デジタル開発から真に恩恵を受けるのは誰か?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

国際的開発は、ほぼすべてのセクターと同様に、問題をコード化できると考えている技術者たちの関心を集めており、開発の実践者たちが彼らを助成している。USAID(米国際開発庁)からBill & Melinda Gates Foundation(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)、国連に至るまで、デジタル開発プログラムの数は急増の一途をたどっている。いくつかの取り組みは非常に有益であるが、謳い文句から私たちが期待するような効果はないと考え得る理由も存在する。場合によっては、それらは能動的な有害性を現すことがある。

デジタル開発にはある程度の有望さがある。貧しい人々にデジタルプロダクトとサービスを提供することは、間違いなく一部の人々を貧困から救い出すであろう。しかし、デジタル開発は多くの場合、妥協のない善として描かれているが、しばしばその代償が見過ごされている。データは今や世界で最も価値のあるコモディティであり、未開拓のデータの最大のソースは、まだインターネットに接続していない30億人の人々である。欧米の開発主体がこれらの人々をデジタルサービスと接続する際、人々は自分たちのプライバシーやデータを、それらを収益化しようと躍起になっているテック企業のなすがままにしている。表向きは貧困削減を目的とするイニシアティブが、一方でテック企業を豊かにし、彼らが社会的弱者のデータから利益を生み出すことを可能にもしているという矛盾が、デジタル開発の中心に存在する。

一部の向きはこのことを、貧困から人々を救い出すための許容可能なトレードオフであると考えるかもしれない。しかし、こうした人々の生活のあらゆる側面からのデータ生成は、データに基づく差別の正当化を生むことや、大手テック企業による地元企業の弱体化を促すことを通じて、開発イニシアティブの有効性を低減し、他者を貧困に閉じ込めてしまう可能性もある。

デジタル金融サービスが、この原動力への窓を呈している。モバイルマネー口座を通して支払われることも多い小口融資、いわゆる「マイクロローン」は、貧困層に資金を提供する方法として一般化している。Grameen Bank(グラミン銀行)の創業者であるMuhammad Yunus(ムハマド・ユヌス)氏がマイクロローンにおける功績で2006年にノーベル平和賞を受賞しているが、最近のエビデンスは、マイクロローンが貧困の減少に寄与していないことを示している。

多くのランダム化比較試験において、マイクロローンは国や大陸にわたって貧困にほとんど効果をもたらしておらず、単に現地の銀行やコミュニティメンバーからの借入の代用となっている可能性があることが確認されている。バングラデシュのいくつかの村では、マイクロローンにより脆弱なコミュニティで負債が増大し、一部の人々が土地を失うという事態も生じている。

このような状況にもかかわらず、デジタル金融サービスは、手数料や投資機会、そして人々の消費習慣の価値あるデータを生み出すという側面を背景に、活況を呈している。マイクロクレジットは今では、2億人を超える人々に融資を提供する600億ドル(約6兆9538億円)規模の産業に成長している。米国と中国の投資家はアフリカのデジタル金融サービス企業への出資比率を2倍超に増やしており、デジタル金融サービスへの投資は現在、アフリカのテック企業への投資総額の60%を占めている。

テクノロジーエバンジェリストの予測をよそに、デジタル金融サービスへの投資の増加が相応の貧困削減を導く兆候はない。それどころか、金融サービスのデータが個人の信用評価に利用されており、アルゴリズムに欠陥を抱えた意思決定に基づいて、貧困層の信用取引へのアクセスを拒否し、経済的排除を悪化させている。一方で、現金給付のようなより効果的な金融サービスソリューションでは、収益性の高い利払いが得られないことから、リソースが減少している。

重大な欠点があるのはデジタル金融サービスだけではない。最近、デジタル開発の推進者たちは、政府のサービスに人々をつなぐ手段としてデジタルIDの採用を推進している。その中で最大かつ最も賞賛されている取り組みは、インドのAadhaar(ヒンディー語で「財団」)と呼ばれるデジタルIDシステムで、指紋と目のスキャンを記録することで人々にデジタルIDを割り当てるものである。2009年以降、AadhaarでデジタルIDを付与されたインド人は12億人を超える。

Aadhaarの最も重要な支持者の1人はBill Gates(ビル・ゲイツ)氏で、同氏はこのプログラムを他の国々で再現することを目的に、世界銀行へ資金を提供している。ゲイツ氏はAadhaarを「驚くべき資産」と称しており、また「それ自体はプライバシー問題を引き起こさない」し「富裕国でさえこれまでいかなる政府も行ったことがない」ものだと述べている。

だが、ゲイツ氏は間違っている。Aadhaarは、インドの政府機関から何百万人もの人々を排除している。Aadhaarへの登録には身元証明と住所証明が必要であり、登録者の99.97%がすでに十分な本人確認を受けていると政府の記録が示していることは驚くに値しない。Aadhaarで初めて身元が証明された人も少数いるが、安定したインターネットアクセスが困難な国では、デジタルIDは信頼できないものである可能性がある。残念なことに、Aadhaarのデータベースは粗雑であることで知られる。「指紋認証エラー」が多発しており、技術の欠陥のために指紋で身元を確認できない人が30%にも上る。インドでは、Aadhaarシステムの欠陥の結果、100万人を超える子どもたちが学校への入学を拒否され、150万人の人々が政府の給付金を受けるためのアクセスを失っている

Aadhaarはまた、インドのテック企業向けに大量の価値あるデータを生成している。つまり、こうした企業は、固有のID番号を使って個人の金融活動を追跡したり、それをサードパーティに販売することが認められており、ひいてはターゲット広告の制作や、個人の保険やローン審査へのデータ利用にもつながっている。2018年にインドの最高裁判所は、民間企業がAdhaarのデータを販売することは違憲であるとの判決を下したが、インド中央政府はすぐに法律を改正してこの決定を回避した。プライバシー活動家のUsha Ramanathan(ウーシャ・ラマナサン)氏は「データは新しい黄金であり、Aadhaarはそれを手に入れるためのツールとなる」と述べている

Aadhaarの例が示すように、デジタル開発イニシアティブのユーザーを保護する十分な防護柵がないことが多い。世界の最貧国の大半はデータ保護法やプライバシー法を持たず、多国籍企業による監視やデータ抽出の対象となっている。デジタル開発の実践者たちは、プライバシーを重視するデジタル開発の原則のようなベストプラクティスに従うことで、これらの国でも倫理的に仕事を遂行できると主張する。これは実質につながる根本的な原動力を見逃している。デジタル開発の中核的な信条は「デジタルビジネスに対する規制の合理化」であり、このことは、現地企業に対する適切な保護がない国において、多国籍企業に有利に働く。

さらに悪いことに、大手テック企業は一貫して、より徹底したデータ保護法を施行する取り組みを世界中で妨害してきた。例えば、ケニアが米国と自由貿易協定を交渉する中、Amazon(アマゾン)とGoogle(グーグル)は米国政府に対し、ケニアの2019年データ保護法に直接違反する形となる、国境を越えたデータの流れを自由化する方策を盛り込むよう働きかけている。このような動きを通じて、AmazonとGoogleは、個人の財務データを分析して新たなビジネスチャンスを得ようとする競争において、地元企業をしのぐ力を手にすることになる。ケニア政府は個人のデータを現地に保管する要件を維持しようとしているが、バイデン政権はこれらの企業を支持する姿勢を見せており、ケニアが大手テック企業の要望に同意するまで、貿易協定が頓挫する格好となっている。

適切なデータ保護と、データの最小化を求める措置がなければ、デジタル開発プログラムの利用者は危険にさらされる。つい先月(2022年1月)には、Red Cross(赤十字社)がハッキングを受け、50万人の脆弱な人々の機密情報が盗まれたことが明らかにされた

テック業界の支援者たちは多くの成功例を主張するかもしれないが、彼らの勝利主義は確かなエビデンスに代わるものではなく、多国籍企業の選好を地域社会の選好の上に置くことを正当化することはできない。基本的な現実は、デジタルサービスだけでは世界の貧困を解決することはできず、それが偶発的な被害につながることがあまりにも多いということである。もしテック業界のリーダーたちが、本当に世界の貧困を終わらせたいのであれば、もっと直接的な方法を考えることもできるはずだ。つまり、彼らの年間利益の半分に満たない額を再分配することで、世界の貧困を根絶するために必要な2000億ドル(約23兆1794億円)を20年間にわたって提供できるのである。デジタル開発の実践者は、テクノロジー企業の利益を拡大するのではなく、再分配することを推奨すべきである。

編集部注:Kevin Klyman(ケビン・クライマン)はテクノロジー研究者であり、国連のデータ保護ポリシーを執筆した経験もある。Human Rights Watch、San Francisco Chronicle、Campaign to Stop Killer Robotsに寄稿している。

画像クレジット:blackdovfx / Getty Images

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(文:Kevin Klyman、翻訳:Dragonfly)

一般向け製品の技術的優位性が大国間競争に直結、シリコンバレーは原点に立ち返る

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国家間で繰り広げられる飽くなき競争は、グローバル化とともに加速している。冷戦時代、米国とソ連はイデオロギーや軍事面での競争こそしていたものの、消費財をめぐる競争をすることはなかった。米国人はソ連製のトースターに興味がなかったのである。

現在ではその境界線が曖昧になり、各国は経済全体や武力などあらゆる領域において優位性を求めて戦っている。消費者向け製品や企業向け製品の技術的優位性は、空、陸、海、宇宙、サイバーをめぐる大国間競争に直結しているのである。

スタートアップの創業者やエンジニアたちも、この戦いにおける自身の役割を認識するようになっている。彼らはジョージ・W・ブッシュのような好戦的愛国主義者ではなく、自由民主主義を支持し、最前線にいる人々が仕事をするための最良のツールを手に入れられるようにしたいと考えているのである。

これは、ベトナム戦争へのプロテストに端を発したベイエリアの反戦感情が、アフガニスタン戦争やイラク戦争へのプロテストにまで発展した過去数十年とは異なる大きな変化である。ここ数年、国家安全保障関連の契約に反対する抗議活動が目立っていたが、現在では米国の国土や同盟国を敵から守るために防衛技術を開拓するという、シリコンバレー本来の文化が戻りつつある。特に中国の台頭に立ち向かうことが、偏ったワシントンの中で数少ない超党派的な立場になっていることもあり、防衛技術に関しては、国防総省や同盟国とだけ仕事をしたいと考える人が増えているのである。

防衛技術に携わろうとしているエンジニアにとっては、あらゆる分野において課題とチャンスが存在する。空中分野では、中国が極超音速ミサイルの実験に成功したと言われているが、情報機関の予測によると米国がこの技術を手に入れるのはまだ何年も先のことだと考えられている。極超音速ミサイルの脅威的な移動速度に加え、センサーによる探知が不可能であることから、現在の米国の防空システムの多くはなす術を失ってしまうだろう。

まったく新しい空中の脅威も出現している。安価で暴力的なドローンの群れは、人間が操作することなく迅速に展開することが可能だ。米国のFrank McKenzie(フランク・マッケンジー)将軍は最近、倉庫型小売店にちなんでこういったドローンを「コストコ・ドローン」と呼んでいるが、わずかな防衛予算しか持たない国でさえも、武装した米軍を圧倒することができるようになるだろう。

同様に海上でも、何千人もの船員が乗船する高価な大型空母から、小型で安価な自律型の船舶へと移行している。どの政府(または非国家主体)でも、重要な海上通商航路を簡単に攻撃することができ、防御は非常に困難になっている。また、海の底には世界経済の大部分を担っている海底インターネットケーブルが存在し、敵はそれを攻撃する能力を日々確実に高めつつある。

宇宙空間では、ロシアが数週間前に個々の衛星を破壊する直撃型の対衛星兵器の実験を行っている。このような攻撃を受ければGPSや全世界の通信(およびそれに依存する商業、輸送、物流)が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、地球近傍の宇宙空間の大部分が破片によって人工衛星を使用できなくなる可能性がある。こういった兵器は検出が難しく、また既存の防衛技術では阻止することが困難になっている。

最後に、サイバー領域では過去10年間にわたってサイバーセキュリティ分野に何百億ドル(何兆円)もの資金が投入されてきたにもかかわらず、大規模なサービス妨害や情報流出を行う身代金要求やスパイ行為に対して、企業や政府は非常に脆弱な状態を改善できないでいる。SolarWinds(ソーラーウインズ)の大規模なハッキング事件から1年が経過したが、国家主導のサイバー戦争を防止・防衛する方法はまったく確立されていない。

こういった領域の課題すべてが未解決であり、この問題に立ち向かわなければ、米国は経済的にも政治的にも軍事的にも莫大な損失を被ることになるだろう。

幸運にも、複雑で困難な課題こそが、一流のエンジニアやスタートアップの創業者たちが取り組みたいと感じる問題なのである。米国の防衛力が敵の挑戦に対応できていないという証拠が次から次へと出てきているにもかかわらず、ワシントンの官僚たちがいつも通りの仕事を続けていることに対しては、文民の防衛担当高官からも批判の声が上がっている。

今日の防衛世界では、敵というのは我々自身のことである。スタートアップは今、国防総省の時代遅れの調達システムに阻まれている。我々はこの官僚主義を即座に回避し、最高の技術ではなく最高のロビイストを持つ、凝り固まった独占企業や寡占企業に打ち勝つ必要がある。つまり国内の大手防衛関連企業として知られる巨大な「プライム」を排除しなければないのである。今では動きが鈍く、まったく競争力のない選手たちを、かつては偉大だったからと言って米国を代表してオリンピックに参加させるようなことはない。確実に負けるからである。それなのになぜ我々は、防衛という重要な分野でこのようなことが起きているのを黙って見過ごしているのだろうか。

米国防総省は、スタートアップを巻き込むためのさまざまなプログラムを導入している。こういったプログラムの意図は良いのだが、ポイントがずれている。国防総省はこれまでの調達方法を一新し、現在の敵が実際に使用している武器に合わせた防衛力を再構築する必要がある。1機1億ドル(約115億円)以上もするF-35統合打撃戦闘機が「コストコ・ドローン」に打ち負かされる世界だ。米国の長年にわたる防衛面での優位性が、各国に非対称的な革新をもたらし、今では彼らが先を行っているのである。

幸いなことに、非対称な競争というのはシリコンバレーやスタートアップの創業者たちが日々行っていることである。豊富な野心と限られた予算を持つ彼らは、少ない資源でより多くのことを行うという方法を繰り返している。凝り固まった既存企業に立ち向かい、その弱点を見極め、それを容赦なく利用して競争上の優位性を生み出すのが彼らの仕事である。我々は、米国の防衛を強化するための技術、ノウハウ、人材をすでに有しており、あとは国防総省がやる気を起こし、最も競争力のある米国のスタートアップに積極的に大型契約を発注するようになればいいのである。

最も重要なのは国防総省の変革だが、米国以外の各国にも自由民主主義国を防衛する方法はある。ヨーロッパには同大陸の防衛に応用できる才能と技術が非常に豊富に存在する。しかし欧州の防衛システムは、技術的には「バベルの塔」であり、相互運用性に大きな課題を抱えている。次世代技術のために防衛基準を合理化することができれば、米国だけでなく多くの同盟国にも利益をもたらすことができるだろう。

今日の米国は、競争優位性において近年稀に見るほど大きな課題に直面しており、武力のあらゆる領域と経済分野で優位性が損なわれている。敵はこれまで以上に激しく弱点を突き、それは悪化をたどる一方だ。しかし、米国の価値観と影響力の核心には、新しいアイデア、新しい人々、新しい機会に対する開放性という巨大なソフトパワーがある。中国やロシアのような敵対国の権威主義に対抗し、米国の開放的な価値観を何としても守らなければならない。他のすべてのセクターが今後も安心して米国を頼りにするためにも、シリコンバレーが取り掛かるべき次なるセクターは、防衛技術でなければならないのである。

編集部注:本稿の執筆者Josh Wolfe(ジョシュ・ウルフ)は、マルチステージのベンチャーキャピタルであるLux Capitalのマネージングパートナー兼共同設立者で、宇宙や先端製造からバイオテクノロジーや防衛に至るディープテック企業への投資を行っている。

画像クレジット:Patrick Nouhailler / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Josh Wolfe、翻訳:Dragonfly)

ペンタゴンとシリコンバレーのパートナーシップを再起動

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2021年11月15日、ロシアは警告なしに対衛星ミサイルを地球低軌道に発射し、自国の衛星を破壊した。この際に生じた破片やデブリは、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士を危険にさらしただけでなく、GPSや電力網など、地球上の重要なインフラを支える衛星網に、今後何年にもわたって深刻なダメージを与える可能性がある。

その1カ月前には、中国が地球を1周する極超音速ミサイルを発射したが、これは現在の技術で防御することは不可能だ。

これらの出来事は警鐘である。米国の技術的リーダーシップは保証されておらず、新たな技術の進歩が我が国の安全保障に対する新たな脅威を生み出す現在、私たちがパートナーや同盟国とともに発展させて維持してきたグローバルスタンダードは書き換えられつつある。

しかしながら、これらの新たな脅威は決して乗り越えられないものではない。むしろ、人工知能、宇宙、サイバーセキュリティ、自律システムといった新たな技術分野の最前線で活躍する起業家や投資家にとっては、これらの出来事は明らかに呼び水となるはずである。

非対称戦争(双方の軍事力、戦略や戦術が大きく異なる戦争)やサイバー戦争がもたらす新たな課題に対応するためには、60年以上前にシリコンバレーや現在の我が国の技術的リーダーシップを構築した際と同じように、米国国防総省、学界、産業界が協力して取り組む必要がある。インターネットや半導体が生まれ、ヒトゲノムのマッピングも実現したのも政府の投資によるものだ。

筆者は商業技術分野で30年を過ごしたのちに、過去50年にわたる米国の経済力と世界的なリーダーシップの基盤となった関係を再構築するために国防総省に移籍した。

国防総省とシリコンバレーの関係はなぜ復活させる必要があるのか?

