IPO果たしたChatwork、スペースマーケットの組織づくりと採用:TC School #17レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第17回が1月23日、開催された。スタートアップのチームビルディングを一連のテーマとして展開する今シーズンの4回目、最終回となるイベントでは「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(キーノート講演のレポートはこちら)。千葉道場ファンドで取締役パートナーを務める石井貴基氏は、キーノートに続いてパネルディスカッションにも登壇。Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏、スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者の佐々木正将氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏を加えて、IPO前後の社内組織づくりや人材採用などについて聞いた。

Chatwork、スペースマーケットの設立からIPOまでの軌跡

まずは登壇者それぞれの自己紹介と、各社事業の簡単な紹介があった(石井氏の紹介については、キーノート講演レポートをご覧いただきたい)。

トップバッターは、Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏。Chatworkは2000年、大学在学中に兄の山本敏行氏と正喜氏が兄弟で創業した企業で、実は20年事業を続けている。創業当時は兄・敏行氏がCEOで、正喜氏はCTOだった。

設立から11年目に、ビジネスコミュニケーションツールの「Chatwork」を正喜氏が中心となってリリースし、プロダクトの成長に合わせて社名も変更。2018年に正喜氏がCEO兼CTOに就き、2019年9月に東証マザーズへの上場を果たした。

2019年12月末時点での従業員数は106名。大阪本社、東京オフィスのほかにベトナム、台湾に拠点を置くChatwork。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げる同社は、Chatwork以外にも、セキュリティソリューションのESETを扱っている。

「我々はChatwork以前から行っていたセキュリティ事業で収益を上げて、そこからChatworkへ投資していたので、外部から資金調達を行ったのは、結構後になってからのことだった」(山本氏)

代表取締役CEO兼CTO 山本正喜氏

Chatworkは2011年、国内ビジネスチャットプロダクトのパイオニアとして誕生した。電話やメールに代わるビジネスコミュニケーションツールとして、グループチャットのほか、タスク管理、ファイル共有、ビデオ・音声通話といった機能を提供。ビジネスチャットツールとしての利用者数は国内ナンバーワン、導入社数は24万6千社以上(2019年12月末日現在)に到達している。

IPOまでの売上の軌跡も紹介してくれた山本氏。設立から10年で既存事業が踊り場に来たときに、新たに投入されたプロダクトがChatworkで、「しばらくは苦しい時期が続いたが、2015年のシリーズAラウンドで資金調達を行い、そこからぐっと売上が伸びた」と説明する。設立以来の売上の比率は、集客支援(SEO関連)、ESET事業と移り変わり、長く会社を支えてきたが「いつまでも他社製品に頼っていてはいけない。自社製品をつくろう」として開発されたChatworkが、現在は売上の中心となっているそうだ。

続いては、2019年12月20日に東証マザーズへの上場を果たしたばかりのスペースマーケット佐々木氏からの自己紹介・事業紹介だ。佐々木氏は、スペースマーケットでCFOとしてファイナンスを担当しながら、人事責任者を兼任する。2017年にベンチャーキャピタルからの紹介で代表取締役CEOの重松大輔氏と出会い、ジョインした。入社後はコーポレートの組織構築、上場準備開始から着手し、ファイナンス、組織、経営管理を主に担当している。

スペースマーケットは、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできる、スペースシェアリングのプラットフォームを運営するスタートアップだ。「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」をビジョンに掲げ、「世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを創る」ことをミッションに、2014年、代表取締役CEOの重松大輔氏が創業した。現在は約50人の従業員を擁し、1万2000件以上のスペースをサイトに掲載する。

スペースを借りたいゲストと貸したいホストをマッチングし、ゲスト手数料を5%、ホスト手数料を30%として、双方から手数料を得るビジネスモデルを採るスペースマーケット。現在は「全国47都道府県にある、種類もさまざまなスペースを掲載している」と佐々木氏は説明する。

「家を一軒貸すケースもあれば、部屋を一部屋、使っていない時間帯だけ貸すケースもある。住居だけでなく、オフィスの空き会議室や、空き時間の飲食店、スポーツ施設などもある。スペースマーケットで特徴的なスペースとしては廃校や、お寺といったものも提供されている」(佐々木氏)

スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者 佐々木正将氏

利用用途として多いのは、パーティーなどの会合で使われるケースだそうだ。会議や撮影などにも使われるほか、ボードゲームの集まりで使われることも。「実現している世界としては、ママ会などが有用に使われる例となっている。子ども連れでも安心・安全に、レストランなどと違って気を遣わずに使える場として活用されている」(佐々木氏)

貸す側のニーズとしては「古民家で、全く使っておらず、維持費はかかるが壊すのはもったいないので、誰かに使ってほしい」という事例や、「取り壊し予定のビルで新たな賃貸契約は結べないが、壊すまでの間は時間貸ししたい」といった事例があるという。「少子高齢化で浮上している空き家問題解決の対策にも貢献できるのではないか」と佐々木氏は言う。

事業は2019年9月(2019年度3Q)時点でGMV(流通取引総額)が16億円規模まで伸張。GMVを因数分解し、「利用されているスペース数」と「スペース当たりの平均利用金額」も主要KPIとしているそうだ。全社総取扱高・営業損益については、「数値・コストを厳しく管理して、3Q時点で黒字転換。黒字でIPOを果たせるよう進めてきた」と佐々木氏は述べている。

佐々木氏は「今後、広告媒体としてのスペース活用により、法人向けイベントプロデュースやプロモーション支援なども強化していきたい」と話している。

シェアリングエコノミー業界に属する企業として、スペースマーケットには「業界全体の発展推進にも貢献したい」という意向もあり、代表の重松氏は、シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事も務める。「スペースマーケットではこれからも、新たなスペース利用の可能性を創造し、スペースシェアのモデルを確立していきたいと考えている」(佐々木氏)

TechCrunch Schoolの一連のシリーズのスポンサーとして登壇してきた、エン・ジャパン執行役員の寺田氏。今回のディスカッションでは、モデレーターを務めるTechCrunch Japan 編集統括・吉田博英とともに、進行役として参加してもらっている。

寺田氏はエン・ジャパンで2016年8月に、採用支援サービス「engage(エンゲージ)」を立ち上げ、中心となって運営している。engageは「誰でも採用が始められて続けられる」(寺田氏)ことをコンセプトに誕生したサービスだ。

「engageでは、エン・ジャパンが求人サービスを提供する中で得たエッセンスやノウハウを応用し、企業独自の採用ページを、クックパッドのレシピが投稿できる人なら誰でも作成できるようにした。また採用情報がつくれても、応募が集まらなければ続けられないので、オンラインの採用マーケティング機能も強化してきた。IndeedやYahoo!しごと検索、Google しごと検索といった求人のメタ検索エンジンにも自動連携し、求職者にリーチすることができるようにしている」(寺田氏)

寺田氏は「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャー、LENSAの代表取締役も務めており、LINEキャリアへの求人情報掲載無料も実現している。

engageは2020年1月現在、25万社が利用。スタートアップから大手企業まで多くの企業の採用に活用されている。スタートアップでは「本業にデザイナーやエンジニアのリソースを集中したいというニーズが大きい一方、採用広報やHR担当者にはテクニカルスキルが十分でなく、情報発信が難しいことも多い。そういう方でも簡単に採用情報を発信できるということで利用されている」とのこと。

また、大手企業の場合は「会社としての採用情報は公開されているが、セールス部門とエンジニアリング部門ではカラーがかなり違う、といったこともある。そういう各部署でチームメンバーを募集するために利用されることもある」そうだ。

事業の信頼性、安心感がIPOで社会に広く伝わる

ディスカッションではまず、昨年マザーズ上場を果たしたばかりの2社に「なぜ、このタイミングで上場したのか」という質問が投げかけられた。

Chatworkの山本氏は「自己資金で黒字経営でずっと来ていたので、元々は上場する気はなかった」としながら、「Chatworkのビジネスをきっちり成長させるには、資金調達やIPOというモデルが合っていた」と話している。

「成長するSaaSほど、初期は赤字になると言われている。Chatworkはユーザー数も大変増え、チャーンレートも低く、伸びるとは分かっていたが、エンジニアをたくさん採用すると大赤字になっていた」(山本氏)

同社には黒字経営のポリシーがあり、Chatwork事業も「ほかの事業を食い潰しながら、我慢しながらやっていた」という山本氏。だが、2015年ごろ、ビジネスチャットのカテゴリが盛り上がりを見せ、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップエコシステムの中でも資金調達が活発になる。日本では先行していた同社としては「Chatworkを利用する顧客のためにも、会社のポリシーよりプロダクトの成長にコミットすることを決断した」そうだ。

「ビジネスチャットはコミュニケーションの根幹を預けるインフラビジネス。そこへの信頼性という点でも上場は向いていたし、モデルとしてもエクイティで成長させるというのが向いていた。資金調達から、順調に背徴させて、無事上場することができた」(山本氏)

スペースマーケットの佐々木氏は、上場を前提にCFOとして同社に入社している。「投資契約の上場ターゲットが2019年だった。私が2017年に入社した後、一番最初にやった仕事が、主幹事会社の選定だった」と振り返る。その後も事業計画の変更など、2019年の上場を目指して準備を進めていったという佐々木氏だが、「最後の最後、上場承認が発表される1〜2週間前になって、バリュエーションなどの話で社内で議論となり、(ボードメンバー間で)悩んだ」と明かす。

それでも上場したのは「スペースシェア、シェアリングエコノミーについて、個人のデリバリーサービスへの不安やアメリカの民泊サービスでの事件などがあった中で、スペースマーケットは『安心・安全に使ってもらえるサービスだ』と社会に知ってもらいたい」(佐々木氏)との思いからだったそうだ。

石井氏が創業したアオイゼミでも「IPOストーリーで考えてはいたが、具体的に上場を考える手前でM&Aとなった」とのこと。石井氏自身は「IPOという世界を見たことがない」として、2人の話に「勉強になる」と述べていた。

IPOまでの社内組織の変化・変更点

続けて「IPO前後の社内組織の変化や、変更した点はあるか」との問いに、佐々木氏が答えた。

「IPO後の方は1カ月ほどしかないが、前について言えば、アーリー・ミドル期からレイターへ移るころに変化はあった。ミドル期ぐらいまでは、何もできていない状態なので、チャレンジをすれば当たる確率が高く、やれば伸びる、という状況だった。そこから上場を見据えて利益づくりに動くようになると、施策の精度や予算達成が求められるようになる。だから去年1年間ぐらいは、社内的には閉塞感を感じていたメンバーもいたかもしれない。それが上場承認を社内で発表した途端に雰囲気が明るくなり、『また新しいチャレンジをしていこう』というモードになっている」(佐々木氏)

組織変更については「IPO後の1月から早速、権限委譲を始め、部長職の擁立などを進めている」と佐々木氏は話している。

山本氏も「うちもIPOからそれほど間がない」と前置きしつつ、上場前後で「あまり大きな変化はなかったように感じる」と述べている。「よく言われることだが、IPO申請期は事業計画の蓋然性の証明がきつい。売上・利益を計画の上下5%に収めるように、というかなりの『無理ゲー』をみんなクリアしなければいけない。ただ僕らはそれほど大変ではなかった。そこはSaaSビジネスの強みだが、変動が小さく、数字が読みやすいこともあって、計画周りではそれほど苦労しなかった」(山本氏)

組織については「上場というよりは、資金調達前後で変わっている」と山本氏は言う。「もともと30人ぐらいのスモールビジネスで15年やってきて、社員満足度が大事という『ファミリー』なカルチャーだった。資金調達後は、Excelで言えば2次曲線を描くような成長を求められ、後半は特に新規事業づくりなど、やり遂げるためのプレッシャーがかかる。以前は知り合いの紹介で社員が入社して、離職も少ない会社だったところを、18億円調達して『使わなければならない』ということで採用を活発にして、1年でそれまでの倍の50人になった」(山本氏)

急な人数増、というだけでなく、「それまでのファミリーなカルチャーの人に対して、少し山っ気のある『一発当ててやろう』というような人も入ってくるようになり、カルチャーの衝突が起きた」と山本氏は振り返る。「会社としては、スケールさせる組織のカルチャーや事業の仕組みにアップデートしていかなければならないので、アジャストするんだけれども、変わりきれない部分もあり、そこがぶつかって組織崩壊も何度か経験し、2016〜17年ぐらいはしんどかった」(山本氏)

その後「アップデートの仕方を経営陣も学んで、50人の壁を乗り越えるメドがつく頃には組織も落ち着き、IPO前後には安定していた」(山本氏)ということだ。

IPOに関連して寺田氏が「社員が盛り上がったタイミングはいつだったか」と聞くと、佐々木氏は「上場承認日だった」とのこと。「15時に有価証券届出書がウェブで公開されるのだが、これが社内での発表前だったので、社内はザワザワしていた。15時半ごろに、社内でも正式に公表した」(佐々木氏)

一方の山本氏は「IPOの発表は盛り上がったことは盛り上がったけれども、盛り上げすぎないように気をつけていた」そう。「スタートアップの失敗談として、IPOを目標にしすぎると、IPO後ヤバいと聞いていたので、離脱や燃え尽きが起きないように、発表前から繰り返し『IPOはゴールではなくてスタートだ』と話していた。『IPOは、運転免許が取れたようなもの。我々はやっとクルマに乗れるようになったところ』と社員には説明していて、上場当日も意図的に盛り上がらないようにして、『社会的責任が出たから、これからもがんばろうね』という話をした」(山本氏)

IPOに向けた採用・事業での取り組み

IPOに向けて、集中して取り組んだ採用や事業についても、2人に聞いた。

佐々木氏がスペースマーケットに入社したのは2017年1月だが、「直前の2016年冬は業績が良かったのに、入社後の1月から3月はあまりよくなかったので、騙されたと思った(笑)」という。そして3月、千葉道場に参加した佐々木氏は、あるスタートアップのCEOにKPIの生データを見せてもらい、やり方を持ち帰って細かいKPI管理を行うようになった。

「スペースマーケットの掲載物件には、いろいろな場所、用途がある。ユーザーも法人、個人ともにいて、エリアもさまざま。料金も数百円から100万円まで幅広い。そうしたサービスを数字で判断するということを、2017年から始めた。2017年4月から6月は毎日KPIをみるようにしたところ、夏ごろから施策の精度が段々上がっていった」(佐々木氏)

千葉道場ファンド取締役パートナー 石井貴基氏

ここで石井氏から「KPIをゴリゴリ管理するようになって『社風が変わる』ではないが、既存メンバーから嫌がられなかったか」と佐々木氏に質問があった。

佐々木氏は、「確かに当初は嫌がられたが、重松氏が『新しいことをやろう!』という部分を担当した」と回答。自身が数字管理などの「厳しい方」を担当することで棲み分けを行ったということだった。

山本氏も、IPO前の数字の管理については「かぶるところがある」と話す。「IPOに向かう前は、事業が当たって勝手に伸びていく、といった具合で、フィーリングで経営していた。しかしVCからの投資が入ってからは、『ケーパビリティを超えることをやろうとしているのに、科学的にやらなければ実現は無理だ』ということで、なぜうまくいっているのか、数字を解明することから始めた。ひたすらデータ化し、分解しまくって、巨大なスプレッドシートに何百個というデータを最初は手作業で入力し、それを徐々に自動化して、データの見える化に3年ぐらいかかった」(山本氏)

山本氏は見える化によって「ようやくファクトで議論できるようになった」といい、「経営や事業は、科学しないとスケールしない」と語っている。

また山本氏は、役員からのトップダウンで組織で経営するにあたっては「経営会議をしっかり開くことも有効だった」と話している。ボードメンバーは5人。経営の意思決定が進まないという課題に対し、経営会議を週3回の頻度で開催するようにしたが、「話すことはなくならなかった」と山本氏はいう。

監査役も入った正式な会議を週2回、週1回はボードメンバーだけで集まって、よもやま議論を行っていくことで「ボードメンバーの結束が高まった」と山本氏。「今は週2回実施となったが、今でもまだまだ話すことがある。経営会議の頻度で、経営陣、社長と役員が一枚岩になったことは、100人の組織の壁を乗り越えるためのひとつのプラクティスでもあるのかなと考えている」(山本氏)

CEOでもあり、CTOでもある山本氏には「経営会議ではCEO、CTOのどちらの立場として発言するのか」との質問も投げかけられた。山本氏は「話題によって、帽子をかぶり分けている」と答えている。

「これは結構難しいのだけれども、経営会議ではCEOの帽子をかぶらざるを得ないときが多い。ボードメンバーのひとりに開発本部長、VPoE的な役割のメンバーがいるので、必要なときには、彼にCTO的な立場を取ってもらって、自分は結構厳しいフィードバックをするようにしている」(山本氏)

目的達成に影響を与えたキードライバーは?

エン・ジャパンの寺田氏からは2社に「どんなKPIを見て、それをどう上げていったか」という問いかけがあり、それぞれの目的達成に強く影響を与えた「キードライバー」について、佐々木氏、山本氏に聞いていくことになった。

スペースマーケットの佐々木氏は、同氏の入社以前の2016年までは「なぜ事業が伸びているのかは、しっかり分析できていなかった」という。そして「特にどの指標がキードライバーだったとは言えないが、要因分析をすることは重要だ」と話している。KPIのレポーティングは、「エンジニアやデザイナー、PMがそれぞれ行っている」そうだ。「CVRや利用率、利用額、高額利用の金額など、四半期ごとに確認するKPIを変えているので、追う数値が何かによって担当を変えている」とのことだった。

Chatworkの山本氏は「事業のキードライバーは、2つのエンジン。ひとつはフリーミアムモデルで、もうひとつがダイレクトセールスモデル」と答える。

「Chatwork事業は、無料利用のユーザーが機能を開放して有料コースを使うようになる、フリーミアムモデルでスタートしている。最初はそれしかなかったが、資金調達前は、それで自然成長していた」(山本氏)

しかし自然成長だけでは「VCが要求する成長に間に合わない」タイミングが来る。資金調達後はそこから成長をさらに加速するために、フリーミアムモデルに加えて、ダイレクトセールスモデルを立ち上げたと山本氏はいう。

「BtoB、SaaSモデルではむしろこちらがメインだと思う。マーケティングチームが見込み客のリードを展示会などのイベントで集めて、そこから電話でアポイントを取り、セールスが訪問して、1〜2カ月のトライアルはあるが、はじめから有料でサービスが始まる、直販モデル。それをやることを前提に調達したので、調達後に我々がまずやったことは、営業がゼロの状態から、営業部、マーケティング部を作ることだった」(山本氏)

もともとはエンジニア中心のChatworkには、営業、マーケティングで入った人材とは「カルチャーが全然違う」状況だったが、それを両方やる、あるいは営業側を推していかなければならない。山本氏は「フリーミアムでいいものを作ればプロダクトが広がる、というのはアーリーアダプターまで。そこから先のマジョリティ層は、自分で良いものがないかとプロダクトを探したりはしない。プッシュマーケティング、プッシュセールスが必要」として、開発と営業の両部門を担当し、「知ってもらわなければ」という文化へカルチャーの変革に乗り出した。

「カルチャーを変えることはすごく大変だったが、4〜5年かけて、フリーミアムとダイレクトセールス、両方のエンジンがあったからこそ、成長が2次曲線になった」(山本氏)

採用時の体験入社は強くおすすめしたい

キードライバーを加速させるための採用戦略について聞かれて、山本氏は次のように答えている。

「Chatworkの調達資金の使途は、マーケティングと開発が多く、エンジニアとビジネス系人材をほぼ同数、採用していた。調達しているスタートアップでは、ビジネス系人材の採用ではエージェントを使うのがスピードが早いと思う。ただし紹介を依頼すればいい人が採れるかというと、そういうわけでもない。ただ候補者リストが流れてくるだけで、ヒットする人材が見つからず、うまくいかないことも多い。エージェントを使いこなさなければ、いい採用にはつながらないだろう」(山本氏)

山本氏はエージェントを活用した採用でうまくいったケースとして「小さな人材紹介会社の社長と仲良くなって、こちらの思いを語り、ファンになってもらったことをきっかけに、向こうも『うちを人事部と思って使ってくれ』と言ってくれるようになった」という例を紹介した。

「どういう人が欲しいかが伝わると、とても(質の良い)熱いリストを用意してくれるようになる。そうして2〜3社と濃く付き合うようになった」(山本氏)

ちなみに「初期には採用計画といったものは特になかった」と山本氏は言う。石井氏も投資家の立場から考えても「採用計画は用意してもらうとしても、必ずしも当てにはならず、そこまで厳密にはできないと思う」と述べている。

「上場が近づくとようやく、計画通り採用できるようになる」という山本氏。スタートアップがスケールするときの人材採用について、「シニアマネージメントや、マーケティングスペシャリスト、スーパーエンジニアといった、成長にとって欠かせないケーパビリティを持つキーパーソンに、いかにいい人が採用できるかが肝。そういう人が採用できれば、その人の下にメンバーを入れていけばいいので、組織はスケールする。そこで失敗すると、半年、1年遅れてしまう」と語っている。

佐々木氏は、経営管理チームだけでなく、エンジニアでも数字も読みながら開発の優先順位が決められるという人材を重視していたということで、「エンジニアとコーポレートの採用については注意していた」と話す。一方で「キーマンを採用した後は、カルチャーフィットを重視しながら、ほぼ未経験の人も採用してきた」そうだ。

スペースマーケットでは、経理未経験で営業事務として入社した人材が、入社3年で決算までできるように成長した例もあるという。財務担当者も新卒2年目で、エンジニアにも未経験者を採用しており、うまくいっているそうだ。

人材エージェントについては「コミュニケーションがうまく取れなくて、50人の候補で1人しか入社しないといった結果になった」と佐々木氏。「給与水準が高くない上に、選考中に1日インターン体験を組み込んでいて、選考ステップが重いことも理由としてある。課題をハックしてもらい、たくさんの社員と面談してもらう1日体験を実施することにより、採用ミスマッチは少なくなるが、早く採用を決めたいエージェントからすると、あまりうまみがないだろう」(佐々木氏)

採用の窓口としては「Wantedlyが6〜7割、次いでGreenとリファラルで2〜3割ぐらい」と佐々木氏は言う。そのほかに「ブログや勉強会などで発信を行い、新しい技術導入もアピールし、スタートアップに興味のあるエンジニア界隈を引きつけることで、採用フィーをかけずに人材を獲得するようにしている」(佐々木氏)

体験入社では「マーケティングならダミーデータを用意して、マーケティング施策を2時間で考えて、といった課題を出す。実際に近い仕事を実践してもらうことで、入社する人にとっても業務がイメージしやすくなる」(佐々木氏)

体験入社については、Chatworkでも実施しているとのことで、山本氏も「体験入社は、カルチャーギャップや入社時のミスマッチが本当になくなるので、メチャクチャおすすめする」と話していた。

「千葉道場とファンドで起業家育成のエコシステムを作る」:TC School #17レポート1

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第17回が1月23日、開催された。スタートアップのチームビルディングを一連のテーマとして展開する今シーズンの4回目、最終回となるイベントでは「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

この記事では、キーノート講演の模様をお伝えする。登壇者は千葉道場ファンドで取締役パートナーを務める石井貴基氏だ。自らもアオイゼミを創業し、Z会へのM&Aを実施した石井氏からは、起業家としての創業からエグジットまでのエピソードと、現在参画する千葉道場の起業家を支える取り組みについてが語られた。

起業家としては情報弱者だった創業期

石井氏は新卒でリクルートに入社。SUUMOの広告営業に従事した後、ソニー生命に転職し、生命保険の販売を行っていた。販売活動の一環で、ライフプランのコンサルティングも行っていた石井氏は、ファイナンシャルプランナーとして、さまざまな家庭の家計を見ていく中で、どの世帯でも教育費負担が非常に多いと感じる。これが起業のきっかけとなり、ライブストリーミングを使って、いい先生から安く学べる学習塾として、オンライン学習塾のアオイゼミを立ち上げた。

アオイゼミはライブストリーミングで授業を配信する、中高生向けオンライン学習塾だ。創業は2012年。石井氏は2019年3月に代表を退任したが、当時の登録生徒数は60万人以上と日本最大級に拡大した。「学習塾としての実績もついてきて、難関大学への合格者も輩出するようになっている」(石井氏)

北海道・札幌出身の石井氏は、函館の高校、東北の大学に進学し、就職では札幌に戻る形となったため、「会社を作るまで東京に出たことがなかった」そうだ。当時はスタートアップ立ち上げのための教科書もなければ、情報もなかったと振り返る石井氏。初めての上京が起業、という境遇で、石井氏が創業の地に選んだのは、中野だった。

「東京のビジネスの中心は新宿だろう、ぐらいにしか思っていなくて、中野なら新宿からも近いからベストではと考えたんですよね。その後、よく見渡してみたら『ベンチャーの中心地って渋谷なんだ』と気づいて、失敗したなと思いました(笑)」(石井氏)

立ち上げ当初はお金もなく、1LDKに創業者の3人で生活していたそうだ。生徒が塾を利用するのは夜間なので、日中はアルバイトで出稼ぎをして、夜にオンライン学習塾を配信するという日々。「極貧生活で体重が15キロ減った」と石井氏はいう。

今でこそファンドのパートナーという立場の石井氏だが、アオイゼミ創業初期はベンチャーキャピタルを紹介されて「投資家って何だ?という感じで、うさんくさいと思っていた」という。それがいろいろと話を聞いて、今度は「株式発行するだけで数千万の大金を、無担保無保証で出してくれるなんて、これは使わない手はない! じゃんじゃん株式発行すればいいじゃないか」と思ったそうだ。「起業家としては完全に分かってない、リテラシーの低い情報弱者だった」(石井氏)

買収後のアオイゼミ退任を決めた深セン訪問

暗黒の創業期を1年半ほど経た2013年、現・千葉道場ファンドの代表で、エンジェル投資も行う個人投資家・千葉功太郎氏と出会った石井氏は、シードラウンドで4000万円の資金調達を実施した。その後、ジャフコからの調達や、KDDI Open Innovation Fundらからの調達を実施。2015年のシリーズAラウンド調達までは「VCや、教育とは縁のない事業会社からしか調達していなかった」という石井氏だが、次のファイナンスのために動く中で、コンテンツ獲得のために既存のリアルの教育事業者と組むことも検討し始めていた。

「学習塾のツラいところはコンテンツ確保で、大学別の対策講座などをやろうとすると、とても大変。そういったコンテンツを持っている会社から出資してもらって、一緒にやった方がいいのではないか、ということで資本業務提携に動いていた。それでZ会と話していたときに、『マイノリティ出資で一緒にできることは限られている。それなら完全に一緒にやらないか』というオファーをいただき、サービスの成長のためには最適のパートナーではないかと考えて、2017年11月にM&Aを果たした」(石井氏)

通信教育で知られてきたZ会グループは、傘下に栄光ゼミナールを持つなど、教育事業を総合的に広く展開するが、「大手とはいえ、教育はレガシーな産業。彼らも私たちのようなテック系を取り入れたかったのだと思う」と石井氏はいう。M&A後は想定していたコンテンツ強化を進めたほか、家庭教師マッチング(現在はサービスを休止)やリアルな塾でオンライン授業の一括配信など、グループ会社と連携して新しい事業を開発していった。

石井氏としては買収後も「特に退任の時期を決めていたわけではなく、もう数年やろうと思っていた」というアオイゼミ。代表退任のきっかけは2019年1月、千葉道場のコミュニティ有志メンバーと中国・深センを訪問したことだった。

「中国では公立の図書館の自習室で、ほとんどの子どもたちがタブレットやスマホを使って、動画で勉強していた。一方、日本国内では、私たちのアオイゼミや競合の『スタディサプリ』などがあるけれども、思った以上にオンライン学習の普及が進んでいない。教育の格差をゼロにして、誰でも立身出世できる世の中にしたい、と会社を作ったが、中国と日本のギャップを見た時に想像以上に衝撃を受けて、ピンと張っていた糸が切れたような感じになった」(石井氏)

石井氏は深セン訪問時の心境について「もしかしたら多くの日本の人たちにとって、オンライン学習はそこまで求められていないんじゃんないだろうか、とも考えたし、日本の教育業界に、これ以上自分の時間を使うことに意義が持てなくなった」と述べている。

1月半ばに深センを訪問した石井氏は、翌週の取締役会で代表退任を宣言。2019年3月、創業した会社を去ることになった。退任後はしばらくの間、東南アジアを中心に旅行していたという石井氏。英語力を鍛えるために、セブ島、シンガポールへ留学もしていたそうだ。

こうして石井氏がフリーの時間を過ごしていた、2019年夏のこと。アオイゼミでエンジェル投資を受けていた千葉氏から「暇だったら千葉道場の運営を手伝ってよ」との声がかかった。石井氏が「以前から参加していた、コミュニティのサポートでもやるのかな」と思い、何を「手伝う」のかよく聞かずにOKの返事をしたところ、「今度ファンドを立ち上げるんだよね」と千葉氏。「気づいたら取締役になっていました」と笑いながら、石井氏は千葉道場ファンド参画のいきさつについて語る。

口外無用、徹底的GIVEの精神で支え合う千葉道場

千葉道場はスタートアップ約60社が参加する、起業家コミュニティだ。ミッションに「Catch The Star(星をつかむ)」、ビジョンに「まだ見ぬ幸せな未来を創造し、テクノロジーで世界の課題を解決する」を掲げる千葉道場について、「スタートアップ起業家が高い視点を持ってチャレンジし、レバレッジがより効きやすい、新しいテクノロジーを活用することを大切にしている」と石井氏は説明する。

そもそも千葉道場コミュニティは、石井氏と、元ザワット創業者の原田大作氏とがKDDIのアクセラレーションプログラム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」で出会ったことがきっかけとなって始まっている。ザワットは2011年創業で、フリマアプリ「スマオク」などを運営。2012年創業のアオイゼミと同様、千葉氏からのエンジェル投資を受けていた。

両社は組織づくりや資金調達で悩みを抱え、「お互いに1年ぐらい、ツラいことが起きていた」(石井氏)という。そこで「同じようなステージの起業家を集めて、飲み会でもやってみよう」と企画。共通の出資者である千葉氏にも相談してみたところ、「せっかく集まるなら、きちんとプログラムを練ってやってみたらどうか」とのアドバイスを受け、2015年に第1回の千葉道場合宿を鎌倉の寺で開催することになった。

いざ開催してみると「実はもうすぐキャッシュが尽きる、とか、役員が辞めそう、といった生々しい話が多く、『これは外では話せない』ということばかり。同じ起業家として何とか助けてあげたい、という気持ちが膨らんだ」(石井氏)

そこで、千葉道場は徹底した「秘密厳守」と徹底的な「GIVEの精神」で支え合う、起業家のためのコミュニティへと発展。その象徴的存在が、通称「血判状」と呼ばれる、合宿参加者の連判状だ。「実際には(血ではなく)朱肉で拇印を押すんですが、毎回『千葉道場で見聞きしたことは、参加者以外には一切口外しないことを約束する』と改めて誓い合う、というものです」(石井氏)

半年ごと、年2回開催されている千葉道場の合宿では、それぞれの起業家から“過去”“現在”“未来”が共有される。失敗をほかの起業家が繰り返さないよう伝えるのが「過去の共有」、新しいテクノロジーを事業に取り入れる方法など、経営ノウハウについて語るのが「現在の共有」、そして未来のために目線を上げて目標を見つめていく「未来の共有」だ。

「CEOといえども、やはり目先のことにとらわれがちで、創業時に思い描いていた、遠い未来のことを忘れてしまうこともある。視点を上げて次の半年間もがんばっていこう、という場を作っている」(石井氏)

現在は半年に1回の合宿だけでなく、特許庁や東京証券取引所などと合同で勉強会も開催されている千葉道場。「少人数ではアクセスしにくいところにも、集団なら対応してもらえるので、情報を聞かせていただいている」(石井氏)

2030年までにユニコーン100社創出を目指す

千葉道場に参加するスタートアップは、ヘルスケア、D2C、シェアエコノミー、SaaS、住宅テック、アグリテックなど、幅広い。その中には、SmartHRWealthNaviスマートニュースなど、既に名の知られたスタートアップも含まれる。

エグジット済みの企業もいくつか出ている。2017年にはザワットをメルカリが買収、宿泊予約サイト「Relux」運営のLoco PartnersをKDDIが買収アオイゼミをZ会が買収と、参加企業のエグジットが続いた。また2019年にも、タウンWiFiがGMOインターネットグループに株式譲渡している。

さらに2019年12月には、千葉道場参加企業の中からの初のIPO案件として、スペースマーケットが東証マザーズへ上場した

「千葉道場が始まって5年間、半年に1度ぐらいしか集まらないが、一緒に成長してきた仲間という感覚がすごく強い。スペースマーケットさんも苦労されてきたことがある程度分かるので、東証の上場セレモニーで鐘をたたく姿を見られて、何とも幸せなことだと正直すごく熱くなってしまった。こういった(千葉道場発の)IPO案件は、これからも増やしていきたい」(石井氏)

