フードメディアのChefclubが月間10億オーガニックビューを達成した背景

Chefclub(シェフクラブ)は調達額がわずか350万ドル(約3億8300万円)だったことから、これまであまり注目を集めてこなかった。しかしソーシャルメディアプラットフォームで徐々にメジャーなブランドとなり、今やTastemadeやTastyの直接の競合となっている。

これまでのレシピサイトやレシピブランドと異なり、Chefclubは食とエンターテインメントの交差点にひたすら力を入れている。Chefclubのビデオをいくつか見たら、おそらく「なんだ、これは」というような感想を持つだろう。

チーズがやたらと溶けているし、何でもかんでも揚げたりしている。筆者の周囲では、テレビの料理番組にまったく興味を示さなかった人たちでさえChefclubのビデオに取り憑かれている。

Chefclubの共同創業者であるThomas Lang(トーマス・ラング)氏は筆者に「我々は普通の人で、テレビや本で見るような料理のスキルは持ち合わせていない。キッチンのキャビネットを開け、普段の食材を使った。ずっと変わらずにそうしてきた」と語った。

この方針はとてもうまくいっているようだ。Chefclubには、複数のソーシャルメディアプラットフォーム全体で7500万人のフォロワーがいる。ビデオは1カ月に10億回再生され、2億人にリーチしている。同社は有料メディアには1セントも支払わずに、ユーザーベースを増やしている。

Chefclubはリーンな社風で従業員はたったの50人だ。チーム全員がパリにいて、そのうち3分の1はフランス人ではない。フランスのDNAが色濃いが、必ずしもすべてのコンテンツを世界のあちこちの地域に適応させなくてもいいことにChefclubは気づいた。ビデオの70%は世界中で楽しまれている。

ChefclubはFacebookを最優先にコンテンツを最適化している。多くのパブリッシャーから聞いているが、Facebookのアルゴリズムに対応して多くの人に届けるのはますます難しくなっている。しかしChefclubはFacebookのアルゴリズムの変更に常に対応してきた。この不断の努力が同社の成長の鍵だ。多くのメディアブランドはFacebookをあっさり諦めた。

Facebookに比べるとほかのソーシャルネットワークには対処しやすいようだ。Chefclubは現在、YouTube、Snapchat(フランスとドイツでは「ディスカバー」で提携)、Instagram、TikTokを積極的に使っている。Chefclubはヨーロッパとラテンアメリカではトップに立っているという。米国ではまだ成長段階で、2019年に米国で10億ビューに届こうとしている。

ではメディアの成長戦略をビジネスにどう生かせるだろうか。ChefclubはD2Cに力を入れている。同社はまずレシピ本を出した。本に載っているQRコードをスマートフォンでスキャンすると、ビデオを再生できる。レシピ本は同社のウェブサイトから50万部売れた。

最近は子供のための料理キット「Kiddoz」を発売した。この本には20種類のレシピが掲載され、使いやすい計量カップとアプリも付属している。

次に、Chefclubは小売業者と提携してブランドをライセンス化し、ブランドを冠した製品を販売しようとしている。近い将来、Chefclubブランドの調理器具やおもちゃを購入することになるかもしれない。

「我々には『ケーキの上のサクランボ』と呼んでいる、もうひとつのラッキーな収入源がある」とラング氏は言う。YouTubeなどのソーシャルプラットフォームから広告の分配金が入ってくるのだ。これが主眼ではないが、Chefclubは特段の労力をかけることなく、月に20万ドル(約2200万円)の広告収入を得ている。

さらにChefclubは、コミュニティのメンバーもコンテンツを制作してもらおうとしている。コンテンツをスケールするために、Chefclubはユーザーが制作したコンテンツをほかのメンバーに公開するプラットフォームを目指している。

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(翻訳:Kaori Koyama)

ビジネスインフラになったYouTube–グルメ専門でメジャーを目指すTastemade

YouTubeのインフラ化、その上の多様なビデオネットワーク(YouTube networks, YouTubeネットワーク)の成長とともに、そこにはさまざまな才能が集まるようになり、また特定分野に絞ったネットワークも数多く登場している。中でもカリフォルニア州サンタモニカのTastemade は、わずか数年で、グルメのための次世代ビデオネットワークとしてトップの座に登りつめた。

