大きくなり、人が増えることを喜んでばかりもいられない。「気が付くと意外に生産性が下がっていて、1人当たりの売上高が前年より低くなっている」ということも、よく見られると堤氏はいう。

これらの症例には、多くのスタートアップが直面すると堤氏は述べている。「すべての企業とは言わないが、自分が見ている投資先でも7割ぐらいは、このうちの何かしらの問題にぶつかっている」(堤氏)

成長痛を意識したら3つの問いに立ち返る

スタートアップの魔法が解けたとき、経営者が口にしがちなのが「最近チームがワークしていないんですよね」というセリフだと堤氏は続ける。

「経営者は責任回避で言っているわけではないと思うが、チームがワークしないのは、そもそも採用した人が間違っているのが原因。なぜ採用してはいけない人を採用してしまうのか。それは採用戦略がブレているからだ」(堤氏)

戦略を決めたのは、他ならぬ経営者自身のはず。社員が増えても売上は思ったより上がっていないという状況になるのは、「チームや個人の問題というよりも、そもそも戦略に問題があるから」と堤氏は話している。

では、どうすれば戦略のブレを起こさずに済むのだろうか。堤氏は3つの基本的な問いに立ち返るべき、と次の項目を挙げた。

この3つの質問は、堤氏が投資をする前に必ず起業家にするものだという。「これらにスパッと答えられれば、すぐにも投資したい」という堤氏。そして、同じ問いをスタートアップの魔法が切れかかったときや、経営者が悩んでいるときに、あらためて確認するとよいと述べる。

「特に1つ目の問いは一番重要。『この会社の提供価値は何か』ということだが、ここがグレーになっているとブレる。勢いよく成長していくにつれて、経営者のやりたいことはどんどん広がっていく。広がること自体はよいが、その分どうしても密度が薄くなっていく。そうなると、そもそも自分が何がやりたかったのか、提供する価値は何なのかがぼやけ、戦略がブレていくことに重なっていく」(堤氏)

先に挙げた成長痛の症例が出てきたと感じた場合には、自分が何屋なのか一言で言えるかどうか、自問自答してみて欲しいと堤氏は話している。

アーリーステージでは育成よりカルチャーづくりを重視する

堤氏は「今日のテーマからは少し外れてしまうかもしれないが、3年から5年のアーリーステージのスタートアップでは、『チームを育てる』ことを考える余裕はない」と述べている。

それでは、経営者は何をすべきなのだろうか。堤氏はまず「ビジョン・ミッションをつくり、浸透させること」を挙げる。

「メルカリなどがうまいところだが、いかに文化をつくり、浸透させられるかどうかが重要。これにのっとって採用基準も決まってくる。みんな『スキルで採用してはダメ』と頭では分かっていると思うけれども、学歴や職歴でどうしても見てしまいがち。ビジョン・ミッションをつくって、そこに合う・合わないというのを採用のもっとも大切な評価基準にしていけばよいのではないかと思う」(堤氏)

次いで堤氏が経営者がすべきこととして挙げたのは「自分にとって大切な人順のリストをつくること」。「誤解を招く表現だけれども」と断りつつ、堤氏がその詳細について説明した。

「社員に順番をつける、ということを経営者には必ずやってほしい。というのは、正直に言って、会社がずっとうまくいくとは限らないので、常に入れ替えをしていかなければならない。場合によってはリストラしなければならないこともある。またそうした状況でなくても、常に『自分にとって何が本当に必要なのか』を考える意味でも、人に順序を付けてほしい」(堤氏)

社員が100名規模を超えたら、自分が見える範囲で順序を考える、といった形で応用していってもよいとのこと。「嫌な言葉に聞こえるけれど、これは本当にやっておいた方がいい」と堤氏はいう。

カルチャーづくりの方法としては、STRIVEの投資先でもあるRettyの行動指針づくりのケースが挙げられた。企業の成長ステージによって重視する点も変わるため、Rettyでは2年ごとに行動指針を更新しているという。

行動指針は、幹部社員だけではなく全社員(約100人)でつくるそうだ。顧客やプロダクトなどの課題感について「考えさせて、意見をアウトプットさせること」が大切で、業務とは異なる組み合わせでプロジェクトチームを組み、つくるという。

そこで出し合ったアウトプットは、合宿形式で全員でシェアし、集約してだんだん形にしていく。また、形にした行動指針を「どうやって浸透するかを全員で考える」ことが、もっとも大事だと堤氏。Rettyでは「壁に貼るとかいうことだけではなく、評価や採用、ビジネスモデルにどう反映するかをみんなが考え、浸透させている」ということだった。

評価制度をつくる代わりにRettyでは、カルチャー、行動指針に合っているかを判断基準にしていた時代もあったそうだ。「細かい評価制度をつくっても、30〜50人規模のアーリーステージの企業ではほとんどワークしない。カルチャーをつくりあげて、それに合うか合わないかで判断するのがよいと思う」と堤氏はいう。

またメンバーの育成についても「小さな組織では難しい」と堤氏。「特にアーリーステージでは育成や評価制度を考えるより、全社にカルチャーを浸透させた上で、それぞれのメンバーにチャレンジングな仕事をいかに用意できて成長させられるかが大事なのではないか」と話していた。