石井氏からは、千葉道場参加企業の時価総額別の分布も紹介された。ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)も現在2社ありつつ、10億円以下の企業から300億円超企業まで「バランス良く含まれている」と石井氏は述べている。

千葉道場のコミュニティには数値目標が設定されている。「2025年までにユニコーン企業を25社、1兆円企業を1社創出する」、さらに「2030年までには100社のユニコーン企業、5社の1兆円企業を生み出したい」というものだ。「既存のメンバーの中からもユニコーンが生まれる確率は高いと思っているが、この目標を実現するためには、もっと多くの会社に投資をしなければならないだろう」と石井氏はいう。

起業家コミュニティから生まれた千葉道場ファンド

ベンチャーキャピタルとしての千葉道場ファンドの設立は、2019年にシリコンバレーで行われた第10回千葉道場で発表され、投資活動が始まった。千葉氏がジェネラルパートナー、石井氏がパートナー、原田氏がフェローを務める千葉道場ファンドの設立は、10月にはメディアにも公開され、本格的に始動した。

ベンチャーキャピタルが出資先を集めてコミュニティ化するのではなく、千葉道場という起業家コミュニティがファンドを持つ、という形は「通常とは逆の事例で、世界的に見ても珍しい取り組みではないか」と石井氏は語る。

また、エグジットした起業家が外に出て、そこからファンドの運営に入る、という点も千葉道場ファンドの特徴だ。「私も今まさに、プロ投資家としての経験を積んでいるところ。投資家の側に立つと、起業家と違う視点になるので、すごく学びが多い。恐らく次に会社を作ったら、ある程度失敗を防げるのではないか。そうした経験を積んで、もう一度会社を作ったときに、より強い起業家として千葉道場のコミュニティに入る。そこで起業したときにはファンドから投資を受ける。このような形で新しい起業家の育成システムを作れれば、という思いでやっている」(石井氏)

「千葉道場ファンドは投資対象も特殊」と石井氏はいう。「私たちはコミュニティファンドなので、コミュニティに入っていただくためのシード・アーリー投資と、最後に『行ってらっしゃい』というときの後押しのレイター投資、基本的にこの両端にしか投資しない」ということで、中間フェイズについては「ほかのVCや事業会社と連携しながらスタートアップを育成していきたい」と石井氏は述べている。

その他、サポート体制としては、コミュニティの仲間同士で支え合い、教え合うということもありつつ、「いろいろな経験を積まれた投資家、起業家にメンターとして入っていただいている」と石井氏。企業とも連携し、特許業務や採用、ディープテックの分野でアドバイスを受けられるようになっているそうだ。

「千葉道場のミッション『Catch The Star』を少しでも多く広げていくことが、日本のスタートアップシーンにとって、すごくいいことにつながっていくと信じて、引き続きがんばっていきたい」(石井氏)

【増席しました】いよいよ1月23日開催!TC School #17「チームビルディング〜チームを拡大する」

TechCrunch Japanは通算17回目となる「TechCrunch School」を2020年1月23日に開催する。今回もスタートアップのチームビルディングに焦点を当てたイベントで、2019年の4月、6月、9月に続いて4回目だ。

申し込みはこちらから

関連記事
スタートアップの初期チーム組成の事例と陥りやすいワナ——TC School #14レポート1
スタートアップのチーム作りを創業者・VC・人材会社が語る:TC School #14レポート2
「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1
スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2
VCが語る「エンゲージメントの基盤」:TC School #16レポート1
スタートアップのチームを深めるコミュニケーション、採用、研修:TC School #16レポート2

前回のTechCrunch Schoolの様子

2020月1月23日に開始するTechCrunch School #17は、「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」をテーマとし、おなじみのキーノート、パネルディスカッション、Q&Aの3部構成となる。

キーノートには、千葉道場ファンドの石井貴基氏が登壇。千葉道場ファンドは、シード、アーリーだけでなくレイターステージのスタートアップを支援するために2019年10月に設立されたファンド。石井氏はパートナーを務め、ジェネラルパートナーである千葉功太郎氏とともにさまざまな業種のスタートアップの育成を進めている人物だ。

千葉道場ファンドの石井貴基氏

自身もアオイゼミというインターネット学習塾を起業した経験を持ち、2017年11月にはZ会ヘの同事業の譲渡も経験している。基調講演では、起業から事業譲渡までに得た経験や知識、千葉道場ファンドのパートナーとしてレイターステージのスタートアップが抱える問題などについて語ってもらう。

パネルディスカッションでは、石井氏のほか、ビジネスチャットツールを開発・提供しているChatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォームを運営するスペースマーケットで取締役CFO兼人事責任者を務める佐々木正将氏、そしてエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名で、IPO後の人材採用についての方針や悩みなどを議論していく。Chatworkは2019年9月25日に東証マザーズに上場、スペースマーケットは12月20日に東証マザーズに上場予定だ。

関連記事
Chatworkが東証マザーズ上場、山本代表が語る今後の事業戦略
スペースマーケットがワタナベエンターテインメントと資本業務提携

Chatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏

スペースマーケットでCFOを務める佐々木正将氏

そのあと、来場者を交えたQ&Aセッションを開催する。Q&Aセッションでは、おなじみの質問ツール「Sli.do」を利用して会場からの質問も募集し、その場で回答していく。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のベライゾンメディア・ジャパンのイベントスペース。Q&Aセッション後はドリンクと軽食を提供するミートアップ(懇親会)も予定している。

スタートアップの経営者はもちろん、スタートアップへの転職を考えているビジネスパーソン、数十人の組織運営に課題を抱えているリーダーなど幅広い参加をお待ちしている。なお、申し込み多数の場合は抽選となるので注意してほしい。

TechCrunch School #17概要
チームビルディング(4) チームを拡大する(拡大期の人材採用)
開催日時:1月23日(木) 18時半開場、19時開始
会場:ベライゾンメディア・ジャパンオフィス
(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
定員:80人程度(申し込み多数の場合は抽選)
参加費:無料
主催:ベライゾンメディア・ジャパン/TechCrunch Japan
協賛:エン・ジャパン株式会社

イベントスケジュール
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート(30分)
19:45〜20:25 パネルディスカッション(40分) Sponsored by engage
20:25〜20:45 Q&A(20分)
20:45〜21:30 ミートアップ(アルコール、軽食)
※スケジュールは変更の可能性があります。

スピーカー
・キーノート
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏

・パネルディスカッション、Q&A
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏
Chatwork代表取締役CEO兼CTO・山本正喜氏
スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者・ 佐々木正将氏
エン・ジャパン 執行役員・寺田輝之氏
TechCrunch Japan 編集統括・吉田博英(モデレーター)

申し込みはこちらから

1月23日に開催迫る!TechCrunch School #17「チームビルディング(4) 〜チームを拡大する〜」セミナー参加者募集中

TechCrunch Japanは、「TechCrunch School」を2020年1月23日に開催する。今回もスタートアップのチームビルディングに焦点を当てたイベントで、2019年の4月、6月、9月に続いて4回目となる。

申し込みはこちらから

関連記事
「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1
スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2
スタートアップの初期チーム組成の事例と陥りやすいワナ——TC School #14レポート1
スタートアップのチーム作りを創業者・VC・人材会社が語る:TC School #14レポート2
VCが語る「エンゲージメントの基盤」:TC School #16レポート1
スタートアップのチームを深めるコミュニケーション、採用、研修:TC School #16レポート2

前回のTechCrunch Schoolの様子

2020月1月23日に開始するTechCrunch School #17は、「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」をテーマとし、おなじみのキーノート、パネルディスカッション、Q&Aの3部構成で進行予定だ。

キーノートには、千葉道場ファンドの石井貴基氏が登壇。千葉道場ファンドは、シード、アーリーだけでなくレイターステージのスタートアップを支援するために2019年10月に設立されたファンド。石井氏はパートナーを務め、ジェネラルパートナーである千葉功太郎氏とともにさまざまな業種のスタートアップの育成を進めている人物だ。

千葉道場ファンドの石井貴基氏

自身もアオイゼミというインターネット学習塾を起業した経験を持ち、2017年11月にはZ会ヘの同事業の譲渡も経験している。基調講演では、起業から事業譲渡までに得た経験や知識、千葉道場ファンドのパートナーとしてレイターステージのスタートアップが抱える問題などについて語ってもらう。

パネルディスカッションでは、石井氏のほか、ビジネスチャットツールを開発・提供しているChatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォームを運営するスペースマーケットで取締役CFO兼人事責任者を務める佐々木正将氏、そしてエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名で、IPO後の人材採用についての方針や悩みなどを議論していく。Chatworkは2019年9月25日に東証マザーズに上場、スペースマーケットは12月20日に東証マザーズに上場予定だ。

関連記事
Chatworkが東証マザーズ上場、山本代表が語る今後の事業戦略
スペースマーケットがワタナベエンターテインメントと資本業務提携

Chatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏

スペースマーケットでCFOを務める佐々木正将氏

そのあと、来場者を交えたQ&Aセッションを開催する。Q&Aセッションでは、おなじみの質問ツール「Sli.do」を利用して会場からの質問も募集し、その場で回答していく。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のベライゾンメディア・ジャパンのイベントスペース。Q&Aセッション後はドリンクと軽食を提供するミートアップ(懇親会)も予定している。

スタートアップの経営者はもちろん、スタートアップへの転職を考えているビジネスパーソン、数十人の組織運営に課題を抱えているリーダーなど幅広い参加をお待ちしている。なお、申し込み多数の場合は抽選となるので注意してほしい。

TechCrunch School #17概要
チームビルディング(4) チームを拡大する(拡大期の人材採用)
開催日時:1月23日(木) 18時半開場、19時開始
会場:ベライゾンメディア・ジャパンオフィス
(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
定員:80人程度(申し込み多数の場合は抽選)
参加費:無料
主催:ベライゾンメディア・ジャパン/TechCrunch Japan
協賛:エン・ジャパン株式会社

イベントスケジュール
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート(30分)
19:45〜20:25 パネルディスカッション(40分) Sponsored by engage
20:25〜20:45 Q&A(20分)
20:45〜21:30 ミートアップ(アルコール、軽食)
※スケジュールは変更の可能性があります。

スピーカー
・キーノート
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏

・パネルディスカッション、Q&A
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏
Chatwork代表取締役CEO兼CTO・山本正喜氏
スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者・ 佐々木正将氏
エン・ジャパン 執行役員・寺田輝之氏
TechCrunch Japan 編集統括・吉田博英(モデレーター)

申し込みはこちらから

TC School #17「チームビルディング(4) 〜チームを拡大する〜」は2020年1月23日に開催決定!

TechCrunch Japanは、「TechCrunch School」を2020年1月23日に開催する。今回もスタートアップのチームビルディングに焦点を当てたイベントで、2019年の4月、6月、9月に続いて4回目となる。

申し込みはこちらから

関連記事
「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1
スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2
スタートアップの初期チーム組成の事例と陥りやすいワナ——TC School #14レポート1
スタートアップのチーム作りを創業者・VC・人材会社が語る:TC School #14レポート2
VCが語る「エンゲージメントの基盤」:TC School #16レポート1
スタートアップのチームを深めるコミュニケーション、採用、研修:TC School #16レポート2

前回のTechCrunch Schoolの様子

2020月1月23日に開始するTechCrunch School #17は、「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」をテーマとし、おなじみのキーノート、パネルディスカッション、Q&Aの3部構成で進行予定だ。

キーノートには、千葉道場ファンドの石井貴基氏が登壇。千葉道場ファンドは、シード、アーリーだけでなくレイターステージのスタートアップを支援するために2019年10月に設立されたファンド。石井氏はパートナーを務め、ジェネラルパートナーである千葉功太郎氏とともにさまざまな業種のスタートアップの育成を進めている人物だ。

千葉道場ファンドの石井貴基氏

自身もアオイゼミというインターネット学習塾を起業した経験を持ち、2017年11月にはZ会ヘの同事業の譲渡も経験している。基調講演では、起業から事業譲渡までに得た経験や知識、千葉道場ファンドのパートナーとしてレイターステージのスタートアップが抱える問題などについて語ってもらう。

パネルディスカッションでは、石井氏のほか、ビジネスチャットツールを開発・提供しているChatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォームを運営するスペースマーケットで取締役CFO兼人事責任者を務める佐々木正将氏、そしてエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名で、IPO後の人材採用についての方針や悩みなどを議論していく。Chatworkは2019年9月25日に東証マザーズに上場、スペースマーケットは12月20日に東証マザーズに上場予定だ。

関連記事
Chatworkが東証マザーズ上場、山本代表が語る今後の事業戦略
スペースマーケットがワタナベエンターテインメントと資本業務提携

Chatworkの代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏

スペースマーケットでCFOを務める佐々木正将氏

そのあと、来場者を交えたQ&Aセッションを開催する。Q&Aセッションでは、おなじみの質問ツール「Sli.do」を利用して会場からの質問も募集し、その場で回答していく。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のベライゾンメディア・ジャパンのイベントスペース。Q&Aセッション後はドリンクと軽食を提供するミートアップ(懇親会)も予定している。

スタートアップの経営者はもちろん、スタートアップへの転職を考えているビジネスパーソン、数十人の組織運営に課題を抱えているリーダーなど幅広い参加をお待ちしている。なお、申し込み多数の場合は抽選となるので注意してほしい。

TechCrunch School #17概要
チームビルディング(4) チームを拡大する(拡大期の人材採用)
開催日時:1月23日(木) 18時半開場、19時開始
会場:ベライゾンメディア・ジャパンオフィス
(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
定員:80人程度(申し込み多数の場合は抽選)
参加費:無料
主催:ベライゾンメディア・ジャパン/TechCrunch Japan
協賛:エン・ジャパン株式会社

イベントスケジュール
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート(30分)
19:45〜20:25 パネルディスカッション(40分) Sponsored by engage
20:25〜20:45 Q&A(20分)
20:45〜21:30 ミートアップ(アルコール、軽食)
※スケジュールは変更の可能性があります。

スピーカー
・キーノート
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏

・パネルディスカッション、Q&A
千葉道場ファンドパートナー・石井貴基氏
Chatwork代表取締役CEO兼CTO・山本正喜氏
スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者・ 佐々木正将氏
エン・ジャパン 執行役員・寺田輝之氏
TechCrunch Japan 編集統括・吉田博英(モデレーター)

申し込みはこちらから

VCが語る「エンゲージメントの基盤」:TC School #16レポート1

iSGSインベストメントワークス代表取締役/代表パートナー 五嶋一人氏

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第16回が9月26日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン3回目となる今回のイベントでは「チームを深める(エンゲージメント)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

本稿では、そのうちのキーノート講演をレポートする。登壇者はiSGSインベストメントワークスで代表取締役/代表パートナーを務める五嶋一人氏。五嶋氏からは、これまで手がけてきた投資先スタートアップや企業買収による統合後の組織におけるエンゲージメントについて、VCの立場から見聞きしてきたことを語ってもらった。

M&A後の組織再編・強化も手がける五嶋氏

五嶋氏が代表パートナーを務めるiSGSインベストメントワークスは、2016年の設立。それまでの五嶋氏は、銀行、ソフトバンク・インベストメントなどを経て、2006年にディー・エヌ・エー、2014年にはコロプラに入社。ベンチャー投資のほか、買収、ポストM&Aの組織再編・強化などに従事してきた。M&Aでは、横浜DeNAベイスターズや旅行代理店エアーリンク、スカイゲート、中国のモバイルSNS「天下網」を有するWAPTXなどの買収とPMI(Post Merger Ingegration:ポストマージャーインテグレーション、M&A成立後の統合プロセス)などに携わっている。

iSGSには五嶋氏も含め、3人の代表パートナーがいる。ビジョンに「Go Beyond Goal:すべてのゴールは、次へのはじまりだ」を掲げる同社の強みについて、五嶋氏は「代表パートナーがそれぞれ実務経験、経営経験、投資経験が長いこと、新規事業、M&A、事業投資と広い知見と経験を持ち、さまざまな領域の投資に対応できること、女性の代表パートナーを擁する国内唯一の独立系VCであることから、女性向けマーケットに強いこと」などを挙げている。

iSGS 1号ファンドの投資先は、設立から3年で65社。対象となる事業領域はさまざまで、投資サイズも500万円〜2億円と幅広い。女性起業家によるスタートアップが16社、海外に本拠を置く企業が11社を占める点も特徴だと五嶋氏。海外スタートアップでは、福利厚生のアウトソーシングサービスを行うFondなどに投資を行っている。

エンゲージメントが注目を集める背景

エンゲージメントはビジネスでは一般的に「絆」という意味合いを持ち、人事領域では「従業員の会社に対する愛着心や思い入れを示すもの」とされている。では、同じ従業員と会社との関係性を示す言葉として「従業員エンゲージメント」と「従業員満足度」、「ロイヤルティ」とでは何が違うのか。

従業員エンゲージメントは、企業と従業員の結びつきの強さ、会社と従業員がお互いに貢献し合い、信頼し合うことで成立するものと五嶋氏は説明する。

それに対して従業員満足度は、会社が与える報酬や待遇、環境などを従業員が評価するものであり、「エンゲージメントとは軸が違う」と五嶋氏はいう。

そしてロイヤルティには「忠誠」という言葉の意味通り、従業員が会社に対して「忠誠を誓う」といった上下関係が含まれている。

従業員と会社との関係性において、今、エンゲージメントが注目されている理由として五嶋氏は、2つの理由を挙げている。1つは終身雇用や年功序列の崩壊で、成果報酬主義を取り入れる企業が増えたことで、どれだけ報酬を高くしても、優秀な人材ほどより高い報酬を求めて、結局辞めてしまうという現実だ。

もう1つは、働き方改革による副業解禁が挙げられている。本業の会社と副業とを比較することができるようになり、「本業の会社がつまらない」「一緒にやっていく意味は何か」といったことが問われるようになってきた。こうした世の中の流れにおいて「エンゲージメントは大事になってくる」と五嶋氏は語る。

従業員エンゲージメントを高めることの利点について、五嶋氏は「従業員満足度向上のために報酬や待遇、福利厚生をいくら上げても企業価値が上がるとは限らない。逆に従業員エンゲージメントが高ければ、会社や事業への貢献意欲は高いはず。『会社のためにがんばろう』というモチベーションが高い状態になるので、企業価値が上がる効果が期待できる。結果として、業績アップや離職率が下がるといったメリットが得られるだろう」と説明する。

器(組織)のサイズがエンゲージメントのベースとなる

さて、そのエンゲージメントを高めるためのポイントについては、世間でさまざまな施策が語られているが、講演では五嶋氏自身が実際の経験に基づいて「僕はこう思う」と感じたことを伝授してもらった。

「インターネットや書籍をはじめとするメディアでは、いろいろなエンゲージメント向上策が紹介されている。それぞれ使えることは使えるのだが、いざ自分がエンゲージメントを上げなければならない当事者になると、実際にはどうしていいのかが分からず、どれも机上の空論感を強く感じることになる」と五嶋氏は述べる。

自身も企業買収、経営統合などの場面でいろいろな問題に直面してきたという五嶋氏は、「世間的に良いとされる施策は、自社では効果が出なかったり、そもそもうまく実行できなかったりする。組織は百社百様だから、マネしてやってみようとしても、人のマネをしてうまくいくことはあまりないのではないか」と話している。

そうして問題に直面する中で、五嶋氏が気づいたのは「そもそも、いろいろな施策を打つ前に、組織(チーム)のサイズという『器』が適切かどうかが鍵となるのではないか」ということだった。

五嶋氏は器のサイズとして3パターンを紹介している。1つ目は1チーム7人というサイズで、米海兵隊の自己完結型チーム、Amazonのプロジェクトチームでも適用されており、映画『七人の侍』といった例もある。「経験知として据わりが良いだけでなく、組織論の基礎で取り上げられる『スパンオブコントロール』(統制範囲の原則)の研究でも『企業内でマネジャーが直接管理できる部下の人数は5〜7人程度』と言われており、腹落ちするサイズだ」(五嶋氏)

五嶋氏は「7人の器にすることによって、コミュニケーションや相互理解は自然と深まる。エンゲージメント向上について、いろいろ施策を考えなくてもよい」と述べている。チーム構成は1人のマネジャーに6人が付く形。1つの会社としては規模はまだ小さい。

続いての器のサイズは15人。例として挙げられたのは、ワールドカップ開催で話題のラグビーだ。1チーム15人が同時に出場するラグビーは、グローバルなメジャースポーツでは同時参加人数が最も多いスポーツだと言われる。「1つの目標に向かって寝食を共にまでして訓練を重ね、それで人間が一丸となって進める上限が15人前後なのではないか」と五嶋氏。15人チームでは、先に挙げた7人チームを2ユニット入れ、その上に全体をまとめる1人のマネジャーが付く形となる。

最後の器のサイズは150人と、ぐっと大きな規模になる。2つ目の15人チームの10倍だ。イギリスの人類学者、ロビン・ダンパーが提唱した「人間の脳が群れで互いに覚えられる人数」である「ダンパー数」が150程度だとされている。これは人間が本能的に上限としてきた群れの人数が、脳の大きさによって制限されているとした研究で、五嶋氏も「僕の体感もそうだし、いろいろな会社の経営者が『従業員が100人を超えたあたりから、全員の顔と名前が一致しなくなってきた』『家族構成まで含めて知っている従業員の数が100人強だ』と語っているのは、ダンパー数の発露だろうと思う」と述べている。

「組織を大きくするときの参考にしていただければ」と五嶋氏がチーム構成の例として紹介したのは、130人チーム。前述の7人チームを6ユニットまとめてマネジャーを1人置いた43人のブロックを基本に、3ブロックを束ねてその上にさらにマネジャーを置いたものだ。

これらの器、つまり組織の形とサイズについて五嶋氏は「人が足りない、マネジャーが育たない、管理職の力量が不足している、人が辞めてしまう、そういったことを嘆く前に、まず器の大きさや形が正しいかどうか見直すことを投資先には勧めている」と語る。「人数が少なければシンプルに仲良くなれる可能性が高く、そうなれば簡単には辞めない。会社に行くのが楽しい、このメンバーと仕事をするのが楽しい、というのは、エンゲージメントの1つの本質だと思う」(五嶋氏)

また五嶋氏は「人が足りないから採用しよう、マネジャーが力不足だから外から連れてこよう、経営合宿しよう、といった採用・教育の前に、器の型がちゃんとできているのか、一度考えた方がいい」とも話している。「例えば、40人を1人のマネジャーが見る、というのは一般的に感じられるが、実はあまり現実的ではないのではないか。この規模でうまくいかないということがあれば、それはマネジャーの力量が足りないと嘆く前に、組織の大きさや形が適切かどうかを疑うべき。組織の設計は経営者の責任だ。40人いるなら、7人チーム6つ+マネジャーというふうに分けてあげて、その上でマネジャーの力量を測ってみてもよいのでは」(五嶋氏)

「『足りないから採る』というだけでは、本当にスタートアップは潰れる。自分たちの組織の姿・形を見つめ直して適切に配置してあげることが、エンゲージメント、すなわち従業員が前向きに意欲を持って働くための基盤として必要だ。人をコントロールするマネジメントの観点で組織の規模を語る人はいるが、エンゲージメントの観点から組織の規模を語る人はほとんどいないのではないか。しかし人間は所属する組織の『規模』に、行動やパフォーマンスがすごく影響を受ける生き物だということを、ぜひ心に留めておいてほしい」(五嶋氏)

透明性、経営者との距離、そして可視化

最後に五嶋氏が考える「エンゲージメントの基盤」について語ってもらった。まずは前項で紹介した「適切なサイズで人を組織しているか」という器のサイズが一番重要だと五嶋氏はいう。「100人なら何とかエンゲージメントが築けそうでも、1000人で1チームではちょっと無理だということは誰にでも分かるはずで、ということは、どこかに『適切な規模』というものがある、ということ。じゃあ適切な規模がどこかといえば、僕の経験では最小単位7人、チームとしては15人ぐらいがいいかと思う。あとはユニットの組み合わせで増やしていく。経営層も7人までがよい。社外取締役も含めて10人、なんていうのはあまりオススメしていない。スタートアップであれば、取締役と執行役員といった経営層で7人以下が望ましい。そうすれば、チーム一丸となって仲良くやれる可能性が高まるのではないか」(五嶋氏)

次に五嶋氏が挙げたのは「透明性」だ。会社やチームが今どうなっているのか、何を目指しているのか。一緒に働く上司やチームメンバーが何を考えていて、今、何をやっているのか、何で忙しいのか。これが見えるということが、透明性のある状態だと五嶋氏は考えている。透明性の確保にもチームサイズは重要で、「7人以下であれば自ずと確保されやすくなる」と五嶋氏。「人数が少なければ、こうした透明性は生まれやすい」と話している。

最後に五嶋氏が挙げたのは「経営者との距離の近さ」。経営者がどんな人柄で、何が好き・嫌いか、会社のメンバー全員が分かっている状態は強い、と五嶋氏。また、メンバーと経営者とのコミュニケーションについては、エンゲージメントの観点からは「質より量」を重視した方がよいという。「経営者は自分がどんなことが好きで、どんなことが嫌いか、組織全体に伝わるように心がけるとよい。また、その場にいることで、音声で伝わる情報はバカにならない。『スタートアップはワンフロアのオフィスが良い、社長室はない方が良い』と言われるのは、恐らくこういったことが起因しているのだろう。経営者との距離感は、スタートアップにおけるエンゲージメントでは超最重要項目のひとつだ」(五嶋氏)

透明性の確保、経営者との距離を縮めるためには「可視化」、それも言葉と数字で表すことだと五嶋氏はいう。「僕は、経営者の仕事の80%は可視化だと、いつも言っている。会社のビジョンや強み、サービスなどがどんなに素晴らしくても、可視化できなければ社内にも社外にも、誰とも共有できない。数字と文章を使って可視化することがマネジメントの一番大事な仕事だし、資金調達も人材獲得も、もちろんエンゲージメントも、可視化ができなければ何もできない。可視化が上手な経営者は何をやってもうまくいくのではないか」(五嶋氏)

9月26日開催のTC SchoolにiSGSインベストメントワークスの五嶋一人氏が登壇、テーマは「チームビルディング(3) 〜チームを深める〜」

4月、6月に続き今年3回目となる「TechCrunch School」の開催が9月26日に決定した。TechCrunchでは、例年11月に開催する一大イベント「TechCrunch Tokyo」のほか、テーマを設定した80〜100人規模のイベントであるTechCrunch Schoolを開催している。

関連記事
「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1
スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2
スタートアップの初期チーム組成の事例と陥りやすいワナ——TC School #14レポート1
スタートアップのチーム作りを創業者・VC・人材会社が語る:TC School #14レポート2

前回のTC Schoolの様子

9月26日のTechCrunch Schoolは、「チームを深める(エンゲージメント)」をテーマにしたイベントとなり、キーノート、パネルディスカッション、Q&Aの3部構成。

キーノートでは、iSGSインベストメントワークスで代表取締役/代表パートナーを務める五嶋一人氏を招き、これまで手がけてきた投資先スタートアップのチーム育成について語ってもらう予定だ。

パネルディスカッションでは、五嶋氏のほか、AI解析で学習時間を短縮するatama+を大手学習塾などに提供している教育系スタートアップatama plusの創業者である稲田大輔氏、製造業向けカタログサイトやマーケットプレイスの運営を手がけるアペルザでCEOを務める石原 誠氏、そしてエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名で、チーム育成に関わる悩みや問題点を議論していく。

そのあと、来場者を交えたQ&Aセッションを開催する。Q&Aセッションでは、おなじみの質問ツール「Sli.do」を利用して会場からの質問も募集し、その場で回答していく。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のベライゾンメディア・ジャパンのイベントスペース。Q&Aセッション後はドリンクと軽食を提供するミートアップ(懇親会)も予定している。

スタートアップの経営者はもちろん。スタートアップへの転職を考えているビジネスパーソン、数十人の組織運営に課題を抱えているリーダーなど幅広い参加をお待ちしている。なお、今回からは申し込み多数の場合は抽選となるので注意してほしい。当選者には9月16日ごろにメールにて連絡する予定だ。

TechCrunch School #16概要
チームビルディング(3) チームを深める(エンゲージメント)
開催日時:9月26日(木) 18時半開場、19時開始
会場:ベライゾンメディア・ジャパンオフィス
(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
定員:80人程度(申し込み多数の場合は抽選)
参加費:無料
主催:ベライゾンメディア・ジャパン/TechCrunch Japan
協賛:エン・ジャパン株式会社

イベントスケジュール
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート(30分)
19:45〜20:25 パネルディスカッション(40分) Sponsored by engage
20:25〜20:45 Q&A(20分)
20:45〜21:30 ミートアップ(アルコール、軽食)
※スケジュールは変更の可能性があります。

スピーカー
・キーノート
iSGSインベストメントワークス代表取締役/代表パートナー・五嶋一人氏

・パネルディスカッション、Q&A
iSGSインベストメントワークス代表取締役/代表パートナー・五嶋一人氏
atama plus創業者・稲田大輔氏
アペルザCEO・石原 誠氏
エン・ジャパン 執行役員・寺田輝之氏
TechCrunch Japan 編集統括・吉田博英(モデレーター)


申し込みはこちらから

スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた(キーノート講演のレポートはこちら)。

本稿では、パネルディスカッションの模様をお伝えする。登壇者はVoicy代表の緒方憲太郎氏、空CEOの松村大貴氏、STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名。モデレーターはTechCrunch Japan 編集統括の吉田博英が務めた。

パネルディスカッションでは、チーム育成に関わる悩みや問題点について、起業家やVC、それぞれの立場から議論が行われた。まずは各氏から自己紹介があった(STRIVEおよび堤氏の紹介はキーノート講演レポートを参照してほしい)。

寺田氏はエン・ジャパン執行役員および「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャーLENSAの代表取締役を務める。企業が無料で採用ページ作成から求人情報の掲載・管理までできる採用支援ツール「engage(エンゲージ)」に立ち上げから関わり、現在も運営を中心になって行っている。

「求人媒体には求人同士を比較する役割はあるが、それとは別に企業の詳しい情報、採用情報を見るためには、独自の発信の場があるべき」との思いから、2016年にengageを立ち上げた寺田氏。「クックパッドにレシピを投稿できる人なら、誰でも採用ページを作れるようなUIにしている」ということで、手軽に始められることから利用を伸ばし、現在の利用企業数は20万社に上るという。

engageでは、採用情報、求人情報を掲載できるほか、IndeedやGoogle しごと検索など、求人情報のメタ検索サービスに対応したマークアップを実装し、これらのサービスへ求人情報の自動掲載が可能だ。

また付随サービスとして、求職者と録画面接ができるビデオインタビュー機能や、オンライン適性テスト「TalentAnalytics(タレントアナリティクス)」、入社した人の離職リスクを可視化して、対策を提案する「HR OnBoard(エイチアールオンボード)」といったツールを提供。起業したばかりであまり費用がかけられないスタートアップも、採用に加えて入社後活躍まで使えるサービスを無料で利用開始できる。

緒方氏が創業したVoicyは、音声×テクノロジーをテーマとするスタートアップだ。直近のラウンドでは合計8.2億円の資金調達を実施。現在、4つのミッションを持って事業を進めている。

音に関わるインフラ・デザイン・メディア・ビッグデータの4つを通じて、「音声で生活のどこにでもリーチすることができるようになり、今まで端末がなければ情報が得られなかった世界から、普通に生活しているだけで情報を得られる世界を実現しようとしている」と緒方氏は説明する。

もっとも知られている事業はボイスメディアのVoicyだ。「できるだけ簡単に発信ができて、聞けるように、と心がけている。人の生声が聞けることで、その人らしさが一番届けられるメディアになっているのではないかと自負している」と緒方氏は語る。

Voicyには企業チャンネルも多く開設されている。会社のイメージアップや採用活動にも利用されているそうで「組織づくりにも応用できる」と緒方氏は述べている。

外部に発信するチャンネルやコミュニティとは別に、Voicyでは社員だけに届く「声の社内報」もサービスとして提供する。このサービスはVoicy内でも運用されており、30名ほどいる社員の評判もよいとのこと。Voicyでは社長の日報や週次報告などを音声で届けているそうだ。

声の社内報は2000名規模の企業にも実証実験として導入され、社長の音声が何分で離脱されるか、誰が何時に聞いたか、といったデータも収集されつつあるという。緒方氏は声の社内報が「カルチャー共有とエンゲージメント向上につながる」と話している。