本誌は最近、ロサンゼルスのデジタルビデオ企業めぐり を取材企画として行ったが、その一環としてTastemadeを訪問した。本誌は同社を、インターネットビデオの“ニューウェーブ”と位置づけた。Machinimaと同様、Tastemadeも視聴者層を特定している…同社は、グルメのためのライフスタイルネットワークを自称し、ファンの多い料理人や料理愛好家をタレントとして数多く集めている。同社の番組は‘封切’がスケジュール化され、同社の特別スタジオで制作される。

そのスタジオは昔のMTVのスタジオを改造したもので、協同ファウンダのSteven Kyddによると、5つの撮影用セットを新たに作った。たとえば’Brooklyn Kitchen’セット(実際にぼくが過去にブルックリンで見た大きなキッチンの5倍はある)、料理学校セット、おしゃれなカクテルバーセット、などだ。また防音壁で囲った準備用キッチンがあり、そこでシェフたちが下ごしらえをする。

このスタジオでは、オンデマンドで見られる料理番組を制作するだけでなく、さまざまな料理イベントの開催と撮影も行う。たとえばライブの特集番組”Japan week“では、日本料理の料理人複数がコラボレーションして料理する様子を撮影した。

なぜ、グルメを選んだのか? Tastemadeの二人のファウンダはどちらもDemand Mediaの元役員だが、新たなニューメディア企業の創設にあたって、二人の大好きな“食べること”をテーマに選んだ。しかも、食は、収益化の機会がそこら中に転がっている。そして彼らは、ニッチ対象ではなく広い視聴者層を対象とするメジャーなメディアを志向した。それはちょうど数十年前に登場したケーブル企業が、その後メジャーにのし上がったように…そんな成長路線を彼らはイメージした。

“今のケーブル大手は今から25年前には生まれたてのひよっこ企業だった。当時と同じような機会が、今日のデジタルのプラットホームには存在する”、とKyddは考えている。

上のビデオを見ると、Tastemadeのやり方がよく分かる。本誌の、「YouTube経済」特集のそのほかの記事も、ぜひご覧いただきたい。毎週月曜日と火曜日にビデオ付きの記事を載せていく予定だが、以下は、過去記事の一覧だ:

〔仮訳: デジタルビデオが作るニューハリウッド/ゲーマーのためのビデオネットワークMachinima/ビデオクリエイターにプロのツールを与えるFullscreen/(この記事)〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


YouTubeネットワークは明日の大型メディア企業だ

ここ数年で、YouTube上にはマルチチャネルネットワーク(MCN)がものすごく増えた。彼らは、チャネルを多くし、オーディエンスを増やすことによって、ビデオ作品からの収益を上げようとしている。これら、YouTubeをベースとする収益目的のビデオネットワーキングのことを、通常は“YouTubeネットワーク”と呼んでいる。しかし目標は同じでも、その達成方法は各ネットワークによりまちまちだ。

ぼくは先週いっぱい何をやっていたかというと、ロサンゼルスにオフィスのあるこれらYouTubeネットワーク各社を訪ね回っていたのだ。Big Frame、Fullscreen、Machinima、Maker Studios、Tastemade、ZEFRなどなどは、それぞれ、どこがどう違っているのか。ビデオの作者たちへの待遇は、どうなっているのか。

コラボレーションとコーディネーション

YouTuberでビジネスをしようとする者たちはまず、コラボレーションによってオーディエンスを増やそうとする。つまりAさんとBさんがコラボレーションして、それぞれ相手のオーディエンスを自分のオーディエンスにもする。彼らのチャネルにサブスクライブしているオーディエンスの多くが、とくに嫌いでもないかぎり、新たに増えたBさんAさんのビデオも視聴するだろう。

Big FrameとMaker Studiosは、この方法で人気クリエイターたちの作品をたくさん集めて成績を上げている。視聴者が増え、会員も増え、そして結果的に広告収入の源泉である視聴数(ビュー数)も増える。

コラボレーションを広めようとしているのは、MCNだけではない。YouTube自身が、多くのクリエイターを傘下に集めるために、本格的で大規模なプロダクション施設YouTube Space LAを開設した。スタジオがあり、撮影機材があり、ビデオのクォリティを上げるためのポストプロダクションの施設や機材もある。またこの施設はコミュニティセンターとしても利用され、いろんなソーシャルなイベントや教育訓練のためのワークショップに、年間を通じ多くのクリエイターを集めている。