国防総省は、戦争の性質の変化に対応するだけでなく、必要なビジネスプロセスの改革を生み出すテクノロジーの近代化策を積極的に推進している。例えば、商業宇宙では、ユビキタスなインターネットアクセスを提供するための小型衛星や、さまざまな(宇宙の)エリアに積荷を届けるための迅速な打ち上げ能力の開発がすでに行われていて、自動運転車は交通手段を提供し、ドローンの大群が石油パイプラインの監視や商業ビル、インフラの検査を行っている。

これらの革新技術はすべて2つの側面をもつ技術で、軍事的な用途に使用できる。このソリューションをネットワーク化するには、費用対効果が高く、安全で拡張性のあるグローバルなクラウドオプションが必要である。企業と同様、軍も膨大なデータに含まれるインサイトを活用し、AIや機械学習で予測能力を実現し、より迅速で優れた意思決定を行う必要がある。

防衛力の改善には、同様にビジネスプロセスの改革も重要である。国防総省のビジネスプロセスのほとんどは1960年代に確立され、戦車や艦船、飛行機などの大型兵器プラットフォームの構築に重点が置かれていた。商業部門が急速に進歩したことで、軍の技術的優位性は高まっているが、国防総省は、継続的に購入している大型兵器プラットフォームを補完する多くの技術を購入する必要がある。

これからの10年が、技術の優位性をめぐって各国が激しい競争を繰り広げる時代となるのは確実で、多くの民間企業にとっては、国防総省と協力して複雑な問題に取り組むことのできる初めての機会となるはずだ。

例えば、アセット(資産)を空、宇宙、海中、陸上、サイバー空間に持つ国家安全保障機構は、事実上、世界最大のセンサーの集合体である。しかし、これまでのところ、これらのセンサーはシームレスに統合されるようには設計されておらず、通常はサイロ状に構築・運用されているので、アップデートや、共通の運用計画の作成は難しい。宇宙にモノのインターネット(IoT)、すなわちグローバルなセンサーネットワークを構築することで、リアルタイムの状況把握、作戦決定を支える復元力のある通信インフラ、そして小型かつ多数で機敏な海・陸・空・宇宙システムの自律部隊の基盤が提供される。

これらのシステムは膨大な量のデータを生成するので、ストレージ、管理、分析の強化が必要である。技術の近代化とは、情報を収集、分析、理解し、国家安全保障のためにより良い意思決定を行うためのさらに優れたツールを構築することを意味する。また、脆弱性に対するサイバー攻撃からシステムを保護する高度な手段も必要である。そして、よりクリーンなエネルギーを利用してこれらの新機能を物理的に実現する必要がある。

これらのテクノロジーを開発しているのは民間企業だが、国防総省は、国家安全保障を強化し、(国家としての)商業的な成功を促進するために、これらを迅速に評価し、効率的に調達する能力を高めなければならない。このビジョンを実行すれば、これまで以上に多くの企業が、21世紀の国家安全保障を強化するための一世一代の経済的機会に参加できるようになる。

国防イノベーションユニット:国防総省におけるスタートアップ

アッシュ・カーター国防長官(当時)は、最高の技術を軍に提供するためには、制度の壁を取り払い、商業部門からフレッシュなアイデア、技術、方法論を取り込む必要があると認識していた。2015年、彼はこのつながりを再構築するために「Defense Innovation Unit(国防イノベーションユニット、DIU)」の開設を発表した。DIUは、革新的で迅速な契約メカニズムを実現し、国防総省とのビジネスをより手軽に、(民間企業にとって)より望ましく、より収益性の高いものにするために設計されたものである。

すでにDIUでは、ハードウェアやソフトウェアのライフサイクルにおける重要なポイントでの継続的な投資や、試験施設への継続的なアクセスを提供し、民間企業に防衛分野でも成長するための道筋を示すといったコラボレーションがいかに強力であるかを証明している。このコラボレーションでは、製品の開発の加速、企業の成長の促進、そして投資家に新しい市場へのアクセスを提供することが可能である。

しかし、主要技術における米国の優位性を維持するには、60年来の買収システムを変える必要がある。現在では、国防総省は、多くの技術において、先駆者でも主要投資家でもマーケットメーカーでもない。国防上の問題を解決するためには、国防総省は、自らが開発したものではない商業技術を適応・統合するファーストフォロワーになる必要がある。DIUは次の3つの分野での活動を提唱してこの目標に取り組んでいる。

  • 防衛仕様の要求に縛られた軍用のカスタムソリューションを作るのではなく、利用可能な商用ソリューションで直接問題を解決する
  • 買収を合理化し、商業的なスピードをもって機会を拡大する
  • 予算編成プロセスに柔軟性を持たせる。現在、防衛のために1ドルの支出を計画して実際に支出するまでに、最長で3年かかっている

一見当たり前のようにも思える3つの分野だが、国防計画や議会の承認など、長年にわたって確立されてきたプロセスを覆すのは容易ではない。また、(民間企業には)防衛以外にも大きな市場があるので、国家安全保障に関わる仕事に対応するサポートテクノロジー企業には、健全なビジネスケースを提示できるようにすることも重要だ。

国防総省だけ、あるいは一部の民間企業だけの参加では、変化のペースを速め、障壁を取り除くことはできない。企業、大学、政府の3者が積極的に関与し、さまざまなアイデアやアプローチを提供して、モダナイゼーションのペースを加速させる必要がある。人材の交換、製品の獲得、重要な問題についてのオープンなコミュニケーションなど、国防総省と民間企業のつながりを再構築することは非常に重要である。

国防総省のリーダーたちは、米国史上かつてない技術テクノロジーの進化の時代に生きていることを認識している。DIUは、商業的な技術と方法論を採り入れて軍の重要インフラを近代化する、という他にはない重要な役割を担っている。昔、シリコンバレーが誕生したときのように、私たちは協力して、国家の安全で豊かな未来を守ることができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Mike Brown(マイク・ブラウン)は、Defense Innovation Unit(DIU)のディレクター。DIU以前は、Symantec CorporationのCEO、Quantum Corporationの会長兼CEOを務めていた。また、国防総省のホワイトハウス大統領イノベーションフェローとして2年間勤務し、中国の米国ベンチャーエコシステムへの参加に関する国防総省の研究を共同執筆している。本稿で述べられている見解は著者のものであり、国防総省または米国政府の公式な政策や立場を反映するものではない。

画像クレジット:Jeremy Christensen / Getty Images

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(文:Mike Brown、翻訳:Dragonfly)

中国の「データの罠」に陥るのを避ける方法

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

米国人事管理局(OPM、Office of Personnel Management)、航空会社の乗客リスト、ホテルの宿泊客データのハッキングなど、最近の顕著なデータ侵害事件によって、公共システムと民間システムの両方がスパイ行為やサイバー犯罪に対していかに脆弱であるかが明らかになっている。それほど明白ではないのは、外国の敵対者や競合相手が、国家安全保障やスパイ活動の観点からはあまり明確ではないデータを標的にする方法である。今日、広告主が消費者の選好分析に使用する種類のデータなどの国民感情に関するデータは、従来の軍事目標に関するデータと同じくらい戦略的に価値のあるものになっている。戦略的に価値のあるものに対する定義がますます曖昧になるにつれて、戦略的データを識別し保護する能力は、より一層複雑かつ死活的な国家安全保障上のタスクとなるであろう。

これは特に、戦略的データへのアクセスを求め、それを敵対国に対するツールキットの開発に利用しようとする中国のような国家主体に関して当てはまる。2021年11月、MI6の長官であるRichard Moore(リチャード・ムーア)氏は、中国の脅威を「データの罠」と表現し、次のように論を唱えた。「自国の社会に関する重大なデータへのアクセスを他国に許せば、やがて主権が損なわれることになり、もはやそのデータをコントロールすることはできなくなるだろう」。ほとんどの政府はこの脅威を把握し始めたばかりである。

2021年11月の議会証言で筆者は、今日民主主義を守るためには、外国、特に中国が特定のデータセットをどのように収集し、使用しているかについてよりよく理解する必要があることを主張した。また、将来的に戦略的データを適切に保護する(そして保護すべきデータセットを定義して優先順位づけを行う)には、敵対者がそれらをどのように利用するかを想定する創造的な取り組みが必要となる。

中国国家による権威主義的支配を強化する目的での技術の使用は、近年かなり注目されている話題である。新疆ウイグル自治区のウイグル人を標的にすることは、監視技術の侵略的で強制的な利用に後押しされ、この議論の焦点となっている。そのため、当然のことながら、中国の「技術独裁主義」がグローバル化するリスクについて考えるとき、大部分の人々は同じように侵略的な監視がグローバル化する可能性について考察する。しかし、実際の問題は、デジタルやデータ駆動の技術の性質ゆえに、はるかに重大であり、検出しにくい。

中国の党国家機関はすでにビッグデータ収集を利用して、グローバルな事業環境を形成、管理、コントロールする取り組みを推進している。それだけでは重要ではなさそうに見えるデータが、集約されたときに莫大な戦略的価値をもたらすことを同国は理解している。広告主は、私たちが必要としているとは認識していなかったものを売り込むために国民感情に関するデータを使うこともあるだろう。一方、敵対的な行為者は、そのデータを利用して、デジタルプラットフォーム上の民主的な議論を覆すようなプロパガンダ活動を発信する可能性がある。

米国をはじめとする各国は、前述のOPMMarriott(マリオット)、United Airlines(ユナイテッド航空)のような、中国を拠点とする関係者に起因する悪意のあるサイバー侵入のリスクに焦点を当ててきたが、データアクセスはデジタルサプライチェーンにおける悪意のある侵入や改変から導き出す必要はない。それは、中国国家のような敵対者に、下流でのデータ共有につながる通常の、そして合法的なビジネス関係を悪用することを求めているだけである。これらの経路はすでに発展しており、最近制定されたデータセキュリティ法や中国における他の国家セキュリティ慣行などのメカニズムを通じて、目に見える形で展開されている。

データにアクセスするための法的枠組みを作ることは、中国が国内および世界のデータセットへのアクセスを確保するための唯一の方法となっている。別の方法として考えられるのが、市場を所有することだ。最近のレポートで筆者と共著者は、調査した技術領域において、中国は他の国と比較して出願された特許の数が最も多いが、それに対応するインパクトファクターは高くないことを見出した。

ただし、これは中国企業がリードできていないという意味ではない。中国では、研究開発インセンティブ構造によって、研究者は特定の政策目的を持つアプリケーションを開発することになる。つまり、企業は市場を所有し、プロダクトを後から改良することができる。中国の指導者たちは、世界市場での優位性を確立し、世界的な技術標準を確立しようとする努力が、海外でのより多くのデータへのアクセスを促進し、最終的には異なるプラットフォーム間での統合につながることを十分に認識している。

中国は、そうでなければ注目に値しないデータを組み合わせて、全体として極めて明確な結果をもたらす方法を模索している。結局のところ、いかなるデータでも、適切な処理を行えば、価値を生み出すことができるのである。例えば、筆者は2019年のレポート「Engineering Global Consent」の中で、機械翻訳による翻訳サービスを提供する宣伝部門統括会社であるGlobal Tone Communications Technology(GTCOM、グローバルトーン・コミュニケーション・テクノロジー)のケーススタディを通じてこの問題を取り上げた。同社の広報によれば、GTCOMはHuawei(ファーウェイ)やAlicloud(Alibaba Cloud、アリババクラウド)などの企業のサプライチェーンにもプロダクトを組み込んでいる。しかし、GTCOMは翻訳サービスを提供しているだけではない。同社の役員によると、同社が事業活動を通じて収集するデータは「国家安全保障のための技術的なサポートと援助を提供している」という。

さらに中国政府は、将来的により優れた技術力を想定して、明らかに有用ではないデータも収集している。日常的な問題解決と標準的なサービス提供に貢献するのと同じ技術が、中国の政党国家の国内外における政治的支配力を同時に強化する可能性がある。

この増大する問題に対応するためには、中国との「技術競争」について異なる考え方をする必要がある。問題は、単に競合する機能を開発することではなく、将来のユースケースを想定して、どのデータセットを保護する価値があるかを知ることにある。国と組織は、自らのデータの価値と、現在または将来そのデータにアクセスする可能性のある潜在的な当事者にとってのデータの価値を評価する方法を開発しなければならない。

私たちはすでに、世界がよりデジタル的に相互接続されるようになるにつれて、中国のような権威主義体制が弱体化すると考え、その脅威を過小評価している。民主主義国家は、技術の権威主義的な適用によって生じる問題に、対応して自己修正しようとしているとはいえない。私たちは、現在の脅威の状況に合わせて、リスクを再評価しなければならない。そうしなければ、中国の「データの罠」に陥る恐れがある。

編集部注:本稿の執筆者Samantha Hoffman(サマンサ・ホフマン)博士は、オーストラリア戦略政策研究所国際サイバー政策センターのシニアアナリストで、独立したコンサルタント。

画像クレジット:PM Images / Getty Images

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(文:Samantha Hoffman、翻訳:Dragonfly)

脅威ではなく機会、すべてに対して安全なネットを構築するためのサイバーセキュリティ再構成

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

2021年を通して、新型コロナウイルスの新たな反復の急速なまん延とサイバー犯罪との間で、世界的なニュースが飛び交ったように思われる。いずれも、生き残りをかけた戦いの中で変化するにつれて、ますます創造的かつ破壊的になっている。新型コロナウイルスのロックダウンによる急激なデジタル化からサイバー犯罪者は利益を享受しており、両者は相互に関連し合っている。サイバーセキュリティ業界のある著名な幹部は最近のインタビューで、出生、死、税金と並び、私たちの現在の生活においてもう1つの確実なものは、デジタル脅威の指数関数的な増加であると指摘した。

それにもかかわらず、サイバーセキュリティについての誤解、特にそれが複雑で費用がかかり、面倒かつ無益でさえあるという誤った認識により、多くの新興経済国が第四次産業革命への参加を模索する中でサイバーセキュリティを置き去りにした。だが、成熟したサイバーセキュリティ政策の存在なくしては、デジタルエコノミーのポテンシャルを十分に実現することが困難な状態に各国は陥るであろう。

イノベーションエコシステムの開発における機会と競争優位への道筋としてサイバーセキュリティを再構成することは、個々の国家のサイバーレジリエンスを向上させると同時に、すべてに向けた世界的なデジタルエコシステムを強化する鍵となる可能性を秘めている。

イノベーションかセキュリティか?

2025年までに100億台ものデバイスがモノのインターネット(IoT)に加わることが予想される中、新興のデジタルエコノミーはこの革命の中心になろうと競い合っている。2020年には、約24億ドル(約2775億円)相当の投資がアフリカのスタートアップへと展開され、アフリカのeコマース売上は2025年までに750億ドル(約8兆6713億円)に達すると予測されている。同地域は、急速に成長している新興国・発展途上国40カ国の半分を擁し、現在最も起業家精神に富んだ大陸である。この傾向は、2030年までにデジタルディバイドをなくすことを目指す取り組みにより、人口の残りの78%がインターネットに接続されることで加速するであろう。

しかし、インターネットアクセスの拡大に伴い、世界的なサイバー犯罪も増加することになる。専門家は、サイバー犯罪が2025年までに世界経済に年間10兆5000億ドル(約1214兆円)の損失を与えると推定している。デジタル先進国はサイバー防衛を強化することで対応してきたが、アフリカのイノベーションエコシステムは依然として世界で最も保護されていない状況にある。

アフリカ55カ国のうち、データ保護とサイバーセキュリティに関するアフリカ連合条約(通称:マラボ条約)を批准しているのは10カ国のみであり、アフリカは国際電気通信連合(ITU)のグローバルサイバーセキュリティインデックスで最も低いスコアを記録している大陸であり続けている。ITUと世界銀行のイニシアティブにもかかわらず、アフリカにおいてサイバーセキュリティに関する何らかの法律を設けている国は29カ国に過ぎず、サイバーインシデントと緊急対応チームを置いているのはわずか19カ国である。このため、アフリカの経済は危険にさらされており、アフリカの指導者たちは世界的なサイバーセキュリティ政策を形作る組織体の枠外に取り残されている。

世界的に見ると、セキュリティへの同時投資を伴わないイノベーションシステムへの急速な投資は、デジタル成熟のセキュリティにおけるパラドックスを生み出す。このパラドックスでは、攻撃者が成熟度の2つのレベルの間のギャップを悪用し得る。そして、国家間のこうしたエンティティと各国家自体が二重の形で無防備かつ脆弱性を放置された状態となり、機会主義的で悪意のあるサイバー犯罪者の攻撃を受けやすくなる。

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ワクチンの地政学を連想させるような動態の中で、このことは、まだ黎明期にあり脆弱なイノベーションシステムを抱える国家を無防備にするリスクを冒すことになる。

サイバーセキュリティの争いか、それとも飛躍か?