はホテル価格のダイナミックプライジングを実現するサービス「MagicPrice」を開発・運営する。CEOを務める松村氏は「空を立ち上げるまではヤフーに勤めており、起業は初めて。部下も持ったことがなかった」と語る。「だから僕は、どうしたら、少なくとも僕が楽しく働けるかを考えた。僕と近い考え方の人がここにいたら楽しいだろう、とか、何人ここにいたら楽しいだろう、といったところを、ゼロベースで考えながら組織を作っている」(松村氏)

そんな松村氏の空が掲げるビジョンは「Happy Growth」だ。「みんな、日々幸せに生きたいはずだが、それを続けていくのは大変。そのために空に集まる個人の人生でも、空という会社自体でも、一緒に実現しようという考え方が『Happy Growth』だ。超楽しく働いて、超幸せと思いつつ、経済的にもすごく伸びているというのを実現して、還元し、社会にも『そうやって生きていっていいんだ』ということを示していく」(松村氏)

「プロダクトを通じてクライアントのHappy Growthも支持する。プロダクトも人事制度も採用の仕方もカルチャーも、ゼロベースで、どうすればベストかを考えながらつくっている」と松村氏は述べている。

空がミッションとするのは「世界中の価格の最適化」。MagicPriceはそのうち、ホテルの料金設定を最適化するプロダクトとしてSaaSで提供されている。

SaaSを運営するには、カスタマーサクセスがカギとなる。松村氏は「カスタマーサクセスには、文化が必要で、大事」と話す。空では、社員のエンゲージメントを確認する組織サーベイを月に1度実施しているそうで、結果は良好だということだ。「特に人間関係や、戦略・理念への共感の値が比較的高いので、より伸ばしていきたい」(松村氏)

松村氏によれば、入社した人材へのオンボーディングプログラムは実施しているが、評価制度の運用や入社後の育成プログラムはまだ実施していないという。松村氏は「アーリーステージだけかもしれないが、組織文化や組織の状態は採用で9割が決まると考えている。また成果・評価を短期的報酬とは連動させないとかたくなに決めている。もうひとつ、完璧な評価はムリという前提で考えるようにしている」と空の評価に対する考え方を語る。

スタートアップでは評価制度はリスクになることも

登壇者紹介の後、ディスカッションが始まった。最初の話題は「メンバーを評価する基準」について。自己紹介で「完璧な評価はムリ」と語った空の松村氏は「評価とはなぜ必要なのかというところから考えたい」と問いかけた。

「起業家は誰からも評価されなくてもモチベーション高く働ける。同様に評価がなくても働ける人はいる。誰も楽しくない評価に時間を割いて、それは何の役に立つのか。空では形だけの評価はせず、成長支援や本人の気づきになる評価だけをするようにしている。コアバリューへの寄与など、定性的で自己判断が難しい部分については数値化して分かりやすくしてはいるが、基本的にはそれほど評価を行っていない」(松村氏)

また松村氏は「チームがワークしていないことを、評価制度やマネジャーのせいにしない方がいい」とも述べている。

「それは採用ミスマッチの問題。それを評価制度で補おうとするのはキツいのではないか。だからスタートアップこそ、1人目の採用からしっかりやらなければ、後で気づいてやり直そうとしても辞めてもらうしかなくなる。採用でマッチングすることを僕の会社では心がけている」(松村氏)

Voicyの緒方氏も、評価を実施すること自体の価値について、このように述べている。

「大企業に所属していたこともあるので、組織で人を動かすためには評価が必要かもしれないとは思う。ただスタートアップの場合は、そもそもやる気満々で来ている人たちが働いている。だから評価によってさらにお尻をたたくことで、燃え尽きてしまう恐れがある。またスタートアップには『がんばっていることを認めてもらいたい』という自己承認欲求の強いメンバーが集まりがちで、『評価が平等じゃない』といってもめる可能性の方が高い。だから評価を取り入れることで起こるリスクの方が高いというのが僕のイメージ」(緒方氏)

緒方氏は「基本的には評価と報酬は連動させない」と話している。「スタートアップでは外部との相場が全然違う。そこで評価と報酬を連動させるとおかしなことになってしまう」(緒方氏)

これらの前提を踏まえた上で、Voicyでは「評価は本人にしてもらっている」と緒方氏はいう。

「自分で自分を評価することは必要。僕が今までいた会社では、評価する側とされる側に共通の尺度がないことが多かった。評価する側のリテラシーが低いことも多く、低いレベルで仕事の評価が行われている。Voicyでは、今いるメンバーに、3年後には会社を支えられる強いメンバーになってほしいと考えている。だから、自分で自分のことを評価できる力を付けてほしい」(緒方氏)

自己評価に対しては「なぜそう評価したのか」を確認し、「僕はこう思う」とフィードバック。「個人の能力アップのための評価」になるようにしていると緒方氏は説明する。

「Voicyはフィードバックをする文化がすごく強い。1日体験に参加した人からびっくりされることもあるほど。行為を判断することはよいことだ。ただ、それにより、その人を査定する必要はないと思っている」(緒方氏)

STRIVE共同代表パートナー 堤達生氏

STRIVEの堤氏は、VC組織での評価について、以下のように打ち明ける。「プロフェッショナルファームなのでスタートアップとは環境が少し違うと思うが、日本人に比べて外国人がすごく評価してもらいたがるので、いつも悩む。フィードバックだけでなく、次の給与など、具体的に明確に評価しなければならない。コミュニケーションのひとつとして、評価を行わなければすぐ辞めてしまうこともある」(堤氏)

評価基準については「VCは個人事業主の集まりと思われがちだし、もちろん個人の力は大きいが、実はチームにどれだけ貢献しているかという点を最も大事にしている」という堤氏。「投資件数が多くても、チームに貢献していなければ『自分のことしか考えていない』として、評価がディスカウントされる」と話している。

エン・ジャパンはすでに日本で1500人、世界で4000人規模の従業員を抱える規模となっていることから「評価を回さなければ(組織が)立ち行かない」と寺田氏。評価で気になることは「みんな評価されるとなった途端に、急に『俺のことをどう思っているのか』という“for me”、自分のことになる点」だという。

エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

「同じミッションや目的に向かって仕事をしていく中で、個人の評価とはある意味、プロダクトや事業への評価と同じ。そこと連動して初めて評価が決まるというのが本来の姿。『事業やプロダクトに対して自分は何ができるのか、何をやっていくべきか』という視点で目標設定を行い、言語化することで“for me”から“for product”“for business”へ目線が向かうようにすることを繰り返して、評価への納得度が高まるようにメンテナンスはしている」(寺田氏)

寺田氏には、緒方氏から「評価制度を設計するときに、参考にしたい」と質問があった。質問は「本来は絶対評価で、その人の行為に対する評価が望ましいはずだが、『あの人より自分の方ががんばった』といった相対評価の方がやる気が出る、という人が相当多い。相対評価的な要素も加味して取り入れるべきか」というものだ。

寺田氏は「最終的には相対評価も入ることは否めない」としながら、「でも評価の対象はがんばったか、がんばっていないかではない。自己基準ではなく、設定されているものに対しての評価」と説明している。

エン・ジャパンでは、業績に対する評価と、ミッションやビジョンへのコミットやスキルへの評価を分けているという。「業績評価への報酬については、良かったタイミングでボーナスとして支給する。考え方やカルチャー、スキルの部分については能力・グレードとして基本給に反映している」ということだった。

メンバーのグループ分けとコミュニケーション

続いての話題は「メンバーをグループに分けていくときに気をつけていること」、そして「グループ間のコミュニケーション」についてだ。

「Voicyではプロダクトで3つに部署を分けている。法人向け、個人向け、そして会社自体もひとつのプロダクトと考えて『自社向け』の3グループだ」と緒方氏は現在の体制について説明。部署間での人材ローテーションは積極的に行っているそうだ。

「グループ意識が付かないように、安心している暇がないぐらいに、どんどん変えている。ただし能力が偏っている人は1部署にとどまることもあるので、その場合は役割を変えるようにしている」(緒方氏)

緒方氏は「会社というコミュニティを『七輪』に例えて考えている」という。「七輪の上でうまく焼き肉を焼きたいと考えて、火が盛んに付いている炭があったら少し端の方によけておいて、その隣にまだ火が付ききっていない炭を置く。これから赤くなりそうだな、という炭は風通しのよいところに置く。そんな感じで人を配置していくようにしている。『いま一番燃えているな』という人をサポート側にさっと回す、ということは意識してやっている」(緒方氏)

空CEO 松村大貴氏

空の松村氏は「SaaSビジネスをやっていると、マーケティング、セールス、広報、デザイナー、エンジニアと、本当に多様な職種の人が集まる」と話す。

そんな中で「人に気を遣わないグループ分けを心がけている」という松村氏。「誰かへの温情で今のポジションに残す、といったことにならないように、合理性を重視している」と話している。合理性重視で意思決定をする会社だということは、入社の際にも伝えているそうだ。「役割が変わってもいいよね」と採用時に確認した上で、グループ分け、配役をしているという。

松村氏には、コミュニケーションについては悩んでいる点があるらしい。「SaaSは総力戦。どれか1つだけがよくてもうまくいかず、プロダクトからマーケティング、カスタマーサクセス、全部整って初めて伸びていくサービスだ。そうした中で、公式なミーティングをどう持つかで、少し悩んでいる」(松村氏)

一方で「非公式なコミュニケーション」は勝手にやってくれていると松村氏。「そこは職種や意見は違っても、根底でビジョンには共感しているからだと思う。人生観・価値観が合う人を面接で採用することによって、意見は割れることがあっても、基本的には信じられる人の集まりになっている」(松村氏)

堤氏のSTRIVEには、投資とバリューアップの2つのチームがある。「小さい組織だからカルチャーフィットを大事にしている」という堤氏は「VCでは論文採用などが進んでいるが、僕らは時代に逆行している(笑)。面接の回数は多いわ、ケーススタディーは実施するわで、会食も内定前提でなくても、飲んだりしながらその人の生い立ちを聞くといったことをやっている。最初の採用時点でのセレクションはすごく大切にしている」と語る。

コミュニケーションに関する堤氏の最近の悩みは、投資チーム以外にも人が増えていくステップで、「一般的な会社っぽい」人たちといかにプロジェクト単位でうまく融合させるか、それぞれをどう盛り上げていくか、という点だそうだ。

寺田氏からも「グループ分けで悩むことは確かにある。ただ採用の段階で先に悩んでおいた方がいい」と採用時の選択の重要性について発言があった。「カルチャーフィットしない人を入れると、どうしてもうまく回らなくなってしまう。そこを基準にしてチームを考えると、本質的でないところへ意識がいってしまうので、まず採用の段階でカルチャーフィットや目的に対する共感を第一指標にすべき」(寺田氏)

その上でグループを分けるとき、寺田氏は「メンバーシップ型の『人に仕事を割り振っていく』形で組織を作るケースと、ジョブ型の『仕事に人を付けていく』ケースとで、分け方を多少変えている」という。

「メンバーシップ型の場合は、人の性格・価値観のバランスを見て、チームとして協調しながら進むようにグループ分けをしていく。ジョブ型でそれぞれのミッションが決まっている場合は、パフォーマンスの塊で分けている」(寺田氏)

採用・育成・評価、それぞれの考え方

最後のお題は「会社の規模によって評価基準は変わるかどうか」。松村氏は、今後規模が大きくなっても「どこまでそういった制度なしで、今のまま伸ばせるかチャレンジしたい」と語っている。

「当然、採用と育成のコストパフォーマンスは変わっていく。今は採用の方がコスパがよいが、確かにそのうち育成の方がコスパがよいような人数拡大ベースになっていくかもしれない。ただ、評価制度が必要なほどコミュニケーションがうまく回らなくなってきた、とか、評価制度が浸透していないとみんなの方向性が分からなくなる、というのは全て、採用時点の妥協からスタートすると思っている。だから、どこまでこだわりの採用を、手を緩めずにやれるか粘ってみたい」(松村氏)

こうした観点から、空では「新卒はしばらく採らない」という松村氏。育成しなくてもスター、という人材を集めるスタイルを当面続けていく考えだと話す。

人材採用においては、空は「21歳から59歳まで多様。年齢に関係なく、ビジョンに共感してくれる人を採用している」と松村氏。今は「マネジメントだけができる経験者はいない。人材をケアしてくれる人と、仕事のディレクションをする人、重要な意思決定を責任を持ってやってくれる人、これらの役割は必ずしも全部同じ人がやらなくてもよいのではないかと考えているので、『マネジャー職』ではなく、役割分担をしている」と話す。

「ただ、長期間、多くの人数や予算を使って成果を出すときに、ディレクター的な役割は必要かと考えている。それができる人を今増やそうとしている段階だ」(松村氏)

Voicy代表 緒方憲太郎氏

松村氏とは対照的に、緒方氏は「育成する気満々」だそうだ。新卒でも1名採用を行ったという緒方氏は「自分の会社でみんなが伸びたらうれしい」と述べている。

「うちで育てる、という会社が増えないと、日本の経済が伸びない。新卒から、日本経済まで支えて『税金を多めに払ったってかまわない』というぐらいのマインドを持つ人たちをつくるということは、スタートアップが一番やらなければならないんじゃないかと思う」(緒方氏)

緒方氏は、社員には「全部の時間を3分の1ずつに割って、3つの時間の使い方をしてくれ」と話しているという。「1つは自分のアウトプットとバリューを出すこと、1つは組織に対してバリューを出すこと。最後の1つは会社の投資として、本人の成長につながり、個人では受けられない挑戦の場を提供している。挑戦にトライすることで、自分のアウトプットとバリュー、組織へのバリューを増やせれば、会社としてはもっと挑戦できる。挑戦をどれだけ提供できるかが、Voicyの価値だと思っている」(緒方氏)

「評価についても既に変えようとしている」という緒方氏。30人規模となり、平均年齢もぐっと上がる今のタイミングで、海外でも戦えるように集まる人に合わせて「評価が必要」と判断した。ただし「評価をすることが大事なのではない」と緒方氏は続ける。

「日本型の評価は『後払い』っぽい。今までがんばってきたことに『がんばってきたよね』とするものだが、Voicyではそれをする気は全くない。今まで100の仕事をしていた人に『あなたは120の仕事ができるから、次の給料はこれ』として、次にお願いする仕事に対して報酬なり立場なりを提供する形が正しいと思う。『この給料でこの仕事』と任せておいて、その人がアンダーパフォームだったとすれば、それは経営者の投資ミス。プレイヤーの方に責任を負わせるのは違う。だからこそ、与える仕事の評価、能力値算定ができなければいけないと思っている」(緒方氏)

緒方氏からは、「会場に来ている人の参考になれば」ということで「スタートアップの組織論」についても話が挙がった。緒方氏はスタートアップの組織を「火が付いたろうそくで調理をしている状態」と例える。

「一番適正な火の量で料理ができるわけで、ガンガン火をたいたところで料理はできないかもしれないけれども、火力が小さくてもダメ。そこで火力を大きくしようとすると、ろうそくはどんどん減っていく。みんなに給料をすごく出して『いい会社です』なんてやっていても、火だけが強くなって、すぐにろうそくはなくなってしまうかもしれない。それを上にある料理にピッタリな火力にして、そのときのろうそくの量で上にできた料理を見せながら『もうちょっとろうそくを足したい』と訴えてろうそくを足す、という強弱の調整をしているのが経営者だ」(緒方氏)

緒方氏が起業しようと考えて、社長の話を参考にしたスタートアップのうち、もう半分ぐらいはいなくなっているという。「どんなにきれい事を言っていても組織として成り立たなければ意味がない」と緒方氏はいい、「社長がやるべき方向性は大きく2つある」と話している。

「ひとつは適正なバランスで事業モデル、組織モデルをつくっていくこと。もうひとつは圧倒的に粗利率の高い事業をつくること。見ていると『圧倒的に粗利の高い事業で売って、きれい事を言う人』と『きれい事は言わずにバランスをすごくチューニングしていく人』の話しか、ほとんど参考にならない」(緒方氏)

こうした考え方は組織づくりでも大切だと緒方氏は訴える。「今ファイナンスがどれくらいできるか、人事マーケットがどれくらい逼迫している、または余裕があるかによって、ろうそくの火力を変えていく必要がある。今でいえば、エンジニアがいなければ事業がつくれないという世の中になってきていて、エンジニアが全然足りないというリスクがある。いわばエンジニアが巨神兵みたいなもので、入れないと戦えないが、扱いが難しいといったところ。だが、ビジネスサイドだけでなんとかしようとしても、事業としてのアップセルは望めない」(緒方氏)

そこで人に費用を投下していくのだが「その時に、ろうそくを火に変えてその場の熱とするフローに使うことのほかに、ストックとして組織の体力のほうに持っていくことも考えなければならない」と緒方氏。「長期的に、将来もっと大きくなったときのための仕込みが必要になってくる。フローの部分だけ見てうまくいっているように見えるところでも、ストックの部分がスカスカという事業もすごくある」と語る。

緒方氏は「今、自分たちのステージがどこなのかを考えて、ストックに積み込むモデルでやっているからこそ、人を育てること、育てる力がある人をつくるということを大事にしている」とVoicyでの組織づくりについて言及する。

「スタートアップの中で組織を考える場合、ビジネスモデルにメチャクチャくっついている。また、労力をつぎ込んでも、スカることもある。そんな中で僕が気をつけていることは『事業が分からない奴に組織はつくらせない』ということだ。組織をたくさん見てきただけで『組織については任せろ』といってジャブジャブ採用だけしているような人を入れると、いつの間にか会社がスカスカの骨だけになってしまう状況になるので、そこは気をつけた方がいい」(緒方氏)

「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

本稿では、そのうちのキーノート講演をレポートする。登壇者は、グリーベンチャーズで共同代表であり、ベンチャーキャピタルSTRIVEを立ち上げた堤達生氏だ。堤氏には「アーリーステージ企業が陥る成長痛について」と題して、これまでに手がけてきた投資先スタートアップに見られる成長過程での“痛み”と、チーム成長で重視すべき点について語ってもらった。

3年目に消え始める「スタートアップの魔法」

まずは自己紹介も兼ねて、STRIVEと堤氏の経歴について説明してもらった。

STRIVEは、堤氏が天野雄介氏、グリーベンチャーズとの共同事業として設立したベンチャーキャピタルだ。5月14日には新ファンド「STRIVE III」がファーストクローズを迎え、運用を開始した。現在、新ファンドも含めて3本のファンド、合計220億円を運営しながら、引き続き資金を調達中だ。

STRIVEでは、シリーズAを中心としたアーリーステージのスタートアップへ2億〜5億円のサイズで投資を行っている。リード投資、かつハンズオン投資を特徴とし、採用支援も含め、熟練メンバーが経営者支援まで実施する。

堤氏は、20代前半はシンクタンクで経営コンサルタントとして、後半はグローバルブレインでアソシエイトとして働き、30代からは「事業をやりたくなった」とのことで、サイバーエージェントでベンチャーキャピタル事業も含む金融事業の立ち上げに参画。その後リクルートで新規事業開発部門に参加して「事業の作り方を学んだ」という。リクルートではコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運用にも従事していた。

グリーには2011年ごろ参加し、CVC事業を立ち上げ。そして2014年、グリーを辞し、グリーベンチャーズとのジョイントベンチャーの形で、ファンドを設立、現在に至っている。
堤氏の投資先スタートアップの事業分野は幅広い。SaaSへの投資が多いが、メディア、マーケティング、ビデオやライブ、Eコマースなど多岐にわたっている。堤氏は「起業して投資家を選ぶときには、パートナーの得意分野、何に興味を持っているかを調べてから相談すれば、無駄な時間をショートカットすることができる」と話している。

STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏

自己紹介に続き、堤氏からはスタートアップにおける「3年目の魔法」について解説が始まった。スタートアップにとっての魔法とは「創業初期の頃のワクワクした気持ちや、やってやるぞといった感覚」のこと。堤氏はその“魔法”が「だいたい創業3年目で消え始める」という。

3年目というと調達ステージでいえば、シードからシリーズAラウンドにあたる時期。「何となく思っていた成長とは違う」「VCや自分たち自身の期待していたものと成長とのギャップを感じる」と、少しずつ苦しみ始める企業が増える時期だと堤氏は話している。

「かつてのグリーや最近のメルカリなど、テンポよく成長する企業はごくまれ。大半のスタートアップは勢いで3年目を迎えた後、いったん成長の踊り場を迎える。この踊り場のことを“3年目の魔法が消える”といった表現をしている。いわゆる“成長痛”のようなものだと理解してもらえばいいかと思う」(堤氏)

ではその“成長痛”の症状とは、どういったものなのだろうか。堤氏はいくつかの典型的な症例を挙げる。

1つ目は「人員は何となく増えているが、隣の人が何をやっているのかよく分からなくなってくる」というもの。30人〜50人規模の組織になってくると起こり始めると堤氏はいう。

2つ目は「創業メンバーと新規メンバーの確執」。例えば「あいつは仕事はあまりできないのに、初期メンバーだから取締役に収まっている」といった不満が新たに参加したメンバーから出るというものだ。堤氏によれば、これも「メチャクチャよくある」症例だとのことだ。

「鳴り物入りで入った幹部社員がワークしない」という例も多いという。Googleなどの有名企業から“優秀な人材”として移籍した人物であっても、アーリーステージのスタートアップにフィットするのは、なかなか難しいと堤氏は述べている。「大企業の中でスター社員だったとしても、スタートアップで成功することとは必ずしもリンクしない。『意外とワークしない』という感想になるのは、採用のときの期待値とのズレの問題でもある」(堤氏)

また「経営者がイベントなど外部のネットワーキングには熱心になるが、内部とのコミュニケーションがだんだん減って『最近社長とあまり会話できていない』『社長がオフィスにいるかいないか、よく分からない』となることもよくある」そうだ。

これらの状況の結果は成長率に現れると堤氏はいう。3年目までは劇的に成長していた企業であっても、成長の鈍化が見られるようになる。

「これは起業家には気をつけて欲しいことだ」と堤氏は、その成長鈍化の理由について、以下のように説明する。「成長市場を狙って起業すること自体はよいけれど、市場の成長と企業の成長は必ずしも一致しない。市場の成長率が10%で、自社の成長率も10%だったら、それは成長していないことになる。マーケットの伸び率に乗っかっているだけ。マーケットの成長が鈍化してしまうと、その会社の成長も止まってしまう」(堤氏)

組織が大きくなり、人が増えることを喜んでばかりもいられない。「気が付くと意外に生産性が下がっていて、1人当たりの売上高が前年より低くなっている」ということも、よく見られると堤氏はいう。

これらの症例には、多くのスタートアップが直面すると堤氏は述べている。「すべての企業とは言わないが、自分が見ている投資先でも7割ぐらいは、このうちの何かしらの問題にぶつかっている」(堤氏)

成長痛を意識したら3つの問いに立ち返る

スタートアップの魔法が解けたとき、経営者が口にしがちなのが「最近チームがワークしていないんですよね」というセリフだと堤氏は続ける。

「経営者は責任回避で言っているわけではないと思うが、チームがワークしないのは、そもそも採用した人が間違っているのが原因。なぜ採用してはいけない人を採用してしまうのか。それは採用戦略がブレているからだ」(堤氏)

戦略を決めたのは、他ならぬ経営者自身のはず。社員が増えても売上は思ったより上がっていないという状況になるのは、「チームや個人の問題というよりも、そもそも戦略に問題があるから」と堤氏は話している。

では、どうすれば戦略のブレを起こさずに済むのだろうか。堤氏は3つの基本的な問いに立ち返るべき、と次の項目を挙げた。

この3つの質問は、堤氏が投資をする前に必ず起業家にするものだという。「これらにスパッと答えられれば、すぐにも投資したい」という堤氏。そして、同じ問いをスタートアップの魔法が切れかかったときや、経営者が悩んでいるときに、あらためて確認するとよいと述べる。

「特に1つ目の問いは一番重要。『この会社の提供価値は何か』ということだが、ここがグレーになっているとブレる。勢いよく成長していくにつれて、経営者のやりたいことはどんどん広がっていく。広がること自体はよいが、その分どうしても密度が薄くなっていく。そうなると、そもそも自分が何がやりたかったのか、提供する価値は何なのかがぼやけ、戦略がブレていくことに重なっていく」(堤氏)

先に挙げた成長痛の症例が出てきたと感じた場合には、自分が何屋なのか一言で言えるかどうか、自問自答してみて欲しいと堤氏は話している。

アーリーステージでは育成よりカルチャーづくりを重視する

堤氏は「今日のテーマからは少し外れてしまうかもしれないが、3年から5年のアーリーステージのスタートアップでは、『チームを育てる』ことを考える余裕はない」と述べている。

それでは、経営者は何をすべきなのだろうか。堤氏はまず「ビジョン・ミッションをつくり、浸透させること」を挙げる。

「メルカリなどがうまいところだが、いかに文化をつくり、浸透させられるかどうかが重要。これにのっとって採用基準も決まってくる。みんな『スキルで採用してはダメ』と頭では分かっていると思うけれども、学歴や職歴でどうしても見てしまいがち。ビジョン・ミッションをつくって、そこに合う・合わないというのを採用のもっとも大切な評価基準にしていけばよいのではないかと思う」(堤氏)

次いで堤氏が経営者がすべきこととして挙げたのは「自分にとって大切な人順のリストをつくること」。「誤解を招く表現だけれども」と断りつつ、堤氏がその詳細について説明した。

「社員に順番をつける、ということを経営者には必ずやってほしい。というのは、正直に言って、会社がずっとうまくいくとは限らないので、常に入れ替えをしていかなければならない。場合によってはリストラしなければならないこともある。またそうした状況でなくても、常に『自分にとって何が本当に必要なのか』を考える意味でも、人に順序を付けてほしい」(堤氏)

社員が100名規模を超えたら、自分が見える範囲で順序を考える、といった形で応用していってもよいとのこと。「嫌な言葉に聞こえるけれど、これは本当にやっておいた方がいい」と堤氏はいう。

カルチャーづくりの方法としては、STRIVEの投資先でもあるRettyの行動指針づくりのケースが挙げられた。企業の成長ステージによって重視する点も変わるため、Rettyでは2年ごとに行動指針を更新しているという。

行動指針は、幹部社員だけではなく全社員(約100人)でつくるそうだ。顧客やプロダクトなどの課題感について「考えさせて、意見をアウトプットさせること」が大切で、業務とは異なる組み合わせでプロジェクトチームを組み、つくるという。

そこで出し合ったアウトプットは、合宿形式で全員でシェアし、集約してだんだん形にしていく。また、形にした行動指針を「どうやって浸透するかを全員で考える」ことが、もっとも大事だと堤氏。Rettyでは「壁に貼るとかいうことだけではなく、評価や採用、ビジネスモデルにどう反映するかをみんなが考え、浸透させている」ということだった。

評価制度をつくる代わりにRettyでは、カルチャー、行動指針に合っているかを判断基準にしていた時代もあったそうだ。「細かい評価制度をつくっても、30〜50人規模のアーリーステージの企業ではほとんどワークしない。カルチャーをつくりあげて、それに合うか合わないかで判断するのがよいと思う」と堤氏はいう。

またメンバーの育成についても「小さな組織では難しい」と堤氏。「特にアーリーステージでは育成や評価制度を考えるより、全社にカルチャーを浸透させた上で、それぞれのメンバーにチャレンジングな仕事をいかに用意できて成長させられるかが大事なのではないか」と話していた。

6月20日開催のTC SchoolにSTRIVEの堤氏が登壇、テーマは「チームビルディング(2) 〜チームを育てる〜」

4月開催の第14回に続き、6月20日に第15回で今年2回目の「TechCrunch School」の開催が決定した。TechCrunchでは、例年11月に開催する一大イベント「TechCrunch Tokyo」のほか、テーマを設定した80〜100人規模のイベントであるTechCrunch Schoolを開催してきた。

前回の4月10日のTechCrunch Schoolは、スタートアップのチームビルディングに焦点を当てた全4回のイベントの1回目。テーマは「チームを集める」で、起業時の創業メンバー、会社設立後に早期に入社した初期メンバーのあとに必要となる中核メンバーの採用に焦点を当てた。

今回はこの全4回のシリーズの2回目となり、テーマは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」。イベントは、キーノート、パネルディスカッション、Q&Aの3部構成となる。

キーノートでは、グリーベンチャーズで代表パートナーを務め、5月14日からは新しくベンチャーキャピタルファンドとしてSTRIVEを立ち上げた堤 達生氏を招き、これまで手がけてきた投資先スタートアップのチーム育成について語ってもらう予定だ。

パネルディスカッションでは、堤氏のほか、ボイスメディア「Voicy」を開発・運営するVoicyで代表を務める緒方憲太郎氏、ホテル価格のダイナミックプライジングを実現するサービス「MagicPrice」を開発・運営する空でCEOを務める松村大貴氏、そしてエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名で、チーム育成に関わる悩みや問題点を議論していく。

そのあと、来場者を交えたQ&Aセッションとミートアップを開催する予定だ。もちろんQ&Aセッションでは、おなじみの質問ツール「Sli.do」を利用して会場からの質問も募集して、その場で回答する予定だ。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のVerizon Media/Oath Japanのイベントスペース。セッション後はドリンクと軽食を提供するミートアップ(懇親会)も予定している。

スタートアップ経営者はもちろん。スタートアップへの転職を考えているビジネスパーソン、数十人の組織運営に課題を抱えているリーダーなど幅広い参加をお待ちしている。

TechCrunch School #15概要

チームビルディング(2) 〜チームを育てる〜
開催日時:6月20日(水) 18時半開場、19時開始
会場:Verizon Media/Oath Japanオフィス
(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
定員:80人程度
参加費:無料
主催:Verizon Media/Oath Japan
協賛:エン・ジャパン株式会社

イベントスケジュール
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート(30分)
19:45〜20:25 パネルディスカッション(40分) Sponsored by engage
20:25〜20:45  Q&A(20分)
20:45〜21:30 ミートアップ(アルコール、軽食)
※スケジュールは変更の可能性があります。

スピーカー
・キーノート
STRIVE代表パートナー・堤 達生氏

・パネルディスカッション、Q&A
STRIVE代表パートナー・堤 達生氏
Voicy代表・緒方憲太郎氏
空CEO・松村大貴氏
エン・ジャパン 執行役員・寺田輝之氏
TechCrunch Japan 編集統括・吉田博英(モデレーター)


申し込みはこちらから

スタートアップのチーム作りを創業者・VC・人材会社が語る:TC School #14レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」の新シーズンが4月10日、スタートした。新シーズンは、スタートアップのチームビルディングをテーマに、全4回のイベント開催が予定されている。

今シーズン初回、そしてTechCrunch School通算では14回目となった今回のイベントは「チームを集める」が題材。起業時の創業メンバー、設立後の初期メンバーに続く中核メンバーの採用に焦点を当て、講演とパネルディスカッションが行われた(キーノート講演の模様はこちら)。

本稿では「TechCrunch School #14 Sponsored by engage」のパネルディスカッションの模様をお伝えする。登壇者はMeily代表取締役CEO 川井優恵乃氏、レキピオCEO 平塚登馬氏、インキュベイトファンド ジェネラルパートナー 村田祐介氏、エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏の各氏。モデレーターはTechCrunch Japan 編集統括の吉田博英が務めた。

スタートアップ、VC、人材会社に聞くチーム組成

Meilyの川井氏とレキピオの平塚氏には、アーリーステージのスタートアップ経営者として、今まさに行っているメンバー集めの状況や課題について、赤裸々に語ってもらった。また、キーノート講演にも登壇した村田氏とエン・ジャパンの寺田氏からは、これまで数多くのチームビルディングや採用の事例を見てきた経験から、アドバイスをうかがった。

まずは各氏から自己紹介があった(村田氏とインキュベイトファンドの紹介はキーノート講演レポートを参照してほしい)。

トップバッターはエン・ジャパンの寺田氏だ。寺田氏は2002年、当時スタートアップだった人材サービスのエン・ジャパンに入社し、現在は執行役員を務めている。また2018年に設立されたLINEとのジョイントベンチャーで「LINEキャリア」を運営するLENSAの代表取締役にも就いている。

エン・ジャパンでこれまでに「エン転職」「キャリアハック」「カイシャの評判」といったウェブサービスを立ち上げてきた寺田氏が、現在力を入れているサービスは「engage(エンゲージ)」だ。

2016年に「3人でプロダクトを立ち上げた」というengageは、企業が無料で独自の採用ページが持てる採用支援ツール。「求人情報が広く届けられるように、企業にもっと情報発信してもらいたい」という思いから生まれたそうだ。

