デイブ・ゴールドバーグ・インタビュー―デジタル音楽ビジネスにのチャンピオンが2009年にYahooを辞めてSurveyMonkeyを始めたわけ

昨日(日本時間9/18)、恵比寿でSurvey MonkeyのCEO、デイブ・ゴールバーグがプレスイベントを開催し、質問バンク日本語版などの新機能を発表すると同時にプレスの質問に答えた。

ゴールドバーグは「アンケート調査は有力な会話の手法だ。マーケティング専門家だけのものではなく、結婚式のプランニングから人事管理までありとあらゆる場面で正しい決定をするために重要な役割を果たす」と力説した。その内容はTC Japan西村編集長のアンケート専門家による質問と選択肢をオススメする「質問バンク」、SurveyMonkeyが日本語でも提供開始に詳しい。

私はTechCrunchとはまったく別にイベント・オーガナイザーからの個人的な依頼でデイブの通訳を務めたが、イベントの合間にデイブにインタビューもしたのでご報告しておきたい。

日本のマスコミはデイブ・ゴールドバーグといえばやはりFacebookのナンバー2、シェリル・サンドバーグの夫ということで関心を持ったようだ。これはやむを得ないことで、私もつい「以前『フェイスブック 若き天才の野望の野望』という本を訳したとき、マーク・ザッカーグがあなたの家でシェリル・サンドバーグにFacebookに加わるよう長時間説得したというエピソードが印象に残っている」などと言ってしまった。さいわいデイブはきさくなタイプで「あれはおかしな話だった」と笑ってくれた。

しかしデイブ・ゴールドバーグは彼自身が飛び抜けて有能で飛び抜けた成功を収めた起業家、投資家、経営者だ。ただSurveyMonkey以前のキャリヤは完全にデジタル音楽分野だというのが興味深い。

1994年にゴールドバーグはCD-ROMベースでLAUNCHというマルチメディア音楽雑誌を創刊した。これにはスターミュージシャンのインタビューやプロモーションビデオなどが収められていた。1999年には対応するウェブサイトとLAUNCH castというインターネット・ラジオをオープンする。2001年にリリースされたiTunesとともにLAUNCHはデジタル音楽の最初の主要な試みだった。

LAUNCHメディアは2001年にYahooに買収される。ゴールドバーグは以後Yahooの音楽部門の責任者として腕を振るい、2006年にはビルボード誌に「デジタル音楽でもっとも影響力のある男」に選ばれている。当時デジタル音楽は既存のメジャーレーベルによって法廷闘争の泥沼に引きずりこまれており、ゴールドバーグの名前も「デジタル音楽の闘士」という流れでなんどか目にしている。

それだけにゴールドバーグがオンライン・アンケートの設計から実施、分析までを提供するSurveyMonkeyのCEOとしてシリコンバレーに再登場したときにはその飛躍に驚いたものだ。「いったいなぜ音楽を止めてSurveyMonkeyという全く別分野に飛び込んだのか?」という私の質問にゴールドバーグはこう答えた。


いちばん大きかったのは私の個人的な事情だろう。サンフランシスコは残念ながら音楽ビジネスとは無縁の町だ。音楽ビジネスの中心はロサンゼルスだ。YahooMusicの本拠地はロサンゼルだったから、サンフランシスコからロスまで通勤を続けていた。それは妻がサンフランシスコの会社〔当時シェリル・サンドバーグはGoogleの副社長〕に勤めていたからだ。これでは家族と過ごす時間があまりにも少ない。そこでサンフランシスコで仕事を探そうと思い立った。 

そこで音楽関係の仕事を続けなかった理由だが―いや、今でも投資家、コンサルタントとしては音楽ビジネスと関わっている。しかし、そうだな、2009年になると音楽のデジタル化はほぼ完了してしまった。私がデジタル音楽を始めたときのような革命的な動きは今後望めそうになかった。Yahooでやれることはだいたいやってしまったというか…まあ、それ以外にもYahooには〔「いろいろと問題があった」というように巨大な肩をすくめた〕。

しばらくクールダウンして情報を集めているときに、ライアン・フィンリーという男が始めたこの会社を見つけた。まだ小さな会社で、社員も14人しかいなかったが、すでに創業以来10年経っていて十分な利益を上げていた。しかも同業のライバルはいない。このアイディアにはまだ誰も気がついていないようだった。有望だと思って買い取った。フィンリーにはまだ取締役に残ってもらっている。

その後ゴールドバーグはYahoo Music時代につちかった定期課金ベースのビジネスモデル、事業の国際展開のノウハウと巨額の資金をフルに活用してSurveyMonkeyを有力企業に育て上げた。しかしそのきっかけが妻の勤め先の近くに勤め先を探した結果だというのは人間味がある話だ。

ゴールドバーグはSurveyMonkeyの特長のひとつを「エンタープライズ・ビジネスツールのコンシューマ化」だとして、スライドでDropboxとEvernoteを似たよう存在として挙げていた。そういえばクマ的な体形(ゴールドバーグはフィル・リビンよりさらに一回り大きい)、家族を第一に考える点などは似ているかもしれない。優秀な起業家でありながら人間としても温かみを感じさせる人というのはいるものだ。

余談だが、ゴールドバーグの日本側サポート・スタッフ(広報、提携先)はほとんど全員が女性で、ごらんのようにテクノロジーをフルに駆使してその場からスケジュールを調整し、情報を発信していた。「女性の登用」などという男側の上から目線よりも現実はどんどん先に動いていると思う。

滑川海彦 Facebook Google+