サイバーインシデントの増加とそれに付随する衝撃的に高い代償が、サイバーセキュリティの強化を導くと考えるのは理に適っている。しかし、直感に反して、西側諸国における行動を促すサイバーセキュリティのナラティヴは、政策の麻痺や制限的な反射的反応にもつながっている。

ゲーム理論家でノーベル賞受賞者のThomas C. Schelling(トーマス・C・シェリング)氏は次のように指摘している。「私たちは計画を立てるとき、馴染みのないことを起こりそうにないことと混同する傾向がある【略】起こりそうにないことを真剣に検討する必要はないと判断する」。多くのデジタル発展途上国は、悪意のあるサイバー活動の基盤となっている大国政治の枠外にあると考えている。ロシアと米国のサイバースペースでの対立、デジタル覇権をめぐる中国と米国の競争、あるいはイランとイスラエルのデジタル消耗戦で見られたような、大規模な行動の犠牲者になることは、そうした国々には起こりそうにないことのように感じられる。その政策上の必須事項のリストにおいて、このようなサイバー攻撃からの保護は低い位置に置かれている。

デジタル先進国は、サイバー脅威の急速な拡大に対応するために、サイバーセキュリティの機構を導入している。サイバーインシデントやランサムウェアの支払いを報告しなかった場合に厳しい罰則を科す新たな法律の制定、REvilのようなランサムウェア集団を麻痺させるための国際的なイニシアティブの調整などがその例である。一方、デジタル発展途上国では、こうした脅威に対処するために必要とされるサイバーセキュリティ対策の複雑さを理解する上でのインセンティブや能力が不十分であることが多い。

これは、多くが潜在的な技術的新植民地主義の一形態として見ている、欧米のサイバーセキュリティパラダイムへの警戒感によって悪化している。欧米のサイバーセキュリティ技術の規制遵守、規範の採用、購入に対する要求は、これらの国家の成長機会を抑圧していると受け止められることが多い。また、国家をサイバーセキュリティコンプライアンスの対象に加えようとする試みは、国家の主権に対する攻撃と受け取られる場合もある。それは裏目に出ることになり、自由でオープンかつ相互運用可能なインターネットの利益へのアクセスを最終的に脅かすかもしれない、インターネットのシャットダウンのような代替パラダイムを求めるように国家を駆り立てる可能性がある。

しかし、それよりも頻度が高いのは、圧倒的な脅威に対して麻痺状態で反応し、行動を起こすことがまったくできないことであろう。

サイバーセキュリティはチームスポーツ、というのがCISO(最高情報セキュリティ責任者)のモットーである。グローバルなコンテキストでは、これは発展途上のデジタルエコノミーがチームの一員に加わる意思を確実に持つことを意味する。そのためには抜本的な改革が必要となる。

サイバーセキュリティの抜本的再構成

サイバーセキュリティの支持者たちは、サイバーセキュリティを、負担や制約というものではなく、活力に満ちたレジリエンスの高いイノベーションエコシステムを構築する機会として捉え直すことから始めることができる。サイバーセキュリティの魅力と価値を際立たせる新たなナラティブが、イノベーションを抑圧する不合理な基準の認識を払拭するために必要である。

例えば、サイバーセキュリティとデータプライバシーは小売業者の競争力の主要な源であり、価格の敏感性さえも上回ることが調査で示されている。時を同じくして、新設の米国務省サイバー局や英国の国家サイバー戦略2022のような米国と英国における最近のイニシアティブは、強固なサイバーエコシステムを戦略的優位性として強調している。

成熟したデジタルエコノミー、多国間機関、サイバーテックプロバイダーを持つ政府は、自らを守ることができる国家がデジタル革命において最も求められるパートナーであることを、強く主張すべきである。また、サイバーセキュリティに関する世界的な対話を形作ることもできよう。

すべてに対してより安全なネットという価値

すべてに繁栄をもたらす活発で競争力のあるデジタルエコノミーには、信頼でき、安全かつセキュアな、オープンで相互運用可能なネットワークが必要である。ベストプラクティスを活用して自らのイノベーションエコシステムを確保できる国家は、ディスラプションをもたらす開発を先導することになるであろう。ただし、国家や中小企業、個人がサイバーセキュリティを真剣に捉えるように導くためには、脅威から構築された政策を支持するのではなく、サイバーセキュリティの楽観的な論拠に基づいた政策にシフトする必要がある。

ナラティブを変えるには、デジタル的に成熟した国家が、より脆弱な国家に継続的な支援を提供する必要もある。これは、デジタル技術の輸出や、サイバーセキュリティ戦略の青写真のための単なる市場としてのデジタル発展途上国家という枠を超えて、サイバーセキュリティの恩恵を地域的にも世界的にも解き放つインフラの開発を支援するコミットメントを示すものである。サイバーセキュリティを機会として抜本的に再構成することを通じて、安全なデジタルインクルージョンの上に構築されたイノベーションシステムによる、すべてに対してより安全なネットの創出を、国家と社会が協働して確保することができる。善に向けた原動力としてのインターネットのポテンシャルが実現に向かうであろう。

編集部注:執筆者のMelanie Garson(メラニー・ガーソン)博士はTony Blair Institute for Global ChangeのInternet Policy Unitでヨーロッパ、イスラエル、中東の政策責任者。また、University College Londonの政治学部で国際紛争解決と国際安全保障の講師を務め、サイバー戦争とデジタル時代の紛争の未来、および国際交渉について教えている。

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(文:Melanie Garson、翻訳:Dragonfly)

バイデン大統領の民主主義サミットのコミットメント拡大にはパートナーシップが鍵となる

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

バイデン米大統領は2021年12月、100カ国を超える国々の首脳を招き、待望のバーチャル民主主義サミットを開催した。1年間の協議、調整、行動の後、これらの指導者たちは再び2回目のサミットに集まり、人権尊重の促進、権威主義への対抗、腐敗との戦いへの1回目のコミットメントの進捗状況について報告した。

旧ソ連出身の私は、このサミットに楽観的な思いを持たずにはいられなかった。ごく幼少の頃でさえ、表現や言論の自由が制限され、情報や生活のほぼすべての側面が国家や選ばれた少数の権力者により大きく支配されている場所に住むことから生じる冷たさを感じていた。この個人的な経験は、米国市民であることに感謝の気持ちを抱かせる。一方で、権威主義体制の下で暮らした経験から、このサミットが開催されている理由、つまり世界中で起こっている民主主義の後退に非常に神経質になっている。

この民主的競争において、技術ほど重要な領域はないだろう。首脳たちがサミットの3つの柱を前進させることを望むなら、技術が民主主義と人権に貢献することを確保する必要がある。これには、デジタル権威主義に対抗する方策としてのオープンインターネットと重要なインフラへの投資の促進、偽情報への対処、社会的レジリエンスの強化、そして民主主義的価値観と多様性に調和する先端技術およびテック系起業家精神への投資の増進が含まれる。

報道によると、インターネットの強化、メディアリテラシーと市民教育のための資金の増強、二重使用技術の輸出規制の実施などに向けたイニシアティブ実行へのコミットメントが表明される可能性が高い。これらはすべて有用なステップである。しかし、サミットを超えて存続していくには、真に実行し、規模を拡大するために、官・民・市民のパートナーシップが必要となる。ここでは、私たちが共有すべき留意に値する3つの領域を取り上げたいと思う。

第1に技術の規制、検閲、輸出を通じ、国内的に市民を抑圧する目的で技術を利用するデジタル権威主義は、世界的に蔓延する問題となっている。先駆的な国家管理インターネットを構築している中国や、インターネットインフラ、オンラインコンテンツ、プライバシーに対する統制を強化し続けているロシアはその最たる例である。さらに、このような権威主義形態をアフリカや中南米など世界の他の地域に輸出することで、これらの国は民主主義国と権威主義体制との間の「システム競争」を助長している。

この進化する脅威に対抗するために、民間セクター、市民社会、政府が協働できることは多く存在する。具体的には、抑圧的な技術の輸出管理を強化しながら、新興市場における重要なインフラを共同で開発することが挙げられる。地方レベルで言えば、米国とその同盟国は、特に周縁化されたコミュニティに焦点を当て、インターネットへのアクセスを増やし、インターネットの自由を促進することに取り組むべきである。市民社会においては、政府と民間セクターの双方の説明責任が維持されるように、地域の規制と慣行を支持する声を上げる必要がある。多国籍企業も、事業展開する国で人権評価を行うことで、自らの力を有効に活用し、人権侵害に加担したり、意図せず独裁政権の商慣行を助長したりしないことを保証するべきである。

第2に、虚偽と半真実の意図的な拡散である偽情報は、世界の民主主義にとって深刻な脅威であり続けている。近年、選挙や新型コロナウイルス関連の偽情報が、ソーシャルメディアプラットフォーム、メインストリームメディア、そして信頼できるネットワークを通じ、米国および世界中で山火事のように広がっていくのを私たちは目にしてきた。ロシア中国イラン、および国内の当事者は、カオスと混乱を引き起こすだけではなく、2021年1月6日の暴動の際に見られたように、深刻な損害をもたらす偽情報キャンペーンを展開している。さらにこうした偽情報キャンペーンは、女性や少女、LGBTQ+コミュニティやジャーナリストを含む周縁化されたコミュニティに対するヘイト的なレトリックにまで広がっている。これは、今後1年間に政府、民間セクター、市民社会が自らのコミットメントに基づいて行動すべき、また行動しなければならない領域の1つである。そうしなければ、民主主義国は、オンラインでもオフラインでも、情報汚染に対処することなどできないであろう。

その方法はいくつかある。私が所属していた超党派の組織、Task Force on the U.S. Strategy to Support Democracy and Counter Authoritarianism(民主主義と反権威主義を支援する米国の戦略に関するタスクフォース)は、情報環境における信頼を築く目的で、Global Task Force on Information Integrity and Resilience(情報の完全性とレジリエンスに関するグローバルタスクフォース)の設立を提唱した。私たちの提案の根底には、このタスクフォースは志を同じくする国々のリーダーによって主導されるかもしれないが、民間セクターと市民社会の両方が強固な関与を確保すべきであり、これらの脅威を予測し、先手を打って対抗するために協働して、偽情報、オンラインヘイトおよびハラスメントに関する情報を共有していくことが重要であるという信念が置かれている。最終的な目標は、長期的な社会的レジリエンスを構築することにある。

第3に、民間セクターと市民社会は、政府とのパートナーシップに投資して規模の拡大を図り、資本を越えて市民に届くような形で、既存および新興の民主主義国におけるデジタルとメディアリテラシー、市民教育に関するイニシアティブを実行しなければならない。同時に、2022年に向けて、民間セクター、とりわけデジタルプラットフォームやメインストリームメディアは、信頼性が高く質の高い情報を市民へ提供することに一層の努力を払う必要がある。アルゴリズムバイアス、データの悪用、悪意あるコンテンツ拡散の防止を目的とした、デジタルプラットフォームの透明性と説明責任の向上に関する提案が数多くなされている。究極的には、可能な限り最高の情報エコシステムを構築していく上で、これらの原則は市民、コンテンツプロバイダー、政府、業界の間に信頼を築くことにつながるものである。

人工知能、機械学習、自然言語処理などの先端技術への多額の投資がなければ、こうした脅威への対策に目立った変化をもたらすことはできないであろう。脅威を特定して顕在化させ、そのインパクトを把握することへの投資は、米国や欧州に限定されるものではない。スタートアップがこれらの技術を開発する際には、自分たちのプロダクトが安全に新興市場に拡大できることを確保すべきである。

新興市場におけるイノベーションと起業家精神の促進は、民間セクターと市民社会が政府と協働する有意義なオポチュニティが存在する最後の領域である。イノベーションと起業家精神が経済成長を生み出すことが研究で示されており、これは技術セクターにも当てはまる。発展途上国に権威主義的な技術を予防する接種措置を行う最も確実な方法は、次世代の人材、特に若者、女性、少女、その他の周縁化されたコミュニティに投資することである。自国にもたらされる権威主義的な脅威に先端技術を使って対抗できる、確かな地域の声、起業家、イノベーターを育成することは、私たちが求める成果に到達するための最善の方法かもしれない。

技術に関して言えば、私たちは民主主義的価値観と権威主義によって強要される生活様式との間で影響力を競っている。2021年のサミットは、意味のある民主主義復活への道を開くものだ。しかし行動と協議の年に入り、民主主義のための技術的アジェンダに必要な規模の拡大と実行を可能にするのは、官・民・市民のパートナーシップである。

編集部注:本稿の執筆者Vera Zakem(ベラ・ザケム)氏は、Institute for Security and Technologyのシニアテクノロジー・政策アドバイザーで、民主主義とテクノロジーに関する取り組みをリードしており、Zakem Global Strategiesの創設者でもある。2020年から2021年まで、超党派の「民主主義を支援し権威主義に対抗するための米国戦略に関するタスクフォース」のメンバーを務める。

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(文:Vera Zakem、翻訳:Dragonfly)

米国にソフトパワーもたらす大手テックが逆に国の影響力を弱めていないか?

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

約30年前、政治学者Joseph Nye(ジョセフ・ナイ)氏は、国家が軍事力のような「ハード」パワーを行使するだけはでなく「ソフト」パワーも行使することを提唱し、慣例を覆した。ソフトパワーとは「ある国が自国の望むものを他国に求めさせるときのもので【略】自国の望むものを他国にさせるハードパワーや命令パワーとは対照的である」とナイ氏は記している。

言い換えれば、ソフトパワーは、勢力ではなく誘引力による統治である。文化的、経済的、科学的、道徳的影響力の大きい国々は、その影響力を実質的な利得に変換し「彼らの重みを超えて効力を発揮する」とその理論では述べられている。これには、銃、兵士、軍需品以外のすべてが含まれる。エリザベス2世は、リアーナがそうであるように、ソフトパワーのオールスターである。ハリウッドや寿司、ルイ・ヴィトン、コパカバーナビーチもそうであろう。

ブロードウェイ、マイケル・ジョーダン、ハーバード、スターバックスのような存在は、長きにわたって、伝統的手段によるスーパーパワー(超大国)の米国をソフトパワーの国にもしてきた。しかし、近年の米国のソフトパワーの多くは、私たちのテクノロジーの創造性に起因している。つまるところ、テクノロジー業界の最大手であるAmazon(アマゾン)、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)は米国の企業である。世界の富裕層はほぼ例外なくiPhone(アイフォン)を使っており、世界のトップ企業たちがMicrosoft Windows(マイクロソフト・ウィンドウズ)を使用している。ナレンドラ・モディ首相からローマ法王まで、世界のリーダーたちはTwitter(ツイッター)やInstagram(インスタグラム)を使ってフォロワーにリーチしている。

世界のOSは、いわば米国のOSだ。つまり、世界の大部分が、言論の自由、プライバシー、多様性の尊重、地方分権といった米国の価値観に基づいたテクノロジーを基盤に生活しているということである。

一方、シリコンバレーは米国にとって最大の海外向け呼び物かもしれない。ソフトウェア労働者の40%もが移民である。Google、Tesla(テスラ)、Stripe(ストライプ)はいずれも移民出身の創業者だ。筆者は10年前にスタンフォード大学に通っていたとき、訪問代表団の果てしない行進を目の当たりにした。ドイツ人もオーストラリア人も、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領でさえも、同じ問いに対する何らかの考えを携えてやって来た。シリコンバレーを自国でどう再現するか?