「立場上、採用側、求職者の両方から話を聞くが、採用する側からは『なかなか採用ができない』、求職者からは『人材サービスに登録されている求人しか、選択肢がない』という声が多い。それならば、求人したい企業が自社の採用情報をもっと発信できるようにすれば、求職者にとっても良いのではないか、と考えたサービスがengageだ」(寺田氏)

engageは現在19万社が利用中で、今では、毎月1万社ベースで増加しているという。

engageでは、自社独自の採用ページ作成ツールのほかにも、遠隔地や時間が合わない求職者とのビデオ面談ツール「Video Interview(ビデオインタビュー)」や、自社とのカルチャーフィットを数値で可視化できる適性検査「Talent Analytics(タレントアナリティクス)」、入社後の早期離職を防止する「HR OnBoard(エイチアールオンボード)」といった採用支援ツールも提供する。また、Googleの検索結果やIndeedなどのサイトにも、求人情報が自動掲載されるようになっている。

寺田氏は「engageは人材を集めるだけでなく、定着までの採用支援ツールをワンパッケージで提供している。ずっと無料で使えるので、これからチームづくりを行うスタートアップにはぜひ、お勧めしたい」と話す。

続いて紹介があったのは、レシピアプリを提供するレキピオの平塚氏。アプリ「レキピオ」は、いま家にある食材を選ぶと、AIがメニューを提案してくれるというものだ。

和食、洋食などの好みや食事の相手、人数といった条件を選べば、登録した食材とあわせて推測を行い、メニューが提案される。料理を選択すると、詳しいレシピとともに足りない食材が表示されるので、買い物にも便利。選んだメニューを実際に作るときには、食材を使い切ったかどうかをチェックすることで、次のメニューを考えるときに生かすことができる。

平塚氏は京都出身で先月大学を卒業したばかり。在学中にレキピオを設立して、現在約1年半が経過したところだ。2018年の秋にシードラウンドで合計約5000万円を資金調達し、現在は東京で事業を展開している。

最後にMeilyの川井氏が自己紹介。Meilyは美容医療のリアルな情報を得られるサービス「Meily」を提供している。川井氏は自身が美容整形を行っていて「合計500万円ぐらい、(自動車の)LEXUSが買えるぐらい費やした」という。

「美容医療の利用者は日本では少ないのではないかと思われているが、実は整形大国と言われる韓国よりも日本の方が施術件数は多く、しかも年々成長している」と川井氏。「美容医療の市場規模が年間7200億円、そのうち約20%が広告に投下されると考えると、およそ1400億円〜2000億円のマーケットがある」と同氏は分析している。

容姿について「コンプレックスをなくして生きたい」と美容整形を決意した川井氏は、情報収集を始めたのだが、検索サイトではクリニックのホームページや広告ばかりが表示され、「二次情報に対する不信感が否めなかった」と語る。またクリニックへカウンセリングに通っても「医師や看護師の言うことも信じられない」状況。実際に顎の施術後に2カ月間、顎が長い状態が続き、医院から「大丈夫」と説明されても、ずっと不安を感じたまま過ごしたこともあるそうだ。

「美容整形をするユーザーは、実際に施術を受けた人の意見が知りたいんです」と語る川井氏。情報収集を行うため、TwitterやInstagramで自身も情報発信を行っていたそうだが、まず「検索に情報が引っかからない」、そして「SNSでは質問しづらいし、したとしてもフォロワー数が少ない人では回答が得にくい」、さらに「症例は、知っている病院のホームページで見るしかなく、探しづらい」という3つの課題があることが分かったという。

この3つの課題を一度に解決できる、「美容医療情報の検索」「ユーザー同士のQ&A」「クリニックの症例紹介」機能を備えたアプリとして、Meilyは2018年4月に作られた。

欲しい人材、機能を手に入れるためには

パネルディスカッションは、まずレキピオ平塚氏、Meily川井氏にチームビルディングに関する質問に答えてもらい、採用の専門家である村田氏、寺田氏からは、それに対して経験談やアドバイスをもらうという形で進められた。

最初の質問は「会社をどれぐらいの規模、人員にしたいと考えているか」というもの。平塚氏は「世界のリーディングカンパニーを目指すというビジョンを掲げているので、規模には際限はない。できる限り高みを目指したい」と回答した。

レキピオCEO 平塚登馬氏

とはいえ「直近の話で言えば、少数精鋭にしておきたい」という平塚氏。「現在、副業なども含め、全部で10人ぐらいの従業員がいるが、今はちょっと会社規模に対して大きいのでは、という状況。人員を増やしすぎると意思決定がふらつくし、マネジメントコストもかかる。人数が少ないときの方がスピードが出るな、ということは感じている」として、「会社の規模自体は今後大きくしていくが、比較的、少数精鋭になるようにしていきたい」と述べている。

初期メンバーの人員について、村田氏は「理想は社長がコードを書けること。1人フルスタックの人がいれば、意思決定に迷わずに、すごく簡単にプロダクトが作れる。最低限のコードが書ける人が何人もいるよりも、スカッとプロダクトが作れる人が1人いれば、少数精鋭も実現できる」と話す。

「最近ではクラウドソーシングも便利になってきている。ルーティンワークについては『顔が見えなくてもいい』と割り切って、そういう人へ振るのもよいのではないか」(村田氏)

川井氏は「会社規模、人員についてはそれほど深くは考えていない」と言う。現在Meilyには、フルタイムで川井氏を含めて7名がいる。

大学在学中だった創業時、理系学部の友人にもエンジニアの紹介を頼んだそうだが「(学業など)タスクが多すぎて無理」と断られ続けた川井氏。創業メンバーは、イケメン探しに使っていた「Tinder」で見つけたという。そのチームの作り方も独特だ。

「Tinderで肩書きに“UX/UIデザイナー”と書かれた人を見つけて、スーパーライク(超いいね)を送った。返信が来たので『アプリを作りたいので、会って話を聞いてください』と言って会い、企画書を見せたところ、興味を持ってくれた。何度もディスカッションを重ねていくと、その人が『実はチームを持っている』と言うので、最後はチームごと引き抜いた」(川井氏)

川井氏が今後募集したい人材は、マーケティング担当者だという。

「どのスタートアップに聞いても、マーケティング担当はみんな探している。ゼロイチのフェイズに参加してくれる人で、数字を見て改善ができ、どのチャネルを使えばいいか選定できる人は、本当にいない」(川井氏)

村田氏は、ネットを使ったプロダクトのマーケティング手法に関しては「Googleでアカウントエグゼクティブをやっているような人に、一度方法を聞ければ、ずっと使える知識が身につく」として、採用するというよりも、知識のある人にレクチャーを受けることを勧めている。

Googleのリスティングにせよ、FacebookのAdネットワークにせよ、やり方が分かれば、後はひたすら運用するだけだという村田氏。「効率的なCPAへ落とし込むためのゴールは確実にある。フレームワークを一度作れば、誰でも回せるようになる」と話す。

またクリエイティブの選定に関しても、広告配信のパターンと同様にいくつかのパターンを用意してテストを行い、効率の良いものだけを残すということを繰り返していけば、パフォーマンスの良いものだけが残っていく、と村田氏。「それを実施するだけでも、とてもいいマーケティングになる」という。

今後募集したい人材へ話を戻そう。レキピオでは「僕がビジネス面やマーケティングを1人で担当しているので、エンジニアをひたすら集めている」と平塚氏は言う。

「特定の技術スタックにはこだわらない。初期のスタートアップにエンジニアとしてジョインしようと思ってくれる人なら、熱量は間違いなくある。開発環境も悪い状況で入ろうと思ってくれている時点で、スキルはあると考えている。例えばJSしか業務で使っていなかったとしても、そういう人はバックエンドも書けるようになる」(平塚氏)

寺田氏は、エンジニア採用のコツについて、このように説明している。

「1カ所に掲載された採用情報を見ただけでは、エンジニアも企業を判断できないはず。だから、いろいろなところで、いろいろな角度から情報を出しておくことが大事だ。今いるエンジニアたちが、どういう人が良くて、どういう人はちょっと違うと思っているのかをブレストして出してみると、何となく自分たちが評価する/評価しないエンジニア像が分かってくる。そこで分かった『求めるエンジニア像』や、用意している環境、やっていきたいことを、場を持って発信していくといい」(寺田氏)

みんなが利用するサービスでのスカウト合戦よりは、そこで興味を持ってくれた人に、より深く理解してもらえる場へ誘導して、説得することが大切、という寺田氏。「これはエンジニアに限ったことではなく、採用の悩みを抱えている企業が取るべき、基本的なスタイルだ」と述べている。

カルチャーフィットは“間”で見極める

平塚氏は「どんなエンジニアでも採用したいというわけではなく、今のメンバーと仲良くできなさそうであれば、どれだけ技術スタックが高くても採用しない。チームブレーカーではない、“いい奴”を探している」という。

ではスタートアップの人材採用では必ずというほど課題に挙がる、採用候補者とのカルチャーフィットの見極め方はどのようにしているのだろうか。

「スタートアップの人たちには、エンジニア出身の人も多いし、真面目な人が多いけれども、僕はその正反対。プライベートでも攻撃的な人間だ」という平塚氏は、「自分の意見をはっきり言わない人や、ぼそぼそとしゃべる人、挨拶に勢いがない人だと、面接が10分ぐらいで終わってしまうこともある」という。

「『言い方が怖い』と言われることもあるので、4〜5人で向かい合って毎日仕事をしている現状では、それに耐えられる人でなければフィットしないかなと思う」(平塚氏)

Meily代表取締役CEO 川井優恵乃氏

一方、川井氏は、今、採用で一番重視していることとして「絶対に辞めないかどうか」を挙げる。

「途中で辞められたら本当に困る。市場は絶対にあるので、後はやりきるかどうかだと思っている。できない理由を探す人ではなくて、どうにかする。その覚悟があるかどうかというのを一番見ている」(川井氏)

Meilyの創業メンバーは現在、川井氏以外に6人いるが、「2回資金ショートしても、受託業務でも、アルバイトしてでも何でもやって、絶対にやり遂げる」と言ってくれているそうだ。性格が合わないときもあるが「本当に信頼している」という川井氏。「同じような人を探すとなると、やはり、そこの部分が重要」と話す。

村田氏は、スタートアップの創業初期に加わる人の見極め方について「社員数が少ない時点では、相手と自分の“間”、話すテンポや、自分の理解のスピードと近いかどうかという点が大事だと思う」と語る。

「優秀かどうかというよりも、一緒に仕事をしてうまくいくことが大切。優秀さは会社がある一定のところへ到達するまでは、あまり関係ないのではないかと感じる。だから最低限、絶対にこの人は裏切らない、嘘をつかない、コミットメントが高い、というところ以外を見るとすれば、コミュニケーションが楽だ、うまく合いそうだと思ったら、すぐに採用した方がいい。逆にすごく優秀だと言われている人であっても、そこが合わないとムチャクチャになってしまう可能性が高い。だからスキル重視ではなく、人物重視というのはすごく大事だ」(村田氏)

寺田氏も「僕も“間”は重要だなと思っている」と発言。「飛行機が飛ばなかったとして、そいつと一緒に一晩過ごせるかというテスト(Googleの採用面接で面接官の判断基準となっている『エアポートテスト』のこと)と同じで、それくらいの関係性になれるかどうかということは重要。空気感は平塚さんが言うように、会ってみなければ分からないし、話してみないと分からないということはあるな、と感じている」と話している。

さらに寺田氏は「『こいつは合うな』と思った後、適性検査を互いに受けている」という。検査結果では「仕事上の何に対してやる気を出すか、その傾向が近いかどうか。それと何にストレスを感じるかを見ている」という寺田氏。

「まず面接でフィーリングが合うかどうかを判断した上で、科学的に数値でも見る。必ずしも全てが一致していなくてもいいんだけれども、採用する側としては、そこはマネジメントしていかなければならない部分。『カルチャーは合うけれども、こういうところにストレスを感じやすいなら、こう接していこう』といった入社後のオンボーディングにも役立つ」(寺田氏)

スタートアップの“ゴールデンタイム”は1年半

「現在の事業をいつごろまでに軌道に乗せ、新規事業などの次のフェーズへ移るつもりか」という質問には、平塚氏は「この1年が勝負」と回答。「今のアプリではマネタイズは想定されていないので、これをどうお金に換えていくか、新規事業の立ち上げなども検討しているところ。あと1年で軌道に乗せたい」ということだ。

川井氏は「半年で軌道に乗せる」と答える。「現在、Meilyと同じ領域の会社が3社いる状態。プロダクトも似ているので、スピード感と規模感が必要だ。いずれも大型調達へ向かって動いていて、半年以内には結果が見えてきてしまうので、この半年が勝負だと思っている」(川井氏)

左:インキュベイトファンド ジェネラルパートナー 村田祐介氏、右:エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

スタートアップの“ゴールデンタイム”について、村田氏はこう話している。

「会社を作ってから1年半は、創業者にとってはエンペラータイムのようなもの。『起業すると思っていた』『お前ならきっとやれる』と周りからも言ってもらえるし、自分自身も寝ないで仕事ができるほど、すごいエネルギーが出ている。それが1年半ぐらい経つと、周りも何も言わなくなるし、自分も自信を失う瞬間が少しずつ増えていく。だからこのタイミングまでに、強いチームを作れるかどうかがすごく大事だ」(村田氏)

村田氏は、プロダクト・製品も大事だが、チームこそがスタートアップでは重要だと説く。「先ほどの川井さんの話にもあったが、お金がなくても会社は続くと僕は思っている。強いチームが作れていれば、受託でもやろうとか、絶対にエンジェルが現れるはずだとか、必ずサバイブできていくという面がある。創業1年半で、いかに強いチームが作れているかが大事だ」(村田氏)

寺田氏は「創業初期では、エンジニアとPRをいかに集められるかが重要。engageは、アーリースタートアップでは、思いにコミットしてもらえて、一緒に学びながら運営してやっていけるような若いメンバーを探す、という使い方をされている企業も多い」と初期のチームづくりに関して語っていた。

初期チーム採用について質疑応答

最後に会場からの質問に対する登壇者からの回答をいくつか紹介しよう。

Q:CXOを入れるタイミングは?

「いい人がいたらすぐに入れたいところ。出会った日が吉日だ。まとまったトラクションができていて、資金調達ができたら即入れるべき」(村田氏)

Q:採用に関連して企業が発信すべきことは?

「いいところも悪いところも含めて、すべての情報を発信すべき。エン・ジャパンでは、採用された人が入社した後にどれだけ活躍できるかということを重視しているが、1年以内の早期退職の理由は3つ。1つ目は、入社前と後でのギャップ。入る前と後とで『違う。聞いていなかった』となると辞めることになるので、これを防ぐには全ての情報を出すしかない。2つ目は直上の上司のパーソナリティが合わないこと。3つ目は仕事量だ。仕事量に関しては、多すぎても少なすぎても辞める原因になる。スタートアップだと『張り切って入社したが思ったより仕事がない』とか『想像はしていたけれど、それ以上に忙しかった』とか、いろいろなパターンがあり得る」(寺田氏)

Q:創業後のエンジニア採用で大事なことは?

「ノンエンジニアが会社を作った場合は、リファラルが大切。知り合いの知り合いの技術者などに、リファレンスが取れるかどうかが全て。信じられるエンジニアかどうか、聞ける人を1人以上は確保して、声をかけまくるというのがポイント」(村田氏)

Q:チームブレーカーの出現を未然に防ぐための価値観の共有方法は?

「ミッション・ビジョン・バリューが早期に決められるスタートアップならよいが、なかなか決められないものだ。そこで、KPTというフレームワークを利用する方法がある。週1回ぐらい、メンバー全員が今自分が取り組んでいることについて、Keep(継続すべきこと)・Probrem(解決すべき課題)・Try(新たに取り組みたいこと)の3つに分けて付箋紙に書き出して、並べてその場で共有するというもの。うまくファシリテートできる人がいるなら、間違いなくこれはやった方がいい。メンバーが、自分の手がけていることをやるべきか、止めるべきかを共有することができる」(村田氏)

「僕たちは、engageのTalent Analyticsを年1度、メンバー全員で受けている。性格や価値観は変わるもの。定期的に診断すると、家庭の事情などで変化が大きい人が出てきて、重視する項目が変わるのが可視化できる。また、Talent Analyticsでは、例えば『主体性』といった項目を偏差値で表すことができるが、数値で把握できることは大切だ。直属の上司・部下がどういった価値観を持っているのかを、データで把握できるとよいと思う」(寺田氏)

Q:創業者間の持ち株比率は何%が理想?

「代表が100%保有するのが分かりやすく、おすすめ。メンバーには後でストックオプションではなく、生株で渡すのもよい。投資家の立場からすると、上場前にメンバーの持分が5%だと『めっちゃ渡している』という感覚。ガバナンスを明らかにする意味でも、代表ができるだけ持っておくのがベスト」(村田氏)

「僕も100%を勧める。腹を決め、決断できる人が持っているというのが分かりやすい構造だ」(寺田氏)

 

次回もチームビルディングをテーマに「TechCrunch School #15 Sponsored by engage」を開催予定だ。イベント開催時期が近づいたら、TechCrunch Japanでもお伝えするので、ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。

スタートアップの初期チーム組成の事例と陥りやすいワナ——TC School #14レポート1

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」の新シーズンが4月10日、スタートした。新シーズンでは、スタートアップのチームビルディングをテーマに、全4回のイベント開催が予定されている。

今シーズン初回、そしてTechCrunch School通算では14回目となった今回のイベントは「チームを集める」が題材。起業時の創業メンバー、設立後の初期メンバーに続く中核メンバーの採用に焦点を当て、講演とパネルディスカッションが行われた。

本稿では、そのうちのキーノート講演の模様をお伝えする。登壇者はインキュベイトファンドでジェネラルパートナーを務める村田祐介氏だ。講演では、創業期の投資・育成にフォーカスしたベンチャーキャピタルとして、これまでに手がけてきた投資先スタートアップのチーム組成の例と、チームビルディングで陥りやすいワナについて、語ってもらった。

インキュベイトファンド ジェネラルパートナー 村田祐介氏

インキュベイトファンドは、創業期のスタートアップに特化した独立系のベンチャーキャピタル(VC)だ。

「良い会社を見つけてきて、審査して投資するというのではなく、良い会社を作りそうな人を見つけて、一緒に会社を立ち上げていくという形で、これまでに関連ファンドの出資先を含めて300社以上を創業から支援。累計400億円以上の資金を集めて、これらの会社に出資してきている」と村田氏はインキュベイトファンドの歩みについて説明する。

これまでIPOは20社超、M&Aで約30社をエグジット。ほかにも急成長中のスタートアップを多数支援しているという。

また、通常の投資・育成とは別に、アクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を2010年から主催。同社以外も含めたVCのジェネラルパートナー級の投資家たちと起業家たちを集め、泊まりがけで毎年行われるこのプログラムには、これまでに約200名の起業家が参加。参加企業の累計調達金額は約200億円、上場企業も出ており「非常にいいイベントになってきている」と村田氏は話す。

村田氏自身は、学生起業をして3年後に失敗しエグジット。その後キャピタリストとなって現在17年目、インキュベイトファンドを共同代表として設立して10年目になる。日本ベンチャーキャピタル協会にも携わり、スタートアップにより大きな成長資金が集まるような活動も行っている。

インキュベイトファンドにおいては、ジェネラルパートナーとしてスタートアップと関わる中で、共同創業者を探して連れてきたり、会社がスタートしてからの人材確保など、チームビルディングも組織的に行っているという。その経験から、まずは創業チームの組成について「特徴的な3社」を紹介してもらった。

スピード上場を果たしたGameWith、U25の少数精鋭チーム組成

GameWithは、2013年創業のゲームメディア事業会社。代表の今泉卓也氏は23歳のときにGameWithを設立し、30歳未満で東証マザーズに上場した。ゲームの攻略メディアとコミュニティも運営しているGameWithは、国内最大級のゲームメディアへと成長。MAU(月間アクティブユーザー)が4000万前後で推移しているという。

GameWithは2013年の設立だが、今泉氏はその前の2011年、コスモノーツというゲーム会社を立ち上げ、CTOとして参画していた。コスモノーツは「まさにチーム組成に大失敗してしまって、結果的に解散するところまで行った」(村田氏)。ということだが、その解散の役員会で次の会社を立ち上げようという話になり、設立されたのがGameWithだという。

「創業前に今泉さんと僕の2人でスタートし、プロダクトの原型を手がけていった。まだ会社を作る前の段階から、インキュベイトファンドからの出資をコミットし、ヤフーからの出資も取り付けてスタートした」(村田氏)。

創業チームは全員アンダー25歳の5人。「創業時は『完全にコミットしたい』という今泉さんの思惑から、巣鴨の住宅街にあるマンションを借り、それぞれが自分の部屋に住んで、リビングがオフィス、という形を取っていた。」(村田氏)。

2013年6月に創業、9月にメディアをリリースしてから、年末までに100万MAUまで一気に伸びたというGameWith。創業メンバー5人に加えて1人目を採用したのは、2013年の暮れから2014年初にかけてのころで、mixiにいたエース人材を「飲んで口説いた」と村田氏は言う。
組織作りに関しては、今泉氏にはある思いがあったようだ。村田氏によれば、コスモノーツを最初立ち上げたときには「経営者も社員もフラットに、和気あいあいとやろうと言って始めた」という。しかし「みんなが不満ばかり言うようになり、統制が取れなくなって失敗した」ということで、GameWithのリスタートに際し、今泉氏は「一定の形ができるまでは文鎮型の組織でトップの統制を強くしたい。決めるのは村田さんと僕だけでいい」と話していたそうだ。

今泉氏自身がエンジニアだったこともあって、トラフィックが1000万MAUを超えるまでは、フロントエンドもバックエンドも彼がほぼ1人で開発していたというGameWith。利益が1億円を超え、2015年が始まろうという頃、初めて外部から幹部として、オプトの14年選手だった眞壁雅彦氏を迎え入れるまでは、「今泉氏+その他」という“文鎮型組織”をずっと維持し続けたという。

2015年のシリーズBラウンド調達のころには、5億PV、2000万MAUを超え、完全に黒字化。「そこでIPO準備を進めようということで、公開準備のための実務担当者と、社外役員としてスクエア・エニックスの元社長(武市智行氏)と元CFO(森田徹氏)、複数の上場経験を持つ人物などを連れてきて、上場のためのチームを作った」(村田氏)。

そして、2017年6月には東証マザーズへ上場。創業時メンバーのうちの二人は上場後の今も執行役員として活躍しているそうだ。アンダー25での創業から、現在30歳を超えたメンバーたちだが「会社の成長とともに、チーム全体がしっかり成長できた一例と言えるのではないか」と村田氏は述べる。

上場直前の正社員は30人程度。少数精鋭だったというGameWithで、特徴的なチームづくりとして、もうひとつ村田氏が挙げたのが、アルバイト採用の基準だ。「ゲーマーをたくさん採用したい、ということで、アルバイトの募集をする際、ゲーム画面のスクリーンショットを送らせた。バイトとして採用した人間を契約社員へ引き上げ、契約社員を正社員へ登用する、という段階構造を作って組織を残してきた」と村田氏は説明する。

天才が天才を呼ぶ構造、落合陽一氏率いるPixie Dust Technologies

続いて紹介されたPixie Dust Technologiesは、メディアアーティストで筑波大学の准教授でもある、落合陽一氏が設立したスタートアップだ。立ち上げ当時、落合氏は東京大学の博士課程にいる学生で、村田氏は「天才がいるので会ってほしい」と言われて紹介され、「とんでもない天才だ」と感じたそうだ。

当時から「音、光、電磁場を波動制御コントロールによって3次元化したい」というようなことを言っていた、という落合氏。誰でも体感できる最先端のテクノロジーを表現することを得意とする落合氏は、研究者としての人生を全うしたいと言いつつ、この成果の社会実装をしていきたいと述べていたそうだ。

そこで村田氏は、スタートアップとして資金調達した方が実現確度が高くなる、とアドバイス。ともに立ち上げたのがPixie Dust Technologiesだ。プロトタイプづくりに必要な資金が4000万円と落合氏から聞き、その場で4000万円を出すと話した村田氏。最初は「デラウェア州の法人でスタートすれば、テクノロジーに対する理解が早い投資家や大企業が国内よりも多いので資金調達または買収の可能性が上がるのではという思惑で、現在の同社の前身となる米国法人を2015年に立ち上げるところからスタートした」そうだ。

落合氏は「(研究もあり)フルコミットは難しいが、4000万円を元手に2年以内にプロトタイプをつくり、それに関わる論文を出し、IP(知的財産権)を取る。そこまでなら、コミットできる」と言っていたという。村田氏は「当初から早期Exitを狙いに行く可能性もあったが、そこまでやれればもっと欲が出てくるはず」と考えて、一緒にスタートすることを決めた。
創業チームには、落合氏の研究者としての“相方”でもあり、後に東京大学助教も務めた星貴之氏が加わり、プロトタイプ完成までの1年半ぐらいを過ごした。当時経営について落合氏は「興味がない、研究だけがしたい」ということで、研究以外の業務を村田氏が巻き取ったという。

プロダクトとしては、音が特定の場所だけで聴こえるというスピーカー「Holographic Whisper」を製作。これらのプロトタイプを作っていく段階で、落合氏は村田氏の思惑通りに「会社としてスケールさせていきたい」と告げたそうだ。

またプロトタイプが出来上がってくると、国内外のメーカーからたくさんのオファーが来るようになり、PoC(実証実験)からスタートして共同製品を開発したい、と声がかかるようになる。このため、これらをクロージングするためのチームづくりに入った。
2017年初には、後にCOOとなる村上泰一郎氏が参画。アクセンチュア出身で社団法人の未踏エグゼクティブアドバイザーも務める村上氏を、落合氏と村田氏は「『COOとしてジョインしてほしい』と飲みながら口説いた」という。

村上氏の参画と同時に、Pixie Dust Technologiesを日本法人化し、本格的な資金調達をスタート。2017年、シリーズAで6.5億円を調達した。NEDOやCREST、AMED、JST ASTEPなどのプロジェクトにも採択され、2019年にはシリーズBとして、数十億円規模の大型調達を予定しているという。

村上氏参画までは、落合氏、星氏の2名体制だったPixie Dust Technologiesだが、この1年ほどで大量に人材を採用した。CFOとして迎え入れた関根喜之氏は、東大発の創薬ベンチャー、ペプチドリームでCFOの任に就き、東証マザーズ、東証一部上場を果たした人物だ。またGoogleでハードウェア部門に在籍していた人物、トヨタ自動車やキヤノンのAIエンジニア、Google Japanの創業メンバーなど、そうそうたる人材がこの1年で参加した。

「チームづくりに落合氏自身も自信を持つようになってきている。この会社は『天才が天才を呼ぶ構造』になっていると思う」(村田氏)。

チームビルディングで陥りやすいワナ

キーノート講演の最後には、村田氏から「チームビルディングで陥りやすいワナ」について、いくつかピックアップして解説があった。

「創業者間での仲違いは、本当によく起きる」という村田氏。「誰が最終意思決定をする人であり、誰がエクイティを大きく持つのか、というのは絶対に最初に決めておかなければいけないこと」と述べている。
「エクイティの保有パーセントが近ければ近いほど、もめ事が起きやすくなって、最終的にエクイティのシェアが低い人が辞めざるを得なくなりやすい。シェアのバランスはすごく慎重に調整した方がいいと思うし、創業者の株主間契約も必ず結ばないと、後で取り返しのつかないことになりやすいので、気をつけた方がいい」(村田氏)。

また「コードが書けるからCTO、コードが書けないからCOO」といった形で、創業メンバーの中からCXOを選んでしまうケースはよくあるが、「これをやってしまうと、後でその人のスペックが足りないということになる可能性が極めて高い」と村田氏は言う。

「ポストは後から用意しても、その中にキレイにハマる瞬間というのが必ずある。トップマネジメントはこの人、と決めたんだったら、あとは一旦フラットな組織にしてしまった方が、構造が明らかで設計もしやすい。後から優秀な人を集めるための素地として、作りやすい」(村田氏)。

チームブレーカーにより組織が崩壊する、というのも「本当にあちこちで起きているケースだ」と村田氏。

「事業がうまく立ち上がってこないことを他責にする人はたくさんいるのだが、課題解決のためによかれと思って知りうるネガティブな情報をあらゆる人に伝えてしまうことで、結果的に情報過多な状態をチーム全体に行き渡らせて、どんどん組織崩壊していくパターンも」(村田氏)。

このパターンは、会社を「より良くしていこう」と思ってモチベーションが落ちている人に対してチアアップしてくれたり、「誰々は今大変な状態にあるから」とカバーするために、自分の知っている情報をチーム全体にまき散らしてしまう人に見られるとのこと。
「本来見えなくてもいい悪い部分だけが独り歩きしてしまって、結果として組織が崩壊していくということは、よく起きている」と村田氏は説明する。

キーノート講演の後、村田氏も参加して、創業期のメンバー集め、チームビルディングに関するパネルディスカッションが行われた。その模様も近日中にレポートとして紹介する予定だ。

なお、実際のキーノート講演では村田氏が関わったもう1社の創業期のチーム組成について語られたが、その場限りの話としてこの記事では割愛している。

ミスマッチをなくし成果が上がる、エンジニアの採用・評価テクニック——TC School #13

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型のイベント「TechCrunch School」で、2017年3月から5回にわたって人材領域をテーマに開催してきた「HR Tech最前線」。その第5弾となるイベント「TechCrunch School #13 HR Tech最前線(5) presented by エン・ジャパン」が3月22日に行われた。

イベントの前半部分をお伝えした前編に続き本稿では、昨年7月のイベントから2度目の登壇となる及川氏を中心に「エンジニア人材の採用、教育、評価」について話を聞く、パネルディスカッションの後半部分をレポートする。

登壇者は前半と同じく、プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏とグロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏、そしてエン・ジャパン 執行役員の寺田輝之氏。

及川氏は米Microsoft、Googleを経て、Qiitaを運営するIncrementsで勤務した後、現在はフリーランスとしてスタートアップを中心とした企業の支援を行っている。高宮氏は、ベンチャーキャピタルとしてスタートアップに投資をしながら経営に参画する立場。そして「HR Tech最前線」シリーズの全イベントに登壇してきた寺田氏は今回、HR Techサービス提供者であり、スタートアップ成長期の経験者でもある立場から、半ばモデレーター的な役割で参加してもらっている。

ミスマッチをなくすための企業の基準作りと採用プロセス

イベント後半では、まず2017年7月に行われた「HR Tech最前線(2)」でも紹介された、エン・ジャパン調査による、エンゲージメントに関するアンケート結果が取り上げられた。

「中途採用した人材が早期に活躍する(エンゲージメントを高める)ために最も大切だと思われることは?」という設問に対し、圧倒的に多かった回答は「ミスマッチのない採用」だった。この結果について寺田氏は「結局はエントリーマネジメントが大事ということ」と述べる。

「入社後に、企業カルチャーを説明したり、評価で辞めそうな人材を引き留めようとしたりするのは、どのようにしても後の祭り。エントリーマネジメントをしっかりするというのが一番、社員の活躍につながるポイントだ」(寺田氏)

ではエンジニア採用で、ミスマッチのない採用のための仕掛けづくりとは、どのようなものなのか。及川氏に尋ねたところ、企業の基準をきちんと作ることと、基準が候補者に合っているかどうかを確認するための場として採用プロセスを設計することが大事になる、ということだ。

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー 及川氏

基準作りについては、エンジニアから企業を見たときの3つの視点で説明があった。1つめはほかの職種と同じく、給料や職場環境、福利厚生などの条件。ただし及川氏によれば、エンジニアの場合、これらの条件の良さへのこだわりは「ほかの2つに比べるとそれほど強くない」という。

2つめはその企業のビジョンに対する評価。エンジニアを採用するということは製品やサービスを提供する、ということになるが「それによって社会がどう変わるのか、人々の生活はどのように良くなるのか。それに候補者がどれだけ共感を覚えられるか」が大事だと及川氏は言う。

3つめは「技術者として面白いかどうか」。技術者として成長していきたいという人にとって、「自分が使いたい技術をその企業が使っている」あるいは「自分が既に持っているスキルをフル活用できる」などなど、人によって価値は違えど、そうした価値観をエンジニアは重視する、と及川氏は話す。

「この3つの部分を『我々の企業はこういうふうです』といかに企業が提示できて、ミスマッチがないようにしていくかが大事」と及川氏は続ける。

「実はこれを言語化できていないことが多い。言語化できていないと、そもそも募集要項にそういった“思い”が入ってこない。かつ、採用プロセスが始まって社員が書類選考し、面談していくときにも判断基準がバラバラになってしまう。結局よくわからない人が入社して、実はミスマッチだった、ということが起こる」(及川氏)

及川氏は「言語化といっても、きれいな言葉にしておかなくてもいい。『どういう人材を我々は迎え入れたいのか』ということを決めておくことが必要だ」と話す。そして「それができたら次に、採用プロセスの場でそれをきちんと確認していくことだ」と続けた。

