参照系AI開発する東北大学発のAdansonsが仙台市主催のピッチコンテストで審査員賞を獲得

仙台市とMAKOTO Capitalは2月25日、仙台国際センターにて「TGA Festival 2020」を開催した。同イベントは、両者が共同展開している東北地方発のスタートアップを支援するプログラム「TOHOKU GROWTH Accelerator」の一環だ。MAKOTO Capitalは、仙台を拠点に東北地方の企業へのファンド投資やアクセラレータープログラムなどを手掛ける企業。仙台国際センターは、仙台地下鉄東西線の国際センター駅が最寄り駅で、同駅付近には、東北大学川内キャンバスや日本フィギュアスケート発祥の地である五色沼などがある。

TOHOKU GROWTH Acceleratorでは、事業開始を目指す若手起業家や家業を持つイントレプレナー(社内起業家)向けの「TGA Studio」、次のステージを目指して資金調達を計画しているスタートアップ向けの「TGA Growth」という2つのコースが設けられており、TGA Festival 2020ではその成果を発表するピッチイベントが開催された。ここでは「TGA Growth Course PITCH」について紹介する。今年は5社がピッチに参加し、以下の6名が審査員を務めた。

  • KDDI経営戦略本部副本部長・松野茂樹氏
  • プロトスター取締役CCO・粟島祐介氏
  • 経営共創基盤(IGPI)マネージャー・山下 翔氏
  • ブラッククローキャピタル代表取締役/アナムネ代表取締役・菅原康之氏
  • NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長・稲川尚之氏

来場者の投票で決まるオーディエンス賞は、福祉施設に所属する障がい者が制作したアート作品の版権管理や企業とのコラボレーションを展開するヘラルボニーが受賞。また、イベントのメインスポンサーを務めるKDDIは、企業のIoT事例をシェアできるプラットフォーム「IoT-OneBox」などのサービスを展開するiOT.RUNにスポンサー賞を授与した。そして審査員賞を獲得したのは、東北大学発AIベンチャーのAdansonsとなった。一方「TGA Studio Course PITCH」の審査員賞は、コミュニティマネージャー支援サービス「TAISY」を運営するfunky jumpが受賞した。

iOT.RUN(KDDI賞)

Raspberry PiをベースにしたIoTデバイス「Tibbo-Pi」と、Tibbo-Piで開発したプロダクトをシェアリングできるプラットフォーム「IoT-OneBox」などを開発。Tibbo-Piは、誰でもIoT機器を自作できるのが特徴。ボード上に用意されたスロットに、光センサーやオン/オフといった単機能の部品「Tibbit Blocks」をはめ込んでプログラムを組んでいくことで、「室内の明るさを監視して暗くなったらLEDライトを点灯させる」などの動作を実現できる。

各企業がTibbo-Pi上で開発した各機能は「IoT-OneBox」プラットフォームを通じて他社に販売できる。Tibbo-Piを使えば、作業者や設備管理の稼働分析、不良品やダウンタイムの削減などが可能なIoTデバイスを開発できるそうだ。

Adansons(審査員賞)

2019年6月設立の東北大学発AIベンチャー。独自のAI技術「参照系AI」(AI‐R)を活用した情報解析、導入支援、APIによる提供などを行っている。災害や製造現場などでの異常検知、画像処理、音声処理など応用範囲は多岐にわたる。

既存のAI解析サービスに比べ、データ数と計算時間が10分の1で済み、高品質であることが特徴だ。具体的には、音声による咳の疾患推定や重・移動解析による運転の疲労度推定などが可能。

グッドツリー

さまざまなシニア向け情報サービスを提供。独自開発した介護ソフト「ケア樹Free」を介護施設無償提供している。介護ソフトとは、介護事業者が介護保険の報酬請求を効率化するためのプロダクト。既存のソフトは使用料が高価なうえ使いづらい、蓄積したデータを生かしづらいといった不満があったことから、ソフトのコア機能を無償提供。まずは多くの介護施設に自社開発のソフトを無償で使ってもらい、iPadのへの記録や伝送、写真撮影・保存など必要な機能を有料オプションとして販売している。

今後はケア樹Freeなどで蓄積されたデータを解析したサポートサービスに力を入れる。その1つである「ケア樹たのむ」では、ケアプランの作成や行動変容の促し、生活リズムの可視化などが可能になるという。

ヘラルボニー(オーディエンス賞)

福祉施設に所属する障がいを持つアーティストとともに、新たな文化をつくるアートメゾンブランドを運営。福祉施設からアート作品を借り受け、デジタルデータの管理や契約手続き代行、イベントなどの企画などの事業を通じて、福祉施設とアート作品を制作したアーティストにアート使用料を還元する。

クライアントや代理店からは、アート作品を利用した企画提案や運営など請け負い、企画費やアート使用料を徴収する。現在、2000点ほどのアート作品のデジタルデータを保有している。直近ではJR東日本スタートアップの採択企業となり、JR品川駅構内でアートTシャツを販売している。

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ストーリーライン

コーヒーの生産加工、コーヒーの輸入販売、コンサルティング、ブランディングプロモーションなどを手掛ける。カフェインレスコーヒー、いわゆるデカフェコーヒーを未来のコーヒーのスタンダートと位置付け、東北大学との共同研究により生まれた「超臨界CO2抽出」の技術を使うことで安価かつ高品質なデカフェコーヒーを製造する技術を擁する。

従来のデカフェコーヒーは手間と時間がかかるため、コストを抑える目的で通常のコーヒーよりも品質の劣る豆を使うことも多く、味もいまひとつ。超臨界CO2抽出の技術を使えば、収穫したコーヒー豆を二酸化炭素で洗い流すことでカフェインを除去できるという。今後は仙台に「CRAFT DECAF LAB」を設置して実証実験を進めていくという。契約農場のあるルワンダでコーヒー前の栽培・収穫・加工まで行い、2023年には世界に輸出販売していく計画もある。

なお「TGA Festival 2020」の全セッションは以下ですべて視聴可能だ。