米国の政治家たちは、テックセクターが米国の最も優れた輸出品の1つであるという当を得た指摘を繰り返してきた。しかしそれが永遠の勢力ではなくなったらどうなるだろうか?ソフトパワーが実際に逆転し、国の影響力を弱めることはあり得るだろうか。

結局のところ、テクノロジーの有害な外部性は十分に裏づけられている。インドのフェイクニュース扇動が見られたミャンマーのジェノサイド(大量虐殺)、英国のISISプロパガンダなどだ。欧州は、Apple(アップル)やGoogleなどのテック大手が税金を回避し、プライバシーを侵害していることで追撃しており、英国ではAmazonが従業員による人権侵害で非難されている。そして、テクノロジーが子どもたちや10代の若者たちに及ぼす不健康なインパクトは、当然ながらますます厳しく精査されるようになっている。

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テクノロジーとハードパワーの結びつきが強まり、米国の覇権がテック大手に大きく依存するようになる中、ワシントンには難題が投げかけられている。ナイ氏が2012年に提言したように「信頼性は最も乏しい資源」であるなら、米国は、テック企業にまつわる有害な行為(および評判)の数々とUSAというブランドを切り離すことができるのだろうか。

この全体的な状況は、2021年10月末から11月にかけてグラスゴーで閉幕されたCOP26気候変動交渉を思い起こさせる。多くが主張するように、豊かな国がエネルギー会社の行動に対して責任を負うのではないか。賛否両論ある問いだが、1つ確かなことは、Exxon Mobil(エクソン・モービル)はもはや米国のイメージを磨くことはないということだ。実際、気候変動の経済的コストはますます価格付けされるようになっており、それは資産よりも負債である可能性が高い。

巨大石油企業とは異なり、米国のテック産業は文明の危機を引き起こしてはいない。彼らのプロダクトは一般的に有用であると認識されている。こうした企業は大規模な経済活動を生み出してきた。そして正の外部性を有している。それほど仮説的ではない例を挙げると、AppleのiPhoneは人権侵害の記録に使われており、それらはAlphabet(アルファベット)のYouTube(ユーチューブ)に投稿され、Meta(メタ)のFacebookとWhatsAp(ワッツアップ)で共有されている。

だが米国のテック企業が他の国々における憎悪や暴力を助長すれば、彼らは米国に対して良くない印象を抱く。もし米国が彼らの満足感に浸ろうとしているなら、自分たちの評判以外の理由がなければ、彼らの欠点についても責任を負うべきであろう。

もちろん、ビッグテックを服従させようとするワシントンの政治家には事欠かない。バイデン政権は、数多くの規制措置に関する同盟国との調整に精力的に取り組んでいる。議会やFCC(連邦通信委員会)、FTC(連邦取引委員会)などの機関は、意味のある反トラスト法訴訟を起こす構えだ。

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こうした動きは、最近のG20での世界的な法人税協定のような広範な改革と同様に、企業の濫用を改善する上である程度の効果をもたらす。しかしながら、規制の取り組みが米国の消費者保護に焦点を当てているのは当然であるにしても、海外で実際に被害を受けている人々の生活に対しても何らかの責任を負うべきである。

それはどういうものになるだろうか。例えば、反トラスト調査では、海外市場におけるテック企業の独占が調査対象になり得る。米国の言論の自由に関する基準は全面的に適用されるものではないかもしれないが、規制当局は、まず外国語によるコンテンツの節度向上を図り、米国のテック企業に対し貧しい海外市場にも国内同様の注意を払うよう促すことが考えられる。彼らはまた、外国市場におけるより地域的に繊細なルールの採用を検討すべきである(一方で、いずれの担当者の入札も避けるべきである)。

さらに各国政府は、テック大手と協力して、そのプロダクトがどのように使われているかについての情報を共有すべきであろう。有機的に悪影響を及ぼしたり、外国の当事者によって悪意を持って使われたりすることに関するものだ。現地の米国の外交官は、定期的にテック企業の幹部に彼らのプロダクトの現地へのインパクトについて伝え、より害の少ない政策を提案できるかもしれない。FacebookがOversight Board(監督委員会)で行ってきたように、より多くの形態の外部監督による検証が必要になるかもしれない。少なくとも、現在エチオピアで起きているように、米国のテクノロジーが新たな危機や進行中の危機を煽ることがないよう、積極的に協働することはできるだろう。一方で米国は、人権侵害に関与する企業に制裁を加えるために、自国のエンティティリストをより積極的に利用することをためらうべきではない。

企業が主体的にできることも多くある。LinkedIn(リンクトイン)の名誉のために言っておくと、自社のプラットフォームに対する検閲の増加に直面した際、中国でのビジネスを停止した。圧力を受け、同プラットフォームは自らの(リベラルな)価値があまりにも重要であり、それを犠牲にすることはできないと判断したのだ。反体制派のユーザーデータを中国当局に引き渡してから14年を経たYahoo(ヤフー)も同様に、中国でのビジネスから撤退している。またテック企業の従業員も声を上げるべきであろう。多くの人が、自分たちの会社とペンダゴン(国防総省)やその他の国家安全保障機関が協力していることに対し、異議を唱えてきた。それを超えないまでも、権威主義的な政府との仕事には批判的であることが求められる。

テック企業は自分たちが考える以上の力を持っている。彼らは、非民主的な政府によるコンテンツの検閲、反体制派へのスパイ活動、民主主義活動家へのテクノロジーの提供拒否などの常軌を逸した要求の実行を放置することで、元来米国のテック企業を魅力的なものにしている魔法を弱めてしまう危険を冒すことになる。米国企業がすでに行っている自己検閲(最後に中国を否定的に描いた映画があったのはいつ頃だろうか?)を考えると、私たちは皆、より劣ってきている。自己検閲されたテクノロジーの輸出は、指数関数的に悪い方へ進む可能性がある。

テック系のエグゼクティブたちは近年、愛国心を背景に自分たちの会社(とその独占状態)を擁護する方向に向かっている。しかし、テクノロジーが誤ると、不快な映画を作るよりもはるかに有害となる。政策立案者は、米国のテック企業がワシントンに好意的な態度を期待しているのであれば、彼らは自らの言葉の責任を果たし、彼らの行動がいかに米国の利益や価値を直接損なうかについて熟考すべきであることを、明確に示す必要がある。彼らは、テクノロジーの評判が米国のものでもあることを認識しなければならない。

編集部注:本稿の執筆者Scott Bade(スコット・ベイド)はTechCrunch Global Affairs Projectの特別シリーズエディターで、外交問題についての定期的な寄稿者。Mike Bloomberg(マイク・ブルームバーグ)の元スピーチライターで、「More Human:Designing a World Where People Come First」の共著者でもある。

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(文:Scott Bade、翻訳:Dragonfly)

ウクライナ紛争が米国のサイバーセキュリティを脅かす理由

TechCrunch Global Affairs Project(テッククランチ・グローバル・アフェアーズ・プロジェクト)は、ますます関係が深まるテック業界と国際政治との関係を検証する。

ロシア軍が再びウクライナ侵攻の構えを見せる中、ここ数日どうすれば紛争の拡大を避けられるかに注目が集まっている。最近の(おそらく今後も)ウクライナにおけるサイバー攻撃の激化は、残念ながら最終的にこの衝突がデジタル領域に深刻な影響を与えることを示唆している。そして地上侵攻と異なり、デジタル紛争地域は米国まで拡大する可能性がある、と米国政府は警告した。長年にわたるロシアによるサイバー監視と「環境の準備」は、今後数週間数カ月のうちに、米国民間セクターに対する重大かつ破壊的ともいえる攻撃に発展するおそれがある。

このレベルの脆弱性を容認できないと感じるなら、それは正しい。しかし、どうしてこうなってしまったのか? また、大惨事を回避するために必要な行動は何なのか?まず、ウラジミール・プーチン大統領が、彼の長年にわたるロシアのビジョン達成のために、21世紀の技術的手法をどのように実験してきたかを理解することが重要だ。

サイバープロローグとしての過去

ロシアの動機は実に平凡だ。2005年4月、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊を「世紀最大の地政学的大惨事」であり「ロシア国民にとって【略】紛れもない悲劇」であると評した。以来、この核となる信念が多くのロシアの行動の指針となった。残念なことに、現在。ヨーロッパでは戦場の太鼓が高らかに鳴り響き、プーチン氏はロシアの周辺地域を正式な支配下へと力で取り戻し、想定する西側の侵攻に対抗しようとしている。

ロシアがウクライナに対する攻撃を強め(ヨーロッパにおける存在感を高める)時期に今を選んだ理由はいくつも考えられるが、サイバーのような分野における能力の非対称性が、自分たちに有利な結果をもたらすさまざまな手段を彼らに与えることは間違いない。

ロシアの地政学的位置は、人口基盤の弱体化と悲惨な経済的状況と相まって、国際舞台で再び存在を示す方法を探そうとする彼らの統率力を後押しする。ロシアの指導者たちは、まともな方法で競争できないことを知っている。そのため、より容易な手段に目を向け、その結果、恐ろしく強力で効果的な非対称的ツールを手に入れた。彼らの誤情報作戦は、ここ米国で以前から存在していた社会的亀裂を大いに助長し、ロシアの通常の諜報活動への対応におけるこの国の政治分断を悪化させた。実際、ロシア政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとときとしてそれにともなう内乱に気をそらされている西側に、つけ入る機会を見出している可能性が高い。

しかしプーチン氏の長年にわたる非対称的手段の採用は、ロシアが何年にもわたりこの瞬間のために準備してきたことを意味している。こうした行動には馴染みがある。ソビエト時代の古い手段と道具は、21世紀のデジタル・ツールと脆弱性の操作によって新たな姿へと変わった。そして近年、この国はウクライナ、リビア、中央アフリカ共和国、シリア、その他の紛争地域を、自らの情報活動とサイバー機能破壊の実験台として利用している。

神経質になったロシア

今日ロシア当局は、さまざまな技術を駆使した「積極的対策」を施して、基本的民主主義機構を混乱させ、デマを流布し、非合法化しようとしている。ロシアがウクライナに送り込んでいる傭兵や秘密諜報員は、海外のハイブリッド戦場で技を磨き、否定可能な誘導工作と攻撃的サイバー活動を巧みにおりまぜた策略と物理的行動の組み合わせを用いている。

サイバースペースにおいて、ロシアは当時前例のなかった2007年のエストニアに対するサイバー攻撃や、その後のウクライナのライフラインや官庁、銀行、ジャーナリストらを標的とし、今も市場最も犠牲の大きいサーバー攻撃へと発展した、 NotPetya(ノットペトヤ)型サイバー攻撃を実行してきた。ロシアの諜報機関が米国の重要インフラストラクチャーシステムをハッキングした事例もこれまでに何度かあるが、これまでのところ重大な物理的あるい有害な影響や行動は見られていない(ウクライナやAndy Greenberg[アンディ・グリーンバーグ]氏の著書「Sandworm」に出てくるような事例とは異なる)。彼らは米国と同盟国の反応を試し、逃げ切れることを確認したのち、ウクライナをどうするかを議論するNATO諸国に対してさらに圧をかけている。

要するに、ロシアは偵察を終え、いざというとき米国などの国々に対して使いたくなるツール群を事前配備した可能性が高い。その日は近々やってくるかもしれない

ヨーロッパの戦争が米国ネットワークに命中するとき

ロシアがウクライナ侵攻を強めるにつれ、米国は「壊滅的」経済報復を行うと脅している。これは、ますます危険で暴力的になる解決方法に対する「escalatory ladder(エスカレーションラダー、国が敵国を抑制するために系統的に体制を強化する方法)」の一環だ。あまり口にされないことだが、ロシアのサイバー能力は、彼らなりの抑止政策の試みだとも言える。ロシアがここ数年行っているこうした予備的活動は、さまざまなサイバーエッグが孵化し、ここ米国で親鳥になることを可能にする。

米国政府は、ロシアが米国による厳格になりうる制裁措置に対抗して、この国の民間産業を攻撃する可能性があることを、明確かつ広く警告している。ロシア当事者のこの分野における巧妙さを踏まえると、そうした大胆な攻撃をすぐに実行する可能性は極めて低い。ときとしてずさんで不正確(NotPetyaのように)であるにせよ、彼らの能力をもってすれば、サプライチェーン攻撃やその他の間接的で追究困難な方法によってこの国の重要インフラストラクチャーや民間産業に介入することは十分考えられる。それまでの間にも、企業やサービス提供者は、深刻な被害やシステムダウンに直面する恐れがある。過去の事例は厄介な程度だったかもしれないが、プーチン氏と彼のとりまきが長年の計画を追求し続ければ、近いうちに経済にずっと大きな悪影響を及ぼす可能性がある。

ロシアが侵攻の強化を続けるのをやめ、出口を見つけて一連のシナリオが回避される、という希望も残っている。我々はどの事象も決して起きないことを望むべきだ。ただし、実際これは現時点ですでに期限を過ぎていることだが、産業界は自らを守るための適切な手順を踏み、今まさに起きるであろう攻撃に備える、多要素認証、ネットワークのセグメント化、バックアップの維持、危機対応計画、そして真に必要とする人々以外によるアクセスの拒否をさらに強化すべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Philip Reiner(フィリップ・レイナー)氏は、技術者と国家安全保障立法者の橋渡しを担う国際的非営利団体、Institute for Security and Technology(IST)の共同ファウンダー。同氏は以前、国家安全保障会議でオバマ大統領政権に従事し、国防総省の政策担当国防次官室の文官を務めた。

画像クレジット:Mikhail Metzel / Getty Images

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(文:Philip Reiner、翻訳:Nob Takahashi / facebook

半導体産業は台湾にとって「切り札」にも「アキレス腱」にもなる

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年10月上旬の4日間にわたって、約150機の中国軍用機が台湾の領空を侵犯し、台湾と米国からの批判を招いた。このように台湾海峡で緊張が高まる中、台湾の祭英文総統は米国軍は台湾兵士と台湾国内で軍事演習を行っていると発表した。これに対し中国の外務省は、台湾の独立を支援すれば軍事衝突をもたらすだけだと警告した。10月末、米国国務長官Antony Blinken(アントニー・J・ブリンケン)氏が中国外相Wang Yi(王毅)と会見して、台湾地域での現状変更の動きを控えるよう要請したまさにその日に、さらに8機の中国軍用機(うち6機はJ-16戦闘機)が台湾の領空を侵犯した。

1979年、米国は、中華民国(台湾)が中国本土、つまり中華人民共和国の一部であることを承認した。このときから中台関係の変遷が始まり、現在の状態に至る。中国は長期にわたって台湾併合を望んでおり(中国は台湾をならずもの国家と考えている)、軍事侵攻によって強制併合する可能性を決して除外していないが、米国が台湾を軍事的に防衛するかどうかについて戦略的にあいまいな態度をとってきたため、台湾併合を阻止されてきた形になっている。そして近年、台湾が半導体産業で重要な役割を果たすようになってきたため、状況はさらに複雑化の度を増している。

世界の半導体産業における台湾の重要性

台北本拠の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、台湾の半導体受託製造業者は、2020年時点で、世界のファウンドリ市場の63%のシェアを獲得しているという。詳細を見ると、世界最大の受託チップ製造業者Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)だけで世界のファウンドリ市場の54%のシェアを確保している。さらに最近のデータによると、Fab 14B P7で停電が発生し製造がストップしたにもかかわらず、TSMCは依然として、2021年の第2四半期で世界のファウンドリ市場の約53%を占めている。

台湾のファウンドリ(TSMCを含む)はほとんどのチップを製造しているが、それに加えて、携帯電話から戦闘機まで、すべてのハイテク機器に内蔵されている世界最先端のチップも製造している。実際、TSMCは世界の最先端チップの92%を製造しており、台湾の半導体業界は間違いなく世界で最も重要視されている。

そして、当然、米国と中国の両国も台湾製の半導体に依存している。日経の記事によると、TSMCは、F-35ジェット戦闘機に使用されているコンピューターチップ、Xilinx(ザイリンクス)などの米国兵器サプライヤ向けの高性能チップ、DoD(国防総省)承認の軍用チップなども製造している。米軍が台湾製のチップにどの程度依存しているのかは不明だが、米国政府がTSMCに対して米国軍用チップの製造工場を米国本土に移転するよう圧力をかけていることからも台湾製チップの重要さの程度が窺える。

米国の各種産業も台湾製半導体に依存している。iPhone 12、MacBook Air、MacBook Proといった各種製品で使用されているAppleの5ナノプロセッサチップを提供しているのはTSMC一社のみだと考えられている。iPhone 13やiPad miniなどのAppleの最新ガジェット内蔵のA15 BionicチップもTSMC製だ。TSMCの顧客はもちろんAppleだけではない。Qualcomm(クアルコム)、NVIDIA(エヌビディア)、AMD、Intel(インテル)といった米国の大手企業もTSMCの顧客だ。

中国も外国製チップに依存しており、2020年現在、約3000億ドル(約34兆円)相当を輸入している。当然、台湾は最大の輸入元だ。中国は外国製チップへの依存度を縮小すべく努力を重ねているが、その需要を国内のみで賄えるようになるのはまだまだ先の話だ。中国の最先端半導体メーカーSemiconductor Manufacturing International Corporation(SMIC)の製造プロセスは、TSMCより数世代遅れている。SMICは現在7ナノ製造プロセスのテスト段階に入ったところだが、TSMCはすでに3ナノ製造プロセスまで進んでいる。

このため、中国の企業は台湾製チップに頼らざるを得ない。例えば中国の先進テック企業Huawei(ファーウェイ)は、2020年現在、TSMCの2番目の大手顧客であり、5ナノと7ナノのプロセッサの大半をTSMCに依存している考えられている。具体的な数字を挙げると、ファーウェイはTSMCの2021年の総収益の12%を占めている。

軍事衝突という形をとらない戦い

2022年前半に起こったことを見るだけで、半導体業界がいかに脆弱かが分かる。比較的落ち着いていた時期でも、停電の影響もあって、TSMCは世界シェアを1.6%失い、継続中の半導体不足に拍車をかけることになった。地政学的な要因による半導体生産量の低下ははるかに大きなものになるだろう。