「採用プロセスというのは、採用候補者が自分たちの仲間として社内に入ったときのシミュレーションをする場だと考えるといい。エンジニアの場合なら、ある機能を開発しようとするときの設計について議論をしてもらう。(その人が入社して)コードを書いたらコードレビューがあって、ほかのエンジニアがそのコードを見ることになる。それと同じことを面接の場でやる。技術的な内容を聞くということが大事」(及川氏)

具体的には次のように進めるとよいそうだ。「候補者の過去のプロジェクトの内容でもいいし、今その企業が抱えている課題を抽象化して伝えるのでもいい。例えば『こんな感じのシステムを作ろうと思っているが、このデータベースのところにアクセスがたくさん集まったときの負荷処理をどうすればいいと思いますか?』とか。入社したらやるかもしれない話を、30分なり1時間なりといった面接の場でしてみるといい」(及川氏)

採用時のコードチェックについて及川氏は「しない会社が多いようだが、Googleでは行っていた」とその内容を説明する。「ホワイトボードに擬似コードでもいいから書いてもらい、それに対してチェックをする。これはもちろん、コーディングスキルやアルゴリズム、システム設計に対する能力を見ているのだが、同時に、社内に入ったときにコードレビューでやるようなプロセスでもある」(及川氏)

コードチェック実施のメリットについて、及川氏は「(コードが)間違っていてもよいのだが、間違っていることを指摘したときにどう答えるかだとか、採用側が出した質問がわからなかったときに、どのように質問を返してくるかといったことを面談の場で見ることによって、求める人材とのミスマッチを面談、採用プロセスの時点で解消することができる」と話していた。

エン・ジャパン 寺田氏

ここで寺田氏から「エンジニアの採用基準を作る際、非エンジニアしかいない場合はどう基準を作ればよいのか」、また「今いるメンバーより良いエンジニアを採用したいときに、現メンバーで採用基準を作るのは難しいと思うがどうすればよいのか」という2つの質問があった。

及川氏は「非エンジニアがエンジニアの採用基準を作ってはいけない」と言う。「どうにかしてエンジニアのスキルを入れない限り、『社会人としては極めて立派だけど……(エンジニアとしてはいかがなものか)』という人が採用されかねない。もちろん仲間として迎え入れるときに技術的な能力以外のところを見る必要もあるので、そこに非エンジニアの方が入ってもらうのはいいと思う。ただ技術者として採用するためには技術軸が必要。自社にエンジニアのマネジャーがいなかったとしても(現場の)エンジニアの意見を入れるなり、外部の方にアドバイスをもらうなりして、技術的な軸を入れるべきだ」(及川氏)

また2つ目の質問に対しては「自分より上の人を入れることができない、その軸が作れない、ということは、採用とは別に、その組織が技術的に欠陥を抱えている可能性がある」と及川氏は答えている。

「今や、クラシックでレガシーな大企業以外であれば、多くの企業のエンジニアは自分の会社の狭いコミュニティだけでなく、外のコミュニティと触れ合っているし、触れ合っていなければ成長はない。首都圏に住んでいれば毎晩のようにどこかでIT系の勉強会もあるし、オープンソースのコミュニティもある。Slackなどでいろいろな意見交換もしているし、技術者の間で話題になるようないろいろなブログもある。外の世界との接点があれば、自分の周りだけでは『どんなエンジニアが優秀であり、どんな人と働きたいか』ということが見えなかったとしても、外を見てわかるものだ。それをある程度、基準として入れていくようにすればいい」(及川氏)

それができないのだとすれば、まず採用の前に自社のエンジニアに「もっと外の世界を見るようにさせてあげる」ことから始めるべき、と及川氏は言う。

評価基準づくりにはリバースエンジニアリング的手法が効く

採用に続いて、エンジニアの評価に関する話題に移った。MicrosoftやGoogleなどグローバルなエンパイア企業とスタートアップ、両方を経験した及川氏に、成長企業で評価制度をどのように設計していけばよいのか、事例も交えて聞いてみた。

及川氏がMicrosoftやGoogleに入社した頃は、現在に比べればまだ小さいが、それでも既に数千人規模の組織。「マネジメントもしっかりしていて、評価制度もかなりカッチリしていた」という。

「職種・職位のマトリックスがあり、それぞれの位置で期待されることがあって、それが何軸かに分かれていて、実際のエンジニアとその内容を比較することによって評価が行われる。360度評価や数階層のキャリブレーションもあって、かなり確立した立派な仕組みだった」(及川氏)

そうした「立派な」制度を、例えばエンジニアがまだ数十人しかいないようなところに導入しようとしても「ヘビーウェイト過ぎて全く機能しない」と及川氏は言う。「逆に評価のプロセスが多すぎて、(本来行うべきことに手が付かず)評価を行う月の生産性が悪くなる、ということになりかねない」

及川氏は、多くの企業での評価基準の作成方法について「企業のビジョン、ミッションからコアバリュー、そして評価基準へと、トップダウンで、コンセプチュアルなベースから落ちてきている」と話す。

そして「それは悪くはないんだけれども、(基準が)あまりにも立派で、技術者としては関係ないものだったり、(良いとされている基準について)全部が丸な人がいたとしたら逆に人間として気持ち悪い、というようなものになっている。そのため、できあがった評価基準を実際には使っていないことが多い」という。

そこで及川氏は「評価基準はせっかく作ったものなので、それはそれとして使えるようにしつつ、エンジニア向けにはボトムアップ型でリバースエンジニアリング的な評価のやり方を、自分が支援する企業には勧めている」ということだ。

その方法を、AIによる画像認識になぞらえて具体的に説明してもらった。「画像認識でネコかネコじゃないかを判定するには、特徴量を抽出していって機械が判定する。それと同じことを評価でやろうとしている。例えば10人のエンジニアがいたら、10人を1から10まで並べてもらう。そして『なぜそのような順位にしたのか』理由を書いてもらう。これを1人がやるのではなく、できれば2人か3人のリーダークラスが、またはドラスティックにやるならエンジニア全員が、自分も含めた周りのエンジニアを全部ランク付けする」(及川氏)

及川氏は「ほかの職種でもそうかもしれないが、エンジニアって『できるエンジニア』がわかる。また『できないエンジニア』もわかる」という。ただし単にランキングのためにこの評価方法を使うのではない。

「順位を並べて書いてもらうときに『なぜか』を書いてもらうと、『この人はコーディングがめちゃくちゃ早い』とか『この人はコードレビューのときに非常に丁寧に教えてくれる』とか『この人は誰も見ていないけれども、お客さんからバグ報告が上がったらすぐに再現テストをし、バグ登録をし、時間があったら直している』といったことが書かれている。全部ができればいいが、これらはだいたいトレードオフ。コーディングが速かったらクオリティーがちょっと落ちてしまうこともあるかもしれない。すると書かれた『なぜか』で、その組織において大事にしていることがわかってくる」(及川氏)

そこで書かれたことをピックアップすることによって、その会社がエンジニアリング組織において、どういうことを大事にしているかがわかる。「これぞまさしく(機械学習でいう)特徴量抽出。それを採用基準のほうにも混ぜていくとよい」と及川氏は語る。

評価するエンジニアの数が少ない場合は、今までに採用面接をしてきた人もランク付けの中に入れてみるとよいそうだ。採用しなかった人を「なぜ落としたか」、理由を見ていくと評価の価値基準に持ってこられるものもある、と及川氏は話す。「そういうのも含めて、コンセプチュアルな評価とリバースエンジニアリング的な評価を混ぜていけばいいんじゃないかな、と思う」(及川氏)

高宮氏は及川氏が紹介した手法を「エース営業マンの行動特性を分析して、それをロールモデルにしていくときと同じやり方だ」と言う。「しかも副次的なメリットとして、キャリアパスが見えるようになる。エースを師匠としたロールモデルにすることで、その先どういうところへ行き着けるか、組織の中で自分がどうキャリアを立てていくのか、先が見えてキャリアプランニングがしやすくなる」と人材の成長にも効果があると、高宮氏は話している。

OKRは個人の評価と連動させてはいけない

ここからは会場の質問に答える形でディスカッションが進められた。最初は及川氏への質問で「OKR(Objective and Key Result:目標と主な結果)を個人の評価に用いるべきか。GoogleではOKRを個人の評価・給与に活用していたか」というものだ。

四半期ごとに目標を設定し、各期末に100%(1.0)を最大値としてスコアを付ける目標設定・管理の手法、OKR。3月に刊行されたばかりのクリスティーナ・ウォドキー著『OKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法』の解説も担当している及川氏は、「私はOKRを個人の評価とは連動させるなと言っているし、Googleもそう表明している」と話す。

ただしGoogleでも「OKRを全然見ていないかというと、そういうわけではない。OKRのスコアを評価に直接連動させることをしていない、という意味だ」と及川氏は続ける。

「OKRについてGoogleで言っているのは『ストレッチで(背伸びした)ゴール設定をしろ』ということ。全部できても0.7ぐらいになるようなゴールがよいとされている。スコアが悪かったとしてもそれは個人やチームが悪いのではなく、次回のOKRのプランニングのときの材料にすればよい」(及川氏)

及川氏は「常にアグレッシブなゴール設定にしなさい、という方針なのに、OKRのスコアを評価に連動させるのは無意味」と言う。

また「仮にそういう方針がなかったとしても、もしスコアを成績に連動させようとしたら、人は保守的になる。1週間でできるものを『2週間かかる』という調子で目標設定していけばいいわけだから。で、それをやられてしまったら、事業はどんどんスピードダウンしてしまう」と警告。「そういうことのないように、アグレッシブなゴール設定をしてもらい、スコアを評価に直接連動させない、ということにしている」(及川氏)

もうひとつ、OKRを評価に用いない理由を及川氏は例を使って説明した。「例えばプロダクトのあるKPIを上げたいという話になって、そのために『この機能を入れればよい』と考えた企画側の人がいるとする。その企画にチーム全員が合意して実装し、世の中に出した。ところが機能としてはちゃんと動いているけれども、KPIは上がらない、ということがある。ここでKPIが上がらなかったからといって、エンジニアの成績を悪くするか、というと、そんなことはしてはいけないわけで」(及川氏)

及川氏は「ゴールが達成できたかどうかではなく、会社・チームとして設定したゴールに向かって『あなたは貢献していたか』というところを見なければいけない」と言う。「OKRの方向性に向かって仕事をしていたかということと、その質は見るんだけれども、単純にスコアだけを見て成績に連動させるようなことは、絶対にしてはいけない」(及川氏)

日本でもOKRの導入が進み、及川氏のところにも相談が来るが、OKRと成績・評価を連動させているところは多いそうだ。「連動させたくなる気持ちはとてもわかる。楽だから。でもそれをやっちゃったら、もはやOKRじゃない」(及川氏)

及川氏はOKRを「目標管理の設計であると同時に、むしろ、チームあるいは全社をひとつの方向に向かわせるためのエンパワーのツールだ」と語る。「実際に結果がどうだったかというのはもちろん大事なんだけれども、ダメだったら次にがんばればいいだけの話。みんなの進むベクトルが分散することなく、同じ方向に向かわせるための道具がOKRであって、それができているかどうかをしっかり見ることが一番大事」(及川氏)

グロービス・キャピタル・パートナーズ 高宮氏

ここで高宮氏から、OKRに限らず目標管理と評価との関係性について、人事の“アート”での見方の提示があった。

「OKRでもほかの目標管理でも、まず経営目標や部署の目標があって、個人にブレイクダウンされていく。個人のエンパワーと行動・結果の管理をどこまでやるかというのは、結局その会社のカルチャーや、事業戦略達成のための手段として(目標管理を)どう見ているかによって決まると思う」(高宮氏)

プロセスドリブンでマイクロ管理をするという戦略を持つ会社に向いている事業もたぶんある、と言う高宮氏。「営業ドリブンな会社が、営業の行動一つ一つを管理していて、『訪問数何件、成約何件、リピート何件を、半期で達成しなければ詰める!』というやり方も、戦略としてはあり得る。そういう会社ならば(目標管理と成績を)連動させてもいい」と話す。

一方で「個人の自由に任せて自発的・自主的にやったほうが結果が出る、というカルチャーの会社だったら、絶対連動させない方がいい」と高宮氏は言う。「どこまで個人のマイクロ管理をしていくか、企業の価値観、戦略と連動した部分だと思う

及川氏は「OKRでも個人管理の部分では考え方が分かれる」と述べ、「個人ではOKRを必ずしも作らなくていいと思う」と言う。「OKRを作るのは基本、チームまででいい。個人のOKRは、本人が作りたければ作る、という形で十分。各プロジェクトやチームのOKRには、私は担当者を書くように言っている。自分が担当者になっているものを集めれば、個人としてのOKRができあがる。だから重複するようなものを別に作る必要はない」(及川氏)

また及川氏は「会社の目標とは連動しないけれども自分のゴールを持ちたい」として個人の目標を持つことはよいことで、個人としてのパフォーマンス評価もあるべきだと話している。

「OKRなどの目標管理とは全く無縁に個人の評価というのもあるべき。GoogleでもOKRとは別に自己評価のシートがあり、達成したことを書く。それらは多くの場合は必然的に連動するが、必ずしも連動していなくていい。『OKRにはないけれど、実はこれだけでかいことをやった』というのは奨励されるべき。それを自分の成績、評価してほしい項目として書けばいいし、実際にそれが評価されるということもたくさんある」(及川氏)

それが高宮氏の話した「ボトムアップ的に、自由にやって成果が出る」というパターンにつながる、と及川氏は述べ、「そういう余地もきちんと残しておくということも大事だと思う」と言っている。

高宮氏も同意して「人事の仕組みを作るときには、“遊び”の部分も重要」と話す。

「定義しているものしかこなさなくていい、となってしまうと、組織としてはよくない。また遊びがないと、経営者が戦略的に『誰それを抜擢する』という話もやりにくくなる。遊びの部分が、1%なのか5%なのか10%なのか、というのは人事のアートの部分だけれども、半期先のやるべきことをガチガチに今定義して決めておくというのは、競争環境を100%読み切れば勝てると言っているようなもの。定義しきってしまうと不確実性に弱くなってしまう。管理型でグリグリやるとしても、遊びの部分は大事になる」(高宮氏)

最初のエンジニアはリファラルか、技術がわかる人を味方にして探す

続いて取り上げられた質問は「そもそもなかなかエンジニアを取れない組織が、何とかエンジニアのチームを作りあげるにはどのようにしたらよいでしょう?」というものだ。

「文系でチームを作ったときに、最初のエンジニアはどうやって採ればよいのか」「エンジニアが採用できないときに何をすればよいのか」という課題に対して、どのように取り組めばよいのか。

及川氏は「これは難しい問題。正直言うと、エンジニアとどうにかして知り合いになるしかない」と答えている。

「先ほども挙げたIT系の勉強会のようなところに『自分も勉強したい』といって入り、そこで知り合った人に声をかける、ということをやっている人は多い」と及川氏。ただし「勉強はした方がいいんだけれども、実際、これはすごくエンジニアに嫌われることもある」とも述べている。

「『こいつは明らかにエンジニアをスカウトしに来ているな』という人が最近多いので、勉強会への参加はお勧めするとは言いにくいところ。だが、何らかの形で知り合いにならない限りは誘えないので、誰かと知り合いになるか、知り合いから紹介してもらうなど、最初の一人はリファラルというか知り合い経由でたどっていった方がいい」(及川氏)

また採用エージェントなどの活用について及川氏は「もちろん、それでうまくいっているところもあるので、やったほうがいいと思うが、エージェントに声をかけたとしても、まわりに技術のことがわかる人が誰もいなかったら、たぶん採用の判断すらできない。だからどうにかして、技術がわかる人をまわりに付けないと、ことは始まらない」と話している。

「それこそ私みたいな技術アドバイザーをやっている人もいるので、何かの形でそういった人を見つけるのがいいと思う」(及川氏)

技術顧問については高宮氏からも「最近だと、元ミクシィ、元Viiber CTOの松岡さん(レクター代表の松岡剛志氏)が『CTOたちで作るCTOコンサル/組織構築コンサル』といったことをやっているし、元アトランティスCTOの加藤さん(イロドリ代表の加藤寛之氏)もいろいろなところでアドバイザーをしている」と、スタートアップの技術支援に携わる企業や人の紹介があった。

ここで寺田氏から「技術顧問を付ける、というのは一つの大きな選択だと思うが、その方にどう説明すればよいのか。エンジニアリング部門の方々にとっての『自社の魅力』をどう発見していくか、というのも悩みのポイントだと思うが、そのあたりはどうしていけばよいのか」との問いが投げかけれられた。

及川氏はこの問いに「先ほど話した、エンジニアを引きつけるのと全く一緒」と答えている。「技術的なところではなく、その組織、企業が作ろうとしているサービスや製品がどれだけ魅力的なものかということ、その魅力的なものを実現したいのでエンジニアリング組織を作ろうと思うが協力してもらいたいということを訴えていくしかない」(及川氏)

採用メッセージ発信は飾らず、一貫性を持たせること

最後の質問は、創業期スタートアップ代表の方からで「0から1を立ち上げるフェーズに面白さを感じるエンジニアやビジネスサイドの人に加わってもらいやすいように、事前にメディアやSNS上でコンテンツをためておいたほうがよいのか。発信するメッセージで工夫するべきことや、Tipsはあるか」というものだ。

「僕は酔っ払った次の日に泣きながらTwitterで前日のツイートを消している人なんで、僕に聞くのも間違っていると思うんですが」と答えて場内の笑いを誘った及川氏だが、質問に対しては「やっぱりそういうことは(わざわざ)やってもバレちゃう。人間性だと思うんですよね」と真剣に答えていた。

「普段から自分がどういう人間か、というところが大事。結局5人とか10人の創業期だとしたら、もちろん事業の方向性などもあるけれども、一方で創業メンバーにほれる(ことで人が集まる)。それってもう隠せないところがあるので、自分の思いとかを素直に出していくのがいいと思う。下手にデコレーションしてもダメ」(及川氏)

むしろメッセージを飾り立てておいて、入社してからミスマッチを感じさせることのほうが問題、と及川氏は続ける。「入った後に『SNSではこんなにカッコいいこと言っていたのに、社内に入ったら言ってることと違うじゃないか』となって、ミスマッチが発覚してエンゲージメントができないよりも、自分の本当の思いを生の言葉で出していくのがいいと私は思う」(及川氏)

高宮氏は「創業メンバーに近い4〜5人は、一本釣りで口説くしかない」と話す。「(事業成長に)必要な機能と候補者をリストアップして、営業のパイプライン管理と同じようにシステマチックに会って進捗管理していくことだ。あるスタートアップでは上場直後、毎週経営会議をやるたびに、役員全員が各機能でリストアップした人について『この間メシを食いに行って口説いたけれども、まああと1年はかかるね』というようなことを突き合わせて、パイプライン管理をしていたという話があるぐらい」(高宮氏)

及川氏も「自分たちで採用候補者をリストアップして、それぞれが今パイプラインのどのステージにいて、『この人はまだだ(入社してくれない)けれども3カ月後にはもう一度メシを食いに行こう』、『今度は誰々が行け』というのをローテーションを組んで決めたりするのは普通に行われている」と話している。

高宮氏はこの方法のポイントは「上場するような大企業になったところでも、一本釣りをしなきゃいけないような人は、役員クラスが気合いで口説きに行く、人と人との関係性」にあると言う。

また「最初の4人が集まった後は『4人が4人ずつ集めてこい』という世界になる。その時に一貫性を持たせた方がいい点がある」と高宮氏は言う。

まず高宮氏は「どんなステークスホルダーであっても、何かをコミュニケーションするときにはマーケティングの観点があると思うが、マーケティングの意味とは、大きく見せることではなく、価値あるものの価値を正しく伝えるということ」と述べている。

その上で採用候補者というステークスホルダーに関しては「プロダクトをターゲットユーザーに対して一生懸命マーケティングするのと同様、自分の会社というプロダクトを採用候補者にどう伝えれば、価値がちゃんと正しく伝わるのか。それは間違いなく『報酬が高い』とかいう話ではなくて、『こういうふうに世の中を変えていく』だとか、『こういう面白い事業でチャレンジングな楽しい旅ができる』という話。何を売りにしているのかということを発信し続けていくことが大事」と話す。

高宮氏はまた、発信するメッセージについて「顧客向け、投資家向けなど、どのステークスホルダーに向けるかで微妙に伝え方は変わる。だけどコアの部分はぶれないことが大切」と語っている。

「『顧客向けにはこう言っているのに、採用向けでは逆のことを言っている』となると破綻する。一貫した、会社としての価値を発信し続けるべき。カッコいいけど平易な言葉、というとコーポレートブランディングみたいだけれども、あまり小難しく考えすぎずに自分たちの価値を伝えきることだ」(高宮氏)

及川氏はさらに「高宮氏の言う、一緒に食事をして人を誘ったときに話した口説き文句を、SNS上にも書けばいい」とアドバイスする。

「ロック歌手がステージ上で『俺はお前たちを愛してるんだ!』と全員に愛を語るんだけど、実は目の前の女の子1人を口説いてる、ということってあるわけじゃないですか。それと同じことをやればいい。採用候補者とランチを食いに行ったときに、その人にいろいろと思いを込めて話をする。その後、ちょっと時間が経ってから、その人に向けて話したことをSNSに書いてもいいわけだ。誰に、ということは言わなくていい。『私たちの会社に興味がある人、全員にお伝えしたいのはこんなこと』と言えば、一貫性もあるし、いいかもしれない」(及川氏)

パネルディスカッションの終わりに、5回にわたって行われた「HR Tech最前線」シリーズの締めくくりとして、寺田氏からシリーズ全体を通しての感想を聞いた。

1年前は、HR Techのツールを使う手前の段階、例えば、『データをちゃんと整備しておくべき』といったところから話が始まった。だがその後、皆さんとセッションをしながら、だんだん『大きな課題は、採用のところにあるな』と感じるようになった」(寺田氏)

「今日の2人の話でもそうだったが、採用やHRを考えるときには、人と企業との距離をどう縮めていくのかが重要」と寺田氏は述べ、「エンゲージメントという言葉や採用の広報のあり方を取り上げてきたが、テクノロジーを使って、必要とする人材を惹きつけ、魅力づけし、活躍し続けてもらう事がHR Techの本質の1つだと思う」と語った。

寺田氏はエン・ジャパンが提供する「engage」の採用HP作成などのサービスにも触れ、「自社について、なかなか伝えられない、知ってもらいたいけれども、どう表現していいかわからないということも多いと思う。しかし、何も表現しなかったら存在しないと同じ。自分たちが何をやっているのか、しっかり言語化して発信していくことが、人材を魅力づけし、お互いの距離を縮めるために重要なことだ」と述べた。

「求職者として会社を見たとき、どういう情報が載っていれば自分が不安じゃないか、よりその会社に興味が持てるのか、といった目線で、ぜひ皆さんにも発信をしていってほしい。この1年でも、テクノロジーやツールがたくさん出てきている。いろいろなものをうまく使いながら、自分たちのことを表現していくこと、伝えていくことを意識していっていただければと思う」(寺田氏)

「成長しない企業の人材流出は当たり前」成長企業の人材戦略、新規事業取り入れの心得を聞く——TC School #13

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型のイベント「TechCrunch School」では、2017年3月から5回にわたり、人材領域を軸に講演やパネルディスカッションを開催してきた。その第5弾となるイベント「TechCrunch School #13 HR Tech最前線(5) presented by エン・ジャパン」が3月22日に行われた。

今回はこれまでの「HR Tech最前線」シリーズの集大成として、これまでのイベントを振り返りつつ、成長企業の人材戦略、そしてエンジニアの採用・教育・評価について識者に話を聞くパネルディスカッションが実施された。このイベントの模様を前編・後編に分けてお伝えしよう。

登壇者は、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏とプロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏、そしてエン・ジャパン 執行役員の寺田輝之氏。モデレーターはTechCrunch Japan 副編集長の岩本有平が務めた。

高宮氏は、ベンチャーキャピタルとしてスタートアップに投資をしながら、社外役員として従業員が数人規模のアーリーステージから上場するところまで経営に参画している。そこで経営者と週1回ぐらいのペースで議論をするそうだが、議題の半分以上は組織に関することだと話す。

「成功の特効薬や万能の解のようなものはないけれども、失敗パターンや考え方のフレームワークなどはある」(高宮氏)

及川氏は外資系コンピューター企業から米Microsoft、Googleを経て、スタートアップであるIncrementsに1年半ほど勤務した後、現在はフリーランスとしてスタートアップを中心とした企業の支援を行っている。「技術アドバイザー」「プロダクト戦略の策定・実施・グロース」「エンジニアリングの組織作り」の3つのメニューで活動しているという及川氏も、「3番目の組織づくりの話が圧倒的に多い」と話す。

「プロダクト戦略を考え、技術を駆使してモノを作るのは結局人なので、組織の話を別には語れないことが多い。逆に組織さえしっかりしていれば、企業は成長し続ける力があると思っている」(及川氏)

寺田氏は、2002年エン・ジャパンが50人弱のスタートアップだったころに入社し、インターネット黎明期からその成長とともに、求人サイトをはじめとするサービスやプロダクトを作ってきた。現在はクラウド採用ツール「engage(エンゲージ)」やオンライン適性分析「タレントアナリティクス」、面接前に利用できる「ビデオインタビュー」機能などを提供している。

これまで約1年にわたり「HR Tech最前線」シリーズの全イベントに登壇してきた寺田氏は今回、HR Techサービス提供者であり、スタートアップ成長期の経験者でもある立場から、半ばモデレーター的な役割で話を進めていくこととなった。

イベント前半では、スタートアップの人材戦略に精通する高宮氏を中心に、成長企業の組織・人事戦略、そして成熟企業が新規事業を取り入れるための心得などについて話を聞いた。

スタートアップのビジョン・カルチャーと人材の適合度の見極め方

パネルディスカッションではまず、高宮氏が2017年9月に登壇したTC School #11のキーノート講演「成長企業の組織・人事戦略/5つのあるあると要諦」を振り返った。講演の詳細についてはイベントレポートをご覧いただければと思うが、その概要は以下の5つにまとめられる。

あるある1. 傭兵による組織崩壊
《対策》成長企業における採用は、スキルだけでなく、ビジョン・カルチャー適合度でも妥協してはいけない。

あるある2. 一貫性のない処遇で不平不満が蔓延
《対策》早期から評価制度と報酬テーブルを用意して運用することが大事。目標達成と人材育成の仕組みとしても活用する。

あるある3. ストックオプション(SO)の場当たり的な乱発
《対策》あらかじめSO付与の目的(思想)と割合を明確にする。その上で付与のルールを作成し、それに基づき運用する。

あるある4. エースの突然の退職
《対策》事業の成長に合わせ、組織の成長を先回りして設計。その中で個人のキャリアゴール、キャリアパスとのすり合わせを行う。

あるある5. 必要機能の未充足
《対策》既存の人材に合わせて組織を設計するのではなく、事業を成功させるために必要な機能ありきで、理想とする組織を設計すべし。

採用時に「ビジョン・カルチャー適合度をどう見極めていくか」という点については、寺田氏から「そもそも、自分たちのカルチャーを言語化できている企業はあまり多くない。その上で新しく採用していく人を、どう見極めていけばよいのか」という問いかけがあった。

グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏

高宮氏は「確かに難しい。会社が大きくなったら当然、ビジョンやカルチャー、価値観を言語化するという話は出てくるが、ベンチャーでメンバーが4〜5人しかいないのに『言語化しましょう』と経営合宿などでやるところはあまりないし、やるだけ時間がもったいない」としながら、適合度を見極めるための対応についてこのように話している。

「(小さな組織では)空気感、ノリみたいなものは結構あると思う。まずは夜と週末だけでもいいので『インターンでおいでよ』といった感じで巻き込んで、社員と一緒になった中で相性を確認するというようなことは、大事なのではないか」(高宮氏)

高宮氏は「面接だけでビジョンやカルチャー、共感度を測るというのは相当難しい。やはり何かを一緒にするというのが、すごく大事なんじゃないか」と考えを述べた。

では何を一緒にやればよいのか。高宮氏は「最低限でも飲みに行く。あるいは趣味を一緒にやるのでもいい。例えば釣りに行っちゃうとか、バーベキューとかでもいいし、そういうアンオフィシャルな場で人を見るのもいいんじゃないか」と話す。

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー 及川卓也氏

一方、及川氏は「仕事をしてもらうのが一番」と言う。「マッチングというのは、一方的に企業が候補者を選ぶものと考えがちだが、実は逆も非常に大事。候補者のほうからも、将来どうなるかわからないリスクの高い会社に入るにあたって、自分が本当にその会社に合うかどうかを見る。要は(両者の)お見合いだ。それを本当に確認するためには、仕事をするのが一番いい」(及川氏)

「一緒に働くというのは難しい面もあるが、今は兼業を認める会社も増えてきているし、内緒で来てもいいという人もいるかもしれない。そういう人に『夜でもいいし週末でもいい、もし有給が取れるんだったら1日来てもらえるとうれしいんだけど』と言って、一緒に(仕事を)やっちゃうのがいいと思う」(及川氏)

そこで寺田氏が「(そういう形で)一緒に仕事をやろうとしたときに、どんな仕事を頼めばいいのか悩む」と言うと、及川氏は「エンジニアの場合は比較的それは楽。もちろんコードベースに慣れるまでの時間などもあるので、短期間でどこまでできるかというのは現実的にはあるが」と答え、WordPressのホスティングを行っているAutomattic社の採用プロセスについて紹介してくれた。

エン・ジャパン寺田輝之氏

「Automatticはオフィスがなく、全員がリモートワークしていることで有名だ。彼らは実際の採用プロセスの中に『一緒に仕事をする』というのを入れていて、2週間ぐらいの時間をかけて採用を行う。もし可能ならば、そういう風にガッツリ仕事を切り出して、やってもらうというのがいいと思う」(及川氏)

また「日本では、働きながら転職をする人が圧倒的に多い。その中でうまくカルチャーフィットを見極めながら、一緒に仕事をできるようなポイントはあるか」との問いには「どうにかして時間を作ってもらうしかないかと。一緒に仕事をするのはなかなかハードルが高い面も実際にはあると思うので、一番最初は飲みに行くのでも、ミーティングに参加してもらうのでもよいので」と及川氏は答えている。

「ある人の例で、ある会社の経営者からいきなりLinkedIn経由で『あなたの書いていたブログが面白いから、一度ランチで話を聞かせてくれ』とメッセージが来たので会いに行った。そこで彼らの新規事業のアイデアを聞かせてもらったので意見を言ったら『悪いんだけど夜に行っている定例のミーティングに、可能な範囲で出てくれないか』ということになった。それをしばらく続けていたのだが、結局面白くなって転職してしまった、というのがある。もっとも経営者はそうなることを見越して声をかけたようだけれども」(及川氏)

スタートアップ界隈では、Twitter経由で声をかけて、インターンなどを募集するという話も聞くことがある。これについては、高宮氏は創業初期の採用での活用については懐疑的だ。

「創業最初期の段階では、インターンレベルの人を入れて管理コストがかかる状態にするのではなくて、むしろ一騎当千の人を先に入れて、その人に統制してもらえるようにした方がいい。(Twitterなどで採用対象の)母集団を増やしてパイプラインを広げるというよりは、知っている人を一本釣りしにいくのがよいのではないか。インターンなどはそのキーマンを採用できた後の方が効率的なのでは」(高宮氏)

ただし高宮氏は「数を打って取りに行くというよりは、ピンポイントでスナイプ的に行くべき」と言いつつも、ブランドもなく報酬があまり払えないベンチャーでは、正式採用に至るまでの確率は低いかもしれない、として「ポートフォリオではないが、必要な機能の人材を同じ機能につき複数の候補を挙げて、全員と話をしていくようにするのがいいだろう」と述べている。

高宮氏は及川氏の話にも触れ、「本当に採用が上手な人は、なし崩し的に人を巻き込むのがうまい。取りあえず飲みに行こう、遊びに行こうというところから、気が付くと仕事が振られている。しかも『ベンチャーに入ったらこういう世界だよ』と事前に期待値を調整するかのごとく、(仕事を)まるっと無茶振りする。それでも引き受けてくれて仕事ができる、セルフスターター的な人のほうがベンチャー向きではあるので、そうすることである意味、ふるいにかけるような効果もある」と話していた。

始めからストックオプション交渉が激しい人の採用は要注意

続いて話題となったのは、ストックオプション(SO)発行に関する話だ。前の高宮氏の講演でも「SOの場当たり的な乱発は避け、付与の目的を明確にすべき」という課題が挙げられていたが、そのあたりの生々しい事例を具体的に高宮氏に聞いた。