古き良き日のハリウッド的プロダクション

ハリウッドをハリウッドたらしめているものは、大作の商業コンテンツを作る意志だ。そしてYouTube上のMCNたちも、単純にクリエイターを集めてコラボレーションさせ、彼らにベストプラクティスのリストを与えるだけでなく、視聴者を満足させる、価値の高いオリジナルコンテンツを作らなければだめだ、と気づきつつある。

これまでYouTubeでは、視聴者がカジュアルな見方しかしないので、ビデオはなるべく短くすべし、とされていた。でも最近では、時間をかけて複数のビデオをじっくり見るタイプのオーディエンスが増えつつある。そのため、長時間ビデオが徐々に増え、またそのためのプロダクション投資も増えている。

その方面でいちばん意欲的なのが、たぶんMachinimaだ。同社はMortal Kombat: Legacy(今では第二シーズン)やBattlestar Galactica: Blood & Chromeなどに投資して、YouTube上の長時間ビデオの限界を模索している。そして今のところ同社は、視聴者の熱心な視聴態度から、“これで行ける!”という前向きの感触をつかみつつある。

またMakerやTastemadeなどは、Machinimaのようにシリーズもののコンテンツを作るのではなく、作品の質の向上に力を入れている。両社とも、クリエイターたちに使わせる専用のスタジオがあり、そこで彼らのコンテンツを作らせる。Makerでは、クリエイターたちはスタジオのセットを再利用できる。一方Tastemadeは、キッチンのセットを何種類も作ってクリエイターたちに使わせている。

特定ニッチや業種に焦点

最近では、オーディエンスを特定のニッチや消費者特性、あるいは特定の業種業態に絞ったビデオ制作が増えている。この路線を最初にやり始めたのMachinimaだが、同社は最初、ビデオゲームのファンの男の子、という層に着目した。しかし最近では、そういうニッチ路線を行くYouTubeネットワークが増えている。

たとえばTastemadeの場合は、最初から“グルメ指向”でスタートした。食べ物に関心のある人たちは、相当な視聴数、ひいては広告収入を、期待できる層なのだ。またDanceOnは、その名のとおりダンスファンを対象としている。

オーディエンスの層を特定しないネットワークも、個々の企画では層化のきざしがある。たとえばBig Frameは、都市住民のためのForefront、ファッションと美容に絞ったPolished、女性クリエイターのためのWonderly、性的少数者層のためのOutlandish、などを作っている。

技術の向上

商用プロダクションとなると、ビデオの高品質化が重要だ。しかし視聴者増に欠かせないのは、チャネルそのものの技術的管理だ。そのために、FullscreenやZEFRはYouTubeネットワークが自分のチャネルの視聴率や広告収入の動向などをチェックするためのダッシュボードを提供している。

Fullscreenが最近作ったCreator Platformは、ビデオチャネルを管理するためのツールだ。最初はアクセス分析と広告収入を見るためのダッシュボードだったが、今ではクリエイターたちが自分のチャネルを良くしていくためのいろんな情報を提供している。

一方ZEFRは、YouTubeにアップロードされた、大手メディア企業に著作権のあるコンテンツを見つける。昔は、ファンが勝手にアップロードしたそんなコンテンツは無条件で取り下げられたが、今では著作権保有者にとってお金を稼ぐ手段だ。今やZEFRは、このサービスの対象をメディア企業だけでなく一般企業にも拡大し、悪質ビデオの発見などに役立てている。

FullscreenとZEFRはどちらも、自社でコンテンツを制作しているわけではないけれども、YouTubeネットワークとそのコンテンツをビジネスとする企業であることには変わりない。

次にやってくるメディア企業とは

今私たちは、ビデオの未来へ向かう曲がり角にいる。次世代の大型メディア企業はYouTube(など)の上に生まれる。テクノロジと伝統的なプロダクション技術の両方を身につけた彼らが、今の大手メディア企業の敵にもなりパートナーにもなる。しかしそこまで昇りつめるYouTubeネットワーク企業は、アートにおいても、サイエンスにおいても、プロダクションにおいても、コンテンツにおいても、そして運においても、大きく恵まれた企業でなければならない。

写真クレジット: chelsea(:, Compfight ccより。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))