最悪のシナリオはいうまでもなく、台湾海峡での軍事衝突だ。軍事衝突が起これば、半導体チップのサプライチェーンは完全に分断されてしまう。だが、他にも考えられるシナリオはある。台湾はよく分かっているが、中国に大量にチップを輸出することで、台湾の経済成長は促進されるものの、中国の技術発展も支援していることになる。台湾が、例えば米国との自由貿易協定に署名するなどして、中国への輸出依存度を減らすべく具体的な対策を講じるなら、中国への半導体チップの輸出を打ち切ってしまう可能性がある。

これは中国にとっては耐えられないシナリオだ。考えてみて欲しい。TSMCがトランプ政権の厳しい対中禁輸措置に応えてファーウェイからの新規注文を拒絶して以来、ファーウェイは5ナノ製造プロセスを使用したハイエンドのKirin 9000チップセットの製造を停止せざるを得なくなった。こうしてハイエンドチップが不足すると、ファーウェイはまもなく、5G対応のスマートフォンの製造を継続できなくなるだろう、とある社員はいう

台湾製のチップがまったく入ってこなくなると、中国のテック産業全体の継続的な成長に疑問が生じることになる。そうなると、中国は激怒するだけでなく、国内の安定も脅かされるため、中国政府に台湾武力侵攻の強い動機を与えることになるだろう。

逆に、米国に台湾製チップが入ってこなくなるシナリオも考えられる。「平和的な併合」のシナリオ(武力侵攻なしで台湾が中国に統合されるシナリオ)が実現すれば、台湾のファウンドリは中国政府の支配下に入ることになり、米国にとって戦略的な問題が生じる。中国政府はファウンドリに対してチップの輸出を禁止したり、輸出量を制限するよう要請できる。そうなると、米国は、米軍の最先端の軍事機器のモバイル化に必要なチップが手に入らなくなる。

TSMCが米国企業に対するチップの輸出を停止または制限すると、米国企業は現在のファーウェイのような状況に陥る可能性が高い(中国では「使用できるチップがない」という意味の「无芯可用」という新しいフレーズが登場している)。米国が台湾に侵攻して中国と台湾を再分割する可能性は低いものの、報復として制裁措置を課すなどの対抗手段を検討するかもしれない。そうなれば米中間の緊張がさらに高まることになる。

いうまでもなく、こうしたシナリオが現実化すればグローバルなサプライチェーンは分断され、全世界に深刻な状況を招くことになる。

台湾の半導体産業は国を守る盾か、それともアキレス腱か

台湾は間違いなく、半導体業界における支配的な地位と、それが米国と中国に対する影響力を与えている現在の状況を享受しているが、米中両国は現状に大いに不満を抱いており、両国とも自国に有利な状況になるようさまざまな手段を講じている。たとえば米国は、米国内にチップ製造工場を建設するようTSMCに要請している。一方中国は、TSMCから100人以上のベテラン技術者やマネージャーを引き抜いて、最先端のチップ製造を自国で行うという目標に向けて取り組みを強化している。

これは台湾の将来にとって決して好ましいことではない。台湾が海外での半導体生産量を増やすと、台湾に対する国際的な注目は弱まるかもしれない。が、同時に米国が台湾を軍事的に保護する動機も弱まってしまう。サプライチェーンが広域に分散するほど、中国が台湾を軍事力で併合するための主要な障害が軽減されることにもなる。台湾にとってこれは、難しいが、存続に関わる問題だ。

こうした不確実な要因はあるものの、台湾の地位は少なくとも短期的には安泰のようだ。米中両国の競争相手の製造プロセスはまだ数年は遅れている状態であるし、彼らが追いついてきたとしても、工場は稼働するまでに数年の計画と投資が必要になることはよく知られている。現状に何らかの変化がない限り、米中両国とも、少なくとも短期的には、台湾製チップなしでやっていけるとは考えられない。今確実に言えることは、米中両国は、対台湾戦略において、従来にも増して台湾の半導体産業の役割を考慮する必要があるということだ。

編集部注:本稿の執筆者Ciel Qi(シエル・チー)氏は、Rhodium Groupの中国プラクティスのリサーチアシスタントで、ジョージタウン大学のセキュリティ研究プログラム(テクノロジーとセキュリティ専攻)の修士課程に在籍している。また、ハーバード大学神学部で宗教、倫理、政治学の修士号を取得している。

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(文:Ciel Qi、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーへの取り締まりが、今後の米国・中国間の競争の運命を握る

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

今、テクノロジー大手は苦境に立たされている。野心的なテクノロジー企業はかつて、中国で比較的独立して活動できる数少ない企業の1つだった。以前、Alibaba(アリババ)のJack Ma(ジャック・マー)氏やDidi(ディディ)のJean Liu(ジーン・リュー)氏のようなテックリーダーは、ダボス会議で主役級の存在感を放つ、中国イノベーションの世界的なシンボルとなっていた。しかし今は違う。

2020年マー氏が中国の規制当局を批判する発言をした後、Alibabaの記録的なIPOは延期され、また同氏は数カ月間、事実上「行方不明」となっていた。Tencent(テンセント)は反トラスト法違反で多額の罰金を科せられている。2020年以降、両社はそれぞれの企業価値の約20%を失い、その総額は3000億ドル(約35兆円)以上に達している。Didiの株価は中国のアプリストアからの削除命令を受けた後、40%も下落している。最近では中国の規制当局がEdTechやゲーム業界に新たな規制を課し、さらには暗号資産を全面的に禁止している。

米国テクノロジー業界の重鎮らは自由を手にしているようにも見えるが、実際は彼らや彼らのビジネスも政府の監視下に置かれている。Lina Khan(リナ・カーン)氏、Tim Wu(ティム・ウー)氏、Jonathan Kanter(ジョナサン・カンター)氏といった反トラスト法を擁護する有力者たちがいずれもバイデン政権で要職に就いており、また米国議会ではプライバシーや年齢制限など、テクノロジー企業を規制する新たな法案が検討されている。

北京でもワシントンでも(そして何年もテクノロジー企業と戦ってきたブリュッセルでも)「大手テクノロジー企業はあまりにも強力になりすぎて責任を取れなくなっている」というコンセンサスがますます明確になってきている。政府はイデオロギーの違いを超えて、公共の利益の名のもとに何らかのコントロールを行わなければならないと考えている。今、創業者、経営者、投資家にとって、政治的リスクがかつてないほど高まっているわけだ。

しかし、表面的には似たような取り締まりに見えても、両国の反トラスト法戦略の意味するところはこれ以上ないほど相違している。中国では、反トラスト法の取締りは与党である共産党の指揮棒に運命が委ねられている。しかし米国の反トラスト法のムーブメントは一様ではない。

米国がまだ始めたばかりのことに対して中国は断固たる行動を取っている。しかし、データプライバシーや子どものスクリーンタイムの制限を謳う中国政府の取り組みは、その真の目的である政治的・経済的な完全支配のための布石にすぎない。事実上独立した市民社会が存在しない中国では、テクノロジー産業は共産党以外に権力を持つことができる数少ない場所の1つとなっていた。しかしこれまで以上に抑圧的な習近平政権では、このような独立した力の源が受け入れられることはない(香港を参照)。党の方針に従わなければ中国国家の強大さに直面するぞというメッセージは明確である。

さらに、中国はパワーの拡大を目指している。中国はかねてより次世代技術の支配を目指しており「China Standards 2035」プロジェクトの一環として、5GやAI、再生可能エネルギー、先進製造業など、数多くの重要な産業や分野の標準化の設定を積極的に進めている。これを実現するための主要戦略として、中国は国際的な基準設定団体を水面化に支配しようと試みていたのだが、北京はこれらのテクノロジーを開発する企業をコントロールすることも同様に重要であると気づいたのである。Huawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)、TikTok(ティックトック)の3社は、欧米の政治家が懸念しているような積極的なスパイ活動は行っていないかもしれないが、彼らの利用が広がれば広まるほど、中国の規格が世界のデフォルトになっていくことになる。

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ジャック・マー氏の運命と中国の5GリーダーであるHuaweiの創業者一族の運命を対比してみるといい。Huaweiは中国のテクノロジーを世界の多くの国でデフォルトの5Gキットとすることに成功。これにより中国の技術的信頼性が高まり、いくらマー氏が共産党員でもこの功績の比較にはならない。Huaweiは当然北京との親密さを売りにしており、Huaweiを選ぶことは中国への信任投票の代名詞となっているが、その分のリスク存在する。米国は、Huaweiと中国の治安機関との関係を懸念して同社に対する反対運動を実施。その結果、Huaweiが米国の対イラン制裁に違反したとして、同社創業者の娘でCFOのMeng Wanzhou(孟晩舟)氏がカナダで逮捕されるに至ったのである。

しかし、忠誠心が報われないわけではない。北京は2人のカナダ人を逮捕し、彼らの拘留を利用して晩舟氏の釈放に向けた取引を成功させた。例えHuaweiが以前は北京に忠誠を誓っていなかったとしても、今は確実に誓っているだろう。中国の他のテクノロジー大手にとっての教訓になったのではないだろうか。

中国の弾圧により投資は冷え込み、人材は浪費され、恐らく中国の強力なテクノロジー部門を築いてきた起業家精神も失われたことだろう。しかし、権力を振るってテクノロジー企業を屈服させることには間違いなく成功している。

北京が国益のためにテクノロジー大手を弾圧する一方で、米国が自国のテクノロジー大手を取り締まっている理由は一体何なのだろうか?米国の独禁法取締官はテクノロジーパワーの肥大化を懸念しているかもしれないが、より競争力のある部門がどうあるべきかという戦略的ビジョンを持っているとは信じ難い。米国の大手テクノロジー企業はその規模が米国の競争力に不可欠であるという主張をすることがあるが、彼らも政府も、自分たちが「アメリカンパワー」の作用因子であるとは考えていない。実際、米国議会がテクノロジー企業と中国のどちらをより敵視しているのか、判断に迷うほどである。

反トラスト法を支持する人々は、Google(グーグル)やApple(アップル)といった企業を解体するか、少なくとも規制することで全体的な競争力が高まり、それが政治や米国のテクノロジー分野に広く利益をもたらすと信じている。AmazonからAWSを、 Facebook(フェイスブック)からInstagram(インスタグラム)を切り離すことで、消費者にはメリットがもたらされるかもしれないが、これがテクノロジーに関する米国の優位性を維持することにどうつながるだろうか?それはまったく不明である。

これまでの米国におけるハンズオフ型の資本主義システムは、オープンでフラット、民主的であり、世界の歴史上最高のイノベーターを生み出してきた。同産業は政府が支援する研究の恩恵を受けてきたが、政府との関係の「おかげ」ではなく、むしろ政府との関係があったにもかかわらず、成功を遂げることができたのだ。米国企業が世界的に信頼されているのは(ほぼ)そのためであり、政権の動向に左右されることなく、法の支配を遵守することが知られているからなのである。

テクノロジーにおける米国と中国間の競争は、この前提を根底に検証されなければならない。政府から独立して運営されている分散型かつ非協調的な産業が、超大国によって編成された一産業に対して優位性を維持できるのか?

筆者はそれでも米国の(そして同盟国の)イノベーションは、これまで通り成功し続けると楽観視している。開放性は創意工夫を生むのである。米国の研究とスタートアップはどの国にも劣っておらず、そして競争に適切に焦点を当てることで、発展が到来するのである。

しかしだからといって、少なくとも限定的な国家戦略がまったく不必要というわけではない。米国に中国のような産業政策が必要だと言っているわけではない。結局のところ、中国のトップダウンモデルは壮大な無駄を生み出し、それが何十年にもわたって中国経済を圧迫することになる可能性があるのだ。企業を強制的に壊してしまうような露骨なやり方では、かえって害になることが多いだろう。

その代わりに米国の議員たちは、反トラスト法に関するヨーロッパの見解に賛同しつつある今、大西洋をまたいだグローバルな競争基準の賢明なフレームワークを開発すべきだ。新設されたU.S.-EU Trade and Technology Council(米欧通商技術評議会)とQuad(日米豪印戦略対話)のテクノロジーワーキンググループが協力を促進し、フェアプレーを維持する善意の民主的テクノロジーブロックを作るための基礎を築くべきなのである。

商業的なアウトカムに影響を与えることなく、政府が支援を行うというこのような中間的な方法には前例がある(冷戦時代に生まれたシリコンバレーの例など)。米国のテクノロジー産業の起業家精神を阻害することなく、ガードレールを提供するためにはこの方法が最適だ。

議会や行政がテクノロジー競争をどう扱うかを検討する際、現在の弊害を是正するだけではなく、米国のテクノロジーそのものの未来を描くことを念頭に置くべきである。なんと言っても米国経済のリーダーシップがかかっているのだから。

編集部注:本稿の執筆者Scott Bade(スコット・ベイド)はTechCrunch Global Affairs Projectの特別シリーズエディターで、外交問題についての定期的な寄稿者。Mike Bloomberg(マイク・ブルームバーグ)の元スピーチライターで、「More Human:Designing a World Where People Come First」の共著者でもある。

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(文:Scott Bade、翻訳:Dragonfly)

ヨーロッパは量子システムの開発をめぐる競争で大国に伍することできるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

量子情報科学はテックセクターの研究分野において長いこと低迷を続けてきた。しかし、近年の進歩はこの分野が地政学的に重要な役割を担っていることを示している。現在、数カ国が独自の量子システムの開発を強力に推進しており、量子をめぐる競争は新たな「宇宙開発」といった様相を呈している。

米国と中国が開発競争の先頭を行く中、ヨーロッパの国々はなんとか遅れを取り戻さねば、というプレッシャーを感じており、いくつかの国々、そしてEU自体も大いに力をいれてこの領域への投資を推進している。しかしヨーロッパのこうした努力は、米国と中国という2つの技術大国に太刀打ちするには、遅きに失したということはないだろうか?また断片的でありすぎるということはないだろうか?

米国と中国:量子システムの開発、そしてそれを超えた競争

量子コンピューティングは、もつれや重ね合わせといった量子物理学(つまり、原子と亜原子スケールでの物理学)の直感に反する性質を利用しようとするもので、量子コンピューターはレーザーあるいは電場と磁場を使用して粒子(イオン、電子、光子)の状態を操作する。

量子システムの開発で最も抜きん出ているのは米国と中国で、どちらも量子「超越性」(従来のコンピューターでは何百万年もかかるような数学的問題を解く能力)を達成したと主張している。

中国は2015年以降、量子システムの開発を進めているが、これはEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が米国の諜報活動について暴露し、米国の諜報活動の範囲に関する不安が広がった時期と重なっている。中国では米国の諜報能力に危機感を抱き、量子通信への取り組みを強化した。中国が量子研究にどれだけの研究費を費やしているかについて、さまざまな推測がなされていて定かではないが、同国が量子通信、量子暗号、ハードウェア、ソフトウェアにおける特許を最も多く持つ国であるということははっきりしている。中国が量子コンピューターに対する取り組みを始めたのは比較的最近のことだが、その動きはすばやい。中国科学技術大学(USTC)の研究者らが2020年12月、そして2021年6月にも「量子超越性」を達成したと、信用に足る発表を行っているのだ。

米国では、中国が2016年に衛星による量子通信技術を持つことを実証したことを受け、量子技術で中国にリードを許しかねないということに気がついた。そこで、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領は2018年、12億ドル(約1370億円)を投じてNational Quantum Initiative(国家量子プロジェクト)を開始した。そして、これがおそらく最も重要なことだが、大手テック企業が独自の量子研究に莫大な研究費を注ぎ込み始めた。1990年代に2量子ビットの初代コンピューターを発表したIBMは、現在量子コンピュータ「Quantum System One」を輸出している。Googleは、IBMに比べるとこの分野では新参であるものの、2019年に超伝導体をベースにした53量子ビットの量子プロセッサーで量子超越性を達成したと発表している。

量子技術開発がもたらす地政学的影響

中国、米国、そして他の諸国を開発競争に駆り立てているのは、量子コンピューティングに遅れをとった場合に生じるサイバーセキュリティ、技術、経済的リスクへの恐れである。

まず、完全な機能を発揮できる状態になった量子コンピューターを使えば、悪意を持つ人物が現在使用されている公開暗号キーを破ることが可能だ。従来のコンピューターが2048ビットのRSA暗号化キー(オンラインでの支払いを安全に行うために使用されている)を解読するのに300兆年かかるのに対し、安定した4000量子ビットを備えた量子コンピューターなら理論上、わずか10秒で解読することができる。このようなテクノロジーが10年を待たずして実現する可能性があるのだ。

第2に、ヨーロッ諸政府は、米国と中国の量子システムの開発競争に巻き込まれることで被る被害を恐れている。その最たるものが、量子テクノロジーが輸出規制の対象になることである。これらは同盟諸国間で調整されるだろう。米国は、冷戦時代、ロシアの手にコンピューター技術が渡るのを恐れてフランスへの最新のコンピューター機器の輸出を禁止した。このことを、ヨーロッパ諸国は記憶している。この輸出禁止を受け、フランスでは国内でスーパーコンピューター業界を育成し支援することになった。

今日、米国と提携するヨーロッパ側のパートナーは、テクノロジーにまつわる冷戦の中で、第三の国々を通じた重要なテクノロジーへのアクセスや第三の国々とのテクノロジーの取り引きに苦労するようになるのではないかと懸念している。米国は、規制品目を拡大するだけでなく、ますます多くの中国企業を「企業リスト」に加え(2021年4月の中国スーパーコンピューティングセンターなど)、それらの企業へのテクノロジーの輸出を、米国以外の企業からの輸出も含め阻む構えだ。そして規制がかけられたテクノロジーが増えるなか、ヨーロッパの企業は自社の国際バリューチェーンが被っている財政上の影響を感じている。近い将来、量子コンピューターを作動させるのに必要なテクノロジー(低温保持装置など)が規制下に置かれる可能性もある

しかし中国に対する懸念もある。中国は、知的財産権や学術面での自由の問題など、諸国の技術開発に対し別の種類のリスクをもたらしており、また中国は経済的強制に精通した国である。

第3のリスクは、経済上のリスクである。量子コンピューティングのような世の中を作り変えてしまうような破壊力を持ったテクノロジーは業界に巨大な影響をもたらすだろう。「量子超越性」の実証は、科学ショーを通した一種の力の見せあいだが、ほとんどの政府、研究所、スタートアップが達成しようと取り組んでいるのは実は「量子優位性」(従来のコンピューターを実用面で上回るメリットを提供できるよう、コンピューティング能力を上げること)である。

量子コンピューティングは、複雑なシュミレーション、最適化、ディープラーニングなどでのさまざまな使い道があると考えられ、今後の数十年で大きな利益をもたらすビジネスになる可能性が高い。何社かの量子スタートアップがすでに上場され、これに伴い量子への投資フィーバーが起きつつある。ヨーロッパは21世紀の重要な領域でビジネスを成り立たせることができなくなることを恐れている。

ヨーロッパの準備体制はどうか?