高宮氏は、SOに限らず、金銭的なインセンティブについて、採用時にネゴる人がいる、という話は散見されると話す。

「大きくなったベンチャーや大企業から来る人だと、ベース(給与)のところでギャップがあるというのは確か。一定程度条件を下げてくれなければ、創業期のスタートアップにはさすがに払いきれない。だからその代わりに、キャピタルゲインをちゃんと取ってもらうことで補填する、というのがいいと思う」(高宮氏)

ただし「経歴はピカピカだけど、採用の入口でものすごくSOについて交渉をしてくる人は、黄色信号。よくよく、その人についてデューデリして(調査して)みた方がいい。お金で来る人は、お金で去るリスクがある」と高宮氏は続ける。

また「給与を上げられない時に、代わりにSOをばらまくのも危険」として高宮氏は別の例も挙げた。

「日本の資本市場では、上場した後に投資家が気にならないオプションの量は、だいたい10%から15%と業界慣習的に言われている。そんな中、早いタイミングでSOを10%もバラまいてしまうと、その後上場に向けてCFOを採用したい、でもオプションの実弾はない、となってしまう。その状況で年収1000万円クラスの人に、『700万円でCFOとして来てほしい、でもSOはない』と言ってもそれは難しい話だとなってしまう」(高宮氏)

成熟企業は「成熟企業ならではの面白さ」でエンジニアを獲得すべし

その後は、会場からの質問を受けて「成熟企業での採用」についての話題へと移った。質問は「事業が成長しているときには優秀なエンジニアがどんどん入ってくるが、減衰フェーズになるとエンジニアの応募が減り、選考に来てもらっても採用競争で負けてしまう。成長が頭打ちになった成熟企業で優秀なエンジニアを獲得するためにはどうすればいいか」というものだ。

高宮氏は「“エンジニア”との質問だが、“優秀なマーケター”“優秀なCFO”など、他の企業の優秀な人と置き換えてもよいかと思う。先ほどの報酬やインセンティブの話とも絡むが、仕事をするときに何をインセンティブとして設計するかという話だ」と答える。

「給与、ボーナス、SOといった金銭的なインセンティブと、自己実現、やりがい、社会貢献といった金銭以外のインセンティブに分けて考えたときに、事業が成長している企業では、すごく分かりやすくエキサイティングな魅力がある。一方、事業がまだ初期で勢いがなく、採用しづらいときには、単純にPL的な業績や売上、シェアを超えて、数字ではないところで『我々のやっている事業は意義がある』『魅力的な組織だ』というような、ビジョンやカルチャーで引っ張るというのがひとつの方法だ」(高宮氏)

もうひとつ高宮氏が挙げたのは、新規事業の采配を任せることでインセンティブとする方法だ。「そもそも仮に上場を目指す企業や上場しても成長を目指す企業なら、既存事業が成熟化してしまったら新しい事業を作って伸ばさなければいけない。『こういう新規事業を考えている。こういうチャレンジをしてみないか。ここはまるっと任せるから』といった形で、自己実現の部分を刺激してあげるというような、非金銭系の報酬を前面に打ち出していくというやり方はある」(高宮氏)

及川氏からは「エンジニアの感じる面白さは人それぞれ違う。今の成熟した事業、サービスにおいて、どういう点が面白いかということを考え、それを訴求するようにすれば、そこに合った人を集められるのではないか」との回答があった。

「エンジニアからすると、0でなく1から作ってくれというのでも難易度はメチャクチャ高い。でも、安定稼働させるというのも、それはそれですごく大変なことだ。一番最初のユーザー数は0。そこからスケールさせることを考えていくのは面白いけれども、逆に育たない可能性もある。既にある程度成熟していて、100万人のユーザーがいるものをちゃんと安定稼働させるというのも、それはそれで面白いと思う人もいる」(及川氏)

成長しない企業の人材流出は当たり前。濃淡をつけてリテンションを

ここで寺田氏から高宮氏に「成熟企業では新しく人を採用する理由、来てもらう理由も作りにくいと思う。改めて来るためのモチベーションも上がりにくいだろう。高宮氏の話にもあった『機能ベースでの組織設計』をもう一度やり直すこともあると思う。そういうとき、どう臨めばよいのか」との問いかけがあった。

高宮氏は「組織というのは結局は、事業の成長と会社が達成しようとしているビジョンを実現するための“HOW”だ。だから『組織を変える(という目的の)ために組織を変える』というのは本質的ではない。例えば『そもそも再成長をしなければならない』とか『再成長をするためには、どういう事業が必要なのか』といった検討がまずあって、その実現のためにハコとしての組織をどうあるべき姿にするか、ということになる。だから、その時の事業戦略次第かと思う。ケース・バイ・ケースではないか」と話した。

「極端に言えば『今のメンバーでもう一回がんばろう!おう!』みたいな話もあれば、今いるメンバーではモチベーションもちょっと微妙だし、新しい事業をやらせてもケーパビリティにミスマッチがあるから、入れ替えをしていかなければならない、という話も両方あり得る」(高宮氏)

人の入れ替わりについては及川氏も「成熟しちゃってたら、人が逃げていくのは仕方がない」と話す。

「今は成熟している企業も(創業期から成長期には)成長のために人を奪ってきているわけで、成熟してしまったら自分たちの人材が流出してしまうというのはやむを得ない。高宮氏が言うように、もう一度事業を成長軌道に乗せるのか、新規事業を成長させていくのかのどちらかだと思う」(及川氏)

「Googleはいまだに、すごい勢いで成長をしているとは思うのだが、あのGoogleでさえ『もう成熟している』と思うエンジニアが流出してしまって、シリコンバレーの新たなスタートアップに行ってしまうということがたくさん起きている。そういうものだと考えて、常に成長させていくしかない」と及川氏は、かつて所属していたGoogleを例に説明を続けた。

「Googleは、イノベーションの自転車操業をやっている会社だ。新しいイノベーションをどんどん導入していっている。これはもちろん、自分たちの会社の成長を考えてのことだが、同時にそれでエンジニアも引き留めている。例えば『あるサービスの開発に長年関わっていて、そろそろ新しいことをやりたい』というエンジニアに、『お前、ライフサイエンスをやらないか』とGoogle Xを立ち上げたり、『(Googleの持株会社である)Alphabetの下にはこういうところのポジションもあるよ』と見せたりしたら、確かに『今と同じぐらい面白いことができるところへ社内で異動できる』となるわけだ。そうしたことで、できるだけ人材の流出を食い止めているという側面もある。Googleは特殊かもしれないが、特殊と思わずに、すべての企業は同じように人材を惹き付ける努力をしなければいけない」(及川氏)

及川氏はさらに「0を1にする、1を10にする、10を100にする、というそれぞれのフェーズで、人材は違う人が必要だと言われるが、エンジニアは特にそれが顕著だ」ともうひとつ別の観点から、エンジニアの流出について説明をしてくれた。

「例えば、ある大企業でインフラを一通り先輩と一緒に作ったが、その後は運用だからつまらない、とスタートアップに移った人がいるとする。その人は自分の能力で0からインフラを設計できる。AWSにするかGCPにするかの選択から、今どの技術を使うべきかのリスク判断まですべて行って、設計が終わってしまったら、後は基本、安定運用を目指すことになる。そうなればその人が再び『もうつまらない』と思ってしまうことはおかしくない。また『新しく0から作るところへ行きたい』となるのはやむを得ない」(及川氏)

高宮氏はファイナンス、経営者の目線でドライに見たときの人材流出について「成熟し、成長性が鈍化して収益が悪化したとき、平均値で言えば、固定費が下がるということは必ずしも嫌な話ではない。人を減らして収益性をもう一度担保し、キャッシュカウ(金のなる木)化しようというのは、組織の話を抜きにして、純粋に業績(改善)としてみれば当たり前のことだ」と話す。

そうした状況での「人材のリテンション」について、高宮氏は話を続ける。「人事の生々しい側面では『辞めてほしい人には辞めてもらって固定費を下げたいけど、エースには辞めてほしくない。残ってほしい人には残ってほしい』という話が出ることがある。経営的な観点からは、平均値とか総固定費で考えがちだが、そこは濃淡を付けて、リテンションしたい人にフォーカスしてリテンションすべき」(高宮氏)

「えこひいきに見えるかもしれないが、本当に辞めてもらいたくない人にだけは、ハイタッチなケアをすることも経営者としては必要。人事としても社長をツールとしてうまく使ってエースを引き留めるということも、やってもいいんじゃないか。例えば引き止めておきたいエースには社長との食事をセットするなど」と高宮氏は述べた。

スタートアップのカルチャー転換、新規・既存事業の両立について

高宮氏から及川氏には、こんな質問があった。「スタートアップ初期のエンジニアは一騎当千で、フルスタックで何でも知っていて、新しいものを作るのがエンジニアとしてもチャレンジングで楽しい、といった人が来る。で、そういう人がエンジニアとしてかっこいい、というカルチャーができがちだ。しかし、そこからスケールしていくと、安定稼働してサービスを落とさない、スケーラブルである、といったような、ちゃんと組織的・サラリーマン的にやるという点が重視されはじめて、カルチャーもがらっと変わらざるを得ない。また人も変わっていく。そういうときに、カルチャーの転換はどのように行えばよいのか?」

及川氏は「ひとつは、カルチャーを変える方がよいのか、というところもある。カルチャーを変えない、ということは、先ほど話した成長事業を常に考えていくということにもつながるし、イノベーションの自転車操業的なものを自分たちの企業で取り入れるかどうか、ということでもある」としつつ「でも、変える、というときには明確にメッセージを出した方がいい」と答えている。

「『クオリティーよりむしろスピードを重視します』とか『ユーザーはこういう人たちしか考えていません』というところから、『我々はマスに向けてやります』というところへ変わるときには、ハッキリと打ち出した方がいい。そうじゃないと、絶対にミスマッチが生じる。で(新しいカルチャーを)『それはそれで面白い』と思う人もたくさんいるはずだが、『やはり0から1の立ち上げがやりたい』という人もいる。そういう人には『0→1はもうない』と言ってあげた方が私はよいと思う」(及川氏)

及川氏の話を受けて、高宮氏は「経営者は二兎を追いがちだ」と言い、取り入れた新規事業と既存事業と両立について、さらに及川氏に問いかける。

「成長性は鈍っているけれどチャリンチャリンとキャッシュが入ってくる、キャッシュカウ化した既存事業の一方で、次なる成長性は新規事業で狙っていく、となると『新規事業のほうが偉い』みたいな空気になりやすい。すると既存事業のほうでは『カネ稼いでるのはこっちなのに、カネを使う割にあいつらばかりチヤホヤされる』といった社内派閥のようなものが生まれることがある。そこを両立するための組織とはどういうものか。特にエンジニアの場合、エンジニアの指向によって組織を完璧に分けるべきか、融和させるべきか?」(高宮氏)

及川氏も「新規事業に限らず、ひとつの事業でも運用側と新規開発側とか、あるいは既存の機能をグロースさせるやり方と完全に新規機能を作るやり方というところでも、後者の方がセクシーで楽しい感じがするので、そちらの方にみんな憧れる。でも、そういうものはまだ全然お金を稼いでいなくて『大事なのはグロースさせることですよ』みたいな話になる」と認める。

そして「実はこれはどこでも“あるある”な話。この時に重要なのは、エンジニアの異動をどういうポリシーで行うかだ。やっぱりみんなが『新規開発をやりたい』となったときに、全員の希望は通らないことが多いわけで。そこにあるルールを設けて、それができるだけ公平・中立なものにしておくことが大切」と語る。

外から来た人材と新規事業の立ち上げを成功させるには

もうひとつ、会場からの質問が取り上げられた。質問は創業70年ほどの企業の2代目社長の方からのもの。「既存事業は古参に任せつつ、(必要な)ケイパビリティーが異なる新規事業の立ち上げを別会社で、新たな経営チームで行いたい。その際、ナンバー2クラスを人材紹介経由で中途採用したいが、どのようにジャッジすべきか悩んでいる。良い手法があれば教えてほしい」ということだ。

高宮氏は、このように答えている。「基本的には自分の右腕、左腕となり、新規事業に対してカルチャーもケイパビリティーもフィットする人を集めることになると思う。一方で先ほどの話ではないが、『キャッシュカウ化して稼いでいるのは誰だと思ってるんだ』と古参の人たちは言うに決まっている。この2代目の方はトップとしてナンバー2の人たちを守ってあげないと、あっという間に古参に抵抗勢力化されてしまうだろう。そういう点で、(別会社に)ハコを分けたというのは大正解だと思う」(高宮氏)

また寺田氏は、自身も新規事業立ち上げを行ってきた経験から「外から連れてきた人に任せた、というのは失敗しやすい」と話す。「既存の人が情報提供してくれない、共有してくれないという風になって、だいたい、つぶされてしまう。うちも外から傭兵のように連れてきてやってみたことがあるが、やはり難しい。既存の領域もありながら、外からいきなりリソースも持ってくるというのは、うまく行きづらい」(寺田氏)

そんな中でも成功するのは、2つのパターンだと寺田氏は言う。「ひとつは外から人を調達するなら、その人がやりたいことが明確になっていること。それに対して資金がいくら必要なのか、どんな協力が必要なのかというのを全部聞いて、それに完全にコミットしてやらせる。そして金は出すけど口は出しちゃダメ。そういう状況の元で、覚悟を決めてやるのがいい」(寺田氏)

もうひとつは既存事業で一番力を持っている人と新事業を立ち上げることだ、と寺田氏は続ける。「自分が稼いだリソースを新しい方に使えるという状況をうまく作ってあげて、既存事業の人員も連れてこられるしお金も使える、という風にしないと、なかなか難しい」(寺田氏)

高宮氏も既存組織をうまく使う方法として「組織にはオフィシャルなレポートライン、公式なコミュニケーションラインとは別に、人間関係ベースの非公式なラインが絶対にある。それこそ創業期から支えた番頭さんとか、すごく人間力の高い部長さんみたいな人は非公式にルートをたくさん持っているはず。そうした、社内で尊敬されていて、いろんな人に非公式に協力を取り付けられるような人とペアを組ませてあげるのは手だ」と述べていた。

レポート後編では、昨年7月のイベントに続いて2度目の登壇となる及川氏を中心に、エンジニア人材の採用、教育、評価について話を聞いた、イベントの後半部分をお伝えする予定だ。公開まで少しお待ちいただきたい。

TechCrunch Schoolは3月22日開催——グロービス・高宮氏と技術者・及川氏に人材戦略やマネジメントを聞く

TechCrunch Japanでは、平日夕方に「TechCrunch School」の名称で、テーマ特化型のイベントを開催している。2017年3月からはこれまで4回、人材領域を軸にしたイベントを繰り広げてきた。来週3月22日には、その集大成となるイベントを開催する。

イベント名は「TechCrunch School #13 「HR Tech最前線(5)」。繰り返しになるが、、TechCrunch Schoolではこの1年、国内外のHRTech最新事情や成長企業の人材戦略、エンジニアから見るHRTechなど、テクノロジー・人材領域をテーマにしたイベントを計4回開催。毎回、成長企業のキーマンに登壇頂き、さまざまな話を聞いてきた(過去のレポートはこちら)。

今回はその過去4回を振り返りつつ、識者により深い内容を聞いていくという趣旨になっている。グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏、プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏の2人に登壇頂き、「成長企業の人材戦略」や「エンジニアとHR Tech」を関するセッションを繰り広げる予定だ。これまでのSchoolに来場できなかった人には過去4回での知見をぎゅっと圧縮してお伝えし、また過去来場頂いた方にも新たな発見があるセッションにしていきたいと思っている。

この1年、TechCrunch Schoolを通して改めて感じたのは、スタートアップの成長において何より大事なのは、「人」だということ。億単位の資金調達や新プロダクトのローンチにしても、すべての元になるのは、いかに仲間を集めていくかにかかっているということだ。だが一方で、創業間もないスタートアップに望みどおりの人材がやってくることなんて限られている。今となっては徐々に変化は起こりつつあるが、以前は「そもそも優秀な人材はほとんどスタートアップなんか見ないで大企業に行く」なんて語ってくれた投資家もいた。

そして無事社内にメンバーが増えても、その教育や評価の仕組み作りをしていくことが重要になる。さらにはプロダクトを作るため、成長させるためには目標の設定や設計も重要になってくる。

今回のTechCrunch Schoolではそんな成長企業の人材戦略、そして採用した人材の教育や評価、目標設定といったテーマで、識者に話を聞いていきたいと思う。

高宮氏は戦略コンサルのアーサー・D・リトルでIT企業のプロジェクトリーダーとして事業戦略の立案などを主導したのちにグロービス・キャピタル・パートナーズに参画。アイスタイルやオークファン、最近ではメルカリなどコンシュマーインターネット領域の企業を中心に投資を担当。前回の登壇では、投資先の「あるある」話をベースに、スタートアップにおける人材戦略について語ってもらった。

及川氏はMicrosoftでWindowsの開発後、Googleにおいて検索製品のプロダクトマネージメントとChromeの開発に携わった人物。その後、スタートアップを経て、独立。現在は企業への技術戦略、製品戦略、組織づくりのアドバイスを行っている。最近ではデンソーの技術顧問に就任したことも話題になった。同氏は前回の登壇では、外資系企業におけるエンジニアの採用や評価設計などについて話を聞かせてくれた。

これまでのHR Tech最前線にも登壇頂いているエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏も登壇の予定だ。同社は幅広い人材サービスを展開していることで知られると思うが、現在は無料の採用支援ツール「engage」も提供。HR Tech領域でのサービスを拡大しているところ。今回はその立ち位置から、人材戦略、エンジニアの採用といった話を聞いていければと思っている。

参加費は無料。人材戦略を打ち立てたい起業家、人材の採用に悩む経営陣や人事担当者だけでなく、マネジメントや教育について学びたいエンジニアチームのリーダー、起業志向の若手エンジニアなど幅広い層の来場をお待ちしている。

【イベント名】

TechCrunch School #13 「HR Tech最前線(5)」 presented by エン・ジャパン

【開催日時】3月22日(木) 19時開場、19時半開始

【会場】Oath Japanオフィス(TechCrunch Japan編集部のあるオフィスです。東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)

【定員】80人程度

【参加費】無料

【ハッシュタグ】#tcschool

【主催】 Oath Japan株式会社

【協賛】エン・ジャパン株式会社

【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

【当日イベントスケジュール】

19:00 開場・受付

19:30〜19:40 TechCrunch Japan挨拶

19:40〜20:10 パネルディスカッション(高宮氏、寺田氏)(30分)

20:15〜20:45 パネルディスカッション(及川氏、寺田氏)(30分)

20:45〜20:50 ブレーク

20:50〜21:30 懇親会(アルコール、軽食)

【スピーカー】

グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)及川卓也氏

エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏

TechCrunch Japan 副編集長 岩本有平(モデレーター)

【申し込み】このイベントページから事前登録必須

【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

【個人情報保護方針(プライバシー ポリシー)】

本イベントのお申込みに際してご提供いただきます個人情報(氏名、会社名、役職、電子メールアドレス)は、本イベント関連情報の提供やTechCrunchに関するイベント等のお知らせをお送りするために利用させていただくとともに、本イベントの協賛企業に対し、マーケティング目的のために電磁的な方法等により提供させていただくために利用することがあります。但し、協賛企業への個人情報の提供の停止を希望される場合は、お申し込みフォームでチェックボックスでチェックを外して頂くことで提供を停止させていただきます。なお、ご提供いただいた個人情報は、Oath Japan株式会社の個人情報保護方針(http://info.aol.jp/global/privacy)に従って適切に利用させていただき、同方針または個人情報保護法その他の法令に基づき開示が認められる場合を除くほか、無断でその他の第三者に個人情報を提供することはございません。

個人情報に関する詳しい取り扱いについては、下記運営事務局までお問い合わせください。

Oath Japanの個人情報保護方針:http://info.aol.jp/global/privacy

Oath Japanにおける個人情報についてお問い合わせ:privacy@aol.jp

「能力は誤差」スタートアップが見るべき人の資質、妥協しない採用とは——TC School #12

TechCrunch Japanでは2017年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドや働き方、人材戦略といった人材領域をテーマとした講演やパネルディスカッションを展開してきた(過去のイベント一覧)。HR Techシリーズ第4弾として2017年12月7日に開催された「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、パネルディスカッションの模様をお届けする(キーノート講演のレポートはこちら)。

パネルディスカッションの登壇者はプレイド代表取締役の倉橋健太氏、dely代表取締役の堀江裕介氏、ジラフ代表取締役の麻生輝明氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4人。創業者、あるいはHRサービスの提供者の立場から、それぞれが体験した「スタートアップ採用のリアル」について話を聞いた。モデレーターはTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が務めた。

始めに各社から、自己紹介も兼ねて事業の内容や現在の体制について簡単に説明してもらった。

まずは倉橋氏が2011年に設立したプレイドの紹介から。プレイドは従業員数約70人。ユーザーを「知る・合わせる」をコンセプトに、ウェブサイトの訪問者のリアルタイムな解析とアクションを可能にするカスタマーアナリティクスサービス「KARTE」を提供している。倉橋氏は楽天に2005年に入社、2011年まで約7年間在籍し、Webディレクション、マーケティングなどさまざまな領域を担当してきた。その倉橋氏が独立し、KARTEをリリースしたのはなぜか。

プレイド代表取締役 倉橋健太氏

ウェブサイトでは、ユーザーがいて、何らかのプロダクトやサービスを提供した結果、パフォーマンスが生まれる。倉橋氏は「残念ながら、インターネットのビジネスでは、ユーザーはトラフィック、サービスはサイトと捉えられていて、パフォーマンスから考える傾向が強い。この方法では『いかに高転換なサイトに人をたくさん流し込むか』ということだけ重視され、いろいろなところで疲弊してきているし、運営していても面白くない、ということになる」と述べる。

「昨日新規ユーザーが100人来た、と言っても、その100人は誰なのか。そういうことをしっかり可視化しながら、プロダクトやユーザー体験を良くしていきましょう、ということで、KARTEを提供している」(倉橋氏)

人の可視化が重要、と話す倉橋氏は、イベントの前の週にリリースしたKARTEの新サービス「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」を動画で紹介。これまでは、平面の管理画面で人を可視化していたところを、オンラインに来ているユーザーの行動をリアルタイムにVR空間で描画する試みだ(TechCrunch Japanの記事でも詳しく紹介している)。

カルテガーデンでは、人が商品を「手に取って」見ているところや売場を歩き回っている様子を、VRで見ることができる。「データを数字として見ることが多くの人は苦手なので、難しい。それを“人”として見ると、身近に感じて一気に簡単になる。(分かりにくい)データや数字はマーケティングから退けていきたいとの思いから、事業をやっている」と倉橋氏は話す。

続いて堀江氏から、delyの設立から今までの歩みについて紹介してもらった。堀江氏がdelyを立ち上げたのは2014年。2014年から2016年までは、現在とは違うサービスを提供していたがうまくいかず、2016年にピボットして、レシピ動画の「kurashiru」を作った。

dely代表取締役 堀江裕介氏

delyの従業員数は、現在130人ぐらい。うち社員は内定者を含めて60人だ。「昨年は十数人だったので、一気に増えた」と堀江氏は言う。「直近の四半期では50人採用した。このスピードで採用していると、相当失敗もしている。いい採用だけでなく、悪い採用もしているし、どういう採用チャネルがあるのか、どういった採用ハック方法があるのか、いろいろ試しているので、今日は参考にしてもらえると思う」(堀江氏)

正社員の採用チャネルは「基本的にリファラルとWantedlyで、7割近くを占める」そうだ。今のところまだ、エージェントと媒体を利用した採用は、それぞれ約10%で「社員の満足度が高いときには、やっぱりリファラルでの採用がガンガン効く」と堀江氏は話している。「Wantedlyの運用も、今は人事担当を1人つけて、がんばっている。あと、SNS経由については、僕が毎日どんどん発信しているので、これがかなり効いているかな、と思っている」(堀江氏)

ジラフ代表取締役 麻生輝明氏

次に紹介があったのは、ジラフの麻生氏だ。ジラフは2014年の創業。麻生氏が大学在学中に、買取価格の比較サイト「ヒカカク!」を始めたのが創業事業だ。その後、別のサービスもリリースしているが、会社として大きく人を増やし、組織も拡大するきっかけとなったのは、2017年3月にポケラボを売却したシリアルアントレプレナー・佐々木俊介氏が参画し、同時にポケラボのリードエンジニアだった岡本浩治氏がCTOとして参画したことだ、と麻生氏は言う。

「そこからビジネス側、開発側で人を一気に拡大し、だいたい8カ月ぐらいで2.5倍ぐらいの規模になった」と麻生氏は話している。現在は従業員全体で60人ぐらい、社員が30人ぐらいだという。

直近では、2017年10月に「スマホのマーケット」をリリース11月には資金調達も行ったジラフ。資金調達については「組織面が強化されていることも評価された」と麻生氏は言う。今後、スマホ即金買取サービスの「スママDASH」の公開も予定しているとのことだった(イベント後の12月21日、ジラフはTwitter経由の匿名質問サービス「Peing(ペイング)質問箱」を買収、さらに2018年1月15日にはスママDASHをリリースしている)。

エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

エン・ジャパンの寺田氏は今回、スタートアップへ人材サービスを提供する側としての登壇だが、寺田氏自身もエン・ジャパンがスタートアップだった頃に入社している。現在はエン・ジャパンの執行役員を務める寺田氏の持論は「スタートアップは、成功するまではプロダクトづくりに専念しろ」というもの。自身がかつて直面した採用の課題に対して、先回りして解決できれば、ということで提供しているのが、クラウド採用ツールの「engage(エンゲージ)」だ。

engageでは「採用からエンゲージメントを意識してほしい」ということで、基本的に無料でサービスを提供。2016年8月のローンチから1年3カ月で5万7000社に導入され、「HRアワード 2017」では優秀賞も受賞した。

engageで提供する主要サービスのひとつが、スマホ対応の採用HP作成。寺田氏は「媒体やWantedlyで企業からの採用メッセージを発信することは絶対やった方がいい。その上で、メッセージを見た人は必ず企業のホームページも見に来る。これはエージェントを使っても一緒。そこで、事業内容やサービス内容に加えて、採用のページも充実させておくことで、面談や面接で会う前の魅力付けをすることが必要だ」と採用HPを用意することの意義について説明する。

「採用ページを個別に用意するのは結構コストがかかる。だったら僕たちの方で作ってしまって、ばらまいてしまおうと。さらに『エンジニアやデザイナーはプロダクトに集中すべき』という考えから、応募者管理のためのCMSや、ノンエンジニアがページを更新できるような機能も入れている」(寺田氏)

また、エン転職会員や提携するindeedなどを対象にした、採用のマーケティング支援もengageで実施。さらに性格・価値観テストと知的能力が測定できる「タレントアナリティクス」も月に3人分まで無料で提供している。

「スタートアップ採用あるあるとして、候補者のスキルは分かるが、カルチャーフィット、その人たちがどういう性格や価値観を持っているのかが、なかなか分からない、というのがある。特に創業初期の段階で、それが合わない人たちを入れてしまうと、結構苦労する。だから、カルチャーフィットの部分もしっかり見ていこう、というのがタレントアナリティクスのサービスだ」(寺田氏)

もうひとつ、寺田氏が紹介したサービスが、退職予測をアラートする「HR OnBoard」。入社して何年も経てば退職理由もいろいろ出てくるものだが、入社後1年以内に退職する人については傾向があると寺田氏は言う。エン・ジャパンでは3000社以上の企業の状況を分析した結果をもとに、「HR OnBoard」をリリースした。

「多いのは『思っていたのと違う』というギャップ、直属の上司とのリレーションのズレ、そして業務量が多すぎる、または少なすぎるというズレ。これらをずっと分析して『このタイミングで社員からこういう回答が出るときは、退職の危険性が非常に高い』『こういう回答なら大丈夫』というパターンを出し、ビッグデータからアルゴリズムを作って提供している」(寺田氏)

何もないところから日常的にコミュニケーションを取って、採用した人が退職しないようにフォローするのはなかなか難しいものだが、アラートが出て「このまま行けば辞められてしまう」となれば、一生懸命止めることができる。そのためのツールとして用意した、と寺田氏は説明する。

「私自身の経験も含めて、スタートアップでこれから起こりうるトラブルは絶対あるはず。そこに先回りできるツールを提供していく。さらにこうしたツールはこれまで、結構なコストを投入しなければ導入できなかったが、SaaSとして提供することで民主化した。ミスマッチのない、エンゲージメントの高い対応が実現できるように、ということで提供しているので、良ければ使ってみてほしい」(寺田氏)

「最初の5人」採用はやはり知人・リファラルが中心

各社紹介の後、話題は「創業して最初の5人はどうやって集めたか」へ移った。

ジラフの麻生氏が1人目の社員を入れたのは、創業1年ぐらいのタイミング。それまでは全業務の統括をひとりでやっていたという。「No.2が欲しい、ということで探していたが、そこにハードルがあった。COOを務められるNo.2人材は、起業しようという気力がある人でなければいけない。けれども、そういう気力のある人は、代表をやりたいわけで、ちょうど良い感じの人がなかなか見つからなかった。結果的に、VCから紹介してもらった人と会ったところ、その日に入社を決めてくれた」(麻生氏)

次に入社したのはエンジニア2人で、1人は業務委託で手伝ってくれていたメガベンチャー出身者。もう1人は「4月1日に会ったら、東大を卒業したところだけど就職が決まっていない、というちょっと変わった子で、その日のうちに採用を決めた」のだそうだ。

その後、現在は執行役員 兼 営業部長を務める人を採用。「彼は大手商社の出身で転職してきてくれたのだが、元々、大学時代にインターンが同じだったのが縁。最初の5人については、いずれも紹介や縁で入社してもらっている」(麻生氏)

delyの堀江氏は、サービスをピボットして実質2回の創業を経験しているが、1回目のサービスがうまくいかなかった際には、20人ぐらい一気に辞めたという。「唯一残っている最初からのメンバーは、現CTOの大竹(大竹雅登氏。TechCrunch Tokyo 2017でCTOオブ・ザ・イヤーにも選ばれた)。自分は『プライベートの友だちは絶対に誘わない』と決めていた。またエンジニアの友人もいないので、Facebookのプロフィールに『エンジニア』と書いてある人に片っ端から連絡を取った。100人ぐらいに声をかけたのだが、一番最初に引っかかってしまった(笑)のが彼だ」(堀江氏)

その後、第2創業期のメンバー集めでは「一度チームが崩壊してしまったので、チームメイキングができる人間が欲しいと考えた」という堀江氏。「大学時代に一度、VCのピッチの場で会った人が、起業をやめて大手消費財メーカーに就職したと聞いていた。彼に久しぶりに連絡をしたところ、話して3日後に辞表を出して、2分の1の給料で入社してくれることになった」と次のメンバー入社のいきさつを話してくれた。

「彼も大竹も一度起業を目指した起業家で、その後のメンバーも10人ぐらいまでは元起業家。タフなメンバーが今でも活躍している」と言う堀江氏に、元起業家を口説くときの方法を聞いた。「『自分で事業をやるより、俺とやった方が勉強できるだろう?』という謎の雰囲気を出す(笑)。本当は何も教えることなどなくて、自分が教えてもらってばかりですが」(堀江氏)

プレイドの倉橋氏は、ビジネスマンを7年弱経験してからの起業だ。楽天を辞め、初めはコンシューマー向けのアプリ提供やECコンサルを行っていた。最初のメンバーは役員4人。すべて知人、リファラルでの採用だった。

「取りあえずやりたいことをやるために会社を作ったが、会社ってそんなにうまくいくわけがない。他の仕事を持ちながら4人が集まったということもあり、サービスをローンチした後、初動は良かったが、なかなか伸ばすことができなかった」(倉橋氏)

そのため1年目に一度切り替えよう、ということでメンバーもリセット。同じ会社を器として使いながら、今のCTOと楽天時代の同期の紹介で知り合い、現在に至っているという。

「だから僕も2回創業があって、1年目はウォーミングアップだったと捉えている。その後、役員以外の社員が入りはじめてから20人弱ぐらいまでは、全員リファラル採用を行ってきた」(倉橋氏)

「スキル」よりは「学習能力」「フィットネス」を重視

では「最初の5人」のフェーズを終え、そこから拡大していくときに、各社はどういう基準・指標で人を採用していったのだろうか。

従業員70人、うち社員として60人を抱えるプレイドの倉橋氏は、社員の採用チャネルについて「まだリファラルが半分強。残りの半分のうちの半分がWantedly経由で、もう半分がエージェント」と概観を説明。「つまり信頼できる人を確実に誘っていく、ということをやってきた。社会人経験があることから、人を介して人につながる、ということはやりやすかった」と話している。