ヨーロッパは、世界的量子競争においては、その他の多くのデジタルテクノロジーとは異なり、好位置に付けている。

英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、スイスは大規模な量子研究能力を持ち、スタートアップのエコシステムも発達している。これらの国々の政府やEUは量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、および量子暗号に多額の投資を行っている。実際に英国では、米国や中国よりずっと早い2013年に、National Quantum Technologies Program(国家量子テクノロジープログラム)を立ち上げている。2021年現在、ドイツとフランスは量子研究および開発への公共投資でそれぞれ約20億ユーロ(約2600億円)と18億ユーロ(約2340億円)を投じるなど、米国に追随する形となっている。Amazonは、フランスのハードウェアスタートアップAlice & Bobが開発した自己修正量子ビットテクノロジーに基づいた量子コンピューターを開発してさえいる。

では、ヨーロッパが米国や中国を本当の意味で脅かす立場になるのを妨げているものはなんだろうか?

ヨーロッパの問題として1つ挙げられるのは、 スタートアップの出現を促すのではなく、それらを保持することである。最も有望なヨーロッパのスタートアップは、ベンチャー資金が不十分なことから、ヨーロッパ大陸では伸びない傾向がある。ヨーロッパのAIの成功話には注意が必要だ。多くの人は、最も有望な英国のスタートアップであるDeepMindをGoogle(Alphabet)がいかに買収したかを覚えているだろう。これと同じことが、資金を求めてカリフォルニアに移った英国の大手スタートアップであるPsiQuantumで繰り返されている。

このリスクを解消するために、ヨーロッパ諸国政府やEUはヨーロッパの「技術的主権」を打ち立てることを目標に新興の破壊的創造性を備えたテクノロジーに関するいくつかのプロジェクトを立ち上げた。しかし、ヨーロッパはヨーロッパが生み出したテクノロジーを導入しているだろうか?ヨーロッパの調達規則は米国の「バイ・アメリカン法」と比較して、ヨーロッパのサプライヤーに必ずしも優位に働くわけではない。現在EU加盟国は、ドイツが最近IBMマシンを導入したように、より高度な、あるいは安価なオプションが存在する場合、ヨーロッパのプロバイダーを利用することに乗り気ではない。こうしたあり方は現在ブリュッセルで交渉が続いている、公的調達市場の開放性に相互主義の原則を導入するための新しい法案、International Procurement Instrument(国際調達法)が可決されれば、変わるかもしれない。

政府だけでなく、民間企業も、どのように投資し、どこと提携し、どのようにテクノロジーの導入を行っていくかの選択を通し、今後の量子業界を形作っていく上で、重要な役割を担うだろう。1960年代、70年代にIBMシステムを選択するという決定をしたことが、その後の世界的コンピューティング市場の形成に長期的な影響を及ぼした。量子コンピューティングにおいて同様の選択をすることは、今後何十年にもわたってその領域を形作ることになる可能性があるのだ。

現在、ヨーロッパは、ヨーロッパに世界的なテックファームがほとんどないことについて不満に思っているが、これは早い段階でテクノロジーをサポートし導入することが重要であることを示している。ヨーロッパが今後量子をめぐって米国や中国に対抗していくためには現在の勢いを維持するだけではなく、増強して行かなければならないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alice Pannier(アリス・パニエ)氏はフランス国際関係研究所(IFRI)の研究員で、Geopolitics of Techプログラムを担当。最新の報告書は、欧州における量子コンピューティングについて考察したもの。また、欧州の防衛・安全保障に関する2冊の本と多数の論文を執筆している。

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(文:Alice Pannier、翻訳:Dragonfly)

インド太平洋に注目が集まる中、欧州-大西洋で急成長する技術同盟が形成される

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年9月29日から30日にかけて、ピッツバーグの製鉄所を改造したシードアクセラレーター施設で、バイデン政権の閣僚3名とEUの高官2名が集まり、米欧貿易・技術協議会(TTC)を設立した。TTCが定着すれば、インド太平洋のQuadに対する欧州・大西洋の応答となるかもしれない。これは発展途上の技術同盟であり、新しい民主的な技術協定の構成要素となるだろう。

政治中心のワシントンで技術と外交の結びつきを見ると、すべての注目がインド太平洋、特に中国に向けられているように見える。しかし、データ、ソフトウェア、ハードウェアの分野では、米欧関係も同様に、あるいはそれ以上に重要な技術回廊であり続けている。ちなみに、欧州・大西洋間のデータ転送量は、米国・アジア間のデータ転送量よりも55%多い。

TTCの設立により、欧州大西洋のパートナーシップは、この巨大な民主的デジタル回廊を活用するための戦略的な場を得た。特に米国、中国、EUの3つが主役となっている世界的な技術の地政学競争を考慮するとなおさらだ。

17ページにわたるピッツバーグTTCの声明には、今後の作業のためのロードマップと、技術基準、安全なサプライチェーン、データガバナンス、海外直接投資(FDI)の審査、グリーンテクノロジー、人権侵害におけるテクノロジーの悪用、開放経済などの重要な問題に取り組む一連のワーキンググループの概要が記されている。中国という言葉は一度も出てこなかったが、共同声明には「非市場経済」「軍民融合」「権威主義の政府」による「社会的スコアリング」の使用など、中国を表す言葉がふんだんに盛り込まれている。

3つの分野が際立っている。第一に、米国とEUは技術標準に対するアプローチを再考中だ。中国では「三流の企業が製品を作り、二流の企業が技術を作り、一流の企業が規格を作る」という言葉が流行っている。中国政府は9月に「標準化戦略」を発表した。これは中国の技術標準の国際化、規格の採用促進、規格開発における民間企業の取り組みの強化に焦点を置くものだ。

米国とEUは、どのようにして標準が地政学的な目的に利用されうるのかに注目している。米国とEUは、中国共産党と親しい企業が国際標準化機構(ISO)や国際電気通信連合(ITU)のような規格設定機関を植民地化してしまったことで、民間企業に標準を設定させるというモデルが地に落ちたという認識を深めている。このような中国の世界における攻撃的な動きを受けて、米国の技術標準担当機関であるNIST(アメリカ国立標準技術研究所)とEU当局との対話が復活した。両者はTTCを利用して、民間企業との連携を含めた標準化戦略を調整したいと考えている。

第二に、新型コロナウイルス感染症による混乱と米中の技術的緊張により、欧州・大西洋の技術サプライチェーンの脆弱性が明らかになった。特に半導体においては、エンティティリストによる制限、チップ王である台湾のTSMCが不安定な状況である影響を受けていた。世界のチップ製造における米国のシェアは、1990年の37%から2020年には12%にまで縮小している。また、EUでは1990年の44%から現在は8%と、さらに劇的に減少している。ワシントンとブリュッセルは、この傾向を変えようと尽力している。米国議会は先に、520億ドル(約5兆9639億円)規模のCHIPS法を可決したが、来るべき欧州半導体法では、930億ユーロ(約1兆2067億円)規模のHorizon Europe基金、EUの7500億ユーロ(約97兆3017億円)規模の新型コロナウイルス感染症復興基金、および各国の半導体産業の協調的な取り組みを活用できる。

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しかし、これまでは産業政策が競合するのではないかという懸念があったかもしれないが、欧州委員会のマルグレーテ・ベスタガー副委員長と米国商務長官のジーナ・レモンド氏は、ピッツバーグで技術面での「補助金競争を避けたい」点を強調した。実際、TTCが「中長期的」に「半導体に関する専用トラック」を設けていることは、ハイエンド半導体の生産における協力という、より野心的な共同アジェンダのための滑走路となる。すべての状況を勘案すると、両当局は調和するべきであり、ピッツバーグの声明では本件が「バランスのとれた、双方にとって同等の関心事」であることが強調されている。欧州最大の未開発地域のプロジェクトである「メガファブ」プロジェクトを核とした欧米のコンソーシアムの実現を想像するのは難しいことではない。

第三に、Huawei(ファーウェイ)の5G機器に対する規制、リトアニアでのXiaomi(シャオミ)の電話検閲機能に関する新たな事実、Tencent(テンセント)のような欧州各地での企業の買い占めなどを受け、双方は重要な技術の海外流出をどのように管理するかを厳しく検討している。輸出規制、FDIの審査、信頼できるベンダーなど、すべての要素が検討されている。これまでEUと米国は、核、化学、生物などの伝統的な分野に加え、サイバー分野でもデュアルユース品(軍事転用可能品)の輸出規制を実施してきた。

しかし最近の発展により、デジタル空間を管理する上で、特に投資審査や信頼できるベンダーについての新たな課題が生まれている。規制当局は、民主的なデータ空間をどのようにして維持し、AI、半導体、5G、ゲーム、AR/VR技術、そしておそらくはデジタルサービスやスマートフォンなどの分野における研究やIPをいかに保護するかについても悩まされている。産業安全保障局(BIS)や対米外国投資委員会(CFIUS)などの米国の機関にとっては、EU加盟国が審査や市場アクセス制限の機能を拡大していく中で、欧州の機関と情報を共有するチャンネルを作ることがますます重要になってくるだろう。

これが成功すれば、TTCは、米国とEUがテクノロジー企業を管理する世界的なルールブックを作成する装置となる可能性がある。近年、EUはデジタル技術の規制を単独で行わざるを得ないと感じ、データ保護、コンテンツの調整、オンラインプラットフォームの市場力などの分野で主導権を握っている。

ワシントンの一部の人々は、米国が意味のある規制を行わない中での欧州の努力を評価しているが(ワシントンは、トランプ政権下では技術外交政策にまったく関与しておらず、オバマ政権下ではビッグテックに捕われていたと認識されている)、このいわゆる「ブリュッセル効果」は、特にデータフローとデジタル独占禁止法の将来に関して緊張を生んでいる。

2020年の裁判所のGDPRに基づく判決により、欧州の個人情報を米国に持ち込むための主要な「パスポート」であるプライバシーシールドが無効になったため、大西洋間の自由なデータの流れは無視されたままだ。反トラストの面では、Meta(Facebook)、Amazon、Google、Appleなどの大手企業が、オンラインプラットフォームの市場支配を規制するEUの法律を緩和させようと激しく争っている。バイデン政権自体は、まだ明確な立場を決めていない。

さらに広く見れば、欧州の多くの人々は、パートナーとしての米国に懐疑的だ。スノーデン事件(欧州の指導者に対するNSAの広範なハッキングを公表した)、トランプ大統領の2016年の選挙、ケンブリッジ・アナリティカ事件、そして最近ではフェイスブック内部文書が、地政学的なものだけでなく、デジタル的なものも含めて、欧州と大西洋の関係を疎遠なものにしている。最近のドイツ外交問題評議会の調査では、クラウドコンピューティングでは92.7%、AIでは79.8%、ハイパフォーマンスコンピューティングでは54.1%のヨーロッパ人が米国企業に過度に依存していると考えていた。欧州関係者の54%は、米中の技術的対立の中で独立性を保ちたいと考えているのに対し、46%は米国に近づきたいと考えていた。

一方で、欧州の二大勢力であるフランスとドイツがTTCに力を貸すのかという問題がある。近年、フランスとドイツが「技術的主権」という考え方を支持していることから、欧州の大国がTTCの成功にどれだけ尽力するのかが疑問視されている。

欧米の関係は、石炭と鉄鋼の産業時代に築かれたものだが、半導体とAIのデジタル時代になった今、TTCは世界中で台頭する技術権威主義に欧州大西洋同盟が立ち向かえるようにするための橋渡し役だ。両者ともそれをわかっている。それが最も悩ましいことなのかもしれない。

編集部注:本稿の執筆者Tyson Barker(タイソン・バーカー)氏はドイツ外交問題評議会(DGAP)のテクノロジー&グローバル・アフェアーズ・プログラムの責任者。以前はAspen Germanyに勤務し、副所長兼フェローとして、同研究所のデジタルおよび大西洋横断プログラムを担当した。それ以前は、米国務省の欧州・ユーラシア局でシニアアドバイザーを務めるなど、数多くの役職を歴任している。

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(文:Tyson Barker、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ファクトチェックのスタートアップをの構築で学んだこと

2016年の米大統領選の余波を受けて、筆者はオンライン上のフェイクニュースの惨害に対処できるプロダクトの開発に着手した。最初の仮説は単純だった。偽の主張や疑わしい主張を自動的にハイライトし、それに対して最高品質のコンテクストに基づく事実を提案する半自動のファクトチェックアルゴリズムを構築する。私たちの論旨は、おそらくユートピア的であるとしても、明確であった。テクノロジーの推進力により、人々が真実、事実、統計、データを求めて意思決定を行うようになれば、誇張ではなく、理性と合理性を備えたオンラインの議論を構築することができるはずだ。

5年にわたる努力の末、Factmata(ファクトマタ)は一定の成功を収めた。しかし、この分野が真に成長するためには、経済面から技術面に至るまで、まだ克服しなければならない多くの障壁がある。

鍵となる課題

私たちはすぐに、自動化されたファクトチェックが極めて難しい研究課題であることを認識した。最初の課題は、チェックする事実そのものを定義することであった。次に、特定の主張の正確性を評価するために、最新の事実データベースをどのように構築し、維持するかについて検討した。例えば、よく使われているWikidata(ウィキデータ)の知識ベースは明らかな選択肢であったが、急速に変化する出来事に関する主張をチェックするには更新が遅すぎる側面がある。

また、営利目的のファクトチェック企業であることが障害になっていることも判明した。ほとんどのジャーナリズムやファクトチェックのネットワークは非営利であり、ソーシャルメディアプラットフォームはバイアスの告発を避けるために非営利団体との連携を好む。

これらの要因の枠を超えたところに、何が「良い」かを評価できるビジネスを構築すること自体が本質的に複雑で微妙であるという問題がある。定義については議論が絶えない。例を挙げると、人々が「フェイクニュース」と呼ぶものがしばしば極端な党派間対立であることが判明し、人々が「偽情報」と称するものが実際には反対意見による見解であったりする。

したがって、ビジネスの観点からは、何を「悪い」(有害、不道徳、脅威的または憎悪的)と判断するかということの方がはるかに容易であると私たちは結論づけた。具体的には「グレーエリア」の有害なテキストを検出することにした。これは、プラットフォームから削除すべきかどうかわからないが、追加のコンテクストが必要なコンテンツだ。これを達成するために、コメント、投稿、ニュース記事の有害性を、党派間対立性、論争性、客観性、憎悪性など15のシグナルのレベルで評価するAPIを構築した。

そして、関連する企業の問題についてオンラインで展開されるすべての主張を追跡することに価値があることを認識した。そのため当社のAPIを超えて、ブランドのプロダクト、政府の方針、新型コロナウイルス感染症のワクチンなど、あらゆるトピックで展開する噂や「ナラティブ」を追跡するSaaSプラットフォームを構築した。

複雑に聞こえるかもしれない。実際にそうだからだ。私たちが学んだ最大の教訓の1つは、この領域において100万ドル(約1億1400万円)のシード資金がいかに少ないかということだった。有効性が確認されたヘイトスピーチや虚偽の主張に関するデータを訓練することは通常のラベリング作業とは異なる。それには、主題に関する専門知識と正確な検討が必要であり、いずれも安価なものではない。

実際、複数のブラウザ拡張機能、ウェブサイトのデモ、データラベリングプラットフォーム、ソーシャルニュースコメントプラットフォーム、AI出力のリアルタイムダッシュボードなど、必要としていたツールを構築することは、複数の新しいスタートアップを同時に構築するようなものだった。

さらに事態を複雑にしていたのは、プロダクトと市場の適合性を見つけるのが非常に困難な道のりだったことだ。長年の構築の後、Factmataはブランドの安全性とブランドの評判にシフトした。当社のテクノロジーは、広告インベントリのクリーンアップに目を向けているオンライン広告プラットフォーム、評判管理と最適化を求めているブランド、コンテンツモデレーションを必要としている小規模プラットフォームに提供されている。このビジネスモデルに到達するまでには長い時間がかかったが、2020年ようやく複数の顧客からトライアルや契約の申し込みが毎月寄せられるようになった。2022年半ばまでに経常収益100万ドルを達成するという目標に向かって前進している。

やるべきこと

私たちが辿った道のりは、メディア領域で社会的にインパクトのあるビジネスを構築する上で、多くの障壁があることを示している。バイラル性と注目度がオンライン広告、検索エンジン、ニュースフィードの指標である限り、変化は難しいだろう。また、小規模な企業では、それを単独で行うことは難しい。規制面と財政面の両方の支援が必要になる。

規制当局は、強力な法律の制定に踏み切る必要がある。Facebook(フェイスブック)とTwitter(ツイッター)は大きな前進を遂げたが、オンライン広告システムは大幅に後れを取っており、新興プラットフォームには異なる形での進化を促すインセンティブがない。今のところ、企業が違法ではない発言をプラットフォームから排除するようなインセンティブはない。評判上のダメージやユーザーの離脱を恐れるだけでは十分ではないのだ。言論の自由を最も熱心に支持する向きでさえ、筆者も同様であるが、金銭的なインセンティブや禁止を設ける必要性を認識している。そうすることで、プラットフォームは実際に行動を起こし、有害なコンテンツを減らし、エコシステムの健全性を促進するためにお金を使い始めるようになるだろう。

代替案にはどのようなものがあるだろうか?悪質なコンテンツは常に存在するが、より良質なコンテンツを促進するシステムを作り出すことは可能である。

欠点はあるかもしれないが、大きな役割が期待できるのはアルゴリズムだ。オンラインコンテンツの「善良さ」すなわち品質を自動的に評価するポテンシャルを有している。こうした「品質スコア」は、広告ベースとはまったく異なる、社会に有益なコンテンツのプロモーション(およびその支払い)を行う新しいソーシャルメディアプラットフォームを生み出すための基盤となる可能性を秘めている。

問題のスコープを考えると、これらの新しいスコアリングアルゴリズムを構築するには膨大なリソースが必要だ。最も革新的なスタートアップでさえ、数億ドル(数百億円)とは言わないまでも、数千万ドル(数十億円)の資金調達がなければ厳しいだろう。複数の企業や非営利団体が参加して、ユーザーのニュースフィードに埋め込むことのできる多様なバージョンを提供する必要がある。

政府が支援できる方法はいくつかある。まず「品質」に関するルールを定義する必要があるだろう。この問題を解決しようとしている企業が、独自の方針を打ち出すことは期待できない。

また政府も資金を提供すべきである。政府が資金援助をすることで、これらの企業は達成すべき目標が骨抜きにされるのを回避できる。さらに、企業が自社のテクノロジーを世間の目に触れやすいものにするよう促し、欠陥やバイアスに関する透明性を生み出すことにもつながる。これらのテクノロジーは、無料で利用可能な形で一般向けにリリースされるよう奨励され、最終的には公共の利益のために提供される可能性もある。

最後に、私たちは新興テクノロジーを取り入れていく必要がある。コンテンツモデレーションを効果的かつ持続的に行うために必要な深層テクノロジーに真剣に投資するという点で、プラットフォームは積極的な歩みを見せてきた。広告業界も、4年が経過した頃から、FactmataやGlobal Disinformation Index(グローバル・ディスインフォメーション・インデックス)、Newsguard(ニュースガード)などの新しいブランド安全アルゴリズムの採用を進めている。

当初は懐疑的であったが、筆者は暗号資産とトークンの経済学のポテンシャルについても楽観的に見ている。資金調達の新たな方法を提示し、質の高いファクトチェック型メディアの普及、大規模な配信に貢献することが考えられる。例えば、トークン化されたシステムの「エキスパート」により、ラベリングに多額の先行投資を必要とする企業の手を借りることなく、主張をファクトチェックし、AIコンテンツモデレーションシステムのデータラベリングを効率的に拡張することが可能になるかもしれない。

ファクトベースの世界の技術的な構成要素として、Factmataに掲げた当初のビジョンが実現するかどうかはわからない。しかし、私たちがそれに挑戦したことを誇りに思うとともに、現在進行中の誤報や偽情報との戦いにおいて、他の人々がより健全な方向性を示すことに、私たちの経験が役立つことを期待している。

編集部注:本稿の執筆者Dhruv Ghulati(ドルヴ・グラティ)氏は、オンラインの誤情報に取り組む最初のグローバルスタートアップの1つFactmataの創設者で、自動ファクトチェックを研究する最初の機械学習科学者の1人。London School of EconomicsとUniversity College Londonで経済学とコンピューターサイエンスの学位を取得している。

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(文:Dhruv Ghulati、翻訳:Dragonfly)

【コラム】欧州は独禁法と競争政策で中国の反競争的行為に対応すべき

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

欧州はプライバシー、データ保護、特に競争において主導的な役割を果たし、テック大手の規制で高い評価を得ている。現在、大規模なオンライン「ゲートキーパー」を明確にする基準を導入する新しい独占禁止法が欧州議会を通過中だ。しかし、デジタル市場法(DMA)は多くの米テック企業を標的にすることが予想される一方で、戦略的にDMAを、そして欧州の反トラスト・競争政策全体を使用すれば、中国と競争するためのツールにもなり得る。

ここ数年、欧州は自らのテクノロジーのリーダーシップに対する中国の挑戦に徐々に目覚めてきた。多くの欧州人は、米国の脅威に対する認識を徐々に収束させつつあるが、欧州には中国の大手企業から発せられる挑戦に対処する手段も政治的意志もまだ欠けている。

中国に対する欧米の政策対応は一致させるべきだが、同じである必要はない。米国と欧州はそれぞれの強みとツールボックスを活用して、テック分野における中国の市場歪曲行為に対抗すべきだ。そして欧州はDMAを始め、中国に対抗するために競争政策の策定と実施という比較優位を生かすべきだ。

中国のテック大手は、世界のテクノロジーエコシステムの規模と支配をめぐって競争している。中国共産党(CCP)は、中国の最大手テック企業が市場を支配することを目標に掲げている。この目標を達成するために、中国共産党は自国企業の市場地位を向上させるために反競争的な行為を行っている。国家補助金に加え、中国共産党はしばしば、市場地位を向上させるために企業に心付けを提供する。

5Gが良い例だ。中国政府は5Gの覇者Huawei(ファーウェイ)に対し、減税、資源の割引、融資支援などを通じて750億ドル(約8兆6250億円)サポートした。一方、こうした中国の国内市場によって、Huaweiを含む国家が支援する有力企業が中国国内での非常に少ない競争と高い市場シェアを活用し、第三国での価格の何分の一かでサービスを提供することが可能になっている。このような現実に直面し、欧州の5Gテック主要メーカーであるNokia(ノキア)とEricsson(エリクソン)は以前、自国市場でHuaweiと競争するのに苦労していた。中国の国内経済政策はこのように世界的な影響を及ぼす。

欧州各国は2020年に、中国の欧州での事業増強に対抗するため、投資審査機構を設立した。しかし、まだやるべきことは残っている。加盟27カ国のうち、投資審査機構を設立したのは18カ国にすぎないが、さらに6カ国が準備中だ。また、この機構の有効性に疑問を呈する理由もある。欧州委員会が審査した265件のプロジェクトのうち、阻止されたのは8件にすぎない。審査したプロジェクトのうち、中国のプロジェクトはわずか8%だった。また、機構は反競争的行為にはっきりと取り組んでいるわけでもない。

それが変わり始めている。2021年5月、欧州委員会は域内市場を歪める外国補助金に関する規則を提案した。この規則では、外国補助金に関わるEU外の政府による資金拠出を調査し、停止させる可能性のあるツールを盛り込んでいる。しかし、欧州の初期の取り組みは心強いものではあるが、中国企業の市場での地位や中国政府の歪んだ政策に対処するには十分ではない。

とはいえ、欧州は規制の勢いを利用するのに適した立場にある。中国の多面的な戦略を考えると、欧州は補助金以上のものを考えなければならない。中国のテック大手と効果的に競争し、中国企業の不公正な市場地位に対処するために、欧州はデジタル市場法(DMA)を調整するなどして、反競争的行為を行う中国企業を対象とする反トラスト規制を利用する必要がある。投資審査と反トラスト政策を組み合わせることで、欧州委員会は中国の反競争的行為に対処するための十分な手段を得ることができる。

中国の反競争的行為に独禁法政策で対抗することは、欧州のツールキットの論理的な拡張だ。米国は伝統的に消費者福祉というレンズを通して独禁法政策を見るが、欧州はしばしば市場競争というレンズを通して独禁法政策を見る。さらに、欧州では、中国企業を国家安全保障や反中国の枠組みで見ることを嫌う傾向がある。投資審査機構が国家安全保障を重視しているのに対し、欧州では市場競争を確保するために独占禁止法や競争政策が追求される。このような枠組みがあるため、独禁法政策を通じて中国の反競争的慣行に対処することは、欧州にとって自然なことだ。実際、欧州議会の議員は12月19日の週に、DMAを中国のAlibaba(アリババ)に拡大適用すべきだと主張した

このような動きは、反トラスト法施行に関して、反米的な偏見があると思われていることを是正することにもなる。欧州委員会の担当者は、中国企業はDMAの対象となるほどビジネスを欧州で行っていない、と主張している。しかし、そのようなやり方では、欧州の規制当局が対象とするのはほとんど米国企業だけということになる。しかし、地政学的なレンズを通して見ると、中国が支援するテック企業は欧州のイノベーションのエコシステムにとって、米国のテック企業よりも大きな脅威となる。このことは、米国における争点であり続け、欧州との関係を弱める恐れがある。

欧州は、テック問題における米国の反中国的枠組みにしばしば苛立っているが、欧州が望ましいとする問題のフレーミングである、民主化を肯定する課題を前進させるには、米国と欧州がそれぞれのイノベーション・エコシステムを強化することが必要だ。デジタル市場法で米企業のみを対象とすることは、潜在的な大西洋横断協力に支障をきたし、欧米の肯定的議題を阻害する恐れがある。

デジタル市場法は、米テック企業の責任を追及する上では間違っていないが、欧州にとっては、独禁法と競争政策を利用して、欧州の認識と強みに合った中国の課題へのアプローチを再調整する機会だ。欧州は、中国の市場を歪める行為に対処し、中国の反競争的行為を押し返すためのツールボックスに別のツールを加えるこの機会を逃すべきではない。

編集部注:本稿の執筆者Carisa Nietsche(カリサ・ニーチェ)氏は新アメリカ安全保障センターの大西洋横断セキュリティプログラムのアソシエイトフェロー。

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(文:Carisa Nietsche、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】米国は対中国競争でも「スプートニク・ショック」が起こせるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

1957年10月4日、旧ソビエト連邦がカザフスタンの草原から世界初の人工衛星を宇宙に打ち上げ、宇宙時代の幕が開けた。ビーチボールほどの大きさの、小さなアルミニウムの球体であるスプートニク1号の打ち上げは、米国にとって変革の瞬間となった。それは、米ソの宇宙開発競争の引き金となり、新しい政府機関を生む推進力となり、連邦政府の研究開発費とSTEM(科学・技術・工学・数学)教育に向ける財政的支援を大幅に増やすきっかけとなった

スプートニクが刺激を与える力となった。米国の科学技術基盤の革新に必要だった、衝撃と勢いをもたらしたのだ。近年、政府高官や議員らは、新たな「スプートニク・モーメント」(米国が技術的に他国に追い抜かれる瞬間・衝撃)を求めている。彼らは、経済面と技術面で中国に対抗するにはどうすべきかを考えている。スプートニク・モーメントはまだ訪れていないが、ワシントンでは、米国が中国に遅れをとっている、あるいは遅れをとる危険性があるとの認識が広がっている。

米中間の競争は多くの点で新しいものだが、だからといって米国の対抗手段も斬新でなければならないというわけではない。米国のイノベーションの推進者としての比類なき役割を取り戻すために、米政府はスプートニク後と同じように奮起しなければならない。中国との競争において成功を収めるために、米国の優れた才能、制度、研究開発資源を動員するのだ。

まず、約60年前のことを振り返ることが重要だ。スプートニク打ち上げ後の数カ月の間に、米政府は2つの新しい機関を設立した。1958年7月、議会は国家航空宇宙法を可決し、NASA(米航空宇宙局)を創設するとともに、国の宇宙開発計画にシビリアンコントロール(文民統制)を敷いた。NASAの主な目的は、人類を月に着陸させることだった。そのために多くの資金が注ぎ込まれた。NASAの予算は1961年から1964年の間にほぼ500%増加し、ピーク時には連邦政府支出のほぼ4.5%を占めた。NASAは米国人を月に連れて行き、また、商業的に広く応用されることになった重要技術の開発に貢献した。

さらに連邦政府は、高等研究計画局(現在の国防高等研究計画局、DARPA)を設立した。将来、技術面でのサプライズを防ぐことが使命だった。そこでの研究開発がGPS、音声認識、そして最も重要なインターネットの基礎的要素など、米国の経済競争力にとって不可欠なさまざまな技術に寄与した。

スプートニクの打ち上げは、1958年の国防教育法(NDEA)成立の動機にもなった。NDEAは、STEM教育と外国語教育に連邦政府の財源を充当し、国内初の連邦学生ローン制度を確立した。NDEAは、教育の振興を国防のニーズと明確に結びつけた。教育を米国の国家安全保障に不可欠な要素だと認めたのだ。

スプートニクは、連邦政府の研究開発費の大幅増加に拍車をかけ、今日の強力なテック企業やスタートアップのコミュニティ形成に貢献した。1960年代までに、連邦政府は米国の研究開発費の70%近くを負担するようになった。これは世界の他の国々を合わせた額よりも多い。しかし、それ以降の数十年間、政府の研究開発投資は減少した。冷戦が終結し、民間企業の研究開発支出増加に伴い、連邦政府の研究開発費の対GDP比は1972年の約1.2%から2018年には約0.7%に低下した

政策立案者は、米国が中国に対して技術的、経済的、軍事的にどう対抗すべきかを審議する際、スプートニク・モーメントで学んだ教訓を心に留めるべきだ。

第一に、スプートニクは新しい制度の創設と、研究開発支出・教育支出の増加を促す政治的資本を提供したが、こうした取り組みの多くはすでに土台ができ上がっていた。NASAは、その前身である全米航空諮問委員会の仕事を引き継いだ。NDEAの条項の多くは、以前から準備が進められていた。スプートニクは衝撃をもたらし、急を要したが、仕事の大部分とその勢いは、すでに始まっていた。米政府は今、科学技術基盤への持続的な投資に注力すべきだ。そうした投資により、米国が将来どのような課題に直面したとしても揺るがない、イノベーションの強固な基盤が確保される。

第二に、連邦政府は、技術投資を導く明確な国家目標を設定し、優先事項に貢献するよう国民を動機づけるべきだ。ケネディ大統領による月面着陸の呼びかけは、あいまいさがなく、感動的だった。そして研究開発投資の方向性を示した。政策立案者は、重要性が高いテクノロジーセクターに対し、測定可能な指標をともなう具体的な目標を設定しなければならない。その上で、そうした目標が米国の国家安全保障と経済成長をどう支えるのかを説明する必要がある。

最後に、政府の研究開発投資は目覚しい技術進歩の創出に貢献したが、その支出を配分・監督するアプローチも同様に重要だった。Margaret O’Mara(マーガレット・オマラ)氏が著書「The Code:Silicon Valley and the Remaking of America(コード:シリコンバレーとアメリカの作り直し、邦訳未刊)」で説明しているように、連邦政府の資金は「間接的」かつ「競争的」に流れ、テックコミュニティに「未来の姿を定義する驚くべき自由」を与え「技術的可能性の境界を押し広げた」。米政府は、その投資により技術競争力を強化するよう、再び注意を払わなければならない。投資が、広範で非効率な産業政策だと思われるものに変質させてはならない。

「スプートニク・モーメント」という言葉が、政府の行動や国民の関与を促そうと、しばしば引用される。実際、スプートニク後に取られた対応は、米政府のアプローチを1つにまとめ、明確な目的の下に推進した場合、何が達成できるかを示した。だが、米国のイノベーションの基盤が、その時ほどまでに改善したことはほとんどない。米政府はスプートニク後、人材、インフラ、資源に投資して、科学技術基盤を再活性化させた。それが最終的に米国の技術的覇権を確立した。今日の新しい「スプートニクの精神」は、将来にわたり米国の技術競争力を高める原動力となり得る。事は一刻を争う。