倉橋氏は「役割ごとの人数を(採用)計画に落とし込むということは、これまでほとんどやってきていない」と言う。「僕らの事業はまだまだ、これから立ち上がるフェーズだと思っている。だから人材を(初めから)見極めて採るという市場感ではなく、いい人をできる限り採る、それだけでやってきた。エンジニアかビジネスか、ぐらいの区分はあるが(細かい)役割を決めて採用するということは、いまだにほとんどしていない」(倉橋氏)

人材のフィット感を確かめる方法として「全員にアルバイトか契約社員で入社してもらい、3カ月見る」ということもやってきた、という倉橋氏。「中には9カ月ぐらいアルバイトしてから社員になった人もいる。そこで妥協しなかったことが、今の(企業)文化構築につながったと考えている」とのことだ。

採用基準については倉橋氏はこう語る。「新しい価値観を提供していくときに、一番重要なのは学習だ。個々人として、組織として、またプロダクトとして学習していく、という中では個人の役割なんて簡単に変わる。だから変化への許容度が高い人をいかに採るか、ということを優先してきている」(倉橋氏)

人の良し悪しの判断については「社内でも、CTOなどと話しているのは『能力は誤差だ』ということ」と言う倉橋氏。「そもそも新しいことをやっているのだから、その人の経験が100%ダイレクトに生きる、なんていうことは、まずない。経験や成功体験を疑える人にまず来て欲しい、というのが前提だ。だから『人間として好きかどうか、人間性が信頼できるか、真面目か』といったところを見ているのと、自分の言葉として事業に共感してくれているかどうか、能力よりも『一緒にやりたいかどうか』といった“人”っぽいところを基準に見ている」(倉橋氏)

採用チャネルの3割がリファラル、というdelyの堀江氏は「採用の基準は超簡単」と面白い視点を紹介してくれた。「会ったときに『この人とサシで飲みに行く約束をした1時間前に、イヤにならないか』ということを見ている。カルチャーフィットする人なら、気軽に飲みに誘える。定性的ではあるけれども、採用してからの感覚ともだいたい合っている」と堀江氏は言う。

「能力に関して言うと、見てはいるが、入社してから半年も経てば、そのジャンルに対する知見などは周りと変わらなくなってくる。だから過去の経験よりは、学習意欲の高さや学習スピードの速さを重視している」(堀江氏)

ここで寺田氏が「Googleでは『エアポートテスト』、つまり採用基準として『次に乗る飛行機が飛ばなくなり、空港の近くのホテルで泊まらなければならなくなったときに、一緒に泊まって会話ができるか』というテストを、科学的に行っている」と紹介。堀江氏に「イヤになるかならないか」を判断するときには、何を見ているのか尋ねた。

堀江氏は「うさんくさくない人かどうか」が基準だと話す。「前年比1500%達成!といった経歴を書く人がいるが、そもそも前年の運用期間が少ない、とか、話を盛っちゃう人はうさんくさいので、飲みに行きたくなくなる。自分の失敗や弱みまで含めて語れるような人は、僕はいいな、と思っている。カルチャーフィットというのは、ある意味、自分の彼女に対して『性格も良くて料理もできて、謙虚で』といった全部の条件を求めているようなものだけど、別に『会社に合わせろ』ということではなくて、何か間違ったときに素直に認められるような能力というのを、僕らは見ている」(堀江氏)

ジラフの麻生氏は、スタートアップとしての「採用のフェーズが変わってきた」という実感があるようだ。「創業から1年半ぐらいまでは、精神論的だが(基準が)『頑張れる人』みたいな感じだった。起業家プラス5〜6人、というときには、その温度感を一緒に持ってやれる人かどうか、というところを見ていた」と言う麻生氏。

「そこから規模が大きくなるにつれて、不器用な人というか『必殺技は持っているんだけど、今いる会社では上司から好かれない』とか、ちょっと変わった人が入ってくるようになってきた。ジラフではそういう人が多いので、みんなお互いに認めあっている、という環境になってきた」(麻生氏)

フェーズが変わったタイミング、きっかけについては「資金調達をして、大きめのオフィスに移転して、人をどんどん採用していくという中で、業務を回すために『頑張れない人』、定時に来て定時で普通に帰る、という人を入れていく時期は来る。今はそういう時期だな、と思っている」と麻生氏は言う。

また、倉橋氏や堀江氏と共通する点として「ポテンシャルがある人、過去の経験にとらわれず、会社が求めていることの説明を素直に受け止めてもらえて、うまくいかなくてもすぐに違う挑戦ができる、試行錯誤できる人を採用するようにしている」と麻生氏は言い、「そういう人は若い人に多い。今は20代の人を採用させてもらっている」と話している。

「ただ、20代は能力差が結構あって。すごく優秀な人を1人採るのと『普通に仕事ができます』という人を2人採るのでは、優秀な人を1人採った方がいい。そういう人は他の人も連れてこられるし、正の循環が回るというイメージがある。そこの質をどう担保するのか、ということも同時に意識はしている」(麻生氏)

リファラル採用、それぞれの「巻き込み方」「口説き方」

続いては、リファラル採用について。それぞれ、知り合いをどう巻き込むのか、成功している事例を各社に聞いた。

堀江氏は「自分事として考えること」が大切だという。「経営者は自分事として考えないことが多いけれど、もし自分が社員だったとして、この会社に本気で親友を誘えるか、と考えると、それは『この会社が好きかどうか』にかかっている。あとは、業績・社風的に信頼できるかどうか。僕らは、業績を上げることはもちろんだが、サービスの魅力を上げることなどで、まずは社員に好きになってもらうように頑張ることが大事」(堀江氏)

好きになってもらったその後は、社員の中で紹介を頑張った人を積極的に表彰し、Slackなど全社員の見えるところで称賛する文化を作ったことで、リファラル採用が加速した、と堀江氏は説明する。

「僕は学生起業家だったので、(自分の周りには)まだそれほど人材がいない。社員経由のリファラル採用のほうが最終的には増えてくると思う。また、1人の知り合いよりも100人の知り合いを探した方が圧倒的によいので、自分の紹介での採用もあるが、社員の紹介もかなりある」(堀江氏)

麻生氏は、基本的には自分がつかまえてきた人材が多い、と言う。「僕の場合は、採用したい人は2年かけて追いかける、ということをやっていた。3カ月おき、半年おきに飲みに行ったり、ごはんを食べたりして、定期的に会う。これはDeNA(創業者)の南場さんが『SHOWROOM』プロデューサーの前田さん(現在はSHOWROOM代表取締役社長の前田裕二氏)を採用するときに数年かかった、という話を聞いたのだが、それを真に受けてやっている感じだ」(麻生氏)

実際に2年かけて採用したエンジニアや、半年以上かけて口説いて入社した人事責任者が、現在ジラフでは働いているそうだ。

面談からどう踏み込ませるかについては、社員に会わせることが強い武器として機能している、と麻生氏は説明する。「うちは現場に自信があるので、口説いた上で『じゃあ、実際働く人に会いに来てみなよ』と来てもらい、社員に会わせるとだいたい一緒に働きたいと思ってもらえる」(麻生氏)

またジラフでは比較的早い段階で、CxO経験者を採用している。その手法について麻生氏はこう話している。「優秀な人ほどキャリアアップを真剣に考える。スタートアップに挑戦したいが、考えた結果、不安が大きくなることも。そういう方に対しては、今のキャリアから次のキャリアに進むときに『ステップアップしてるよね』という状態をちゃんと作るために、ポストや部署を用意する。その代わり、『そのポストで、これ以上の人は採れない』というギリギリの一番いい人を採用する、ということは毎回やっている。そこは妥協しているつもりはない」(麻生氏)

スタートアップでは「今後それよりいい人を採れなくなる」ということを恐れて、ポストを用意しない起業家も多いが、麻生氏は「僕はちゃんとポストを用意し、ストックオプションなども提示して、僕らの会社に普通なら来ないような人を取り込む、ということを連続的に繰り返している」と言う。

倉橋氏はリファラル採用について「仕組み化するのが難しい」と述べている。「社員が少ないときは一通り候補に当たり終わると、どうしよう、みたいな話になるので、あまり効率的な仕組みではない。ただ、僕らの場合は社員の平均年齢がだいたい30〜32歳ぐらい。そこで『日本酒を飲みまくる会』など、お酒の力を借りて、ガードが弱くなったところで仲良くなるようにしている(笑)。月に1〜2回、外の人を気軽に呼んでこられるような場を用意する、これだけはちょっとした仕組みとしてやっている」(倉橋氏)

もうひとつリファラルに効くテクニックとして、倉橋氏は「今のフェーズまでは、現実的な話を社内でもあまりしない、というのを貫いてきた」と言う。「夢のある話の方が、みんな楽しそうに話すので、外にも伝播しやすい。いざその話が外に伝わって新しい仲間が増えたときにも、はじめに夢で共感している場合、現実化するところでも人はなかなかぶれない。だから入社した後も安定しやすい」(倉橋氏)

こうして、とにかく夢を社内全員で語るようにしている、というプレイドで、倉橋氏が「ここまで来たか!」と思ったエピソードがあるそうだ。「採用候補者に『みんなものすごいレベルで夢を語りますね。これって事前に準備しているんですか?』と質問された。それほど、気持ち悪いぐらいに、それぞれの口から夢が出てくる。そういう会社って強くなれるんじゃないかな、と信じている部分はある」(倉橋氏)

ここで寺田氏から「メンバーと一緒に採用にチームとして取り組んで動き、ありがたかったこと、うれしかったことは?」と質問があった。

麻生氏は「僕の場合は学生起業ということもあり、中途採用のときに『スタートアップに転職するのはいいですよ』と僕の口から言うと、ポジショントーク感が強くなる。それを大手企業から転職してきた人に説明してもらうと、説得力が変わる、ということはある。また、口説きに行く、というやり方は一般の従業員では難しいケースが多いが、僕以外でもCFOなど、目的意識が強い人間が説得して『逃さず採りに行く』という採用ができる人がいるのは、すごく助かっている」と言う。

また倉橋氏は、人事採用の責任者から日々聞いていた苦しみとして「求人票を作れない」という話を紹介。「要は『こういうことができる人が欲しい』という求人を一切出してきていないわけで、エージェントも困るだろうし、人事採用担当もこのギャップを埋めるのは大変だったと思う。けれども、会社の成長も含めて、時間をかけながら、採用責任者がエージェントとコミュニケーションをしっかり取ってきてくれたおかげで、『変だけど、めっちゃいい会社があります』という感じで紹介してもらえるようになった。難しかった部分ではあるが、突破できると逆に強みになるのではないか、という気が最近ではしている」(倉橋氏)

採用失敗エピソード、やっておけば良かったことは?

この後は、会場からの質問で「一番の採用失敗エピソード」を各社に教えてもらった。

麻生氏は「経験者を採りたい時期に中途採用をしたが、あまり一緒に頑張ろう、という気持ちでやってもらえなかった事例があった」ことを紹介。「今では明確な採用失敗というのは起こらなくなってきた。社内で選考フローも作り始め、『こういう項目を見ましょう』というのも体系化されてきている。あとは、必ずどんな人でも僕が面接に1回は入るようにし、自分で見て『この人なら』という人だけを採るようにしている」(麻生氏)

堀江氏からは、採用の失敗ではないが初期メンバーとそれ以外のメンバーとのギャップについての悩みが打ち明けられた。「最初の10人がものすごくファイタータイプというか、タフな人間が多かった。となると後半に入ってくる100人目、120人目とかが、それを見てビックリしてしまう。そういうわけで、あらかじめ『めっちゃ働いている人もいれば、18時に帰ってる人もいるよ』とある程度、現実とのすりあわせが僕らにも必要なのかな、とは思っている」(堀江氏)

倉橋氏も失敗ではないが、やっておけば良かったこととして、採用すべき人材の順序・時期について述べた。「僕のようなビジネス系、マーケティングやディレクション系人材の採用は、スタートアップでも比較的困らないケースが多いと思う。だが、難しいのがエンジニアやデザイナーの採用。特に僕たちのようなB2Bのプロダクトの場合、デザイナーが一番難しい。うちはエンジニアについては初期から良い人材がいて助かっているけれども、デザイナーとして中核になる人間を、社員数5人10人のフェーズで1人でも採れていたら、立ち上がりはもう少し早かったのではないか、という気はする」(倉橋氏)

最後に、寺田氏からの「採用PRとして、こういうことを発信すべき、また注意すべきという点は?」との問いにも各社に答えてもらった。

堀江氏は、四半期に50人を採用したときの話として「僕自身が一番、社内だけでなく社外にも夢を語りまくっていた」と話す。「社長の思い、ビジョンを元々知った状態で面接に来てもらう、ということをとにかく心がけている。採用の確度も高まるし、社長自身が発信することは大事だ」(堀江氏)

麻生氏からは「僕らはストレッチして、優秀な人を採っていくようにしている。けれども優秀な人ほど、いろいろなことがすぐにできてしまい『褒められるのが当たり前』という環境になって、仕事が面白くなくなっていくことが多い」と“良い人材”を採用することに対しての注意点を述べた。

「僕らの環境では『いろいろなところで褒められてきた人たちが真剣にやらないといけない』という状況にするようにしている。30歳になろうという人たちが、真剣にキャッチアップしていく、という環境を作っていこうと思っているし、そこに挑戦的な気持ちで参加できる人に来て欲しい」(麻生氏)

倉橋氏は「採用広報、PRは正しく伝えることだと思う」と言う。「採用広報、PRを考え始めると、伝え方を間違えそうになるというか、自分たちらしくない伝え方や、いいところを探そうとして、そんなに大した話ではないのに外に出そうとしてしまうなど、自分たち自身が迷い始めることがいろいろある。でも、プロダクトも採用も、自分たちの努力以上のものは外には伝わらない。だから良く思われたいんだとしたら、本当に努力するしかないかな、と思っている」(倉橋氏)

採用とは候補者の人生の時間投資を引き出すこと——TechCrunch School #12:キーノートレポート

写真左から:インキュベイトファンドGeneral Partner 和田圭祐氏、HR Partner 壁谷俊則氏

TechCrunch Japanでは今年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドやスタートアップの人材戦略など、人材領域をテーマにイベントを展開してきた(過去のイベントについてはこちら)。HR Techシリーズ第4弾として12月7日に行われた「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、キーノート講演の模様をレポートする。

登壇者はインキュベイトファンド General Partnerの和田圭祐氏とHR Partnerの壁谷俊則氏。インキュベイトファンドは創業期の投資・育成にフォーカスしたベンチャーキャピタル(VC)だ。キーノートではVCの立場から、スタートアップの採用戦略や支援の手法について紹介してもらった。

最初に和田氏がインキュベイトファンドの投資の取り組みについて説明した。インキュベイトファンドでは、4名の共同パートナーにより、累計300億円、300社のポートフォリオを運用。会社設立前のプレシード期から積極的に事業相談に応じている。最近では金融・医療・エネルギーなど既存の大きなマーケットに切り込む戦い方をするスタートアップや、研究開発を行い難易度の高い技術を活用する企業も投資先に増えているそうだ。

背景には、VCへの資金流入が増えていることがある。既存産業の主要プレーヤーである大企業も、スタートアップに期待をして資金を投入している。「こうした資金の最大の使途は基本的には人材だ」と和田氏は言う。「人材は事業の成長の加速度や成否が大きく左右される、最大のファクターだ。資金流入の加速により、数年前に比べても、CxOになる人たちは明らかにハイスペックな人が増えているという実感がある」(和田氏)

そうした状況下、資金を提供するだけではなく、採用の支援も行おうということで、4月からインキュベイトファンドのHR専任担当に就いたのが壁谷氏だ。壁谷氏はフューチャーベンチャーキャピタルを経て、人材紹介事業を行うクライス&カンパニーでマネジメント領域の転職支援、ランスタッドでキャリアコンサルタントのマネジメントを行った後、インキュベイトファンドに参画。現在は、投資先企業20〜30社の採用ステージを支援しているそうだ。

スタートアップ創業初期の採用は創業者の個人戦

スタートアップにおける採用のやり方は、創業初期の初めの5人を集める段階と、組織全体で数十人規模の採用を行っていく段階とで、かなり変わっていく。「それぞれのフェーズでどう採用を行っていくか、またフェーズによる差異をどう吸収していくか、ということを悩んでいる企業は多い」と和田氏は言う。

VCが投資を行い、採用活動をサポートする場合は、初めの5人の段階で手伝うことが多く、パートナー自身のネットワークの中で一緒に人を口説くこともやる、と和田氏は話す。「このタイミングでは創業者のカリスマ性やリーダーシップ、プロダクトにかける情熱など(を武器に)、アナログな戦い方で一人ひとりタレントをそろえる。プロダクトや会社としての実績、基盤や組織もできていない状況では、社長の魅力で勝負していくことになる」(和田氏)

このフェーズでは、投資は決定しているがファウンダーが一人しかいない。だが、やろうとしていることの規模感から考えると一人ではとても足りない、という状況だ。VCは、事業戦略に合わせてどんなコアメンバーが必要で、それぞれがどういったスキルセットをどれくらいの基準で持っていなければならないのかを創業者と徹底的に話し合い、バイネームで誰が欲しいかまでを記すような、具体的なスカウトリストを一緒に作ると和田氏は言う。

「ファウンダーのネットワークの中で候補となりそうな人を共有しながら、VCのネットワークでも該当しそうな人がいれば紹介していく。候補者の感触が良ければ、継続的にコミュニケーションを取っていく」(和田氏)

候補者を口説くプロセスについては、和田氏はこう話している。「初めからいきなり、『これから立ち上がるスタートアップに参画してくれ』といっても、なかなか踏ん切りが付かないものだ。また優秀な人ほど、今の職場でも非常に評価されていたりする。そこで時間をかけ、事業のアップデートがあれば随時、丁寧に伝え続けて口説くという手法をとる」(和田氏)

採用候補者がスタートアップや経営の経験を持つ人材の場合は、創業者の強みや弱み、癖などを客観的に見てどうかといった意見も、VCに対して求められることがあるという。また、どういうチームプレーやサポート関係になれば理想的になるか、と聞かれることもあり、ナンバー2、ナンバー3としての働き方をサポートしていくこともある、と和田氏は述べる。

採用強化フェーズで大切にしたい3つのポイント

初めの5人を集めた後は、数十人規模へ組織化していくフェーズへと移る。ここからは壁谷氏から、チームづくりと採用について説明してもらった。

このフェーズは、資金調達から人材採用に大きく舵を切り、会社全体の組織戦として採用を強化するとき。引き続き10人に満たない時点では、経営陣はアナログに採用を行いつつも、事業も大きくなり、忙しくなってくるため、それだけでは追いつかなくなってくる。壁谷氏は「この段階からは、採用の入口から出口までプロセス全体を設計し、アプローチからアトラクト(魅力付け)までをしっかり選んでやっていかなければならない」と話す。

また、この段階では最初期とは違い、サービスや事業の実績・評判、プロトタイプなどの先進的な事例は出ているはず。それを表に出して共有しながら「この事業を一緒により拡大していくために、皆さんの力が必要です」ということを伝えていくことになる。「(創業者の)思いだけではなく、事例も合わせて伝えていくことが必要になってくる」と壁谷氏は言う。

そして会社がまだ十数人規模の段階では「会社のメンバー全員が採用担当です」と言い切って採用活動が行える環境をつくることが大事だと壁谷氏は言う。「そういう意味では社長一人の努力でなく、組織文化や各人の業務範囲、権限委譲なども重要なファクターとなってくる」(壁谷氏)

投資先の採用強化フェーズで、壁谷氏がVCとして大切にしている点が3つあるという。1点目は採用計画の共有。事業計画を形にするためには、どういう採用を実現しなければならないかを共有し、採用フローの全体像を把握する。この時点ではメガベンチャーでもない限り「あらゆる手段を使って」採用を行うにはリソースが足りない。どの手段をとるかを決めて、採用をスタートしていく。

2点目は、誰を採るか、採用人材のターゲティングだ。「ややもすると『うちのようなスタートアップに来てくれる、アツい、イケてる人』といった漠然としたターゲットになりがち。『今どの会社で何をしている人が必要で、そうした人が自社のようなスタートアップに来る動機があるとすれば、転職理由はここなのでは?』と仮説を持ってターゲットを設定していくことが必要。仮説をたくさん持つことでターゲットを広げていくことはあり得るが、ぼんやりとしたターゲットにすることは適切ではない」(壁谷氏)

ターゲット設定はなぜ必要なのか。壁谷氏は3点目の「採用広報」と関係があると指摘する。「自社ホームページやWantedlyなどで採用広報をかけていくときに、ターゲットと仮説が曖昧だと、出すメッセージも曖昧になる。この人に読んでほしい、こういう志望動機の人に見てほしい、というのがなければいけない。ターゲットがハッキリしたら採用広報を強化し、事業ビジョンやマーケットの課題、それを解決するための自社のポジショニングなどを発信していく」(壁谷氏)

同時に資金があるなら、リソース不足を補うために人材紹介会社も活用できるが「ここでも、情報やターゲットをしっかりとエージェントに展開しなければいけない。何となくいい人連れてきてください、ということでは良い人材は出てこない」と壁谷氏は話している。

転職者の「企業選定」「面談」には手厚く対策すべし

続いて壁谷氏は、採用で起こりがちな課題を“打ち手”ごとに紹介した。

上図の左側の課題に対して、右側のような状況になることが理想なのだが、どうすれば“意図的に”そうした状況を作っていけるのだろうか。

壁谷氏は「企業側の採用フローと転職者の応募のフローを並べてみたときに、企業側は転職者の『企業選定』と『面談』への手当が抜けていることが多い」と指摘する。「企業側の採用フローの中で、転職者の企業選定と面談への対策は『アプローチ』と『面談』の間ぐらいにあるのだが、ここへの手当が少なくなっている」(壁谷氏)

では具体的に、どのように手を打てばよいのか。まず、採用候補者が企業を選定するフェーズでの対策について、壁谷氏は「この時点では転職者は、自分の興味関心のある分野の企業や共感できるビジョンを探している」と説明する。

転職者が企業情報から何を読み取るかといえば、

  • 事業領域、マーケットの伸び
  • 事業モデルのユニークさ、競争優位性
  • 経営チームの経歴や社長メッセージへの共感度
  • ポジションの魅力、将来的なキャリアの展望

といったポイントだ。壁谷氏は「このあたりのポイントをコンテンツとして出しておかなければ、そもそも次の面談に進まない。採用広報コンテンツには、これらの要素を盛り込んで発信することがとても大事だ」と言う。そこで壁谷氏が勧めるのは「採用PITCH資料」の作成だ。

壁谷氏の言う採用PITCH資料とは、求職者向けに会社のことを知ってもらうために、ファイナンスやプレゼンコンテストとはまた別に用意するピッチ資料のこと。この資料を作ることこそが採用コンテンツを作るためのベース作りになるのだと壁谷氏は言う。「我々はVCとして、いろいろな会社からプレゼンテーションを受ける。経営者は、まだ会社を立ち上げる前からしっかり資料を作り込んでピッチを行うが、それは我々から投資を引き出すため。だが採用も、候補者の人生の時間を直接投資してもらうことだと考える。もう戻らない、かけがえのない時間をその人から引き出すためには、その人が魅力に思い、自分の時間を投資してもいいと思えるような情報を伝えていくことが必要だ」(壁谷氏)

壁谷氏が言う「採用PITCH資料」に盛り込むべき内容は以下の通り。

  1. Vision・事業概要・会社情報
  2. メンバー紹介/ボードメンバーの経歴概要
  3. マーケットの課題(現状)と自社のポジショニング
  4. 今後の成長戦略
  5. サービス導入のケースと顧客の声
  6. チーム体制・組織図(現在→1年後→3年後)
  7. 採用ポジション情報
  8. 今のフェーズで入ることの面白さ、魅力
  9. ニュース、職場風景、イベント記事等の掲載

このうち、1〜5については、資金調達の際に作るようなピッチ資料でカバーされているはずのコンテンツ。6〜9が新たに採用候補者向けに盛り込むべき内容だ。

チーム体制や組織図については、事業戦略をもとに「事業計画通りに行けば、1年後、3年後にはこういう組織になる」というものがあれば、候補者にとって「今入社すれば3年後にどれぐらいの組織体になっていて、このポジションになっているんだろうな」ということがイメージしやすく、自分の時間を投資して良いかどうかを判断しやすいという。

これらの情報がきちんと準備され、四半期に1度ぐらいで更新されていれば、採用広報の場面では情報を「Twitterでどう出そうか」「Facebookでどう展開しようか」という出し方を考えればよい、というわけだ。壁谷氏は要素を盛り込むときには、Wantedlyの「なにをやっているのか、どうやっているのか」といった「問い」が参考になる、とも話している。

次は、採用候補者が企業と面談するフェーズでの対策について。ここで言う「面談」は正式な「採用面接」の前段階に当たる、カジュアルな面談のことだ。壁谷氏は、キャリアコンサルタントとしての経験から「面談・面接・相談はそれぞれ言葉が違う。面談とは何か、ということをきちんと定義しておいた方がいい」と語る。

「私としては、面談とは、候補者が今までどんな思いでどういうことをやってきたかというキャリアの棚卸しをし、次に将来ビジョンやその人の持つ仕事の価値観を引き出した上で、では一緒にこれから、こういうキャリアストーリーを描いていこう、ということを出していく場だと考える。最終的には、企業の人事や採用に関わる人が協力し、自社への強い応募動機につなげることを目的とするものだ」(壁谷氏)

この目的のために面談で実施することは、候補者の仕事力、価値観、状況、意思決定のポイントの“確認”と、自社からの事業ビジョン説明、候補者を理解した上でのやりがいの提案、キャリア価値の提案・共有といった“情報提供”だ。

壁谷氏は、スタートアップの悩みとしてよくある「たくさんの候補者に会っていても、候補者の志望動機が上がらない、次のステージへ進まない」というのは、上で述べられたような意図・目的で面談に臨んでいないからだ、と指摘する。

「企業側の採用フローにおける面談も、人材紹介会社が候補者にやっている面談と同様に、意図を持ってやらなければいけない。目的を見失うと、カジュアル面談の場で自分たちまで“カジュアル”になってしまう。演出上、敷居を低く、接点を多くしてカジュアルに面談を行うのはよいが、目的をイメージして面談に臨んでもらいたい」(壁谷氏)

意図・目的を持ち、面談の実施がうまくいけば、必ず次の正式面接に強い志望動機や高いモチベーションを持って、候補者が進んでくれる、と壁谷氏は話す。「採用情報の提供のときに事前の情報提供をしっかり行い、面談のときにも採用PITCH資料を渡せるといい。そして面談の中で候補者のキャリアの棚卸しにきちんと協力して、『うちで働くとこういうキャリアイメージがあるが、それはあなたにとってどうだろう』という話をし、本当に興味があって仮説が正しいと思ってもらえる人に正式にエントリーしてもらう。これでぐっと採用力は上がってくる」(壁谷氏)

エージェントが紹介する「最初の3社」に選ばれるために

壁谷氏はさらに「人材紹介会社をうまく使うということも、スタートアップ企業にとっては大事なこと」と続ける。採用エージェントとの関係においても「普通に声だけかけると、エージェントの担当者にも企業開拓のノルマがあるのでアポイントはいっぱい入ってくるが、本当に(人材を)出してくれるかどうかは分からない」と壁谷氏は明かす。

その理由は、エージェントビジネスの儲けの構造にある。エージェントは、人材を獲得しやすい案件で、書類選考から内定までの通過率が高く、採用者の年収が高くエージェントフィーの率もよい案件を好む。しかし「スタートアップ企業への人材紹介ビジネスは『市場の失敗』領域じゃないかと思えるぐらい逆」と壁谷氏は言う。

「全然知られていないスタートアップでは応募への反応がない。また、高スペックの人を選びながら採用に至らないことも多いので、エージェントの気持ちも萎える。さらに採用者の年収が低めでフィーも安くしてくれ、と言われるとエージェントとしてはやりたくなくなる」(壁谷氏)

もちろん人材紹介会社の中にも、スタートアップにぜひ人を紹介していきたい、という志ある人はいるが「経済合理性だけでは難しい。気持ちや社会的意義でやってくれるというエージェントは、ぜひ大事にしてほしい」と壁谷氏は言う。

また、壁谷氏は「担当エージェントのマインドシェアを高めることも重視しなければならない」と言う。エージェントの1カ月あたりの候補者との面談数は、キャリアコンサルタントとリクルーティングコンサルタントを兼ねる一気通貫型の担当で20名、分業型の場合で40〜80名。つまり分業型の場合、1営業日あたりで見れば2名以上、多い会社では5〜6名と面談することになる。

「1時間の面談の中で、エージェントは30分は候補者の話を聞く。後半20分で企業案件の提案をし、最後の10分で諸々の手続きなどを行うとすると、案件の説明には1社あたり5〜7分かかるので、提案できるのは平均3社ぐらい。スタートアップはエージェントと候補者の初回面談のときに、対面で提案するこの3社の中に入っていかなければいけない。それ以外の会社は『こういう候補もありますので後で見ておいてください』となってしまう」(壁谷氏)

エージェントがちゃんと熱を持って語った会社なら、スタートアップであっても魅力に感じてもらえるし、志望動機は上がっていく、と壁谷氏は言う。では担当者のマインドシェアを高めるためには、どうすればよいのか。

壁谷氏は「特に分業型エージェントの場合、リクルーティングの担当者だけではなく、候補者と対面するキャリアコンサルタントの手元に自社に関する情報がすぐある状態を作らなければならない」と説明。これは採用PITCH資料があればできる、と話す。

「話題が多ければ、エージェントは候補者に話したがる。またFacebookやYouTube、Twitterなどでの情報発信も、エージェントへの提供材料となり、印象も変わる。こうしたコンテンツ、ネタがあればあるほど最初の3社に入りやすい。誰かに話したくなるような、ユーザー体験をエージェントに持ってもらうことも大切。エージェントと経営陣との接触機会を増やしていくこともよいだろう。そうすることでエージェントのマインドシェアを高めていくことができ、(明確な)志望動機を持ったよい候補者が出てくるようになる」(壁谷氏)

「ダイレクトリクルーティングを行う場合にも同様だが、面接をするまでにどれだけ仕込みができるかに採用成功はかかっている」と言う壁谷氏。「そのためには、最初にも話したとおり、ターゲティングから仮説を考え、最適な情報提供をしっかりしていくことだ。スタートアップはどの企業よりもそれをやらないと、放っておくと情報は勝手に薄くなっていくので、それを意識すべきだ」と語り、キーノート講演を締めくくった。

【増席】TC Schoolは12月7日開催、テーマは「スタートアップ採用のリアル」——プレイド倉橋氏、dely堀江氏、ジラフ麻生氏ら登壇

いよいよ来週12月7日に迫ってきたイベント「TechCrunch School」。登壇者のアップデートと、増席のお知らせをしたい。

TechCrunchでは、毎年11月に開催するイベント「TechCrunch Tokyo」の他に、テーマを設定した80〜100人規模のイベントであるTechCrunchSchoolを開催している。今年は3月からHR Techサービスのトレンドや働き方、人材戦略といった人材領域をテーマにしたイベントを展開している(過去のイベントについてはこちらを参照)。

今回12月7日のテーマは「スタートアップ採用のリアル」。以前もお伝えした通りだが、スタートアップ業界の基本となるのは「人」だ。だが創業期に優秀な人材、カルチャーにフィットした人材と出会うのは難しい。そこで今回は、経験豊富なキャピタリストや気鋭の起業家をお呼びし、採用の現場でのリアルな体験、成功や失敗について学んでいきたい。特に、創業メンバー数人から数十人規模になるというフェーズについて聞ければと思っている。

今回のTechCrunch Schoolもキーノートスピーチとパネルディスカッションの二部構成となっている。キーノートスピーチでは、新ファンドの立ち上げを発表したばかりの独立系ベンチャーキャピタル、インキュベイトファンド代表パートナーである和田圭祐氏と、投資先の人材支援を手がけるHR Partnerの壁谷俊則氏に登壇頂き、パートナーを中心にして創業期のメンバー集めから先、数人〜数十人規模の人材を集めるための施策について語って頂く予定だ。

またパネルディスカッションでは、すでに告知済みのdely代表取締役の堀江裕介氏、ジラフ代表取締役麻生輝明氏、エン・ジャパン執行役員の寺田氏に加えて、プレイドの倉橋健太氏に登壇頂く予定だ。各社ともTechCrunchでもご紹介させてもらっている成長中のスタートアップだが、ここまでの成長、そして採用にはさまざまな苦労があったと聞いている。このあたりの「リアル」な話を聞いていきたいと思っている。また、告知からすぐに埋まってしまった座席についても、このタイミングで追加している。もちろん参加費は無料だ。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のOath Japan株式会社オフィスのイベントスペース(通称「スタジアム」)。セッション後はドリンクと軽食を提供する懇親会も予定している。