編集部注:寄稿者Megan Lamberth(ミーガン・ランバース)氏はCenter for a New American Security(CNAS)のテクノロジー・ナショナルセキュリティプログラムのアソシエイトフェロー。CNASのレポート「Taking the Helm:A National Technology Strategy to Meet the China Challenge(舵を切る:中国の挑戦に対抗する国家技術戦略)」の共著者

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Megan Lamberth、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】プーチンと習近平の進化した偽情報の手法は新たな脅威をもたらす

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

情報領域が国家間の競争においてますます活発で重要なものとなる中、2つの国が全面的に乗り出している。中国とロシアは、地政学的な利益を促進するために洗練された情報戦略を展開しており、その手法は進化している。ロシア政府はもはや、極論を展開するコンテンツを大量に生成するプロキシトロールファームに依存するのではなく、軍事インテリジェンス資産を利用して、プラットフォーム検知メカニズムを回避するために、よりターゲットを絞った情報活動を行うようになっている。また、世界で500万人超の命を奪ったパンデミックの責任を取らされるのではないかという懸念から、中国政府は「戦狼外交を使ってネット上で陰謀論を展開し、リスクをかなり回避するようになっている。自由で開かれたインターネットというビジョンを維持するために、米国は反撃のための戦略を練らなければならない。

ロシアの情報操作の手口は進化している

多くの指標から見て衰退しつつあるロシアは、短期的には近隣諸国や地政学的競争相手の機関、同盟、国内政治を混乱させることによって、非対称的手段でその相対的な弱さを補おうとしている。ロシア政府は、自らの活動を世間に知られることで失うものは少なく、得るもの方が多いため、その帰属に特に敏感でもなければ、反動も気にしていない。そして大西洋共同体を混乱させ、分裂させ、自国の利益を損ないかねない外交政策を自信を持って協調して実行できないようにするために、ロシアは偽情報を使って混乱をあおり、無秩序を助長している。

これを達成するために、ロシアは2016年の米大統領選挙を妨害するための「広範かつ組織的な」キャンペーン以来、その手法の成熟を示す少なくとも2つのテクニックを使用している。第一に、情報操作を本物の運動と見せるために、ターゲットとする社会の声や制度を定期的に活用しており、しばしばターゲット人口内にトロールを隠したり、ローカル市民のソーシャルメディアアカウントを借りたり抗議行動をあおる本物の活動家を採用したりしている。これは、ますます洗練されているプラットフォーム検知の仕組みを回避するためでもあり、米国内でコンテンツモデレーションの議論が政治化するのを悪化させるためでもある。

第二に、ロシアの偽情報屋は、自分たちや他者が持つ印象を作り出すために大規模な活動を継続する必要はなく、その印象だけで選挙結果の正当性に対する疑念を生み、党派間の不和を悪化させるのに十分であることを認識している。このようにロシアは、特に選挙という場面において、不正操作の可能性に対する広範な懸念を利用し、たとえ不正操作が成功しなくても、不正操作が行われたと主張することで、目的を達成することができる。

中国はロシアを見習い、策を弄している

一方、中国は新興国であり、干渉活動を世間に知られることで得るものは少なく、失うものは大きい。ロシアとは異なり、安定した国際秩序を望んでいるが、米国が主導する現在の枠組みよりも自国の利益に資する秩序を望んでいる。その結果、情報領域における中国の活動は、責任あるグローバル大国としての中国のイメージを高め、その威信を傷つけるような批判を封じ込めることを主目的としており、米国とそのパートナー国を無能で偽善者と決めつけることで民主主義の魅力に水を差している。

中国にとって、こうした利益を追求するためには、他の強者のプロパガンダ・ネットワークに便乗し、民衆の支持を取り繕い、自国の人権記録に関する会話を取り込むという3本柱の戦略が必要だ。中国は独自のインフルエンサー・ネットワークを持たないため、ロシアのプロパガンダでおなじみのオルタナティブな思想家たち(その多くは西洋人)に定期的に頼っている。北京が国内で禁止しているプラットフォームで中国寄りの立場を支持させることの難しさを強調し、中国の狼戦士外交官はTwitterで定期的に偽の人物と関わりを持っている。また、中国の人権記録に対する批判を跳ね返すために、ハッシュタグキャンペーンや巧妙なビデオを使って、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の扱いに関する議論を取り込もうとしている。

独裁者たちの連携、ただし時々

長期的な目標には大きな違いがあるものの、ロシアと中国は、民主主義の世界的な威信を損ない、多国間機関を弱め、民主的な同盟関係を弱めるという、複数の直接的な目標を共有している。その結果、両国はいくつかの同じ戦術を展開する。

ロシア、中国とも、特に人種問題において、米国を偽善者と見なす「whataboutism」を用いている。Twitterで多くのフォロワーを獲得するためにクリックベイトコンテンツを利用し、聴衆が戦略的資産であることを認識している。しかしロシアと中国は、政治的な出来事に関する公式発表を疑い、自分たちの活動に対する非難から逃れ、客観的な現実など存在しないという印象を与えるために、複数の、しばしば矛盾する陰謀説を定期的に流している。2国とも、自分たちの好む物語を広めるために大規模なプロパガンダ組織を運営している。

また、同じような物語を数多く展開している。ロシアも中国も、ある種の西側の新型コロナウイルスワクチンの安全性に関する記録に対する信頼を低下させ、米国とその同盟国のワクチンを効果のないものとして描写するよう働きかけている。とはいえ、ロシアは主に分極化を深め、制度やエリートに対する信頼を低下させるような分裂的なコンテンツを押し出すことに注力しており、同時に既存のメディアにおける反ロシア的な偏向とみなされるものを押し退けている。一方、中国は自国の統治モデルの利点強調することに主眼を置き、自国の権利侵害に対する批判を偽善と決めつけている。ロシアの国営メディアは、ロシアの国内政治をほとんど取り上げない。ロシア政府の目標は、視聴者をロシアに引き寄せるのではなく、政治的な西側から遠ざけることだ。中国は、その逆だ。

米国との競争において、ロシアと中国がさまざまな領域で協力関係にあることはよく知られている。その証拠に、両国の情報活動には、互いのコンテンツを配信するという極めて象徴的な合意以上の正式な連携はほとんど見られない。これはまったく驚くべきことではない。中国は、ロシアが宣伝するシナリオを増幅させたり、ロシアの情報戦略の他の成功要素を模倣したりするために、ロシアと正式に協力する必要はない。

今後の展開

ロシアと中国の情報戦略はともに進化している。ロシアの偽情報活動は標的が絞られ、発見が難しくなっている。一方、中国は以前よりも主張が強く、繊細さに欠けるアプローチを取っている。ロシアにとって、こうした変化は、2016年以降、その活動に対する認識が高まっていることが背景にあるようで、同時に新しいプラットフォーム政策と検出メカニズムの導入を促し、選挙の正当性をめぐる党派的な議論が今日まで響いている時代を迎えた。中国にとって、情報戦略への変更は、主に新型コロナのパンデミックという、地政学的な点で独特の重要性を持つ世界的危機によって動機づけられているようで、中国にとって新しいアプローチを試す機会を作り続けることになる。

ロシアと中国の情報領域への取り組み方に対するこうした重大な変化を認識した上で、米国は独自の手法を必要としている。強固な戦略には、抑圧的な支配の失敗を強調するために真実の情報を活用すること、不安定な偽情報キャンペーンを行う者を阻止したりコストを課すために米国のサイバー能力を展開すること、プラットフォームの透明性、特に信頼できる研究者を規範とするような法律を実施することが含まれる。最後に、情報の自由は民主主義社会にとって有益であり、権威主義的な競争相手に課題を与えるものであるため、米国は世界中で情報の自由をより強力に擁護する必要がある。

民主主義社会と権威主義社会との間の結果として起こる事においては、独裁者が主導権を握っている。この措置は、米国がそれを取り戻すことを確実にするための大胆で責任ある行動の出発点となるものだ。成功させるために、米国とその民主的パートナーは迅速に行動しなければならない。

編集部注:寄稿者Jessica Brandt(ジェシカ・ブラント)氏はAI and Emerging Technology Initiativeの政策担当ディレクターで、ブルッキングズ研究所の外交政策プログラムのフェロー。

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(文:Jessica Brandt、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】VCは気候変動との戦いで極めて重要な役割を果たすが、すべてを行うことはできない

TechCrunch Global Affairs Projectでは、ますます関係が複雑化しているテック業界と世界政治の関係を検証する。

先にグラスゴーで行われたCOP26は、大惨事を食い止めるだけでなく、気候変動との戦いで民間セクターが果たす役割の重要性を明確にした。メタン排出対策とすり減った経済協力の再燃などいくつか注目すべき政治的成果があったものの、最も期待されていたのは民間セクターの新たな関与だ。

去る2006年、アル・ゴア氏の映画「不都合な真実」は、250億ドル(約2兆8410億円)のベンチャー投資をクリーンテックのために引き出すきっかけとなり、ソーラーとエタノール分野がその中心だった。投資家たちの楽観をよそに、投資のほとんどは数年後に燃え尽き、その結果ベンチャー投資家の多くがその後10年間の大半でクリーンテック分野を回避した。

最初のクリーンテックブームで成功したおかけで、我々はごく自然に、革新的クリーンテックソリューションへの資金提供と規模拡大におけるVCの役割に関して楽観的でいる。COP26が終わり、気候変動に取り組むためのクリーンテックの迅速な導入に世界が依存する今、我々はVCのさらなる可能性だけでなく、その限界も理解する必要がある。

VCの強み

最もうまく行った場合、このベンチャーモデルは若い企業がリスクを負って早期テクノロジーに取り組み、大企業にできないイノベーションを追求することを可能にする。直感に反するかもしれないが、ベンチャーの支援を受けたスタートアップは、パフォーマンスの高いファウンダーと組織が魔法を生み出すだけことに加えて、ずっと大きく資産も豊富な大企業よりも多額の資金を費やすことがよくある。

Tesla(テスラ)はアーリーステージのスタートアップだった10年間、電気自動車(EV)の技術、設計、生産においてVW(フォルクスワーゲン)、Ford(フォード)をはじめとする大手自動車企業より多くの資金を費やし出し抜いた。同様に、スタートアップのJoby Aviation(ジョビーアビエーション)とLilium(リリウム)は、Boeing(ボーイング)とAirbus(エアバス)を電動垂直離着陸機(eVTOL)でを引き離して、QuantumScape(カンタムスケープ)は次世代全固体電池の先頭を走っている。

任期の短さ故に、大企業のCEOは絶え間ない成長やコスト削減その他の「市場主導」の必須要因に集中し、破壊的イノベーションの開発と商業化に必要なリスクを消化することができない。歴史は革新に関する鮮明な教訓で埋め尽くされているが、今も大企業のCEOはリードできていない。その結果、我々は時間軸が長く高リスクでリーダーのいない、VC独自のチャンスを提供する分野を探し続けている。顕著な例を挙げると、Teslaから20年後の今も、輸送分野の電動化にまだチャンスがある。例えば、EV革命が起きている今、EVとバッテリーのリサイクルは持続的成長のために不可欠になりつつある。バッテリーをリサイクルするこの生まれたばかりの分野でトップを占めるのはここでもスタートアップのRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)だ。

ベンチャー投資家は、気候に優しい革新を多くの伝統的産業で推し進めることができる。例えば化学と製造業を見てみよう。これらや他の重工業分野の既存企業は、行動が遅く、カルチャー的に革新への対応能力に欠けている。対してVCマネーは、適応さぜるをえないテクノロジーの開発を支援する。たとえば再生可能エネルギーを使って水から水素を、空気から炭素を分離して持続的に炭化水素を調達し、これらの元素を組み合わせることによって、これまで石炭、石油、ガスから作られていたあらゆる化学薬品を作ることができる。Electric Hydrogen(エレクトリック・ハイドロジェン)やTwelve(トゥウェルブ)などの若い会社はまさしくそれをやっている。

ベンチャー投資家は、核融合エネルギーなどの実験的技術への資金提供でも有利な位置にいる。政府以外で、事実上この分野にいる伝統的企業はなく、成功を掴もうとする大胆な参入企業がない中、この分野はスタートアップに頼っている。2021年、Helion Energy(ヘリオン・エナジー)とCommonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ)など、いくつかのスタートアップが5億ドル以上の投資資本を獲得した。

VCはすべてを解決できない

影響を与える能力に関する私の楽観に関わらず、テクノロジーは、そしてもちろんベンチャー投資は、気候変動に取り組むパズルの1ピースにすぎないことを我々は忘れてはならない。執拗に進む気候変動と戦うために、我々はクリーンテックソリューションを著しく速くスケーリングしなくてはならない。そしてVCは、その重要な挑戦に関わるセクターとして十分に組織化されていない。

まず、低リスクですでに確立されているソーラー、風力、ストレージなどのテクノロジーを、通貨が弱く、ほとんど自由な米国と比べて高い金融コストの国々へ送り込むために、今のVCと比較にならないほど膨大な資金が必要だ。我々の推計によると、30兆ドル(約3409兆2000億円)以上、すなわち現在世界で投資可能な全資金の10%以上が、次の10年に投資される必要があり、リターンは数パーセント程度だ。さもなければ、容赦ない気候変動の波と戦える速さでクリーンなインフラストラクチャーを拡大することはできない。

幸い、現在巨額の資金が再生可能エネルギー投資以下のリターン率で債券に停滞している。向こう10年の課題の1つは、金融市場のその他のセクターに対して、特に新興市場で需要が急増している電力、輸送、材料、食糧などの分野に資産を再配分するインセンティブを与えることだ。高リターンと不釣り合いなスケールの資金が求められるVCは、この巨額にほとんど関与しないだろうが、中枢となるインフラストラクチャーとチャンスに関わっていく。

多くの人々が、この問題を回避する方法として「インパクト投資」を挙げる。そしてそれは正しい。ベンチャー投資の早い時期、我々は新しいスタートアップが資金を手にする唯一の方法であることがよくあり、それに乗じて高いリターンを要求した。自分たちの金銭的インセンティブを犠牲にすることなく、高インパクトなプロジェクトに投資することができたからだ。

しかし、クリーンテックの機会を追求する多くの新ファンドが参入するにつれ、インパクトとリターンのバランスを取ることが難しくなってきた。我々は高リターンと高インパクトの不一致の可能性を認識する必要があり、現在のVCは高いコストと資金を正当化する特異な価値を付加した上で、セクター内の大きな熱狂の中で規律を保たなくてはならない。「ホットな」機会を追求し、より主流のテクノロジーの増殖に焦点をシフトしたい誘惑は非常に大きい。私の見るところ、クリーンテックは今も技術革新のブレークスルーの機が熟しているので、最高の最も影響力のあるVCたちは逆張り哲学を維持して、不人気でアーリーステージで資金を集めるすべが他にない分野に焦点を当てていくだろう。

第2に、政府介入の重要性は無視できない。エネルギーその他の工業分野を汚れた化石ベースのシステムから他へ転換させるために、市場の圧力だけでは十分ではない。株主の要求による実質ゼロ誓約と結果に対する説明責任改善の約束にも関わらず、政府の命令はこのプロセスのスピードアップを要求し続ける可能性が高い。

最後に、慈善活動が重要な役割を担う。私は、非営利団体のMethaneSAT(メタンサット)設立に協力したことが大きな誇りだ。世界の石油、ガス利用から排出されるメタンを衛星画像で監視する組織だ。その影響が明らかであるにもかかわらず、オープンで客観的なポリシー執行という同組織の役割は、営利活動とは合致しにくい。他にも資金を提供し、追求すべき重要な非営利介入が数多くある。

クリーンテックで最も象徴的で需要な企業やテクノロジーのいくつかを初期段階から支援してきたことは大変光栄だ。しかし、これらのテクノロジーとその周辺のスタートアップを活用することは、気候変動に対する我々の戦いの一材料にすぎない。新技術に関する熱狂が、近い将来必要となる歴史的インフラストラクチャー事業から、我々の注意をそらすことがあってはならない。世界の金融資本のかなりの部分がこの分野に注意を向ける必要がある。そして資産、社会、政治、慈善事業といった別の形の資産もまた、今後の世代のより安定した未来を確保するためには供出される必要がある。

編集部注:本稿の著者、Ion Yadigaroglu(アイオン・ヤディガログル)氏は,Capricorn Investment Groupのパートナー兼CapricornのTechnology Impact Fundのゼネラルパートナー。同氏はTesla、SpaceX、Planet、Saildrone、QuantumScape、Joby Aviation、Hellon Energy、Twelve、electric Hydrogen、Redwood Materials、他著名なディープテック企業の早期出資者である。現在非営利団体、Ceresの役員およびMethanSATの技術顧問を務めている。

画像クレジット:Iván Jesús Cruz Civieta / Getty Images

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(文:Ion Yadigaroglu、翻訳:Nob Takahashi / facebook