また、パネルセッションでは質問ツールの「Sli.do」も利用して、会場からの質問にも回答しつつ、インタラクティブで熱量の高いセッションを展開してきたいと思う。創業メンバーから人材を拡大したい起業家、人材採用に悩むスタートアップの経営陣、人事担当者など、幅広い参加をお待ちしている。

【イベント名】TechCrunch School #12 「HR Tech最前線(4)」 presented by エン・ジャパン
【開催日時】12月7日(木) 18時半開場、19時開始
【会場】Oath Japanオフィス(TechCrunch Japan編集部のあるオフィスです。東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
【定員】80人程度
【参加費】無料
【主催】 Oath Japan株式会社
【協賛】エン・ジャパン株式会社
【当日イベントスケジュール】
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート講演(30分)
19:45〜20:30 パネルディスカッション(45分)
20:30〜20:40 ブレーク
20:40〜21:30 懇親会(アルコール、軽食)

【スピーカー】
■キーノート
インキュベイトファンド 代表パートナー 和田圭祐氏
インキュベイトファンド HR Partner 壁谷俊則氏

■パネルディスカッション
プレイド 代表取締役 倉橋健太氏
dely 代表取締役 堀江裕介氏
ジラフ 代表取締役 麻生輝明氏
エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏
TechCrunch Japan 副編集長 岩本有平(モデレーター)

申し込みはこちらから

TC Schoolは12月7日開催、テーマは「スタートアップ採用のリアル」——インキュベイト和田氏、dely堀江氏、ジラフ麻生氏ら登壇

明日はいよいよ大型イベント「TechCrunch Tokyo 2017」が開催されるが、ここでは12月7日、人材に特化したイベントを開催することをお知らせをしたい。

TechCrunch Japanでは、「TechCrunch School」の名称で、特定のテーマを設定したイベントを開催している。これまで3月、7月、9月には人材領域を軸に、HR Techサービスのトレンドや働き方、人材戦略といったテーマでイベントを繰り広げてきた(過去のイベントについてはこちらを参照)。

今回のテーマは「スタートアップ採用のリアル」。資金調達や新サービスのローンチと、ポジティブなニュースが飛び交うスタートアップも、そのすべての基本となるのは「人」がいてこそ。だが創業期のスタートアップが優秀な人材、カルチャーにフィットした人材と出会うのはそう簡単なことではない。それこそ昨年のTechCrunch Tokyoのセッションのひとコマでは、「はっきり言ってしまえば、『スタートアップには新卒でも中途採用でも、優秀な人は来ない』という前提で採用活動をする必要がある」なんていう厳しい意見も飛び交ったくらいだ。そこで今回は、経験豊富なキャピタリストや気鋭の起業家をお呼びし、採用の現場でのリアルな体験、成功や失敗について学んでいきたい。特に、創業メンバー数人から数十人規模になるというフェーズについて聞ければと思っている。

今回のTechCrunch Schoolもキーノートスピーチとパネルディスカッションの二部構成となっている。キーノートスピーチでは、11月に100億円規模の新ファンドを立ち上げたことを発表したばかりの独立系ベンチャーキャピタル、インキュベイトファンド代表パートナーである和田圭佑氏に登壇頂く。インキュベイトファンドと言えば創業期からのスタートアップを支援するベンチャーキャピタル。資本施策やプロダクトだけでなく、人材採用などの支援もしている。最近では専任のHR Patnerが就任。ヘッドハンターや人材会社に対して投資先を紹介するといった取り組みも行っている。そんなインキュベイトファンドの和田氏に、スタートアップの人材施策について語ってもらう予定だ。

またパネルディスカッションでは、dely代表取締役の堀江裕介氏、ジラフ代表取締役麻生輝明氏、エン・ジャパン執行役員の寺田氏らに登壇頂く予定だ。delyと言えば、3月には総額30億円という大型資金調達を実施。自社で手がける料理動画の「KURASHIRU」も好調だが、以前には、ピボットに際して共同創業者を除く社員全員が辞めるという経験もあったという。堀江氏にはそんな苦い経験からの学び、そして現在に至るまでの採用ストーリーについて聞いてみたい。

一方価格比較サービスの「ヒカカク!」やスマートフォンフリマサイト「スマホのマーケット」などを提供するジラフは、創業間もなくグリー投資担当だったCOOが参画。そのほか会社経営経験者3人を含んだ経営体制を早い時期から作ってきているという。麻生氏にはその体制作りや仲間集めの方法について聞いていきたい。エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏には、自社の採用とともに、企業の採用について長年見てきた立場からアドバイスをもらえればと思っている。さらなる登壇者も調整中だ。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のOath Japan株式会社オフィスのイベントスペース(通称「スタジアム」)。今回も80人程度の参加を予定している。セッション後はドリンクと軽食を提供する懇親会も予定している。参加は無料となっている。

また、パネルセッションでは質問ツールの「Sli.do」も利用して、会場からの質問にも回答しつつ、インタラクティブで熱量の高いセッションを展開してきたいと思う。創業メンバーから人材を拡大したい起業家、人材採用に悩むスタートアップの経営陣、人事担当者など、幅広く参加をお待ちしている。

【イベント名】TechCrunch School #12 「HR Tech最前線(4)」 presented by エン・ジャパン
【開催日時】12月7日(木) 18時半開場、19時開始
【会場】Oath Japanオフィス(TechCrunch Japan編集部のあるオフィスです。東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
【定員】80人程度
【参加費】無料
【主催】 Oath Japan株式会社
【協賛】エン・ジャパン株式会社
【当日イベントスケジュール】
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート講演(30分)
19:45〜20:30 パネルディスカッション(45分)
20:30〜20:40 ブレーク
20:40〜22:00 懇親会(アルコール、軽食)

【スピーカー】
■キーノート
インキュベイトファンド 代表パートナー 和田圭祐氏

■パネルディスカッション
dely 代表取締役 堀江裕介氏
ジラフ 代表取締役 麻生輝明氏
エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏
ほか調整中
TechCrunch Japan 副編集長 岩本有平(モデレーター)

申し込みはこちらから

成長企業の人事、採用、評価制度はどう生まれたか——TechCrunch School #11:パネルディスカッション

9月28日に開催されたイベント「TechCrunch School #11:HR Tech最前線(3) presented by エン・ジャパン」。HR Techをテーマにしたイベントとしては第3弾となる今回は、スタートアップをはじめとする成長企業の人材戦略にフォーカスし、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏が、ベンチャーキャピタリストの立場から、成長企業の組織・人事について語ったキーノート講演のレポートはこちら)。

パネルディスカッションに登壇したのは、サイバーエージェント 取締役 人事統括の曽山哲人氏、メルカリ HRグループの石黒卓弥氏、エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏の3人。モデレーターはTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が務めた。セッションは、登壇する3人が自己紹介も兼ねて、各企業の変遷と人事制度や施策の変化について、紹介するところからスタートした。

写真左からサイバーエージェント 曽山哲人氏、メルカリ 石黒卓弥氏、エン・ジャパン 寺田輝之氏

トップバッターはサイバーエージェントの曽山氏。曽山氏はサイバーエージェントの人事のトップとして10年以上にわたり指揮を執ってきた人物だ。曽山氏からは、サイバーエージェントの業績・事業の変遷と人事制度の変化の紹介があった。

棒グラフ緑は売上高、青が営業利益。吹き出しが人事施策

曽山氏がサイバーエージェントに入社した1999年には、売上は4億円、社員は20名だったという。現在は、従業員数が業務委託まで含めると8000名と約400倍になり、売上は3000億円へと成長。主要事業はBtoBのネット広告から、アメーバブログなどのメディア事業、その後ゲーム、スマホへと移り変わり、現在はAbemaTVに力を入れている。

「上場時には、225億円を調達。アメブロには60億円投資して、5年かけて黒字化。その後2年で80億円の営業利益を生み出して一気に前進した。スマホには2年で80億円を投資して、またぐんと売上と営業利益が伸びた」(曽山氏)

サイバーエージェントでは、こうして、ときに大型投資を行い、同時にスタートアップもたくさん設立していると曽山氏は言う。「昨年だけでも15社のスタートアップの子会社を作って、若い人に経営をどんどん任せている」(曽山氏)

人事制度への取り組みの中でも、サイバーエージェントの業績にとって転換点となったものがいくつかある、と曽山氏は話す(スライド中の黄色の吹き出し)。「2004年に作られた『ジギョつく』は新規事業プランコンテスト、『キャリチャレ』は社内への異動公募制度で他部署への“転職”ができる制度。売上が伸びてきて、いろんな部署ができてきたときに、『同じ仕事をしていると飽きる』という声が出てきて、それに対して“手を挙げれば異動できる”という仕組みを作った。部門間の異動は現在、年間250人ぐらいあるが、キャリアの選択肢を増やすということは、転職リスクを減らすことや離職のケアにつながる。スタートアップ規模では難しいかもしれないが、“飽きる”というキーワードにどう対応するかという点では、大事な制度」(曽山氏)

また「あした会議」は経営陣が行う新規事業バトルで、新規事業や人事制度、コストダウン案など、役員会決議級の題材を持ち込むのがルールとなっている。「この制度のポイントは、経営陣が率先垂範して自分たちの会社の変革を提案するところ。社員だけにアイデアを求めるのではなく、経営側もやっていることを見せるのが大事だ。トーナメントは1位からビリまで点数がついてさらされる、非常に恥ずかしい仕組みで、ビリになると翌週、社員が誰も声をかけてくれなかったりする(笑)。でもビリになっても、決議を出して新しい取り組みができたりして、役員も緊張感があるというのがよい」(曽山氏)

「CA8」は役員の交代制度。2年に1度、8人の役員のうち2人が入れ替わる。既に5期、実施されていて、述べ10人の役員が抜擢・退任していることになる。「役員が変わっていることを見せると、社員も進んで変化してくれる。また『退任は降格ではない』ということを全社に伝えて、出戻りの役員を作ったりもしている。僕自身も役員になって、執行役員になり、また役員に戻った“出戻り役員”だが、そういうことがあるキャリアなんだ、ということを見せていくのが大事だ」(曽山氏)

メルカリの石黒氏からは、メルカリのこれまでのダウンロード(DL)数の推移や事業施策と、人事制度の実施施策について紹介があった。

グラフ下部に書かれているのが人事施策

「メルカリでは、カスタマーサポートが社員の半分以上を占めるが、業務委託ではなく、全て直接雇用している。今はグローバルで7500万DLの規模まで発展しているが、仙台のカスタマーサポートの拠点は200万DLぐらいしかないときに移転している。また、米国では今2500万ダウンロードまで増えているが、サービス自体は日本で500万ダウンロードのときに開始している。私は入社前だったが、その頃から『“Go Bold”な判断をしてきた』会社だった」(石黒氏)
※Go Bold(大胆にやろう)は、メルカリがミッション達成のために設定する3つのバリュー(価値基準)のひとつ。

採用については「最初はなかなか認知がなく広告を使って採用していたが、途中から社員紹介などのリファラル採用など(インバウンド採用)をメインに切り替えていった。その過程で対外的な発信を増やすというようなこともやってきている」と石黒氏は言う。

石黒氏がメルカリに入社した2015年以降も、さまざまな施策を打っている。2016年5月から公開している「mercan(メルカン)」 は、メルカリの情報を発信するメディア。毎日1〜2記事ずつ更新され、現在700〜800記事ぐらいになるそうだ。「(当時は)Wantedlyでもブログを更新していて、『あの記事見ました』ということでの応募もあり、手応えがあった。ただWantedlyのフィードだと情報が流れていってしまうので、ちゃんとストックしておこうということで、自社メディアとしてmercanを作った」(石黒氏)

他にもいろいろな施策を試行錯誤しながら実施したり、ときにはやめたり改善したりしている、と石黒氏は話す。産休・育休中の給与100%保証や認可外保育園補助、介護休業支援などの制度を含む、社員支援の制度「merci box」は、サイバーエージェントが導入している、女性社員の活躍を支援する制度「macalon」を参考にしたそうだ。

「2015年3月には一人だった人事部門が、2年半経って10月にはついに10名になる。スタートアップではよく『2人目の人事はどう採用したらいいか分からない』と聞く。あるいは『メルカリはもう10人も人事がいるんですね』とも言われるが、我々は年間200人、300人採用している。私が入社したときの60人から(3年経たずに)600人と10倍に社員が増えた。これをさらに10倍、100倍にしていくには、やっぱり数多くの採用担当が必要だし、全社を挙げてのコミットメントが必要だと思っている」(石黒氏)

3人目の登壇者は、採用・教育・評価を主要事業として展開する、エン・ジャパンの寺田氏。「うちはずっと右肩上がりで来ていたわけではなかった。紆余曲折ありながら今がある」と寺田氏は話す。

「立ち上げ期は知名度もなく、パッションしかないという状況からスタートした」という寺田氏。インターネットの黎明期で、インターネット企業だという点だけを押し出していたそうだ。採用で活用していたのは、現在「engage(エンゲージ)」で提供している「Talent Analytics」というオンライン適正テストの仕組みだった。

「インターネットビジネスはまだ成り立っておらず、優秀な人どころか応募自体もなかなかこない。その少ない応募の中で、活躍してくれる原石をどう見つけるかに集中していた。ベンチャーなんて、今は営業をやっていても、明日から人事を頼む、とか、経理に来てくれ、ということもある。そうした職種転換も見据えて、地頭がよくて転換についてこられる人を採用しないと成長できない、という課題があった」(寺田氏)

Talent Analyticsは、そうした人材の見極めを行うのに役立ったと寺田氏は振り返る。「企業カルチャーとのフィットといっても、最初はよく分からないので、テストを行って、性格特性やエネルギー量や、どういうところにストレスを感じやすくて、どういう点でストレスがないのかとかを見る。それで当時の社員の特性と比べて、似たような人材を入れていた。キャリア志向が安定型の人をベンチャーのときに採っても、すぐ辞めてしまう。アントレプレナー型の、自分たちでやっていくんだ、という人をしっかり採用するようにした」(寺田氏)

黎明期を過ぎ、その後のインターネットの成長とともに、インターネット求人の広告事業が成長。その波に乗る形でエン・ジャパンは急成長を遂げる。「その頃は知名度・商品力が上がり、営業すれば受注できる、という状況だった。キャリアタイプの選別はせず、ポテンシャルの高い若手の採用に注力し、一気に新卒採用に切り替えた。社員数100名のときに、新卒社員100名を入れるということもあって、どんどん社員を増やしていった」(寺田氏)

しかし、リーマンショックで一気に業績が停滞。混迷の時代に入ったと寺田氏は言う。「プロフェッショナル採用などもやり、即戦力としての能力に期待したが、『悪い状況の中で何とか乗り越えて、会社をよくしていこう』とはならず、評論家みたいな感じになって既存社員と対立して、うまくいかなかったりもした」(寺田氏)

この時期にうまくいった人事施策もあった。「当時は、現場主導で採用を行い、評価基準も現場ごとに違っていた。それを、HR・人事に集約し、採用基準や評価基準を改めてHR主導で再設計した」(寺田氏)

こうした施策や、最近のHR Techに注目が集まる状況の中で、再び業績が上向きに転換。「HR Techの波に乗る形で、各事業のテック化を推進しているところ。エンジニアの採用も引き続き強化していて、今期は売上最高額を達成する見込みとなっている」と寺田氏は現在の状況を説明する。

トップがいかに発言するかが採用成功の決め手

それぞれの事業の成長と人事施策の変遷について聞いたところで、今度はテーマごとの施策について、掘り下げて聞く。最初のテーマは「採用」。創業期から10名規模、100名規模と企業が成長していく中で、各社はどのような採用戦略をとってきたのか。特にエンジニアの採用について、話を聞いていった。

曽山氏は「サイバーエージェントは営業会社から始まっているので、技術部門を作り、大きく技術者を採用したのはアメブロをスタートさせた頃。エンジニア採用をやったのは2006年。当時、藤田(代表取締役社長の藤田晋氏)から『2カ月で20名内定を出して』と言われた」と初期のエンジニア採用について振り返る。

「当時のアメブロはシステムダウンが多くて、外注していたシステムを内製化する経営決定を行ったのだが、採用に一番効果があったのは、藤田がブログを書いたこと。社長が最前線に出るというのが、採用に関しては最も大切だ。我々は最初の新卒採用でも、藤田が会社説明会に自分で出て、そのことをブログに書いていた。スタートアップではこれがすごく大事」(曽山氏)

2006年のエンジニア採用は中途採用だったのだが、曽山氏はその時のエピソードをこう語る。「人数が足りないことを『頭数が足りない』『さらってきてでも採る』と(藤田氏がブログに)書いたら、ネットの掲示板で『頭数とか、さらうとは何だ!』と批判の声が多く上がったのですが、そのおかげでアクセスが急増して(笑)。でもブログ(本文)には当然いいことが書いてあるわけですよ。熱いことが。『今回はアメブロを本当にいいサービスにしたい、自分たちで作って、世界に通用するようなサービスにしたい』というような思いが書いてある。それでエントリーが激増した」(曽山氏)

サイバーエージェントでもうひとつ行われている、エンジニア採用強化のための施策が「エンジニアアカデミー」だ。エンジニア経験が浅い人や、大企業に務めるエンジニアでネットサービスの開発経験がない、という人を対象に、土日に集中8回の講座を開催し、最後に修了証を出して内定を出す、というプログラムで「これはすごく反響があって、採用につながった」と曽山氏は言う。

創業から4年のメルカリではどうだろうか。石黒氏は「山田(代表取締役会長・CEOの山田進太郎氏)も小泉(取締役社長・COOの小泉文明氏)も、『誰かいい人がいたら、採用したいので社員紹介で紹介してくれ』と毎週の経営会議や全社会議で言い続けている。(どうやったら社員紹介が浸透するのかと、)他社の人事担当の人に相談されることがあるが、なかなかこの“毎週言い続ける”というのができない会社、経営者が多いようだ。『先週言ったから今週はいいじゃない』ではなく、毎週言う、しつこいぐらいに言う。伝わってるか伝わってないか分からない、と思うかもしれないが、伝わりきるまでひたすら言うことが大事」と話す。

エンジニア採用に関しては、2つキーになったことがある、と石黒氏。ひとつは現在、メルカリ執行役員 VP of Engineeringを務める柄沢聡太郎氏の入社だという。柄沢氏は著名なエンジニアで「彼が入ってきてからさらに採用力がついていった。また(メルカリのエンジニアとして)メディアに出て話をしてくれることも増えた。入ってきて一番最初に彼がやったのは、エンジニアブログの立ち上げ。入社の翌月には立ち上げて、記事がはてなブックマークでブックマークされたり、読まれたりすることでも(エンジニア向けの)露出が増えはじめた」と石黒氏はいう。

もうひとつは柄沢氏の入社半年後に「エンジニア人事」担当を置いたこと。「元々はソフトウェアエンジニアとして活躍していたメンバーを採用し、今、稼働のほとんどを採用に割いていて、新卒エンジニア採用のイベントに行ったり、書類選考を担ったりしてくれている。“GitHub採用”とかやろうとしたときには彼がそれを判断することで、彼以外のエンジニアはプロダクトに集中できる。非エンジニアの人事はみんな経験していると思うけれども、面接の段階が進んでから初めて同席したエンジニアに『何でこの人を残したの?』なんて言われることがある。そういったコンテキストの共有は非常に難しいが、エンジニアが採用にコミットすることで、そういったコミュニケーションコストは激減する」(石黒氏)

一線級のエンジニアのリソースを採用に割くのは、もったいないような感じもするが、石黒氏によれば「ミスコミュニケーションが減り、後工程がよくなる」ということだった。

また、採用をエンジニアたちに任せきりにするのではなく、人事の努力も必要、と石黒氏は言う。「他社の著名なエンジニアをTwitterなどでフォローしていると、イベントや最近の状況が分かる。反応したり、トレンドなどを知っておくことで、『一応こいつ勉強してるんだな』ということを分かってもらえる。今は無料のプログラミングスクールなども開催されているけれども、プログラミングを学ぶということだけではなくて、エンジニアの生態を知る、コミュニケーションしていくというところにも、チャレンジしていってはどうか」(石黒氏)

メルカリでは経営陣に限らず、HRグループの石黒氏もエンジニアも、ソーシャルメディアで全力で情報発信しているようだが、仕掛け作りなど秘訣などはあるのだろうか。石黒氏は「勝手に発信するのを止めないだけ。性善説に基づいて“これは言わないでね”というのも、逆に“必ずシェアしろ”というのも言わない」という。「僕がmercanの記事で発信したことなどへの感想は(社内ツールの)Slackとかではリアクションがないことも少なくないが、社内の人間からの反響も、Twitterの“いいね”とか、インターネット経由で学ぶことが多い」(石黒氏)

寺田氏はエン・ジャパンのげんじょうについて、さまざまな国の人材を採るなど、多様化していると説明する。「HR Techは米国発祥だということもあり、またエン・ジャパンの事業が第1の創業期には単一事業で成長してきたが、今伸びているのはいろいろな事業。事業が多角化する中で、人材も多様化していき、ダイバーシティが進んでいるので、外国人などの採用もしっかりやっていって、文化の違いなども認識しながら進めてきている」(寺田氏)

事業と人材が成長するための人事評価制度のポイント

続いてのテーマは「制度」。モチベーションを下げずに評価して能力を伸ばし、適材適所で活躍させるためのポイントについて、聞いていった。

メルカリの石黒氏は「すべての制度がうまくいっているわけではない」と前置きしつつ「ただ、工夫している点として、業績評価と同時に3つの我々のバリューの評価もしている」と説明する。

「メルカリの3つのバリュー(Go Bold、All for One、Be Professional)について、3カ月に1回、自己申告による評価をやっていて、それに対する評価も行っている。日本の企業の場合だと“業績評価”と“行動評価”という言葉の使い分けをしているんじゃないかと思うが、業績だけでなくて、行動についても評価をしなければ、納得感が得られない。例えば『社内の誰からも好かれないし、ゴミも拾わないけれども、なぜか達成率だけ250%の人がいて、ボーナスがもらえる』みたいなのは、納得感が全くない。評価の基本は納得感だと思うので、社内のバリューを体現できているか、というのも軸にしている」(石黒氏)

また成長企業としては特徴的な点として石黒氏が挙げたのが、360度評価。「私が入社する前、社員が20人ぐらいの頃から360度評価をやっていた。そういう制度に着手するのは、なかなか遅れがちだが、大手企業から来た自分にも違和感なく、評価される側としても人事としても、評価をはじめとする制度がある程度整っている状況だった。経営陣がシリアルアントレプレナーであることも大きいのかもしれない」(石黒氏)

エン・ジャパンの寺田氏は「スタートアップ期は、昇進・昇格について『立候補制度』を採用していた」と話す。「昇進・昇格したい人は自ら手を挙げて、立候補してください、ということにしていた。立候補すると、今までどんな実績を上げてきたか、昇進・昇格したらどんなことをやりたいかを、全社員の前で発表する。で、社員から直接質問を受けて、それに対して答えていく。一通りの質疑応答が終わったら、立候補者は後ろを向いて、その場で決を採り、それをベースに最後に役員判断で昇進・昇格が決まる。人数が少ない間は、そういう形でオープンにしていこう、ということをやっていた」(寺田氏)

人数が増えてからは、メルカリと同じく、360度評価を取り入れた。「エン・ジャパンのビジョンに対する行動のガイドラインを設けているのだが、それに対して適切な行動を取っているかどうかについて、360度評価を行っている。スキルや業績は上司が見ればよい」と寺田氏。

サイバーエージェントでは、評価制度は半期ごとで、いわゆる目標管理制度に近い。それとは別に月1回の面談を2005年ごろから取り入れている。「今だとOne on Oneとよく言うが、上司・部下で面談をすることを推奨している。半期や四半期での評価では、(上司・部下の間の認識に)ズレが生じる。人が違うので、ズレは必ず生じると思っておいた方がよくて、それを対話によって埋めていく努力をするように習慣化しておいた方が、納得度が高まりやすい」(曽山氏)

もうひとつ、3年ぐらい前から実施していてうまくいっているのが、半期の期初に組織全員で組織の目標を考える、という取り組みだそうだ。「組織の目標を決めて、プロジェクトのレポート、部内報のようなものを作ろうという取り組みだが、20〜30人のプロジェクトメンバーが集まって、ホワイトボードにこの半期の目標を大枠で決める。これで個々人の組織に対するモチベーションが変わる。組織の目標は一人一人、個人の目標までブレイクダウンする。また、組織の目標と個人全員分の目標を冊子やポスターにまとめ、役員会に提出すると、役員会で審査を行い、グランプリには100万円の賞金を出す、ということもやっている」(曽山氏)

ポスターはオフィスに掲示して後からでも見ることができるので、組織の目標を折に触れて思い出し、当事者意識が向上する、という効果もあるそうだ。

しらけ社員やミスマッチには対話が効果あり

パネルディスカッションでは、会場からの質問も受け付けた。その中のいくつかを取り上げて、登壇者の方に答えてもらったので、その内容もご紹介しよう。

まずは、社員数が増えてきたときに出てくる「しらけ社員」について。どのように対処していくべきか、曽山氏は「どんなに社員のためを思って制度を導入しても、必ずしらける社員は出てくる。例えば女性向けの制度を用意することで、男性社員から反発が来るとか。しらけることをあらかじめイメージしておくことで対処ができ、人事制度の成功確率は高まる」という。

「しらけは常に、どこかで生まれている。ネガティブは徹底的に排除しなければ、流行する。ネガティブを黙認しておいていいということはあり得ない。ただし、ネガティブな意見が出るのは、気づけていない上司が悪いので、対話が必要。言い分を聞き、言い分が正しければ会社に提案すべきだし、考え方が違う、ということならちゃんと伝えなければいけない。対話してネガティブを排除していくことが必要」(曽山氏)

「メルカリでも、育休や不妊治療などの制度を集めたmerci boxを導入したときに、独身男性社員からは『あれ? 僕らには何かないんですか』という声があった」という石黒氏も「ネガティブに対しては、お互いに気づく仕組みが必要。上司は万全ではないので、斜めのラインでも気づいたときにレポーティングし、マネージャー間でも情報を共有するということはやっている」と話す。

寺田氏は、人事部門としてではなく自分の部署の話として「しらけは絶対出てくるが、何かやるときには目的をちゃんと話すことが大切。そして、しらけが目的に対してコミットしていないために生まれたのか、手法に納得していないのかを、直接話を聞いて確かめる。目的にコミットしていないということなら、もう一度目的をブレイクダウンする。手法に対してコミットしていないということなら、反論は大いにかまわないので、代案を出すように促している」とのことだ。

続いては、能力のミスマッチややむを得ない会社の状況で退職を促すときに、辞める人、残る人のダメージが最も少ないやり方は? という質問。

曽山氏は「大原則は、率直に言うことと早く言うこと」と話す。「仲良くお別れしたいというときには、信頼関係が大事。信頼関係を生み出すのに、こちらから見せるのは誠実さで、誠実さを見せるには、早いことが大事。いきなり今日の明日のようなタイミングで言うのは避けるべき。今の会社の状況を説明して、この能力のままだと半期後に給与が下がる評価をせざるを得ない、レベルアップしたいならミーティングもするし、手伝うよ、というように、寄り添うところを見せつつ、今のままではダメだということを率直に言うようにしている。そうすることで、3〜4割ぐらいは改善する人もいる」(曽山氏)

サイバーエージェントでは「ミスマッチ制度」として、企業文化や価値観が合わない社員の候補を5%出し、その中から人事で判断して役員会で決議した社員を対象に、役員や事業部長との対話により変化を促す、という制度もある。「率直に伝え、一緒に変わろう、と話すことで、これも結構変わってくれる人がいる」と曽山氏はいう。

メルカリの石黒氏は「入社のときのエントリーマネージメントに、徹底的にこだわる」ことで、ミスマッチをなくすようにしている、という。目標達成のために社員の採用目標が高くなってしまうときに、どうしても採用担当者は数が目標になってしまいがちで、目標設定の難しさは感じる、と石黒氏は言いつつ「でも迷ったら採用を見送るようにしている」と話す。「あとはやはり、誠実に対話をしていくということ。社員であるということは、入社するときに採用試験をクリアし、少なくとも役員の面接には通っているわけで。そういう人は離職するとなっても、外でも活躍していくはずだし、どこにいっても離職者にも応援して欲しいし、応援される会社でありたいと思っている」(石黒氏)

寺田氏は「採用のミスマッチを減らすのは大前提」とし、「責任を持って採ったのなら、いいところも悪いところも伝えていくべき」と話す。「最近ではうちも人数が増えて、階層ができてきている。そこで、何か問題がある社員には、2階層以上上の人間からワーニングレターを紙で出し、本人と直接の上司がいるところで『いつまでに改善してください』という話をオープンにしている。マネージャーにとっては、部下は改善できればずっといてほしいもの。改善まで直属のマネージャーが親身になって動けるようにして、変われるように努力できる環境を作っているところ」と寺田氏は直近の取り組みについても説明する。

「これで変わる社員も出てきている。また、中間管理職はどうしても上を見てしまうが、それを(上司の上司が部下本人に話すことで)あえてやらせないようにする。それで、上司も部下とコミュニケーションを取りやすくなっている。また、自分でダメだと思うというときには、部署異動ができるようになっている」(寺田氏)

また、失敗した人事制度についても聞いてみた。曽山氏は、サイバーエージェントで先に挙げた制度のうち「ジギョつく」は既にやめている、という。「10年間やって、成功した事業が1つもなかったからだ。これで分かったのは、事業の起案者と実行者は必ずしも同じ人である必要はないということ。そこで、考えた事業をベストな人選でやることにしたのが『あした会議』だ」(曽山氏)

寺田氏は、人事で採用・評価基準を集約するまでの状況について、こう語った。「事業部で評価制度や採用基準を決めていたときには、徒弟制度みたいになっていた。“俺が採った自分の部下”という雰囲気になり、異動もしにくく、やりづらかった。あくまでも、企業としての文化に合っているのかをちゃんと見るべきだし、採用時にどういう評価をして採用したのか、というのも人事にちゃんと残すべき。そうすることで、その後の評価と見比べて、反復して分かることもある」(寺田氏)

石黒氏は、メルカリでもいろいろと試行錯誤をしている、という。「何でも一回やってみて、早く決断する。そして、やっても効果がないものはすぐにやめる。それで『やめることもあるんだ、この会社の人事』と知ってもらえる。サービスのA/Bテストと同じこと。日本の大きな会社だと人事が言ったことは変わらない、というイメージが強いと思うが、そんなことはない」という石黒氏に「うまくいっていない制度をすぐやめるのは大事。そのパワーを他の新しいことに割ける」と曽山氏が賛同する。曽山氏は「うちは制度を始めるときに、何年何月には見直します、と宣言している」と制度をやめることを簡単にするTipsも紹介してくれた。

 

パネルディスカッションの最後に、人事担当者はどうあるべきかについて、それぞれに意見を聞いた。石黒氏は「最近、チームメンバーにも99.9を99.99にするといった、小さなことも大切にすることが大事、と話している。採用の場合は、相手に2人同じ人はいない。100人オファーして100人を採用できる会社は、世の中に存在しないはずなので、最後まで、ぎりぎりできることを、ちゃんとやりきることがとても大事だと思っている」と語る。

「また、(今やっていることを)やめること、現状を変えることも大事。スケールしていくことが必要であれば、2人目をチャレンジで採ってみるとか、社内で異動させるとか、スケールする方へ注力するということも、現状を変えるためには必要だと思う」(石黒氏)

曽山氏からは「人事制度を成功させるためには、学習と実験が大切だとよくチームメンバーには話している」とのこと。「インプットがないと、どうしても思考の幅が狭まる。本を読むとか、学習をして選択肢を増やすことと、それを実験することが大事」と曽山氏はいう。

さらに曽山氏は「制度を作ることに頭が行きがちだが、制度じゃなくて、まずは個別の例外対応をやった方がいい」と述べた。「例えば介護についての相談が来た、ということであれば、まずは介護についてその人に向けたアプローチを特例としてやった方がいい。それが増えてきたら、制度化していったらいい。サイバーエージェントの人事制度は、基本的に個別対応が先にある。例外対応をこっそりやる、というのを僕らは結構やっている」(曽山氏)

また寺田氏は、人材サービスを提供している会社としてコメント。「メルカリでもサイバーエージェントでもそうだが、成長企業は人事情報の発信が上手で、しっかりと発信している。採用情報もそうだし、常日頃のアプローチもそうだし、自社がどういうことをやっているのかを、発信していくことは大切。最初は『こんなことを言ってもなあ』ということだったりするが、それでも、やっていることは発信しないと分からないし、理念だってあるのかないのか、どんな人がいるのかということだって、出していかないと分からない。まずはオープンにしていく。メルカリやサイバーエージェントのやっていることはすごいけれども、そこに近づけていくように進めることが重要だと思う」(寺田氏)